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2020/01/29

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  • 黄昏の小径(9)最終章

    疲れと高山ということで一本のビールで酔いがよく回る。根岸さんも、レイコさんも顔を赤くして、いつになく冗舌だった。「ほんとは、菅野君は音(ね)を上げるんじゃないかって思ってた」と根岸さん。「いやぁ、実際、投げ出したくなりましたよ。何度も。でもどこへ逃げるん

  • 黄昏の小径(8)

    いつのまにか、外は白々と明けていた。おれは「朝立ち」を感じて目が覚めた。夜気が残って、アルプスに来ているんだと改めて感じた。いつ戻ったのか、左隣りに杉本さんの背中が見える。「あああ」根岸さんが右隣りで腕をだして伸びをした。「起きてよ」続けて、根岸さんに呼

  • 黄昏の小径(7)

    ホエーブス(灯油コンロ)を根岸さんが用意した。「これはね、灯油で火がつくコンロなの。携帯燃料もあるんだけど、火力が違うのね」「はい、メタ」杉本さんが、白いペッツ(ラムネ菓子)みたいな塊を根岸さんに渡す。「ポンピングっていって、こうやって…」ホエーブスとや

  • 黄昏の小径(6)

    ふくらはぎに乳酸が溜まってきたのか、痙攣しそうだった。斜面を登るのでどうしても前かがみになる。背中の荷物がおれを押しつぶそうとするようだ。そして杉本さんが言っていたように息が苦しい。頭痛もするので、高山病になりかけのなのかもしれなかった。足元は岩がちにな

  • 黄昏の小径(5)

    八月四日、おれと根岸さん、杉本さんの三人は信州行きの長距離バスに揺られていた。「穂高駅からタクシーで中房温泉の登山口まで行くわよ」「温泉があるんですか」「そうよ。入る時間がないから、今回はパスするけど」とは、杉本さん。夏とはいえ、2000メートル級の北アルプ

  • 黄昏の小径(4)

    長引くと言われた梅雨も七月なかばには明けたように晴れの日が続いた。それでも梅雨前線がまだあるらしく、気象庁は「明けた」とは宣言しなかった。仕事にも慣れ、仲間と冗談を言い合えるようにまで打ち解けた。頼まれていた牛乳パック充填機の英語版取説も完成し、パソコン

  • 黄昏の小径(3)

    「菅野くん、ビール空いてるがね。もう一杯いこう」谷口課長が真っ赤な顔で勧める。「あ、はあ」あれから二週間たち、おれの歓迎会を第一製造課でやってくれたのだった。稲田駅前の居酒屋「とことん」は、この太平機械工業の社員が良く使うらしい。木下真帆さんを除く、課の

  • 黄昏の小径(2)

    床は濃い緑色に塗られ、何かの区画を表すのか、黄色いラインが引いてある。壁は灰色で、天井は高くホイストのレールが東西に走り、水銀灯が一定の間隔で輝いている。以前働いていた染色工場とは雲泥の差のきれいな工場だった。おれは年恰好が同じくらいの友田という主任の下

  • 黄昏の小径(1)

    今年は梅雨が長引くらしい。おれは、ゆううつな気分で、玄関を出た。今日から新しい職場なのだ。西佐久市で一人暮らしを始めたのが五年前の今頃だった。前の仕事がつらく、それでもなんとか六年近く頑張った。染色の仕事で、暑く、汚い仕事だった。その割に、給料は少なく、

  • 祭りの夜

    夏祭りには、私と浩二は、祖母から浴衣(ゆかた)を着せてもらった。私の記憶では、中三の夏休みが浴衣を着た最後だった。高校になって、もはや高安に泊まりに行くことはなくなったからだ。私は、浴衣の下に何もつけていなかった。たぶん、浩二が後ろから突かせてくれと言う

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