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2019/07/25

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  • 「秘苑(ビウォン)の華」52

    ──世子様、何処を歩いているのか分からない。足元では、降りしきる雨のせいで萎びきった草がぬかるんでいる。歩を進めるたび、浅めの靴の縁から入り込んだ雨水が足元を冷やしながら背筋を走っていく。それなのに──なぜこんなにも心地よいのだ。ユンホは頬骨を滑り落ちていく雨粒を、愛しげに指先へと促した。頭上からは、木の葉の隙間から滑り落ちた雨粒が笠子帽を重くしている。──そうか、ここは…嘗ての秘苑だ、と頭上を見上げた...

  • コメント返信

    拍手、ご訪問ありがとうございます(^O^)放置していた期間のコメント、全て返信出来てなくてすみません(´;ω;`)応援ありがとうございますm(_ _)m>mikmikさん若頭ミンホ萌えてくださりますか!!!ですよね!!萌えますよね!!(*´ω`*)さっそくお話練り練りして、、、でも連載多いので、そっちを進めてから、、頑張りますね!コメント嬉しかったです(*^^*)また遊びにいらしてくださいね(*˘︶˘*).。*♡>なるいさんお久しぶりです!秘...

  • 生存報告

    今まで放置していたのに無言で更新してすみません(^o^;)たくさん読みに来てくださってありがとうございます(^^)別の創作活動、絶賛活動中で全く落ち着いていないんですが、あっちばかりしているとストレス溜まってくるので、こっちの小説も無理矢理時間取って書いていこう、と決めました。多趣味はこれだから…と自分に呆れています。ゲームも大好きなので、常に5つぐらいゲームを掛け持ちしつつ(主にスプラ○ゥーンとか刀剣○舞とか...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』49

    「驚いただろう?これほどまでに豪華な建造物は見たことがない」「世子様……、」言葉を失う他無かった。思いっきり胸ぐらを掴まれているような息苦しさと、目眩を覚える。格子の向こう側に広がるのは、澄み渡る青空の下、静かに佇む街並みは平和そのもので、焼け野原になった母国とは雲泥の差がある。あの惨状に対する怒り、悲しみ、憎しみ、無念──それ以外の感情など、元より無かったと言っていいほどであるのに、その繁栄を感心す...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』48

    「世子様は今何処に」「お会いになりますか?世子邸下に」穏やかな表情を浮かべたハユルが返事を待つ。だが、ユンホはひと呼吸置いて、彼に向き直り、言葉を続けた。「お会いになれるのか…?捕虜と言えども此処は敵陣であろう。何故、私はこんな場所に居られる?何故、罪人のような扱いではないのだ?」降倭※の多くは、鉄輪をはめられ逃げ出すことも出来ない状態にされたうえで、その身分を賎民とされていた。人権など有りはしなか...

  • 「秘苑(ビウォン)の華」47

    見慣れぬ濃い色の木目の渦が、見下ろしている。身体が怠く、濡れて床に張り付いた塵紙のように動かなかった。瞬きを数回し、視線をゆっくりと下げていく。襖に描かれた繊細な筆使いの松の枝を描く墨の滲みが、足元から照らされる仄かな橙色に色付いていた。嗅いだことの無い香りが立ち込めている。なんの香りかとユンホは思考を巡らせた。何かの植物の香りに思える。煎じ薬のような──「お目覚めになられましたか」手拭いを腕に引っ...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』46

    「ユンホ、聞け。私達を倭に差し出したのは、我が民だ」揺れる暗闇がさらに深い漆黒へと連れて行く。ユンホは、世子の唇から溢れたそれらに、息が止まりそうになった。今にも力尽きてしまいそうな魚のように口を数回動かすのがやっとだった。信じてきたもの、守ってきたもの、すべてに裏切られたような気がした。否、わかっていた筈だ。信じたくない、守ろうとしていた者達を信じようとずっと言い聞かせていたのだ。だが、釜山鎮の...

  • 生存報告

    すみません…m(_ _)m更新するとか言っておいて(言ったかな?)、もう仕事に創作に怒涛の日々でして…、しかも前回言っていた他の創作が暇にならず、今も絶賛活動していて…いつもは春過ぎると暇になるんですけどね(・・;)最近、ああ…トンの曲、聴いてないな…、と思い、ホタルの涙っていう曲を聴いてみたんです。そしたら、二人の声が脳内に溶け込むように流れてきまして…私はこの魅力的な世界を置いて、どこへ行っていたんだと思いまし...

  • hmn小説「理過ぐーコトワリスグー」19 最終話

    「全然怖くないよ、ユノ、ほら、こっち!」その場所に立つと、去年よりも川幅が狭まったことに気がついた。川は天候によって形を変える。去年の夏の終わりに来た台風のせいだろう。「魚、見えないけどー?」高い岩肌の上からでも、チャンミンは物怖じせずに下を覗きこんでいる。「魚が顔覗かせるわけないだろ。俺たちが喋ってる声も、向こうには届いてるから…、ほらあそこ、隠れてる」岩陰の小さな魚群を指差して、釣竿に巻き付け...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』18

    川へは、毎年夏祭りが行われている神社を通り抜けていく。蝉の声が、新緑の中、あちらこちらで聴こえてきて、夏の訪れを知らせている。街中には、昔は見られなかった電光掲示板が取り付けられたり、バス停やタクシー乗り場には、メタリックな輝きを放つ待合所が設置されたりしていて、少しずつ、都会から出遅れたピースを埋めていっている。だが、ここは以前と変わらない。「ここでもうすぐ祭りがあるの?」空を覆う新緑の木漏れ日...

  • コメントお礼

    >エノセラさん、あけましておめでとうございます(^^)サイトに足を運んでくださり、コメントまでありがとうございます(*´∇`*)エノセラさんのサイトにコメントを返しに行こうと思って、コメント欄まで行ったのですが、登録?しないとコメントできないことがわかり、、すごすごと帰って来てしまいました( ;;)アメブロ、登録してみようかなぁ……単体萌え!分かってくださいますか!?すっごく嬉しいです!単体萌えって悪くはないで...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』17

    「川なんてダメ。庭で遊べばいいじゃない。チャンミン、うちにもたくさん魚いるわよ?」魚類養殖を営む実家は、もうすぐ観光客で賑わう。母親はそのことが頭から離れないのだろう。エプロンのポケットに入れたメモを何度も出し入れしては、準備物のリストを指でなぞっている。おそらく、急に予約がたくさん入ったのだろう。そんな母親の正面では、チャンミンはようやく膨らますことのできた浮き輪を片手に、泣きそうな顔をしている...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』16

    熟した身体の内側には、まだ、あどけない子どものような純真な心が隠れている。それを忘れてはいけない。「……当たり前じゃないか」ユノが答えると、チャンミンは拍子抜けしたように口をあんぐりと開けた。この返事でいい、ユノは自分の心にそう言い聞かせ、心の陰りから視線を外した。「そ、……そう、だよね。僕のこと…好きじゃなきゃ、わざわざここまで通ったりしない…よね」立ち上がって、飲み干した紙コップを捨てに行くユノを見...

  • 今年もありがとうございました(*´`*)

    みなさん、なかなか来れなくてすみません(>_...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』15

    チャンミンのいる病院はアットホームな雰囲気で、長期入院の患者も多いため、施設内の設備は充実している。エントランスに入ると、カウンターで受付をして、備え付けのミネラルウォーターを紙コップに注ぎ、中庭の見える席に座った。毎週、同じ席に座る。今日、チャンミンは外泊をするから、降りてくるのに少し時間がかかるだろう。ふと、感じ慣れた感覚のせいで眠気がくる。この椅子は、大学近くのカフェの椅子の座り心地に似てい...

  • 『184㎝の拾いもの─65億分の1の必然─』23

    恋人や家族が危篤になり、今夜が峠と告知された親族のような気分で、僕は待合室で項垂れている。もう30分は経っている。診察時間が過ぎている為、待合室に人はいない。カウンター越しになんとなく声は届いてきているが、何を話しているかはわからない。先ほどまでの叫び声は静かになった。人一人とはいえ、大の大人だ。暴れれば、数人がかりで押さえるしかないだろう。なんだか疲れたな。ユノが自宅から逃走してからまだ数時間だと...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』14

    寂れていた駅は今年の改築工事により、色が明るくなった。剥がれそうになっていた壁も、錆び付いていた看板も、ところどころへこんだロッカーも、過去を忘れてしまったかのように全て新しくなった。だが、観光客用のポスターは綺麗な発色で、あの夏祭りの夜空を忠実に再現していた。小さな改札を出て、ユノはバス停へと向かった。チャンミンにメールを返信しながら。『ユノ、もう出たかな?』『今日、夕方から雨なんだって。釣りに...

  • 留守にしていてすみません(>_

    留守にして申し訳ありません。戻りました(>_...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』13

    「チャンミンさん、おはようございます。今日はユノさんとお出かけなんですよね」看護師がカーテンを開けながらチャンミンに聞いた。少し換気しますね、と窓を開けた看護師の向こうに、青葉を繁らせ始めた桜の木が見えた。チャンミンは今、病室のベッドに置かれた机に向かって、ノートに鉛筆を走らせている。この一年近くで言葉も随分追い付きつつあった。「ね、この問題、教えて」敬語はあまり使えない。意識はまだ、世間知らずな...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』12

    残暑を避けて二人で涼める場所へ落ち着いた。脚を川縁に浸していると、揺れる木葉から射し込む光がちかちかと瞬いて、まるで自分達のように囁き合っているように思えた。──ユノのいくばしょは、みんな、たからばこみたいだね。そう言って、頭上を見上げたチャンミンが眩しそうに目を細くして笑った。チャンミンと過ごした夏の終わりのあの日、きっと俺達はずっと一緒にいる、と根拠のない自信を持ったことを覚えている。彼の煌めく...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』11

    落ちる──そう意識せずにそこへ飛び込んだら、突如として、その振り絞った勇気が水の泡になって群れを無し、小さな子どもは自力では自由に動くことが厳しい環境になる。川遊びに慣れたユノですら、浮き輪を落としてから、飛び込むようにしていたのだ。飛び込んだ直後、予想以上に沈むから、水面からどのぐらい身体が離れているのかすぐにはわからない。泡に包まれて周りは見えない。落ち着いて、泡がどこへ向かうのか追わないと、上...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』10

    早く、早く一緒に見ないと、そればかり考えていた。自分達は今、離ればなれになってしまって大変だというのに、周りの大人、家族連れは自分達のことを見向きもせずに楽しんでいる。こんなにも人で溢れかえっているというのに、この異世界にひとり取り残されているような不安が、途端に押し寄せる。もう見つからない、いや、きっと見つかる、また手を繋いで──と、錯綜する胸の内が鼓動を速めていく。どうして?俺が手を離したばかり...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』9

    全て思い出したわけではなかった。断片的に思い出されていく記憶は、向きがばらばらの写真をいくつも頭上から散らされているみたいだった。そこには彼の夢も混じっていて、本当の記憶がまだ見つけきれていない。ユノは掴み損ねた手のひらを、見つめた。だが、夢は覚めていないらしい。ここはまだ病室の筈だ。それなのに、膝をついた感触が、そこらじゅうに散らばる小石で痛いし、通りすぎていく人々も変わらない。まだ祭りの会場に...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』8

    「……そうか。分かったよ、」チャンミン、とユノは顔を上げ、手を握り返した相手を見つめた。繋いだ手以外、一瞬にして情景は変わっていく。出店の明かり、頭上を彩る電灯、人々の瞳に明かりが宿り、一本道を現した。そして、黒い浴衣の絣の模様のひとつひとつが、辺りの煌めきで鈍く輝いた。少し長くなった栗色の髪が、襟足と瞳を隠している。俯いたまま、視線を上げようとしない。病室で眠っている彼と同じ。細身の身体の足元は、...

  • コメントお礼

    >みけやんさんホミンも読んでくださってるんですね…!ありがとうございます(*´∇`*)初連載なので、がーっと進めています(笑)最初はエロ無しのぬるめでいきますよ~っ(笑)(^o^)あはは、続き、読むのドキドキですかぁ~(^o^)うーん、ちょっと重めかなぁと思ったんですが、時期的にこういう話しか思い浮かばなくて(^_^;)ことわりすぐと読むんですが、まぁ、不思議な話と思っておいてください(´・∀・`)はい!ハッピーエンドですよ♪私は...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』6

    離れるのを拒むように、唇はほんの少しくっついて、名残惜しそうに薄い皮膚を引っ張りながら離れた。チャンミン、と息の触れあう距離で問う。「どうして、お前は話せないんだ?」まだ行列の舞いは続いていた。自分達だけが、お互いを視界に入れている。周りからはきっと見えない。何故なら、すでに大人の腰の高さにまで、お互いに幼くなってしまっているから。キスをした時に目を閉じた。きっとあの時に。「お前のこと、知ってる。...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』5

    「…お前、やっぱり、」近づこうとしたユノがぎくりと止まる。視界が低いのだ。背丈は高校生、否、それ以下。小学生とまではいかないが、行き交う人々を見下ろすことはできない。チャンミンを見ると、彼も同じく、少し低くなっていた。そして、若い。さっきは二十歳頃だったといえども、笑ったときのあどけなさが違った。じっと見つめるユノに、またチャンミンは小首を傾げて笑う。前よりも、もう少し髪に癖がある。襟足で丸まる髪...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』4

    一瞬、何が起こったのか分からず、反射的に半身を起こした。状況を飲み込めず、瞳は瞬きを忘れたまま、ユノは頭の中で思い巡らせた。一体どういうことなのか、わからない。夢にしては鮮明すぎる。「ユノ兄ー?」ふいに呼ばれて縁側を見ると、ハリルが覗いていた。「もう行くよ?」「……あぁ、」早く、と急かされて、ユノは無理矢理身体を起こした。自分が着ていた服と、今の服も同じ。彼は和服だった。早くぅー、と玄関の方でハリル...

  • コメントお礼

    >とんさんとんさん、はじめまして(*´∇`*)ドキドキしながら読んでくださったんですね。嬉しいです( ´∀`)ミステリアスな雰囲気ですか!素敵に読んでくださったんですね(^^)嬉しいです。「理過ぐ」は初めてのホミンの連載なので、ちょっと私もドキドキしてます(笑)(^o^)普通の恋愛にしておけばいいのに、どうしてもこの話を書きたくて(笑)(^_^;)暫くお付き合いくださいね(^^)ありがたいお言葉ありがとうございました(*´∇`*)また遊...

  • hmn小説『理過ぐ─コトワリスグ─』2

    「んな古くせーこと、やってんの、ここだけじゃねぇのォ?行くなら早く行こうぜ」祭りに行くから、と服を着替えさせられたユノは少しむくれていた。金髪に近いこの頭のことや、服装を注意された為だ。なぁハリル、と横に立つハリルに目配せする。まぁね、とそっけなく笑いかえされただけだったが、家族は黙々と玄関先に迎え火の準備をしていた。それを見守っている間に随分、祭りが賑やかになりつつあるようだった。遠くで太鼓や笛...

  • コメントお礼

    >なるいさんこんばんは、なるいさん!感想ありがとうございます(´;ω;`)嬉しいです!最後にperokoと書いてあったのですが、なるいさんでよろしいでしょうか?サメのチャンミン気に入ってくださって…(´;ω;`)書いてよかったです(。´Д⊂)そうなんですよ、ラストはどうしてもあーでないと私が納得いかなかったので(^_^;)気に入って頂けて本当に良かったです…!愛をこめてのほうも読んでくださったんですね(^^)ありがとうございます...

  • コメントお礼

    >yutorehitoさんFeeling、読んでくださってありがとうございます!(^o^)おもしろすぎ、と楽しんで頂けているようで安心しました…!それと、パスワード申請なのですが、本文にメールアドレスをお願いできますでしょうか??(>_...

  • パス申請

    夜更けにこんばんは(^^)サイト訪問ありがとうございます(*´`*)今回…R18頁をパスワード申請とさせて頂き、本当に申し訳ありません。こんだけエロを描き散らしてきて今さらなんだよ!と私も思うのですが…。実は、旧サイトではR18の他にもDeep小説や女体化小説など、普通のR18とはまた違った小説もありまして…。それを移転するかどうか迷っていたのですが、ショタ(勉強しましょうか?や勉強しなさい!)のエロ(挿入)は続きがあって、...

  • 通販発送連絡

    8月19日午前中までにご入金くださいました方々への発送が完了致しました(^^)到着まで暫くお待ち下さいm(__)mもし何かございましたら、ご連絡ください。...

  • 通販関係

    >8/17にお申し込みのぱちこさんへメールが戻ってきてしまいます。アドレスをご確認のうえ、お申し込みフォームから再度お申し込みいただくか、またはコメント欄のSECRETにチェックを入れて、アドレスをご連絡ください。よろしくお願いいたします。ご希望の本はすべてお取り置きできています(*´`*)アンリド...

  • 『魅する 下』通販書き下ろしsample 2

    『魅する 下』通販書き下ろしsampleです。夜になって、物の怪は寺へと現れた。チャンミンはいつものように濡れ縁に腰掛け、物の怪の姿を見るとゆっくりと立ち上がって微笑んだ。「こんな風に約束をして会うのは、初めてですね」傍へ寄ってきた物の怪はチャンミンから一歩離れて止まり、俯く。「…おからだ…だいじょうぶですか…」心配そうに眉を寄せ、小さく聞く。大丈夫ですよ、と頭を撫でると、びくりと身体を震わせ、所在なさげな...

  • 『魅する 下』通販書き下ろしsample 1

    『魅する 下』通販書き下ろしsampleです。「…少し寝ていましたよ」ユノが目を覚ました時、すでに夏祭りは終わっていた。チャンミンの胸から顔を上げた獣はひとつ伸びをして、ぶる、と毛を震わせると、程よく肉のついた身体をしならせて人の姿に戻った。あの老人の姿は、もう随分と見ていない。チャンミンを想う老人の存在を、少しでも彼に知らせたくて置いた彼岸花。それがきっかけとなり、繋がってしまった自分の存在。遠くから見...

  • 『海より深く、愛をこめて─泡沫の恋─』1

    通販本『海より深く』『愛をこめて』の番外編。ホホジロザメ(チャンミン)×人魚(ユノ)最近この辺り、ハワイ諸島沖で見かける一匹の「魚」が、とても美しいのです。雌なのか雄なのか分かりませんが、おそらく雄なのだと思います。何故なら、海底から見る彼の鱗が、水に揺らめく太陽の光を反射させ、ターコイズブルーに美しく輝いているからです。その鱗一枚一枚は、角度によっては、虹色にも見えます。大概の魚が、雄の方が雌を惹き...

  • 『Feeling』55 最終話

    「お前……、これはすごすぎなんじゃね?」俺が、好きだ、と伝えてから、一年が経ったらしい。ようやく引っ越しが終わった今日が、ちょうど一年前、俺がシムに告白をした日だとシムが嬉しそうに言ったのは、ついさっきの事だった。そんなことを噛み締めるように言いやがって、なんだか俺だけなんも考えてねぇみてぇでイヤだったから、なんでそれ早く言わねぇんだよ、と、記念日だからってサプライズとかする器量も技量も全く無い俺だ...

  • 『Feeling』54

    「……本当、」シムの表情が固まった。言葉も失ってしまったらしい。おそらくそんな言葉をいきなり貰えるとは思っていなかったからだろう。きっと、コイツとセックスし始める迄は、天と地がひっくり返ろうが、人類が俺たちだけになってしまおうが、そんなこと思いもしなかっただろうけど。「──……多分な。好きだと思う」この、たった一言で、コイツに幸せを与えられるのか。しかし、俺も色々終わったな、と思うのは、まだどこかで、俺...

  • 『Feeling』34【R18】

  • 『Feeling』33【R18】

    「大丈夫ですか…?」ユンホさん、ユンホさん、と遠くで声がする。瞼に熱を感じて、うっすら開いた。睫毛が濡れてて、視界が滲んでる。何度かまたたきすると、シムが心配そうに眉を下げて、見下ろしていた。なに?俺、死んじゃった?俺、眠いよ、なんだかすごく疲れたし。腕を持たれて引き寄せられると、シムと繋がったまま跨がって、抱っこの姿勢になった。肩口に顎を乗せて、だらりと力の抜けた腕はシムの腕に引っかかる。「ごめ...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし 第二部』15

    胸に抱いていた小虎が泣き止むと、するりと腕の中から抜け出して、再び薄いシーツの中で丸まった。小虎は亀のように動こうとせず、暫くは顔を布団に埋めたままだった。真ん丸の耳はしなしなとうつむき、長い尻尾はお尻の割れ目に隠している。今までは、何があってもケロリとしていた小虎だったが、落ち込むこともあるんだなぁ…とユノはその姿を微笑ましく思ってしまっていた。くすりと笑って、ユノは小虎の頭を撫でて、耳の傍でそ...

  • 『Feeling』24

    さぁ、気を取り直して会社に出発!今日は久々にちょっと楽しみだな、合コン。やっぱ新たな出会いの機会には参戦しないとね。結婚なんて『け』の字も考えてないけど、お付き合いはいいよね、お付き合いは。あ、でもお付き合いよりも一夜限りのほうが俺は好きなんだけど。これは秘密。とにかく、こういうのってこの歳になると顔が良くないとお呼ばれしないよ?じゃあお呼ばれな俺って、ちょっと期待しちゃってもいいんだよね。「顔、...

  • 『Feeling』23

    「おはようございます、ユンホさん」「お~……」小さなテーブルに、敷き詰めるようにして並べられたランチョンマットの上に、一見オーソドックスな内容の朝食が並べられている。一人の朝だと、ベッドで取り敢えずタバコを吸い、キッチンでインスタントのコーヒーを淹れる。それで朝食は終わり。煙とコーヒーが朝食だ。だいたい電車の時刻ぎりぎりに起きている為、そこから着替えて仕事に行く、という俺だが。「さ、食べましょう」シ...

  • 『Feeling』22

    その後、俺達がどうなったかというと、「これ、間違ってますけど?ここ。どうしてこんな初歩的な間違いをするんですか?こんなの見直せば気が付くでしょ?」シムはいつも通りだった。あれから一週間経ったが、周りから見れば俺達は元通りの関係に見えていることだろう。先輩をコテンパンに苛めるインテリ後輩という図。「えー…っと、これはねぇ…、作ってるとき…もんのすごーく眠くて……、ちょっと間違えちゃったかも?」は!?と書...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』32

    私の寝室で─…、そう世子に優しく訴えられ、ユンホは東宮の世子の寝室にいた。布団一枚だけ敷かれている、簡素な部屋だった。布団の傍らで踞り、世子を待っていると、用を済ませて戻った彼の韓服の色が赤く変わっていた。「湯浴みをされたのですか」「……合宮の為…だそうだ」世子は疲れた顔をして、ため息とともに布団へと胡座をかく。ぴたりと閉められた障子から通り抜ける光はまだ明るいが、そろそろ陽は傾きかけている。ユンホが...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』25

    『ホジュン…』後に言葉が続くことのない問いかけにも、どうした?と微笑む友は、戦が起こる前と何ら変わりがない優しい声色で振り返った。気がつけば、夏になっていた。あれから世子とは会わぬまま、布団の上で植物と同じように、ただ、栄養をとり、息をするだけの生活が続いている。稀に、ホジュンから山のように積み上がった診断書の整理の手伝いを頼まれることがあるだけで、後は、ひたすら、窓から見える木々が青々と芽吹く様...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』24

    武官として先陣に立つことはもう叶わぬが、お前には、殿下の御側で史官として仕えるようにと命が下った──ユンホにそう伝えた老武官も随分と深手を追ったようで、肩に置かれた手は厚手の布で覆われ、そこからきつい薬草の匂いがした。『……史官……、』終わりの見えない戦に、皆が心も身体も疲弊していた。ユンホが一人いるところはホジュンが用意した医務室だったが、他の負傷した武官などは医療施設の少なさから、稽古場などに急遽集...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』23

    夜空に上がる細い三日月のように弧を描く白い砂浜からは、守るべく釜山城が見えていた。その砂浜の粒、一粒一粒は繊細で、兵士達が駆け回る空気中で粉塵を舞わせる。数千もの兵士達がその広い砂浜の上で刀を奮い、白い粉塵を切る。刀で空を切るたびに切っ先からヴェールのように粉塵は舞った。それは東洋の踊り子が舞う時、腕につけたヴェールのように美しくもあった。だが、高台から見ればそれはまるで巣を奪い合って共食いをする...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』4

    景福宮内は陽が落ち始め、便殿の思政殿の前に置かれていた仰釜日晷は、半球の窪みに静かに影を落としていた。熱膨張係数が極めて小さい黒御影石でつくられた半球形は、指先でなぞるとすでにひんやりとしている。この影が反対側だった時から、今までの間で、いったい何人の臣下が命の危機に晒されただろうか、とチャンミンは中へ続く石の階段を見上げる。色褪せ始めた緑の格子の向こうに、悪の根源がいる。「世子邸下が参られました...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』3

    真っ白な石畳からの陽の照り返しが眩しくてユンホは面を上げた。数歩前を歩いていくチャンミンの背中を見つめるのは久しぶりだった。いつの間にか、記憶よりも随分男らしくなったと思う。身長が自分と同じぐらいにまでのびた彼が、真っ直ぐに景福宮へと向かっていく後ろで、ユンホは秘苑での出来事について思い返そうとした。だがすぐに、僅かに首を振り過去を消し去った。道行く者達が立ち止まり、深々と頭を下げるが、彼はそれら...

  • 『秘苑(ビウォン)の華』2

    昌徳宮の朱色の門が見えてくると、先程まで静まり返っていた鼓動が周りの静けさとはうってかわって騒ぎ出した。世子がここにいると懐かしい記憶が呼んでいる。丁寧に結われた彼の髪は帽子の中へと仕舞われているが、僅かな後れ毛が汗で首に張り付いていて、ユンホはそれを手のひらで拭った。午後を過ぎた春先のあたたかい日差しは西へ傾きかけ、じりじりと彼のうなじを焼く。昌徳宮内の秘苑に入ると、秘苑内を流れる水の音と、覆い...

  • 『森の仕立て屋さん』16

    二人の関係は、まだ、ゆるく結ばれた毛糸のようです。しっかりと結ばれていないから、結び目はふわふわとしています。だから、わずかな空気の流れでもその結び目は大きく広がったり、逆に縮んだりもします。でも、もしもしっかりと結ばれることがあったら…、もうほどけることはないでしょう。「いらっしゃいませ」チャンミンさんは朝一番のお客さんを、レジで迎えます。ユノさんは服屋の店員さんらしく、お客さんに話しかけます。...

  • 『森の仕立て屋さん』15

    くんくん、とチャンミンさんのお鼻が動きます。二階のチャンミンさんの自室には、きらきらと朝陽が射し込んでいます。窓枠に積もった雪が朝陽に照らされて白く輝いています。雪はもう止んだようでした。もぞもぞと毛布をかぶり直して寝返りをうつと、キッチンで丸くて白いものがぴょこぴょこ動いていました。それにいい匂いもします。「……?」チャンミンさんはベッドサイドに置いてあった壊れた眼鏡をかけ、目を凝らしました。白う...

  • 『森の仕立て屋さん』14

    ユノさんはチャンミンさんの返事を貰う前に、ぎゅ、ぎゅ、と抱きついてしまいました。チャンミンさんのふわふわもこもこのお胸に顔を埋めて、とても気持ち良さそうに目を閉じています。「あの…?ユノさん…?」チャンミンさんの目の前にはユノさんの長いお耳が揺れています。リラックスしきっているのでしょうか。ユノさんのお耳はしんなりと垂れていました。今、ユノさんは恍惚の境地にいました。実はユノさんは今、発情期に差し掛...

  • 通販のこと・移転作業のこと・ホミン本のこと等

    こんばんは(^^)ご訪問くださりありがとうございます(*´∇`*)更新しようと思ったのですが、前のサイトの管理ページが何故か繋がらない現象が起こっているので、繋がり次第…また明日の移転作業になるかなぁと思います。そして、通販の在庫整理をしていたんですが、1点載せ忘れていた本がありまして………。ちゃんと印刷所も通したオフセット本なのですが、そちらはミンホでなく、ホミンなんです(笑)前のサイトではミンホオンリーとして...

  • 『続!ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』26

    教育係はやんわりとヒゲ世子様の肩を叩き、声をかける。一応は、慰めるつもりで。ムソクちゃんはもうここには恥ずかしくて来れないと言っているらしい。まぁ、一ヶ月前に公開まぐわいレベルに皆に見せつけたのだから、それも今更感があるが、ムソクちゃんは知らないのだから仕方がない。だから今日の逢い引きは、野外となる。「まだ少し夜は冷えますからね…、野外はおつらいですね」「お前などに私のつらさはわかるまい」「大丈夫...

  • 『続!ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』25

    ~一ヶ月後~「世子邸下、本日のご予定を申し上げます。午前中は世子侍講院にて陽明学(注4)の受講、午後からは外国大使とのご引見、夕方から国賓のための公式晩餐会、その後は…………ムソクとの逢い引き、となります。………世子邸下、聞いておられますか、………世子邸下ッ?」布団をすっぽりと被り、枕に顔を埋めるヒゲ世子様の楕円形の帽子だけが見えている。もぞもぞと動いているところからして聞いているのだろうが、返事がない。教...

  • 『続!ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』7

    そんな時ヒゲ世子様は順調に騙され続けていた。「ムソクちゃん…私の為にこんなに…」ゆさ…、と韓服の上からでも充分にわかる豊満な胸を目の前にして、動揺しながらも感激するヒゲ世子様。そこには予想以上に夢とロマンが詰まりすぎていて、今すぐにでもこの胸を苦しめる紐をほどかなければ今にも破裂してしまいそうだと焦り始めていた。ごく、ごく、とひっきりなしに動く喉を止められない。ムソクちゃんの素肌までもう少し、とヒゲ...

  • 『続!ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』6

    「はぁ、はぁ、」雪道を一生懸命駆けてきたムソクちゃん。着いた頃には韓服は溶けた雪で濡れ、餅のような真っ白い頬も薄紅色に染まっていた。ここぞという戦では修羅のように強いムソクちゃんだが、世子侍講院の警護中やヒゲ世子様とのデート中は、ふわふわでもちもちの肌を揺らし、円らな瞳を潤ませ、花畑に遊びに来た真っ白いうさぎのようなイメージだった。今のムソクちゃんはびしょ濡れの為、濡れうさぎであるが、ヒゲ世子様へ...

  • 『続!ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』5

    「世子邸下、失礼致します。女をつれて参りました」薄いカーテンを開けて入ってきたのは、一重に世継ぎを作る為性交渉を目的にここへ連れてこられた女だった。女は男物の韓服を身につけ、深々と礼をした。そして女が顔を上げると、なんとムソクちゃんそっくりだった。おそらく基本の顔の造りがなんとなく似ているだけなのだろうが、化粧でかなり似せられているらしい。「な…っ、なにィ…ッッ?」ヒゲ世子様は麻酔をされながらも腰が...

  • 『続!ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』2

    「お戻りください…!アンタ何やってるんですか、か、壁が…!ちょ…っ、せ、世子邸下…ッ!全くあなたって人は…ちょっと目を離した隙に…、って、服はッ?一体何処へ…ッ?」ヒゲ世子様を追ってきた教育係りが到着すると、ヒゲ世子様の勢いで壊れた世子侍講院の塀が粉雪のように辺りに舞い散っていた。裸のヒゲ世子様を茫然と見つめる彼はこの半年で随分ひたいが広くなった。髪の毛は後退しつつある。ヒゲ世子様が牙の出るご病気を克服...

  • 『続!ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』1

    雪がしんしんと降り積もる世子侍講院周辺で、ムソクちゃんはヒゲ世子様の護衛に勤めていた。といってもまだまだ新人扱いのムソクちゃんは普段、ヒゲ世子様の御側にはいられない。ムソクちゃんが配置されているのは門番で、ヒゲ世子様の書斎がある建物からは随分と離れていた。ヒゲ世子様と出会ってもうすぐ一年── 、ヒゲ世子様とムソクちゃんは、ムソクちゃんの休みの日にデートを重ねている。ちなみにヒゲ世子様とムソクちゃんは...

  • 『ヒゲ世子様、ムソクちゃんに恋をする』20 最終話

    世子侍講院の中へと入ると、猛烈な悪臭が漂っていた。狭く細長い廊下の先に、一応警護の武官がいるものの、余り役には立っていないようだ。ムソクちゃんは、口から泡をふいている武官に、だいじょうぶですか?と声をかけつつ、ヒゲ世子様の自室の扉を開けた。開けた途端に隣にいた武官は気を失ったようだが、ムソクちゃんはぺこりと一度お辞儀をして足を踏み入れた。「……世子邸下……?」うす暗がりのなかをムソクちゃんは、そっと進...

  • 184㎝の移転が終わりました(^^)

    たくさんご訪問ありがとうございます(*´`*)『184㎝の拾いもの』の移転作業が終わりました(^^)まだ、65億分の1の必然で不定期連載しているので、続きもまた更新いたしますね(*´`*)長編が多く、字も多いかもしれないので読みにくいところもあるかもしれませんが…(>_...

  • 拍手コメントお礼

    >TOMOKOさん色々とお手数おかけしましたー!無事に送れて良かったです…!(*´`*)小虎小鹿読んでくださってありがとうございます…!m(__)m自然に涙が…!?!?でも楽しく哀しく読んでくださったんですね…!/////良かったです!小虎小鹿完売なんですが、もしお声が多ければ…再販もするかも??といった感じです!とにかく…通販ご注文もありがとうございます(*´`*)また遊びにいらしてくださいね♪>ろぼさんはじめまして(^^)ろぼさん...

  • 『184㎝の拾いもの─65億分の1の必然─』22

    駅前でタクシーを呼んで、ユノと二人で待つ。ぐす、ぐす、とまだ鼻をすすっているユノを、町行く人たちがチラ見したり二度見したりして通りすぎていく。こういうのも昔は恥ずかしかったけど、結構慣れてきた。ユノを純粋に愛してるから?うん、まぁそれも間違いないと思いますけどね。ユノが、僕のなけなしのプライドをことごとく破壊していくことも原因の一つなんだと最近気づきました。だから、今から行くところに対して、僕は極...

  • 『184㎝の拾いもの─65億分の1の必然─』3

    「たいへんだっ、たいへんだ、たいへんだーーーーー!!」そう叫んだユノが家を飛び出していったのは1時間前のこと。早朝からそんな叫び声で起こされ飛び起きた僕だったが、部屋を飛び出したユノはあっという間にいなくなり、現在時刻は午前6時。ベッドの周りに落ちているのは、壁に掛けてあったカレンダー。そこには数字の上に赤いマジックで大きくバツが書かれている。「……何だ…これ?」意味深なカレンダーと、もぬけの殻になっ...

  • 『184㎝の拾いもの─65億分の1の必然─』2

    暑い。毎日毎日、本当に暑い。引っ越した先は少し駅から離れたところの住宅地にある。バス停を降りると街路樹にとまっている蝉の甲高い鳴き声が頭に響いた。夕方近くだというのに昼間の温度を残す空気。クーラーの効いたバスの冷たい空気を満たしていた肺の中が、むせかえるような蒸し暑い空気と一気に入れ替わる。ふと、この感覚に覚えがあって立ち止まった。「何だっけ…」しばらく考えていたが、浴衣姿の子ども達が僕の横を通っ...

  • 『184㎝の拾いもの─65億分の1の必然─』1

    はぁー…、皆さん……。本当に僕達の生活を知りたいんですかぁ?もう目に見えてるでしょ?僕がどれだけ苦労しているのかって……。あの人ね、大きい声じゃ言えないけど、時計が読める(僕の血の滲むような努力で)のと、少し字が書ける(僕の素晴らしい忍耐力のおかげで)だけなんですよ。……え?大事なことができるじゃないかって?男にとっては無くてはならないもの?うん、そうですね。それは確かにそうなんですよ。確かに……その技術に関...

  • 『184㎝の拾いもの』44

    ユノと出会う前は、仕事だけに明け暮れていた。すべてが面倒くさく思えて、でも変に手を抜くのは嫌で、だから忙しさに振り回されて日々が飛ぶように過ぎていた。あの時、ユノを拾って、さらに面倒くさいことが増えて忙しさは増したが、毎日毎日溜まっていくストレスを打ち消すほどの存在感に、いつの間にか、面倒くさいことが嫌いだった自分を忘れていた。「年越しはどこで過ごしたの?」「実家」年明け早々残業で、休み前に終わら...

  • 『184㎝の拾いもの』43

    「シムッ…!お前ッ!さっきの電話は何だッ…こ、こら!どこへ行く!」デスク脇に置いてあった鞄をひっつかみ、首から下げていた社員証をデスクに放り投げた。「コラッ、好きです、って…いったい何だ!」周りでは、何事か、と他の社員達がざわついている。が、今はもうどうでもいい。「だから!僕もユノを愛してる、ってことです……!説教なら後で聞きます!」僕は上司に頭を下げて会社の出入口へと駆け出した。周りにいた社員達の間...

  • 『184㎝の拾いもの』42

    何もかも元通りの生活が続いている。朝起きて、一人静かなリビングで新聞を捲って、仕事に行く。ユノは相変わらずよく見かける。部屋にはいないのに、街じゅうにユノの形跡があるみたいに思えてならない。とりあえず、元気にやってることだけはわかる。駅のホームに飾られている香水のポスターと目が合った。僕はというと、いつも通り会社に行って、仕事をこなしているけれど、たまに上司に怒らたりもする。「君は全く……シム!聞い...

  • 『184㎝の拾いもの』37

    「僕の聞き違い……かな?………今、家を建てる…って……言いませんでした?」「ここがー、キッチンでー、ここがー、おれのへやでー」僕の言葉は多分聞こえていない。空き地に落ちていた木切れを手に取ると、草だらけの地面に線を書いていく。その様子を遠目に見ていて、思考が停止する。いったい何から聞けばいいのだろう。わかっていることは、とりあえず犬ではなかった、という一点のみ。見渡してみれば案外広い土地だ。周りは新しくで...

  • 『184㎝の拾いもの』36

    「…………で?どこか目星をつけてる店あるんですか?」途中で拾ったタクシーに僕らは乗り込むと、ユノは郊外の町の名前を運転手に告げた。「めぼしって?」「……あ、えーと、行きたい店は決まってるのかってこと」「みせ…?よくわかんないけど、ほしいのはきまってる」「へぇ……」やっぱり犬は飼うつもりらしい。普段から自分の世話もロクに出来ないくせに、えらく自信たっぷりにはっきり答えるユノを見て、さらなる不安が一気に押し寄...

  • 『184㎝の拾いもの』14

    「わー…!なにこれっ」苺でしきつめられた少し小ぶりのホールケーキを冷蔵庫から出すと、ユノは目を丸くして驚き、子どものように手を叩いて喜んだ。予想通りの反応に僕も嬉しくなって、くすくす笑う。「見てわかりませんか」「けーきぃ?」はい、と答えながらテーブルへと運ぶ。ユノは僕の後ろから目を輝かせて、小走りについてくる。「なんで?なんで?でも、でも、ケーキって、とくべつな日じゃなきゃ食べちゃいけないんでしょ...

  • 『184㎝の拾いもの』13

    あの後、あっという間にユノによって昇天させられた僕だったが、どうにかハンバーグを完成させ、すっきりした顔でテーブルに大人しく座るユノの前に、出来立てのハンバーグを置いた。何のひねりもない普通のハンバーグだが、ユノは大げさなほど喜んだ。「……食べたことないんですか、ハンバーグ」小さなこたつ用のテーブルの向かいで、ユノは美味しそうに食べている。「あるよ?」「なんだ、それならそんな褒めるほどの料理じゃない...

  • 『184㎝の拾いもの』12

    最近まともなものを食べていない。出前だったり、コンビニ弁当だったり。一人暮らしの男なんてそんなものなのかもしれないが、僕は別に料理をしようと思えばできるのだ。夏のボーナスが入ったばかりだというのに、誰かさんのせいで、口座から目減りしていく数字を目の当たりにして、自炊を決行することとする。「おかえりっ!」毎度そうなのだが、こいつは僕の帰宅時間になるとタイミングを見計らっているのかと思うほど、玄関を開...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし 第二部』14

    まだ小虎がユノと出会う前、動物の鳴き声しか出せなかった頃。小鹿とは違って小虎の行動範囲は広かった。小鹿は自分が住むと決めた拠点からある程度しか離れず、必ず拠点に戻っていたが、小虎はいくつか寝床があった。小虎は、ユノやチャンミンと出会う前から、ユノが勤める動物病院の裏通りも通ったことがあったし、チャンミンのアパートの前の道も通ったことがあった。ただ、小虎は行動圏を広く持ち、様々なルートで徘徊していた...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし 第二部』13

    「え?ユノと一緒に入らないって?」夕方に仕事から帰って来たユノが風呂掃除の後、湯を溜めていると、小鹿が足元でこくりと頷いた。乾きたてのバスタオルを胸に抱き、口元を埋めている。きょうはおふろにひとりではいるのです、と小鹿は言って、ユノの返事を待っているのだ。「えぇ…いいけど…、大丈夫?」「ゆぶねにははいらないから、ぼくはだいじょうぶなのです」小鹿の声は、至って穏やかだった。確かに、しっかり者の小鹿なら...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし 第二部』12

    ──ゆの、そっとね…、そっとここからのぞいてみてくださいなのです。小虎は小鹿にそう言われると、帽子を脱いで、柵に植えられているツツジの茂みの間から顔を覗かせた。ちく、ちく、とツツジの葉が頬を掠めていく間、小虎はぎゅっと目を瞑ったが、目を開けてみるとそこは別世界のように見えた。「………あれ……なに?……だれ?」「ぼくにもわからないのです。だけど、とてもたのしそうなところなのです」柵の向こう側には、水色の大きな...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし 第二部』1

    (1)【第二部】ぱち、と小虎は、空腹で目を覚ます。まだ夜は開けていない。きゅる、と鳴った腹を服を捲って見ると、夕飯を食べてから随分経つというのに、何か入っているみたいに膨らんでいる。これは人間の身体になっても変わらないようだ。空腹で目が覚めるほどであるのに納得がいかず、下唇を尖らせながら、腹をつついた。小虎は、ユノと小鹿が病院にいた二週間の間、ずっとチャンミンと寝ていた。チャンミンの身体は、ユノの身...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし(番外編)─ゆのよんとしゃんみんの恋─』5 通販 書き下ろしsample

    ※完売しましたm(__)m「……ベッドが…?」改めて声にされると発した言葉の意味不明さに恥ずかしくなって、身体は立っているのがやっとという情けなさで、チャンミンはさらに俯くしかなかった。シムさん、と唯一身を守る両方の掌をやんわりと握られ、チャンミンは目を見開いてユンホと視線を合わせた。「寂しそうだったんですね…?嬉しいです……」俯いてそう告げたユンホが面を上げると、いつもよりも幼い顔つきが蕩けた。下ろした前髪...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし(番外編)─ゆのよんとしゃんみんの恋─』4 通販 書き下ろしsample

    ※完売しましたm(__)m小虎が肉を初めて食べた日の夜のこと。小虎と小鹿が眠ってしまって、ユンホは風呂に入った後、キッチンのテーブルでただぼんやりとしていた。視線の先にはチャンミンとの寝室。チャンミンは今、寝室でパソコンに向かっている。「……はぁ…」ユンホは特に趣味が無く、小虎との二人きりの生活だった時は、仕事から帰ったら小虎と遊んで、それから一緒に眠って、のサイクルだった。だが小虎には今、傍に小鹿がいて、...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし』57

    固いコンクリートを踏みしめて、明かりのつかぬ家々を避けて、暗闇を縦横無尽にすり抜けていく。どこへ向かっているのかは自分では分からなかったが、通ったことのある道だ、と、自分の直感と空高く昇った月が知らせている。このまま進んでいけばいい、と頭も足も、身体を作る全てが、それに従う。少しも怖くはなかった。家々の間を抜けると、地面に書かれた懐かしい形が目に入って、足をそっと退けた。立ち止まってそれに視線を落...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし』56

    「シムさん…!」夜勤を終えたばかりのユノは、待ち合わせの場所でチャンミンを見つけ、手を振った。「お待たせして、すいません…!」ジーンズにTシャツ姿のユノが息を切らしながら駆け寄り、チャンミンの腕に触れると、チャンミンはその手へ視線を落とし、いいえ、と答えた。「あ…、すいません、」ユノが赤面して、ぱっと手を離すと、チャンミンは黙ったまま、歩き出した。ユノが勤務する病院から少し離れたところの駐車場で待ち...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし』55

    夜、目が覚めると、以前よりも明るい夜が視界に広がった。ぱちぱちと瞬きしてもその色は変わらない。全てくすんだ世界だが、よく、見える。小虎はゆっくりと起き上がり、伸びをする。まだ深夜だった。テントから出ると、窓の外では月が高く上がっている。その色も、わからない。ただ、孤独に輝いているだけだった。だが、それが無くとも部屋の隅々まではっきりと見えた。小鹿が並べたたくさんの本の、それぞれの形。照明からぶら下...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし』50

    「あそぼ、ちゃんみん、あそぼ…っ」小鹿の頬を舐める小虎の舌の中央には、とげ状のザラザラしたものが並んでいる。小鹿は舐められるたびにその感触がくすぐったくて笑った。だが、その感触が少し痛いと感じたのは、ここ最近のことだった。「ゆの、じゃあ、えぷろんもってきてください」これをあらうから、と並べていた山菜を指差して小鹿は笑う。それを聞いて小虎は駆け出した。キッチンへ入ってきたドアとは反対のドアの方へと二...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし』49

    ──ぼくをどうか、にんげんにしてください。小鹿の小さな手が、自分の胸に触れた。小虎の目の前には、今、小鹿がいる。小鹿の身体の、獣の毛はほとんど抜け落ちて、全身は肌色になり、そこには色素が薄く、目に見えないぐらいの毛だけが残った。伸ばされている手に触れるとあたたかく、手首に浮き出た青い血管がぴくりと脈打った。身体の中枢となる箇所からつたわってきた流れが、皮膚を僅かに、規則的に押し上げている。小虎はその...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし』48

    それから少し経ったある日のこと。小虎は昼食で満腹になった筈の腹を肉球で擦りながら、バルコニーのテーブルの上に座って日光浴をしていた。いつもの食事と変わらない。ミルクと魚肉ソーセージ。大好物である筈なのに、物足りない。「…たべたい……、」小虎は首を傾げながらも、テーブルの上に横たわった。新しい暮らしにも随分慣れた小虎。ここでは、小鹿と同じ部屋で毎日遊んだり寝たり、いつも二匹は一緒。小鹿は今不在だが、ユ...

  • 『小虎と小鹿のいる暮らし』7

    「あい」にぱ、と笑って返事をした小虎。同じ身長の二人は、大きな百合が風になびく下で手を取り合って微笑み合う。「ぼくは、ちゃんみん、というのです。よろしくおねがいします…なのです」ヘーゼルグリーンの大きな瞳に、にっこりと笑った小虎が映っていた。小鹿は小虎をじっと見つめた。小鹿にとって、同じ目線にいる目の前の小虎がとても不思議に思えて仕方なかったのだ。小鹿はふと、手に持っていた一輪の百合に視線を落とし...

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