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  • 瓦礫の下でかがやく、ひとしずく 終話

    天国か地獄か、そのどちらでもない果ての世界か。 結局ぼくらはどこにもいけはしなかった。 日本ではじめて起こった学校内での銃乱射事件。世間はたいへんな騒ぎとなった。様々な報道がされた。少女の心の闇と称して、美甘さんの個人的な事情が暴かれ

  • さよなら、サナトリウム 25

    「あと何日かここに隠れて、頃合いをみて抜け出そう。それで電車に乗って、どこかに行くんだ」 「どこかって?」 「どこか遠く、静かなとこ。森とみずうみがあるようなとこ」 「なんで森とみずうみなのよ?」と、彼女はちょっとだけ笑った。 「いや、ごめ

  • 南の島のアイアイ 24

    ぼくは項垂れた。自分のつま先すらみえない。自分がどこにいるのかわからなくなる。徐々に足下から闇に飲み込まれていくような感覚に陥る。まるで底のない沼のように。 そんな延々とどこまでも沈み込んでいくような、寄る辺ない時間が過ぎていった。

  • 音楽と物語の関係

    創作するにあたって音楽は多大なインスピレーションをあたえてくれる。 まるで遥か遠くで鳴る鈴の音のように。 嵐といかづち、ときには遠雷によってもたらされる。 瑞々しく風景がひろがり、どこにもいけないふたりの表情のゆれが、声のふるえが、

  • 夜のはじまり 23

    ぼくは美甘さんを連れ、自宅までやってきた。 幸い両親は仕事で留守だ。ズボンのポケットから合い鍵を取り出し、玄関のドアを開けた。靴を脱ぎ捨て、上がり框を踏む。 美甘さんは三和土にぼんやり立っている。背後でドアがばたんと閉まり、室内が薄暗

  • 平和な世界 22

    真昼の住宅街を早歩きで歩いていた。 片手には拳銃を持っている。 夏の陽射しは町並みを白く飛ばし、蝉時雨は熱された地上へ降り注ぐ。 ぼくは廃墟のサナトリウムへ向かっていた。そこに美甘優がいるような気がしたから。 しかし、彼女の姿はな

  • 流星 21

    その夜は、ほとんど眠らなかった。 ベッドに潜って暗闇に浮かぶ天井をぼんやり眺めていると、いま自分が眠っているのか、それとも覚醒しているのか、ひどく曖昧になる。そんなふうにして夢とうつつの淵を漂っているうち、ふと気がつけば、カーテンの隙間

  • 告白 20

    猫を殺したのはやっぱり市川らしい。 案の定、そんな噂は数日もしないうちに拡散し、やがてそれは噂ではなく事実となった。 猫殺しの犯人を懲らしめるという大義名分を得た小山田たちは、ぼくへの迫害をますます強め、かつ公然とそれを行った。 誰

  • 絶望の川 19

    学校を欠席してから四日が経っていた。 自分がいない間、学校はどのような状況になっているのだろう。あの夜のぼくの痴態を、小山田慧が言いふらしているのは間違いない。それを想像するだけで気分が滅入る。どこかへ逃げ出したかった。 当然、そんな

  • 彼の過去 後 18

    ふたたび小山田がゲームをプレイし、ぼくがそれを眺めるかたちとなる。 それからしばらく凪いだ時間がながれた。小山田は滞りなくステージを進め、部屋にはゲームのBGMだけが響き、あとはすべてが蹲るようにして沈黙している。そしてその静寂には、な

  • 彼の過去 前 17

    翌朝、ぼくは学校を欠席した。 指一本動かすのもつらく、呼吸するのさえ億劫におもえた。 「寒気がするの?」 真夏だというのに頭からタオルケットをかぶって蹲る姿に、母親は心配げだった。体温を測るよう促す。 顔の怪我をみられては不審におも

  • 星空の下のけだもの 16

    時間は午前二時を過ぎていた。 深夜でも蝉の鳴き声がきこえる。室内は蒸し暑い。開け放たれた窓からも風は吹き込まず、レースのカーテンは微動だにしなかった。自室のエアコンといえども気軽につけることができない。電気代で親にめいわくをかけたくない

  • 深夜の校舎 16

    時間は午前二時を過ぎていた。 深夜でも蝉の鳴き声がきこえる。室内は蒸し暑い。開け放たれた窓からも風は吹き込まず、レースのカーテンは微動だにしなかった。自室のエアコンといえども気軽につけることができない。電気代で親にめいわくをかけたくない

  • 西村賢太さんについて

    2004年はぼくが小説を書き始めた頃で、ためしに文藝新人賞など、はじめて公募に拙作を送った時期でもあり、同時に、みなさんはどのような小説を書いているのかと、各文芸雑誌の新人賞掲載号を読みあさっていたのだけれど、それで文學界新人賞の受賞作が

  • 春の終わり 14

    廃墟で過ごした春休みがおわり、始業式の日を迎えた。 昇降口の壁のまえには人集りができている。そこに各クラスの名簿が貼り出されていた。それをみて自分がどのクラスに所属するのかを確認する。 ぼくは三年一組だった。前年とおなじく担任は加賀善

  • 桜の雨と涙 14

    廃墟の内部に存在していると、不思議と心が静まってゆくようなやわらかい感覚があった。はじめて建物の外観をみたときは、あんなに不気味に感じたのに。夜になって廃墟がほんとうの姿を現せば、また感想も変わったのかもしれない。だけど、太陽の下での廃墟

  • 秘密結社 13

    その日から、春休み中ほぼ毎日のように廃墟のサナトリウムに訪れるようになった。とくに美甘さんと約束をして行くわけではないので、サナトリウムに彼女がいないときもあった。そんなときは広間のソファに座ってぼんやりと時間をつぶした。たとえ彼女がいて

  • サナトリウム 12

    秘密結社といったものの、特別なにかあるわけでもなかった。 それどころか、あの夜のことについて美甘優とはいっさい会話をしていない。日々はなにごともなく過ぎていった。 授業中、美甘さんの横顔にちらりと視線を向ける。彼女はほおづえをついてぼ

  • ふたりっきりになれるところ 11

    教壇では数学の斉藤先生が関数のグラフを黒板に書きつけていた。たいくつな授業ほど、時計の針の動きは鈍くなる。 となりには普段と変わらず授業を受ける美甘さんがいた。長い髪を耳にかけ、指先でえんぴつを弄ぶ。不意に消しゴムを落とした。彼女はかる

  • 最低の人間 10

    土曜日だった。 放課後、ぼくは四階の廊下へ向かった。 吹奏楽部が演奏する金管楽器の音色が人気のない廊下に響いている。 廊下の端、西階段の側にそのトイレはあった。この階には第二音楽室のほかに、四組ある三年生の教室が並んでいる。しかし今

  • いじめられっ子

    ぼくを精神的にいたぶり、笑い者にしたいだけであって、まさかほんとうにお金までは奪わないだろう。そんな淡い希望をもっていた。実際、あれから何事もなく日々はながれていたからだ。 しかし、それも希望的観測にすぎなかった。そんなに現実は甘くはな

  • 登校拒否の彼女

    川を跨ぐ橋の歩道を歩いていた。 くちびるはかさかさに乾燥し、ささくれた皮がマフラーにひっかかる。荒れた上唇を探るように舌で舐めると深い切れ目があり、ほんのりと鉄っぽい血液の味がした。 橋の下は河川敷で、葉のない毛細血管のような木々が枯

  • 妬み、

    「ふうん、意味わかんねえな」 野田芳樹は駄菓子のビッグカツをスルメイカでも食いちぎるようにたべていた。 その日の放課後、ぼくたちは黒田屋にいた。店外に設置された木製ベンチに並んで座り、ベビースターのカップ焼きそばを食べていた。ぼくがカレ

  • おかあさんといっしょ

    水曜日、その日は開校記念日のため学校は休みだった。世間は平日なのに自分の中学校だけが休みというのは、ちょっとだけ優越感に浸れる。 繁華街や遊戯施設が土、日ほど混雑していないので、この日を利用してともだちで集まり遊びにでかける生徒たちがい

  • 席替え

    気になる女子のとなりへ 黒板には教室の座席表が書かれ、男子と女子の席にそれぞれ番号が振ってある。教壇には担任の加賀善明先生が立ち、教卓には小箱が置かれていた。 五時間目の「道徳」の時間に、とつぜん先生の口から、いまから席替えを行うという

  • これがぼくの青春

    女子の裸がみたい 暮れかけの空には、さまざまな色が水彩えのぐを溶かしたようにうずまいている。 赤、みずいろ、黄色にむらさき。東の麓には濃紺の夜が澱のように沈んで、ちいさな星たちが炭酸の泡のように浮いている。 ぼくと野田芳樹は、国道脇の

  • 日陰

    学校に居場所はない 昼下がりの空は、風が舞い上げた砂埃のせいでぼやけている。 部活動の時間、ぼくはいつものように球拾いをしながら、コートで練習する部員たちの背中をぼんやりと眺めていた。 ぼくの通う中学校では生徒は皆、部活動への参加が義

  • うつくしいものと汚れたもの

    日陰のものはそれらしく、教室の片隅でいつまでだってウジウジと鬱屈していればいいのだ 休み時間、ぼくは男子トイレにいた。 水垢で曇った鏡にぼくの顔がうつっている。 眉尻が下がった気弱そうな眉毛に、二重まぶたの黒目がちな目。なすびみたいな

  • あの頃、ぼくは14歳だった

    勉強も運動もできず、さえない男子生徒で、とうぜんのごとく周囲から軽んじられていた。 自分とおなじ種類の男子で、野田芳樹というともだちがいた。 太っていてメガネをかけていて、ゲームとアニメが好きなやつだった。 彼とはよく放課後、駄菓子屋で

  • みんな夢でありました

    死に近い場所にいた。もう一度やり直すなら、どんな生き方があるだろう。 夜。 それは暗くて冷たくて、音も声もしりぞく。鳥の群れが寝床の森へ帰るように、静かな寝息の気配だけがきこえる。 夜はぼくを緊張から解き放ち、微かな安寧を与えてくれた

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