新型コロナウイルス感染症の流行は病院機能にも大きな影響を与えましたが、外科医にとっては必要な手術を延期せざるを得なかった点は大きな問題でした。延期した理由としては、術前、あるいは術後にSARS-CoV-2の感染が明らかになった場合の転帰がわからないという点がありました。このような疑問に答えるような研究がLancet誌に掲載されました。この論文は24か国の235病院で1月1日から3月31日までに手術を受けた患者で、術前7日~術後30日にSARS-CoV-2感染症の診断を受けた手術患者の予後を調べたものです。基本的に前向きに患者を登録していますが、すべての基準適格患者を同定できる場合は後ろ向きの組み入れも許可しています。Primaryoutcomeは術後30日以内の死亡(30-daymortality)、secon...新型コロナウイルス感染患者に対する手術の転帰
新型コロナウイルス感染症の大きな謎の一つは多くの患者では無症状、あるいは軽い症状で治癒するにもかかわらず、一部患者では重症な肺炎を発症し、場合によっては致死的になることです。感染重症化のメカニズムおよびその対処法が明らかになれば、ウイルスの怖さも少し緩和されると思います。Wölfelらは9名のCOVID-19入院患者から得られたウイルスゲノムを詳細に解析することによって、ウイルスが感染初期に咽頭で活発に複製することを明らかにしています(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x#citeas)。1例の肺炎症例では肺とは全く独立して咽頭で複製していました(2つに異なった変異が見られた)。またウイルスのsubgenomicmRNAsを調べることで、活性のあるウ...新型コロナウイルスは鼻腔から感染する
ようやく東京でも緊急事態宣言が解除され、これから少しずつ町も落ち着きを取り戻していくのかな、という感じですが、今後のことを考えれば、有効な治療薬やワクチンの開発、より感度・特異度の高い抗原・抗体検査の開発、感染者や濃厚接触者の早期検出ツールの開発など、喉元をすぎないうちに取り組まないといけないことはたくさん有ります。今のところ正式にCOVID-19治療薬として認められているのは欧米でも日本でもremdesivirのみで、認可の決め手になった臨床試験の結果が先日NEJMに掲載されました。その直前に中国から「Remdesivirの有効性示せず!」という衝撃的な論文が出たタイミングでしたので、臨床試験で有効性が示せたと言う発表に対しても少し懐疑的になってしまった面はあります。今回の論文も鵜の目鷹の目で読んでみましたが...Remdesivirに関する論文まとめ
COVID-19が猖獗を極めたNewYorkからの詳細な臨床報告。ColumbiaUniversityIrvingMedicalCenterと提携する2つの病院。700床の救急病院MilsteinHospitalと230床の市中病院AllenHospitalに入院した重症呼吸不全患者の経過と院内死亡のリスク因子を検討しています。元々MilsteinHospitalには117床、AllenHospitalには12床のICU病床があったのですが、研究期間中に258床、24床に増床されました。3月2日から4月1日までに入院した1150名のCOVID-19確定患者のうち重症な呼吸不全を示したのが257人(22%)でした。HispanicorLatinoが159人(62%)、BlackorAfricanAmericanが...NewYorkCityからの報告
いい加減自粛にもコロナ論文を読むのにも飽きてきたので、今後どうしたらお気楽な生活が送れるかを色々と模索しているのですが、集団免疫は当分期待できそうにないし、ワクチンは当分先だし、と考えると、①どうすれば発症者を早期に捕捉・隔離できるか?②どうすれば不顕性感染者を同定できるか?という点に尽きるような気がしてきました。①は要はクラスター対策ですので、発症した段階からさかのぼって濃厚接触者の同定ができるかです。西浦先生たちにずっと頑張ってコロナ探偵をしてもらう訳にもいかないので、アプリ開発なりGPSを使うなりが良いのでは、と素人的には思うのですが、個人情報的な問題を指摘されるとシュンとしちゃいます。②については全員にPCRやる訳にもいかないので、不顕性感染者が増えたと思われた段階で「stayhome再開!」ということ...不顕性感染患者を推定したいっ!
上海のCOVID-19コホートの詳細な解析です。326名から臨床・疫学データを取得し、重症度に応じてasymptomatic(n=5,発熱、呼吸症状、画像所見ともなし),mild(n=293,発熱および肺炎の画像所見あり),severe(n=12,呼吸苦、24-48時間以内の肺炎像増悪あり),critical(n=16,ARDSのため補助換気必要)グループに分類しています。112例についてはシーケンスデータを解析し、9種類のproteincodingregionsにおいて66のsynonymousmutation(アミノ酸置換なし)と103のnonsynonymousmutation(アミノ酸置換あり)を見出しています。ゲノム情報から、ウイルスは大きくcladeI,cladeIIの2グループに分類されることがわ...上海のコホートデータ
新型コロナウイルスも全国の新規感染者が20人を割りそうで、東京は数日前から一桁が続いています。この感染症のやっかいな特徴は無症状・未発症の感染者(不顕性感染者)がウイルスを排出して感染を広げてしまう点ですが、自宅待機期間が長かったことを考えると、おそらく感染を広げる可能性のある不顕性感染者数もかなり減っていると考えられます(だからこそ発症者が減っているのですから)。根拠はありませんが、多めに見積もって新規感染者の100倍程度不顕性感染者がいるとしても、全国で2000人前後、東京でせいぜい500人くらい(そんなにいないと思いますが)。つまり東京(人口1300万人)だと2万人に1人以下程度でしょう。未だにPCR検査を増やせと主張する方もいるようですが、症状のある方にはほぼ検査できている現状を考えると、検査増の目的は...緊急事態宣言解除に向けて思うこと
COVID-19が猛威をふるったNewYorkにおいて医療機関は甚大な影響を受けました。PPEや人工呼吸器、ICU病床などが圧倒的に不足する中で、ColumbiaUniversityIrvingMedicalCenterでは手術を90%削減し、手術室をICUとして運用することによってICU病床を2倍に増加させました。手術についてはトリアージが行われましたが、その際の基準として、①患者に危害を与えずに手術をどれだけ遅らせることができるかで:24時間以内(緊急)、1~2日以内(緊急)、3~7日以内(準緊急)に分類②人員(外科医、麻酔科医、看護師)、技術(人工呼吸器、透析装置)、消耗品(PPE、血液製剤)、術後リソース(ICUベッド)について、リソース強度分類(resource-intensityclassifica...パンデミック時の手術のトリアージ
留学時代からの友人でHamburg大学OsteologyandBiomechanicsのチーフを務めているMichaelAmlingは、ことあるごとに「ドイツの病理解剖システムはすごいんだぞ!」と自慢するのですが(とにかく剖検率が高いそうです)、このような論文を読むと本当にそうだなと感動してしまいます。ドイツから発表されたこの研究において、著者らはCOVID-19で亡くなった方7名の肺の病理像を調べているのですが、比較対象が実に2009年のインフルエンザH1N1pandemic時に亡くなった患者さんの肺(および正常肺)です。年齢や性別、重症度などを合わせた標本で様々な解析を行っています。インフルエンザ肺とCOVID-19肺においてびまん性の肺胞障害、肺胞内のフィブリン蓄積などは共通して認められました。またACE...COVID-19肺における血管新生亢進
チフスのメアリー(TyphoidMary)の名で知られるMaryMallon(1869年9月23日-1938年11月11日)は、NewYorkの様々な場所でチフスのアウトブレークの元凶になったということで最後は強制的に隔離されてNewYorkの離島NorthBrotherIslandの隔離病院で亡くなったのですが、「健康保菌者」そして「スーパースプレッダー」の存在を世に知らしめるきっかけになったことで有名です。彼女自身は全く無症状だったのですが、チフス菌の排菌を続けて周囲に感染を広げたといわれています(死後解剖で胆嚢に腸チフス菌の感染巣があったことが確認されています)。今回の新型コロナウイルス感染症についても、流行当初から一部の患者がスーパースプレッダーとなってクラスターの形成に関与したのではないか、と想像され...スーパースプレッダーの存在
本日(5月21日)関西における緊急事態宣言が全て解除されました。東京など関東でも新規患者はかなり減少しているので、5月31日の期限を待たずに解除される可能性が高いと思います。緊急事態宣言が7都府県に出たのが4月7日、全国に拡大したのが4月17日ですが、東京都の新規感染者の動向を見ると、最も多かったのが4月17日の204人でその後は多少の凸凹はありながら少なくなっていることがわかります。全国で見ると最多だったのが4月11日の720人でその後やはり凸凹しながら減少傾向となっています。一方で1日あたりの死者が最大だったのは5月2日の31人で、その後徐々に減少という傾向ですので、約3週間のずれがあり、重症な方が発症してから亡くなるまでが2-3週と言われているので、ちょうどそのあたりにピークが来ている感じです。私は元々緊...SARS-CoV-2の予防には「社会免疫」の維持が重要
人工関節置換術は整形外科分野では最も安定した成績が期待できる手術の一つですが、人工関節の感染は極力避けたい合併症です。特に手術から何年もたって生じる遅発性感染は難治なことも多く、治療に時間がかかり、患者さんにも医療側にも大きな負担となります。現在の遅発性感染治療のゴールドスタンダードは二期的置換です。これはまず人工関節を抜去して徹底的に洗浄・デブリードマンを行った後に抗菌薬入り骨セメントを関節に留置し、感染が収まった段階で再置換を行うことが多いです。抗菌薬入りセメントは大きく分けるとarticulatingspacer,staticspacer,の2種類あります。前者は関節の可動性をある程度保ちながら再置換を待つタイプ、前者は関節の動きを制限するタイプです。この論文ではRCTでこの2種類の成績を比較しました。人...人工関節遅発感染に対する二期的置換術
小学校の時の給食で、牛乳が苦手で少しずつしか飲めない生徒を笑かして、せっかく飲んだ牛乳をマーライオンのように噴き出させていたのは私です。牛乳が体に良いのはギュウギュウでコロナウイルスがうつるくらい常識で、改めて言うまでもないことかと思っていました。そんな私のような方々は是非このreviewを読んでください。1)牛乳の消費やカルシウム摂取が多い国の方が大腿骨近位部骨折が多い(毎日の消費が少ない方が骨折が少ない)。2)男性では青年期の牛乳摂取が1日あたりグラス1杯増えると将来的に大腿骨近位部骨折のリスクが9%アップする(身長が高くなるからかもしれない)。3)低脂肪乳(lowfatmilk)を飲む量はBMI増加と正の相関あり。通常の牛乳(fullfatmilk)とは相関なし。4)国際的な比較で毎日の牛乳消費量は乳癌や...牛乳が嫌いな人に朗報?
個人的にはワクチンの最有力は不活化ワクチンではないかと思っているのですが、この論文は患者から単離したSARS-CoV-2の中でCN2という株を用いて不活化ワクチン(PiCoVacc)を作成したというものです。マウスおよびラットにアジュバントとともに投与したところ、投与1週間目から効率よくIgG抗体の誘導が見られました。都合よいことに、Sタンパクのreceptorbindingdomainが最も強いimmunogenになっているようで、これはCN2を単離した患者の血清と一致しており、誘導できたIgGは患者の10倍でした。興味深いことに感染予防効果がないNタンパクに対する抗体は1/30程度しか誘導されませんでした。別の株であるCN1に対する中和抗体活性を経時的に見たところ、抗体は1週目から見られ、2週目にブースター...SARS-CoV-2に対する不活化ワクチン
COVID-19の津波はヨーロッパではひとまずの山場を越えて今後の第2波、第3波に向けてデータの検証が行われています。フランスにおけるCOVID-19のこれまでのまとめのような論文が発表されました。5月7日時点で95,210人が入院し、16,386人が亡くなりました。平均年齢は68歳で死亡した方の平均は79歳でした。70歳超の入院が50%で死亡の81.6%がこの年代から発生しています。また入院患者の56.2%、死亡の60.3%が男性です。軽症例を含めた感染者の実数はわかりませんが、全例が検査されたDiamondPrincess号のデータをフランスの病院における積極的サーベイランスと組み合わせてモデルを作成して感染患者数などを算出した結果、①感染者の3.6%(95%CI;2.1-5.6)が入院になりました。最も低...フランスにおけるCOVID-19のまとめ
新型コロナウイルスの収束のためには最終的には集団免疫の獲得が必要で、それにはワクチン開発が重要であるとされています。しかしワクチン開発には時間がかかり、ワクチン投与によって必要な免疫能が獲得できるか不確定な面もあります。そのような中でウイルスに対する抗体製剤が治療薬としては有望と考えられております。Crudeな形では、例えば回復期感染患者から得られた血清に治療効果があるという報告も多数出されています(例えばShenetal.,JAMA.2020Mar27.doi:10.1001/jama.2020.4783)。この論文は新型コロナウイルスの受容体ACE2への結合を抑制する抗体開発についての研究です。SARS-CoV-2SタンパクのACE2bindingdomain(RBD)をbaitにしてCOVID-19患者末...SARS-CoV-2抗体製剤の開発
COVID-19の蔓延は病院の様々な機能に影響を与えていますが、手術に与えた影響も並々ならないものがあります。整形外科の予定手術は「不要」ではないにしても「不急」のものがほとんどであるため、当院でも整形外科手術は半分近くに絞るという状況が続いていました。もちろんいつまでもそのような状態を続けるわけにはいかないので、徐々にペースを戻していこうとしていますが、どのような手術をいつからどの程度、という判断には難しいものがあります。欧米ではロックダウン中は完全に予定手術を中止していた病院も少なくなく、手術再開の時期・方法は大きな課題になっています。UniversityCollegeLondonHospitalsのSamOussedikらによるこの論文は、予定手術再開にあたっての条件や注意点を論じていますが、論文中で例と...整形外科手術再開をめぐる話題
新型コロナウイルスが多くの人に恐怖を植え付けている理由の一つは、それまで全く何の異常もなかった人が感染をきっかけに急速に状態が悪化し、場合によっては亡くなってしまうという事例が少なくないからです。その一方で日常的にウイルスに曝露している医療従事者の中には大したprotectionもなしに作業をしていても全く感染しない(あるいは症状を出さない)人もいます。このような事実の背景にあるメカニズムが明らかになれば何らかの治療法や予防法につながる可能性があります。Rockefeller大学のJean-LaurentCasanovaとNIAID/NIHのHelenC.Suがco-leaderになって進められているCOVIDHumanGeneticEffortのプロジェクトは、このような疾患感受性の違いが遺伝子レベルの差異に...COVIDHumanGeneticEffort
BCGワクチンが新型コロナウイルス感染を防止するのではないか、という話が以前からネットを賑わせており、慌てて投与するというような方もいて、小児に必要な分が確保できないという問題にもなっておりました。今回イスラエルからBCGワクチンの投与・非投与で感染率を比較したという報告が出ました。イスラエルでは1955年から1982年までの間nationalimmunizationprogramでBCGワクチンもルーチンで投与されていたようで、カバー率は90%だったそうですが、1982年以降は移民のみの投与になっていたそうです。ということでPCR検査を行った集団から1979年から1981年に生まれた人(39-41歳BCGplus)と1983年から1985年に生まれた人(35-37歳BCGminus)の2群を抽出して比較するこ...BCGはCOVID-19に・・・
Romosozumabは大腿骨近位部骨折後の骨癒合・機能回復に影響しない
m3にこの論文に関する記事が出ていて、はじめは「股関節骨折へのロモゾズマブ、プラセボと有意差見られず」というようなタイトルだったので、ヽ(*゚O゚)ノビックリ!と思って論文を読むと全然違う内容でまたまたヽ(*゚O゚)ノビックリ!でした(m3のタイトルはのちに「股関節骨折の術後、ロモソズマブで改善見られず」に変更になりました)。大腿骨近位部骨折に対して観血的整復内固定術を受けた(ということはおそらく大腿骨転子部骨折がほとんど)患者332人を4群に分け、プラセボ(89人)、romosozumab70mg/month(60人),140mg/month(93人),210mg/month(90人)の投与を行って、その後の骨癒合、TUG(timed“Up&Go”)スコアなどの経過を見たという研究です。術後6週から20週...Romosozumabは大腿骨近位部骨折後の骨癒合・機能回復に影響しない
今回の新型コロナウイルスは中国の研究室からの流出だというトランプ大統領の非難や、いやアメリカがオリジンだというような中国の応酬があったりして、ついには中国のコロナウイルス研究の第一人者とともに15年にわたってコロナウイルス研究を行ってきたグループEcoHealthAllianceへのNIHグラントがいきなり打ち切られてしまうという事態に至った、という流れは本当にバカげたことです。しかし政治が科学を利用するというのは昔からしばしば見られたことです。スターリン時代の旧ソ連において、科学者で農学者でもあったトロフィム・デニソヴィチ・ルイセンコは低温処理によって春まき小麦が秋まきに、秋まき小麦が春まきに変わり、その形質が次世代にも継承されるという実験結果(おそらく捏造)を根拠に、「獲得形質は遺伝する」という学説(いわゆ...コロナウイルス研究者へのNIHグラント打ち切りに思う
スマートフォンアプリ(Science.2020May5.pii:eabc0473.doi:10.1126/science.abc0473)に様々なCOVID-19関連症状を登録した2,618,862名(イギリス2,450,569人、アメリカ168,293人)のうち、イギリスでは15,638人、アメリカでは2,763人がSARS-CoV-2のRT-PCR検査を受けました。イギリスでは6,452人が陽性でしたが、そのうち、味覚・嗅覚の障害をうったえていたヒトはPCR陽性者で64.76%であり、陰性者の22.68%より有意に高いという結果でした(年齢、性、BMIを調整したoddsratio,OR=6.40;95%CI=5.96–6.87;P<0.0001)。またこの結果はアメリカのコホートでも再現されました(OR=1...COVID-19の味覚・嗅覚障害
新型コロナウイルスのオリジンはコウモリ&マレーセンザンコウか?
SARS-CoV-2のoriginはコウモリのコロナウイルスで、それがマレーセンザンコウ(Malayanpangolin)のコロナウイルスPangolin-CoVのSpikeprotein配列(SARS-CoV-2とほぼ一致)を獲得して現在の形になったのではないかという内容です。センザンコウは8種すべての国際商業取引が厳しく禁止されているにもかかわらず、ウロコは中国伝統医学で母乳の出を良くしたり関節炎の症状緩和を目的として広く使用されているため、大量に密輸・違法売買されているそうです。今後のパンデミック予防のためにもこのような密輸は厳格に禁止すべきと述べています。ある意味今回のパンデミックも人災と言えるかもしれません。 IsolationofSARS-CoV-2-relatedcoronavirusfromMa...新型コロナウイルスのオリジンはコウモリ&マレーセンザンコウか?
HIV感染症に対する薬物療法を見ると、現在の抗HIV剤の多剤併用療法(combinedantiretroviraltherapy,ART)にたどり着くまで様々な試行錯誤を繰り返してきました。現在SARD-CoV-2感染症に対して広く基本治療として用いられているカレトラ®はlopinavir–ritonavirの合剤ですが、lopinavirもritonavirもプロテアーゼ阻害薬です。残念ながらランダム化対照オープンラベル試験の結果、有効性は示されませんでしたが、機序の異なる薬剤との併用療法が有用である可能性は十分に考えられます。この香港からの論文はlopinavir–ritonavir単独療法を、ribavirin(C型肝炎に対する抗ウイルス薬)およびinterferonbeta-1bとの併用療法を比較したラ...併用療法はよさそうです
医療費の高騰は世界的な問題になっています。特にペースメーカーなどの高額なデバイスについては医療費を押し上げる原因になっています。整形外科領域では脊椎インストルメンテーションや人工関節などがこれに当てはまります。また発展途上国では高額な医療デバイスが使えないために、必要な患者に適切な治療ができないという状況が生じています。このような中で、リユース品が注目されるというのは当然の流れだと思います。このカナダから出た論文は、心臓ペースメーカーや埋め込み型除細動器について、再滅菌したリユース品と新品で感染率などを比較しています。リユース品は同意を得て死体から回収しているようです(日本だと難しいかもです)。2年間のフォローができたのがリユースを用いた1027例、(97.7%)、新品を用いた3087例(97.9%)です。結果...デバイスをリユースしてみました!
SARS-CoV-2感染症にともなう急性呼吸促迫症候群(acuterespiratorydistresssyndrome,ARDS)患者においては、呼吸器及び消化器症状とともに凝固異常(coagulopathy)が高頻度で見られることが知られています。この論文はフランスのCRICSTRIGGERSEPGroup(ClinicalResearchinIntensiveCareandSepsisTrialGroupforGlobalEvaluationandResearchinSepsis)からの報告で、ICUに入院したSARS-CoV-2関連ARDS(COVID-19ARDS)患者150名における凝固異常の病態を前向きに解析したものです。また他の原因によるARDS患者をhistoricalcontrolとして、そ...COVID-19ARDS患者に特徴的にみられる凝固異常
COVID-19の、少なくとも重症型の患者においては血管病変が重要な役割を果たしていることが知られています。ドイツのHamburgから出されたこの論文は、連続したCOVID-19死亡例12例に対して死亡後CT(post-mortemCT,PMCT)、病理解剖、各臓器のSARS-CoV-2RT-PCRを行ったものです。平均死亡時年齢は73歳(IQrange18.5)、女性は25%でした。全員が何らかの併存症(肥満、冠動脈疾患、COPD、末梢血管障害、糖尿病、神経変性疾患)を有していました。2名は病院外で死亡しCPR不成功、5名はICUでの治療後に死亡、残りの5名は一般病棟で死亡しました。院外で死亡した患者以外におけるラボデータではLDHの高値、D-dimer高値、CRP抗体、マイルドな血小板減少などの異常が見られ...COVID-19死亡例の病理所見
少し前からまことしやかに、「BCG接種を行っている国ではCOVID-19の被害が少ない」という話が都市伝説のように広がっていました。ヨーロッパでBCGを接種していないオランダ、イタリア、スペイン、そしてアメリカなどでCOVID-19患者が多く重症度も高いこと、逆にBCG接種を行っているアジア諸国では比較的患者が少なく症状もマイルドであることがその根拠なのですが、多くの心ある人は「そんなことはないやろ~(大木こだま風)」と半信半疑でした(です)(*¬д¬*)。ところが"自然免疫記憶(trainedimmunity)"という観点からこの現象を説明しようとする試みがあります。ウイルスがホスト細胞に侵入するとホスト側の免疫反応を惹起しますが、炎症カスケードは自然免疫によって開始されます。自然免疫の活性化は抗ウイルス反応...BCGは新型コロナウイルス感染に有効?
運動には様々な利点があり、中でも様々な慢性疾患に対しては良好な治療的効果を示すことが知られています。変形性膝関節症などは運動療法を凌駕する薬物はほとんどないほどです。筋収縮による代謝活動の増加は多くの組織やシグナル経路を変化させてエネルギーおよび酸素の需要に対応します。例えば持続的な運動によってエネルギーが必要になった場合には、必要なエネルギー供給は解糖系→クエン酸経路(TCAサイクル)すなわち糖→脂肪酸をエネルギー源にする経路へのスイッチの切り替えによって達成されます。しかしこのようなスイッチの切り替えがどのようなメカニズムで生じているのかは十分にわかっていません。この論文で著者らは持久運動がマウス筋肉中の主たるインターロイキン13(IL-13)供給細胞である2型自然リンパ球(ILC2)の増殖を介してIL-1...持久運動における筋代謝制御にIL-13が関与する
DavidCyranoskiによる良質なreview①SARS-CoV-2はコウモリ由来である可能性が高いが、spikeproteinに関してはセンザンコウのウイルスが最も近く、長期間をかけて今のようなウイルスになった可能性が高い②SARS-CoVとは異なり肺に感染する前に上気道に感染し、そこで増殖して唾液などにウイルスを排出することが不顕性感染につながっている③SARS-CoV-2のspikeproteinの細胞側受容体ACE2への結合がSARS-CoVの10-20倍強い④結合後の細胞内への侵入に際して必要なspikeproteinの開裂に細胞に豊富に存在するfurinを用い(SARS-CoVにはfurin切断サイトが欠損している)、furinが気道の細胞に豊富に存在するためにSARS-CoVよりも感染力が高...新型コロナウイルスのプロフィール
下記のリンクは私が最も尊敬するサイエンティストである西川伸一先生のメッセージです。是非お読みください。今回の感染症の最大の恐ろしさは「人と人のつながりを分断する」という点です。欧米ではロックダウンというような厳しい政策を取っている国も多く、わが国も含めて人と人との接触を極力抑えようという戦略がとられています。感染症(疫病)対策の大原則が「早期発見(診断)、早期隔離」であることから、これはやむを得ない方針であったと思います。しかし人と人のつながりを分断することによって、我々が社会でこれまでに培ってきた多くの有形・無形の財産を失ってしまうことになるのではないかと危惧しています。https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13000西川伸一先生のメッセージ
私が最も尊敬するサイエンティストである西川伸一先生のメッセージです。今回の感染症の最大の恐ろしさは「人と人のつながりを分断する」という点です。欧米ではロックダウンというような厳しい政策を取っている国も多く、わが国も含めて人と人との接触を極力抑えようという戦略がとられています。感染症(疫病)対策の大原則が「早期発見(診断)、早期隔離」であることから、これはやむを得ない方針であったと思います。しかし人と人のつながりを分断することによって、我々が社会でこれまでに培ってきた多くの有形・無形の財産を失ってしまうことになるのではないかと危惧しています。https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13000西川伸一先生のメッセージ
APOE4はBBBの破綻を誘導することでアルツハイマー病の発症に関与する
アポリポタンパクE(ApoE)は肝臓のみならず中枢神経内においてアストロサイトにより産生され、中枢神経系における脂質運搬などの関与していることが知られています。ApoEのバリアントとしてはAPOE2,APOE3,APOE4が主なものですが、1990年代前半に、家族性アルツハイマー病患者でAPOE4の頻度が高く、APOE4のホモ接合体>ヘテロ接合体>なしの順にアルツハイマー病が若年化するというgenedosageeffectが存在することが明らかになって以来注目されています。これまでAPOE4がどのようなメカニズムでアルツハイマー病のリスクを高めるかについてはよくわかってませんでしたが、この論文で著者らはAPOE4遺伝子のホモ接合体保有者は、認知機能正常な時点でも、hippocampus(海馬)およびparahi...APOE4はBBBの破綻を誘導することでアルツハイマー病の発症に関与する
田中栄10分前· 今回の新型コロナウイルス感染の広がりや重症度は国によっても大きく異なりますし、日本の中でも地域によって異なっているという特徴がありますが、その真の理由はよくわかっていません。京都大学の上久保靖彦先生と吉備国際大学の髙橋淳先生は、これまでの日本における感染・重症パターンを詳細に解析し、SARS-CoV-2の感染頻度、重症度を算出する数式を考案されましたので紹介させていただきます。都道府県別発生報告を詳細に解析したところ、SARS-CoV-2の感染が拡大する前に小さなピークが存在する場所としない場所が存在することがわかりました。小さな流行を生じたウイルスをtypeS(sakigake)、その後のepidemicの主因ウイルスをtypeK(kakeru)と命名し、これらの感染パターンを解析しました。...集団免疫の確立とSARS-CoV-2のサブタイプ
COVID-19の重症型では免疫反応の暴走が起こるとともに様々な炎症性サイトカインの産生が高まり、いわゆるサイトカインストームという状態を引き起こしますが、この状態において炎症性サイトカインであるIL-6シグナルが重要な役割を果たすと考えられています。今回抗可溶型IL-6受容体抗体tocilizumab(TCZ)の重症COVID-19患者に対する効果が報告されました。研究対象は56.8±16.5歳(25―88歳)の21名の患者です。17名がsevere、4名がcriticalな状態でした(severeの基準は①respiratoryrate≥30breathsper1min,②SpO2≤93%whilebreathingroomair,③PaO2/FiO2≤300mmHgのいずれかを満たすもの、critical...トシリズマブが重症COVID-19に有効
現在COVID-19患者の診断のgoldstandardはRT-PCRですが、サンプル採取がうまく行かないと偽陰性になる可能性はあります。このような欠点を補うものとして抗体検査の実用化が期待されています。SeroconversionはWikipediaでは"thetimeperiodduringwhichaspecificantibodydevelopsandbecomesdetectableintheblood."と定義されていますが、B型肝炎感染患者においてHBe抗原が陰性化してHBe抗体が陽性になる現象が代表的なものです。この場合はseroconversionが肝炎鎮静化の指標とされています。この論文において著者らはCOVID-19患者におけるseroconversionを検討しました。使用したのはBio...COVID-19におけるセロコンバージョン
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