「骨董商Kの放浪」(七)
僕はその男の前にゆっくりと歩み寄った。僕に気がつくと、男は両膝を抱えたまま振り返り「こんにちは」と無表情で挨拶をした。「どうも」と僕も返す。40歳くらいだろうか。もじゃもじゃ頭の小太りな男は、上着の黒いジャージのジッパーを首まで上げて「この時間になると、ちょっと冷えますな」と僕を見つめた。座っている男の下には、青色のビニールが敷かれている。それを見ながら、僕は全身の力が抜けていくのを感じていた。僕はゆっくりと男の後ろに座り、そして尋ねた。「飛天ですか?」男は「ひょっとして、あなたも」と訊く。「はあ」と答えると、男は初めて笑顔をみせた。「お互い、バカですな」そう言って男はふくらはぎのあたりを掻い…
2022/04/26 18:40