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2022/03/03

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  • 花嫁の秘密 250

    「それで?なんでそんなにデレクを嫌う」エリックはいたって穏やかに尋ねた。問いただせばサミーは頑なにしゃべるのを拒むだろう。 簡単に調べたが、サミーとデレクとの間に接点はなかった。もちろん知り合いなのは間違いない。ただ、好きだの嫌いだのという感情が沸き上がるほどの何かがあったことは、確認できなかったという意味だ。 「別に」とサミーは一言。素っ気ないものだ。 まあ、いい。いまのところこのことが問題になるとは思えない。だからそのうち聞き出すことにしよう。 「ところで、デレクはわざわざ挨拶に来たと思うか?それとも偶然目に留まったからか――」 「偶然目に留まったからといって、挨拶しに来るようなやつじゃない」 確かに、サミーの言うとおりだ。つまり、デレクはサミーがクラブに現れたのを知って、わざわざ席までやってきた。賭けの対象だからか、それともサミーと過去に何かあった..

  • 花嫁の秘密 249

    エリックの勧め通り、ローストビーフは絶品だった。 以前から看板メニューだっただろうかと、空の皿を押しやりながら思った。確かに何人か同じように注文しているところを見れば、きっとそうなのだろう。 エリックがどうだ良かっただろうと、得意げな顔を向けてきた。認めるのは癪だけど、否定することでもない。どうせ幼稚だと思われるだけだし、周りがスパイだらけとあっては反発する気も失せる。 「自分の屋敷を持とうとは思わないのか?」エリックが出し抜けに言った。 これまでそんな会話をしたことがあっただろうかと、サミーは顔をしかめた。「本当なら、クリスのものは全部僕のもので、当然屋敷も僕のものだった」 「知ってる」エリックは短く言って、何杯目かのシャンパンを飲み干した。 「僕にどうして欲しい?クリスとアンジェラの邪魔をしないように他所へ行けと?」実際そうすべきなのだろうか? ..

  • 花嫁の秘密 248

    もう気づいたか。さすがだ、と言いたいところだがサミーの知らないことはまだいくつもある。エリックは笑みをこぼしたい衝動を抑え、誤魔化すように満たされたグラスを手に取った。 「お前の食べられそうなものを注文しておいたから、今夜くらいはまともに食事をしろ」くいと半分ほど飲み、アイスペールに刺さったボトルを一瞥する。ふんだくる気でなかなか上等なものを寄越したようだ。 「おかげさまで、昼食はたっぷりいただいたよ」サミーは目をすがめ責めるような視線をエリックにぶつけた。おそらくブラック――新しい従僕――のことを当て擦っているのだろう。 「たっぷりね……」ブラックの報告ではたっぷりとは言い難いが、いつもよりは食が進んでいたようだ。きっとセシルの食べっぷりに影響されたのだろう。「お前がそう言うならそうなんだろう。とにかく、ここのローストビーフは絶品だから食べておいて損はない」 「セ..

  • 花嫁の秘密 247

    プルートスはにぎわっていた。ここで夜を過ごす者、このあと控えているパーティーまでの時間つぶしで来ている者、よく見るとカウンターの隅の席で深刻そうに話をしている者がいる。横顔に見覚えがあったが誰だか思い出せない。 エリックに訊いてみようか。サミーはすぐにその考えを振り払った。なんであれ、エリックを頼りすぎるのはよくないし、得意げにされるのもうんざりだ。 「シャンパンをグラスで二つ。席はあそこにするよ」エリックが給仕係に声をかけ、ラウンジの奥まった席を指さす。柱の陰に隠れて周りを観察するにはいい席だ。 「僕は飲まないよ」遊びではないとさっきも言ったのに、エリックは聞いていなかったのだろうか? 「飲んでいるふりくらいできるだろう?」エリックは軽く受け流し、目当ての席へ向かって奥へと進む。 本当にふりだけで済ませてくれるのだろうかと、疑り深い視線をエリックに向けた。今..

  • 花嫁の秘密 246

    エリックは夜会服姿のサミーを階段の上からしばらく眺めていた。 痩せすぎなのを除けば、何もかも完璧だ。髪は後ろに軽く撫でつけ、額をあらわにしている。思わず口づけたくなる。 「ふうん、意外だな」さも、いま降りてきたというように声をかけると、サミーがじろりと睨みつけてきた。綺麗な瞳だ。 「なに?」サミーは不機嫌この上ない返事を返し、外套を羽織った。 「いや、セシルがちゃんと伝言をしていたことに驚いただけだ」それからサミーがきちんと支度をして待っていたことにも。 エリックが屋敷に戻ったのは一時間ほど前。朝から詰め込みすぎた予定をすべてこなし、予定外だったS&J探偵事務所にも寄って、仕事の依頼を済ませてきた。その時セシルの姿はなく、話が伝わっているのかは未確認だった。 「君が僕の今夜の予定を勝手に決めてしまったことかな?」サミーはチクリと言い、プラットの差し出したステ..

  • 花嫁の秘密 245

    その頃フェルリッジのリード邸では―― 「アップル・ゲートへ行きたい?」クリスは動揺を隠しつつ、たったいまアンジェラが口にした言葉を繰り返した。妻に実家へ帰りたいと言われて動揺しないわけがない。驚いてソファから腰を浮かしたほどだ。 「クリスがラムズデンに行っている間だけよ。一人でここにいるのは寂しいし、お母様とゆっくり話もしたいし、いいでしょう?」隣に座るアンジェラはクリスの手を取った。小さな手に力を込めて説得しようとしているのだ。 クリスはその提案を真剣に考えてみた。 確かにここがいくら安全だと言っても、一人にさせるのは心配だ。アップル・ゲートならマーサもいるし、アンジェラが寂しがることもない上、ソフィアにこの結婚生活の意義を説くこともできる。 とはいえ滞在中は護衛が必要になるだろう。一番頼りになるエリックはサミーとセシルを連れて行ってしまった。連れ戻すか? 「..

  • 花嫁の秘密 244

    朝目覚めた時、そこにエリックはいなかった。 当たり前だ。ここは僕のベッドだし、エリックがいるはずがない。それでも昨夜眠りに落ちる前に言われた言葉が耳に残っている。それも鮮明に。 彼は僕を愛していると言った。いや、正確には愛してやれるといったか。どちらでも意味は同じように思うが、なんとなく違う気がした。 顔を洗い、着替えを済ませ、部屋を出ると廊下に見覚えのない従僕が立っていた。見栄えは悪くないが背が高すぎる。支度を手伝おうと待機していたのだろう。新入りだろうか? 「ひとりで平気だから下がっていいよ」そう言って、階下へ向かう。 お腹は、空いていない。この数日なぜか食欲がなく、その理由がわからずにいる。図書室へ入ると、セシルがいた。アンジェラによく似た彼はケーキの乗った皿を抱えて本を読んでいた。 「おはよう、セシル。朝食は済ませたのかい?」 「サミーおはよう..

  • 花嫁の秘密 243

    なぜこんなにもサミーに執着するのか、エリック自身理解できないでいた。 最初は好奇心、それとも同情したからか――今はもう別の感情に変化してしまい思い出すことができない。 「おい、いつまでそうしているつもりだ?」エリックはぼんやりと暖炉の炎を眺めるサミーに声をかけた。 「なにが?」サミーは思考を分断されたことに、目をぱちくりとさせてエリックを見る。 「髪をちりちりにする気か?」エリックは這うようにしてサミーのそばに寄ると、肩を掴んで後ろに引いた。 サミーの絹糸のように繊細なプラチナブロンドの髪がふわりと揺れる。少し伸びてきただろうか、柔らかい毛先があちこちに跳ねている。指の間に絡めた時の心地よさを思い出し、エリックは思わず呻き声をもらした。 「そっちこそ、もう乾いているじゃないか。そろそろ部屋へ戻ったらどうだ?」サミーが警戒心もあらわに言う。 警戒はしていても..

  • 花嫁の秘密 242

    サミーが自分の部屋と呼べる場所へ戻ったのは、ずいぶんと遅くなってからだった。 話が進むにつれ居心地のいい図書室から動くのが面倒になり、食事もそのままそこで適当に済ませることになった。エリックは執事に言って、極上のボルドーワインを持ってこさせた。クリスのものはアンジェラのものも同然で、すなわちアンジェラの兄である自分にも飲む権利があるとかどうとかくだらないことを言っていた。 クリスのものだろうが何だろうが、ワインくらい好きに飲めばいい。ワインも地下で眠っているより飲まれた方がその価値があるというものだ。 「なあ、僕は本気で疲れているんだ」サミーはタオルで頭を拭きながら、背後に立つ男にうんざりと言った。 「気にするな」 気にするな?朝目覚めてから寝るまで一日中つきまとわれればうんざりもする。しかも長旅になったのはエリックが列車で行くのを拒んだからだ。ちょうどいい時..

  • 花嫁の秘密 241

    エリックにとってリード邸の図書室は、さほど心地のいい場所ではない。もちろん居心地が悪いわけではないが、ハニーのように長居したい場所かと言われればそうではないというだけ。ただここにはコートニー邸にはない上等な酒がキャビネットにずらりと並んでいる。好みの酒を手に取ればたちまち居心地が良くなるから不思議だ。 実のところ、このままクラブに行ってもよかった。けれども、さっき口にした通り今夜はもう誰にも会いたくなかったし、何よりサミーが心配だった。 道中何度か休憩を挟んだが、サミーは終始不機嫌で食欲もなく、数日前からの風邪がまだくすぶっているようだった。まあ、不機嫌なのは半ば強引に連れ出されたことに腹を立てているからだろうが、ちょっとでも目を離すとろくなことをしないのだから仕方がない。ジュリエットのことなど俺一人でもどうにかできる。そうしないのは、サミーにハニーを救わせたいからだ。 「そ..

  • 花嫁の秘密 第九部 追加登場人物

    追加登場人物 (ちょっと増えてきたので覚え書き) <ラムズデン> リード家の領地のひとつ クラーケン(65)前土地管理人 モリソン(32) 土地管理人 フォークナー 弁護士 ・リード家顧問弁護士 バートランド(35) ・ロンドンリード邸執事 プラット(40) <プルートス>(紳士クラブ)の会員 デレク・ストーン(29) ブライアークリフ卿の長男 シリル・フロウ(25) マックス・ホワイト(25) <ヘイウッド村> ウォルト夫妻 ラウンズベリー伯爵所有の屋敷の管理人 ロイ・マシューズ(14) キャム・マシューズ(8) ※登場人物名、地名は架空のものです。

  • 花嫁の秘密 240

    「それで、どうして君たちは自分の家に帰らないんだ?」サミーは背後の二人に向かって言った。玄関広間で出迎えた執事に脱いだ手袋を無言で差し出し、小さく溜息を吐く。 居心地のいい場所から無理やり連れ出され、一日かけてようやく自分の屋敷に――正確にはクリスのだが――たどり着いたというのに、僕はまだ解放されないというのか? 「だって、火の入っていない屋敷に戻れると思う?てっきりクリスが一緒に電報を送ってくれたものだと思っていたよ。もしくはハニーがね」セシルは気後れすることもなく、まるで我が家のように脱いだコートを従僕に手渡す。 確かにセシルの言うとおりだ。クリスはなぜ一緒に電報を打たなかったのだろうか。コートニー邸も開けておけと書き添えるだけでよかったのに、もしかしてわざとなのか? 「エリックは自分のアパートに戻ったらどうだ?」無駄だとわかっていても言わずにはいられなかった。..

  • 花嫁の秘密 239

    クリスマスを前に突然家族バラバラで過ごすことになってしまい、さすがのアンジェラも我慢しきれなかった自分に嫌気が差していた。いつかは秘密を明かさなければならない時が来るとしても、それはいまではなかったはず。どうしていつものように聞き流せなかったのだろう。 「ハニーが言ってしまわなければ私が言っていた」 クリスはそう慰めてくれたけど、領地の問題で大切な時期にサミーまでここを離れてしまい、本当はすごく困っているはず。 いまちょうど弁護士が来ていて、難しい話をしているところだ。クリスと同じ赤毛で歳は少し上だろうか、何も知らない人が見ると兄弟のように見えなくもない。もしかして親戚か何かなのだろうか? クリスは間もなくラムズデンへ行ってしまう。すぐに戻ってくると言っていたけど、サミーが言うにはそんなに簡単な話ではないらしい。 そうなると、一緒に行った方がいいのかしら? ..

  • 花嫁の秘密 238

    サミーとエリック、そしてセシルが慌ただしく屋敷を発って間もなくして、リード家の顧問弁護士バートランドが重そうなかばんを携えてやってきた。クリスと同じ赤毛でつい最近父親から役目を引き継いだところだ。まだ三十五歳と若いが、長年父親のそばで仕事をしてきて、経験もそこそこあるし細かいことに気がつく優秀な男だ。 「それで、どうだ?」クリスはいくつかの書類に目を通しながら尋ねた。思ったよりも収益が上がっていないのが気になる。 「幸いなことに、土地を担保に借り入れなどはしていなかったようです」バートランドは淡々と言い、クリスに見せるべき書類を次々と目の前に出していく。 「被害は年末の支払い用に調達していた金だけか……それだけ持っていったいどこへ?妻子はどうなった」モリソンの捜索は地元の人間に任せているが見つかるのも時間の問題だろう。 「それだけといっても、大金です。モリソンに目立..

  • 花嫁の秘密 237

    「それで、リックたちは何を企んでいるの?」セシルはポークソテーにたっぷりとマッシュポテトをナイフで塗りつけ、ニコニコ顔で口に運んだ。 途中立ち寄った街で休憩がてら昼食をとることになったが、ここ<フェアリー&ピッグス>は当たりだった。妖精と子ブタちゃんの看板の意味は豚肉料理が絶品なのと、この辺一帯は妖精の住処だから、らしい。川辺には近づいてはダメだと店主に言われた。 「僕は何も。巻き込まれただけだ」そう言ってエリックを見るサミーはアップルパイをちまちまつついている。つつくだけで食べている気配はない。 エリックはエールを飲み干し揚げたてのポテトをつまんで口に放ると、サミーの方に皿を押しやった。 「誤魔化そうたって無駄だよ。僕はクリスマスのごちそうを取り上げられたんだから、何をするつもりなのか知る権利はあるはずだよ」このミートソースのマカロニもなかなかだけど、やっぱりポー..

  • 花嫁の秘密 236

    朝食という名の別れの挨拶が済むと、サミーは愛用のステッキと銃を携え玄関前で待機する馬車に乗り込んだ。というより、エリックに急かされ無理やり乗せられたという方が正しい。 サミーは窓の外に目をやり、手を振るアンジェラに手を振り返した。今日二度目の見送りだからか、どことなく寂しげだ。クリスと二人で過ごすのも悪くはないだろうが、アンジェラのそばには家族か友人か、侍女以外の誰かがいたほうがいい。エリックの言うようにメグは頼りになるのだろう。けど彼女は所詮アンジェラの正体も知らないただの侍女でしかない。 馬車が動き出すとアンジェラの姿が視界から消えていき、仕方なく薄曇りの空に目を向ける。 きっと屋敷へ入るとき、玄関にぶら下がっているヤドリギの下でクリスとキスをするのだろう。そう思うと、みぞおちを殴られたかのように息苦しくなった。二人は結婚していてキス以上のこともしているというのに、い..

  • 花嫁の秘密 235

    サミーは迷った末、エリックの言葉を無視していつものように普段着で階下に降りた。一時間でここを出るというのがどこまで本気かわからなかったからだが、すでに玄関前に馬車が回されているのを見て、エリックはこうと決めたらそうする人間だということを思い知らされた。 朝食ルームへ入ると、アンジェラは物憂げにココアを飲んでいた。昨日の告白から間を空けずして母親がここを去ってしまったのだから、傷ついて当然だ。こんな時ほどそばにいてあげたいのにエリックがそれを許さない。サミーは苛立ちを抑えにこやかに声をかけた。 「アンジェラ、おはよう。ソフィアはもう出発したんだって?挨拶しておきたかったのに」 パッと顔をあげたアンジェラが、いつもと変わりない笑顔だったことにサミーは安堵した。 「サミー、おはよう。そうなの、お母様とマーサはアップル・ゲートに帰ってしまったの」 アンジェラの返事を聞..

  • 花嫁の秘密 234

    寝間着の上にガウンを羽織っただけのアンジェラは、母の言いつけ通り馬車の車輪が動き出すとすぐに邸内へと入った。外はまだ白み始めたばかりで雪もちらほら残るなか、ソフィアとマーサはフェルリッジを発った。アップル・ゲートへはまっすぐ戻らず寄り道をするのだとか。 「朝食くらい食べて行ったらいいのにね。もう三十分出発を遅らせるだけでいいのに」同じように寝間着にガウン姿のセシルが軽く伸びをしながら言った。もうひと眠りしたそうに、ふわぁとあくびをする。 「ほんと、こんなに急いで帰らなくたっていいのに。わたしもクリスも寝間着姿よ」 クリスがアンジェラの肩を抱く。「このまま着替えて朝食を食べに行くか、ベッドでもう少しだけまどろむか、どっちがいい?」見上げたアンジェラの額に口づけ、返事を待つ。 昨夜は眠りが浅かったし、もうひと眠りするのも悪くないのかもしれない。お母様と短いとはいえきちん..

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