蛍
青みがかった暗がりの中、つくりものの星空が瞬いている。 「さわっていいよ」 女はくすりと笑って、並んで座った私の手を自分の太ももにのせた。効かせすぎの空調のせいで、タイトスカートからのびる素のままの肌はひんやりと冷たかった。 飲み屋の女の割には、華やかさのない女だと思っていた。愛想笑いが下手だし、受け答えも生真面目すぎる。でもそんなところが、私は好きだった。 「田舎にね、蛍が見れる川があった」 天井を見上げる横顔を、初めて美しいと私は思った。 「なつかしいなあ」 彼女の名はまどかといった。東北の震災で失った物事はいくつかあるが、彼女はそのうちのひとつだ。 S市で働いていた30代半ば、私はサラリ…
2019/10/23 23:17