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京都物語 https://note.com/higu_yuu

「この仕事は私に向いているのだろうか」畳職人になる為に京都に修行に来た18歳の青年。何もわからない、何もできない、そんな男が畳を通して、職人を通して学んだ事とは?筆者自身の実体験をもとに修行の日々を綴る。

現在、辛くても思い出はいつか美しくなる。皆んなの憂鬱な日々を少しでも明るく出来たら嬉しいです。宜しくお願い致します。

畳屋十三
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2020/02/18

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  • 最後の投稿

    水かぎろひしづかに立てば依らむものこの世にひとつなしと知るべし     -葛原妙子 太平洋戦争終結後、知識人の思想や哲学はひっくり返った。国粋主義者たちは民主主義者に変わり、戦争賛美していた者たちは反戦平和を唱えるようになった。 その光景を目撃した多くの日本人は、自分の信じるものなど簡単に壊れてしまうことを知った。 私は生まれてから現在に至るまで、二度大きな衝撃を受けた体験をした。ひとつは東日本大震災。街が津波で流され、たくさんの人が亡くなったあの震災。原発事故はモニター越しでも衝撃的だった。 もうひとつは

  • 【くま紋合わせ】コの字綴じ

    初めてのYouTubeショートを投稿してみました。

  • 職人の美徳

    「武勇と少人(若い武士)は、我は日本一と大高慢にてなければならず」 「武士たる者は武勇に大高慢をなし、死狂ひの覚悟が肝要なり」 引用:葉隠 ものづくり産業も多くの場面で機械化が進んだ。独創性より生産性、技術よりも単価、人件費より機械の設備費。 「自分は本当の職人ではない」と嘆き、ひ弱になる職人も増えた。終いには「職人は謙虚さが大事だ」なんて言い出す。 謙虚さは人間においての美徳であるが、職人においての美徳じゃない。職人においての美徳は高慢さだ。 自分の技術こそ日本一であり、これから先も自分が一番であり続ける。そうインプットさせるからこそ修練し、新しいモノづくりに挑戦できる。

  • 文化が人間性をつくる

    千利休が侘び茶を大成させる前、茶の湯は下品なものだった。人をもてなすことは一切せず、お茶を飲んで勝敗を競い合い金品を賭ける。くだらないゲームこそが茶道の起源である。 銀閣寺の書院造りが出来上がり、畳が敷かれ和室が完成すると、人々は和室の中で空間と精神が一体化するのを感じた。自然がそれに呼応する。虫の声や風の音、鳥の鳴き声に耳を澄ますように、私たちは静寂さを求めはじめた。 いつしか勝った負けたの笑い声より、時間を共にする相客を愛し、不器用なほどに美しい自然の営みを愛するようになった。 茶湯は現代に至るまで、少しずつ形を変えながらも、それが脈々と受け継がれている。 人間が文化をつく

  • 時間

    わたしの考えでは、時間に三つの次元は存在しない。待ち時間、つまりこの往復運動しかない。方向性のない、この分裂しかない。人間にとって原初の時間の本質として残るものは、二つの時間を備えた待ち時間である。失われた時間と差し迫った時間。 深淵(最後の王国3)パスカル・キニャール 歴史とは、過ぎ去った時間。物語のこと。 物語は人々が織りなす事件を教訓とし、現代に生きる我々を考えさせる。ときに姿を変え寓話や絵画になり、ときに姿を失い音楽になる。 過ぎ去ったはずの時間が、再び現代に蘇り私たちの時間を生きていく。 時間とは何だろうか。 かつて時間は円環と考えられていた。朝が来て、夜が来て、

  • 畳コースターの作り方

    練馬工業高校の講演会では時間が足りず、中途半端なところで終わってしまった畳コースター作り。続きを見たい!という声があったので、動画撮影してYouTubeに投稿しました。

  • 畳の隙間を埋める

    ▼詳しくはこちら:https://phkkoomde.com/profile/gap-trashed/

  • 畳床修理

    ▼畳床修理サービスについて:https://phkkoomde.com/profile/toko-repair/

  • 過去のブログ

    三年前に書いた畳のブログ記事。今見直すと、本当に恥ずかしくなるほど浅いことを書いている。 畳の歴史にしても、畳の技術にしても、い草の効能にしても、上っ面を学んだだけの知識。そして拙い文章。誤字脱字も多い。この程度でよく世間に発信していたなと違う意味で泣けてくる。 ただ、ポジティブに考えると、それは悪いことではない。三年前の知識が浅いと感じるということは、知識量が増えている証拠だし、文章が拙いと感じるということは、文章力が上がった証拠である。 一番良くないのは、何年か前のブログを読んで「わたし良いこと書いている!」と思うこと。これは成長していない証拠だと私は思う。 今も畳のブロ

  • 【個人的に】京都を感じた通り

    1.石堀小路 2.白川筋 3.先斗町通 4.花見小路通 5.ねねの道 6.上七軒通 7.渡月橋の通り(通りの名はわからない) 8.木屋町通(夜)

  • 女房と畳は新しい方が良い

    畳替えをして綺麗になった畳。今まで使っていた畳表を見てお客様は言う。 「汚い。触りたくない」 ほんの数分前まで、お客様が使っていた畳だ。さっきまで普通に素足で歩いていたし、きっと仰向けになって寛いだこともあるだろう。 綺麗な畳に畳替えした途端、触りたくないほど軽蔑するのは、一体なぜなのだろうか。 話は変わるが先日、スマホを新しくした。買ったばかりの新品のスマホを箱から取り出すと、当たり前だが指紋はおろか微小の埃さえも付着していない綺麗な状態だった。 すると不思議なことが起きる。さっきまで使っていた画面バキバキの私のスマホが急に汚らしく見えたのだ。 触りたくない。もういらな

  • 好きを超越した音楽、私にとって必要不可欠な一曲

    中学生になった四月、私は急に眠れなくなった。足元が熱く感じる。目を瞑っても意識が途絶えない。気がつくと天井を眺めていた。 そんな日が何週間か続き、中学校は休みがちになった。学校に行っても先生の話が子守唄のように聞こえて、授業中は夢の中に入り浸る。 そうした行いを担任の先生はよく思わない。 先生から直接注意された事がきっかけとなり、私は夜眠れないことを親に相談した。親は病院の先生に診てもらおうと言い、新小岩の診療所に私を連れて行った。 病院の先生は私の話を聞いて、私に言った。「睡眠薬は出したくない。できれば、生活リズムを整えて治して欲しい。それでも眠れないなら音楽を聞いてみて。

  • 信じているもの

    職人は何を信じているのか。私は経験だと思う。 経験とは、日々の積み重ね、弛まない努力の先にある希望であり、足元を照らしてくれる光である。 自分で手を動かし、物を触り、何度も失敗を重ねないと本当の技能も、技術も、知識も得られないと私は思う。本や動画で学ぶのも結構なことだが、それらは入り口のきっかけに過ぎず、それだけでは不十分である。 とはいえ、経験だって危ういことはある。経験が豊富ゆえに判断を誤ること、間違えることは多々ある。だから過信してはいけない。経験豊富で優れた職人ほど謙虚なのは、それを理解しているからだ。

  • 物とは?

    奈良県正倉院で展示されている約1200年前の畳。それは畳の歴史を知る上で、貴重な事物である。 しかし、この畳は現在使われていない。歴史的価値のある物として、展示されたり、歴史的な資料として研究対象(文化財保存会)になっているだけで、畳としての価値は皆無である。 物は生れながらにして必ず意味をもっている。椅子は人が座るために作られたものだし、机は人が字や絵を描くために作られたもの。もちろん畳も人が寝たり、座ったり、寛いだり、和むために作られたものである。物は使われてはじめて価値が生まれる。 では、使われない物には価値がないのか。 無論そんなことはない。奈良県正倉院にある畳のよう

  • 世界の崩壊を望んでいる

    「人間は誰しも、心のどこかで世界の崩壊を望んでいる」みたいな文言を何かの本で読んだことがある。 世界の崩壊。それは大震災による破壊か、核戦争による荒廃か、大洪水による水没か、もしくはコロナウイルスのような凶悪な細菌による人類滅亡か。 少し考えただけでも恐ろしい。 とはいえ、本当に世界の崩壊を望んでいる人はいるのかもしれない。 退屈な日々、同じことが繰り返される毎日、道徳や倫理観が押し付けられ、他人から生き方を問われる。もしかしたら、そうした日常に辟易としている人、苦しんでいる人はいるのかもしれない。 若い子たちを中心に異世界転生モノの小説や漫画、アニメが流行っていると聞いた

  • 初めての大学

    19歳の頃、友達がよく話していた。「大学生が一番楽しい」と。 私は高校卒業後、京都の畳屋に修行に行った。友達も知り合いもいない環境で初めは一人ボッチだったけど、夜学(畳の学校)にも通ったことで、同期が出来たし、先輩方とも仲良くなれた。 それからは仕事が終わればパチンコに誘われ、休日の前日には畳職人が一同に集まって大宴会をした。木屋町と祇園の大人の楽園を遊び歩いた。本当に、楽しい日々だった。 とはいえ、地元に帰ると友達は言う。「大学は本当に楽しいよ。お前、もったいないな。」 「いやいや。俺も楽しいよ。」とは言いつつ、皆んな口揃えて大学は楽しい!学生は最高だ!と言うから、大学って

  • 職人のヒエラルキー

    職人の世界には二種類の人間がいる。真面目なオタク系か、昔ヤンチャしていた系のどちらかだ。比率は五分五分。畳業界だけで言えば、真面目でオタク系の人が多い印象である。 オタクとヤンキー、弱肉強食ヒエラルキーの上と下にそれぞれ位置する。しかし、不思議なことに職人の世界にカーストはない。オタクっ子、ヤンキー共に一つの現場で一緒に仕事をして、仲良く共生している。学生から見れば実に不思議な光景であると言えよう。 では、なぜ職人のヒエラルキーが存在しないのか。 ひとつは、技術に対する評価があると思う。オタクだろうが、元引きこもりだろうが、技術を持っていればそこに尊敬が生まれる。尊敬は人間

  • 中国アニメが日本アニメを超える!に言いたいこと(追記)

    この話の本質は、中国はアニメを作る環境が素晴らしく、日本はアニメを作る環境が過酷だということを言いたいのだと思う。 それはよくわかる。というのも建築業界の構造も似たようなものだから。職人の単価は日々叩かれ、中抜きする奴の給料は増える。 正直言って、腹ただしい(職人が中抜きするなら別に構わないが)。 とはいえ、クリエイターのお金がたくさん増えれば全て上手くいくかと言えば、それも違うと思う。私は漫画家でもなければ、アニメーターでもないから偉そうなことは言えないが、彼らにとって時間こそが重要である気がしてならない。 余裕あるスケジュール。無駄な作業の効率化。多方面からの人材確保又は

  • 中国アニメが日本アニメを超える!に言いたいこと

    画像:あずまきよひこ氏の漫画作品『よつばと!』に登場するキャラクター 中国アニメが日本アニメを超える。 先日このようなツイートがトレンド入りしていた。今回はその件について話をしたいと思う(前回と同じような内容なので、読んだ人は飛ばしてもらって構わない)。 まず、私はふたつ言いたいことがある。ひとつめは、日本アニメとは何を指すのか、中国アニメとは何を指すのか、ということ。 日本アニメと言っても色々な作品がある。子供向けだったり、青年向けだったり、ファミリー向けだったり、大人向けだったり。 もっと細かく言えば、ほんわか、コメディー、冒険、ダークファンタジー、歴史、戦記、異世界転

  • 御中元なにを買おうか本当に悩む

    今年も早いもので、もう六月。御中元の早割注文の季節になった。 今、私の手元には御中元の商品一覧表がある。ビールにコーヒー、ハム、揖保乃糸、果物ゼリーなど夏を感じさせる沢山の商品が掲載されているのだが、御中元は何を買おうか本当に悩む。 工務店の社長や大工の棟梁に対しての贈り物であれば、ビールかコーヒーが良いのだろうけど、職人さんやご家族と分けて食べるのであれば、揖保乃糸かハム、果物ゼリーが良いような気がする。 昨年と同じものという選択肢もあるが、「コイツ!毎年、同じモノばかり送ってきやがって」と思われないだろうか。 日頃、大変お世話になっているわけだから適当には決められない。さ

  • 京都人は腹黒いのか

    「京都で修行していました」と言うと、必ず聞かれるのが京都の人って腹黒いのか、どうか。 京都にはお世話になった人も、お友達もたくさんいる。「京都の人は腹黒い!」と言うと、その人たちまで腹黒いことになってしまうから、なかなか言い難いのだが、確かに腹黒い人はいる。 仲が良いと思っていた畳学校の先生が、裏では私の事を「どこの馬の骨ともわからん奴」と言っていたこと、ボーリング大会のことで周囲にグチグチ言っていたこと、私は全て知っている。 『腹黒い』の遥か想像をいく腹黒さで驚いたこと、正直言って数え切れないほどある。 ただ、本当に腹黒くない人もいる。私がお世話になっていた畳屋さんは、腹黒

  • 日本のローテク産業が世界で売れる為には?

    日本のローテク産業が世界で売れる為には?この課題について頭を悩ましている方は多い。私が働く畳業界も同様の悩みを抱えている。 世界に畳を!と言って海外に出店した畳屋を数店舗知っているが、思うように上手くいっていないらしい。やはり世界には見えない壁が存在するのだろうか。 文化の違い?気候の違い?物に対する価値観の違い? 私はそもそも論で、ローテク産業は質を理解してもらえないと思っている。何度も言っているとおり、多くの大衆は質を理解しないで商品を購入している。自分の意思だけ、自分の判断だけの購入はほとんどない。プロや芸能人、尊敬する人がお勧めするから購入しているのだ。 それは日本人

  • 【個人的に】京都木屋町〆のラーメンベスト5

    1.かがり 2.大豊 3.みよし 4.門扇 5.一蘭 コロナが落ち着いたら京都旅行行って、美味しいもの食べて、お酒たくさん飲んで、締めのラーメン味わってみてください。

  • なぜ嘘をついてビジネスをするのか

    独立開業して知ったこと、それは世の中には嘘つきが沢山いるという事実。 電気料金が安くなります。ホームページを安く作れます。ウェブマーケティングのお手伝いをします。 もっと酷いのは、支払いをバックレようとする奴。知り合いのフリをして営業してくる奴もいた。すぐにバレるのに、よくこんな事できるなと、逆に私は感心した。 どうやらネットでも経歴詐称したり、事業内容を嘘ついたり、月〇〇〇〇万稼いでいるとハッタリをかます人がいるらしい。 オフラインよりオンラインの方が、嘘はつきやすいのかもしれないが、バレた時の拡散力はネットの方が爆発的に広まる。その分リスクは大きいと言える。 ところで、

  • 京町家

    京都には、京町家と呼ばれる町家が建ち並んでいる。 京町家とは、間口は狭く、奥行きがある日本の伝統的な木造建築の一つで、窓には結界となる京格子、犬や馬から壁を守るための犬矢来、陽のあたり具合から風水的な木材の向きまで計算された、京大工の知識と技術の結晶である。 私が京都で修行していた頃、京町家には数え切れないほどお世話になった。狭い階段、40キロを超える京間サイズの大きい畳、細長い廊下、驚くほどの部屋数、狂った寸法。大変なことが多かったけど、京町家の仕事が私を一人前の職人に成長させてくれた。本当に感謝している。 さて、その京町家だが、町家が建ち並ぶ路地を歩くと不思議な感覚に陥るこ

  • ずっと読みたかった本

    ずっと読みたかった本がある。私は仕事の空き時間を見つけては、メルカリ、ラクマ、Amazonでその本を探した。 しかし、その本は絶版になっていること、発行部数が少なかったことから希少性が高く、手に入れることが困難になっていた。気がつけば、探し始めて一年以上の歳月が流れた。 それが、つい先日ようやく手に入った。 まさかのフリマアプリで、まさかの値段で出品されていた。私はドンピシャなタイミングでそれを発見し、誰よりも早く購入ボタンをクリックした。この時ばかりは本当に幸運な人間だと思った。 それから数日後、その本が手元に届いた。少し日に焼けてはいたが、新品同様の綺麗な状態、かつての所

  • 我が家とは?

    大学入学以来、私は四畳半を断固として支持して来た。七畳やら八畳やら十畳やらの部屋に住む人間は、本当にそれだけの空間を我が物として支配するに足る人間なのであろうか。部屋の隅々まで、己の掌のごとく把握できているのか。空間を支配することには責任が伴う。我々人類に支配可能なのは、四畳半以下の空間であり、それ以上の広さを貪欲に求める不届き者たちは、いずれ部屋の隅から恐るべき反逆にあうことであろう。 -四畳半神話大系 森見登美彦 太田出版 部屋は広ければ広いほど良い。 近頃、そんな風潮がある。北欧風への憧れか、カフェスタイルへの好奇心か、リビングに隣接する隣の部屋の壁を壊し、リビン

  • 香り

    香りとは難しい。 香りの良し悪しは主観的もなもの。それゆえに、自分が好きな香りが臭いと思われることもあるし、自分が臭いと思っている匂いが良い香りだと感じる人もいる。 万人受けする香りなんて存在しないし、もし存在したとしても香りの感じ方は時代によって変化していく。 近年では、子供達を中心に焼けた魚の匂いを臭いと感じる子が増えたと聞いた。古来より人間は、魚を焼いて食べていたことを考えると、魚の焼けた匂いに抵抗を感じるのは可笑しな感覚にも思えるが、魚焼きグリルで調理する家庭が増えた現代では、もしかしたら当然のことかもしれない。 私たちは、自然的な匂いと疎遠になったのだ。 私が仕事

  • 職人は専門以外手を出さない方がいい

    私は京都にいた頃、日曜の休日を使って、襖や障子の張り替え、クロス貼りにタイルカーペット、CFなどの室内装飾を学んだ。 内装全てを出来る職人は貴重な存在。きっと仕事が山のように来るはず。独立前の私はそう思っていた。 いざ、独立して内装の仕事も受注すると、一人では仕事が回らないことに気がつく。現場には何度も行かないといけないし、在庫も抱えないといけない。仕事が多すぎた。 かといって、内装は利益率が高いわけではないので、儲かるわけでもない。 気がつけば、ほとんどの仕事を協力会社に外注していた。しかし、それも問題ばかり。協力会社の見積もりは遅いし、お客様からは急かされる。 畳を作っ

  • 新小岩

    そこは何もない平井と、どうしようもない小岩に挟まれた可哀想な街。 路上には、タバコの吸い殻とスーツ着たおっさんが、同じ姿で横たわる。ゲロを吐く奴、立ちションする奴、怒って喧嘩している奴、この街では見慣れた風景。 最近、駅が綺麗になった。東口にはスカイデッキ、南口と北口は自転車でも自由に通れるように整備された。新小岩駅は美しく便利に生まれ変わったのだが、なぜか新小岩に住む人々は、あの頃のまま…。 高校生の頃、新小岩北口にあったオモロンというゲームセンターに通っていた。そこにはいつも地元の友達がいて、毎晩ワイワイしながら高校生の青春を楽しんでいた。 その帰り道のことである。 新

  • 【個人的に】京都で最高だと思った飲食店ベスト10

    1.HARIMAYA(なにを食べても美味い) 2.金八(なにを食べても美味い) 3.もなか(なにを食べても美味い) 4.串蔵(なにを食べても美味い) 5.お好み焼き『どん』(なにを食べても美味いけど、ホルモン焼きうどん油かす多めが一番美味い) 6.豆ちゃ(白い泡みたいな食べ物と西京焼きとカクテル) 7.一福(なにを食べても美味い) 8.アジェ松原本店(ホルモンとTKG) 9.天下一品五条桂千代原口店(角煮ラーメンこってりニンニク有りとライスに付いている黄色いたくあん) 10.最後の楽園(納豆腐) コロナが落ち着いたら行ってみてください。

  • 専門性があるゆえに問題の大きさを間違える

    私の実家は数年前にリフォームをした。当時、私はまだ京都で修行していたので、東京に建築関係の知り合いはおらず、母が自分で建築業者を探して工事を依頼した。 リフォームの内容は、一部の耐震工事とお風呂とトイレ、リビングと玄関の工事。リノベーションとまでは言わないが、少し大きな改修工事になった。 母は綺麗になった家を見て大喜びし、嬉しそうにリビングでくつろいでいた。 それから数年後のある日、玄関に水たまりがあるのを発見した。玄関の入り口から雨が入ってきて、水が溜まってしまっていたのだ。 それ以外にも、どこからかネズミが侵入するようになったり、風で玄関の格子が取れたり、リビングの照明が

  • ものづくりはどうあるべきか

    ちょうど去年の今頃だったか。中国からの輸入が制限されたことにより、マスクが品薄状態になっていた。 多くの国民が、マスクを求めて彷徨い歩く。その光景をニュースで見て、私も何かの力になりたいと思った。 そんなある日、京都のもとやまさんという畳屋さんが、畳マスクというイグサで作ったマスクを、近所の方に配っていると聞いた(もとやまさんとは確か、京都修行時代に京都畳競技会で一度お会いした記憶がある)。 私はFacebookを介してすぐに連絡をとり、私も畳マスクを作って配っていいかとお話をした。もとやまさんは快く承諾してくださり、私は畳マスクを作って、過去に畳の仕事を依頼してくれたお客様、

  • ユニコーンの弱点

    中世の動物物語集の教えでは、一角獣を乙女の手で捕らえることができる。ギリシアのフィシオロゴスにはこうある。 「どうして捕らえるか。その目の前に乙女を置くと、その膝に跳びのってくる。そこで乙女はこれを愛情で温め、王たちの宮殿へ連れていく」。 ピサネロのメダイユのひとつにこの勝利を描いたものがあり、また名高いつづれ織りも多い。その寓意は明らかである。レオナルド・ダ・ヴィンチによれば、一角獣が捕らえられるのはその情欲のためである。情欲ゆえに自分の凶暴さを忘れて少女の膝に頭をのせ、そうして狩人に捕らえられる。 -幻獣辞典 ホルヘ・ルイス・ボルヘス 訳=柳瀬尚紀 河出文庫 建築業界では、夏の

  • 悲劇

    ある演奏家は言った。「悲劇は記憶に残る」 一月十七日、三月十日、三月十一日、八月六日、八月九日、九月一日… 悲しい日は、どれだけ時が過ぎても記憶から消えることはない。忘れたくても忘れられない永遠の螺旋。 囚われた螺旋の中で、神の救いがひとつだけある。それが幸福だ。人は幸せの瞬間、辛い過去も苦しい現実も忘却することができる。うす暗い世界に差し込む一筋の光。私たちはその光を希望と呼ぶ。 しかし、人間とは残酷なもので、楽しい時間や幸せな日を記憶することはできない。幸福とは一瞬の出来事。光は細くなって、闇の中へとのみこまれていく。 悲劇はいつだって私たちを包みこむ。あれだけ強く差し

  • ふたつの心

    私はフェミニストでありかつマゾヒストである。 フェアネスを求める私が、残酷さを愛するということ、この事態は許容されうるのか、私はそれをどう受け止めればいいのか、これは私にとって重要な問題である。 女性を抑圧し支配し利用する言説と制度に反対しながら、責め苛まれ所有され支配され犯され嬲られ殺される女性の状態を愛することは、許されるのだろうか。 〜中略〜 私は、「責め苛まれ所有され支配され犯され嬲られ殺されているこの女性は私だ」と自らの身に引き受けて読むことで、この問題を解決しようとしてきた。責められているのは私だ。苦しみを受けているのは私だ。私は他人の苦しみをよろこんでいるのではない、自

  • いよいよ梅雨シーズンが始まります

    いつも読んでいただきありがとうございます。樋口畳商店の樋口です。 昨年2020年は、とても長い梅雨でした。家中がカビが生えた!畳にダニが発生した!など数多くの相談が寄せられましたが、皆様は大丈夫でしたか? 今年もいよいよ梅雨シーズンが始まります。湿気対策は万全ですか?除湿機やエアコンの除湿機能は作動しますか?除湿剤などのご用意はお済みですか? 今のうちによくチェックしましょう。 ・晴れの日、曇りの日は窓を開けて換気する ・部屋のドアは開けっ放しにする ・こまめに掃除する ・畳は水拭きしない(梅雨が明けるまでは晴れていても水拭きは控えてください) 梅雨シーズンに入ったら晴れの

  • 畳屋の営業方法

    私は独立してすぐの時、フリーランス的な職人をやっていた。フリーランス的な職人とは、畳屋に就職せず、畳屋からの下請けで食べていく方法で、畳版一人親方と言った方が一般的にはわかりやすいかもしれない。 ただ、フリーランス的な職人は大変だった。まず仕事をもらうためには畳屋に営業しなければならない。畳屋のオヤジ達は寡黙で話しにくい人ばかり。加えて、畳職人が畳の営業をするわけだから、店に訪ねてきて良い気はしない。 私はどうしたものかと考えた。 そこで、最初はホームページ制作のお手伝いという名目で近づく作戦を思いついた。近所の畳屋さんはホームページを作っていない方が多かったから、私が手伝えば

  • ジブリ作品が上か、鬼滅の刃が上か。

    ネット上では、どっちが上なのか頻繁に議論が交わされている。両者関係者からしてみれば、甚だ迷惑な話ではあるが、面白い議論だと思った。今回はこの件について私の考えを書き込もうと思う。 まず前提として、『質』は存在する。ただ、以前も述べたとおり、素人は質を理解して評価していない可能性がある。だから絶対的な質はあるのか、質とは相対的なものなのかはわからない。 とはいえ、仮に絶対的な質が存在するとしたら、その『質』とはどのように決められるのだろうか考えてみると、映像技術や登場人物、物語だけで決められていないことがわかる。 例えば、手塚治虫さんの『鉄腕アトム』。現在の目で見れば、動きもカク

  • ブログやめなくてよかった

    『まだ鳴る鐘を鳴らせ。完璧な提案には目をくれるな。あらゆるものに裂け目はある。そこから光は差し込むのだ』 -オードリータン 畳についてのブログを書き始めた頃、ブログのPV数は一日5〜10PV程度だった。毎日投稿しても全く伸びない。コンテンツの質を上げてもPV数は増えない。 何も変わらない日々が続いた。 誰も畳に興味関心ないのかも…と不安に襲われた。何度も、何度もブログ書くのをやめようと思った。それでもやめなかったのは、伝えたい言葉があったし、中途半端でやめたくなかったからだ。 それから三年ほど経ち、畳のブログは一日1,000PVを超えるほど成長した。ブログがきっかけとな

  • 職人に向いている人

    「努力を継続できれば、誰でも名工になれる」 -黄綬褒章受賞 現代の名工に選ばれた職人の言葉 職人にも器用な人、不器用な人はいる。器用な人は最初から何でもできて、物覚えがいい。だから色々な知識を吸収して、新しい技にどんどんチャレンジする。私はそれが羨ましかった。 私のような不器用な人間は、ずっと基本ばかりを繰り返して、一日を終える。同期が新しい技を学んでいる時に、私はまだ基礎。差が開く様が不甲斐なく、悲しくなった。 ある日のこと。先輩達と並んで基礎中の基礎であるカガリという作業をやる機会があった。先輩達も器用な人が多いから、遅すぎて笑われないように、私は一生懸命頑張る。カガリが終

  • 私たちは質を理解して物を購入していない?

    私たち畳屋は、お客様から見積り依頼をいただくと、お客様の家に行って、畳の状態を確かめる。裏返しでいければ裏返し。表替えでいければ表替え。床がボコボコであれば新畳。私たちが目で見て判断して、お客様の予算に合わせた提案をする。 お客様は言う。「サンプルを見せてほしい」 私はバックから国産畳表と中国産畳表のサンプルを取り出す。お客様はサンプルを手にして、畳表の感触を確かめたり、畳の香りを嗅いだり、擦ったりと畳の質感を確かめる。 数分確かめた後、お客様はサンプルを床に置いて私に言う。 「国産と中国、何が違うの?」 これは畳屋あるあるの話だ。中国産畳表と国産畳表の違いが難しく、どっ

  • 急ぐべからず

    人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。 訳:人の一生というのは、重い荷物を背負って、遠い道を行くようなものだ。急いではいけない。 -徳川家康 重荷とは、託された想いのことだ。人は歩けば歩くほど、数多くの出会いがあり、幾多の想いを託される。 私たちはその想いを背負って、進み続けなればならない。それは遥か遠い道のり。途方ない旅路である。 だから安易に走ってはいけない。走れば揺れて、大切な物が壊れてしまう。私たちが託された『物』は割れやすいのだ。 決して急ぐべからず。

  • いつか必ず起こる

    不都合を生じる可能性があるものは、いつか必ず不都合を生じる -マーフィーの法則 畳で最も大事なのは寸法だ。部屋の大きさが全て違うように、畳も一枚一枚寸法が違う。 だから寸法取りは、丁寧に時間をかけて取らなければならない。 とはいえ、仕事は時間がお金だ。お金を稼ぐ為には、急いで寸法を取らなければならない時もある。 私はある日、急いで畳の寸法を取った。次の予定が入っていて、どうしても急ぐしかなかった。とはいえ、そういう時こそ危険だということは、歴史が証明していた。 というのも京都修行時代にも急いで寸法を取って、対角線の長さを大小間違いしたことがあった。大小の差異が小さかったこと

  • 政治の話が嫌い

    私は政治の話が嫌い。政治を語ると優しかった人が豹変するし、ちょっと意見が違うだけで怒るのが気にいらない。 生活かかっているから熱くなるのはわかるけど、私に怒っても仕方なくない?そんなお金ないなら働けば?とか喧嘩になってしまう。 確かに私は勉強不足かもしれない。外交も経済もわからないし、コロナ対策だって何が正しいのかよくわからない。 わかっていないけど、怒るのは違うだろ。ちゃんと確定申告して税金払ってるし、酒飲んで酒税もたくさん払ってる。(前は一日一箱タバコ吸って、タバコ税もたくさん払ってた) 外国人から畳の注文をもらって外貨も入れてる。何で政治について詳しくないだけで、意見が

  • 生きるうえで欠かせない飲み物

    京都に住んでいた頃、時折現実逃避したくなった。生活に不満があったわけでも、仕事が嫌いだったわけでもないが、明日を思うと急に現実を歩むことが苦痛になる。そんな瞬間があった。 無論、考えないように努力はした。暇を作らず忙しくして考える余地を与えない。しかし努力の甲斐もなく、思考の隙間にできる渦に絡め取られて、余計深いところまで沈んでしまう。 私は酒を飲んだ。身体に赤い斑点ができるほどに、壁に支えてもらわないと歩けないほどに、酔っ払って全てを忘れられるほどに酒を飲んだ。 それからというもの、私の中で酒は生きるうえで欠かせない飲み物になった。

  • 中国産畳表との付き合い方を考え直す

    今から二十年くらい前は、中国産畳表の品質はとても悪いものだった。色はよく飛んで茶色になるし、赤い焼けたイグサは混ざっているし、い草の匂いは酸っぱいし。安い以外褒める部分が見あたらない商品だった。 しかし、最近では中国人農家さんの努力の甲斐もあり、品質はかなり向上した。無論、国産の畳表には及ばないものの、お客様に安心しておすすめできる商品に変わった。 畳屋の中には、それでも国産しか勧めない人もいるようだが、私は国産、中国分け隔てなくおすすめしてきたつもりだ。 それは日本人だろうが、中国人だろうが、良いイグサを作ろうという想いや努力が商品から伝わるからだ。 だから中国から広まった

  • 何者かでありたい、何者にもなれない

    何者かでありたい。そう願うあまり、尊敬する人の姿を自分に投影することがある。私は一人じゃ『私』を作れない。 私は希少な存在になりたいわけでも、唯一無二でありたいわけでもない。何者かであればそれでいい。 しかし、私には名前とマイナンバーカード、免許証くらいしか『私』だと証明できるものはない。中身が空っぽのオルゴール。音が鳴らなければ何の箱かもわからない。 私はいつ何者かになれるのだろうか。道を極めたら、勉強したら、人と出会ったら、何者かの『私』になれるのだろうか。

  • やっぱりタバコは最悪だ

    五年振りか。久しぶりにタバコを吸った。はじめは吹かして、次は肺に深く入れる。口から煙が出てくる感覚に懐かしさを覚える。 セブンスターのタール14(通称セッター)。友達に勧められて吸った初めてのタバコ。苦くて、不味くて、むせて喉が痛くなった青春時代の味である。 あの頃はシガーキス(シガレットキス)に憧れていた。クラブに行っては、カッコつけながらシガーキスをしようとした。ところが、相手のタバコになかなか火がつかず、煙が自分の目に入る。痛がっている私を見て「おまえダセぇ」ってなった。シガーのほろ苦い思い出だ。 後一回くらい吸おうかと短くなったタバコをくわえた。タバコの煙が視界を遮ると

  • 懐かしい味

    懐かしい味。それは起源。私がその場所にいたという確かな証拠であり、私を「わたし」として認識してくれる瞬間。舌が味を伝えるたび、あの頃の自分を、想い出を想起する。 京都に住んでいた頃、おかみさんが作ってくれた粕汁が大好きだった。人参、大根、ゴボウにネギ、具沢山な小山にちょっと七味をかけて食べる。酒粕の香りと野菜の旨味が合わさって、最高に美味しかった。 関西では定番の粕汁だが、私が生まれ育った東京では、粕汁を食べる習慣がなかった。だから粕汁を初めて見たとき「なにこの色と匂い…野菜甘酒汁?」と異物な汁に思えた。 危うく幼少期の食わず嫌いが発動しそうだったが、食べた瞬間に評価は反転した

  • 名刺代わりの本10冊

    1.ナルニア国物語 C.S.ルイス (訳)瀬田 貞二 岩波少年文庫,岩波書店 2.夜のピクニック 恩田陸 新潮社 3.伝奇集 ホルヘ・ルイス・ボルヘス (訳)鼓 直 岩波文庫 4.ボルヘス怪奇譚集 ホルヘ・ルイス・ボルヘス/アドルフォ・ビオイ=カサーレス (訳)柳瀬尚紀 河出文庫 5.さまよえる影たち 最後の王国<1> パスカル・キニャール (訳)小川 美登里/桑田 光平 水声社 6.資本の世界史 ウルリケ・ヘルマン (訳)猪股和夫 太田出版 7.ハゲタカ 真山仁 講談社文庫 8.中世ヨーロッパの城塞 J・E・カウフマン/H・W・カウフマン (作図)ロバート・M・ジャーガ (訳)中島

  • 心ひとつで周囲も環境も変化する

    困難な時期を素晴らしい経験に変えることが、人生での大切な技術かもしれない。雨を嫌うか、雨の中で踊れるか、私たちは選択することができる。 -ジョーン・マルケス 先々月の緊急事態宣言前、赤坂のとある日本料理屋で会食をした。コロナ禍ということもあり、カウンター席のマスク会食であった。 そこに一人の女性起業家の方がいた。名前は公開しないが、建設業界に関係する会社を経営している方だ。 驚いたのは、彼女の起業した歴史。今年(2021)の二月に地方から出てきて、東京で起業したそうだ。 感染者が増え続ける東京。オリンピックに揺れて、振り回されている建設業界。そして緊急事態宣言。 そんな中で

  • 儲け以上の価値があるもの

    緊急事態宣言が発令し、コロナ禍で混乱する東京。その真っ只中にいるにも関わらず、おかげさまで忙しく充実した日々を送っている。 あるお客様は言った。「こんな時期に畳張り替えてもらってありがとうね」 また、あるお客様は言った。「コロナで大変だと思うけど頑張ってね」 わたしは畳屋を開業してよかったと思った。 「畳屋なんて・・・。」20代前半の時は、知り合いによく馬鹿にされた。畳なんて需要ないよ。職人なんか儲かるわけないと。 悔しかったし、絶対に儲けてやるんだ!と私は強く思った。無論、今でも儲けてやるという気持ちは忘れていない。利益が出ない商売など商売とは呼べないから。 しかし、畳屋

  • Twitterでの悪口や暴言

    絶えず時間を移動し肉体を衰えさせて確実に死に近づいていく。骨や灰や塵になる、それまでの短いひととき、なんで自分を、もしくは誰かを、むげに攻撃する必要があるのだろうか。同じ時代を生きているだけでも奇跡のような巡り合わせの人たちを。 -生のみ生のままで 下 綿矢りさ 集英社 Twitterを始めたのは三年ほど前、独立した際にマーケティングの一つとして利用したことがきっかけだった。 私がTwitterを使う以前から、ツイッター民の素行の悪さは聞いていたが、予想以上にTwitter上では悪口や暴言が飛び交っていた。 Twitterになれていなかった私は、その光景を目にするたびに「なぜ?

  • 友人の死

    一人の男性がマンションから飛び降りた。まだ朝日が昇る前、肌寒い冬の出来事である。 彼と私は友達だった。 小学校一年生、名前順で座る座席。彼は、私の前に座った。何を喋ったのかは覚えていない。ハッキリと記憶があるのは、初めてできた友達が彼だったということだ。 中学校、朝遅刻しそうだった私たちは、どうせ遅刻するならと、学校をサボって近くの河川敷でサッカーをして遊んだ。1時間目だけふけるつもりだったが、夢中になり過ぎて昼まで遊んでしまい、担任の先生に二人で怒られた。 高校生、私たちは別々の学校に進学した。彼は全国大会で優勝するレベルの高校に入り、部活動で忙しかったのにも関わらず、私の

  • 高校野球の思い出

    今でも思い出すよ。泥だらけになりながら白球を追いかけた日々。汗が伝うあの感覚を。 美しい青春時代?冗談じゃない。私の高校野球の思い出は、そんな美しいものではなかった。 先輩はウザい、監督さんはいつも不機嫌、試合には出られない、練習は地獄、毎日辛くて苦しいことばかりだった。明日こそやめてやる。そう思って、毎晩グローブとスパイクを磨いていた。 高三の春までそんな日々だった。 野球人生最後の春、私はベンチの中にいた。自分の代が主力になっても私は相変わらず応援団をしていた。ベンチに入れない同級生もいたから不満は言えなかったけど、一試合も出られないことに正直落胆していた。 そんな私の

  • 徒弟制度の誤解

    徒弟制度の話は、本ブログで何度か取り上げているけど、noteでは簡単に徒弟制度の誤解を記しておきたい。 そもそも徒弟制度とは? 中世ヨーロッパの手工業ギルドにおいて、親方・職人・徒弟の3階層によって技能教育を行った制度。また、一般に日本の年季奉公・丁稚(でっち)などの制度をもいう。 -コトバンク 簡単に言ってしまえば、技能を習得する制度。日本で言う丁稚奉公とか、弟子制度とか、修行と同じ意味合いで使われる。 徒弟制度と聞くと、日本の悪しき慣習と思われるかもしれないが、色々誤解がある。 徒弟制度の誤解 1.給料貰える 2.住み込みか選べる 3.親方によって全然違う 4.修行期間

  • 懐かしい友人

    ある日、昔懐かしい友人A氏から連絡がきた。内容は「話したいことがある。久しぶりに会わない?」ということだった。 A氏とは、そこまで親しい間柄ではなかったが、懐かしさもあったので会うことを決めた。 翌月、指定された駅で待ち合わせをした。私の方が先に到着し、五分ほど遅れてA氏はやってきた。春だというのに、随分厚手のコートを着ていた。「久しぶり!元気だった!」などと、たわいもない会話をしながら駅近くの喫茶店に入る。 二人は席に座りコーヒーを注文する。コーヒーを待つ間、話は思いの外盛り上がる。親しくなかったと言っても昔を知る友人。私は久しぶりに会えて嬉しかった。 私「そういえば、話が

  • 仕事終わりの図書館

    今日も仕事終わりに図書館に行った。何かと話題だったルシアベルリン『掃除婦のための手引き書(作品集)』を読む。静謐な文章と乾いた視線、時にユーモアを織り交ぜながら生活を伝えていく。面白かった。今更だが買おうか迷っている。 夢中になったのは良いが、辺りはもう夕暮れ。遅い時間になってしまった。本を棚に戻そうと、私はソファから立ち上がる。ふと、周囲に目をやると、壁に凭れ掛かっていた男が『完訳Oの物語(O嬢の物語)』を読んでいた。 この本、女性が読んでいると、哲学的、観念的な物語として読んでいるのかなと思うが、男性が読んでいると、ただのスケベに思えてしまう。 考えすぎかな。

  • 自信を失うということ

    二十代前半、あの空虚な自信は何だったのか。 私は、独立したばかりの頃、全ての自信を失いかけていた。一日八枚の畳を作ることがこんなに難しいのかと、早く綺麗に作ることがこんなに大変なのかと、自分の実力に愕然とした。 私はできると思っていた。競技会でも結果を出したし、社寺や茶室は数え切れないほど経験した。しかし、実際の城壁は見かけだけ、すぐに崩れ落ちる薄っぺらな壁だった。 畳職人として畳を作ることと、経営者(商売)として畳を作ることは違う。職人をやっていた頃は、それに気がつかなかった。 京都で六年間、何をしていたのか。悔しくて、情けなくて、泣きそうになった。 それから半年。私は六

  • ASMR中毒

    最近、ほんとASMR中毒。朝起きてまずASMR聞いて準備して。移動時間はラジオ代わりにASMR。昼なんて飯食いながらASMR。仕事終わりはASMRでリラックスしてから。ブログ書くときも、勉強するときも、読書するときもASMR。 ASMRがなけらば生きていけない中毒者。そろそろ耳に埋め込もうか真剣に考えている。 ちな、おすすめはASMRMagic、ハニスト。カリカリよりオイル派。

  • noteは自由に書く

    RushArtisan(私が三年半運営している畳のブログ)が嫌いなわけではない。そのブログのおかげで仕事がいただけたし、たくさんの方と知り合えた。本当にブログを書き続けてよかったと思っている。 ただ、最近ブログ記事を書くたび、窮屈に感じる。何か見えない鎖に縛られているように感じて、書くことが億劫になる。 不自由だ。 ユーザーの為になる情報とか、アフィリエイトとか、広告とか。意識すれば意識するほど、ブログが形式化されていく。 検索キーワードだとか、読みやすさとか。意識すればするほど、無駄で苦痛で愛おしい文章が削られていく。 こんなのブログと言えるのだろうか。こんなブログ書いて

  • 相互扶助

    「アフリカへの援助そのものが、ビジネスだろう。そして、波及効果が生まれ、やがて未開の地が一大消費地へと進化する。支援はそのためにやるんだ」 「それは違います。支援は、相互扶助の精神で行われるんです」 「おまえ、相互扶助の意味を理解していないな。先進国が支援する見返りに、ビジネスを手に入れる。だから相互扶助なんだ」 -ハゲタカⅣ グリード下 真山仁 私は、この街の地域部長をやりながら防犯部に所属している。地域のゴミ問題から夜回りの防犯パトロールまで、地域に住む人のために活動している。 あるとき友人から「町会の活動はボランティアじゃなくてビジネスが目的だろう」と言われたことがある。

  • 言葉を残すということ

    言葉は言葉を呼んで、翼をもってこの部屋の中を飛び廻ったんです。この言霊がどっかにどんなふうに残るか知りませんが、私がその言葉を、言霊をとにかくここに残して私は去っていきます。 -三島由紀夫 東大全共闘 結びの一節 私が最も恐怖なのは無関心だ。目に入らない、聞こえない、興味がない。 畳を営業していると建築士は言う。「畳は考えていない」 この建築士の言葉に比べたら、ネットユーザーが口にする「畳なんて嫌いよ。掃除が面倒なんだもん」「畳は古くさい。おばあちゃん家みたい」の方が全然嬉しい。 言葉は言葉を繋いでいく。 それが批判であろうが、賛辞であろうが、言葉は次の言葉を呼んできて、ネ

  • 御礼が言いたくて

    いつもnoteを読んでいただきありがとうございます。限られた時間の中で、私の記事を読んでもらえること、本当に喜びを感じています。 また、スキを押してくださる方。いつもありがとうございます。ワードプレスで書いていたブログは投稿しっぱなしの一方通行だったので、反応があることがすごく嬉しいです。 スキを押してくださった方に、少しでも感謝の気持ちが伝わりますように、スキのリアクションを複数作ってみました。 今後もよろしくお願いします。

  • わからない

    この世のものすべてはふたつに分かれている。ひとつは目に見えるものであり、もうひとつは目に見えないもの。目に見えるものは目に見えないものの投影にすぎない。 『ゾハール』第一章三十九節より -夢の本 J・L・ボルヘス 堀内研二 河出文庫 私は価値というものがわからない。絵画、盆栽、彫刻。価値とは何か。わからない。 ある日、テレビをつけたら「この絵画はいくらでしょう」というクイズが出題されていた。番組に出演していた芸能人は「子供のお絵かきみたい」「ラクガキじゃないの?」「きっと安物ですよ」と言っていた。 結果は、超高額。億を超える絵画だった。 その光景を見たとき、まるでアンリ・ルソ

  • 伏見稲荷大社

    思い起こせば、京都観光していない。 京都に住んで6年。東京に帰ることになった私は、京都でやり残したことがないか考えていた。 寺や神社は嫌になるほど仕事で行ったし、文化財系は死ぬほど見た。京都でうまいと有名なラーメンも、ホルモンも、ぜんざいも、鯖寿司も、にしんそばも食べた。 思い残すこともない。いや、ひとつあった。京都観光していない。 前々から女将さんに「京都観光しぃひんの?」と言われていたけど、休日に出かけるのが面倒で、引きこもり生活を送っていた。今になってちょっと後悔した。 残すところあと数日。京都観光に出掛ける時間もない。どうしようか悩んでいると、弟弟子が「稲荷神社は行

  • 私の作品紹介「畳」

    私の作品紹介「畳」

  • 愛するということ

    カフカの『変身』を読むたびに愛について考えさせられる。 「真実の愛は揺るぎないもの」本当にそうなのかと。 昔、あいのりという番組が放送されていた。(あいのりとは、真実の愛を見つける旅をキャッチフレーズに、男女7人が一台のワゴン車に乗って世界中を旅する恋愛バラエティ番組。) 「真実の愛を見つけました」登場人物は口にする。幼き日の私は憧れた。愛の偉大さに、真実の愛の尊さに、揺るぎない愛を信じて疑わず、どこまでも純粋に。 しかし、大人になるにつれて、それらは全てイメージであることに気がつく。愛のはじまりはいつだってイメージだ。イメージは強い力をもっていて、勝手に幻想を作り出してしま

  • 職人の幸せ

    1.早朝の温かい缶コーヒー 2.集合を待つ時間のタバコ 3.現場に仮設トイレがある 4.現場に喫煙スペースがある 5.現場に駐車スペースがある 6.腰の調子がマジでいい 7.休憩時間のタバコと缶コーヒー 8.段取りが完璧すぎて仕事が早く終わる 9.仕事終わりの一服 10.キンキンに冷えたビール 11.刺身がうまい 12.地元のツレがフラれた話 13.パチンコでカヲル君 14.先輩のお金でキャバクラ 15.シメのラーメン 16.家族の笑顔

  • 本を読むということ

    人生を80年で考えてみる。 365日×80年=29200日 29200日×24時間=700800時間 一日の平均睡眠時間が7時間だとして計算すると496400時間 ザックリな計算になるが、人生80年とした時の稼働時間は496400時間。これが日々マイナスされていく。 私の場合、300ページ程度の小説を読むのに4時間〜5時間ほど時間を費やす。そう考えると、本は時間を奪いすぎる。 今の時代、笑いたいならYouTube見れば3分で笑える動画に出会えるし、泣きたいなら5分で感動できる動画に出会える。 笑いや感動の為に4時間〜5時間かけて本を読むなんて、とても正気とは思えない。それ

  • 自己紹介

    皆さん、こんにちは!樋口畳商店の樋口です。先日、自己紹介記事を更新したので、ぜひ読んでもらえたら嬉しいです。 ▼畳職人のプロフィール:https://phkkoomde.com/profile/higuti-yuusuke/ 内容は、畳職人になろうと思ったきっかけ、京都修行時代、東京に帰って独立開業に至るまで、になります。 よろしくお願いします。

  • 男女の関係には三種類ある

    1.恋人 2.赤の他人 3.奴隷 -四畳半王国見聞録 森見登美彦 私には三つ歳の離れた姉がいる。今でこそ結婚して道徳的な人間になったが、昔はそれはそれはヒドイ悪魔であった。何もしていないのに頭を叩かれ、笑いながら熱湯をかけられる。 パシリなんて日常茶飯事。真夜中に、からあげクンレッドを買いに行かされたこともあった。家の近くにローソンないから、大急ぎで自転車漕いでローソン探して・・・と。あの夜のことを今でも覚えている。 そんな姉だが、外面だけはいいようで、男女関係なしに友達は多かった。我が家に出入りしているうちに、私とも面識を持つようになり、次第に可愛がって遊んでもらえるようにな

  • 和室とはどんな部屋?

    皆さん、こんにちは。樋口畳商店の樋口です。今回は和室とはどんな部屋なのか、畳職人の私の考えを紹介したいと思います。 ・和む部屋 ・足し算の答え ・融合の精神 ・曖昧で不完全な部屋 和む部屋 和室と聞くと、田舎のおばあちゃん家を思い出し、どこか郷愁に浸る方も多いのではないでしょうか。これも一つ、和室の本質であると私は思います。 和室に使われている和という文字には「わ」以外にも「和む」「和らぐ」という読み方ができます。和むの意味は「穏やかなこと」。和らぐの意味は「厳しい状況から穏やかになること」を示しており、どちらも「癒さられる」に近い意味を持っています。 ただ、癒されるという

  • 音楽の話

    オデュッセウスの帰路の際、彼は歌を聞いて楽しみたいと思い、船員には蝋で耳栓をさせ、自身をマストに縛り付け決して解かないよう船員に命じた。歌が聞こえると、オデュッセウスはセイレーンのもとへ行こうと暴れたが、船員はますます強く彼を縛った。船が遠ざかり歌が聞こえなくなると、落ち着いた船員は初めて耳栓を外しオデュッセウスの縄を解いた。ホメーロスはセイレーンのその後を語らないが、ヒュギーヌスによれば、セイレーンが歌を聞かせて生き残った人間が現れた時にはセイレーンは死ぬ運命となっていたため、海に身を投げて自殺した。死体は岩となり、岩礁の一部になったという。 -wikipedia セイレーン 一

  • ブログを書くということ

    書くことは生きることではない。生き延びることなのだ。書くことは、予期せぬ再生と、生き延びた者の欲望による要請である。とグルヴィルは明言している。死の可能性が身近に感じられた時点から、書く行為はすべて、死の彼方へと時間が拡張する忘我=脱自の行為なのだ、とモンテーニュはさらに深い言葉で断言した。 -落馬する人々 パスカル・キニャール 小川美登里 水声社 この世界の片隅に、二階堂奥歯という女性がいた。鋭敏な感性と常に拮抗する二つの思想、戦慄を覚える文章。優れた哲学者であり、天才的な文筆家であった(本業は編集者)。 二階堂奥歯の名を世に知らしめたのは、彼女が投稿していた『八本脚の蝶』とい

  • 【お知らせ】noteでの活動について

    皆さん、こんにちは。樋口畳商店の樋口です。今回は、noteでの活動についてお話ししたいと思います。 これまでnoteでは、京都修行時代の体験記などを投稿してきました。たくさんの方に読んでいただき、『スキ(いいね)』を押していただいたこと。心より感謝申し上げます。 その京都修行時代の体験記ですが、この度全て削除致しました。読んでいただいた方、スキをくださった方、本当に申し訳ありません。 削除した理由ですが、noteを新しく使っていきたいからです。 noteはすごく良いサービスなのに、使う頻度が低いのが勿体無い。できればもっとnoteを活用していきたい。そう考えたからです。 今

  • 畳とは?

    皆さん、こんにちは!樋口畳商店の樋口です。今回はブログでも人気があった「畳とは?」をnoteでも紹介したいと思います。ブログ読んだことがある方はもう一度、無い方はこの機会に読んでもらえたら嬉しいです。 そもそも畳とはどういった敷物? 畳とは藁を圧縮して縫い止めた床材に、藺草を編んで作られた畳表を張り付け、畳縁を縫い付けたもの。これが一般的な畳と呼ばれるものです。 とはいえ、最近は藁床の代わりに、木製のチップを圧縮して作った建材とカネライトフォームを縫い合わせた建材床で製畳したり。 藺草の代わりに和紙や樹脂製の畳表が使われたり 畳縁が付いていない縁なし畳が増えてい

  • 【YouTube】畳を作る動画

    こんにちは。畳職人の樋口です。今回は、YouTubeに畳を作る動画を投稿したので、noteにまとめてお伝えしようと思います。 ※主にこういった畳に関する記事は、私のブログの方に書いているので、もし興味がある方は私のブログの方も覗いてみてください。 ▼ブログはこちら:https://phkkoomde.com/ 板入れ新畳製作 板入れとは、框板と呼ばれる木材を畳の寸法に合わせて切って削って縫い付けます。そうすることで畳の角が立ち、敷き込んだ時に綺麗に見えます。また、框が痛まずに長く状態が保てるのもメリットです。 この動画では3分40秒程度の短い時間で撮り終えて

  • 【京都物語】思い出の楽園34

    先輩との別れ 十一月も下旬。色彩鮮やかな紅葉が華々しく散ったかと思えば、底冷えが厳しい寒波が足音も立てずにやってきた。十二月に入ると寒さは一段と厳しさを増し、口から吐き出される息さえも白く広がってゆく。京都に冬が来たのだ。 十二月のことを月の異名で師走と言うが、私が働く畳屋も何件もの旅館の畳替えがあったお陰で忙殺の仕事量になった。師匠が走る傍、私ら弟子たちは飛ぶ勢いでこの一ヶ月を羽ばたき続けた。そうした時間ほど過ぎるのは早いもので、気がづけば十二月も残すところ後僅かになっていた。 明日は仕事納めの大掃除。それが終われば久しぶりの藪入りになる。帰郷にあたって、地元の友達で作られて

  • 【京都物語】思い出の楽園33

    嵐山【後編】 私が嵐山に初めて訪れたのは14歳の頃だった。何一つ学び修めなかった修学旅行の途中、昼食を食べる為だけにこの地に足を踏み入れた。 京都中を走り回っているタクシー運転手がお勧めしてくれた料理屋だったが、味の薄い豆腐料理に愚痴を垂らしたのは私だけではなかった。ただ、その店の二階から眺める嵐山の景色は雄大で、初夏の日差しの中、新緑の葉がまだ青々しいほどに輝いていたのを今でも覚えている。きっと今眺めている紅葉も中学生時代に見た景色と同じように思い出になって心のフォルダに保存されることだろう。 とは言え、スマホのフォルダとは違い、心のフォルダには良い思い出ばかりが保存されている

  • 【京都物語】思い出の楽園32

    嵐山【前編】 嵐山の葉が色づき始めた11月中旬。私は渡月橋から猿山の景色を眺めていた。緑色に黄色、赤色に橙色と、幾つもの色が山々を彩る。そもそも枯れ葉とは葉に訪れた死である。木々から栄養分を抜き取られて、最後は切り捨てられる葉の終焉。それが紅葉である。冬を耐え凌ぐ為とはいえ残酷な結末のように思えるが、ただ美しく散っていくバットエンドであるのなら、それはそれで羨ましい気持ちもある。私はきっと、この枯葉のように美しく散っていくことなんかできやしない。誰にも看取られず、孤独に一人旅立っていく。そんな気がする。 「来てよかった」 ここに来る事になったのは、女将さんが発した一言からだった

  • 【京都物語】思い出の楽園31

    初めての出仕事 −−−京都府相楽郡精華町 精華町は、京都府より南の外れに位置し、奈良県と県境に有る街。のどかな風景と色づく自然が美しい場所では有るが、娯楽と呼ばれる遊び場が殆ど無い、言わば自然の楽園と云ったところである。 ただ、精華町にもパチンコ店は存在する。聞いた話によれば、休日になれば三十台は止められる駐車場が全て埋まるほど繁盛しているそうで、換金率が高いことも人気の理由だとか。いや。もしかしたら、お金がどうこうの理由ではなく、精華町に住むおじ様方の唯一の憩いの場になっているだけなのかもしれない。どちらにせよ、客が入っているのが驚くべき事実で、パチンコ店の看板に書かれている『

  • 【京都物語】思い出の楽園30

    秋のボーリング大会【後編】 「くそ!またスペア取れなかった!」 嘆きの声を上げる先輩たちは、昨日ラウンドワンで猛特訓を行い、来たるボーリング大会に向けて準備をしてきた。と言っていた。しかし、二人目を終えてまだ一度もスペアを取れていないばかりか、三本、四本もピンを残している始末。 「熱くなったところで、下手くそじゃ意味ないじゃん」 私は強炭酸の蜜柑ジュースをゆっくりと飲んだ。 ボーリング大会のルールは、それぞれの業種を一つのチームとして競い合い、平均点から優勝チームを決定する団体戦と個人のスコアの高さで優勝者を決定する個人戦の二つがある。我々、畳職人チームは団体戦においても、個

  • 【京都物語】思い出の楽園29

    秋のボーリング大会【前編】 私は今、オーロラ色の重たい球を持っている。二歩助走をし反動をつけて、薄茶色でツルピカなウッドレーンの上に球を転がす。滑らかに回転しながら走っていくオーロラ色の球体は、ガラガラと轟音を響かせながら、徐々に左側に逸れていき両サイドに待ち構える溝に落ちた。球はそのまま吸い込まれるように消えていった。 「お前さっきからガーターばっかりやん。1ゲーム目は練習だからって真剣にやれや」 私は何故、先輩に怒られているのだろうか。切望する愛すべき日曜日の朝8時から、このボーリング大会に参加してやっているのに。 「冗談じゃない。俺帰ります」 「ちょっ。待て!待てって!

  • 【京都物語】思い出の楽園28

    とある日の休日【後編】 「何が祟りなんですか。ちょ・・・。ちょうどよく洗濯が終わっただけですよ」 私はバックの中に畳んで持ってきた京都市指定の黄色ゴミ袋を広げ、洗濯物を詰め込んだ。 「だいじな話は終わりましたよね?洗濯物を乾燥しないといけないので、帰ります。お邪魔しました」 「はぁ?このまま帰すわけないやろ。」 アニキは両手を広げて玄関までの通路を塞いだ。アニキはお化けに取り憑かれたかのように青白い肌の色をしていた。目にはクマが出来ており、小学生が描いた下手くそなパンダのような顔になっていた。とはいえ、不思議と可哀想とは思えなかった。 「ちょっと、どいて下さいよ」 「ちゃん

  • 【京都物語】思い出の楽園27

    とある日の休日【中編】 アニキの下宿先は松尾大社のすぐ近くにある二階建ての一軒家。濃い灰色の外装に木で枠組みを囲っている昭和後期に流行った和洋折衷の家である。家の前は車一台通れるぐらいの細い道と小さな小川が流れている。道には隣の家のお爺さんが所有している白のクラウンが止められて、下宿先への通り道を塞いでいた。「邪魔だな」と思いながら身体がクラウンに触れないように気をつけて通る。 下宿先に到着すると、玄関の扉には鍵が掛かっていた。 私は「おい!ここにいるのはわかってんだよ!金返せ!」と扉をノックしながら叫んだ。何回か叩いて叫んでいると、扉の鍵が開きアニキが顔を出した。 「借金取

  • 【京都物語】思い出の楽園26

    とある日の休日【前編】 目が覚めると下宿先の階段で、うつ伏せになって横たわっていた。頭が痛い。喉が渇いた。とりあえず起き上がろうとすると自分が全裸である事に気がつく。真夏だから寒くはないが、下宿先で全裸はみっともなくて恥ずかしい。女将さんに見られるかもしれないし、社長と遭遇するかもしれない。急いで服を探すがどこにも見当たらない。 何をしていたんだろう僕は…。 昨晩の記憶は断片的にしかなく、覚えていることと言えば、いつものお店で同期や先輩達とテキーラを飲みまくって酔っ払い、お店にいた女の子に「彼氏はいるのか」とだる絡みをしていたことぐらいだ。いつお会計したのか、どうやって帰って

  • 【京都物語】思い出の楽園25

    山の上のお寺【後編】 「もしもし。」 「お疲れ。いま、髪きっとったけん。すぐ連絡返せんかった」 「お疲れ様です。お取り込み中すみません。あの。急な用件ですが、今から〇〇寺に来て手伝ってもらう事って可能ですか?」 「ん?ええよ。すぐ近くだしな。五分で行くわ」 そう言ってアニキは電話を切った。私は持っていた畳を本堂横のスペースに置き、社長にアニキが来てくれる事を報告した。社長も兄弟子も凄く喜んでいたが、私は浮かない気持ちで古い畳を持ち上げ山を下りた。例えアニキが気張ってくれたとしてもタイムリミットの18時は間に合わないと断言できる。むしろ「間に合わないじゃない!」と怒られる現場に

  • 【京都物語】思い出の楽園24

    山の上のお寺【中編】 右手に持っていた畳を左手に持ち替える。何メートルか進んでまた持ち替える。腰に体重を乗せて移動する。大きな岩と荒い砂が無造作に敷き詰められ、草花が生い茂る歩き難い山道を駆け上る。ひたすら頂上を目指して・・・。 陽も落ち始め、18時までのタイムリミットも迫ってきた。私の携帯には、まだ誰からも連絡は来ない。このままでは間に合わないのは火を見るよりも明らかだが、土曜日の夕方に来て手伝いたい!という変り者で物好きの職人がいるわけないという諦めの気持ちが大半だった。それでも少しの期待を込めてポケットに入れたスマホの音量は大にして、着信音が山にこだまするその時を待った。

  • 【京都物語】思い出の楽園23

    山の上のお寺【前編】 事の発端は、住職マミーの一言から始まった。 「畳屋さん急いでくださいね。18時までに畳の引き上げが終わらないと、お掃除するアルバイトの人に残業代を払わなきゃいけなくなるから」 時すでに17時を過ぎている。18時までには終わらない。終わるわけがない。 思い返してみれば、時間を指定してきたのはお寺さん側であった。その寺は山の上に建っているにも関わらず、説法が素晴らしいと行列が出来るほど有名で、わざわざ地方から話を聞きに来るほど人気がある寺だ。だからお休みがほとんど無く、新しい畳と古い畳を交換するのも説法が終わる17時からしか出来ないとのことだった。ただ、納

  • 【京都物語】思い出の楽園22

    凶暴なお客様【後編】 「ここです。」 階段を上がって3階左側、表札には名前がない。扉の四方は錆びて黒ずんでいて、床には枯葉が三輪ほど落ちていた。役所の職員がインターホンを押して声を掛ける。 「〇〇さん。こんにちは!」 返答は無いが、部屋の中から椅子を引き摺る音が聞こえた。下階の住人への騒音など気にしないかのように大きな足音を打ち鳴らしながら段々と近寄ってくる。そして、ゆっくりと玄関の扉が開く。 中から出てきたのは、20代後半で金髪ロングヘヤーの女性であった。この蒸し暑い中、真っ黒のスウェットを上下で着ている。凶暴と呼ぶには生気がない魚の死んだ目をし、怪物と呼ぶには痩せ過ぎた

  • 命の次に大切なものとは?

    ”絶望が死に至る病なら命の次に大切なものは希望である” 皆さんは命の次に大切なものって何だと思いますか? 空気とか水とか食べ物とか・・・・。 何でもいいのですが、私は希望だと思います。 希望は絶望の淵から掬い上げてくれるたった一つの方法であり、儚き夢を見る方法でもあります。 生きる意味 私は生まれてから27年間、ずっと何の為に生きているのかを考えて歩んできました 膨大な思索の中、私は一つの答えに辿り着いた。 それは”無意味”だというです。 これから先、私たちには必ず死が訪れます。 もっと言ってしまえば、50億年後の太陽系は太陽の膨張によって爆発し消え去ってし

  • 【京都物語】思い出の楽園21

    凶暴なお客様【前編】 「今回は凶暴な方ですから・・・。気をつけてください」 役所の職員は申し訳無さそうに言う。目の前には大きな木と至って普通の駐車場、ごく一般的な普通の人間が暮らしていそうな平凡な公共団地が聳え立つ。職員曰くこの公団の何処かに凶暴と言われる者が住んでいる部屋があり、傷んでしまった畳の畳替えをお願いしたいとの事であった。まさか畳職人になって凶暴な人と交流する事になるとは夢にも思わなかったわけで、些か心の準備が必要になる。 「自分はボクシングやってたんやろ?何かあったら頼むで」 畳職人になって三ヶ月。社長に初めて「任せたぞ」的な事を言われ嬉しかった反面、「あ、だ

  • 名刺代わりの作業動画

    東京で畳業を営んでおります。畳職人の樋口裕介です。この動画は畳職人の見習いが一番初めに習うであろう「畳の端止め(からくり、かがり)」と呼ばれる作業です。麻糸を使って麻と棉を括って縛る事により、藺草の解れを防ぐことができます。畳製作の中では一番単純な作業で基本中の基本になります。しかし、これが完璧に素早くできない職人は、深みのある畳は作れないと私は思っています。それが今回名刺代わりとして畳の端止めを選んだ理由です。ぜひ一度見ていただけたら嬉しいです。

  • 【京都物語】思い出の楽園20

    雨季の戦い その日も東の空から西の空まで、藍色の厚い雲がかかっていた。南西から吹く風は体感以上に強く吹いているのだろうか。はるか上空に漂う雲は疾るように流れていく。何処からか雨の匂いがした。その後すぐ空から雨粒が落ちてきて地面を濡らした。徐々に強まる地雨と黒雲に私の心も曇り出す。雨は畳師にとっての嚆矢であり戦いの始まりなのだ。 −−−畳にとって最大の敵はカビである。カビとは菌類の一部の姿であり、カラフルな色と菌糸と呼ばれる白い糸の塊が特徴的で、アルコール消毒や殺菌効果の強い液体を用いて除去しても再び舞い戻って来る厄介物である。あまりの気持ちの悪い見た目に「うぁ〜」と叫び声を上げる

  • 【京都物語】思い出の楽園19

    同期の楽園【後編】 室内からは笑い声が聞こえた。交尾期になると「キュルル」と奇声をあげる猿たちと同じ声だ。この状況を鑑みれば人間はどこまで行っても猿であり、動物の一種なのだと理解できる。とはいえ、人間にとって笑いは愉しさの象徴であり、笑い声が聞こえるという事は良いお店である可能性は高い。猿であろうが、蛸であろうが、人間であろうが楽しめるなら良しとしよう。 しかしながら、些か不安もあった。知らない土地で知らない女の子に案内されて来たわけだから、もしかすると数十万円の金銭を請求されて「おいガキ。お金持ってないとはどういうことや。マグロ漁船乗るか⁉︎おー?」と禿げ散らかしたおじさんに恫

  • 【京都物語】思い出の楽園18

    同期の楽園【前編】 不埒な若者が集う場所「木屋町通り」。東側には風俗店が軒を連ね、西側には高瀬川が暗がりの中静かに流れている。通りには呼び込みのお兄さん達、クラブに向かうお祭り人間、京都の大学生達が行き交いし、至る所で高笑いと木屋町を彩る音楽が聞こえる。此処木屋町通りは、お淑やかで気品のある京都を忘却した唯一の場所なのである。 我々はGacktがお忍びで来ると噂のみよしラーメンを食べに行く途中であった。濃厚な豚骨スープは中毒性が半端ないらしく、夜中には長蛇の列が出来ると聞く。平日であれば並ばずとも食す事が出来るが、今宵は土曜日な為に、学生達だけでなく仕事終わりのサラリーマンも木屋

  • 【京都物語短編恋愛小説】ドフラミンゴに聖なる夜を

    幸福の鐘が鳴る。希望に満ちて目を覚ますのはいつ以来だろう。ここ何年間は瞼の開口が憂鬱な一日への始まりの合図であり、迫りくる時を愉しむなど到底考えられなかった。 「これも聖なる日の魔力か」 枕元で鳴り続けるアラームを解除する為に左手を布団から出してスマホを探す。手から伝わる冷気で、外の気温がいか程なのか瞬時に計測出来るのは、この季節ならではの事である。 アラーム解除と同時に布団から出て、スウェットを脱ぎ捨て作業着に着替える。浮かれる心を鎮めるため洗面台に向かい顔を洗い流し歯を磨き、髪型と眉毛を整えて、鏡に向けて一発キメ顔をした。 ナルシストでは断じてないが、今日くらい綺麗に整え

  • 【歴史・時代小説】江戸奮闘記

    【後編】奮闘 京の町を出た一行が、長い長い道のりを経て江戸の町に到着したのは13日後の落日であった。 闇が刻々と近づく中、千住郎達は長旅の疲れを物ともせず、現場が見たいと言って勘平に頼み案内させた。 実のところ勘平も実吉も自分たちが放り出した現場がどうなっているのか気になって仕方なかった。 現場を監督する立場の人間が一月以上離れてしまったわけだから、働く職人としては、戸惑ってしまったのではないだろうか。 無事に工事が進んでいれば良いのだが、と不安である一方、優秀な代わりは用意してある故に、その者たちが職人たちにしっかりと指示をして、混乱のないように配慮してくれたに違いないと

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