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書に耽る猿たち https://honzaru.hatenablog.com/

本と猿をこよなく愛する。本を読んでいる時間が一番happy。読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる色々な話をしていきます。世に、書に耽る猿が増えますように。

本猿
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2020/02/09

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  • 『なずな』堀江敏幸|赤ちゃんは周りの人との関わり方を変える

    『なずな』堀江敏幸 集英社[集英社文庫] 2022.3.30読了 この本のタイトルである『なずな』は、生後2ヶ月ちょっとの赤ちゃんの名前である。道端に生えているぺんぺん草の「なずな」、春の七草の一つ。ジンゴロ先生は、どうして子供にそんな名前をつけたのかと言うが、ひっそりと咲く花だからこそいいのだと思う。 花の名が名前になっている子のことを昔羨ましく思っていた。スミレ、百合、椿など。名前の響きもいいし美しく可憐なイメージだから。でも、主役級の花ではなくて、たんぽぽ、くるみ、かすみ(草)など、どこにでも咲いているような植物の名前のほうが実は強いんじゃないかってそのうち思うようになった。雑草魂見せて…

  • 『異常』エルヴェ・ル・テリエ|この異常事態、どうする?

    『異常(アノマリー)』エルヴェ・ル・テリエ 加藤かおり/訳 早川書房 2022.3.28読了 この小説は、フランス本国で100万部超え、2020年にゴングール賞を受賞されている。ゴングール賞とはよく聞くけれど、フランスの最高峰の文学賞らしい。2016年には、先日読んだレイラ・スリマニさんの『ヌヌ 完璧なベビーシッター』が受賞となった。 honzaru.hatenablog.com 殺し屋のブレイクの話から唐突に始まり、小説家兼翻訳家であるミゼル、映像編集者リュシー、、など数人の紹介が続き、これは一体どんなストーリーなのだろうと訝しみながら読み進める。所々に飛行中のボーイング機を操縦するパイロッ…

  • 『高慢と偏見』ジェイン・オースティン|自負心と虚栄心は別物

    『高慢と偏見』ジェイン・オースティン 大島一彦/訳 中央公論新社[中公文庫] 2022.3.26読了 イギリスの古典小説、それもとびきりおもしろい恋愛小説のひとつが『高慢と偏見』である。サマセット・モーム氏も世界の十大小説の一つに選んでいる。男性がこの恋愛小説を名作に選ぶとは余程だと思う。 イギリスの田舎町に住むベネット家には5人姉妹がいた。特に長女ジェインと次女エリザベスの恋愛模様を中心にして物語が展開されていく。聡明なエリザベスがこの作品の主人公であるが、私は姉妹の父親ベネット氏がとても好ましく思えた。 自尊心とか自負心とかいうものは(中略)実際誰にでもあるものであり、人間性はとりわけ自負…

  • 角川武蔵野ミュージアムに行ってきた

    一度は行ってみたいと思っていた埼玉県所沢市にある「角川武蔵野ミュージアム」を先日訪れた。住宅エリアと自然が混在する武蔵野の地に2020年11月に出来た文化複合施設である。株式会社KADOKAWAが展開する「ところざわサクラタウン」の中に位置する、アート、文学、博物などを楽しめる総合ミュージアムである。 まずは驚くのが外観である。建物は隈研吾さん監修、まるで要塞のようなゴツゴツした岩のような物体が存在感ありまくり。近くで触ってみると、分厚い石が貼られている。コンクリートの上に張り詰めたのだろうが、この複雑な立体に仕上げる技術は素晴らしい。いや〜、本当に圧巻の建物だ。 一番楽しみにしていたのがフロ…

  • 『最果てアーケード』小川洋子|余韻を楽しめ、優しい気持ちになれる

    『最果てアーケード』小川洋子 講談社[講談社文庫] 2022.3.22読了 ほんの数ページ読んだだけで、小川洋子さんの書く可憐で美しい、そして儚げな文体に落ち着きを感じる。心にストンと落ちていく。ゆっくりと、一つ一つの文章を噛み締めながら読んでいく。 ここは、世界で最も小さいアーケード。商店街の大家を父に持つ少女がこの小説の主人公である。店からの荷物をお客様のところに配達するアルバイトをしながら、アーケードを探索しアーケードと共に生きている。相棒のべべという犬と一緒に。 連作短編集になっており、それぞれの短編ごとに店の店主や訪れるお客さんにスポットを当てて書かれている。完全な単独のストーリーと…

  • 『Blue』葉真中顕|知りたい欲求そのままに展開される

    『Blue』葉真中顕 光文社[光文社文庫] 2022.3.21読了 葉真中顕さんの作品は、昨年刊行された『灼熱』という小説がとても評判が良いので読みたいと思っていた。単行本を購入しようか思いあぐねていたら、ちょうど先月この作品が文庫新刊として書店に並んでいたので迷わず手にした。 青梅事件と呼ばれる一家惨殺事件は、4人を殺害したのちに風呂場で自殺または事故死したとみられるこの家の次女夏希の犯行と思われていた。しかし警察は、公表していない別人が現場にいたという形跡を証拠として掴んでいた。同時進行で進むBlueの章が差し挟まれる。Blueとは一体誰なのか。恐るべしサイコキラーなのか。 文庫本でかなり…

  • 『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ|人間は一体何を見ているのか

    『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ 雨沢泰/訳 河出書房新社[河出文庫] 2022.3.19読了 突然目が見えなくなってしまったら。今まで見えていた世界が白い闇に変わってしまったらどうなるのだろう。本を読むことを何よりも楽しみに生きている私にとってこれほどキツイことはない。おそらくいま目が見えている人にとって一番失いたくないものが視力ではないだろうか。矯正できない、視覚を失うという意味において。 しかもこの小説で書かれている失明は、感染症なのだ。精神病院に隔離される感染者の姿と政府の対策は、さながら新型コロナウイルスが流行し始めた時の日本を含む世界の状況を見ているかのようだ。濃厚接触者を隔離するよう…

  • 『ミシンと金魚』永井みみ|圧巻の語りに打ちのめされる

    『ミシンと金魚』永井みみ 集英社 2022.3.16読了 花はきれいで、今日は、死ぬ日だ。(129頁) 本に包まれた帯にも書かれているこの文章が突き刺さる。容易な言葉でたった3センテンスの短い文章なのに、妙に気になる。そして不思議と美しい。人間、死ぬ当日というものはわかるものなのだろうか。 圧巻の語りに圧倒される。安田カケイさんというおばあちゃんの視点で最初から最後まで語られる。痴呆が入っていて支離滅裂なところもあるのだけれど、ほとんどが理解できるし、理解できなくてもいいんじゃないかという気さえする。軽快でユーモアで、皮肉もある口語体がこの作品の最大の特徴である。 近くでお世話をしてくれる「み…

  • 『死の味』P・D・ジェイムズ|ダルグリッシュの過去に一体何が?

    『死の味』上下 P・D・ジェイムズ 青木久惠/訳 早川書房[ハヤカワ・ミステリ文庫] 2022.3.15読了 コーデリアシリーズがおもしろかったので、ダルグリッシュ警視ものに手を出してみた。犯人や動機、トリックを探るミステリなのに、私にはどう考えても濃密な文学作品の範疇に思える。過去に読んだコーデリアシリーズ2作と比べて、長さもあるが故に内容も構成もさらに混み入っており、まぁおなかいっぱいになった! 教会の聖具室で、元国務大臣のポール・ベロウン卿と浮浪者ハリー・マックの死体が発見された。殺人なのか自殺なのか。2人を結びつけるものはない。ダルグリッシュ率いる警察のチームは捜査に乗り出す。相棒の2…

  • 『動物会議』エーリヒ・ケストナー|子どものために戦争をやめよう|トリアーさんの素敵な絵

    『動物会議』エーリヒ・ケストナー ヴァルター・トリアー/絵 池田香代子/訳 岩波書店 2022.3.10読了 ドイツで1949年に出版された絵本で、日本でもロングセラーとして読まれている。ケストナーさんといえば『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』が有名であるが、この絵本のことは知らなかった。本の内容も素晴らしいが何よりトリアーさんの絵が素敵すぎる。 これ、人間が行う戦争を批判したもので、動物たちが子どもたちのために戦争をやめさせようと会議を開く話なのだ。ユーモア溢れる語り口だけど実はかなり核心をついた作品。何より現在のロシアとウクライナの戦いをリアルタイムで見ているから、本当に身につまされる思いにな…

  • 『弟』石原慎太郎|唯一無二のかけがえのない存在

    『弟』石原慎太郎 ★ 幻冬舎[幻冬舎文庫] 2022.3.9読了 私が物心ついた頃に石原裕次郎さんは活躍していたはずなのに記憶にない。報道番組で流れる昔の映像でしか私の中で裕次郎像はない。裕次郎さんの映画も1作も観たことはない。慎太郎さんはどうかと言えば東京都知事の頃の剛健なイメージだ。先日亡くなられてすぐに芥川賞受賞作品『太陽の季節』を読み、この人は政治家である前に作家であったんだなと思い、文才に感嘆した。 この放蕩兄弟がこんなにも自由奔放に青春時代を過ごしていたとは、ご両親は気が気ではなかったろうと心中を察する。裕次郎さんの晩年のいたましい闘病生活に意識がいきがちだが、私は幼少期や青春期の…

  • 『三十の反撃』ソン・ウォンピョン|自分の未来と世界をよくするために

    『三十の反撃』ソン・ウォンピョン 矢島暁子/訳 祥伝社 2022.3.7読了 どこにでもいるような普通の若者、非正規雇用で働く30歳のキム・ジヘがこの小説の主人公である。なんならキム・ジヘというありふれた名前も韓国では一番多いそうだ。カルチャーセンターでインターンとして働くジヘは、くだらない上司やつまらない業務に不満を抱きながらも、声を上げるほどでもなくただ淡々と生きている。自分が何をしたいのかわからないまま。 過去に私もあるカルチャーセンターで講義を受けたことがある。受付の向こうで働いている人(事務員)を見ていると、なんとなく覇気が感じられずのんびりした雰囲気があった。カルチャーセンターは何…

  • 『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄|苦難に満ちた波瀾万丈の人生

    『朱(あか)より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄 小学館 2022.3.6読了 幼い頃叔母に育ててもらったみつ(後の高岡智照)は、12歳の時、産みの父親に騙され舞妓になるよう売られてしまった。舞妓、芸妓を経て、社長夫人になり、さらに女優や文筆業まで行う。一方で多くの男性に翻弄され蔑まれお金で売られていく。情夫のために指を詰めたり、生きる意味を無くし自死をしようともする。本当の愛には恵まれなかった彼女が行き着く安寧の先は尼だった。尼になるまでの人生が告白文として書かれている。 この時代に身寄りのない女性が一人で生きて行くことは困難だった。持って生まれた人も羨やむ美貌で身体を売り生きていくことは出来…

  • 『ヌヌ 完璧なベビーシッター』レイラ・スリマニ|信頼しあえる他人との関係は少しずつ築いていくしかない

    『ヌヌ 完璧なベビーシッター』レイラ・スリマニ 松本百合子/訳 集英社[集英社文庫] 2022.3.5読了 ヌヌとは人の名前ではなくてベビーシッターのこと。フランスで乳母の意味をもつ「ヌーリス」が子供言葉のヌヌとなった。日本ではベビーシッターはあまり馴染みがなく、子供を家の外である保育園や託児所に預けるのがほとんどでである。フランスでは育児を完全にヌヌに託し、ヌヌが家事全般を担うこともあるようでとても重宝されているようだ。 赤ちゃんが死んだという衝撃的な事件から幕を開ける。2人の子供がヌヌによって殺されたのだ。何故幼い幼児が無惨に殺されなければなからなったのか、この家庭に何があったのか。 結末…

  • 『変身』フランツ・カフカ|読みながら別のことを考える

    『変身』フランツ・カフカ 川島隆/訳 角川書店[角川文庫] 2022.3.4読了 もう20年以上前に読んだはずなのに、目覚めたら自分が虫になっていたという冒頭のシーンが強烈でその後どうなったかをすっかり忘れていた。ひょっとすると全部読んでいなかったのかもしれない。 虫けら(この新訳ではあえて虫けらとなっている)になっていたグレゴール・ザムザは普通のサラリーマン。どうしてこんなことになったのか全くわからないし明かされもしない。グレゴールは変わらず必死に生き家族とわかり合おうとするのに、無情にも叶わない不条理な物語である。カフカといえば、不条理。 虫になってしまったのに会社に行こうとするなんて、家…

  • 『食卓のない家』円地文子|家族とは、個人とは

    『食卓のない家』円地文子 ★ 中央公論新社[中公文庫] 2022.3.2読了 あさま山荘事件からちょうど50年なのか。この本を読み始めた夜、たまたまテレビの報道番組で映像が流れていたから驚いた。なるほど、だからこの作品が文庫本で装い新たに刊行されたのだ。とても読み応えのある作品だった。 20代前半の頃、旅行で熊野古道を訪れたことがある。紀州と聞いても、訪れる前にはあまり魅力的に感じていなかったのだが、旅をしてみるとその気持ちが大きく変わった。大自然の荘厳な美しさと和歌山住民の人の良さがわかる。和歌山県は、老後に終の住処とする人が多く人気もあるようだ。そんな紀州、那智の滝の場面から始まるこの小説…

  • 『名もなき王国』倉数茂|現実と非現実の境界をしゃぼん玉のようにたゆたう

    『名もなき王国』倉数茂 ポプラ社[ポプラ文庫] 2022.2.28読了 倉数茂さんという作家は初めて知った。帯に書かれた日本SF大賞、三島由紀夫賞ダブルノミネートの文字と、書店に飾ってあった「多くの書評家絶賛!」というのを見て思わず手に取ってみた。 著者を彷彿とさせる中年小説家の「私」、友人で30代の作家澤田瞬(しゅん)、そして彼の亡き叔母で小説家だった沢渡晶(あきら)の3人が登場する。それぞれの人生が断片的に語られていく。 これはメタフィクションと言われるものなんだろう。入れ子構造になっており、作中作なのか事実なのか、誰のことなのか、はたまた自分が何を読んでいるかもわからなくなってしまう。読…

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