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それでも生きていこうか https://soredemoikiteikouka.hatenablog.com/

うまくは生きて来られなかった。馬鹿はやったけれど、ズルいことはしなかった。まだしばらくの間、残された時間がある。希望を抱けるような有様ではないが、それでも生きていこうか。

ジョバンニ中島
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2019/10/22

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  • 青みがかった暗がりの中、つくりものの星空が瞬いている。 「さわっていいよ」 女はくすりと笑って、並んで座った私の手を自分の太ももにのせた。効かせすぎの空調のせいで、タイトスカートからのびる素のままの肌はひんやりと冷たかった。 飲み屋の女の割には、華やかさのない女だと思っていた。愛想笑いが下手だし、受け答えも生真面目すぎる。でもそんなところが、私は好きだった。 「田舎にね、蛍が見れる川があった」 天井を見上げる横顔を、初めて美しいと私は思った。 「なつかしいなあ」 彼女の名はまどかといった。東北の震災で失った物事はいくつかあるが、彼女はそのうちのひとつだ。 S市で働いていた30代半ば、私はサラリ…

  • かげろう

    S市の有名な繁華街の入り口に、くろだという焼き鳥屋がある。今の世のネット検索で調べてまともに出てくるのか、どうか。やってみたことはない。 愛想笑いのやりかただけは一応知っているというような大将と、黄ばんだこけしのような女将、そしておそらく少し発達障害がある、すでにいい歳の娘がやっている店。昔は息子が焼き場をやっていたが、いなくなった。小路に入って十字路の角。古ぼけた名入り行灯の電気が消えていれば、その日は休みだ。前触れも何もない。 私を初めてその店に連れて行ってくれたのは、社会人なりたての頃に働いていた会社の上司だった。もとは東京の人間だ。アイビー調のファッションにこだわりがあって、いつもそん…

  • 蜘蛛の糸

    「いつになったら収まりますかね。この揺れ」 若い部下が青白い顔をして、俄かに冬に逆戻りしたようなどす黒い雲を見上げた。家族に電話が通じない、と呟いた。 私は生返事をしながら、ふわふわ波打つように感じる足元のアスファルトを見つめていた。平成23年の3月11日の夕刻、東北はS市中心部の街路は、オフィスビルから逃れ出た人々で埋め尽くされていた。本震から1時間以上経ち、余震の揺れが襲うたびに上がる悲鳴が、もはや慣れたのか疲れたのか弱まってきたようだった。 東日本大震災。S市の出身で当時もS市で暮らしていた私にとって、人生の転換点になった事は間違いない。周りには命を落とした人も、家族を亡くした人も、家屋…

  • ミミズの夢

    人生にはいろいろあるさ、うまくいく事ばかりじゃないと、それこそ数えきれないくらいの先人が言い遺して来ただろうし、もしこれを読んでくれている人がいるとするならば、そのあなたもそう感じたことが幾度かはあるのかもしれない。 でも、うまくいかない事が多すぎるなら、それは自分自身のせいだ。 私はジョバンニ中島。いわゆる仕事に成功することにも、男として強く在ることにも、もしかしたら優しく在ることにも失敗した男。 運がいいとか悪いとかというのは、いつ頃からか、いちいち考えなくなった。無限責任という言葉があるが、私に能力と機転がありさえすれば、何か策を講じることが出来たのではないかと思うことはよくある。まるで…

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