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sonicstepsのブログ https://sonicsteps.hatenablog.com/

トットちゃんにもエジソンにもなれない無名の発達障害当事者による告白。辛いけど滑稽で、ときには救いもあったりする個人史を、建前論で飾ることなく打ち明けてゆきます。

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2020/09/22

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  • ADHDとして生きるということ⑰ 最終回・再出発に向けて

    心療内科のアドバイスに従い、僕は自宅療養でうつ病と向き合うことを決心した。 休職初日は七時前に目が醒めた。 昨日までなら、とっくに職場で仕事の準備にかかっている時刻だった。本来の始業時刻の2時間だ。暖房もかかっていない社内はひどく寒い。それでも無償奉仕の早朝出勤者たちはジャンバーを羽織り、白い息を吐きながらデスクに向かっている。さしずめ、いまごろはみんなコンビニのサンドイッチでも頬張りながら、起動中のパソコン画面を眺めていることだろう。そんな様子が、ぼんやりと天井を眺めているうちに浮かんでくる。睡眠薬の効き過ぎなのか、それとも抗うつ剤の副作用なのか、眠気がひどくてトイレにも立てない。僕はもう一…

  • ADHDとして生きるということ⑰ 再出発に向けて 心療内科のアドバイスに従い、僕は自宅療養でうつ病と向き合うことを決心した。 休職初日は七時前に目が醒めた。 昨日までなら、とっくに職場で仕事の準備にかかっている時刻だった。本来の始業時刻の2時間前だ。暖房もかかっていない社内はひどく寒い。それでも無償奉仕の早朝出勤者たちはジャンバーを羽織り、白い息を吐きながらデスクに向かっている。さしずめ、いまごろはみんなコンビニのサンドイッチでも頬張りながら、起動中のパソコン画面を眺めていることだろう。そんな様子が、ぼんやりと天井を眺めているうちに浮かんでくる。睡眠薬の効き過ぎなのか、それとも抗うつ剤の副作用…

  • ADHDとして生きるということ⑰ 急浮上、そして転落 時はさらに過ぎ、僕はいつのまにか中堅社員になっていた。 同期の大半は管理職に出世していた。役員クラスを狙って動きだす者も少なくない。いまだ平社員の僕から見れば、すべてが遠い世界の出来事だった。 とりわけ辛かったのは名刺交換だった。白髪も増え、下腹も目立ちはじめた中年男から、何の肩書も付いていない名刺を渡された相手はどう思うだろう。考えるだけでも逃げ出したくなってくる。 このままではいけない。遅すぎるかもしれないが、まだやれるだけのことはやってみよう。前回でも少し触れたが、そんな風に思えるようになったきっかけは人事異動だった。 端的にいえば、…

  • ADHDとして生きるということ⑮ 心理療法と精神医療 精神的な失調を自覚するようになって以来、僕は心理学やセルフカウンセリングなどの書籍を読み漁るようになった。 特に惹きつけられたのは、アートセラピーや音楽療法、演劇療法やグループカウンセリングなど、様々な心理療法の技法だった。当時の多くの人々がそうであったように、僕も心療内科や精神病院に通うのは抵抗感があり、薬物治療も怖かった。(この頃の薬は副作用がシャレにならないほどひどかった)だが、アートや演劇を用いるのなら安心だし、むしろ楽しそうだ。本に書かれたロジックにも説得力があった。これは間違いなく効果がある……そう確信した僕は、さらに多くの本や…

  • ADHDとして生きるということ⑭ 二次障害の併発 入社して何年も経つと、大卒の同期のなかには職制へ昇格する者も出始めた。落ちこぼれの僕には縁のない話だ。高卒の先輩の中には「そのうちお前もどんどん偉くなって、俺たちを顎で使うようになるんだろうな」などと冷やかす人もいたが、むろん本気でそんなことを懸念している者はいない。僕自身、いまの実力では昇格など絶対あり得ないと自覚していた。それよりも心配していたのはブルーカラーへの左遷だ。 周囲にはそんな人が何人もいた。みな何かしらの失点をやらかした者ばかりだった。就業規則を犯した者、同業他社に大手取引を奪われた者、顧客からのクレームが絶えない者。なかには取…

  • ADHDとして生きるということ⑬ 出世コースから外れて 結局、転職は叶わなかった。退路などないことを悟った僕は、つらさに耐えながらも現職にしがみつく道を選んだ。 だが、いくら努力してもミスは減らない。仕事は遅い。要領も悪いのも相変わらずだ。そのたびにたくさんの人に迷惑をかけるし、怒られる。だから人間関係には人一倍気をつけなければならなかったのだが、そちらも修復不可能なほどこじれていたのだから最悪だ。原因をひとことで言えば、企業人たる僕の基本態度がなっていなかった。 よく専門家は「ADHDはアスペルガーに比べて人間関係の問題は少ない」と説明する。たしかに僕には「人の表情が読めない」とか「曖昧な表…

  • ADHDとして生きるということ⑫ 正式配属 あっという間に研修の日々が終わった。確かめた訳ではないが、僕の評価は同期で最下位だったと思う。最悪の場合、試用期間後に会社から追い出されることまで覚悟していたが、さすがにそれは杞憂に終わり、本社営業部への正式配属を告げられた。 直属上司の付き添いで、営業部のあるフロアへと向かう。足を踏み入れたとたんに、そのあまりの広さに圧倒された。通路の両脇に広がる空間にはびっしりと机が並べられ、部署を示すプレートが下げられている。その隙間を行き交う社員と顧客、鳴り続ける電話と随所のざわめき……研修先の営業所とはまるで違う雰囲気に、思わず足がすくむ思いがした。 所属…

  • ADHDとして生きるということ⑪ 新人研修 バブルの真っ盛りだった80年代後半の4月、大手企業に就職した僕は、社会人としての第一歩を踏み出した。 入社時に着ていた背広はオーダーメイドの三つ揃えだった。服に無頓着な僕を心配した親が、お金を振り込んでくれた上に、「そんなにすごい会社に入るんだから、オーダーメイドじゃないと笑われるよ」と念を押したためだった。結論から言えば、この両親のアドバイスはとんだ勘違いとなってしまう。むしろ僕は、仕事もできないのにそんなものを着て「笑われてしまう」のだが、この時点ではまだ知る由もない。 その後30年にも及ぶ社会人生活の中で、僕は笑われるだけではなく嫌われ続けた…

  • ADHDとして生きるということ⑩ 大学、そして就職 大学への進学が決まった僕は、親元を離れてひとり暮らしをすることになった。 念願の東京暮らしと言いたいところだが、大学があるのは都と隣接する某県の某市だった。まあ、電車のふた駅先は東京都という立地ではあるから、感覚的にはほとんど「上京」と変わりはない。何より嬉しかったのは、私鉄を途中下車して地下鉄の千代田線に乗り換えると、お茶の水へ簡単に行けることだった。美大の夏期講習の終了後、手荷物をいくつも下げて散策した神保町交差点の界隈は、それ以来、東京で最も好きな場所となっていた。立ち寄るだけでアカデミックな気分になれる神田古本街やマニアックな大型書店…

  • ADHDとして生きるということ⑨ 大学受験 高校を卒業したら、東京の美術大学へ進みたい。 日曜日の午後、僕は自分の意向を思い切って両親へ伝えた。緊張する胸中とは正反対の、無感情でそっけない口ぶりを装った。頭の中では、取り付く島もないほど反対される場面しか浮かんでこない。まあ、子どもが「美大へ行きたい」などと口走れば、どんな家庭でも一度は親子喧嘩が勃発するのが相場だろう。何より美大は倍率が高い。学費だって桁外れだ。それに、運よく受験に受かったところで、卒業後にその道で食べてゆける保証もない—— だが、両親はまったく違う反応をみせた。 父親はしばらく考えたあとで、ゆっくりと頷いてくれた。なんだか「…

  • ADHDとして生きるということ⑧ 高校(後編) 高校2年生ともなると、誰もが将来の進路で悩むようになる。僕もそろそろ受験を考えなければならなくなったが、「東京へ行きたい」という漠然とした思いしか浮かんでこない。将来に備えて何かを身につけようとか、じっくり専攻科目に取り組みたいとか、そんな意識は皆無だった。まわりの連中も似たり寄ったりで、受験のことなど休み時間の話題にものぼらない。のどかなものだ。 僕の通っていたのはまだ新設の進学校で、開校以来、東大はもとより早慶の合格者もまったくなし。ほんの一部が辛うじてMARCHにもぐり込めるというお粗末なレベルだった。(その後、同じクラスだった秀才が初めて…

  • ADHDとして生きるということ⑦ 高校(中編) 前後して申し訳ないが、時計の針を高校入学の頃に戻させていただく。 中学時代の地道な筋トレが功を奏し、僅かながらも運動能力の向上に成功した僕は、高校へ上がると弓道部へ入部した。もちろん、これまでのスポーツに対するコンプレックスを払拭するためだ。種目に弓道を選んだ理由はふたつある。ひとつは根っからの軍事オタクであり、弓矢やゴム鉄砲からゲーセンの機関銃まで、あらゆる飛び道具が大好きだったこと。もうひとつは、何となく運動神経のない者でもこなせそうなスポーツに思えたことだった。 その年、弓道部に入部した男子は、僕を含めて三人いた。ひとりは高価なモデルガンや…

  • ADHDとして生きるということ⑥・高校(前編) ——高校へ行ったら、自分はきっと生まれ変わってみせる—— 中三までの惨めな日々との決別を誓って、僕は共学の県立高校へ進学した。ここで人生を変えられなかったら、きっと死ぬまで後悔することになる……何とも青臭い思い込みだが、当時は真剣だった。 同級生のなかには同じ中学から進んだ顔ぶれも混じっていた。性格の悪い奴でもいたら嫌だったが、男子に限ってみれば、僕と不仲だったような者はほとんどおらず、とりあえずは安心した。 だが、問題なのは女子の方だ。 決して大人数ではないが、中学時代にとりわけ僕を忌み嫌っていた女子数名が、いくつかのクラスに点在している。お…

  • ADHDとして生きるということ⑤・中学(後編) 中学に上がると、僕にもそれなりに友だちができるようになった。漫画やプラモデルに出会ったことで、何かに打ち込む喜びも覚えた。だが、クラスの女子との軋轢はますます悪化の一途を辿り、何をやっても嫌われ続けることになる。 初めて異変に気づいたのは、夏休みが過ぎ、二学期も中盤に差し掛かった頃だった。 彼女らに直接何かを言われた訳ではない。ただ、いくつかのグループが、僕が近づくだけで妙な反応をする。全員がさっと顔をそむけたり、口元をおさえて薄笑いを浮かべたりしながら、露骨にこちらから去ってゆくのだ。もちろん何も話しかけてくれない。こちらが話そうとしても何も答…

  • ADHDとして生きるということ④・中学(前編) 小学校の高学年になると、僕は群馬大学付属中学校の受験を目指して猛勉強を強いられた。平日はもとより、日曜祭日も母親が付き添い、朝から晩まで机に縛りつけられる。子どもらしい娯楽は取り上げられた。楽しいはずのゴールデンウィークや夏休みも犠牲になった。おかげでクラスメートのテレビの話題にもついて行けなかったことは、すでに書いたとおりだ。 だが、それでも僕は受験に失敗した。 この群馬大学付属中学校というのは県下唯一の国立中学で、入学試験を突破するのは難関だ。それだけに、ここへ入れば名門高校への進学の可能性も高くなる。平たく言えば前橋市で最も頭のいい子どもが…

  • ADHDとして生きるということ③・思春期 あまたの例外はあるものの、発達障害のある人たちの中には、極端に異性にモテないケースがあるように思う。 理由はいくつも考えられる。まず、発達障害の多くはいわゆるオタクだ。趣味はたいていマニアックだから、話題を共有できる相手は限られている。だから、まれに似たようなマニアの異性に出会うと目の色を変える訳だが、現実は厳しい。アスペルガーであれば他者の気持ちを読み取るのが難しいし、ADHDは平気で恋人の誕生日を忘れてしまう。おまけに会話はすべて直球ストレートであり、恋愛には必須となる心の駆け引きが難しい……とは、ネットでみられる専門家たちの指摘だ。 それにもうひ…

  • ADHDとして生きるということ②・両親との関係 両親のことを書く前に、小学生の頃の成績にも触れておく。 ADHDの大きな特性として、好きなことには尋常ならざる集中力を発揮するが、嫌いなことには見向きもしないというのがある。こと勉強に関しては、これは僕にも当てははまることだった。 といっても、成績が本当に「ずば抜けてた」といえるのは、理科の一科目のみ。これはやはり父親が医者だった影響が大きいと思う。子ども向けに書かれた「人体のしくみ」みたいな図鑑を読むのは大好きだったし、生き物の生態にも興味を持った。昆虫の飼育もよくやったが、死ぬと標本にしたり、ときには解剖して体内の構造を調べたりもした。(当時…

  • ADHDとして生きるということ①・学童期 「発達障害は『障害』ではなく『個性』なのです……」 似たようなフレーズを飽きるほど聞かされた。ネット情報やTVの特集、おびただしい書籍の数々など、発達障害を題材としたコンテンツには必ず添えられている慣用句だ。 これから述べてゆくように、私は発達障害のおかげで人生をぶち壊された。その忌まわしき足枷を、彼らはなぜ「障害」と呼ぼうとしないのか。おそらくは、歴史に名を遺すような著名人のなかには、発達障害とおぼしきエピソードを持つ人が少なくないことが大きな理由だろう。たとえば世代を超えて尊敬を集める政治家や企業家、アスリート、芸術家、ミュージシャンやTVタレント…

  • イントロダクション いまから87年前のこと。 東京・乃木坂の裕福な家庭に、ひとりの女の子が生まれた。 彼女は幼少の頃から変わっていた。入学先の小学校では教室でおとなしくしていることができず、毎日のように迷惑行為を繰り返した。机のふたをやかましく開閉したり、窓辺に通りかかったちんどん屋を呼び寄せたりと、さまざまな奇行に及んでは授業をぶち壊す。激怒した教師たちは彼女を「問題児」とみなし、ついに退学処分を言い渡した。 小学校にも通えないようなクズに対して、世間は冷たい。普通に考えれば、彼女の人生はこの時点で「落伍者」として決定づけられていたことだろう。どこへ行っても軽蔑され、社会へ出てもまともな職に…

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