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書に耽る猿たち https://honzaru.hatenablog.com/

本と猿をこよなく愛する。本を読んでいる時間が一番happy。読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる色々な話をしていきます。世に、書に耽る猿が増えますように。

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2020/02/09

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  • 『「幸せの列車」に乗せられた少年』ヴィオラ・アルドーネ|子供の頃には理解できなかった真意

    『「幸せの列車」に乗せられた少年』ヴィオラ・アルドーネ 関口英子/訳 筑摩書房 2022.10.29読了 日本でいう本屋大賞なるものがイタリアにもあるようで、それを2021年に受賞されたのがこの作品である。書店員が選ぶ賞は、作家や専門家が選ぶそれよりも大衆受けするものが多く、より多くの人に読まれている。そんなわけで、やはりとても読みやすく心に響く良い小説だった。 タイトルにある「幸せの列車」あるいは「子供列車」というのは、第二次世界大戦後のイタリアで実際に運行されていた列車だ。イタリア南部の貧困家庭の子供たちを、暮らしの安定した北部の街に届ける列車。この活動により、子供たちは一時的にせよ豊かな…

  • 『青年』森鴎外|自己の内面を見つめて成長していく

    『青年』森鴎外 新潮社[新潮文庫] 2022.10.27読了 確か読んだことないはずだ。夏目漱石さんの作品はほとんど読んでいるが、そもそも森鴎外さんの作品は1~2冊しか読んでいないはず。代表作『舞姫』を読もうとした時、文語体でとてもじゃないと読めないと断念した記憶がある。 主人公の青年の名前は小泉純一(ほとんどの人が元首相小泉純一郎を連想してしまうだろう)、彼は作家を目指して田舎から上京する。住まいに遊びに来る若い女性や謎の未亡人など多くの人との交流のなかで、自己の内面を見つめて成長していく青年の姿が描かれており、教養小説と呼ばれている。 青年期の女性に対する感情が丁寧に綴られる。特に、坂井未…

  • 『シンプルな情熱』アニー・エルノー|人を愛する自分自身をも愛すること

    『シンプルな情熱』アニー・エルノー 堀茂樹/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.10.26読了 今年のノーベル文学賞を受賞されたアニー・エルノーさんは、82歳になるフランス人作家。自伝的作品を多く書き続けている。邦訳されている彼女の作品の中ではおそらくいちばん手に入りやすいのがこの『シンプルな情熱』である。本自体も薄いのに、さらに頁の余白も多い。この文量なら、普通は中編2作まとめて1冊にすると思うが、編集者はそれだけ自信を持って薦めたかったのだろう。 読み始めてすぐに、グロスマン著『人生と運命』の引用があった。この恋愛小説に、あの歴史大河作品が出てくるとはつゆほどにも思わず驚く。『ア…

  • 『あとは切手を、一枚貼るだけ』小川洋子 堀江敏幸|手紙の世界でひとつに繋がる

    『あとは切手を、一枚貼るだけ』小川洋子 堀江敏幸 中央公論新社[中公文庫] 2022.10.26読了 手紙だけでやり取りをする男女の往復書簡小説である。小川洋子さんと堀江敏幸さんがそれぞれのパートを務めている。なんと、事前にストーリーを組み立てることもなく、本当に手紙のやり取りをするかのようにして物語を作り出したらしい。目指す方向性も決めないで、雑誌連載なのに成功するのだろうか?と素人目線では疑ってしまう。 しかし、さすが現代を代表する小説家の両名だけあって、上品で繊細な書簡集に仕上がっている。元々2人の作品はとても好みだったので、スムーズに小説世界に入ることができた。儚げに散りばめられた美し…

  • 『教誨師』堀川惠子|人間はみな弱い生き物である

    『教誨師(きょうかいし)』堀川惠子 ★ 講談社[講談社文庫] 2022.10.24読了 以前から書店で目にして気になっていた本である。教誨師とは「処刑される運命を背負った死刑囚と対話を重ね、最後はその死刑執行の現場に立ち会うという役回りであり、報酬もないボランティア(12頁)」である。このような任務を担う人がいるのはなんとなく知っていたが、彼らを「教誨師」と呼ぶことはこの本を読み初めて知った。 渡邉普相(ふそう)が教誨師になるきっかけをもたらした僧侶篠田龍雄(りゅうゆう)の説法を読んで心にすとんと落ちた。浄土真宗の「悪人正機説」がもつ通常の思考と正反対の言い回しである。こんな説法なら私も聞いて…

  • 『写字室の旅/闇の中の男』ポール・オースター|記憶の中を彷徨いながら未来を予測する

    『写字室の旅/闇の中の男』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社[新潮文庫] 2022.10.22読了 オースターさんがポール・ベンジャミン名義で刊行したハードボイルド作品『スクイズ・プレー』と同時に新潮文庫で刊行されたのがこの本である。2作の中編が収められている。 honzaru.hatenablog.com 『写字室の旅』 ある一人の老人が、写字室にいる。それを見ている私たち。彼に何が起きているのか、過去に彼に何があったのかは、老人が回顧しながら徐々に明かされていく。 小説のなかの人物を書くときに一番必要とされる詳細な描写が、お手本のように細かく炙り出されている。老人の一挙手一投足が、ス…

  • 『地図と拳』小川哲|激動の時代を生きた男たち、知的興奮度が爆発

    『地図と拳』小川哲 ★ 集英社 2022.10.19読了 序章を読んで、一気に引き込まれる。こんな始まり方、カッコ良すぎでしょ。自分に語彙力がないから小川さんの作品を読むたびに同じことを書いてしまうが、天才とは小川さんのような人のことを言う。巧みなストーリーテリングもさることながら、知的興奮度が高まり、程よい緊張感を保ちながら読み進めることができる極上の読書体験だった。 20世紀前半の満洲地域(現代の中国北部)の架空の都市を舞台にした群像劇である。激動の時代を生きる男たちの生き様に強く心を打たれた。現実に起きた戦争や政治的出来事に絡めながら、モノを作り上げる意味、そして「建築」をテーマとした壮…

  • 『アニバーサリー』窪美澄|料理と子育て、女性の社会進出

    『アニバーサリー』窪美澄 新潮社[新潮文庫] 2022.10.15読了 読む前に想像していたのは、現代女性の悩みや生き方が描かれた小説だったのに、75歳でマタニティスイミングを教える昌子の生い立ちが、つまり昭和の初め頃の描写が冒頭からかなり(全体の3分の1ほど)続くので、ちょっと予想外で面食らってしまった。といってもいい意味で裏切られた感じだ。 質屋を営む家庭に育った昌子ではあるが、東京大空襲の影響を受けて家が焼け落ちた。空襲下の疎開先で、友達の千代子と一緒にひもじさを紛らわすために薬を舐めた思い出は忘れならない出来事。その後はとんとん拍子で好きな人と結婚し子供をもうけた。時代の流れが早すぎて…

  • 『ザ・クイーン エリザベス女王とイギリスが歩んだ100年』マシュー・デニソン|特別な能力のおかげで長く君臨できた

    『ザ・クイーン エリザベス女王とイギリスが歩んだ100年』マシュー・デニソン 実川元子/訳 カンゼン 2022.10.13読了 エリザベス女王のノンフィクションで、在位70周年間近の2021年に英国で刊行された本である。日本で邦訳が出版されたのは今年の6月だ。エリザベス女王が亡くなられたのは先月のことだから、ほぼ直前までの彼女の軌跡がこの本に収められている。これからまた本当の意味での伝記が出版されると思うが、今現在あるノンフィクションの中では決定版といえるだろう。 イギリスという国が好きである。訪れたこともないのに何がわかるのかと言われそうだが、この好意と羨望は文学から湧き出たものだ。ディケン…

  • 『悪い夏』染井為人|不快さ満載の登場人物たち、一歩間違えれば我が身

    『悪い夏』染井為人 KADOKAWA[角川文庫] 2022.10.9読了 生活保護費の不正受給問題をテーマにした社会派小説である。生活保護が行き渡るべき人にちゃんと届かず、不正な手段で保護費を受け取る人が多い。日本の実態もこうなのかと思うと、情けないし悲しくなる。主人公である26歳の佐々木守は、社会福祉事務所の生活福祉課に勤務する真面目な公務員であるが、ひょんなことから問題に巻き込まれ、ずるずるといってしまう。 いい人しか登場しない小説はおもしろみに欠けることがあるが、悪人しか登場しない小説はまたげんなりとした不快さが残る。この小説はまさにそれだ。悪人だとしても、あまりにも頭の良すぎる知能犯で…

  • 『ロビンソンの家』打海文三|小刻みな会話が軽妙で現代風

    『ロビンソンの家』打海文三 徳間書店[徳間文庫] 2022.10.8読了 軽妙な語り口の青春ミステリー風小説である。人生に早くも飽き足りた17歳のリョウは、田舎町に祖母が建てた「Rの家」で暮らすことになる。そこで出逢った風変わりな従姉妹と親戚の伯父さん。自殺したと思われていたリョウの母親の失踪とその秘密が徐々に明らかになっていく。 ほのぼのとした雰囲気のなか突然人が死んだり、この作品は一体どんな方向に進むのかなと思いながら読む。甘美で少し哲学的。解放的な性生活とトークが繰り広げられているがいやらしさはなく、むしろ清々しくさえある。 パシリを意味する「使い走り」という言葉はよく使われるが、「走り…

  • 『静寂の荒野』ダイアン・クック|自然と同化していく人間の本性

    『静寂の荒野(ウィルダネス)』ダイアン・クック 上野元美/訳 早川書房 2022.10.6読了 雄大な自然の中で人間が生活するとはどういうことか、そのなかで親子の関係はどうなっていくのかを描いた重厚な物語である。近未来SF小説とのことで、この分野が苦手な私は少し身構えていたが、思いのほか読みやすかった。むしろ原始的でさえある。人間が年老いていくのは赤ちゃんに帰るのと同じように、人類ももしかしたら都市から自然に帰っていくのではないかと思う。 都市の環境が悪影響を及ぼし、病気になり死が目前に迫った我が子アグネスのために、両親はある実験に参加することにする。それは、残された最後の自然を有する土地、ウ…

  • 『セロトニン』ミシェル・ウエルベック|孤独を選ぶ人もいる

    『セロトニン』ミシェル・ウエルベック 関口涼子/訳 河出書房新社[河出文庫] 2022.10.3読了 油絵のようなグリーンの挑発的な表紙が目立っていた単行本とはうって変わった印象。文庫本はなかなかカッコいい表紙である。色合い、タイトルと著者名のバランスが個人的にとても好みだ。 セロトニンとは、脳内の神経伝達物質のひとつで、精神を安定させる働きをするものである。セロトニンが低下すると、攻撃的になったり不安感が現れる。タイトルからしてウエルベックさんらしいなぁ、なんて思いながら読み進める。 付き合っている日本人女性ユズの秘密を知ったことから、主人公フロランは「蒸発者」となる。そもそも何故この人物に…

  • 『ドナウの旅人』宮本輝|旅に出て、自分自身を見つめ直す

    『ドナウの旅人』上下 宮本輝 新潮社[新潮文庫] 2022.10.1読了 ドナウ河は、ドイツの西南端に源流があり、オーストリア、チェコスロヴァキア、ユーゴスラビア、ブルガリア、ルーマニアの7カ国を流れる3,000kmほどの長さのある河である。読み終えた今、私も旅に出たくなった。できれば、行ったことのない国に。できれば、一人で。 定年退職を迎えた夫がいる50歳になる絹子は、ドナウ河に沿って旅をすると言って、突然家を飛び出した。娘の麻沙子は、追いかけるようにしてかつて5年間住んでいたドイツに向かう。絹子、絹子と一緒に旅をする17歳下の長瀬、娘の麻沙子、そして麻沙子の恋人のシギィの4人は、現実とはか…

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