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書に耽る猿たち https://honzaru.hatenablog.com/

本と猿をこよなく愛する。本を読んでいる時間が一番happy。読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる色々な話をしていきます。世に、書に耽る猿が増えますように。

本猿
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2020/02/09

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  • 『女徳』瀬戸内寂聴|生まれながら男を虜にする性

    『女徳』瀬戸内寂聴 ★ 新潮社[新潮文庫] 2022.5.28読了 先日、窪美澄さん著『朱より赤く』を読み高岡智照尼の存在が気になったのでこの本を読んだ。智照尼のことをもっと知りたくなったのだ。これも小説ではあるが、ほぼ真実に近いとされている。新潮文庫の寂聴さんの本のなかでは一番分厚く、フォントも小さくなかなかのボリュームだったが、智照尼の重厚で濃密な半生が寂聴さんの力強い筆致で書かれており、どっぷりとその世界を堪能できた。 亮子が祇王寺(ぎおうじ)を初めて訪れた時、仕える和三郎を佐助のようだと思った。むろん、谷崎潤一郎著『春琴抄』の佐助である。春琴と佐助の愛。日本の小説で最も尊く美しい関係性…

  • 『事故物件、いかがですか? 東京ロンダリング』原田ひ香|不動産にまつわる数々のドラマ

    『事故物件、いかがですか? 東京ロンダリング』原田ひ香 集英社[集英社文庫] 2022.5.24読了 原田ひ香さんの『三千円のつかいかた』はベストセラーになり書店でもうず高く積み上げられていた。金融関係の本かと思っていたが小説だと知ったのも結構最近である。この本は文庫新刊コーナーで見付けたもの。過去に刊行された『東京ロンダリング』という作品の続きのようだ。 ルームロンダリングとは原田さんが作った架空の職業である。自殺や変死、事件など何らかの曰く付きの事故物件では、通常は不動産の賃貸募集の際に事故物件とは言わず「告知事項あり」という表記をし説明をする。ただ事故後の最初の入居者だけなので、誰かが1…

  • 『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオ・イシグロ|短編を読むのはその作家が好きだから

    『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.5.23読了 カズオ・イシグロさんの短編集を読んだ。彼の短編を読むのは初めてである。短編を集めたものではなく書き下ろしの短編が5作収められている。欧米では短編集はあまり売れないらしい(日本でもそれに近いと知って驚く)。イシグロさん自身は「売れ行きのことは気にしない。こういうものが好きな人に楽しんでもらえれば」と言っている。でも短編集を手に取ることは既にその著者が好きで肌に合うのだと思う。こういうものが好き、というよりもその著者が好きだから手に取る。少なくとも私はそうだ。 なかで…

  • 『天才』石原慎太郎|鋭い先見の明で日本を立て直す|そして、絶筆

    『天才』石原慎太郎 幻冬社[幻冬舎文庫] 2022.5.22読了 大物になる人物は得てしてそうであるが、子供の頃の角栄さんも飛び抜けて頭が良く、小さいうちから物事の道理をわきまえ、根回しといったものを自然と覚え骨肉としていった。 何がすごいって、角栄さんは官僚家系からではなく無名の人物で叩き上げで総理大臣にまでのし上がったということ。高等小学校卒(今でいう中卒)という学歴であることも有名である。現職の時は私はまだ子供だったから、彼の功績や何やらは後になって知ったことがほとんどだ。ロッキード事件で逮捕されたこと、長女の田中眞紀子さんが政界で発言する姿が印象に残る。 今当たり前のようにあるテレビと…

  • 『大鞠家殺人事件』芦辺拓|滑稽に語られる大阪船場の物語

    『大鞠家殺人事件』芦辺拓 東京創元社 2022.5.21読了 既に多くの作品を出しているようなのに初めて名前を知った作家さんだ。この作品で日本推理作家協会賞を受賞されたと知り、思わず衝動買いしてしまった。わかりやすくベタなタイトルに意外とオーソドックスでいいのかもと思い、そして大鞠(おおまり)という名前からおどろおどしさを勝手に期待してしまう。 時は明治・大正を通り過ぎ、昭和の初めの戦時下、大阪・船場という商人の街が舞台である。いっとき隆盛した「大鞠百薬館」という化粧品店を営む大鞠家で起こる殺人事件。跡取り息子が失踪したという事件が冒頭にあり、それがこの一族の事件を予感させる。 商家には、丁稚…

  • 『かか』宇佐見りん|この感性とこの文体が訴えかけてくる

    『かか』宇佐見りん 河出書房新社[河出文庫] 2022.5.19読了 冒頭からはっとする。この感性はどうしたものだろう。この文体はどこから湧き出るのだろう。女性にしかわからないであろう、金魚と見紛うその正体は大人の女性になったと実感するものである。 読み始めた時は、この言い回しは方言なのか、幼児言葉なのかと訝っていたが、どうやら「かか弁」という造語らしい。わからなくてもなんとなく察することができる境界ギリギリの言葉遣いがこの作品の一つの魅力になっている。「ですます調」と「である調」もごっちゃに使われているのに、何故かこの不統一が新鮮で心憎いほど深く突き刺さる。 浪人生のうーちゃんが、大嫌いで大…

  • 『水の墓碑銘』パトリシア・ハイスミス|忍耐と狂気の人間ヴィクの心理をさぐる

    『水の墓碑銘』パトリシア・ハイスミス 柿沼瑛子/訳 河出書房新社[河出文庫] 2022.5.18読了 河出文庫からハイスミスさんの小説の改訳版が出た。久しぶりにあのゾクゾク感を味わいたくなった。彼女の小説は2作しか読んでいないが、どちらもおもしろく引き込まれた。 ヴィクは妻のメリンダと娘のトリクシーと3人で暮らす。資産家のヴィクは出版の仕事をしながらカタツムリを飼うなどの趣味を持つ。メリンダは数年前から浮気を繰り返しており、ヴィクはそれを承知しながらも嫉妬心を表に出さず淡々と忍耐強く暮らしている。 ヴィクとメリンダは何故一緒にいるんだろう。ヴィクはこんな我慢を強いられて、メリンダからしても夫へ…

  • 『ブラックボックス』砂川文次|レールにしがみつきながら

    『ブラックボックス』砂川文次 講談社 2022.5.16読了 砂川文次さんといえば、前から『小隊』という作品が気になっていたが、まずはこの第166回芥川賞受賞作から読むことにした。芥川賞授賞式での怒りのコメントが印象に残る。まぁ、田中慎弥さんの会見ほどの衝撃はなかったけれど。 コロナ禍の中、ロードバイクで配達をする若者を描いた物語とは知っていた。てっきり私はウーバーイーツのように食べ物を出前する話かと思っていたが、ここで出てくるのは企業間で重要な契約書を運ぶメッセンジャー、つまりヤマトでいうところの「飛脚便」のようなものだった。そしてこの主人公サクマは非正規雇用である。 ロードバイクだから、自…

  • 『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート|自分を見つめ直し精神のバランスを取る

    『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート 那波かおり/訳 早川書房[ハヤカワノンフィクション文庫] 2022.5.15読了 ジュリア・ロバーツ主演の同名映画がとても良かったと最近私の耳に入った。映画自体は2010年に放映された。その原作がこの本である。 文庫本の冒頭には、刊行10年めとして著者のまえがきが収められている。エリザベスさんは「活力と意気込み、可能性が際限なく広がっていくという感覚こそ、"若さ"を定義するうえで重要な要素なのかもしれない」と語る。外見や体力が老いの象徴と捉えられることが多く私もそう思っていたけれど、実は心の問題なんだ。エリザベスさんの言う感覚が実は若さの原動…

  • 『同潤会代官山アパートメント』三上延|くやしさを糧にして生きていく

    『同潤会代官山アパートメント』三上延 新潮社[新潮文庫] 2022.5.11読了 同潤会アパートという単語は何度か目にしたことがある。関東大震災後に作られた耐火・耐震構造の鉄筋コンクリート造のマンションで、当時最先端の集合住宅であった。表参道ヒルズができた時に、数店舗入る隣接した建物が昔のアパートをそのまま残したものだった。あれも確か同潤会青山アパートメントだ。この作品は代官山にあった同潤会アパートを舞台とした小説。なんとこのアパートがあった場所は、現在は高級タワーマンション「代官山アドレス」が建っているというのが驚きだ。 ある家族の4代に渡る年代記である。連作短編集のように、あるワンシーンが…

  • 『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア|館で起こる怪奇世界にようこそ

    『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア 青木純子/訳 ★ 早川書房 2022.5.9読了 ゴシック小説の定義はよくわからないけど、とにかく最初から最後までとてもおもしろく読めた。ストーリー性と重厚さを併せ持つ作品には最近巡り合っていなかったから満足出来た。 メキシコシティで自由奔放に優雅な生活を謳歌していた22歳のノエミは、ダンスパーティの最中に父親から呼び出しをくらう。1年前に英国人ヴァージルのところに嫁いだいとこのカタリーナから奇妙な手紙が届いたとのことで様子を確かめに行って欲しいと言われる。かくしてノエミは山の斜面の街にあるお屋敷を訪れることになったのだー。 舞台はもちろん…

  • 『人間』又吉直樹|色々な人間がいていい

    『人間』又吉直樹 KADOKAWA [角川文庫] 2022.5.7読了 又吉直樹さんの作品は、芥川賞受賞作『火花』だけしか読んでいなかった。当時世間をものすごく賑わせて「芸人が書いたものか〜」「芥川賞も結局話題性を重視して選んだのか」と私も少し勘ぐっていた1人だったのだが、読んでみると思いの外しっかりした文体と美しい表現に感服した。何よりも又吉さんが小説(特に純文学)を溺愛しているのだと思った。 さて、その又吉さんの作品を読むのはそれ以来だ。漫画家になりたかった永山という男性が、シェアハウスに住んでいた過去を回想しながら「人間」とは何なのか、生きる意味を探っていくストーリーである。シェアハウス…

  • 『秘密機関』アガサ・クリスティー|何者をも恐れず突き進む精神

    『秘密機関』アガサ・クリスティー 嵯峨静江/訳 早川書房[ハヤカワクリスティー文庫] 2022.5.5読了 ポアロでもミス・マープルでもないクリスティーさんのもう一つのシリーズものが「トミー&タペンス」で、その1作目がこの『秘密機関』である。私もここまでクリスティー作品にハマらなかったら知らなかった。 トミーとタペンスという2人の若者が国家の重大機密に関わっていくストーリーである。冒険物語というより、スパイ小説と推理小説が合わさったような印象。カップルが主人公になっているものはたいてい女性の方が強く聡明なイメージがある。この2人もその例に漏れず、男性は優しく女性を温かく見守っている。2人の掛け…

  • 『この道』古井由吉|人間の死を悟るように

    『この道』古井由吉 講談社[講談社文庫] 2022.5.1読了 久しぶりに古井由吉さんの本を読んだ。古井さんの文体に触れるときは雨の日が似合う。現在このような静謐な空気をまとう文章を書く人はいないのではないか。 基本的には古井さん本人だと思われる老人の想いや生活について連ねられている。所々に過去の体験が多く導入され、戦時下のこと、入退院を繰り返したことなどが走馬灯のように駆け巡る。古井さんは季節の移ろいを大切に感じ、そして松尾芭蕉をはじめとする詩人を敬愛し古代ローマの神々の意思を尊重している。 物語性は全くない。ただつらつらと、浮き輪がぷかぷかと浮くように、言葉がゆらりと紙面を浮いているようだ…

  • 『メソポタミヤの殺人』アガサ・クリスティー|ポアロのやり方には隙がない

    『メソポタミヤの殺人』アガサ・クリスティー 田村義進/訳 早川書房[ハヤカワクリスティー文庫] 2022.4.29読了 メソポタミ「ヤ」ではなくメソポタミ「ア」ではないのかな?メソポタミア文明と習ったし通常メソポタミアと発音している気がする。どうでもいいけれどタイトルに違和感を覚えてしまった。日本語読みがメソポタミアなだけで、本来の音はメソポタミヤに近いのだろうか。 医学博士ジャイルズ・ライリーが、4年前に起きた事件について看護婦のエイミー・レザランに執筆を依頼する。エイミーが、事件を回想しながら手記を書いているという体になっている。 中近東の遺跡発掘現場が今回の舞台である。どうやらクリスティ…

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