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2022/03/03

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  • 伯爵と少年 67

    アンディが眠りにつくと、エドワードは屋敷内の使用人を居間に集めた。 スティーヴンにローレンス、メアリにヘレンとルーシーだ。 エドワードには少しの迷いも無かった。いつかは、とは思ってはいたがその時がやってきたのだ。 「皆に集まってもらったのは、アンディの事だ」 この屋敷にアンディがやってきて、すべてが変わった。 代り映えのしない毎日を送っていたエドワードの隠居生活は終わりを告げ、それに伴い使用人たちの仕事量も増えた。もちろんそれは喜ばしいことで、皆アンディのいなかった頃に戻りたいなど思いもしない。雇われたばかりのローレンスでさえ、この地に腰を落ち着ける覚悟でアンディに仕えている。 「私は、アンディを愛している」そう言い切ったエドワードの声は、かつてないほど落ち着き威厳に満ちていた。 声を出す者はいなかった。エドワードは使用人一人一人に目を向け続ける。 ..

  • 伯爵と少年 66

    ベッドの中央に小さな山が出来ていた。 エドワードにとってそれは見慣れた光景だったが、アンディがこうして自身をすっぽりと隠しているときはひどく傷ついていることを示していた。もう二度とこんな姿は見たくないと思っていたのに、そうさせてしまったのがまたしても自分なのだから、どんな顔してアンディに会えばいいというのだろう。 アンディは二人のために自分の身を犠牲にしようとした。祖父の望みが何だったのかは今更どうでもいいことだが、目にしたもの以上にひどいことをする気はなかったと思いたい。 「アンディ、そっちへ行ってもいい?アンディを守れなかった私を許してくれる?」 エドワードは戸口に佇み、アンディの返事を待った。息遣いから眠ってはいないようだが、期待している言葉は聞こえない。 今度こそ、もうだめなのか? 上掛けがもぞもぞと動き、アンディが顔を出した。怯えているようにも..

  • 伯爵と少年 65

    主人に認められるというのは喜ばしいことだ。出来る使用人と言われ慣れているローレンスとて同じ。 主人の最も大切な人を任されているのだ、こんな状況でなければ満足の笑みを浮かべていたことだろう。 「ローレンスさん……?」 なぜここにいるの?とでも問いたげだ。 「アンディ様、お目覚めですか?何か飲まれますか?」ローレンスは優しく問いかけた。どうやら気を失っていたことにも、まだ気づいてなさそうだ。忘れてくれたらどんなにいいかと思うが、そんなに都合よく出来てはいない。 「エディは?ぼく――」言いかけて息を飲む。どうやら気を失う直前までの出来事を思い出したようだ。最後に目にしたのはフレデリックかエドワードか、それともローレンスだったのか。 「呼びますか?」ローレンスはアンディの意思を訊ねた。 本当は訊ねるまでもない。エドワード様はそばにいて当然だし、アンディ様もそれ..

  • 伯爵と少年 64

    エドワードは目の前の光景に完全に我を失った。 狂気じみた怒りに身を任せ、フレデリックの胸倉を掴み上げ今にも殴りつけそうになった。そうしなかったのは寸前でスティーヴンが止めたからだ。 フレデリックがソファに崩れ落ちる。 その間にローレンスがアンディの身を隠し抱き上げそこから連れ出した。 「エドワード様、アンディ様が先です」 スティーヴンのその言葉にエドワードはほんの少し冷静さを取り戻す。 フレデリックを見おろし、あからさまな軽蔑のまなざしを向けた。 「あなたは何をしたのかお分かりですか!もう私は、ランフォードの家とは縁を切ります。あなたの意に従い結婚するつもりもない!私はあなたの後継者ではなく、スタンレー家の当主なのです。それでも、あなたにアンディの事を知ってもらいたいと思ったのは、母の父だからです。しかし、それももう終わりです。もしあなたが私達を潰そうとするなら受けて..

  • 伯爵と少年 63

    アンディはフレデリックの寝室にいた。 ソファにゆったりと腰を掛け、その目の前に立つアンディをじっと見据えている。 フレデリックはもう七十に近い歳だった。精力的に活動しているせいか、痩せてはいるが年齢ほどは衰えていない。 「服を脱ぎなさい」 アンディの心臓は屋敷中に聞こえるのではないかというほど激しく鼓動していた。両脇にだらりと下げた腕を何とか持ち上げ上着のボタンに手をかける。お出掛け用にあれこれ着込んでいたとしても今は意味がない。アンディの意思ですべて脱がなければ、目の前の人は納得しないのだから。 このあとどうなるかなんて考える余裕はなかった。 上半身裸になると、寒くもないのにぶるりと震えた。ズボンのボタンに手をかけたときには全身がガタガタ震えていた。 アンディはフレデリックの落ちくぼんだ眼を見た。その瞳は何を見てどこを見ているのか見当もつかなかった。 ..

  • 伯爵と少年 62

    祖父の招待を受けロンドンへ出てきたエドワードだが、出発の直前まで滞在先をどこへするかで悩んでいた。 たった二、三日のことだが祖父と同じ屋根の下で過ごす気にもなれず、かといってわざわざロンドンの伯爵邸を開けさせるのも煩わしく、結局は公爵邸から馬車で一〇分ほどのラッセルホテルに決めた。 フレデリックと二人での話を終え再びエドワードの前に姿を見せたアンディは、青い顔をしてひどく疲れた様子だった。緊張していたのだから当然だろう。いったいどんな話をしたのかすぐにでも聞きたかったが、アンディと入れ替わりでフレデリックに呼ばれてしまい、二人だけの時間はしばしお預けとなった。 話し合いは三〇分ほどだっただろうか?フレデリックと話を終えたときには、エドワードは激昂しアンディを見つけると抱き上げるようにして公爵邸から連れ出した。 ホテルに戻る頃には幾分冷静さを取り戻していたが、怒りはしばら..

  • 伯爵と少年 61

    九月某日――ロンドンの公爵邸にて 「お前が例の孤児か」 エドワードの祖父フレデリックは応接間に現れた少年に冷ややかな視線を向けた。それは卑しい身分のものとあからさまに蔑むような目つきだった。エドワードの方はあえて見なかった。 普段のフレデリックなら他人に対して自分の感情を悟られるような言動はけっしてしない。けれども今は違う。エドワードの心をとらえて意のままにしている少年を傷つけるつもりだった。 まったく、ほんの子供ではないか。エドワードが夢中になる理由がいったいどこにあるというのか。 「はい、公爵様。ぼく……いえ、わたしはエドワード様にお世話になっている、アンディと申します。今日はお招きいただき、ありがとうございます」アンディはそう言っておじぎをした。 フレデリックは冷静にアンディを見ていた。 この場においてはエドワードよりも落ち着きしっかりとしている..

  • 伯爵と少年 60

    エドワードの表情から、アンディはなにかいつもとは違うものを感じていた。 キスが激しいのはいつものことだけど、いきなり明るい時間に脱がされるのには慣れていない。いつ誰が見ているかもしれないと思うと、ひどく落ち着かないし、なにより恥ずかしい。 「エディ……どうしたの?」 本当にいったいどうしたんだろう?何か怒らせるようなことしてしまったかと気にしてみるが、エディは怒っているというより、まるで目の前のぼくが見えていないようだ。 アンディの柔肌をエドワードの指先がもてあそぶ。胸の敏感な場所を執拗にいじられ、体がだんだんと熱を帯びてくるともう立っていられなくなる。 「ねぇ……あんっ、ねぇぇ……エディ、待って」これ以上はもう……と思っても、押し退ける勇気はなかった。けっしてひどいことをされているわけではない。けど、あまりに一方的であの時のことを思い出さずにはいられない。あれはぼく..

  • 伯爵と少年 59

    あれから半月程経つが、キャサリンからの連絡はまだなく、アンディの謎はまだ謎のまま。いったいどうなっているのかと急かしてもよかったのだが、スタンレー家ではそれとは別の問題に忙しくしていて、キャサリンと謎の訪問者のことは後回しになっていた。 というのも、なんの気まぐれか祖父フレデリックが二人を――というより、アンディをロンドンのランフォード公爵邸に招待したからだ。 アンディは初めてエドワードの家族に紹介される事に純粋に喜びながらも不安を隠せずにいた。一方のエドワードは祖父が何か企んでいるのではと危惧していた。つい先月のこと、祖父はアンディをエドワードの愛妾扱いして侮辱した。 招待を受けてからというもの、アンディはローレンスに礼儀作法の特訓を受けていた。 もうそんなことする必要も無いくらいしっかりしているのに、ローレンスの方が心配で色々構っているらしい。 「いいかげんにアン..

  • 伯爵と少年 58

    アンディの記憶に関することを、キャサリンが知っている。 そのことで、いつかはわからないがキャサリンとアンディのことを知る者がここへやって来ると言う。 なぜそんなに勿体つけるのか、エドワードには理解できなかった。 とにかくどんな些細なことでも知る必要がある。 まずはキャサリンの周辺から調べていくのが妥当だろう。一年のほとんどを過ごすフェアハーストの屋敷に探りを入れるため、スティーヴンに調査を命じた。 「それで、スティーヴンどうだった?」 「はい、エドワード様。それが……少し探ってみたのですが、キャサリン様が何を知っているのか、それが本当にアンディ様に関することなのかは分かりませんでした――ただ……」 「ただ――なんだ?」 「キャサリン様には双子の兄がいたそうです。すでにお亡くなりになっていますが、その方の亡くなった時期と、アンディ様が記憶をなくされ、あの泉の側で目覚め..

  • 伯爵と少年 57

    エドワードはどうやってアンディと顔を合わせていいものか悩んでいた。 昨日のことを思えば、アンディが怖がって逃げてしまうのではと心配で、朝から書斎に篭りきりだった。 理解あるスティーヴンは『アンディ様なら大丈夫ですよ』と一種の慰めのような言葉を掛けてくれたが、そんな確証どこにあるのだと結局ぐずぐずと仕事も手につかないまま、時間だけが過ぎていった。 アンディの方は、朝からしっかり勉強して、いつものスケジュールをちゃんとこなしているとスティーヴンから報告が来た。 「何も手につかない……」 エドワードがぽつんと呟いた時、部屋の外でアンディの声がした。 暫くすると重たい扉が少し開き、不安そうな面持ちのアンディが顔を覗かせた。 「エディ……」今にも泣きだしてしまいそうなほどの弱弱しい声だ。 エドワードは瞬時に立ち上がっていた。アンディがまだエディと呼んでくれてい..

  • 伯爵と少年 56

    「それでは、わたくしは部屋の外にいますので、なにかあればお呼び下さい」 スティーヴンはアンディを部屋まで運んだが、何も聞かず、そして決して余計な視線を向けることはなかった。 アンディのショックは大きかった。 それはエドワードにされた事よりも、エドワードにそういう事をさせてしまった自分が許せなかったのだ。 次第に気持ちが落ち着き、自分に起きた出来事が信じられずに泣き出してしまった。 最初は静かにひっそりと泣いていたが、どうしようもなく切なくなり声をあげしゃくりながら泣いた。 スティーヴンは部屋の外でその泣き声を胸の痛い思いで聞いていた。そしてアンディの代わりになぜこうなってしまったのかを説明しなければと思った。隠し事などせずに最初からすべて打ち明けていれば、誰も傷つかなかった。けれど、すべてに理由があったことを主に知ってもらう必要がある。 しばらくすると、アンディの..

  • 伯爵と少年 55

    エドワードは無事帰宅したアンディを見て、幾分冷静さを取り戻した。それでも隠し事をしていたアンディを簡単に許す気にもなれず、乱暴にソファに投げ出しそこに座るよう命じた。 「アンディ、今日はどこへ行っていた」 アンディが困惑した顔でエドワードを見上げる。それは乱暴にされたからなのか、今日の午後の秘密の外出がもう秘密ではなくなったことになのか、とにかく口は堅く閉じられている。 言いたくないというわけか。エドワードはどうにか怒りを抑えようとぐっと歯を食いしばる。だがそうしたところで、込み上げる苛立ちも怒りも、ふいに現れた悲しみさえもどうにも抑えることが出来ず―― 「あの、今日は、実は、キャサリン様に会いに行っていたのです。それで――」 エドワードはアンディにぶつかる様にキスをした。いや、そんな甘いものではなく、アンディの口をただ塞いだのだ。それ以上聞けば、すべてが終わ..

  • 伯爵と少年 54

    「アンディはどこへ行った!!」 ロンドンでの用事を早めに切り上げ帰宅したエドワードは、当然いるはずのアンディがいないことに怒っていた。 「アンディならお昼ごろに馬車で出掛けましたよ。エドワード様、知らなかったんですか?内緒だったのかしら?」 事情を知らないメアリが余計なことを言ってしまう。そのそばで青くなったのはすべての手配をしたスティーヴン。帰宅を遅らせようと努力はしたが、一分一秒でも早くアンディに会いたい主人を前になすすべはなかった。 「馬車で……?」エドワードの表情が一層険しくなる。 私の記憶が確かなら、アンディは従者を従えていない。なぜならまだ雇っていないからだ。そんな状態で雇って日の浅い御者と二人で出掛けたのか?いや、誰も二人で出掛けたとは言っていない。だが、メアリはここにいるし先ほどヘレンもルーシーもその姿を見たばかりだ。 スティーヴンはもう黙っ..

  • 伯爵と少年 53

    アンディがキャサリンと会っているその頃――エドワードはロンドンにある、ランフォード公爵邸を訪れていた。 「珍しいな、お前の方からわざわざここを訪ねて来るとは。あれ以来ほとんど顔を出さなかったのに」 ランフォード公爵フレデリック・ヘンリーの低く優雅なその声は、聞く人を惹きつけるがその言葉に隠された意味を探るのは容易ではない。ソファに沈み込むようにして座り、突然の孫の訪問にもさして驚いた様子もない。 あれ以来――エドワードが父を亡くし、そしてまた母も失くした時のことだ。 「ロンドンに用事があったのですが、少し話がしたかったのでこちらに寄らせていただきました」エドワードは居心地悪げに椅子の上で身じろぎをした。 そもそもこの屋敷に居心地のいい場所などあるとは思えなかった。以前訪問した時はエドワードの母クリスティーヌがどれほど恩知らずな娘かを滔々と語っていた。娘のせいで自分..

  • 伯爵と少年 52

    待ち合わせはクリケットや乗馬も楽しめる場所が近くにある、村の小さなパブだった。ちょうど両者の住む屋敷の中間にある。 身元のしっかりした人物しか利用しないとあって、密会場所としては申し分なかった。とにかく店主の口が堅く安全を最優先としてスティーヴンがここに決めた。 アンディは先に到着していたが、入り口は二か所ありどこから入っていいのか分からず、スティーヴンに大事な役目を与えられた御者ともにキャサリンが来るのを待っていた。 それから間もなくすると、キャサリンが到着して二人はパブの個室へと案内された。もちろんエドワードの名でスティーヴンが予約を入れていたものだ。キャサリンの侍女も一緒に来ていたが、さすがに部屋には入らなかった。 目の前に紅茶とジンジャーケーキが置かれ、給仕係が出て行くと、さっそくキャサリンが切り出した。 「あなたは記憶がないのだとか」 アンディはそう言..

  • 伯爵と少年 51

    アンディはスティーヴンのあるのかわからない休憩時間を狙って部屋を訪ねた。 事実、スティーヴンに休憩時間など存在しない。 スティーヴンは驚きを少しも見せることなく、アンディを快く部屋へ招き入れた。 「アンディ様、どうされましたか?ここではなんですので、ティールームでお茶でも召し上がられますか?」このような狭苦しい場所に、ほんのわずかでもアンディ様を留めていたことが主に知れたら、確実にお怒りになられるだろうことは想像に難くない。 「いえ、ここで。あの……ぼく、お願いがあって……」 お願い?わたくしに? 「何でございましょうか?わたくしに出来ることでしたらなんなりと」スティーヴンはこの小さな紳士のお願いを何でも聞くつもりで答えた。 「エドワード様には内緒にして欲しいことなんです」言い難かったのか、アンディはシャツの裾を両手でぎゅっと握っている。困ったときにする癖..

  • 伯爵と少年 50

    社交シーズンが終わり一旦はフェアハーストの屋敷に戻っていたキャサリンだが、調べものがありロンドンの屋敷へ舞い戻っていた。 調べものとは――もちろんアンディの事だ。 「キャサリン様、お手紙が来ております」 侍女が手紙を持って部屋に入ってきた。彼女は顔色ひとつ変えない執事よろしく、いつも何事にも無関心という態度を貫いている。キャサリンはそこが気に入っていた。彼女――確かモリーと言ったかしら――は、時折退屈そうにはしているけど伯爵令嬢の侍女という仕事を完璧にこなしている。特別優秀とは言わないまでも、キャサリンが不満に思うことはこの二年一度もなかった。 「そう、ありがとう」キャサリンは封筒を確認し急いで手紙を取り出した。調査の結果が出たのだ。 アンディは……あれは本当にアンディなの? キャサリンは先日エドワードに出会ったときの事を思い出して、嫌な気分になった。あ..

  • 伯爵と少年 49

    アンディはぺこりと頭を下げエドワードの後についてデパートを出た。 去る間際ちらりと振り返ってキャサリンの方を見たが、先ほどまでの笑顔は消え去り、驚きと怒りに満ち凍りついた表情になっていた。 アンディがキャサリンの驚く顔を見るのは二度目だった。あの四阿での驚きは何だったのだろう。それを尋ねたくて後ろ髪引かれる思いだった。 エドワード様がどんどん先へ行ってしまう。 知らない場所なのに置いて行かれたらと思うと、アンディは駆け出していた。 もしまたひとりになったら、この街でまた寝る場所を探して彷徨うことになったら、そう思うと怖くてたまらなかった。夏の日差しのせいなのか、焦りからくるものなのか、額に滲んだ汗が頬を伝った。 すぐに追いついたものの、アンディはいったい何がどうなっているのかわからずおろおろとする。 「あの……エドワード様?」 エドワードは足を止め振り返り、..

  • 伯爵と少年 48

    それからしばらくして、初めて二人は一緒に外出をした。 目的地はロンドン。もちろん鉄道を使う。 馬車移動でもいいのだが、時間がかかりすぎるし、何よりアンディへの負担を減らすためにエドワードがそう決めた。 アンディにとっては二度目の列車旅。ロンドンからホロウェルワースへ戻る道中はとても旅気分になれるものではなかった。とにかく窮屈だし騒々しくて、全財産を握りしめるアンディにとってはくつろぐなど問題外だった。 でも今回は一等車でゆったりと過ごせる。隣にはエドワード。広くても狭くてもあまり関係なく寄り添っている。 アンディは久しぶりのロンドンを不思議な気持ちで訪れた。思った以上に騒々しくて、おっかなびっくりエドワードに引っ付いて歩く。訪れるのは以前のアンディなら絶対に足を踏み入れない場所ばかりで、目当ての場所に到着した時には早くも家に帰りたくなっていた。 「エドワ..

  • 伯爵と少年 47

    四阿でぽつんと座っているアンディを見つけ、エドワードの胸は締め付けられた。最近では一番のお気に入りの場所なのに、なぜこんなにも悲しげな顔をしているのだろう。 祖父に会わせなかったからか?きちんと紹介して結婚を断固として拒絶する理由が、この小さな少年にあると告げなかったからか。 エドワードとしてはそうしてもよかった。いや、そうするべきだったのだ。けれども、ひとたび祖父の目に触れてしまえばひどく傷つけられるのは目に見えている。アンディの身分が低いことをあざ笑い孤児だと蔑みひどい言葉を浴びせるに決まっている。 エドワードは以前自分がしたことを思い出し陰鬱な気持ちになった。忘れてはいないが忘れたい過去だ。幾度となくひどい言葉をぶつけ傷つけたのにアンディは許してくれた。 後悔している。謝ったところでアンディが傷付いた過去は変わらない。けれどももしもアンディが自分の手から離れる..

  • 伯爵と少年 46

    キャサリンは揺れる馬車の中で恐れおののいていた。 どうして今更姿を見せるの?あれはどういう意味だったの? 『きみぼくのこと知っているの?』 わたしを試したの?ねぇ、アンディ。 キャサリンは思わず両手で顔を覆った。動揺している姿を公爵に見られてはいけないとわかっていても、体が震えるのはどうしようもなかった。 公爵は言った。『お前は自分でエドワードを勝ち取らなければならない』と。 もちろん手助けはしてくれる。けれど、最後は自分の力だけがものをいう。キャサリンは何が何でもエドワードを惹きつけ結婚までこぎつけなければならない。 キャサリンは両手を膝の上に戻し決然と顔を上げた。向かいの席に座る公爵は目を閉じている。眠っているのかただそうしているのか、キャサリンにわかるはずもない。ただわかるのは公爵の望みは両家が繋がりを持つこと。 ああ、アンディ――死ん..

  • 伯爵と少年 45

    フレデリックとの短い会見を終えエドワードは庭に出た。 すでに話すべきことは話した。キャサリン嬢には祖父とこのまま帰ってもらう。 「探しましたよ、キャサリン嬢。どちらにいらっしゃったのですか?」 庭園の脇からアーチを抜け屋敷のほうへ歩いてきたキャサリンは蒼ざめていた。数歩後ろに控えている侍女は退屈そうに明後日の方向を見ている。 そんなに我が屋敷の庭園はひどいものだったのか?エドワードはムッとした。ほんの少し前までは確かにひどい庭だったが、いまは手入れが行き届いており、ぞっとするほどではないはずだ。 息を吹き返した庭をアンディはとても気に入ってくれている。たまに庭師と何やらごそごそしているが、アンディは何にでも興味を持ってすぐに手を出したがる。まったく困ったものだ。 「少し夢中になりすぎましたわ。とってもすてきなお庭なんですもの。でも、夢中になりすぎて疲れてしま..

  • 伯爵と少年 44

    こんな時アンディに出来るのは屋敷の外へ出ることだ。エドワードに言われたからではない。アンディが考え行動した。 泉の方まで足を伸ばしていたが、夏の日差しは思ったよりも強く、疲れてしまったので四阿でぼんやりと考え事をしていた。アンディのお気に入りの場所のひとつだ。 以前キャサリンが屋敷を訪れた時よりも気持ちは落ち着いていた。 もちろん、アンディはエドワードとは結婚は出来ない。 いつかは――別れが来るかもしれない。 でも今だけは、愛し愛されて安心していられる。 アンディはそれで満足だった。 時折吹く風で草木がかさかさと音を立てる。新しい庭師が植えた木は四阿に風の通り道を作った。 アンディは人の気配に気付いて顔だけそちらの方へ向けた。エドワードではないとわかっていたから、ゆっくりと。 白いレースの日傘、淡いピンク色のドレス――顔は隠れていてもすぐに誰だかわ..

  • 伯爵と少年 43

    社交シーズンが終わりを告げようとする頃、まずはひとつ目の試練がやってきた。 エドワードの祖父のランフォード公爵とキャサリン嬢が屋敷を訪れたのだ。 なかなか面白い組み合わせだが、まったく笑えない。なぜいまここに来たのだろう。祖父がロンドンを離れることはほとんどないし、キャサリン嬢がマーガレットと一緒ではないことにも疑問を抱かざるをえない。 聞けばグリフィス家の屋敷へ行く途中に少し寄っただけというものだったが、そんなはずはないとエドワードは思った。 確かに領地は隣り合っている――グリフィス家所有の土地の一部がスタンレー家の領地に入り込んでいると言った方がいい――が気軽に寄れるほど近くもない。 「エドワード、お前はずっとこちらにいるつもりなのか?私としては議員になることを望むが」ひとつその席を空けることなど造作もないと言った口調だ。 祖父――フレデリックはエドワードとあま..

  • 伯爵と少年 42

    「ああ……エディ、全部入ったの?」 「入ったよ。動いていい?」 「いい……ぁぁ――うごいて、うごいて……エディ……」 「そんなこと言って、どうなっても知らないぞ」 アンディのみだらな声にエドワードの自制心は崩壊寸前だ。このまま我を失ってしまえば、あっという間に果ててしまう。 おそるおそる腰を動かし、限界がどこまで迫っているのか確かめる。思ったよりもすぐそこまで来ていて、エドワードは狼狽えた。ここまで体の相性がいいのも困ったものだ。出来るならアンディと一緒にいきたいがそれまでもつだろうか? エドワードはアンディのかわいらしい分身に手を伸ばした。優しく触れたつもりだがアンディは驚いたのか胎内のエドワードをきゅっと締め付けた。 「あぁん……なにするの?」 「アンディ、一緒にいこう?アンディの中が良すぎて、もう我慢できない……」情けないことだが五分だって持ちそうにない。..

  • 伯爵と少年 41

    膝の上でぐったりとしていたアンディが、ゆっくりと身をよじり振り返ってエドワードにキスをした。 その拙いキスはエドワードを現実から逃すには充分だった。 「アンディ、愛している」唇をつけたまま掠れ声で告げる。声が震えてしまうのは愛という言葉の重みを知っているから。 アンディも同じように返す。「エディ、ぼくも……あいしてる――幸せ」 エドワードはアンディの言葉を飲み込むように深く濃密な口づけをした。 もう、入れたい―― それはエドワードの切実な願いだった。 アンディの秘部に手を伸ばし指で蕾を探る。そこはアンディの蜜で濡れていた。指先で蕾の周りを弄びながら、その中心へと指を埋めていく。そこは最初の時の様には抵抗しなかった。 「んふっ……あぁ入ったの?……指……入ったの?」 「そうだよ」中をかき回すように指を動かし、アンディの淫らな声を引き出す。 「あ..

  • 伯爵と少年 40

    アンディはやはり酔っ払っているらしい。 それでこんなにも大胆だったのかとエドワードは思い、それも悪くないなと口元を緩めた。 アンディは足をふにゃふにゃとさせ立ち上がり、座っていたエドワードと目線を合わせた。 エドワードはアンディを見つめた。 青く澄んだ瞳、今は潤んで瞼をとろりと下げて、まつげが思ったよりも長く綺麗な事に気づいた。 酒のせいか?それとも興奮のせいか、赤く染まった頬が色の白さを引き立たせている。 いつもは薄いピンクの唇も赤く熟れた様にぷっくりとしている。 この瞬間エドワードはこれまでにないほどの幸せを感じた。アンディを抱き寄せキスをせずにはいられなかった。その味は少し苦く、エドワードはおかしくなって笑った。 「アンディは酔うと更にかわいいな」 そう言ってエドワードはアンディの寝間着の裾をたくし上げた。 アンディは下穿きを穿いておらず、かわ..

  • 伯爵と少年 39

    思惑通りの反応。 「それなら、私がもらおうかな」にやける口元を指先で隠しエドワードはアンディを引き寄せた。 くだらないたくらみをアンディに気付かれても別によかった。ほどよく酔っていることもあったが、愛の証にと贈った指輪を、エドワードの予想をはるかに超えるほどアンディが喜んでくれたことに気をよくしたのだ。 アンディの口の中に舌を入れ、くずれたチョコレートとさくらんぼを集めるようにして舌を動かす。この程度のアルコールでダメということは、アンディは酒がまったく飲めないのだろう。おそらくいままで飲んだことがなかったのだろうが、様子を見るにこれからも飲めるようになるとは思えなかった。 アンディの表情がみるみる変わっていくのを愉しみながら、チョコレートとさくらんぼを味わう。甘くほろ苦いのは果たしてチョコレートだろうかアンディだろうか。 「ほら、きれいになった」 アン..

  • 伯爵と少年 38

    『アンディ今夜部屋においで』 エドワードに誘われアンディは部屋の前まで来ていた。入浴も済ませ清潔な寝間着に着替え準備は万端。何の準備かと問われたら、きっと言葉に詰まってしまう。でも朝まで一緒に過ごすならこのくらいしてもおかしくないよね。 アンディは誰に問うでもなしにもごもごと言い、三分ほどためらって、ドアを押し開け中に入った。ためらいの理由は早く来すぎてしまったのではと気にしたから。 エドワードがアンディを待つとき、それが早すぎるということはない。昨日一日離れていたのだからなおのこと。今日一日離れず一緒にいたからといって関係ない。 アンディが部屋に入ると、エドワードはすっかりソファに背を預けた状態でグラスを傾けていた。アンディの姿を見るやグラスの中の琥珀色の液体をぐいと飲みほした。 「こっちへおいで」 昼間見る姿とは雰囲気が違う。もちろんこれまで目にした夜の..

  • 伯爵と少年 37

    翌日、朝食後エドワードはアンディを書斎へ呼んだ。 部屋へ行ってもよかったのだが、時折アンディはひどく頑なになるときがある。朝にはいつも通りの姿を見せてくれたが、昨夜の様子を見れば今がその状態だということは一目瞭然。 出会ってからずっとそばでアンディを見てきた。アンディが過去を気にして二人の気持ちがすれ違ったこともあったが、今はもう違う。アンディが何を考え何を思うのか手に取るようにわかる。だからこそ、離れて過ごすべきではなかった。 「アンディ、こっちへ来てごらん」優しい口調ではあったが、ほとんど命令するように言った。 アンディはなにか怒らせるようなことをしてしまっただろうかと、おずおずと近寄る。緊張しているのを隠すように、シャツの裾をぎゅっと握っている。 むしろ緊張しているのはエドワードの方だ。愛していると言ったそばからアンディを悲しませるようなことをして、その償い..

  • 伯爵と少年 36

    夜遅くになってやっとエドワードは帰宅した。 「エドワード様お帰りなさいませ、お食事はどうなさいますか?」 出迎えたメアリはどこかそわそわした様子で主人の差し出した帽子を受け取った。 「いや、遅くなったのでいい。アンディは?」 食事よりも気になるのはアンディのこと。昨夜あのまま放っておいたのは間違いだったような気がしてならなかった。朝せめて声をかけて出掛ければよかったのだろうが、胸のあたりに錘でもぶら下げているかのように気が重く、寝顔さえ見ることが出来なかった。 それはエドワードが後ろめたいと思っていたからに他ならない。昨日からずっと後悔しっぱなしだ。なぜ、なぜ、と考えたところでミスは取り消せない。 「もうおやすみですよ。今日はなんだか元気がなくて夕食もほとんど召し上がらなかったんですよ。昼間は元気いっぱいだったんですけどね……」 「どこか具合でも?」 ..

  • 伯爵と少年 35

    今日もメアリのお喋りは健在のようだ。 キッチンでシルバーを磨きながらヘレンとルーシーに向かって喋り続けていた。 「最近はほんと、エドワード様は領主様としてのお役目をちゃんと果たして、ますます立派になられて。今日もスティーヴンとロンドンへ出掛けて、以前はずっとこっちに篭りっぱなしだったのにねぇ」 アンディも勉強が終わったので一緒にお茶を飲みながらくつろいでいた。エドワードがいないので仲間に入れてもらったのだ。 「昨日の伯爵夫人、あれはものすごく美人でしたよ。お嬢様のほうはあまり顔を伺えなかったんだけど、どうだったの?ヘレン、あなたお茶を出しに行って、見たんでしょ」 みんなの視線がヘレンに注がれる。アンディも知りたかった。 「とても美しくてかわいい方でしたよ。色が白くて、ほんのり頬がピンク色で、髪型も都会ふうっていうのかしら?素敵な金髪で――そうねぇ、アンディの..

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