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骨董商Kの放浪 https://kottousho.hatenablog.com/

大学卒業後1年もたたずに退社し、その後骨董商をめざす主人公Kが、美しくそして妖しげな骨董品をとおして、それに関わるさまざまな個性的な収集家、同業者などの人たちと織りなす創作小説。魅惑的な骨董品を巡る群像劇をお楽しみください。

立石コウキ
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2022/03/17

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  • 「骨董商Kの放浪」(七)

    僕はその男の前にゆっくりと歩み寄った。僕に気がつくと、男は両膝を抱えたまま振り返り「こんにちは」と無表情で挨拶をした。「どうも」と僕も返す。40歳くらいだろうか。もじゃもじゃ頭の小太りな男は、上着の黒いジャージのジッパーを首まで上げて「この時間になると、ちょっと冷えますな」と僕を見つめた。座っている男の下には、青色のビニールが敷かれている。それを見ながら、僕は全身の力が抜けていくのを感じていた。僕はゆっくりと男の後ろに座り、そして尋ねた。「飛天ですか?」男は「ひょっとして、あなたも」と訊く。「はあ」と答えると、男は初めて笑顔をみせた。「お互い、バカですな」そう言って男はふくらはぎのあたりを掻い…

  • 「骨董商Kの放浪」(六)

    この頃、世の中の韓流ブームとは全く無縁と思える宋丸さんの店に、僕はしばしば通っていた。宋丸さんは僕の来店に、Reiの言葉を借りれば「ウエルカム」のようで、僕も宋丸さんに傾倒していた。宋丸さんの話しは、相変わらずつかみどころがなかったが、モノに対して発するコメントは、決して展覧会図録の解説に書かれているような文言ではなく、独特の調子をもつ的を得た表現で、それを聞くのが僕の愉しみだった。 その年の夏の終り、宋丸さんの店を訪ねると、Reiは自分の机の上で習字をしていた。「なかなか上手いじゃん」と僕が覗くと、Reiは墨のついた筆を僕の顔に近づけた。「勝手に見ないでください」「勝手にって、扉を開けたらす…

  • 「骨董商Kの放浪」(五)

    強烈な印象を放つ白磁の大壺を見つめながら、「やっぱり、すごいですね」と彼女は言った。僕はどきどきしながら唾を飲み込んで「こ、この口の造りも見事でして、ここも見どころです」と学芸員のような解説をした。口縁部の立ち上がりが力強く折れて内側に向かっている。彼女は覗き込むように顔を近づけ「はい」と言うと、両手で口元を押えクスっと笑った。「実は、わたし、あちらにある白磁の方が好きなんです」と指をさして、彼女は隣りの展示室へ向かって歩き出した。そこには、これより小ぶりな白磁の立壺(たちつぼ)が下の方に並んでいる。キャプションに「棟方志功旧蔵」とある。僕のお気に入りの一品だ。僕らは一緒にしゃがんで眺めた。彼…

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