古井由吉と大江健三郎
先日、古井由吉が亡くなった。 古井由吉の著作はデビュー作と『楽天記』『仮往生伝試文』が印象に残っている。古井由吉のデビュー作である『杳子』は、精神病を患った女性を保護者としてでも共依存の対象としてでもなく、あくまでそのまま受け容れる大学生の主人公が「健常者にはかくあってほしい」と思わせる包容力があり、二人の明るくはない未来を予見させはしても、どこかしら救われる感じがした。その後の著作は、まさに夢の中で書かれたような不思議な酩酊的雰囲気が心地よく、どこか内田百閒を想起させるものがあったが、やはり古井由吉は古井由吉でしかなく、唯一無二の存在感を日本文学会に示していた。その古井由吉と大江健三郎は『文…
2020/04/29 12:10