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明治大正埋蔵本読渉記 https://ensourdine.hatenablog.jp/

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

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2022/01/13

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  • 『夜半の嵐』 泉清風

    1919年(大8)春江堂刊。泉清風(せいふう)は大正期に欧米から輸入された無声映画のノベライズ本の作者として活躍した。数年で20数点を出している。しかしノベライズ本の多くは、写し出された映像に従属して語りを加えるためか、普通の小説本や講談本に比べてどうしても浅薄な印象を免れない。 この小説は泉が書いたオリジナルの悲劇小説だというので読んでみたが、作品としての構成力が弱く、例えてみれば家屋を四隅の柱から建てたものの、その柱の間を壁が繋がらず、全体の筋立てが成り立たなかった。個々の人物の挿話(例えば碑文谷の踏切番の話など)は良く書けているのだが、全体の流れとしてはプロット集の下書きのような未完成品…

  • 『黒闇鬼』 丸亭素人・訳

    1891年(明24)今古堂刊。(こくあんき)原作者は明らかにされていないが、作風からするとボワゴベではないかと推察する。丸亭素人(まるてい・そじん)は黒岩涙香と肩を並べるほどの訳述者で、文体も似通っている。パリとその郊外の町を舞台に、田舎町に隠棲する高利貸の老人の殺害事件の捜査と美人で魅力的な寡婦との結婚を巡る男女の曲解やすれ違いを描いている。意外な言動に対する疑念や思い込みの応酬など、心の綾を描く割りには心理分析までの文学性はなく、あれこれと振り回される。当時のフランスの新聞連載小説(フイユトン)の特徴だと思う。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。表紙絵・挿絵作者は未詳。 挿絵は結…

  • 『獅子の牙』 水谷準

    1948年(昭23)八重垣書房刊。作者の水谷準の名前は戦後のフランス推理小説の文庫本で翻訳者として知られていた。作家でもあったが、長年「新青年」の編集長として活躍していたので、作家としての作品数は多くない。現在、国会図書館デジタル・コレクションに収容されているのは少年向けの冒険小説「獅子の牙」のみである。終戦直後の刊行で、横書きのタイトルも今風に左から右へと直っている。主人公兄弟の叔父がアフリカで殺害され、そこに遺したダイヤモンドの秘宝を探し出すべく暗号文が届けられる。そこで彼らは探検隊を仕立ててアフリカに赴く。同時代に爆発的に人気を博した絵物語作家山川惣治の作品を彷彿とさせる。挿絵の小松崎茂…

  • 『変装の怪人:怪奇小説』 鹿島桜巷

    1905年(明38)大学館刊。序文でドイツの小説からの翻案であると明言している。言文一致体への移行が盛んに行われていた時期ながら、旧来の文語体表記で書かれている。「~たり」「~けり」「~なり」など格調は高いけれども、鹿島桜巷(おうこう)の語り口は明快で、数年後の作品では現代口語の文体に切り替わっているが、どちらにしても読みやすい。夜行列車の車内で起きた強盗殺人事件。被害者は静岡県内の銀行員で大金を東京に運ぶ役目だった。県警のベテラン刑事が担当するが捜査は難航し、警部の若い息子が助力を申し出る。被害者の娘が誘拐される事件も起きて、息をつかせない筋立てに読者は引きずられる。後半は謎解きよりも追跡劇…

  • 『呪いの家』 松本泰

    1922年(大11)金剛社刊。松本泰秘密小説著作集第2編。ロンドンの古い趣のある一軒家に住むことになった日本人家族の物語。書き下ろしの出版と思われる。中間部にこの屋敷にまつわる恋愛がらみの別個の物語がまるで枠物語のように組み込まれている。筆者自身は6年ほど英国留学しており、作品でもロンドンの地理を細かく描いている。(一般の読者はそこまでロンドンの街路に詳しくない。)表題で「呪いの家」というほど家が怪奇でもなく、推理を働かせるほどの謎でもないが、恋愛感情の変化や推移の機微の描写に傾斜しがちで、謎解きが行き当たりばったりになるのは、刑事や探偵ではない人物を描いたためだろう。☆☆ 国会図書館デジタル…

  • 『英国孝子ジョージスミス之傳』 三遊亭円朝

    1885年(明18)速記法研究会刊、8分冊。 1991年(明24)上田屋刊。「黄金の罪」(こがねのつみ) 1927年(昭2)春陽堂刊、円朝全集巻の九。 明治中期になって、坪内逍遥の「当世書生気質」や円朝の速記本などによって言文一致体への動きとともに文学の充実が見えてくる。円朝に関しては、旧来の演目への妨害工作なども背景にあったらしいが、円朝自身、明治人としての進取の精神で、西洋物の翻案や着想を創作に近い形に展開させ得る話芸の力量があったのだと思う。これも序言にある通り英国小説の翻案であり、場所を東京に移し、人物名もスミスを清水に、ハミルトンを春見に、エドワードを江戸屋に読み替えている。一時「黄…

  • 『不思議』 三宅青軒

    1903年(明36)文泉堂刊。珍しい「われは」という一人称で京都在住の青年作家がミステリー仕立ての物語を語る。言文一致体の「だ」「である」を使っているが、語尾だけを漢文調から置き換えた感じで文体としてはどこか堅苦しさがある。東京にいる親友の法学士を久々に訪ねると傷害事件で収監されたという。さらに彼が獄中で自殺し、その遺骸は謎の人物が引き取って行方知らずとなった。しかたなく主人公は帰宅するが、その夜行列車の中で同室にいた旅客が殺害される。主人公にとって予想外の事件が畳みかけるように次々に起こり、不思議の念に囚われ続ける。作者三宅青軒の作品には当時のキリスト教会の礼拝や集会の記述が結構出てくるが、…

  • 『笠井松太郎:義勇仇討』 平林黒猿

    1911年(明44)松本金華堂刊。正続2巻。口演の平林黒猿(ひらばやし・こくえん)も明治後期に活躍した講談師の一人と思われるが、情報はほとんど出てこない。この作品も剣豪・仇討物の一つで、続篇に「仙台義勇の仇討」とあり、仙台城下にて仇討が遂げられたということで読んでみる気になった。主人公は武者修行で各地を転々とするが、土佐の高知で滞在していた屋敷の当主が闇討ちになり、その息子と一緒にその敵討ちの旅を続ける。各挿話が小気味良く語られ、面白く味読できた。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は長谷川小信。 dl.ndl.go.jp

  • 『横山花子』 渡辺黙禅

    1913年(大2)樋口隆文館刊。前後2巻。前に読んでいた「千里眼」の後日譚である。幼児だったヒロインの花子が花も恥じらう19歳の娘に成長している。母親譲りの美貌が災いして強欲な実業家一味に何度もかどわかされそうになる。結局彼女は、その身上の転変やら、女性の自立やら、自由恋愛やらのすべてに翻弄された一生だったと言える。千里眼のような透視能力者は、ちょうど明治末期に人々を驚かせる事象が続出して、大きな騒ぎとなったことが契機となったようだ。(下記※) 後日譚は従前の話に依存する事柄がどうしても多くなるし、懐旧談はパート2、パート3と続くと味わいは薄れてしまう。☆☆ ※本の万華鏡:第13回 千里眼事件…

  • 『地獄谷:探偵奇譚』 俊碩剣士(北島俊碩)

    1916年(大5)春江堂刊。大正期になると欧米から輸入された映画の中でも連続活劇物が人気を博した。各地で上映されると同時に新聞や雑誌、単行本でノベライズされた作品が大量に出回った。またそれに触発されるように日本を舞台とした探偵活劇、これは推理や謎解きではなく、犯人の追補劇となる探偵アクションの小説も多く書かれるようになった。この作品もその一つで、明治中期以降避暑地として開発が進んだ軽井沢から浅間山にかけて、独探(ドイツのスパイ)と探偵との一対一の追跡と死闘の物語であり、映画を見るような娯楽作であった。作中では1899年開業の軽井沢ホテルも出てくる。☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵…

  • 『ほととぎす』 規子

    1912年(明45)湯浅春江堂刊。もともと「不如帰」(ほととぎす)は徳富蘆花の小説で、1900年出版されると当時の大ベストセラーとなった。相思相愛の幸せな結婚をしながらも、頑固な姑や片恋慕の男の諌言、結核への羅患などで離婚を余儀なくされ、悲惨な中で死を迎えるというパターンの物語は、多くの模倣本に加え、モデル暴露本やら、後日談、果てはその馴れ初めまで遡る前日談と、多種多様の類書が続々と出版された。これもその一つだが、俳句雑誌の「ホトトギス」の指導者正岡子規を思わせる作者名規子(きし?)はここ以外には見当たらない。同時期に同じ版元から家庭小説を書いていた大平規(ただし)ではないかと思う。芸者の身上…

  • 『新奇談クラブ』 野村胡堂

    1932年(昭7)春陽堂刊。日本小説文庫216~218 所収(3分冊)。銭形平次の連作のみ有名な野村胡堂だが、その少し前に一連の「奇談クラブ」という中短編集を書いていた。あまり知られていないが、戦後「奇談クラブ」5篇と「新奇談クラブ」13篇をまとめて「奇談クラブ」として刊行されたことがある。奇談クラブとは「デカメロン」のように一堂に会したメンバーが交互に幻想怪異譚を語り合うオムニバス形式の短編集となっている。もともと「奇談クラブ」のほうが中篇集、「新奇談クラブ」のほうが短編集となっていたが、国会図書館デジタル・コレクションで読めたのは「新」の9篇と中篇の3作の計12点だった。いずれも荒唐無稽と…

  • 『千里眼』 渡辺黙禅

    1913年(大2)樋口隆文館刊。前後続の全3巻。明治改元直後2~3年の社会制度の定まらない混乱期における、新橋の美人花形芸者梅吉とその一子花子の波乱万丈の物語。タイトルの「千里眼」は花子に備わる透視能力のことを指すつもりだったが、この3巻ではまだ彼女が幼児なので、意味が合っていない。作者黙禅特有の壮大な構想による筋立てで、人身売買や海賊船の危難とそこからの救済とがジェットコースターのように連続する。明治政府の立役者である森有礼や江藤新平も登場し、廃刀令などの歴史的な事象に迫真感を与えている。「千里眼」の持ち主「横山花子」に関してはさらに2巻の後日譚が用意されている。☆☆☆☆ 国会図書館デジタル…

  • 『疑問の黒枠』 小酒井不木

    1927年(昭2)波屋書房刊。世界探偵文芸叢書第7篇。38歳で早逝した小酒井不木の代表作の一つ。彼自身医学者であり、その知識を反映させた探偵小説を精力的に書き始めて4年足らずで世を去った。「黒枠」とは新聞の死亡広告記事のことであり、悪戯で掲載された記事を逆手に取って、今で言う生前葬のような模擬葬式を実施する中で被害者が本当に死んでしまう。誰が、なぜ、どのように?を究明する本格探偵小説が始まる。情景描写は丁寧で、謎を追究するうちに次々に予想外の事件が起きるので探偵役も読者も振り回される。日本の本格推理小説の黎明期における秀作に数えてもいいと思う。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵…

  • 『実説古狸合戦:四国奇談』 神田伯龍

    1910年(明43)中川玉成堂刊。四国徳島に伝わる狸合戦の話を神田伯龍が講談の形で演じたものの筆記本である。江戸時代までは狐狸と人間との化かし合いなどが多く語られていたが、狸の二大勢力の合戦を擬人的に描写し、細かに記録した物は極めて珍しい。主人公の金長(きんちょう)狸は現在でも明神として祀られている。伯龍の語り口は聞いている分には丁寧だが、それを文章で読むにはやや回りくどい感じもする。☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は鈴木錦泉。(ARC浮世絵ポータルデータベース) dl.ndl.go.jp 実際には続篇が2冊「津田浦大決戦」と「日開野弔合戦」があって、伯龍の口演で刊行されており…

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