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明治大正埋蔵本読渉記 https://ensourdine.hatenablog.jp/

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

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2022/01/13

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  • 『催眠術』 大沢天仙

    1903年(明36)文禄堂刊。最近読んだ菊池幽芳の『新聞売子』も催眠術が物語の重要な要素となっていたが、日本には明治20年頃に紹介されていた。それを事件の犯罪の手段として用いたのが本作品である。催眠術にかけられた人間がその意識や記憶、思考までも変えられてしまう点で、事件の解決まで収拾がつかなさそうにも思える。天仙の文体は現代口語文に整っていて読みやすいが、読者への必要な説明なしに状況を飛ばしてしまう乱暴な悪癖がある。それは叙述の技法の一つかも知れないが、筋の飛躍について行く側の苦労も感じた。☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は鏑木清方。 dl.ndl.go.jp *関連記事: 『…

  • 『無惨』 黒岩涙香

    1890年(明23)鈴木金輔刊。黒岩涙香の数少ない創作小説の中篇。堀端に投げ込まれた無惨な他殺死体を二人の刑事が捜査する。一方は中年のベテラン刑事。もう一方は初手柄を期待される理論家の新米刑事。二人の間の競争心むき出しのやり取りは涙香物では見慣れた場面である。当時涙香は一年前から翻案物の著作を新聞に連載し、それを毎月1~2点刊行するほどの人気作家となっていた。もしこの創作推理小説が成功していたならば、その後彼の推理作家としての道が開けたかも知れない。しかし彼は語学力を駆使した比類のない翻案者であり、読者に読みやすい文章を届ける筆記者であり続けたのだと思う。そしてこの独自のスタイルこそが涙香を明…

  • 『新聞売子』 菊池幽芳

    1900年(明33)駸々堂刊。前後2巻。インド帰りの英国人技師と彼を恋い慕って密航してきたインド族長の娘、ヒロイン摩耶子の物語。原作者が明記されない英国の小説からの翻案だが、人物を和名に変えた以外はほぼ現地の地名で、風物・習慣の描写もそのままである。物語の鍵になるのが催眠術であり、その医学上の功罪を序文で深く言及している。文体はまだ漢文調だが、幽芳の魅力はその語り口の明白さと巧みさにある。箱入り娘同然の世事の経験に疎いヒロインが自らの機知や他者の善意で希望を切り開いていくストーリーは読書の楽しみでもあった。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は尾竹修明(国弌=くにいち)だが、洋風…

  • 『月に叢雲』 河原紅雨

    (つきにむらくも)1916年(大5)樋口隆文館刊。前後2巻。台湾から帰任したばかりの軍人の父親が謎の失踪を遂げる。さらに養育してくれた叔父夫婦が中国に移住したため、ヒロインの清江は身寄りもなく、鵠沼の寺に預けられる。と、ここまではよくある悲劇小説の設定なのだが、後半は一転してホームズ物「四つの署名」の翻案となって、二つの要素を混ぜ上げた作品になっている。ホームズ役の探偵は、堀村清六(ほりむら・せいろく)で何となくシャーロックに似ている。原作のインドの財宝は、台湾の富豪の宝玉に置き換えられたが、当時の台湾の現地事情を迫真な筆致で描いている。こうしたミックス作品に思いがけず出くわすと楽しい。☆☆☆…

  • 『豪傑児雷也』 神田伯龍

    1909年(明42)中川玉成堂刊。江戸時代の絵草紙や歌舞伎の錦絵で見知っていた妖術使いの主人公。実際どのような物語の持ち主なのかは知らないでいた。神田伯龍による講談筆記本。戦国時代の戦いで死んだ武将の遺児ではあるものの、御家再興の必命があるわけでもなく、信濃山中に山賊の首領として君臨するうちに仙人から妖術を伝授される。個々の挿話では遊郭がらみなど締りがなく、目的性やストーリー性は弱い。☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は鈴木錦泉。 dl.ndl.go.jp 歌川豊国による錦絵。 《万一役人に出会って八方より取り巻かれましても、愈々自分が危くなって召し捕われんと仕まっすると、直ぐに握…

  • 『死美人』 黒岩涙香

    1892年(明25)扶桑堂刊。フランスの作家ボワゴベ(Boisgobey) による『ルコック氏の晩年』(La Vieillesse de Monsieur Lecoq) を黒岩涙香が英訳本から重訳したもの。日本の読者向けに人名を日本人名に置き換えたり、事物を日本の習慣に直すなど、翻案に近い自由訳になっている。主人公のルコックについてはガボリオが創出した探偵で、その晩年期の人物像をボワゴベが借用してこの長編を書いた。涙香は零骨(れいこつ)先生と表記しているが、原作では Lecoq de Gentilly(ルコック・ドゥ・ジャンティ)それを⇒レコック・ド・ゼンチール⇒善池(よしいけ)などと苦心して…

  • 『恋の魔風』 水島尺草(もみぢ)

    1920年(大9)大川屋書店刊。この版元ではジャンル別に袖珍本を「○○文庫」と名付けて発刊していた。特に悲劇小説、女性路線については「柳文庫」と呼ばれていた。タイトルが「恋の魔風」という作品は当時少なくとも3点の同名異話のものがある。他に小杉天外の「魔風恋風」もある。作者の水島尺草は生没年不明だが、幸田露伴に師事した女流作家で、水島佐久良(さくら)という筆名でも活動していたようだ。明治の家父長制下においては特に女性の結婚問題について父親の同意が必要とされ、若い男女の好むがままの婚姻は容易ではなかった。また女性の社会的な門戸も限られた。少女小説のような悲哀の連続で、唯一の救いは生母の墓参のみとい…

  • 『新乳姉妹』 なにがし

    1909年(明42)明治堂刊。明治後期には「金色夜叉」「不如帰」などの爆発的な流行以来、いわゆる便乗本も数多く出版された。その多くは「続xx」「後のXX」という後日談を思わせるもの、あるいは「新xx」の設定が類似したところから別パターンの物語に発展させるなど、多様な作家たちの貴重な舞台でもあった。 作者名の「なにがし」については、本名、生没年などほとんど知られていない。「なにがし=何某」そのものが匿名性の呼称であるので、現在の覆面作家一人と同等に見なすしかなかった。「新乳姉妹」(しんちきょうだい)は菊池幽芳の当時の人気作「乳姉妹」の設定を模した作品で、軽くスイスイ読める文体である。訳あって一緒…

  • 『漫画坊っちゃん』 近藤浩一路

    1918年(大7)新潮社刊。夏目漱石の名作「坊っちゃん」の絵解きダイジェスト版である。半日で楽しく読み終えることができた。見開きの片側に漫画が必ず掲載され、本文の語り口もほとんど損なわれていない。画家の近藤浩一路(こういちろ)は当初読売新聞社に入社し、挿絵やイラストを担当したが、その後水墨画家に転じ、独自の境地を開いた。☆☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。 dl.ndl.go.jp

  • 『怨と情:悲劇小説』 山田松琴

    (うらみとなさけ)1920年(大9)樋口隆文館刊。前後2巻。「覆水盆に返らず」の例えの通り、一度破綻させた恋愛を「結局元の鞘に」と願っても容易に叶うものではないというドロドロの愛憎劇。 作者の山田松琴(しょうきん)は明治13年、名古屋生まれの女流作家・歌人であった。明治から大正期にかけて盛んだった女性の文芸投稿誌『女子文壇』にも看板作として小品が度々掲載されている。 富豪のドラ息子の甘い口説に乗せられその子を宿したヒロインは、家を追われ、子を奪われて、苦界を放浪する。対比的にその富豪の家のステータスのために迎えた華族令嬢は、実家の経済的な困窮を救うという名目で輿入れした別のヒロインとして冷えき…

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