chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
arrow_drop_down
  • プラネット完結しました!

    「プラネット」完結しました。 「小説家になろう」さんにも掲載しています。 サイトの下の方(PC版は右側)にリンクを貼りましたので、ご覧になってみてください!

  • エピローグ

    地球でも僕は六神通が使えるって、セシルが言ってたから、何度か試したことがある。 夜中に起き出して、夜間飛行を数回楽しんだ。 一度なんか予告して、美緒ちゃんの家に行ったんだ。二階にある美緒ちゃんの部屋の窓をコツコツ叩くと、彼女は凄く驚いてたけど、とても歓迎してくれた。僕は美緒ちゃんの部屋で、ココアをご馳走になったんだ。でも、美緒ちゃんを抱きしめてキスしてたら、僕たちは二人とも、だんだんいやらしい気分になって来た。僕は慌てて逃げ出したんだ。 後で、死ぬほど後悔したけどね。 ◇◇ 六神通の第一の力は、今回のバラムとの戦いで大体マスター出来たと思う。でも残る五つの力は、なかなか習得が難しい。『全ての欲…

  • 75.ラブソウル

    僕は今でも時々、スピィア星の夢を見る。夢の中の僕は、ミュレーナ姫と一緒に暮らしてるんだ。僕たちは心の底から愛し合ってる。 以前見た夢の時みたいに、霊体がブルブル震え出したりはしない。純粋な夢を見てる感じ。 ◇◇ あの後、 王様の政策で、 生き残った約千人のアーリン星人たちは隔離されずに、僕らと一緒に生活してる。街中でも奴らをよく見かけるんだ。打ち解けてみると、アイツらの一人一人はとても性格が穏やかで、憎めない奴らだってことが分かって来た。ちょっと反応が鈍くて、イライラさせられることはあるけど。でもカミュが教育したから、奴らも大分テレパシーが通じるようになって来た。今、奴らは惑星の再建を手伝って…

  • 74.それから

    僕たちはあの後、三週間ほど経ってから退院したんだ。流動食の管くだを外して一般病棟に移ると、リハビリもあったから、日常生活に戻るまでに、多少時間がかかった。 僕の病名はウィルス性髄膜炎ずいまくえん。 夏風邪から来るウィルスに感染したのが原因だって、お医者さんが言ってた。僕自身は、風邪を引いた記憶が全くないんだけど、母さんに聞くと、寝込んで二日目くらいから高熱がずいぶん続いたらしい。美緒ちゃんは、親父さんが言ってた通り、低血糖症。 何故なぜあの時期に、二人とも病気にかかって昏睡状態になったのか分からないけど、多分そういう運命だったんだ。セシルは教えてくれなかったけど、僕たちはあの時、二人ともスピィ…

  • 73.地球への帰還(その二)

    久し振りに自分の部屋に戻ると、ホッとした気持ちになった。そのまま部屋の中に座り込んでしまいたかったけど、そういう訳にもいかなかった。早く自分のオリジナルの肉体に戻らなきゃならない。 部屋の中は、掛け布団がキチンと畳まれて片付いてた。僕はそっと自分の部屋を出て、台所やリビングや母さんの部屋、床とこの間まを見て回った。どの部屋もキチンと片付いてたけど、母さんの姿が無い。空気が澱よどんでる。たぶん母さんは家にはほとんど帰らずに、病院で僕に付きっ切りなんだと思った。自分が何処どこの病院に入院してるのか、全く分からなかった。 僕はとりあえず、母さんが働いてる私立の総合病院に行ってみることにしたんだ。自分…

  • 72.地球への帰還(その一)

    一瞬後、僕は美緒ちゃんの病室のベッドの下にいた。意思からなる身体だけど、ちゃんと肉体を持ってる。美緒ちゃんの霊体が、彼女のオリジナルの肉体の中に戻ったかどうか、僕は心配だった。 ◇◇ 瞬間移動の時はスピードが速過ぎて、移動場所までのプロセスがよく見えないんだ。さすがに、千四百光年も、宇宙空間を移動する時は、周りの景色がよく見えるけど、近い場所に行く時は、文字通り瞬間なんだ。一瞬後には目的地に着いてる。僕たちは千四百光年もの距離を、三十分くらいで移動して来たんだ。 次元転移システムで別次元を通っても、スピィア星から地球までは、二時間はかかるらしい。「君は千四百光年もの距離を、次元転移もせずに三次…

  • 71.さよなら

    地球へ帰る日は、惑星のみんなが庭園に集まって総出で見送ってくれた。僕は美緒ちゃんと一緒に、王様、カミュ、リュス、テュマ、シュワ、リュナ、ミュレーナ姫の順番で握手とハグを交わしたんだ。大勢の惑星の人たちが彼らの後ろで見てた。 みんな一緒に戦った仲間たちだから、僕は別れるのが辛つらかった。僕はもう、みんなと気心が知れて、兄弟みたいな間柄になってたんだ。「翔太、さよなら、ありがとう。地球に帰っても、私たちのことを忘れないでほしい」「翔太、君に会えて楽しかったよ。たまには、美緒姫と一緒に遊びに来いよ!」「グッバイ、翔太! あー泣けてきたぜ!」「翔太、君と一緒に戦えて良かった。また会おうな!」「翔太、帰…

  • 70.美緒ちゃんとミュレーナ姫

    地底都市に戻ると、王様とミュレーナ姫を先頭に、シュワとリュナをはじめ、惑星の大勢の人たちが集まって来て、僕らの帰還を祝福してくれた。 その後、王様の主催で、盛大なお祝いのパーティが開かれたんだ。 祝宴は三日三晩に渡って続いた。 王様は、初めて美緒ちゃんを見た瞬間、目を丸くして驚いてた。「・・・何故なぜ、ミュレーナが二人いる?」って、王様が言ったから、カミュたちは爆笑してた。テュマは、トンネルの中で初めて美緒ちゃんを見た時、腰を抜かすほどビックリしたらしい。カミュとリュスは、バラムの軍事工場から避難する時、初めて美緒ちゃんに会ったんだ。カミュは美緒ちゃんを見た瞬間、思わずその場に跪ひざまずき、「…

  • 69.スピィア星の守護神

    あの爆発の時、カミュたちはまだトンネルの中だったらしい。「もうダメかと思ったよ。大きな地震が起きて僕たちは全員トンネルの中で身を伏せたんだ。もう直ぐスピィア星が吹っ飛ぶと思った。ところが十分経っても、二十分経っても、何も起こらなかった。僕たちは、たぶん翔太がやってくれたんだろうと思った。それで僕たちは地上に出て、君が帰るのを待ってたんだ。君は不死身だから、絶対に戻って来ると信じてたよ」あの通路内の防火シャッターが作動して、海水は軍事工場内に流れ込んで来なかったらしい。カミュたちが地上に出て、一時間くらい経った時、僕が空から戻って来たそうなんだ。 だから僕は、カミュたちに、バラムとの闘いの顛末て…

  • 68.暗黒エネルギー砲vs六神通(その八)

    その出口の先は通路になってて、工場からかなり奥の方まで延びてた。トンネルと違って、四角いちゃんとした通路だったけど、壁は牛か豚の腸内の様にデコボコしてる。中はやっぱり薄暗くて、天井の所々に淡い赤色の間接照明が点いてた。[今日はよく走る日だなあ]って、僕は思った。バラムは僕の二百メートルくらい先を走ってるはずだけど、姿は全然見えなかった。足音も聞こえない。 僕は走りながら、無線でカミュに連絡を入れたんだ。〈カミュ、聞こえる?〉〈おお翔太! やっと答えてくれたか! バラムは倒したのか?〉〈いや、まだだ。僕は今、バラム追ってる。 奴は暗黒ダークエネルギー砲をもう一門いちもん隠し持ってて、奴は今、そこ…

  • 67.暗黒エネルギー砲vs六神通(その七)

    美緒ちゃんは今、僕の横でバラムを見てる。手には、僕のとは違うスパナを持ってた。 猿ぐつわをしたまま、肩で息してる。彼女は僕の応援に駆けつけてくれたんだ。僕は彼女の健気さと気丈さに、物凄く感動したんだ。 バラムに電子ガンで撃たれた時は、もうダメかと思った。あそこで美緒ちゃんが助けてくれなきゃ、僕は今頃死んでたはずだ。 僕は急いで美緒ちゃんの猿ぐつわを解くと、 こう言ったんだ。「美緒ちゃん、ありがとう! 美緒ちゃんが居なかったら、僕、バラムに負けてたよ!」「私、翔太君の役に立てて、嬉しい!」美緒ちゃんは輝くような笑顔を見せた。僕は美緒ちゃんが物凄く愛いとおしくなってきて、彼女を思いっ切り抱きしめた…

  • 66.暗黒エネルギー砲vs六神通(その六)

    バラムは反則で僕を倒した訳だから、あの後、処刑されたと思う。だけど、悪魔の様にズル賢い奴のことだから、もしかすると難を逃れて、国外に逃亡した可能性だってある。それは、あの当時の記憶を持ってる人に聞いてみないと分からない。[あの後、クラウディアとユーリアが無事に暮らしてくれたなら良いけどなあ]僕は過去世のことながら、祈るような気持ちでそう思ったんだ。 ただ一つだけ言えることは、僕はあの時、油断したんだ。奴は僕の隙につけ込み、僕を倒した。もしあれが闘技場じゃなくて戦場だったら、僕の完全な負けだと思う。僕は戦士として、いや、武術家として失格だと思った。セシルはこう言ってた。『あなたは戦士としては心が…

  • 65.暗黒エネルギー砲vs六神通(その五)

    剣闘士を引退してからの七年間、色んなことがあったと思う。でも僕が思い出したのは、断片的な記憶ばかりなんだ。 ・剣闘士を引退してからも、僕は養成所の若手たちを指導してたこと。・引退後も剣の修行を積んでるうちに、僕は六神通を自然にマスターしたこと。・あの時代にも、僕はセシルと会ってること。・その後また戦争が始まって、僕は一年間従軍したこと。・僕がバラムと闘ったのは闘技場だったこと。 なんかを、僕は奴と闘いながら、断片的に思い出してた。印象的な場面の映像が、頭の中に閃くんだ。 映像を見ながら、僕はこういう風に思ってた。[ああ、そう言えば、あの時はユーリアが八歳になってて、可愛いかったなあ][クラウデ…

  • 64.暗黒エネルギー砲vs六神通(その四)

    バラムとの格闘は十五分、いや二十分くらいは続いたんじゃないかと思う。お互いに決定打が決まらず、なかなか勝負がつかなかった。バラムはやっぱり超人だった。あれだけ後頭部を殴られて、僕のスパナによる攻撃を、手てや肘や脚で受け止めながら、一歩も譲らなかった。奴の超人的なパンチを、頭や腹に食らったら、 一ひとたまりもない。僕は転がったり、スパナで受け止めたりして、何度も奴の攻撃を防いでた。奴に組み付かれたら、一巻いっかんの終りだから、僕は常にスパナを前に突き出して、一定いの間合まあいを取りながら闘ったんだ。奴にスパナを掴まれた時は、梃子てこの原理を応用した丈取じょうとりの技わざを使って、僕は上手く奴の手…

  • 63. 暗黒エネルギー砲vs六神通(その三)

    すると、その時だった。美緒ちゃんが、バラムの後ろに近づいて来て、作業台の横に置いてあった大きなスパナで、奴の後頭部を思いっ切り殴ったんだ。僕のシールドが弱くなってたのが、返って良かったみたい。美緒ちゃんは両手両足を縛られてたから、ケンケンみたいに、両足を揃えてピョンピョン跳んでた。両手には、一メートルくらいの長くて重そうなスパナを持ってる。「ぎゃああああー!」ってバラムが悲鳴を上げ、電子ガンを取り落とし、頭を押さえて地面を転げ回った。美緒ちゃんは構わずに、奴の体を続けて何発もスパナで殴ってた。僕は死ぬほど嬉しかった。 だけど、こうも思ったんだ。[美緒ちゃんと結婚しても、夫婦喧嘩だけは、絶対に止…

  • 62. 暗黒エネルギー砲vs六神通(その二)

    ところが、バラムにぶつかる直前に、奴の姿が突然三つに分かれたんだ。[奴も分身術を使えるのか!?]って咄嗟とっさに思ったけど、僕は急遽きゅうきょ行き先を変更して、一番右側の奴を狙ったんだ。だけど見事に勘かんが外れて、僕は硬い工場の地面に物凄い勢いで衝突してしまった。『カシッ!』って音がして、シールドが外れてしまう。奴の左右の姿はもう消えてた。 分身術というよりは、奴の妖術だと思った。勢い余って、僕はコンクリートの地面の上を何回転もしたんだ。やっと止まって振り向くと、奴は僕に向かって電子ガンを連射した。僕は慌ててシールドを張り直したんだ。 銃弾が何発もシールドに弾き返された。すると奴はクルリと向き…

  • 61.暗黒エネルギー砲vs六神通(その一)

    僕はトンネルを出ると、シールドを張って軍事工場の上を飛び回ったんだ。とにかく、早く美緒ちゃんに会いたかった。 奴は美緒ちゃんの直ぐ近くに居るはずだ。バラムを見つけたら、僕は速攻で奴を殺すつもりだった。[自分の持てる全ての力を使って、 奴を倒すぞ!]って、僕は思ってた。時々、カミュの無線が入って来たけど、今はもう、僕の耳は何も受け付けなかった。元々もともとテレパシーだし、相手の声に心を向けないと、意味が全然理解出来ないんだ。カミュの声は今、心地良い異国語のように僕の鼓膜に響いてた。 ◇◇ 工場の端はしの方を飛んでる時だった。 僕はとうとう美緒ちゃんを見つけたんだ。美緒ちゃんは両手と両足をロープで…

  • 60.後悔

    僕がテュマたちと、緑色の魔神グリーンマーラの死体の周りで握手したり、ハグしたりしてる時だった。〈緊急事態発生! 緊急事態発生! 美緒姫がバラムに攫さらわれた! 美緒姫がバラムに攫さらわれた!〉って、カミュの無線が入って来たんだ。僕は一瞬、頭の中が真っ白になった。 茫然として声も出ない。〈何だって!?〉って、テュマが言った。〈通風口の中にバラムの秘密の通路があって、奴はそこから、美緒姫を攫って行ったらしい。たった今、迎えに行った私の部隊のヒューマノイド兵から連絡があった。翔太、すまん! 今からテュマの部隊と一緒に美緒姫を救出に行ってくれ! 翔太、聞こえるか?〉僕は返事する余裕も無かった。 一瞬後…

  • 59.分身術とグリーンマーラの最後

    一番初めの肉体に戻ると、量子無線からみんなの声が聞こえて来た。〈翔太が闘ってる隙に、ミュレーナ姫 ・・・ いや、もとい、美緒姫を確保した。これより、二十名の護衛をつけて抽出施設まで送る〉って、テュマが言ってた。 僕はホッとしたんだ。〈了解! 魔物はどうしてる? 翔太はどうなったんだ!〉ってカミュ、〈よく分からない、俺たちが美緒姫を保護した直後に、奴は通風口の近くにやって来た。奴は今、美緒姫を探し回ってる〉ってテュマ、 だから僕は、こう応答したんだ。〈テュマ、カミュ! 美緒ちゃんを保護してくれてありがとう! 僕は奴と闘って死にかけたけど、また生き返った。今からまた奴を倒しに行くから心配しないで!…

  • 58.一から多に、多から一に

    僕は深呼吸して、精神を統一した。 パワーが戻って来てるのを感じた。次に僕は、十メートルほど先の、蘭の花の所まで瞬間移動してみた。すると、僕の意思からなる身体しんたいが新たに生まれたんだ。地面の上には、グッタリ倒れてる僕のもう一つの身体しんたいがまだあった。僕は次に、さっきの感覚を思い出しながら肉体の中で、霊体だけを反転させてみた。すると、肉体はそこから動かずに、霊体だけがスルッと体から抜け出したんだ。その後また瞬間移動すると、もう一つ僕の意思からなる身体が生まれた。僕は嬉しくなって、何度も同じことを繰り返したんだ。すると、みるみるうちに僕の意思からなる身体が増えて来て十体くらいになった。何度も…

  • 57.グリーンマーラ(その三)

    奴の手が地面に突き刺さる度たびに大地が揺れた。風圧も凄いんだ。僕は直ぐに、自分の考えが甘かったことに気がついた。[体力勝負って言っても、こんな状態をいつまでも続けられるはずがない]僕は地面の上を右に左に転がり続けながら思ったんだ。立ち上がって走り出そうとしても、柔らかい地面に足を取られて、なかなかスピードが出せなかった。 ◇◇ 僕が奴に捕まるのは時間の問題だった。それでも僕は、二十回くらいは奴の攻撃をかわしたんだ。最後に奴の手の中に捕まった時は、もうヘトヘトで一歩も動けなかった。[やっと終わったか!]って、自分でも思ったくらいなんだ。だけど、奴が万力まんりきのような力で僕の体を締め付けて来た時…

  • 56.グリーンマーラ(その二)

    奴は足も半端はんぱなく速かった。『ドッドッドッドッ!』って地響きを立てながら、こちらに向かって、物凄い勢いで駆けて来る。僕は慌てて美緒ちゃんを地面に降ろすと、シールドを張り、思いっ切り奴に体当たりした。「うおおおー!」って僕は大声で叫んでた。奴がいくら動きが速くても、僕の音速を超える速さには敵わない。 僕は奴のお腹なかの辺りに突っ込んだんだ。『バシッ!』って音がして、奴は後ろ向きに数十メートル吹っ飛んだ。一瞬後、『ズシーン!』って大きな音がして、奴は巨大温室の真ん中辺りに倒れてた。仰向けなって動かない。僕も勢い余って奴の体の上を通り越し、奴の頭の数十メートル先の方で地面に倒れてた。 衝撃でシー…

  • 55.グリーンマーラ(その一)

    量子無線を耳の穴にねじ込むと、カミュの慌ただしい声が聞こえて来た。〈第二班、第四班は巨大温室で全滅! 第五班は引き続き、暗黒ダークエネルギー砲の製造施設を捜索せよ! 第六班は私と共に抽出施設に待機!リュスの部隊二百名は引き続き貯蔵施設と格納庫の警戒を怠たるな! テュマの部隊二百名は巨大温室に回ってバラムを倒すんだ! テュマ気をつけろよ! あそこにはバラムが飼ってる魔物が居るぞ!〉〈OK! アリ一匹いっぴき通さねーぜ!〉ってリュス、〈了解! 大丈夫だ、俺に任せろ!〉ってテュマが応答してた。 〈カミュ、聞こえる? 翔太です!〉って僕が言うと、みんなビックリしてた。〈おお翔太、生きてたのか! 良かっ…

  • 54.甦った肉体

    僕は跪いたまま、美緒ちゃんを膝の上に乗っけてた。腕の力を緩め、僕は彼女の顔を見た。「美緒ちゃん、スピィア星に着いたよ」彼女は固く閉じていた目をゆっくり開けると、不思議そうにこう言ったんだ。「私・・もう霊体じゃないのね?」「うん、僕たち二人とも幽界から元の世界に戻ったみたいだよ」「私・・嬉しい! 翔太君、ありがとう!」美緒ちゃんは僕に抱きついたんだ。僕も死ぬほど嬉しかった。 上手く行ったんでホッとしたんだ。僕はもう一度、美緒ちゃんを強く抱きしめると、彼女の唇にキスをした。肉体の状態で美緒ちゃんにキスするのは初めてだったから、僕は感動したんだ。今度は地球で、オリジナルの肉体に戻ってから美緒ちゃんと…

  • 53.スピィア星への帰還

    だけど僕は、実際にスピィア星に戻れるのか、とても不安だったんだ。もしスピィア星に戻れたとしても、また幽界に戻って来れるのか、見当もつかなかった。 三次元で瞬間移動する時みたいに、移動先を明確にイメージすれば出来そうな気もしたけど、僕はまだ別次元から三次元に瞬間移動したことがなかった。五次元や六次元に移動する時は、スピィア星の次元転移システムを使ってたし。 宇宙は膜まくのような構造になってるって説があるけど、たぶん、あらゆる次元は何層にも重なり合いながら同時に存在してるような気がする。たぶん幽界や霊界もそこに重なって存在してるんだ。ただ、幽界や霊界は精神的な世界だから、物理的な方法で観測すること…

  • 52.美緒ちゃんの話(その六)

    美緒ちゃんは、スピィア星に初めて行った時のことを話してくれた。「いつもの様に気がつくと、私は宇宙船の大広間の中にフワフワ浮いてたの。しばらくすると王様を先頭に翔太君たちが大広間に入って来て会議を始めたの。私、何がなんだか訳が分からなかった。でも、会議を聞いてるうちに、だんだん事情が飲み込めてきたの。私、死ぬほど驚いたのよ。『ここは地球じゃなくてスピィア星っていう惑星なんだ、 翔太君はこの星でバラムっていう人と戦ってるんだ!』って思った」美緒ちゃんは『作戦会議』の時、僕がみんなの前で瞬間移動を披露したのも見てたんだ。「そっか、翔太君は瞬間移動で私の病室まで来てくれたんだ。スッゴーイ! って思った…

  • 51.美緒ちゃんの話(その五)

    「さっきも話したように、私はその後、幽界で暮らしながら、時々、地球やスピィア星に行ってたの。ここでの暮らしは一人でも全然寂しくなかった。私の周りには、いつも妖精たちがいてくれたし、山の方からは仙人様せんにんさまが降りて来てくれて、私の話し相手になってくれたの。その人は翔太君みたいに空を飛べるの」「ジャッキー・チェンみたいなチャイナ服を着た銀髪ぎんぱつのお爺じいちゃん。とても優しくて、私の悩みを色々と聞いてくれたの。『美緒さん、あなたはまだ死んでないから諦めちゃいけないよ。そのうちにきっと恋人や両親の元に戻れるよ』って、私を励ましてくれたの」「私は朝、目覚めると、美味しいお水を飲み、浜辺まで散歩…

  • 50.美緒ちゃんの話(その四)

    「その時には、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも親戚の人たちも、みんな姿を消してたわ。妖精たちが遠まきに私の様子を伺ってた」「私は喉がカラカラに渇いてたから、『お水が飲みたいなあ』って思ったの。するとね、さっきの白い大理石で出来た丸い手水鉢が目の前に現れたの。新鮮なお水が地下から勢いよく湧き出してるの。私は立ち上がって、両手でお水をすくって飲んだの。冷たくて、体に沁み渡るようで、とても美味しかった」美緒ちゃんは、嬉しそうに笑ったんだ。僕は質問したいことが山ほどあったけど、先まず美緒ちゃんの話を最後まで聞こうと思った。 美緒ちゃんの喋り方は、ゆっくりで凄く可愛いいんだ。時々、言葉を切って、考えながら話…

  • 49.美緒ちゃんの話(その三)

    美緒ちゃんから自分の行動を全て見られてたのかと思うと、僕は恥ずかしくて仕方なかった。特にさっきは、ミュレーナ姫の裸体から目が離せなくなって、僕は彼女の局部をもっとよく見ようとして、バラムの罠にハマってしまったんだから。僕は顔を真っ赤にして、テーブルの上に肘をつき、しばらく俯いてたんだ。 だけど、よく話を聞いてみると、美緒ちゃんはこれまでの僕の行動の一部始終を見てた訳じゃないことが分かって来たんだ。美緒ちゃんは普段、 殆ほとんど幽界に居て、 時々、 自分が入院してる病室に霊体でフワフワ浮いてることが多かったみたい。 「さっき話した通り、私あの日、自室で倒れた後、気がつくと翔太君の部屋に居たの。霊…

  • 48.美緒ちゃんの話(その二)

    「私ね、翔太君から手紙もらって、凄く嬉しかった。 あの日は嬉し過ぎて、 頭がポーッとのぼせたみたいになって、 全然眠れなかったの。私ね、翔太君の手紙、暗記するくらい何回も繰り返し読んだのよ」 ◇◇ 僕たちは今、白い砂浜から少し離れた森の中の小さな家で話してた。 テーブルに着いて向かい合ってる。ここは幽界での美緒ちゃんの住家すみかだった。森の中でその辺りだけがお花畑になってて、色とりどりの美しい花々が咲き乱れてた。美緒ちゃんの家も、カラフルで可愛い感じの家だった。グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』に出てくるお菓子の家みたいな配色なんだ。家の横に白い大理石で出来た丸い手水鉢ちょうずばちがあって冷…

  • 47.美緒ちゃんの話(その一)

    「・・・み、美緒ちゃん!」って言ったら、続きが出て来なかった。 美緒ちゃんは僕の前にしゃがみ込み、こう言ったんだ。「翔太君、心配させてゴメンね。私、入院なんかしちゃって、本当にゴメンなさい」「ううん、そんなことないよ! 僕、美緒ちゃんにまた会えて嬉しいよ!」って、僕は泣きながら言ったんだ。 美緒ちゃんは跪ひざまずいて僕を抱きしめてくれた。美緒ちゃんの胸の膨ふくらみを顔に感じて、僕は少しドキドキしたけど、その時は幸福感の方が強くて、いやらしい気持ちが全然起きなかった。 美緒ちゃんの抱擁ほうようは、母さんやセシルと違って格別かくべつのものがあった。もちろん安心感や幸福感は、あの二人と同じくらい強く…

  • 46.僕の女神

    僕は泣きながら目が覚めた。性懲しょうこりもなく、またバラムの罠にはまってしまった自分が情けなかった。悔くやしくて仕方ない。僕が一番大切にしてた物を、汚されたような気がした。ミュレーナ姫の美しい肉体が目に焼きついて、離れない。[あれは、現実じゃない!]って、僕は何度も自分に言い聞かせた。ミュレーナ姫は今、ブラックストーンの前でお祈りしてるはずだ。 でも、僕の精神的ダメージは大きかった。バラムの性格の嫌らしさや、狡猾こうかつさ、大胆さが頭によぎって来て、僕は物凄く不安になった。[ また奴の妖術にかかってしまった! あんな悪魔みたいにズル賢くて強い奴と、僕はどうやって闘えばいいんだ?]って思った。ミ…

  • 45.ミュレーナ姫地獄

    通風口の終点に近づくと、僕は用心してゆっくり出口に近づいて行った。最初は光が眩しくて、僕は掌てのひらを額ひたいの前にかざしたんだ。恐る恐る出口から外を覗いてみると、眼下には巨大な温室みたいな光景が広がってた。さっきのスーパーカミオカンデみたいな抽出施設と同じくらいの大きさだった。東京ドームを縦に五個くらい重ねた感じ。通風口から十メートル下の辺りには、熱帯雨林に生息しているような植物がたくさん生い茂ってた。シダ類が多いみたい。 ゼンマイとかワラビとか山菜いみたいな植物もたくさん生えてた。所々に、人間くらいの大きさの巨大な蘭らんの花がいくつも咲いてた。 僕は思い切って、通風口から下に飛び降りてみた…

  • 44.バラムを追って

    バラムが逃げて行く足音と、自分の足音がトンネル内に反響して、僕の鼓膜に響いてる。右耳には量子無線を付けてるから、時々カミュたちの声が聞こえて来る。「カンカンカンカンカンカン!」一定のリズムを聞いてると、だんだん幻想的な感じがして来て、背中の痛みもあまり気にならなくなった。「スッ、スッ、ハッ、ハッ」って、僕は鼻から二回息を吸って、口から二回息を吐き出しながら走ってる。もう五キロくらい走ったんじゃないかと思った。奴を捕まえたら、僕はさっきみたいに取り付いて、ありったけの念力を振り絞り、奴の首をへし折ろうと思ってた。だから、今は念力をセーブしなきゃならない。僕の精神力も少しは回復し、今なら瞬間移動出…

  • 43.バラムの基地

    バラムとの決着をつけるためには、この機会を逃すわけにはいかなかった。奴らが態勢を整える前に、直ぐに行動を起こす必要があったんだ。いずれにせよ、北極の基地と暗黒ダークエネルギーの抽出ちゅうしゅつ施設は何としても破壊しなければならなかった。 王様と話し合い、僕はカミュ、リュス、テュマの三人と一緒に、バラムを直ぐに追うことになったんだ。バラムはたぶん北極の基地に居るはずだ。奴らの円盤も百機くらいは残ってたから、おそらく一緒だろう。 王様たちの船は大破してて、修復まで時間がかかりそうだった。だから、カミュ、リュス、テュマは普通の大型円盤に分乗することになった。現場指揮はカミュが執る。僕はカミュの円盤に…

  • 42.ブラックホール

    僕は瞬間移動を何度も試してみた。 あの山岳地帯に戻ろうと思ったんだ。でも僕の意思からなる身体しんたいが消滅した感覚はあるんだけど、霊体自体がブラックホールの方へグングン引っ張られて行くんだ。ブラックホールの暗黒の闇が迫って来る。そのブラックホールのサイズは小さかったけど小惑星くらいはあった。 周辺の時空が歪ゆがめられて、景色がねじ曲がって見えた。 以前、カミュがしてくれた話を思い出した。「ブラックホールに入ると、光や電磁波でさえも抜け出せなくなる。次元転移システムでも、ブラックホールからは抜け出せない。ブラックホールという天体の表面には『事象じしょうの地平面』っていう情報伝達の境界面があるんだ…

  • 41.バラムの逆襲

    敵軍の残り百機は散り散りになって、どこかへ逃げて行った。バラムは次元転移システムで、北極の基地に逃げた後、僕が壊したシャフトを交換して戻って来たに違いなかった。だけど僕らは、ここで退却する訳にはいかなかったんだ。地底都市に避難したら、奴らはまた態勢を立て直してしまうだろう。〈ファイナル作戦ミッション始動!〉王様が号令をかけた。僕たちは、全軍直ちに次元転移システムで、一旦、六次元に退避した。体中の細胞が細かく震動し始める。 体がサイコロみたいに折り畳たたまれて、気持ちが悪くなった。 みんな次元適正ゴーグルを付けた。 僕たちは今、バラムの船の真後ろに来て六次元から奴の船を見てる。 すかさず次元転移…

  • 40.ペジエ大陸の聖戦

    僕は体に物凄い衝撃を感じて目が覚めた。カミュの旗艦が砲弾を浴びたんだ。 僕はいつの間にか船の簡易ベッドの上に横たわってた。女性型ヒューマノイド兵が一人、僕に付いてくれてた。 船が物凄く揺れたから、ヒューマノイド兵は僕の体をかばうように押さえてくれてた。「翔太、目が覚めたのね?」ヒューマノイド兵が聞いた。「・・・クラウディア・・クラウディア! ・・・ユーリア・・ユーリア!」ヒューマノイド兵が小首を傾げてた。僕は長い夢を見た後だったから、まだ夢うつつだったんだ。 頭が働き出すまで少し時間がかかった。僕は上体を起こし、しばらくボーッとしながら周りを見回してた。「・・そうか、僕はバラムに頭を殴られて、…

  • 39.過去世の記憶(その三)

    ローマに着くと、父の許しを乞うため、僕たちはユーリアを抱いてユリウス邸に赴おもむいた。僕たちがユリウス邸に入ると、門番や使用人や奴隷たちは、目を丸くして驚いてたけど、邸内にすんなり通してくれた。 だけど、僕たちの来訪を聞いて広間に姿を現したクラウディアの父ユリウスは、意外な言葉を発したんだ。「これは、どういうことだ? なぜクラウディアが二人いる?」僕たちは訳が分からず二人で顔を見合わせた。でも、クラウディアがユーリアを抱いたまま、大理石の床に優雅に跪ひざまずき、こう言ったんだ。「お父様、無断で二年間も家を出てしまい本当に申し訳ありませんでした。私はミラノでマリウスと結婚し子供を産みました。マリ…

  • 38.過去世の記憶(その二)

    僕たちは一目で恋に落ちた。見つめ合った瞬間、僕たちは身動き出来ないくらいの強い衝撃を受けたんだ。不思議とお互いに、相手も同じ気持ちなのが分かった。その日は、パーティー会場で主催者から紹介を受け、お互いに名乗り合って、握手を交わしただけ。だけど翌日、僕はクラウディアの使者から彼女の手紙を受け取ったんだ。 その時代の僕は無教養で、文字もあまり読めなかったけど、長文の手紙には、最後の方にこう書いてあった。『マリウス様 昨日、初めてお目にかかった時から、私はあなたのことが忘れられません。是非もう一度お会いしたいのです。』僕もパーティーの後、彼女の姿が目に焼き付いて頭から離れなかった。僕も全く同じ気持ち…

  • 37.過去世の記憶(その一)

    僕は長い夢を見た。たけど後でカミュに聞いたら、僕が寝てたのは実際の時間にすると、ほんの三十分くらいだったらしいんだ。人間の想像力イマジネーションは光の速さを超てるって、ある人が言ったそうだけど、本当にその通りだと思った。タイムマシンなんか要いらない。 僕は夢の中で、過去の世界に遡さかのぼったんだ。中国の『邯鄲かんたんの夢』っていう古典の主人公みたいに、僕はほんの一睡いっすいのうちに、とても長い夢を見た。 ◇◇ 僕は夢の中で、美緒ちゃんと暮らしてた。その時代、僕たちは古代ローマのミラノの街に住んでた。僕は美緒ちゃんと駆け落ちしてミラノに来たんだ。その頃の美緒ちゃんも、今と変わらずメッチャ美人なん…

  • 36.バラムの危険予知能力

    ところが、そいつは点検口の蓋が開いてるのにも気づかず、台座の前を通り過ぎ、反対側の計器の所に行って、何かの作業を始めたんだ。たぶん、計器類のチェックに来たんだろうと僕は思った。無用殺生せっしょうはしたくなかった。僕は台座に立て掛けた蓋の後ろに隠れてたんだけど、物音を立てないように念力でそっと蓋を動かして、元の位置に納めた。[一ひとつ目め終了]僕は心の中で呟つぶやいて、瞬間移動でリュスの旗艦に戻ったんだ。「どうだった?」って、リュスがせっかちに聞いた。「上手くいったよ! 敵に遭遇したけど、相手は全く気づかなかった。奴らの砲塔内はカミュが言った通り、変なデザインだったよ!」僕は嬉しくて、興奮気味に…

  • 35.作戦開始

    作戦は先まず、ルミエ大陸から実行に移すことになった。ルミエ大陸は南半球にある。大陸の形は違うけど、位置的には地球のアフリカ大陸によく似てる。 熱帯で凄く暑いけど、夜は意外と涼しい。 僕はリュスの旗艦に乗り、敵陣の出来るだけ近くまで近づいて、奴らの様子を観察した。 奴らの円盤を明確にイメージしないと僕は瞬間移動出来ないんだ。リュスは戦闘用ボディーアーマーを着てた。 これを身に着けていれば、敵の弾丸などから全身を守ってくれる。淡い金色の甲冑かっちゅうみたいな服で、凄くカッコ良いんだ。デザインもシンプルで、軽くて抵抗が少ないから、体も動かしやすい。僕も身に着けたかったけど、これを着て瞬間移動すると、…

  • 34.ミュレーナ姫の願い

    作戦前日は、演習が午前中で終わったんだ。だから僕は、午後から姫を連れて地底都市の山に登った。お昼はピクニックみたいに山で食べたいって姫が言ったから。 登るって言っても、僕がミュレーナ姫をお姫様抱っこして、空を飛んで行ったんだけどね。これが本当の『お姫様抱っこ』だって、僕は思った。僕らはシールドを外して、風を受けて飛んだんだ。姫は最初、怖がって僕の首にしがみついてた。でも慣れてくると、気持ち良さそうに風を受けながら下界の景色を見下ろしてた。 シールドを張って、二人で手をつないで飛んだ時は、姫も大喜びだった。シールドの中は無重力で、呼吸も楽に出来るんだ。僕が手を離しても、シールドがあるから下に落っ…

  • 32.軍事演習

    作戦は最初にみんなで話し合った通り、基本的には奇襲作戦で行くことになった。ただ当初の計画と違う点は、作戦開始前に僕が瞬間移動の能力を使って、奴らの旗艦の内部から暗黒ダークエネルギー砲の破壊を試みる点だった。もし僕が、旗艦内で奴らに見つかった場合は、その時点で五大陸一斉に作戦開始になる。僕の能力は、まだ未知数の部分が多かったし、不測の事態に備える必要があったんだ。僕自身、奴らの旗艦に無事潜入出来るかどうかさえ、やってみないと分からなかった。それに暗黒ダークエネルギー砲の内部構造もハッキリしたことが分からなかったんだ。 ◇◇ 内部構造の図面は、あくまでもカミュの推測だった。最初に見せられた図面は専…

  • 32.テレポーテーション

    カミュが僕の瞬間移動テレポーテーションの能力スキルを見たいって言うから、僕はみんなの前で試してみた。 僕の能力はまだ未開発の部分が多いけど、先日はスピィア星と地球の間を往復したから、僕はかなり自信がついてた。「じゃあ、あの窓の所まで行ってみるね」って言って、僕は強く念じた。すると、僕の体はその場から消えて、一瞬後、さっきまで会議してたテーブルから二十メートルほど離れた窓の側に立ってたんだ。「ワーオ! 凄いぞ翔太!」「アンビリーバボー!」とかって言って、みんな驚いてた。僕も嬉しくなって、王様の後ろに突然現れて肩を揉んだり、窓の外に移動して空中から手を振ったり色々とやってみたんだ。王様は目を丸くし…

  • 31.作戦会議

    これ以上、前に進んじゃいけないというのは、別にいやらしい意味じゃないんだ。気持ち的に、これ以上ミュレーナ姫のことを好きになっていいのかどうかで僕は悩んでた。 僕には美緒ちゃんという最愛の人がいる。 でも、僕はミュレーナ姫のことも好きだ。 たぶん同じくらい好きだと思う。この気持ちは、自分でもどうすることも出来なかった。心も体も二つに引き裂かれそうだ。 先日のバラムとの戦いを、僕はミュレーナ姫と一緒に命がけで乗り切った。僕たち二人の絆は、もう切っても切れないものになってたんだ。あの修羅場を潜り抜けたことで、僕たちは言葉に出さなくても、お互いに見つめ合うだけで、相手の気持ちが分かるようになって来てた…

  • 30.ミュレーナ姫の気持ち

    すると、姫はこう言ったんだ。「分かるわよ! あの作戦の後、翔太は地球に戻る前、私の顔を見て『美緒ちゃん』って言ったでしょう? だから私、美緒ってもしかしたら、翔太が好きな人かなって思った。今度翔太に会ったら聞いてみようって、私ずっと考えてた」「そっか・・・」僕はあの時のことを思い出した。 たしかに僕はあの時、ミュレーナ姫の顔が美緒ちゃんの顔に見えてきて、彼女の名前を呟いたんだ。「私の推測は当たってたみたいね。翔太、美緒ってどんな人なの?」女の人の勘って鋭いなって僕は思った。 隠しても仕方がないから、僕は正直に話すことにした。「美緒ちゃんは、ミュレーナ姫に凄く似てるんだ。僕、塔の上で初めて姫に会…

  • 29.ブラックストーン

    神殿の三角形の大きな屋根は、何十本もの円柱に支えられてた。円柱はナルトみたいにデコボコしてる。屋根の内側はカマボコみたいな半円形で、神殿の奥まで続いてた。床は光沢のあるツルツルした大理石で出来てる。神殿の奥には祭壇があり、そこには巨大な黒い球体が浮いてた。その球体は、ゆっくり回転してた。「あれはブラックストーンと言って、この惑星の中心にある石だ。北半球と南半球の磁場が、ちょうどあの石のところで釣り合ってて宙に浮いてるんだ。この惑星の守護神みたいな石さ。だけど、バラムが暗黒ダークエネルギー砲を使い出してから、最近あの石が回転し始めたんだ。明らかに、この惑星の磁性じせいのバランスが崩れようとしてい…

  • 28.地底都市

    地底都市は惑星のマントルの中にあった。僕たちはカミュが操縦する円盤で、南極にある大きな穴から地底まで降りて行ったんだ。穴の行き止まりまで来ると、カミュは中に居る王様に量子無線で連絡を取った。〈王様、翔太を連れて来ました〉〈そうか、カミュご苦労だった。今、次元転移防御システムを切った。入って来てくれ〉僕たちは一瞬後、地底都市の中に居た。 僕は驚いた。そこには地底とは思えない、まるで楽園のような光景が広がってたんだ。海のように広大な湖に囲まれた陸地には、見渡す限り、緑の野山や谷や川があった。 至る所に極彩色の花々が咲き乱れ、様々な鳥が空を飛んでいた。高い山々の頂きには雲がかかってた。 大空のように…

  • 27.カミュの話

    スピィア星に戻ると、僕はまたあの山岳地帯に行ってみた。山間やまあいの広い雪渓せっけいに着くと、僕は雪の上を歩き回ったり、空中をグルグル旋回したりしてみた。 しばらくすると予想通り、カミュが乗った円盤が、次元転移システムで空中に突如とつじょ現われた。 王様の宇宙船じゃなかったけど、スピィア星の白くてカッコ良い戦闘型円盤だった。後部ハッチがスーッと開いたから、僕は空中から円盤に乗り込んだんだ。「翔太、やっと来てくれたか!」カミュが操縦席を離れて僕に抱きついて来た。彼と会うのは金曜日以来、五日ぶりだった。 僕も嬉しくなって、カミュを強く抱きしめた。「遅くなって、ゴメン。僕、昨日はバラムと戦って、酷ひ…

  • 26.母さんの心配

    ベッドの上には僕のオリジナルの体が寝てた。自分が二人いるというのは、奇妙なものだと思った。どちらが本物の自分か、訳が分からなくなってくる。僕はベッドの側そばに屈かがみ込み、自分のオリジナルの体をよく観察してみたんだ。 僕のオリジナルの肉体はパジャマを着て、スヤスヤ眠ってた。夏物の薄手の掛け布団が体の上にかけてあった。泣き腫はらした目の辺りがまだ少し腫れていた。 僕は自分が可哀想になった。僕の意思からなる身体しんたいの方は、目も腫れてないし、健康そのものだ。野球で痛めた肘ひじも真っ直ぐ伸びる。 オリジナルの体の肘は、真っ直ぐ伸ばそうとしても、いつも少し曲がってるんだけどね。 机の上の置時計は七時…

  • 25.美緒ちゃんとの再会

    美緒ちゃんは集中治療室のベッドの上で、目を閉じて寝てた。もう朝の六時半くらいになってたけど、病室のカーテンは締め切られてて室内は薄暗かった。その病室は個室で、ベッドの後ろ側の壁がガラス張りになってた。 女の看護師さんが一人、向こう側に腰掛けて何かの資料に目を通してた。その時、僕はガラスに自分の姿が映ってるのに気がついたんだ。[やった! 肉体が戻ったんだ!]って、僕は思った。 だけど、こうも思ったんだ。[ヤバイ、こんなところを見られたら警察に通報されて美緒ちゃんに迷惑をかけちゃうぞ!]って。 僕は慌てて、美緒ちゃんが寝ているベッドの陰にしゃがみ込んで身を隠した。でも、ふと横を見ると、ベッドの隣の…

  • 24.光速を超えて

    僕はセシルが言ってたように、想像力を働かせて色々とイメージしてみたんだ。理科の実験室に置いてある人体模型をイメージしたり、教科書に載ってる細胞分裂や染色体の絵を思い出して、それを頭の中で自分の体に当てはめたりしてみた。だけど、どうイメージしてみても、肉体は生み出せなかった。仕方がないから、僕は霊体のままで王様たちを探そうと思った。もし彼らに会えたら、筆談か何かでコミュニケーションを取ればいいと思ったんだ。考えようによっては、霊体のままの方が、バラムと闘う際には都合が良いかもしれない。暗黒ダークエネルギー砲が何門あるか分からないけど霊体で奴らの基地に忍び込み、一門ずつ破壊して行こうと僕は考えたん…

  • 23.失われた肉体

    気がつくと、僕はまだ林の中に横たわってた。もう夜が明けかけてて、星の瞬きも弱まって来てた。[僕は無事だったのか?]って、不思議に思った。起き上がって辺りを見回してると、ガサガサと草木の擦こすれる音がして、林に並んだ大きな木の陰から、アーリン星人の奴らが五、六人現れたんだ。僕は慌てて身を隠そうとしたけど、間に合わなかった。でも驚いたことに、奴らは僕に全く気づかなかったんだ。目の前に僕が居るのに、連中は林の木を見上げて何か話してた。 奴らは僕の死体を探してるみたいだった。[そうか! 僕はいつもなら、気絶した瞬間に地球に帰るはずなのに、肉体だけが消えて、霊体はまだこの星に残ってるんだ]って思った。『…

  • 22.金色のシールド

    僕はとにかく冷静になろうと思った。 戦士にしては動揺し過ぎだって、さっきセシルが言ってたのを思い出した。[そうだ、僕は恐怖を感じるとパワーが出せなくなる。怪我もしてないし、僕にはまだ力が残ってるはずだ!]って、咄嗟とっさに思った。 僕は全身に気合を入れ、大声でこう叫んだ。「うおおおー! 見えない球体よ、僕の体を守ってくれ!」すると、ポルターガイストみたいに僕の周りにあった建物の瓦礫がれきが空中に浮き上がって渦を巻き出した。僕の体は球体のシールドに完璧に覆われて、シールドからは薄っすらと金色のオーラが出てた。僕は迷わず、物凄いスピードで上空に飛び上がったんだ。間一髪で、暗黒ダークエネルギー砲の禍…

  • 21.暗黒エネルギー砲

    僕は全身がカッと熱くなった。 体中の血液が逆流してるようだった。心臓がバクバクして苦しかったけど、僕は大急ぎで林の中を街に向かって逃げ出したんだ。木の枝や葉っぱがシールドに当たってバキバキ折れる音がした。[何で僕の居場所が分かったんだ?]って、僕は林の中を飛びながら考えた。たぶん広場に降りた時、僕は無意識にシールドを外してしまったんだ。 それで僕の生体反応がレーダーに映ってしまったんだと僕は思った。それにしても、バラムは勘のいい奴だ。 林の中ではシールドを張ってたから、奴は僕の居場所がハッキリ分からなかったはずなんだ。たぶん指差したのは奴の当てずっぽうだろう。僕を油断させ、出来るだけ引きつけて…

  • 20.バラムの侵攻

    街に近づくと、僕は奴らから狙われないようにかなり減速して飛んだんだ。 音速を超えると轟音が凄いから。夜だし、僕のシールドはレーダーで捕捉出来ないから、奴らは気づかなかった。 街に着くと僕は驚いた。 街の至る所に空爆を受けた跡があって、地面にボコボコ穴が開いてたんだ。僕は低空飛行で街の様子を見て回った。 素敵な未来都市みたいだった街並みは、建物のほとんどが壊れてて、まるで廃墟みたいになってた。所々でまだ火が燃えていた。姫が囚われてたジューク塔も真ん中から真っ二つに折れて、折れた部分は地面にめり込んで、街中に長々と横たわってた。何層にも連なってた駅のホームは、地面に崩れ落ち、車両が何台も地面に投げ…

  • 19.セシルとの対話(その三)

    その時突然、僕の脳裏に美緒ちゃんの姿が浮かんだんだ。美緒ちゃんは病院のベッドの上に目を閉じて寝てた。体中に点滴や酸素を供給する管なんかをたくさん付けてた。 僕は泣きそうな気持ちになった。それから母さんの心配そうな顔と、ミュレーナ姫の美しい姿が目に浮かんだ。 僕は彼女たちのためにも、逃げるわけにはいかないと思った。[美緒ちゃんが死んだら、どうせ僕も死のうと思ってた。やるだけやってみよう]って、僕は思ったんだ。 「分かったよ、セシル。僕、どこまで出来るか分からないけど、やるだけやってみるよ」って言うと、セシルはニッコリ微笑んでこう言ったんだ。「ありがとう、翔太。やっとやる気になってくれたのね。私、…

  • 18.セシルとの対話(その二)

    「セシル、でも僕はただ空が飛べるだけだし、念力で少し物が動かせるだけなんだよ。そんな物凄い兵器で攻撃してこられたら、僕、勝てっこないよ」「翔太、あなたはまだ、本当の自分の力に気づいてないだけ。あなたは他にも色んな力を持ってるの。さっきも言ったように、あなたには、一から多に、多から一となれる力や、城壁や壁を通り抜ける力、自分の姿を消したり現したり出来る力があるの。もっと自分に自信を持ちなさい」「そんなこと言われたって、やり方が分かんないよ。それに今日は僕、五時から物流センターのバイトがあるし、母さんも心配してるから早く地球に帰りたいんだ」「翔太、何を言ってるの? 今はそんなこと心配してる場合じゃ…

  • 17.セシルとの対話(その一)

    その人は膝の上から僕を降ろし、地面に立たせた。セシルは天使の様なゆったりとした白い服を着て、素足に茶色いパンプスのような靴を履いてた。森の中は木や植物の匂いが、ムッとするほど濃くて、昼間なのに薄暗かった。でもセシルの体全体からオーラが出てて、僕らが居る辺りは明るかった。 虫も花粉も飛んで来ない。セシルの体は眩しくて、よく見えなくなる時があった。[人間じゃないな]って、僕は思った。僕はいつもの紺のポロシャツにチノパンと黒のスニーカー。僕がボーッと彼女に見惚れてると、セシルがテレパシーでこう言ったんだ。 彼女は聞き慣れない異国の言葉で話してた。「可哀想に、恋人のことで悩んでるのね?」とセシルが言っ…

  • 16.グリーンアイズ

    朝方、僕はハッとして目が覚めた。 少し眠ったみたい。 気づいたら、僕は懐に枕を抱え込んで部屋の絨毯の上に座り込んでた。[そういえば、この姿勢でずっとお祈りしてたんだ]って僕は思った。 窓の外は明るくなって来てた。机の上の置時計を見ると、もう四時を回ってた。僕は日曜日の夕方、スピィア星から戻った後、一睡もしてなかった。今日は火曜日で、学校があるけど、僕は休もうと思った。こんな精神状態で学校に行っても、どうせ勉強なんか手につかない。とにかく一度ベッドに入って、ゆっくり寝たかった。僕はまず、机の上に置きっ放しだった美緒ちゃんからの手紙をノート式のクリアファイルに入れたんだ。便箋を一枚一枚に分けて入れ…

  • 15.美緒ちゃんからの手紙

    家に帰ると、十一時近かった。 母さんはもう床に入ってた。 母さんは早起きだけど、寝るのも早いんだ。僕はもう一度シャワーを浴びて、体をよく洗った。たくさん汗をかいてて気持ち悪かったし、美緒ちゃんからの手紙を読む前に、身を清めたかったんだ。僕はパジャマに着替えて自分の部屋に行った。机に座り、しばらく美緒ちゃんからの手紙を眺めてた。何が書いてあるのか不安で、心臓が早鐘を打つようにドキドキしてた。僕はカッターで丁寧に封を切り、手紙を取り出して読みはじめた。 手紙にはこう書いてあった。 『山野 翔太 様翔太君、先日は心のこもったお手紙ありがとうございます。私、とても嬉しかった。 翔太君がこんなに私のこと…

  • 14.美緒ちゃんの父親

    美緒ちゃんの親父おやじさんは、手にケースの様な物を持ってた。二人ともソファーに腰を下ろすと、美緒ちゃんの親父さんがこう切り出したんだ。「いやあ、話しって言うのは、他でもない美緒のことなんだけどね。実は美緒は今、昏睡状態で大学病院の集中治療室に入っててね。家内は病院に付きっ切りで、私も心配で夜も眠れないんだ」「えっ? ・・・」って言ったまま、僕は言葉が出て来なかった。ショックで頭がクラクラした。 僕はがっくりと首を項垂うなだれた。[昏睡状態って、死ぬ一歩手前じゃないか?]って思ったんだ。 親父さんは続けて、こう言ったんだ。「翔太君、ありがとう、美緒のことを心配してくれてるんだね。実は美緒は普段は…

  • 13.予期せぬ電話

    着信は知らない電番からだった。 僕が電話に出ると、相手はこう言ったんだ。「夜分すみません、私、鏑木美緒の父親です。こちら山野翔太君の携帯でよろしかったでしょうか?」「・・はい、そうです」って言って、僕は慌てて自分の部屋に駆け込んだ。ビックリして頭の中が真っ白になった。 母さんが驚いて僕を見てた。「翔太君、電話に出てくれて良かった。美緒がいつもお世話になってるね。実は君に話したいことがあってね。夜分申し訳ないけど、今から君の家に車を迎えに行かせてもいいかな?」「えっ? あっ、はい・・」「心配しなくてもいいよ。もう聞いてると思うけど美緒が入院してね。少し君と話したいし、渡したい物もあるんだ。突然で…

  • 12.意外な事実

    僕が夢から覚めたのは日曜の夕方だった。 僕は金曜の昼過ぎから丸二日、四十八時間以上寝てたことになる。母さんは僕が起きないから、救急車を呼ぼうかと思ったんだって。 僕の体を揺すったり、耳元で何度も呼びかけたりしたらしい。 僕が目を覚ますと、ホッとしたような顔をして笑ってた。起きた後も、左の脇腹が少し痛かった。 Tシャツの裾をまくり上げて見てみたけど、傷口は無かった。たぶん僕の霊体が傷ついたんじゃないかと思った。スピィア星に居たのは半日くらいだった。 あの後、僕の霊体は自分の肉体に戻って寝てたことになる。 あまりにも壮絶な体験だったから、魂の休息が必要だったんじゃないかと思った。僕は霊体で光速を超…

  • 11.ミュレーナ姫救出作戦(その三)

    奴が銃を構えた直後、ヒューマノイド狙撃兵の放った銃弾が奴の右肩辺りに当たった。奴はコマのように回転しながら舞台の上に倒れたけど、素早く起き上がると、舞台下に飛び降りて身を隠した。奴は普通のアーリン星人と違って動きが速いんだ。カミュたちが銃を撃ちながら入口のドアから突入して来た。僕は最後の力を振り絞り、シールドを完全な球体にして姫と自分の体を空中に浮かせた。 僕は横たわったまま姫は椅子に座ったまま。流れ弾が何発かシールドに当たって跳ね返ったけど、僕は気にせずに、そのまま球体を移動させた。とにかく姫を守るのが先決だった。 早く安全な場所に行きたかった。スピードはあまり出なかったけど、僕らは円形劇場…

  • 10.ミュレーナ姫救出作戦(その二)

    自動通路オートスロープはかなり速い速度で動いてた。 スロープは塔の外周をはるか下の階まで螺旋らせん状に続いてるみたいだった。所々に小さな窓があって外の様子が見渡せた。カミュたちはかなり苦戦している。 味方の円盤から煙りが出てた。〈カミュ、想定外の事態だ! 今から援軍を送る!〉って、王様が言ってる。〈翔太の塔の方にもお願いします!〉って、カミュが答えてる。[カミュ、頑張ってくれ!]って思いながら、僕がオートスロープを走ってると、次のフロアのエレベーターの扉から大勢のアーリン星人たちが出て来た。その辺りは踊り場みたいになってて、スロープが一旦途切れてた。奴らはバラムの指示で下の階から上がって来たみ…

  • 9.ミュレーナ姫救出作戦(その一)

    僕たちは次元転移システムで塔の前に着いた。〈作戦開始!〉って言うミュエル王の声が、ヘッドセットを通して聞こえて来た。ヘッドセットと言っても、マイクとイヤホンが一体式だから、付けてて何の違和感もない。 片方の耳にだけイヤホンを差し込めばOK。 絶対外れないように皮膚組織と融合してる。こちらの声はイヤホンに内臓されたマイクロ集音器に骨伝導で伝わり、量子信号に変換されて相手に届くってカミュが言ってた。僕が円盤の後部ハッチから外に出て、窓の前に行くと、姫は驚いてた。 僕たちがこんなに早く来るとは思ってなかったみたい。「姫、今からこの窓を小型ミサイルで破壊するよ。この間みたいにあのタンスの陰に隠れてくれ…

  • 8.バラムの妖術

    僕たちは戦闘型円盤七機で編隊を組んで出発することになった。 出発と言っても、次元転移システムでアッと言う間に塔の天辺に着いたんだけどね。旗艦には僕とカミュが同乗し、残り六機にはヒューマノイド兵が一人ずつ搭乗した。 現場指揮はカミュが執り、王様はお城に残ってモニターを見ながら作戦を統括した。僕たちはヘッドセットをつけて量子無線りょうしむせんで連絡を取り合った。テレパシーは相手の肉声が聞こえないと伝わらないんだ。ただ、僕とミュレーナ姫が窓越しに会話したように、相手の唇の動きが分かる場合は音声無しでもテレパシーは伝わる。 一応説明ておくと、この平和な星には軍隊が無いんだ。大昔には戦争があったそうだけ…

  • 7.ミュレーナ姫との再会

    僕があの惑星に行ったのは、その金曜日の午後だった。美緒ちゃんの家のポストに手紙を入れて帰った後、僕はシャワーを浴びた。 散歩の時着てたチノパンとポロシャツが汗で濡れて気持ちが悪かったんだ。シャワーを浴びて昼食をとると、僕は眠くなってきた。昨夜は寝たのが二時過ぎだったから。僕はTシャツと短パンに着替えて、ベッドに横になった。ベッドに入ると、僕は直ぐに眠ったみたい。例の金縛と体の震えが来た時は、まだ窓の外が明るかったから。 あの星に行く時のパターンが、いつもと違ってた。普段は体外離脱した後、僕は霊体で少し家の外を飛び回るんだけど、今回はいきなり部屋の中に光の柱が突き立って、僕は強制的に上の方に引き…

  • 6.ハートブレイク

    目が覚めると昼頃だった。 僕はしばらくベッドの中で、ボーッとしながら考えた。[次にあの惑星に行ったら、たぶん戦闘になる。ミュレーナ姫を助けなきゃ]って、僕は強く思った。 でも、カミュが『ジューク塔の聖戦』って言ってたのを思い出し、僕は可笑しくなった。 あの時僕は、ただ怒りに任せて暴れただけなのに・・・。目が覚めると、現実感がだんだん希薄になってくる。物音がしないから、たぶん母さんは買物に出かけたのだろう。 土曜日になると、母さんは必ず一週間分の食料の買い出しに行くから。[待てよ、土曜日? ヤッべー、美緒ちゃんから連絡来てるかも!」って、僕は慌ててベッドから起き出し、充電してた机の上の携帯を手に…

  • 5.ミュエル王

    僕が夢の中で、初めてあの惑星を訪れてから、もう一年以上経つ。 これまでに二十回くらいはあの星に行ったんじゃないかな。だけど行く時のパターンは何種類かあるんだ。金縛になって体がブルブル震えだし、僕の肉体から霊体がスルッと抜け出して、空を飛ぶところまでは同じなんだ。でも最初の時みたいに光がぶつかってくる場合もあれば、光に吸い込まれる場合もある。 一度なんか、僕が団地の周りを飛びながら、[美緒ちゃん家ちにでも行ってみようかな]って考えてたら、目の前に突然金色の滝が現れて、砂金のようなものがザアザア空中に流れ出したんだ。僕が驚いて見てたら、その砂金の粒子がギラギラと輝き出して、目も開けてられないくらい…

  • 4.ラブレター

    五月祭が終わると、僕はアルバイトと勉強に精を出した。バイトはこれまで色々やったんだ。 新聞配達から始まって、牛乳配達もやったし、コンビニの店員やファミレスのウェイターもやった。今は近くの物流センターで、夕方五時から夜八時まで、仕分け作業の仕事をしてる。小遣いくらいは自分で稼がないと、母さんに申し訳ないから。母さんは隣町の大きな病院で、医療事務の仕事をしてる。家に帰るのは大体夜七時か八時頃。 僕が家に帰ると夕飯の支度をして待ってる。勉強の方は家に帰って食事して、風呂に入って、夜十時から夜中の一時くらいまでかな。 土日は昼頃まで寝て、午後から図書館の自習室で勉強してる。家でやるとダラけちゃうから。…

  • 3.スピィア星

    僕があの夢を見る時は、大体金縛かなしばりになるんだ。それから、「ブーン」って、耳鳴りがしてきて体が震えだす。 正確に言うと、僕の肉体じゃなくて、中身の部分。たぶん霊体とか幽体とか言われてる部分だと思う。初めてあの夢を見たときは、地震かと思ってビックリしたんだ。 震度七か八くらいはあると思った。 僕は驚いて、金縛だから目だけ動かして、部屋の中を見回したけど、揺れてる様子が全然なかった。電灯のスイッチの紐もカーテンも、全く揺れてる感じがなかったんだ。 それで揺れてるのは、自分の体の中身だって、やっと気がついたんだ。 [ど、どうなってるんだコレ?]って、僕は物凄く不安になった。 すると、そのうち僕の…

  • 2.僕と美緒ちゃんのこと

    僕は山野翔太やまのしょうた、都立高校の二年生。 保育園の時に父さんが亡くなって、僕は母さんと二人暮らし。都営住宅に住んでる。 学校から十五分くらいのところにある大きな団地なんだ。 同じ建物が二十棟くらい並んでて、僕は八号棟の四階に住んでる。僕は小学校に入った頃は、チビで気が弱かったんだ。色が白くて女の子みたいな顔してたし、よくイジメられた。 だけど小三の時、野球を始めたおかげで僕は変わったんだ。僕の将来を心配した母さんが、僕を無理やり野球チームに入れたんだ。 僕は最初、野球が嫌いだった。 でも、やってるうちに、だんだん野球が好きになって行ったんだ。仲間も増えたし、僕はメキメキ野球が上手くなって…

  • 夢の中の惑星

    僕はまたあの夢をみた。夢の中の僕は、いつも地球とは違う他の惑星にいて、空を自由に飛んだり、念力で物を動かしたりできるんだ。不思議なのは、僕が空を飛ぶと、その惑星の人達が拍手喝采してくれることなんだ。 だから僕は、つい調子に乗って、無茶な飛び方をしてしまう。一度なんか、その惑星の大気圏を超えて、宇宙まで行こうとしたら気絶して、気がついた時は大地に叩きつけられる寸前だった。その時は、ジェット機みたいな速さで大気圏に突入し、もう少しで大気圏を抜けるところだった。だけど宇宙の暗闇が見えた途端、僕は怖くなったんだ。そしたらパワーが無くなって、地面に向かって真っ逆さま。僕は恐怖で絶叫し、次第に意識が薄れて…

  • プロローグ

    昔、インドのある王が釈迦しゃかに尋たずねた。「修行すると、どんな果報かほうがありますか?」すると、釈迦はこう答えた。「以下、六つの力が得られる。一、 意思から成る身体しんたいを持ち、 一から多に、多から一となれる 姿を消したり現したりできる 塀や城壁や山を通り抜けることができる 大地に潜り浮かび上がれる 鳥のように自由に大空を飛べる 月や太陽を触ったり撫でたりできる二、 神と人の声を遠近問わずに聞くことができる三、 他人の心を知ることができる四、 自分の全ての過去世を鮮明に知ることができる五、 全ての生命の過去世を鮮明に知ることができる六、 全ての苦しみから解放され、修行が完成する」と。 《仏…

  • プラネット

    あらすじ翔太は都立高校の二年生。 不思議な惑星の夢を見るようになったのは、高校に入学してからだ。 夢の中の翔太は大空を自由に飛んだり、念力で物を動かしたり出来る。ある日、翔太は夢の中でミュレーナという美しい姫と出会う。彼女はその惑星の高い塔の天辺に幽閉されていた。 姫は翔太が密かに憧れている同級生の美緒と瓜二つだった。姫を救い出そうとする翔太だが、惑星を乗っ取ろうと企む異星人に不意打ちされてしまう。 あまりにも夢がリアル過ぎるため、やがて翔太は夢が現実だと気づく。ふたたび姫を助け出そうと、惑星の人々と協力し救出作戦を実行する翔太の前に、異星人の王バラムが立ち塞がる。 バラムは妖術を駆使し、翔太…

  • スラッガー完結しました!

    「スラッガー〜白球の奇跡〜」完結しました。以前に「小説家になろう」さんにも掲載しています。 サイトの下の方にリンクを貼りましたので、私の他作品にご興味ある方はご覧になってみてください!

  • 32. ホームラン記念碑と僕と耀の未来

    その後ご、 僕たちは 県知事杯争奪戦けんちじはいそうだつせん で優勝したんだ。県大会に行っても、「ブラックホークス」より強いチームなんていなかった。「何だあ、夢にまで見た県大会も、こんなもんかあ」って、監督は言ってた。「何言ってんスか、監督、もっと喜んでくださいよ!」って、僕たちが言ったら、「すまん、すまん。ワシはもう、市の大会で力尽つきてのう」って、監督が老人みたいな声で言ったから、僕たちはゲラゲラ笑ったんだ。 僕は県大会でも活躍して、MVPに選ばれた。 四試合で合計十二打数七安打、二本塁打、八打点だった。 いつものように二試合目で先発したけど、三対〇で完封勝利、十二奪三振だった。耀と母さん…

  • 31. 最後の夏の大会(二日目)その三

    最終回の攻撃は、一番の田中君からだった。攻撃前、監督はベンチ前にみんなを集めてこう言ったんだ。「みんな最終回の攻撃だ。悔くいのないように全力を出し切ってくれ! 運の良いことに上位打線からの攻撃だ。源次郎丸も疲れて来てる。さっきの回も良いとこまで行ったんだ。最後まで諦あきらめるな! それから、中途半端なスイングはするな。悔くいのないように、ボールを良く見て、コンパクトに振り抜いて行こう! みんな、分かったな!」「オウ!」って、僕達は大声を出して気合入れたんだ。 一番の田中君は今日、五回裏に内野安打を打ってるし、木村君も初回に一、二塁間を抜けるヒットを打った。[運が良ければ、僕まで打順が回って来る…

  • 30. 最後の夏の大会(二日目)その二

    その後は、聖司君と源次郎丸との緊迫した投げ合いになった。僕は去年の貴史君と鬼塚君の投げ合いを思い出した。試合は、一回、二回、三回、四回と、回が進んで行ったけど、両チームともに無得点。聖司君は、丁寧ていねいにコーナーを突く投球で力投してた。初戦とは違い、今日の聖司君は、コントロールが冴さえ渡わたり、ナチュラルシュートの切れ味も抜群、凡打ぼんだの山を築いた。「ブラックホークス」の強力打線を四回まで一安打に抑えてた。四死球ししきゅうも無し。 バックもノーエラーで聖司君の力投に応えた。一方の源次郎丸も、僕のピッチャー返し以降は立ち直り、その後ご、一本もヒットを許してなかった。でも、四死球は一個ずつ出し…

  • 29. 最後の夏の大会(二日目)その一

    二日目の第一試合は、強敵の「丸山ブルワーズ」が相手だった。この試合は木村君が先発で、またも大活躍。 Aブロック決勝で、しかも最後の大会だから緊張してるはずなのに、木村君は心臓に毛が生えてるとしか思えないほど、落ち着いたマウンドさばきを見せてくれた。試合は、木村君が相手の強力打線を僅わずか三安打に抑え、二対〇で勝利。 僕たちは念願の優勝決定戦に駒を進めたんだ。僕は三打数二安打一打点。 最初の打席は力が入り過ぎてキャッチャーフライだったけど、後の二打席はセンター前ヒットとライト前ヒットを打って勝利に貢献できた。最後のライト前ヒットの時は、六回表、一対〇で二死ツーアウトランナー三塁だった。 どうして…

  • 28. 最後の夏の大会(一日目)

    夏の大会が始まっても僕は母さんのことが気になって、試合中何度もスタンドを見上げてた。[母さん、早く来ないかなあ]って僕は思ってたんだ。 だって、昨日病院に行った時、「明日の午前中には退院できるからね。退院したら、あなたの試合見に行くから頑張ってね」って言ってたんだ。僕がスタンドを見上げる度に、耀は僕に向かって手を振ってくれた。 だけど、手を振った後、首を横に振ったり、手を広げるジェスチャーをしたりして、まだ母さんが来てないことを、僕に伝えてくれたんだ。僕もその度に、頷うなずいて応こたえた。試合の方は、一試合目から満塁合戦になったりして、厳しい展開だった。試合前、監督は円陣を組んでこう言ったんだ…

  • 27. 母さんの病気

    母さんが入院したのは夏の大会二日前だった。僕はその日も、「デンジャラス」の練習に参加して特訓してた。 僕がブルペンで投げ込みしてたら、監督が慌ててやって来てこう言ったんだ。 「翔太、お前の母さんが入院したらしいぞ。今、病院から電話がかかってきてな、詳しいことは分からんが、命に別状べつじょうはないらしい。とにかく、お前、今直ぐ病院へ行け!」「えっ?・・・」って言ったまま、僕は茫然ぼうぜんとして口がきけなかった。頭の中が真っ白になった。 僕は自転車に飛び乗って直ぐに病院に向かったんだ。監督が車で送るって言ってくれたけど、「大丈夫です!」って、僕は断わった。 グラウンドから病院までは自転車で十分もあ…

  • 26. 源次郎丸対策

    修学旅行も終わり、夏の大会まで二週間を切ると、僕達「デンジャラス」は、日が暮れるまで毎日猛特訓したんだ。 源次郎丸対策には特に力を入れた。打撃練習では、源次郎丸の豪速球に対応するために、僕と木村君が、プレートの一、二メートル手前から投げた。でも、みんな源次郎丸のボールと違うって言ってた。源次郎丸のボールはもっと浮き上がってくる感じなんだ。結局、緒方コーチがプレートから、全力で投げたボールが、源次郎丸のボールに一番近いってことになって、僕達は緒方コーチが投げた球を打つ練習をした。みんなバットを短く持ってコンパクトにスイングし、バットにボールを当てる練習を繰り返したんだ。 緒方コーチも毎日投げ過ぎ…

  • 25. 楽しかった修学旅行と耀と僕の気持ち

    七月中旬、僕達は栃木県の日光へ修学旅行に行ったんだ。 バスに乗って行ったんだけど、耀とはクラスが違うから別のバスだった。一日目は日光東照宮にっこうとうしょうぐうを見学したんだ。 バスを降りて、大きな杉の木がたくさん並んだ長い参道を歩いて、石段いしだんを登って行くと、 『陽明門ようめいもん』っていう大きな門があった。その門は、屋根の下の部分が二階建てみたいになってて、複雑に木が組み合わさってた。門の柱は白くて、上の方にも白い石で出来た龍や狛犬こまいぬの彫刻がたくさんあった。門の色は全体的に金色だったけど、二階建ての所に、たくさんの龍や人形の彫刻が並んでて、緑とか青とか赤とかオレンジとかのいろんな…

  • 24. 受験勉強開始

    四月、桜満開の季節。 小学校生活最後の一年が始まった。 僕は野球も勉強も頑張ろうって、張り切ってたんだ。チームの仲間達は私立中学を受験するメンバーがほとんどだったけど、僕と耀は一緒に地元の公立中学に入学する予定だった。学校の帰り道、耀に聞いたら、桜ちゃんと美優ちゃんも私立を受験するらしかった。 学校の周りに植えられた桜の木から、花びらがチラチラと舞い降りてきて綺麗だった。「みんなバラバラになっちゃうね。寂さびしいなあ」って僕は耀に言ったんだ。「そうだね、でも仕方ないよ。みんな家庭の事情がそれぞれあるから」って耀は答えた。「僕の家は、私立に行けるほど裕福じゃないしなあ」「私の家もそうだよ。公立の…

  • 23. 強敵出現、源次郎丸登場

    一日目の試合が終わって、僕達が帰り支度じたくをしてる時、他球場に偵察ていさつに行ってた下級生達が戻って来て、「ブラックホークス」の情報を報しらせてくれた。Bブロックの試合は、地元の大企業の綺麗なグラウンドで行われてるんだ。 Bブロックは、「ブラックホークス」が順調に勝ち上がって、決勝まで駒こまを進めたらしい。だけど二試合目で、凄いピッチャーが投げたらしいんだ。下級生達は監督に、先を争うようにして報告してた。「一試合目は七対〇でコールド勝ち、五回までで終わっちゃった。二試合目も五対〇でブラックホークスの勝ち!」「あのね、二試合目で、大人みたいに背の高いピッチャーが出て来てね、物凄く速い球を投げて…

  • 22. 初めてのホームランと初勝利

    春休みに入ると、春季大会が始まった。今年は何としても、優勝決定戦まで行きたかった。一試合目、僕は三打数二安打二打点。 僕は生まれて初めて、公式戦でホームランを打ったんだ。市民球場のフェンスを越えて、レフトスタンドの芝生席にボールが入った時は、信じられない気持ちだった。ホームベースからレフトポールまでは九十メートルあるから、僕は九十メートル以上飛ばしたことになる。相手チームのピッチャーは、 「緑山みどりやまタイガース」の山内やまうち君。 速球投手で、去年の鬼塚君ほどじゃないけど、真也君くらい球が速かった。 相手は打線も良いし強敵だった。 うちのエースの聖司君と投げ合いになった。六回裏二死ツーアウ…

  • 21. 練習再開

    二月から、待ちに待った野球チームの活動がようやく再開したんだ。久しぶりに野球が出来るんで、僕は嬉しくて仕方なかった。 野球って、やっぱり面白おもしい。白球が、「シュウウウ」って飛んで来て、「パシッ」って取って、「ビュッ」って投げて、「キーン」って打って、思いっ切り走って、仲間達と声を出し合って、ジョークを言い合って、全てが最高に楽しいんだ。サッカーも素晴らしいけど、僕にはやっぱり野球が向いてるって思った。オフにしっかり走り込んだおかげで、練習中も息切れしなくなったし、投球フォームが安定したんだ。身体の軸じくがあまりブレなくなって、コントロールも良くなった。チェンジアップはまだ、真ん中にしか投げ…

  • 20. 自主トレとお正月と耀との初詣

    僕のチームは十二月と一月は、オフシーズンで練習は休みになるんだ。監督は個人で走り込んだり、バスケとか水泳とか他のスポーツもやって、基礎体力をつけるようにって指導してるんだ。 勉強も頑張らないといけないしね。でも、「ブラックホークス」とか、他のチームは一年中練習したり、試合したりしてるんだ。「一年中休まない方が良いのか、オフを入れた方か良いのか、俺にもよく分からない。でも、俺達は心にゆとりを持って、アメリカ方式で行こう。オフが終わったら、どんな取り組みやスポーツをしたか、一人ひとり聞かせてもらうからな、勉強も頑張れよ!」って監督は言ってた。僕達は二カ月も休むから、二月になっていきなり全力投球した…

  • 19. 耀たちの県大会

    十一月後半になると、耀達のサッカーチーム、「アストラル」は市のUアンダー12(十二歳以下)のBブロックを通過し、今年も県大会に出場したんだ。地区大会も県大会も、僕は野球チームの練習日が重なって、ほとんど応援に行けなかった。たけど、耀達が準決勝まで進出すると、商店街には横断幕がかけられて、地元も大いに盛り上がった。僕達野球チームも練習を休んで、県立競技場まで応援に行ったんだ。 ◇◇ 耀達の準決勝の相手は、「ヴェント」っていう強豪チームだったけど、耀はこの試合で一ワンゴール、二ツーアシストの大活躍、三対二で勝利して、チーム創設以来、三十年ぶりで決勝に進出したんだ。決勝点は耀が決めたんだよ。 最初の…

  • 18. 父さんの写真とお墓参り

    実は、僕が退院してしばらく経たってから、母さんが僕に、父さんの若い頃の写真を見せてくれたんだ。父さんの写真は全部焼き捨てたって、前に母さんは言ってたけど、本当は、父さんの写真は家にたくさんあったんだ。母さんが押入れの奥から出して来てくれた。父さんが学生服を着てる写真や、母さんと付き合ってた頃の写真、会社の仲間達との写真や、結婚式の写真なんかもあった。僕が生まれた頃の写真もあったよ。 父さんは僕を抱いて、嬉しそうに笑ってた。父さんが野球のユニフォームを着てる写真もたくさんあった。少年野球の頃の写真なんて、僕とそっくりなんだ。「親子って、何でこんなに似にるのかな?」って、僕は母さんに聞いたんだ。「…

  • 17. 秋の新チームとハロウィン集会

    僕が退院してしばらくすると、夏休みが終わって新学期が始まった。僕は入院中に体がなまってて、階段を登るだけでも息切れするほどだった。 だから少しずつウォーキングしたり、ランニングしたりして、体力の回復に努めたんだ。チームの練習に復帰出来た時は、すごく嬉しかった。高野監督や緒方コーチをはじめ、チームのみんなは僕の家庭の事情を知ってるみたいだったけど、敢あえてそのことには何も触ふれなかったんだ。これまで通り、普通に接してくれた。僕はみんなの気遣きづかいがとてもありがたかった。 だってもし誰かが、父さんのことを聞いてきたら、僕は泣き出してしまったに違いないんだ。 ◇◇ 秋になると、チームの新体制が高野…

  • 16. 退院と花火と耀との約束

    僕はその一週間後に退院したんだ。母さんは僕が目を覚ました翌日、家に帰った。ずっと僕に付きっきりだったからね。その後ごは看護師さん達が交代で僕を看みてくれた。 僕の風邪は寝てる間にほとんど治ってた。 でも、身体中に蕁麻疹じんましんが出てストレス性の熱がしばらく続いたんだ。 上がったり下がったり、平熱へいねつに戻るのに一週間くらいかかった。 蕁麻疹は、痒かゆくて痛くて、とても辛つらかったけど、一週間経つとスーッと引いていった。父さんの夢を見て、泣きながら目が覚めたことも何度かあった。たけど、僕もだんだん慣れてきて、夢を見ながら、[ああ、これは夢だな]って、夢の中で考えることができるようになったんだ…

  • 15. 失われた記憶

    「葬儀が終わってしばらくは、私もあなたも放心状態だった。母さんも体の力が抜けた様になって何もやる気が起きないの。二人とも仕事も保育園も休んで団地の部屋で寝て過ごしたわ。父さんの遺骨や位牌はあなたに見せないように押入れの奥にしまっておいた。あなたは魂が抜けてしまったように元気を無くしてた。四六しろく時中ボーッとしてるの。時々、誰かと話してるように、聞き取れない小さな声で独り言を言ってたわ。ご飯もスプーンで口に運んであげないと食べないの。おねしょもするし、まるで一歳か二歳の幼児に逆戻りしたようだったわ。時々、『パパは? パパは?』って、急に泣き出すの。このままじゃいけないって思った。忌引きびき休暇…

  • 14. 父さんの仕事と事故

    「父さんは工場で車のバンパーに塗装する仕事をしてたの。父さんは仕事も良く出来たのよ。家に帰るとね、『陽子、今日は良い色が出せたぞ!』って、嬉しそうに話してくれる時があったわ。塗装の仕事ってね、その日の気温とか湿度とか、バンパーの形状とかによって、塗料の配合を微妙に変えないと、良い色が出せないんだって。良い色が出せても、油断すると、バンパーに細かいゴミがついたりして、不良品になるの。父さんは研究熱心だったから、入社して二、三年もすると、塗装工程こうていの中で一番腕の良い職工しょっこうだって言われるようになったの。二十八歳の時には、チームリーダになって、部下を何人も持つようになってた。でも、ある日…

  • 13. 父さんと母さんと僕

    「父さんは野球が上手かったのよ。球が凄く速くてね、高校の野球部のエースだったの。父さんは私達の憧れだったわ」って母さんが遠くを見るように、目を細めながら言ったんだ。父さんの野球部は、父さんが高三の夏に県大会で準優勝したんだって。決勝戦で、相手のピッチャーが三人も交代したのに、父さんは一人で、延長十七回まで投げたんだ。でも、最後にヒットを打たれて、一点差で負けたんだ。 その試合に勝てば甲子園に行けたのに。父さんは大学でも野球で活躍して、プロからスカウトされるくらい凄かったらしいんだ。 だけど、大学三年の時にヒジを壊して、野球は諦あきらめたんだって。父さんと母さんは、同じ高校の同級生でね、母さんは…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、宇目 観月 Blog さんをフォローしませんか?

ハンドル名
宇目 観月 Blog さん
ブログタイトル
小説ブログ
フォロー
小説ブログ

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用