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Are you Wimpy? https://blog.goo.ne.jp/wimpy

思い出は消えることはない。 消したくても絶対に消えない。 嫌な思い出も今は妙に懐かしい。 あの頃に戻りたい。 でも戻りたくない。

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2019/11/01

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  • 太宰治賞、最終候補4作品が決定しました!

    遅蒔きながら、4名の皆さん、先ずはここまでおめでとうございます!5月10日の発表が待ち遠しい!ここのところ本業でイロイロとあって息つく暇がなく中々作文できていませんが、これからも地道にやっていきますので、出入りして下さっている皆様におかれましては変わりなく御贔屓のほどをお願い申し上げます。「トイチの中のジジコ」も少しずつ・・・。「気吹(IBUKI)」(“AreYouWimpy?”再編成版)は、コチラで少しずつ上げていますので合わせて宜しくお願い致します。太宰治賞、最終候補4作品が決定しました!

  • トイチの中のジジコ 第3話

    ジジコと過ごした記憶は旭野が2才になった頃からある。1枚だけ赤ん坊の自分を父が抱き上げている写真があるから、父は妾だった母の元に幾度か顔を出していたのだろう。どうやらその写真も母が撮影したものらしく、実際に母の顔が確認できるものは何もなかった。ひょっとしてジジコが意識的にそういったものを自分の周囲から排除していた節すらある。しかし、当の旭野には記憶の欠片として覚えていることがいくつかあった。その1つは、ジジコが自分を母の元から連れ去った日、砂利が敷かれた狭い駐車場の向こうに見える薄汚れた白壁の平屋のちっぽけな1枚ドアを開け放しにしたまま呆然と立ち尽くす母の面影だった。それは僅か5分ほどの出来事で、その時に脳裏に焼き付いた母の姿は豊満で、どちらかと言うと太目の体型だった。その時のジジコとのやり取りもはっきりと覚え...トイチの中のジジコ第3話

  • Are You Wimpy? エピソード①「怖がる男」

    「Whereareyoufrom?」その男を見かけたとき、そんな一言が思わず口を突いて出た。その日は、朝からどんよりとした雲が上空から垂れ下がっていて、11月にしては珍しい程の湿気が街の中に立ちこめていた。左肘や額の傷にはまだ多少の違和感が残っていたが、痛みというほどのものは既に無く、“旅”の終わりが近付くのにつれ、目的を失った僕はただ時間だけが漠然と流れていくのに身を任せていた。彼が定まらない視線をちらりとだけ自分に向けて「Japan」と答えた途端、ポツポツと小雨が落ちてきて、一緒に歩いていたビクターが大きく溜息を一つついた。「何でこんなところで?」僕は、自分の立場も棚に上げて、不躾な質問を投げかけてから、僕が放った日本語をただのノイズとしてしか認識しないリアノやビクターが先を急ぐのを見届けた。男は何かに怯え...AreYouWimpy?エピソード①「怖がる男」

  • 残念ながら二次通過なりませんでした・・・ですので約束通り・・・

    やはり、まだまだ・・・。でも、プロの目を通して読んでいただいて一次通過を果たしただけでも本当に嬉しかったです。とにかく読んでいただいたことに感謝です。・・・で、これまで申してきました通り、落選し次第作品を発表という公約を守ろうと思うのですが、ここはイロイロと散らかってきちゃいましたので、「落選作品専用」のウェブサイトを開設いたしました。“AreYouWimpy?”の映画化もまだ諦めていません・・・妄想は膨らむ一方です。「トイチの・・・」も頑張って書き続けて、来年の「太宰治賞」に再チャレンジできたらと考えています。残念ながら二次通過なりませんでした・・・ですので約束通り・・・

  • トイチの中のジジコ 第2話

    「こちらです」神妙な面持ちの若い警官が少しだけ申し訳なさそうに、尖兵として到着した私の事を霊安室に案内した。何の変哲もない無機質な冷たい感じのドアを開いて「どうぞ」とばかりに招き入れる様な仕草をした警官に促されるまま中に入ると、縦に数列並んだステンレス製の引き出しの1つが何の前置きもなく金属を引き摺る様な音を立てながら引き出された。勿論遺体が腐敗しないように冷蔵する為なのだが、大きな引き出しの中で身体をくの字に曲げて、まるで眠っているような父親の姿を認めて、旭野は言葉を失った。数秒間父親の様子を確認してから、傍でじっと見入っている警官の方に頷いて「父に間違いありません」と静かに答えると、旭野はうろたえることもなく、その後の段取りを警官に尋ねた。警官はほっとしたように引き出しを押し込みながら、「詳しくはあちらで・...トイチの中のジジコ第2話

  • 第37回 太宰治賞 1次選考通過しました!

    1548応募作品から153作品が選ばれたんですが、なんと“AreYouWimpy?”の再編版が1次選考を通過!https://file.chikumashobo.co.jp/mm_files/dazaisho2021_1.pdf※私の本名と年齢がわかるとどれなのかわかってしまいますねwブログでコツコツ書いていても余り反応がなかったから自信なんてなかったし、たかが1次選考、しかも153も選ばれてるのになんて言われちゃうかもしれませんが、プロの目でしっかり読んでもらったっていう事実があるだけですごく幸せです。唯一打ち明けていた長男も褒めてくれました。つきましては、この後「お蔵入り」が決定し次第、ココで再編版を発表したいと思ってますので、出入りしていただいている方々には是非読んで欲しいです!それでも凄いなぁ。この15...第37回太宰治賞1次選考通過しました!

  • トイチの中のジジコ 第1話

    「ね、ね、ジジコの話してよ」琴音が授業を進ませてたまるかとばかりに切り出した。この高校の定時制で教鞭を執り始めて丸1年が過ぎようというのに、朝田は相変わらず生徒達のペースに巻き込まれて、年度初めに計画した内容を熟せずにいた。そんな状況に若干の焦りはあったものの、わざと朝田に教科書を開かせまいとする生徒達が貯めてしまった単語練習の宿題に一生懸命に取り組んでいるのを知っていたから、敢えて策略に乗ってみるのも良い気がしたし、雑談の方が偉そうに英文法を解説しているより性に合っていて楽しいというのが本音といったところだった。「ジジコか・・・。もう、ネタ切れなんじゃない?」「じゃ、同じ話でもいいからさ」このクラスの生徒達は誰もが複雑な家族の出で、琴音なんかは「アタシには種違いの弟が2人いて・・・」なんて気楽に語り始めるもの...トイチの中のジジコ第1話

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑪ ペットを巡る不思議な体験 第6話

    2011年6月26日日曜日思いがけず目を覚ました私は,深い寝息を湛えている次男の無防備な寝顔の向こうに据えられた置き時計に何気なく目をやった。その週末に5歳の誕生日を迎えようとしている次男を寝かしつけていて,どうやらいつの間にか自分も一緒に眠ってしまった様だ。午前2時丁度から数秒だけしか先回りしていないところだと知って、私は嫌な胸騒ぎを覚え、物音を立てないように気をつけながら,ももたろうが寝ている玄関へと急いだ。齢十二歳となる老犬のももたろうは近頃容態が芳しくなく,いつ粗相をしても良い様にと私の書斎に設置された特性の小屋ではなく、玄関の地べたに寝かされていた。ももたろうもひんやりとした場所が気持ち良さそうだったし,かまちを上がる体力も残っていなかったから,数日前からそこに寝かせるようにしていた。毎年必ず受けさせ...巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑪ペットを巡る不思議な体験第6話

  • 何か“開眼”w

    嗚呼そうか・・・って感じで間もなく新しいシリーズ書き始めようかと思うwww何か“開眼”w

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑩ ペットを巡る不思議な体験 第5話

    (4)偶然と必然の間「どうされましたか」「・・・この先で、猫をはねてしまって・・・」「・・・猫?」 警察官の一人が警戒しながら私の抱えている箱の中を一瞥すると、ヘルメットのツバを1,2回擦ってから腰に両手を当てて、不思議そうな顔で話し出した。「野良猫でしょう」「飼い猫ではないでしょうか」「首輪もないし、あの辺りは民家もありませんから」「事故処理については・・・」「いえ、必要ありません。どこかに埋めてあげてください」「どこかって・・・」「ええと・・・」警官はカウンターに貼り付けてある地図を使って、「ここいらならいいでしょう」と丁寧に道案内をしてくれた。「ここで預かってもいいんですが、どうせ生ゴミに出すだけなんです」「・・・生ゴミ・・・?」「ええ、ですからお任せしますが・・・」「それじゃ、私の方で」「その方が猫のた...巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑩ペットを巡る不思議な体験第5話

  • Are You Wimpy?”映画化妄想計画、スピンオフ映画構想への進展?w

    具体的な妄想記録はコチラ♪※“AreYouWimpy?”は数々の矛盾点などの修正と描写も加えて時系列に整理した作品をタイトルを変更してコンテストに出品中です。結果、入選から漏れた場合にはここで公開しますので宜しくお願いします。もうお気づきの方も多いと思うのでズバリ言っちゃいますが、今回書き上げたのは飽くまで“ソーヤン”の視点からのユーゴ内戦。しかし、もうひとつの重要な視点を忘れてはいませんか・・・?それについては実は“AreYouWimpy?”の「ニット帽の少女」ではさり気なくヒントを盛り込んでいます。気付かれました?では、分からなかった方の為に解説致しましょう。「なぜ、ウィンピーが少年を助けに行くところで銃撃が止んだか」というのが鍵です。この際いろいろとバラしちゃいますが、あのシーンはボスニアでの出来事なんで...AreYouWimpy?”映画化妄想計画、スピンオフ映画構想への進展?w

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑨ ペットを巡る不思議な体験 第4話

    銀行を介して年を跨ぐ間際に話は順調に進み、まりちゃん一家との売買が無事に成立した。リフォームに1ヶ月ほどかかるということだったが、私は入居まで待ちきれず、リフォームの様子を見がてら、年末年始休暇中や週末には春日部から千葉の“城”に通い詰めていた。予定日より2週間ほど早く誕生した長男と女房が暫くの間千葉の実家で過ごすことを決めていたので、私とももたろうはウィークディは春日部のアパートで過ごして週末には実家に顔を出すといった具合に、少々距離はあったが、“自分の城”を持った喜びもあって最初の内は埼玉での仕事を続けるつもりだった。それでもやはり、どんなに工夫しても朝の通勤が4時間以上もかかることが分かって、結局年度の切り替え時期を目処に春日部のアパートを引き払う覚悟を決めた。それは、埼玉でのキャリアや人脈も全てリセット...巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑨ペットを巡る不思議な体験第4話

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑧ ペットを巡る不思議な体験 第3話

    (2)「いつか来た道」私達夫婦には長らく子供が授からなかった。ももたろうが嫡男の位置に鎮座していて、体重は優に20kgを超えるほど大きく育ったが、前述したように余り犬らしくない、つまり無駄吠えもせず走り回りもせず、手前味噌だが、本当に「良く出来た子」で、帰省する時も旅行するときも3「人」家族で常に一緒だった。しかし、結婚して3年を過ぎる頃から帰省する度に田舎の両親から「今度は毛の生えていないのをな・・・」などと冗談を言われたりして、女房が今度は子供ができないことを気にし始めたので、職場の先輩から勧められた三郷のクリニックに夫婦で通うことにした。医師というのは何時の時代もそうなのかもしれないが、命の取り扱いに慣れてしまっていて、何度か人工授精を試みて成功しなくても「残念、また次回」くらいの言い方しかしてくれなかっ...巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑧ペットを巡る不思議な体験第3話

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑦ ペットを巡る不思議な体験 第2話

    (1)「醜い“モグラ”の子」ももたろうは不思議な犬だった。その登場も、それから去った後も・・・。1999年4月3日に、私達夫婦は結婚式を挙げた。その後すぐに仕事を辞めて私が住む埼玉のアパートに越してきた我が愛妻は、たった独りぼっちで知らぬ土地に突如放り込まれ数日もしない内に引きこもり状態に陥ってしまった。仕事が忙しくて、5月の連休中に予定していた那須への新婚旅行が気晴らしになるだろうと想う様にして、私はそんな妻のことを気に掛けてやれずに4月末を迎えようとしていた。連休直前の4月28日、職場の若い女の子たちが私のデスクに押し寄せて何やら騒ぎ始めた。話を聞いてやると、私の車の下にもぐらの様な動物が死んでいるので片付けて欲しいという。私は「モグラくらい放っておけばいいのに、君たちは天使みたいに優しいんだね」などと嫌味...巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑦ペットを巡る不思議な体験第2話

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑥ 自動車を買い換えるタイミング 後編

    ご機嫌な彼らはバイクのエンジンを激しく吹かして騒音を立てながら「だったら俺たちに付いてくればいいよ」と親切にも私の車を先導するような体制を取り始めたのだ。改造されたオートバイの排気音は殊の外耳障りな上、暴走族御用達のラッパのようなホーンも鳴り響き、隊列を組んで先導する彼らの後を走る私の車は、端から見たらまるで族の一味か、もしかしたらグループの元締めの様に思われたに違いない。その時は「今警察がきたら大変だ」とか、あるいは早く警察が来てくれないものかと思いながらハラハラとして過ごした。5分くらい深夜の街中では大迷惑であろう騒音を撒き散らしながら一緒に走って、国道まで来るとおよそ15台ほどのバイクは快音を上げて去って行った。私は真の意味で解放され4時近くなって帰宅することができた。心身共に疲弊しきった私はフラフラと部...巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑥自動車を買い換えるタイミング後編

  • 2020年DVD鑑賞レビュー♪

    昨年は結構見てますな・・・といぅより運転中に音声で楽しむくらいですが。全てではありませんが、次男君のメモを頼りに書き出したのはコチラ。自分でもストーリーを書きたいんですが、ここのところでは「64(ロクロン)」と「追憶」の展開に感銘を受けたところです。ボキャブラリーはどうにもならないですが、いつの日かこんなストーリーを書いて、次男に映画化して欲しいw努力します!2020年DVD鑑賞レビュー♪

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑤ 自動車を買い換えるタイミング 中編

    私は足下すらおぼつかない其の2人に車から乱暴に引きずり出されて、自分の愛車が照らし出す20人ほどはいたかと思われる集団の前で座らされた。恐る恐る見上げると、バイクのシート上で横向きに足を組んだ、集団のボスらしき人物が少しにやけた表情で私のことを見下ろしていた。 「あんた、こんな時間に何やってんの」思ったよりも優しい口調で聞かれたので、私は懇切丁寧な言い方を選んで、サービス残業とテレビ番組のことを説明した。「ふざけんな!他県なんばーじゃねーか」例の2人組の内の1人が呂律の回らない口調で怒鳴った。ああ、そうか・・・。私が埼玉での仕事を辞めて実家に戻って3ヶ月程は経っていたが、億劫なナンバー変更の手続きをしておらず大宮ナンバーのままだったから余所者に縄張りを荒らされたという風に思ったのか。「いや、それは・・・」今度は...巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑤自動車を買い換えるタイミング中編

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙④ 自動車を買い換えるタイミング 前編

    1995年8月のある土曜日。当時、私は小学生から高校生を対象にした学習塾の鹿島教室長だった。勤務時間は午後1:00から9:00となっていたが、どの教室でも2~3時間のサービス残業はやっていた。この日は本部がある石岡教室で私は新規顧客創出の為の(物理的な)ダイレクトメール準備に手間取って石岡の事業所をとして夜10時過ぎに退勤し、なるべく国道を使わない、所謂「裏道」とやらを駆使して帰路を急いでいた。小川町から鉾田を抜け,国道51号に出て自宅のある鹿島まであと少しというところで、シルバーのGX71マークⅡセダンのカーテレビからは毎週楽しみにしていたカーグラフィックTVのテーマソングが流れてきてしまった。その頃はリアガラスの両端に両面テープで装着したダイバーシティ・アンテナを、トンボの羽のように広げて視聴するのが主流だ...巡り逢いの妙巡り逢いの妙④自動車を買い換えるタイミング前編

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙③ 「同期」=synchronizationの不思議

    とかく最近の端末というヤツには「同期」というシステムが搭載されていて、最初は何のこっちゃ分からずに余り活用しようと思ったことはなかったのだが、最近ではスマホで撮影した写真や動画がドンドンとグーグルのサーバーに自動的に転送されるようになって、いちいちスマホのSDというのを抜いてPCに接続する必要性がなくなって非常に便利なことに気付いた。このシステムは実に快適。特に動画に関しては私が利用するアンドロイドのスマホとウィンドウズの相性が悪く、ムービーメーカーで編集しようとすると不具合が起きて諦めていたところだったのだが、この「同期」とやらで転送された動画ファイルは同様に編集しても何の問題なく使用できるので、何よりそれが1番助かっているところだ。いや,今回、この「同期」という話題を持ち出したのには別にその便利さを伝えたか...巡り逢いの妙巡り逢いの妙③「同期」=synchronizationの不思議

  • 巡り逢いの妙巡り逢いの妙② ペットを巡る不思議な体験 第1話

    偶然だとか思い過ごしだとかで片付けられてしまうのだろうが、とかく私の人生には未だに解決に至っていないミステリーがいくつも犇めき合っている。私が大学を卒業して渡英する前の年の夏、姉が飼っていたポメラニアンのチャーリーが死んだ。姉が飼っていると言っても、毎週日曜には職場に向かう途中に私達に預けられていたから、チャーリーは私達家族の一員だった。死ぬ数日前に左前足を引き摺るようにして歩いていて獣医に見せたが原因が分からぬまま、ある朝姉が住む北越谷のマンションのリビングで死んでいるのが見つかった。犬にはよくあることらしいが、当時一般的だった40cmほどの高さのある木製ステレオスピーカーの後に身を隠す様にして事切れていたという。姉から電話をもらって、私は車で20分ほどの姉のマンションへ急いだ。到着した時には既にチャーリーの...巡り逢いの妙巡り逢いの妙②ペットを巡る不思議な体験第1話

  • “サイレント・トーキョー”を観て興奮が収まらない!!

    エゴイスティックなレビューはコッチに書きましたw「シックス・センス」「永遠の」「64」に続いて、自分が目指したいストーリー展開。「AreYouWimpy?」はマダマダだなぁ・・・。“サイレント・トーキョー”を観て興奮が収まらない!!

  • “Are You Wimpy?”映画化妄想の日々w

    “AreYouWimpy?”を時系列で再編して細かな修正を加えて・・・原稿用紙250枚分くらいになることが発覚。結構たくさん書いていたんだなと感慨深かったですが,元々書き始めた段階で,小説なんか書いたこともないワタシがひたすらに脳裏に浮かぶ映像だけを「ボキャブラ地獄」に陥りながら作文したものだから,時を少し置いて客観的に読み直すと,自分でも「?」って思うトコがイパーイありました(爆いろいろと訂正して完成し,ダメ元でとあるコンクールに提出してみました。身の程知らずもいい所です。落選した段階で,ココに上げる予定ですので,出入りしてくれている皆さんはお楽しみに。取り敢えず,自分なりにまとめ終わったなぁって感じがするので「巡り逢いの妙」シリーズも再開しなければ。それに,「TOPSECRET」ってシリーズの構想も。「いい...“AreYouWimpy?”映画化妄想の日々w

  • ここんところ「AreYouWimpy」を自分で読んでたら・・・

    面白い様に細かい矛盾点やら気に入らない表現とか凡ミスが発覚。何しろ30年程前の話なんで・・・(´艸`)ここんところ「AreYouWimpy」を自分で読んでたら・・・

  • 巡り逢いの妙① 姓名の縁(えにし)

    時は戦国時代。1575年の長篠の合戦で甲斐の武田軍が織田信長公の鉄砲隊に惨敗を喫したことは有名ですが,ここに不思議な縁を辿る夫婦の話をしたいと思います。武田軍の配下に木曽義昌公という方がいらっしゃいますが,この方は平安時代末期に平家を滅ぼした源氏の一族だった木曽義仲公の子孫ということになっております(諸説ございますが)。そしてその奥方であらせられますのが武田信玄公の三女,真理姫でございました。しかしながら長篠の合戦後,かつての勢力を失いつつあった武田氏を裏切って織田側に寝返ってしまったということは余り知られていません。1992年の大河ドラマの中でも緒方直人さんが演じる信長公が「木曽義昌が寝返って我らを案内する」と言う場面があります。真理姫を娶るいきさつでも戦で破れた木曽氏が降伏していますから,自然の流れと言えば...巡り逢いの妙①姓名の縁(えにし)

  • 45. ビクター

    手紙を読み終えて一呼吸置いてからページを揃えて元の通りに畳んでいると,ニコニコと微笑みながらハーデット氏は幸せそうに話し始めた。「こんな手紙を息子から貰うなんて・・・」3年ほど前,ジェイソンは大学を出るとすぐに軍隊に志願したのだという。それはハーデット氏にとっては思いも寄らないことで,最初は強く反対したが,強気の息子を宥めることができなかった。それで仕方なく,軍隊の厳しさを身に染みて分かっている彼が根回しをして,安全な事務職に息子が配属される様に画策した。そのことが返って息子の気持ちを逆撫でして親子の関係に多少なりとも亀裂が入った様だ。以来,ジェイソンは父親との連絡を絶ち,まるで反抗するかの様に敢えて危険な任務に就く事を希望し続けたそうだ。それでも,この年の最初に勃発した湾岸戦争で,彼が所属する部隊への派遣命令...45.ビクター

  • 44. 親愛なる父さんへ

    父さん,達者ですか。今頃はお祭りで賑わっているでしょうね。実は怪我をして今は病院で治療を受けています。怪我とは言っても,病院で知り合った男の子は片方の足首を切断した上,両親とも死に別れたというから,それに比べたらこんなのは怪我の内に入らないかな。いずれにしても,これじゃ文字通り仲間の足を引っ張る様なものだから,歩けるようになったら来月帰国しようと思う。何も断らずに軍を辞めたことは申し訳なく思っています。でも,僕は何も後悔していないし,こちらで過ごしてきた数か月はとても充実していたし,振り返る度に僕は幸運に恵まれているんだと本気で感じているんだ。何しろ,Wimpyに会えたんだからね。これは奇跡に他ならない。彼に出会うまでの僕は,ライフルと弾丸があれば,自分は無敵だと教わって生きていた。それは勿論軍隊でのことなんだ...44.親愛なる父さんへ

  • 43. 13日の金曜日

    男の前にマシューが立ちはだかるのとほぼ同時に相手の連れが後ろから大男を抑え込むと,ベンとカリンが両側から僕のことを支えてくれた。ブランズウィックにはガードマンがいなかったから,バーテンダーが2人共カウンターの外に出て仲裁に入るべく声を荒げていた。「まぁ,両方とも落ち着いてください!皆さんも」突如として大男と僕の間に,ネクタイ姿の男性が割って入った。白髪を綺麗に整えてスーツを完璧に着こなした,60代・・・そう,すぐ傍らで抱き合ったまま事態を見守っているナイト夫妻とほぼ同年代の男性が,怒れる大男を宥める様に丁寧な発音で語りかけた。「あなたがお怒りになるのもごもっとも。名誉棄損というわけですね」「そうだっ!そいつが始めたんだ」「失礼,私は弁護士です」男性は大男に名刺を渡して続けた。「この方を訴えると?」「勿論だっ」「...43.13日の金曜日

  • 42. 血の色と味

    “Dream,dream,dream,dreamDream,dream,dream,dream・・・”12月13日。僕たちは久しぶりに皆で集まってブランズウィックで寛いでいた。海側のエントランス手前に設置されたジュークボックスからは,僕がリクエストした“EverlyBrothers”の名曲が流れている。ナイト夫妻も大いに喜んで,そそくさとパイントグラスを立ち飲み用のテーブルに置くと,カウンター前で2人で踊り始めた。店は例の如く混雑していたが,2人の上品なダンスに誰もが心を奪われて場を囲む様に広がったから,いつの間に舞台が出来上がった。「ねぇ,私達も踊る?」カリンが悪戯っぽい眼差しで僕に声を掛けた。「じゃあ,今度,君と2人だけの時に」そう言ってはぐらかしてから,僕はナイト夫妻のダンスを眺めて曲を聴いていた。カリン...42.血の色と味

  • 41.いさかい

    「そんなこと頼めないわ!」「僕が直接頼んでみる」「だめ!反対よ!」「頼んでみなきゃわかんないじゃないか」「嫌だわ!!」そこまで怒りを露わにして怒鳴ったカリンを後にも先にも僕は見たことがない。一緒に暮らし始める前から僕たちは穏やかに過ごしてきたし,新しいフラットでも仲良くやってきた。しかし,この日ばかりはカリンが真っ赤になった顔を激しく強ばらせて大粒の涙を零しながら全身を震わせていた。発端は教会のボランティアに再度参加したいという僕の呟きだった。その頃になると,アジャの国の荒廃ぶりに同情した多くの若者達が義勇兵として戦地に赴くのが全英の社会問題になっていた。大抵の場合1ヶ月もしない内に骸となって帰って来て,ブライトンでも数件の葬儀を見かけた。それ程までにその国が歴史的な混沌の中を必死で藻掻いている様子は,もはや新...41.いさかい

  • 40.戦士の肖像

    9月2日。かくして僕はカリンと地元のカレッジに通うことになった。教頭のムーディ氏は日本のユニバーシティを卒業している僕の入学については手続きが不可能だとは言いながらも,所謂「聴講生」としての通学は許可してくれた。通ってみれば楽しいもので,コミュニティカレッジの性格上ヨーロッパからの留学生も僅かながらいたし大半が地元のイギリス人で年齢層も広かったから,以前通っていた語学学校に比べれば何倍も有意義な時間を過ごすことができた。自転車での通学は急な坂が多い街中では少々骨を追ったものの下り坂を風を切りながら走る時はこの上なく爽快だった。カリンとは選択している授業時間が区々だったから一緒のクラスで学ぶことがない上に登下校の時間も別々だったけれど,朝食と夕食は2人で仲良く食べた。特に夕食では週に数回は例のケバブで済ませる事が...40.戦士の肖像

  • 39.一筋の光

    8月も下旬を迎えようとしている頃,その年の夏の暑さはテレビのニュースで「外出すると癌になる」といったレポートが毎日伝えられる程,例年のものに比べて熾烈を極めていて木陰にいれば涼しいという定説も崩される有様だった。僕は6月いっぱいで語学学校も終了していたから,帰国してからの3週間程の間は特に何をするでもなく毎日を無為に過ごしていた。学生時代に塾講師のアルバイトで貯めた資金も大分残っていたし,せいぜい住んでいたフラットの家賃よりも安い住処を探すべく動き始めているくらいだった。それだって実を言うと,邦子と直美が僕のフラットを気に入ってしまい2人でシェアして住みたいという話が出て,ベンが知り合いの不動産屋を紹介してくれたのがきっかけでもあった。以前以上に僕のアパートで過ごす時間が多くなったカリンも思いの外乗り気で,ウィ...39.一筋の光

  • 38.運命

    ブランズウィックで飲み直そうと提案したのは僕だった。海辺にあるブランズウィックの方がやはりのんびりと寛げたし,自分のフラットから歩いて10分ほどの所だという安心感もあった。それに,日本から来た“OL”だという彼女たちもイギリスに来てほんの数日で実は語学学校も住む場所も決めていないという状態だったから,僕が通っていたホーヴ駅近くの学校や比較的安価なフラットが並ぶ通り等についても興味があるみたいだった。ブリティッシュグリーンのメトロというマシューの小さな愛車に乗りこんで移動することになった。見た目からは想像出来ない程室内が広く,後部座席の小柄なベンが王様になった様な態度で邦子と直美の隣で満足そうに座していた。ブランズウィックはKing&Queenに劣らず多くの人で賑わっていた。車から降りてすぐに何ともいえない胸の苦...38.運命

  • 37.King&Queen

    僕は小さめのボストンバッグを右肩に掛けて約束の場所へと急いだ。駅前のトラファルガーストリートを5分ほど西へ,クイーンズロードを左に折れて更に5分ほど行くと右手に貴族の紋章の様な釣り下げ看板が目に入る。扉は開け放してあるから,通りにもバンドの生演奏の音が響き渡っていて,歩道の人も一瞬興味深げに中を覗き込んで確認する。自分も最初にここを訪れた時は同じような感じで,正直に言うと,ホーヴにあるブランズウィックというパブに比べれば居心地はよろしくない。それでもKing&Queenは大盛況の賑わいを見せていた。僕は約束通り彼らは来るのだろうかと半信半疑で身体半分入店させた状態で,まだ7時前だというのにパイントグラスを片手にご機嫌に語り合う人混みの中に2人の姿を探した。響き渡るサキソホンのフレーズに注意を奪われた途端,バンド...37.King&Queen

  • 36.告白

    教会に到着したのは午後6時前だった。前席越しのフロントガラスの向こうにニコラス牧師とカリンが出迎えているのが見えた。彼らが待ち構える歩道近くに車が静かに寄せられると,ドーバーから無言で運転してきた牧師が穏やかな声で「到着しました」と言いながらドアロックを外してくれた。僕が礼を述べながらドアを開けて降りようとした時,僅かに車が下がってサイドブレーキのギーという音が聞こえた。ニコラス牧師は真っすぐにコチラを見据えて小さく会釈をした。僕はドアを閉めて彼の前に立ったが何を言うべきか思いつかず,ただ「ハロー」とだけ言って顔を覗き込んだ。「手帳をお預かりします」ニコラス牧師からそう言われて,荷物から雨や土を含んでブアブアにふやけたノートを慌てて取り出したが,僕は一瞬それを渡すのを躊躇した。そのノートは元々アジャに手紙を書く...36.告白

  • 35.名前

    8月4日,土曜日,午後2時。僕は既にドーバーに向かうフェリーに乗っていた。往きの旅で一緒だったイギリス人二人もブリュッセルから一緒だった。防弾ベストやヘルメット,泥や汗や血に塗れた“作業着”のことが不思議なくらいに懐かしく,ふわふわとした軽い体に重力すら失ったかの様な違和感すら覚えて,僕はぎこちなく船上の旅の中にあった。もはや,そこには黴臭い土や金属と硫黄の混じった殺し合いの臭いもなく,ただ少しだけじめりとした夏の潮風の香りが僅かに漂っていた。旅の途中で遇った幼い不思議な兄妹のことを思いながら,上空を漂う雲を見上げては時折目を瞑って,果たしてそれが現実だったのか夢だったのか漠然と考えていた。同行していた牧師は,イギリス人らしい丁寧な発音で細かく指示してくれたが,僕たちに名乗ることはなかった。でも,出会いが別れの...35.名前

  • 34.小さなアジャ

    僕は左膝を抱えて,トラックの荷抑えに持たれながら薄っすらと開いた瞼の向こうに広がる星空を見上げながら微睡んでした。時々小さくヒョコヒョコと荷台は持ち上がったが,それほどスピードも出ていなかったから心地よい安らかなひとときを過ごしていた。トラックが巻き上げる土埃と排気ガスが混じった臭いが自分の体臭を緩和する様に漂っている。森を抜けると少しずつ建物の輪郭が目立つようになった。鉄で拵えられた荷抑えの隙間から三角形の屋根がいくつも見えたが,どの家にも明かりがなく,まるでゴーストタウンの様に集落は静まり返っていて,トラックの重たそうな走行音だけが響き渡っていた。突然リアノが運転席の後ろ側の鉄板を拳で数回叩いてトラックが急停止した。リアノは素早く立ち上がると荷台から飛び降りてから運転席を振り返りながら子供の声まねで「ナンバ...34.小さなアジャ

  • 33.天国への入り口

    僕は夢を見なくなっていた。あの頃は現実が過酷になっていたせいか,唐突に睡魔に襲われ気づくと,ワープした様に目の前の景色が変化している,といった感じで,自分でもいつ眠って目覚めたのか区別がつかない様な毎日を送っていた。どのくらい時が流れたのか,ついさっき自分が何をしていたのかもあやふやな,言ってみれば現実そのものが夢の中の出来事の如く存在していた。ある夕暮れ時,イーゴと一緒に埋葬した写真の中で楽しそうに微笑むアジャとイーゴを思い浮かべながら,僕はホスピタルの2階から向こう側を流れる河を眺めていた。こちら側は河に沿う様にして大きな通りが見えたが,向こう側には靄が立ち込めていて,薄っすらと森のシルエットが確認できた。あの川を渡れば,アジャの命を奪った敵の拠点に辿り着くはずだが,当然の如く橋は破壊されていたし,かつては...33.天国への入り口

  • 32.出会い

    「やぁ,お帰り,ソーヤン」ナイトさんが火を焚く手を止めて穏やかに話しかけると,奥さんもこちらに微笑みかけた。「ナイトさん,本当にありがとうございます」「自動車のことかい」「ソーヤン,電話しようと思ってたのよ。その顔はどうしたの」僕が眉の傷を触ると,老夫婦は少しだけ間を置いてから続けた。「まぁ,先ずはきちんと着替えてカリンと一緒に来なさい」「そんな恰好じゃまだ寒いでしょう,しょうがないわね」僕は嬉しさの余り興奮していたから2人の戸惑った様子の意味がすぐには分からなったが,自分がズボンも靴下も履かずにコート1枚だけの奇妙な服装であることに気付いて慌てた。ベンとマシューが大笑いして,少し遅れてナイト夫妻もクスクスと笑った。気温が低く,皆白い息を吐いていて,その様子が逆に僕の心を温めてくれる。皆生きているんだ。「すみま...32.出会い

  • 31.クリーム色のミニ

    ジリリリリという古臭いベルの音で僕は現実に無理矢理呼び戻された。カリンが眠たそうにゆっくりと身体を捩らせながら可愛らしい欠伸をひとつする。僕は寒さで鳥肌の立つ両腕を摩って温めながら玄関に向かった。「・・・だれ?」カリンが僕の方に腫れぼったい目をうっすらと開けて尋ねたので,僕はただ微笑んでからインターフォンのスイッチを入れた。「無事に戻ったんだってな」ベネディクトの陽気な声がスピーカーの音を割る程の勢いで部屋に轟いたもんだから,カリンも僕も思わず吹き出した。もう午後2時を過ぎていたけど吐息が小刻みに白く部屋に舞うほど気温は低かった。「すぐ行くよ」僕はそう答えてからガスストーブのハンドルを2回ほど回して点火するのを確認すると,玄関にかけてあったお気に入りのダッフルコートを羽織って一旦振り返った。「ちょっと行ってくる...31.クリーム色のミニ

  • 30.永遠

    「あれからイーゴさんが楽しそうにお話ししてくださって」イーゴはベッドに着くまでには正気を取り戻して自分のことやアジャや僕の話をパオラに語った。パオラがイーゴの看護に付いてからの数週間,彼はただ生きた屍の様にだた息をしているだけだったから,彼女は嬉しさというより驚くばかりだったという。2時間ほど独り言の様に楽し気に語りつくしてから,イーゴはそのまま眠りに就いた。眠る直前,イーゴはお守りを手に取って,「これをソーヤンに返さないと」と呟いたらしい。それにアジャの血が染みついていることも,どんな風に亡くなったのかも話そうとしたが声を詰まらせて,そのまま眠った。「まるで,あなたを待っていたみたい」「イーゴ・・・」イーゴはげっそりと衰弱しきっていたが,ベッドに横たわるその表情はとても安らかだった。胸の上で組まれた両手の傍に...30.永遠

  • 29.イーゴ

    「イーゴなんだな?」その青年は骨と皮だけになったと過言ではないくらい痩せ細った両手を自分の股の間にダラリと下げて,うつろな目で空を見上げたまま何も答えなかった。そこには2か月前のイーゴの面影は皆無だったが,その眼は確かにイーゴだということを僕に確信させた。「お知り合いですか」今度は看護師が驚いて尋ねた。「この方,イーゴさんとおっしゃるんですね」「妹は?」「妹?」「ああ,彼には妹がいるんだ」看護師は困った表情でイーゴを見下ろした。僕は胸のポケットから写真を取り出して彼女に渡した。看護師は写真を受け取って数秒間見つめてから首を振りながら戻した。「残念ですが」「何があったんだ?」「私も詳しくは存じ上げないのです」 僕はしゃがんでイーゴを見上げながら,写真を彼の鼻先に突きつけた。「アジャはどうしたんだ」僕は震える体を何...29.イーゴ

  • 28.僕たちの仕事

    「我々の仕事はあっちにある。戻るぞ」思わせぶりなラファエルの態度に小さな苛立ちを覚えたが,ゲイリーをリアノに託してとにかく古参の彼の言う事に従った。同じ出入り口から建物の中に戻ると,医師や看護師たちが慌ただしくけが人の治療にあたっていて,人々の苦悶に満ちた呻き声や器材が立てるカチャカチャといった音に交じって時々痛々しい叫び声が聞こえた。すぐ向こう側でジエイとパトリックが患者の傍らにしゃがみ込んでゴソゴソと何かをしているのが見えた。 「この人たちは死ぬんじゃない」ラファエルが彼らに向かって歩き出しながら話し始めた。「名前くらいは聞き出せるんだろう」「確か,“カコセゾヴェテ”」「それでいい」近付くとパトリックが聖書を広げ祈りの言葉を唱えていた。僕たちに気付いたジェイが怯えた様子でゆっくりと顔を上げた。ジェイとパトリ...28.僕たちの仕事

  • 27.ホスピタル

    通りは騒然としていた。救急車が数台到着して怪我人をその場で治療したり2,3人まとめて搬送したりしている脇で,まだ勢いよく燃えている車に消火剤を巻いている兵士も見えた。亡くなった市民もトラックを使って一旦病院まで一斉に運ばれるので,僕たちは躯と化した重たい屍をトラックの荷台に載せる仕事を手伝わなければならなかった。燃料や車体が燃える嫌な臭いとカラシニコフの弾薬が残した微かな硫黄の薫りが漂っていて咽る程だった。大人だろうが子供だろうが,遺体はどれもズッシリと重たく,関節という関節が定まらなかったからグニャリと折れ曲がって運びにくかった。しかも路上には細長いカートリッジが無数に散らかっていて,間違えて踏んづけてしまうと,まるでローラースケートを履いているみたいにズルリと足ごと持ってかれてしまい何度も転びそうになってし...27.ホスピタル

  • 26.神の息吹

    ゲイリーと僕は制止を振りきって銃声の方へ向かった。僕は数歩進む暇もなく,勢い良く流れ込んでくる人の怒濤から弾き出されて転倒した老翁を抱き上げ建物の陰に避難させた。振り返ると,駆け抜ける無数の人影の向こうで幼い男の子と母親を庇っているゲイリーが見えた。老人が怪我をしていないのを確認してゲイリーの方へ向かおうとしたが,すぐ近くで銃声が断続的に聞こえたのに驚いて老人を守る様に抱きかかえる様にして身を屈めた。20メートルくらい先に,何かを叫んでいるゲイリーのすぐ近くで警官の1人がライフルを水平に構えて何かを狙うようにして断続的に発砲しているのが確認できた。その不気味な喧騒は数分間続いた。何かを唱えながら包み泣いている老人と抱き合ったまま,僕は一歩も動けずにいた。夏の日差しは強いはずなのに,日陰に隠れていたせいで汗が冷や...26.神の息吹

  • 25.逃避

    1時間ほどすると,ごった返した人の河は途切れ始め,車列は再度舗装路へと戻って若干ではあるが快適さを取り戻した。それでも時折すれ違う車や一団を避ける様にして道を外れるもんだから,その激しい揺れの度に舌を噛みそうになりながら更に1時間ほど我慢していると,コンクリートだけで仕立てられた無機質な3階建ての建物の脇で車が停車した。僕たちが荷台から降りようとしていると,木材で拵えたライフルのオモチャを抱えた小さな男の子たちが3人,トラックの後ろ側に回り込んで何かを叫んだ。ゲイリーがとっさに両手を掲げて降参したので,僕もそれに習って子供たちに微笑みかけると,彼らが嬉しそうに「ダダダダ・・・」と口で銃声を真似ながら走り去った。道を行き交う車や人は疎らだったけど,辺りは有事とは思えないくらい静かで小鳥が囀りながら飛び交ってるのさ...25.逃避

  • 24.八百万の神々

    僕たちの護衛を担当することになっている義勇兵達は数日経っても到着しなかった。中々越境することができず,僕はアジャのことを考えながら少しずつ焦りの気持ちが強くなっていくのを感じていた。,避難している人たちとの交流は順調でやり甲斐は感じていたけど,日々絶えず運ばれてくる支援物資を整理したり配布したりで昼夜休む暇もなく働きづくめだったし,繰り返す単調な作業にマンネリ化も否めなかった。だから1週間程経った頃,数日以内に出発するかもしれないという知らせが入った時には皆一様に元気を取り戻した様な感じがして,不謹慎にも色めき立ったのを覚えている。僕たちは隣国の東端にある都市を目標にしていた。そこではかつての隣県との間で互いに国境を広げようとする散発的な銃撃戦が生じて安全が確保できなかった。既に現地に入っている他のグループの安...24.八百万の神々

  • 23.神様の気配

    僕たちは翌朝早くに難民キャンプある国境付近まで移動した。それは東西に長いこの国の東端にあったから,入れ替わりのグループが乗って来た草臥れたトラックに乗り込んで2時間程走ることになった。「さっき,何をしてたんだ?」「お守り代わりににね」ゲイリーに自分のピストルを見ると,彼の顔から一瞬笑みが消えた。「コレを交換したんだよ」僕がピストルをホルスターにしまってベルトをパチンと留めると,ゲイリーは俯いてため息をついた。その後僕たちは何も話さずに荷台で揺られていた。点在する集落の様な場所を通り過ぎたが人の気配を感じることができなかった。しばらくすると森が現れて,トラックのスピードが少しずつ落ちてきてやがて乱暴に停車した。複数立ち並ぶ白いテントには人が犇めき合っていて,車から降りるなり何もしていないのにあれよあれよと多くの民...23.神様の気配

  • 22.器

    7月中旬。僕たちは午前6時半発のフェリーに乗り込んだ。結局フェリーの上でも特に具体的な説明はなかったが,僕以外にベネディクト,マシュー,ゲイリーという3人,いずれもイギリス国籍の仲間がいて,スイスで簡単な訓練を受けてから様々な地域へ散らばる旨の予定が告げられた。「肉体はただの“器”だから,その使い方が自分達の課題なのだ」といった内容の説教を受けてから「万一に備えて」家族への遺書を書くように言われて,船旅を楽しむ余裕を一気に奪われてしまった。遺書なんて書くのは勿論初めてのことだったし,渡されたカードに両親や姉弟へ宛てた一言ずつを綴っていると死の恐怖が現実味を帯びて何だか悲しい気持ちになった。ドーバーまではそれぞれ別の牧師が同行して来たが,フェリーに乗ってからは物静かなフランス人が1人で僕たちの船頭を務めていて,淡...22.器

  • 21.カリン

    その日を境にカリンと僕は一緒にいることが多くなった。それは,お互いの存在がとても心地よく安心できるものだったというか,とにかく自然に僕たちは付き合う様になった。サンドリンが資格試験の勉強が大詰めになってブランズウィックに顔を出さなくなったから,2人きりでのんびりと飲む日が増えたのも成り行きだったのかもしれない。円山さんは学校へは顔を出さない日が続いて,自宅を訪問しても留守というか,何だか生活の様子が見られなくなった。流石に心配になった僕は,以前円山さんからもらった名刺を頼りに仕事先まで確認に行くと,既に退職をしたと聞かさて愕然とした。しかも,パリから帰国した週の金曜には手続きを済ませていたのだという。ほどなくして,円山さんの自宅には“FORRENT”という看板が掲げられ連絡を取るのは絶望的になってしまった。ガレ...21.カリン

  • 20.サンドリンへの手紙

    5月。円山さんの自宅からブランズウィックまでは5分ほどだった。6時を過ぎると店の外にまで多くの人たちが集まってくる。駐車場にも見慣れた車が駐車してあって,そこを見れば誰が遊びに来ているのかある程度想像できた。お金に余裕がある日本人の留学生も中古のアルファロメオやプジョーで乗り付けてスヌーカーやダーツに興じていた。入り口近くに設置してあるスロットマシーンの脇を通り過ぎると右手にダーツやスヌーカーのコーナー,左手にはテーブルが数脚置いてあって,一番奥がカウンターだ。左手にも駐車場に抜ける出入り口があるのだが,その手前のテーブルでサンドリンが黒ビールを飲みながら別の女性と歓談していた。僕はジーンズの右前のポケットに突っ込んだままの封筒を確認してからそちらに近づいた。サンドリンは先に僕に気づくと手を高く挙げて明るく声を...20.サンドリンへの手紙

  • 19.「愛」の本質

    ドーバーでフェリーを降りると僕たちは真っ直ぐに教会へ向かった。W.W.の仕事を完遂させるには書き溜めたメモを祭壇に奉納しなければならない。ブライトンまで2時間ほどかかったが,僕たちは日が暮れていく海を左手に見下ろしながら何も語らずに旅路を楽しんでいた。到着すると教会の入り口でニコラス牧師とカリンが出迎えてくれた。これといった儀式というものはなく,僕はアジャへの手紙用に買ったはずだった黒表紙のノートを差し出した。ニコラス牧師は両手でそれを受けとると軽く会釈をしてすぐに教会に戻って行った。最初は気づかなかったのだが,表門の脇で赤いウィンドブレーカーを着た若者がデイバッグを足元に置いて待っていた。牧師が運転席から後部座席に乗る様に支持すると,彼は笑顔で挨拶しながらカリンと僕の前を横切った。車はすぐにそのまま走り去った...19.「愛」の本質

  • 18.決別

    牧師が乗船の手続きをしている間,僕は待合室のベンチで7upをちびちびと飲みながら寛いでいた。目の前にあった公衆電話にテレフォンカードを入れたり出したりしながら険しい表情でドイツ人らしき親子4人が揉めている。とうとう父親が大きな声を出して2人の娘と奥方相手に騒ぎ始めたので,見かねた僕はお節介を焼きに立ち上がった。英語で話しかけたが反応がなかったので,スロットカバーを閉じてプッシュボタンの方を指差してやるとようやく理解できたらしく,満面の笑みで礼を言ってきた。僕にフランスのテレフォンカードの使い方を教えてくれた円山さんの笑顔が一瞬浮かんですぐに消えた。ラースに習った「テュース」という挨拶を思い出して言うと,親子の笑顔が更に強みを帯びて嬉しそうに「テュース,テュース」と繰り返してくれた。言葉が上手く通じなくてもこんな...18.決別

  • 17.ブライトン

    アジャ達を見送ってガトウィックから自分のフラットに戻って来たのは8時前だった。僕をフラットの前で降ろすと,何の余韻も残さず青いフィアットティーポは静かに走り去った。丁字路の先のビーチでは真っ青な空と交わる白波が何本も立っている。歩道に行き交う人たちのシルエット。連休明けのブライトンは忙しなく動き始めていた。僕が借りているフラットの隣でB&Bを経営するハミルトンという老人がいつもの様にエントランスで友人と歓談している。僕に気づくと,待ち受けていたかの様に元気よく声をかける。「よぉ,若造。久しぶりだな!」「元気だね」「ああ,チャンピオンの気分さ!」そのまま地下へ続く狭い階段を下りてフロントドアを開けると,丁度でかけようとしていた隣人が楽しそうに話しかけてくる。「あら,しばらく」「どうも」ようやくかび臭い部屋にたどり...17.ブライトン

  • 16.パリの風景

    賑やかな話し声で僕は目を覚ました。サイドテーブルに置いてあった小さな時計に目をやると8時ちょっと前を指している。昨夜は着の身着のまま熟睡してしまった様で,ホテルのセントラルヒーティングのお陰でホカホカとした部屋の中で快適な朝を迎えて気分は爽快だった。布団の上でヒトらしく眠るのも3週間ぶりだ。牧師は昨夜出掛けたまま戻っていない様子で,僕は半開きのドアの向こうから聞こえる賑やかな声に吸い寄せられるみたいにフラフラと部屋の外へ出た。入り口すぐ右手のフロントから威勢のいい声が聞こえた。「ボンジューフ️」反射的に片仮名の「ボンジュール」で答えると,フロントで歓談中だった若い男性2人が愛想の良い笑顔で話しかけてきた。何を言ってるのか全く理解できなかった僕は「メルシー」とだけ言ってから逃げる様にして階下へと降りた。急いで駆け...16.パリの風景

  • 15.後悔

    午後7時頃,まだ日が高いブライトンに戻り予定通り学校の前まで来ると,イーゴがたった一人重たい面持ちをして僕たちを待ち構えていた。僕たちが降車するとすぐイーゴが青ざめた顔でぽつりと呟いた。「明日帰らなきゃならない」一瞬時間が止まった様な気がした。受け入れがたい現実を突然叩き付けられて,誰もが言葉を失ってしばし呆然とした。「明日,朝6時,ガトウィック・・・」イーゴの言葉を遮るようにアジャが自国語で話しかけた。意味はわからなかったが声の調子から動揺と哀しみが滲み出ていた。イレイナも加わって3人がしばらく話し合っているのを円山さんと僕はただ見つめるしかなかった。イーゴが泣き出したアジャを抱きしめて頭をなで始めると,イレイナが僕たちへ近づきながら大きな深呼吸を1つして,決心した表情で語りかけた。「パリ,本当に楽しかったわ...15.後悔

  • 14.天国と地獄

    短い間だったけれど,25歳で最年長の円山さんを筆頭に,僕と同い年のイレイナ,1つ下のイーゴ,イーゴのガールフレンドでスイスフレンチのサンドリン,アジャと6人でつるむ様になって僕の留学生活はある意味充実することになったのだから,僕はイーゴとのいさかいに大いに感謝しなければならなかった。パターゴルフにも出掛けたしタミーバーガーやトッポリーノでもよく食事をした。毎夕ブランズウィックで落ち合って映画を見に行ったり海で景色を眺めたりして家族の様に何時間も過ごすことさえあった。唯一の問題はイーゴとイレイナの口論で,国の話になると決まって収まりがつかなくなる。そのうち英語が余り流暢ではないイーゴが母国語で話し始めるとイレイナも興奮して応戦するなんてことが時折あって,円山さんと僕が止めようとしても難しく,最後はアジャが涙声で説...14.天国と地獄

  • 13.アジャ

    4月。バブル景気は少しずつ後退し始めてはいたが,面接を受ければ就職先は簡単に確保できたので苦労はなかったし友人達も当たり前の様に内定を取って学生時代の終演をばか騒ぎで祝っていた。それでも僕は何となくそのまま生き方を決定してしまうのはつまらない気がして,突然決まっていた就職先を断って家族の反対も押し切り半ば無理矢理にイギリスへと渡った。外国への渡航は勿論,親元を離れて暮らすのさえ初めての経験だったので実際に日本を離れるまではワクワクしていたものの,いざヒースローに降り立ってみるといきなり辛苦を舐める様なことばかりが待ち受けていて徐々に最初の勢いを失っていった。自信があった英会話も入国審査官やタクシーの運転手から真っ向から否定される有り様で,何とかホームステイ先まで辿り着いて英語学校の入学試験を受けるまでには既にホ...13.アジャ

  • 12.非日常からの日常

    少女の屈託のない笑顔と人々の希望に満ちた「プリオテイ」という声が交錯する中で僕は起こされた。窮屈な後部座席で横になったまま牧師の優しい笑顔を見上げると,そこがパリだということとイギリスには翌日戻ることになったということが当たり前の様に伝えられた。どうやら僕はケルンのパブで寝入ってしまい,ラースやステファンに別れを告げることもなく,そのまま意識を失っていた様だ。ぼんやりとする頭を左右に振りながらスカスカのボストンバッグを右肩にかけ車を降りて謝ると牧師はニコニコしながら僕を案内した。僕たちは飲食店が立ち並ぶ賑やかな通りに面した細長い安ホテルの急な階段を上り2階のフロントで鍵をもらってすぐ真横の小さな部屋に入った。部屋にトイレは付いていたが風呂はなかった。しかも入り口のドアの立て付けが悪く鍵は意味をなしていなかった。...12.非日常からの日常

  • 11.プリオテイ

    少年の左足の足首は数本の筋肉繊維らしきものが剥き出しになっていて軟骨部分の周囲で何とか繋ぎ留められていた。それを見守っていたいたさっきの少女が嗚咽しながら自分のニット帽を脱いで少年の足首をつつんだ。ベージュのニット帽からはすぐに真っ赤な血が滴り落ちてきて,僕はこの子を抱いたまま数百メートル移動するのは難しいと思って途方に暮れた。いつもより狂暴な表情をしたビクターが黙って見守っていたが車両がギアを入れたような音を立てた瞬間叫んだ。「おい,あの子を乗せてやれ」天辺の兵士は相変わらず不機嫌そうに「タクシーじゃねぇぞ」と言うと,ビクターが「金は払うぜ」と言い返した。兵士はこちらをじっと見据えて顔面の雨粒を1,2度拭ってから,またケケケと笑いながら破裂する様なアラビア語で中の兵士たちに何かを言った。すると装甲車の後部ドア...11.プリオテイ

  • 10.ニット帽の少女

    その日はまとわりつくようなベトベトした雨が降っていてそこいら中に静かに横たわっている遺体から流れた血が地面に滲んでいる光景はまるで地獄絵図の様だった。僕たちはW.W.としての任務は果たせず,怯える一般市民7,8人を引き連れブリキに石が当たる様な甲高い着弾音にいちいちビクビクしながら背を屈めて横歩きに進んでいた。真っ白な装甲車は僕たちを庇いながらのろのろとずっと先の建物の方を目指していた。突然すぐ右隣にいたニット帽の15歳くらいの少女が僕の腕を力一杯引っ張った。僕は危険がないか様子を確認するのに必死だったから最初はその少女の手を払う様にして装甲車の進む方向に集中していた。すると少女が大きな声で叫びだしたので驚いて振り向くと,その娘が僕の斜め後ろを指差しながら何かを訴えている。現地語はいくつかの単語をしるくらいだっ...10.ニット帽の少女

  • 9.神様の居所

    ケルンには昼前には到着した。ゴミゴミとしてはいたが東京よりも洗練された近代的な町並みの中に浮かび上がるようにしてゴシック造りの大聖堂はあった。社会か何かの教科書で見たんだろうか,何となく記憶の奥底に眠っているものが脳裏に滲んできて「ああ,あれのことか」と実物の迫力に少しだけ感動した。平日だったせいもあって行き交う人たちは忙しそうに見えたが,そんなに混雑しているという程でもなかった。たった1500kmも移動すれば人々は背を低くして全力で走り抜けなければならない。ここでは寒そうにコートのポケットに両手を差し込んではいるが誰もが背筋をピンと伸ばして堂々と歩いている。楽しそうに歓談しながら手を繋いで歩くカップルもいる。秋空はどこまでも澄み渡っていてあの場所と同じ様な色をしていた。近づくにつれケルン大聖堂は天空にそびえ立...9.神様の居所

  • 8.冷めたインスタントコーヒー

    地面の向こう側で助けを求めていたガードマンが機関銃を置いたまま低い姿勢で自力で下がっていくのが見えた。さっきのパチパチという着弾音が激しくなっていった。痛みが酷かったせいで気力を失った僕はただ地面に突っ伏していた。僕が倒れていた場所は柔らかい乾燥した砂が深く貯まっていて顔の左半分が埋まってしまったけど,そんなこと気にしてる余裕もなく,ただガードマンの様子をじっと見据えていた。すると腰の辺りでベルトを真後ろからビュっと力一杯引っ張りあげられて僕は宙に浮いた。体重が50kgほどしかなかったからたやすかったのだろうけど,気づくと大人のももくらい太い腕に持ち上げられているのに気づいた。1,2秒フワリと宙を舞ってから放り投げられる様にして元いた場所に戻されて,ようやくさっきまで元気だったジェイが目をぼんやり開いたまま呼吸...8.冷めたインスタントコーヒー

  • 7.秋空とコーヒーと雨の音

    今回のミッションは前回に比べて熾烈を極めた。それは派遣先の内紛が激化したこともあったが,あの時は難民支援が主な目的だったから,僕たちW.W.はまだ生きている人たちのために働くことが多かったんだ。驚いたことと言ったら自分達に支給される食料が3日に1回ということと溜まった泥水ですら貴重な飲み水として水筒に納めなければならなかったことぐらいで,そんなのには10日も過ぎると慣れてしまった・・・。第一,食料といったってドッグフードみたいな缶詰がたった1個支給されるだけで,僕はそれをベルトにぶら下げたバッグに突っ込んでちょっとした時間にスプーンで2,3回口に運ぶくらいで落ち着いて食べてる時間なんてなかった。初めてそれが支給されたときは,まさかそれが3日分だなんて思ってもみやしなかったし意外に美味しかったから,円形に蓋を切り...7.秋空とコーヒーと雨の音

  • 6.セパレイト・ウェイズ

    昼前にオーストリアで1回,それからドイツに入ってから数回給油に寄ったのをおぼろげながら記憶している。夜だったか朝方だったか真っ暗な中1度だけ用を足しに降りたくらいで,あとはずっと荷台で頬杖をついてまどろんでた。あるいは熟睡していたのかもしれない。変なやつかと思うだろうが,トラックの荷台は意外に寝心地がいい。特に戦闘の心配がないトラックは快適だ。サスペンションのきしむ音は耳障りだがまるでゆりかご。ほぼ1日かけて僕たちはベルギーに入った。早朝4時くらいだっただろうか,町が目覚める前に僕たちは暗闇を手際良く移動した。僕らが荷台から飛び降りるや否や挨拶も交わさずにトラックは走り出した。こなれたもんだった。通りにはサブマシンガンを携えた警察官が2人立っていたが事情を知っていたのか何も気に留める様子はなかった。まぁ何もかも...6.セパレイト・ウェイズ

  • 5.予感

    ふと振り替えると,さっき僕に抱きついた兵士がヘルメットを脱がされて担架に寝ているのが見えた。大分落ち着いている様子だったのでほっとした。真っ白な顔で眠る躯にもう1度目をやった。衛生兵が2人がかりで遺体袋を準備していた。その傍らにライフルを構えたままぼーっと立っているリアノと目が合った。「よぉ,ウィンプ・・・」リアノの声にはいつもの勢いがなかった。「大変だったな」「ああ・・・」こんな混乱ぶりは別に初めてのことではなかったから細かいことは聞かなかった。ここでは作戦とか計画とかは余り意味をなさないし,ほぼ100%確実に「想定外」ということが発生する。大きく背伸びをしながら欠伸をしてグルリと見渡すと,そこいら中手当てを受けている兵士ばかりなことに気づいて一瞬たじろいだ。慌てて腕時計を確認すると既に10時間くらい経ってい...5.予感

  • 4.1発の銃弾

    人だかりは大きくなっていた。もう30人ほどはいただろうか。MPたちが到着すると少しずつ野次馬はほどけていったが,それでも衛生班のグループが作業をするのを数人の兵士が取り囲んで呆然と眺めていた。腕章をつけた大柄の兵士が黙って僕の胸を手の平で押さえるようにして制止した。その肩越しに床で大の字になって倒れている兵士が見えた。兵士は血溜まりのプールに浮かぶ様にしてヘルメットを深く被ったまま仰向けに倒れていた。まだ両方の鼻の穴からドボドボと絶え間なく血が吹き出している。目をつぶったまま安らかな顔をしていてまるで眠っているみたいだった。手元には自分の口の中で発射したと思われる92式ベレッタが無造作に転がっていて,衛生兵の一人が拾った薬莢を別の兵士に見せながら何かを説明していた。一瞬死んだ兵士が自分と重なって見えた。ああゆう...4.1発の銃弾

  • 3.夢の途中

    僕は昔飼っていた犬と散歩してる夢を見ていた。ポメラニアンのチャーリーは僕が渡英する数ヵ月前に12才で老衰のため死んだ。家族は僕が安心して出発できる様にチャーリーが気を遣ったんだと慰めてくれたけど,僕はチャーリーに生きていて欲しかった。それにチャーリーが生きていて日本で待っていてくれたら僕はこんな無謀な旅に出なかっただろう。チャーリーが向こうから全力で走ってくる。僕はしゃがんでチャーリーを迎えようとしていた。突然かんしゃく玉を踏んづけたみたいな乾いた発砲音が響いて目が覚めた。寝ぼけていたから何が起こってるのか検討がつかなかったが周囲が騒然となっているのはわかった。何時間眠りこけていたんだろう。僕が横になっている場所を左から入り口の方へ慌ただしく無言で走り抜ける人たち。攻撃を受けてるのか・・・。まぁ,それもありうる...3.夢の途中

  • 2.幸せなら手をたたこう

    2回目のミッションから帰国する前日,がらんとした体育館のような大きなコンクリート製の控え室のあちこちで僕なんかより若い兵隊たちがガチャガチャと装備の確認をしていた。何かの作戦の準備だろうか。どの兵士も少しだけ興奮しているみたいに頬や目の周囲が赤らんでるのがわかった。ユニフォームがまだパリっとしてたからほとんどが初陣なのだろうか。異様な緊張感が漂っている。「50人・・・2個小隊くらいだな・・・」どうせ小規模な作戦だろうと気にもとめなかったが,僕らと同じミッションで来ていた別のグループにリアノたちが同行することになったので見送ろうと思っていた。それでも,僕たちは長い旅から徒歩で辿り着いたばかりだったし,この数日間はカビの生えたドッグフードみたいな缶詰1個を騙し騙し食うだけの生活だったから辟易してダラリと座り込んでい...2.幸せなら手をたたこう

  • 流れ星の夜

    誰かが寝ている僕の足元を軽く蹴った。それでも僕は眠くて眠くて,知らんぷりをしてそのまま目をつぶっていたんだ。そしたら,そいつはもっと力を込めて蹴り上げた。履いていたのは頑丈なブーツだったけど,流石に痛みを感じるほどだったんで,目を閉じたまま返事をすることにしたんだ。「なんなんだ?」「ウィンプ,起きろよ。流れ星だぜ」「流れ星?」背中が痛い。当り前さ。だって地面に寝てるんだから・・・。僕は少し目を開けて,そのまま日本では見たことがない満天の星空をぼんやりと眺めた。確かにほうき星がゆっくりと流れて行く。しかも3つもだ。「大変だ。願い事をしないと」もう体中が痛くて仕方なかったけど,僕はぴょんと飛び起きて,そのほうき星の方を見上げた。「ほんとだ。流れ星だ」そして突っ立ったまま両手を胸の前で組んで目をつぶって祈った。クスク...流れ星の夜

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