皇帝ドミティアヌスによる布告/ローヌ川ワインと歴史紀行#20
しかし、こうして形成されつつあった属州内の自立的なワイン経済圏は、帝国中枢。とくにローマ本国の大土地所有層や元老院階級にとって、必ずしも歓迎すべき変化ではなかった。 とくにガリアにおける地元生産・地元流通の動きは、ローマ帝国本土の農業経済と市場を直接的に脅かす兆候をはらんでいた。属州の農民たちがワインを独自に生産し、地元都市で消費し始めたことで、ローマ本国からの輸出需要が縮小し、収益構造に歪みが生じたのである。 この動向に対して、明確な制度的対応を取ったのが、皇帝ドミティアヌス(Domitianus)による紀元92年の布告である。この布告は、帝国全体において属州での新たなブドウ園の開
2025/06/29 12:19