「お口に合って本当に良かったです! 日本の方(かた)は繊細な味付けを好むと聞いていますので、とても心配していました」 ルイス君は安堵したように笑みを浮かべている。 この英国貴族の邸宅の趣味の良い主人の私室みたいな空間に居るのがルイス君ではなくて最愛の人だと
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「こういう場所も何だか新鮮だ」 弾んだ声で周りを見回している最愛の人が言う通り祐樹にも目新しいエリアだった。 地下鉄を降りて映画館の方へと歩き出したら、周りはショッピングモールと飲食店の複合型のエリアで、しかも飲食店が独立しているわけではなくて壁で仕切ら
「西ケ花桃子さんですね。お手数ですが署にご同行をお願いします」 年かさの警察官が自信満々といった感じで宣言している。「分かったわよ。ただ、身支度をする時間を頂戴」 彼女はむしろ清々した感じだった。「了解しました。こちらの女性がお付きしますので」 昔は婦人
「……ただ、YouTubeで活躍している人なのでツイッターとかも物凄い数のフォロワーが居て拡散されるみたいですけれども、私達はそういうことはないので大丈夫だと思いますが」 「例の地震」の時のニュースとかそれに付随するドキュメンタリー番組とかトーク番組に出たので知
西ケ花さんは諦めたような放心したような表情を浮かべている。「そんなの簡単よ。『コレステロールを溜めない食生活』というパンフレットが処方箋薬局に置いてあって、NGって書いてあったモノを逆に利用しただけ……」 ああ、そういうことかと得心した。理解はしたけれ
「それは何度聞いても可笑しくて笑ってしまう……」 彼がそう言うからには何度か言ったのだろう。 愛の言葉とか誓いの言葉は絶対に忘れない自信があるけれども、他愛のない話まで記憶しておけるほどの脳の容量は持ち合わせていないのが残念だ。 まあ、最愛の人は聞くたび
佳世さんには陰謀という剣呑な言葉は似合わない。 会社経営者の妻としてそれなりに融資の連帯保証人になる腹を括(くく)るとか、それこそ夫の女性問題について頭を悩まして来ただろうが、別れさせるようにとの働きかけをしていないような感じを受けたので。「それは不可能
「記憶が確かならば柘植(つげ)の木で作った総入れ歯を徳川将軍剣術指南役の柳生宗(やぎゅうむね)冬(ふゆ)が使っていたそうだ……。写真で見ただけなので正確なところは分からないが、歯は蝋(ろう)石(せき)という白い石を彫刻してはめ込んであって、材料は異なるけれども今の
「関西医科大学の教授だったかしら……。 豪快に遊んで下さるのはО阪大学医学部の教授をお招きする先生達なのだけれどもね……。流石は『白い巨〇』の舞台になった国立大学よねぇ……」 それなら祐樹や最愛の人には関係のない話になってくる。ちなみに同業者、しかも旧国
「豪華客船の映画では多分フランス料理が饗(きょう)されているのでフレンチが良いかもしれない……。確かあの船が沈没したのは」 それなら祐樹も覚えている。暗記力とか知識の差で圧倒し続けられている最愛の人に少しでもいい所を見せたいと思うのも恋する男の性(さが)だろ
「……それって証拠は?」 先ほどの激昂振りがウソのような息詰まる沈黙が続いた後に、西ケ花さんは30歳も年を取ったような声で聞いてきた。「嘘だ!」とか「やっていない!」と言わずに証拠が有るかどうかを聞く人が犯人だというのは心理学的にも証明されているという論
「そうか?ただ、手袋だと手の体温が伝わらなくて溶けることがなく分解することが可能なので楽なのだけれども……」 そういうモノなのかな?と思ってしまう。まあ、最愛の人の器用さは良く知っているけれども。 そして手袋越しだと体温も遮断される程度のことは祐樹でも分
チラ観しただけだが――お家(うち)映画として二人でこの映画も観た覚えは有るけれども、途中で電話が入ったり救急救命室の呼び出しが入ったりで全編は観ていないという悲しい過去が有った。 その点最愛の人は救急救命室に出向など出来ない立場(ポジション)だ。それに彼の率
「岩手県は行ったことがないのであくまでイメージなのだが雪深いお屋敷の中で、座敷(ざしき)童(わらし)が和服を着て奥座敷にちょこんと愛らしく座っているというのも何だか日本のファンタジーめいて良いな……」 スキーのことは諦めたのか、それとも実現は難しいので頭の中
「そう言えば、あの不朽の恋愛映画を観に行きたいと仰っていましたよね?ほら豪華客船が舞台の……」 愛の交歓を終えて秀でた額とか唇に優しいキスを落としながら聞いてみた。「テレビで観るよりも映画館で観たいと思ったのはああいう豪華客船とか恐竜モノのように臨場感が
「確かに養子縁組で実子と同じ扱いになります。法律上は。 昔はゲイの方(かた)達(たち)が――そういう性癖の持ち主というだけで実家を勘当されたという人は枚挙に暇(いとま)がないほどいらっしゃるらしいですね――LGBТの人たちの解放をという昨今の風潮は一般常識程度
「あ!この塩昆布美味しいです!塩の味がまろやかで……。それに程よい嚙み心地と共に昆布の旨味が口の中にジュワッと広がる感じです」 「ぜんざい」を食べ終わって口直しに箸を伸ばした昆布は予想以上の美味しさだった。まあ「ぜんざい」も最愛の人が祐樹のために丹精込め
当たり前だけれども、彼がアメリカから凱旋帰国のために関西空港に降り立った日から祐樹はずっと彼のことを見ていた。 最初は苦々しく、そして徐々にその関係性は変化していった。単なる上司、そして恋人から生涯に亘る唯一のパートナーにまで。 先ほどから怜悧で落ち着
「どんなことですか?」 あまり無駄話をしたり飛躍した考えをしたりしない人なだけに、目の前に積もっている雪を見て思い付いたことだろうなとは思った。 あの鬼退治マンガ・アニメもお勧めという話題は「硬い話は抜きにしてマンガを語る会」で浜田教授と内田教授も話題に
「そうなのよっ!家事は嫌いなのだけれどもっ!料理をしている時だけは何故(なぜ)だか楽しいのよっ!!ああ、あの男があんなことをしなければ、今頃は色々と料理を作ってあげられたのにっ」 料理好きということはあっさりと自白してくれた。祐樹の投げかけた爆弾は的中した
「去年のハロウィンで祐樹がアニメの登場人物の扮装をしたことが有っただろう?」 「ぜんざい」を半分くらい食べた最愛の人が薄紅色の唇で言葉を紡いでいる。「ああ、有りましたね。その後、原作単行本の発売されている所までは全て読みましたし、アニメ全話を二人で観まし
「そうなのよっ!!可愛い赤ちゃんを産んで、たまに遊んで楽しく育児をする積りだったのにっ!!それをあの男が全てを壊したのよっ!!」 ……「たまに遊んで」?長岡先生のことが脳裏を過(よぎ)った。彼女は実家もクリニック経営だし、それに何より婚約者が日本一の私立病
「今も実施されているかは分からないのですけれど、幼い頃には町内会のお餅搗(つ)きの行事が毎年の年の暮れに開催されて、母に連れられて行きました。 今思えば搗く役目は先ほど車を押すのを手伝って下さった建築業に従事している人などが選ばれていたのだと思いますが、壮
「二年前に養子縁組が提出されています。市役所にも問い合わせ済みですが『長楽寺真司さんと西ケ花桃子さんが窓口に来られました』とのことです。黙秘権を行使なさるのは貴女の権利ですので止めません。しかし、市役所の窓口では本人確認を自動車免許証でキチンとなされてい
「塩昆布まで用意して下さったのですか?有難うございます」 厚みのある昆布に塩の結晶が細雪(ささめゆき)でも降ったようになっている。祐樹が甘い物はあまり好きではないことから口直しに用意してくれたのだろう。「医局にはお歳暮が山のように届くだろう?その中から祐樹
「ご存知ないはずはないのです。養子縁組の時には署名捺印された『養子縁組届出書』が必要ですから」 最愛の人の言葉に西ケ花さんは不敵な感じの笑みを浮かべている。「そんなの、あの人が勝手に届を出しただけじゃないの?私は役所に行っていないし署名と印鑑なんて誰かに
「貴方の淹れて下さるコーヒーの味には到底及ばないのですけれども、それなりに美味でしょう?救急救命室の凪の時間にコンビニに行って貰う時には良く頼みます。ただ、久米先生が買い物係の時にはどんな持ち方をしたのか疑うほど、コーヒーが容器から溢れていることの方が多
『あら、貴方達また来たの?せめてアポを取ってから来て欲しいわね』 音声だけの応答だったが、向こうではカメラが二人の姿を映しているのだろう。「それは申し訳ありません。しかし、我々の場合アポイントメントを取った方(ほう)が相手にお会いできる確率が低くなるのです
「山崎さんの車が出て行きましたよね?知っている人に会うのは仕方ないですけれども、私達は『お葬式』に参列するという建前(タテマエ)でしょう?だったら展望台からの雪見とか足湯などをしていると不審に思われるので。お葬式のついでに遊びの要素を組み込めば不謹慎とのそ
「追い詰められるかはともかく、二人の間で深刻な話が交わされるのは確かだろうと思う……。西ケ花さんは本当に産みたかったのではないかな?」 海老の天麩羅(てんぷら)を口に運びながら最愛の人が言葉を紡いだ。「確かに女性としては授かった命なのですから産みたいかも知
最愛の人の華奢な手首に巻き付いている祐樹の愛の証しはこの上なく上品かつ扇情的で贈って良かったと心の底から思った。特にスタッフさんから「珍しいタイプです」と言われたように金色のカデナ(錠前)はSМっ気がない――強いて言えばごくごく軽いSかも知れない――祐樹
「西ケ花さんと長楽寺氏は愛人関係でしたよね。もちろん性行為をするというのが前提になっています。だったら妊娠したとしてもおかしくない環境下だったと思いませんか?」 最愛の人が青い花らしきものが描かれたマイセンのコーヒーカップの繊細な取っ手を白く長い指で持ち
「祐樹!!京都と奈良の境まで来るとこんなに雪が積もっているのだな」 先ほどよりも更に弾んだ声が助手席から奏でられた。何だか車内には音符が舞っているような錯覚に囚われる。「更に山奥に参りますのでもっと積もっているかと思いますよ。ああ、次のSA(サービスエリア
「祐樹が考えに沈んでいる時のクセが出たな。私は祐樹の見た目よりもとても柔らかい唇が大好きなのだけれど……」 最愛の人が薄紅色の花のような笑みを浮かべて祐樹を見ている。「あ、すみません。この唇に触れて良いのは貴方の唇だけですよね。うっかり癖まで出てしまって
「ああ、祐樹が笑ってくれるかどうか心配なのだけれども……。いや呆れるかも知れないな……」 助手席の恋人は祐樹だけが笑いを提供していることに忸怩(じくじ)たる思いを抱いているのは知っていた。 ただ、祐樹は別に最愛の人に笑いを求めているわけではなくて、花よりも
先ほど天啓のように降って来た概念の相違点は「女性的」あるいは「少女趣味」という代物だった。 そして故長楽寺氏の度の過ぎた――これがイケメンかつ高貴な家柄だったら「源氏物語」の光源氏みたいな――女性遍歴だ。愛人を囲っているのに息子の嫁である瑠璃子さんとか
「祐樹……、先程(さきほど)車を押しただろう?いや、人助けというか大きく言えば社会貢献なのである意味社会人としては当たり前の行為だからそのこと自体は良いのだけれども。雪が積もっている所で快適に過ごそうと思って色々な温かい飲み物は用意してきたのだが、運動もす
「西ケ花さんって拝金主義というか、高価なブランド物を貰うことが『女の格』と豪語していましたよね。個人的には共感出来ない考えですけれど一応理解は出来ます。今時(イマドキ)の愛人の事情を知りたくて……検索してみたら本がヒットしまして、その本をキンドルで購入して
「いや……。雪遊びで身体が冷えた時のことを考えてお湯は勿論(もちろん)のこと豚(とん)汁(じる)とか『ぜんざい』とかも一応持って来ている……」 大荷物の正体にやっと思い至った。温かい飲み物を用意してくれているのは予想していたけれど、熱湯も含まれているのは想定外
「それは長楽寺氏がワンマン社長だったので、自宅でも仕事が出来るように一室をオフィス仕様にしていたのではないか?あれだけの大きなお屋敷なのでスペースは充分有ると思う」 最愛の人はタクシーの振動に身を委ねながら言葉を紡いでいる。「それは有り得ますね。そう言え
「そうですね……。貴方はサッパリした味の多分『赤いきつね』系のお饂飩(うどん)がお好みだと思いますけれど、カップヌードルの方が寒い中で食べるのは相応しいと思います。ちなみに私はお饂飩(うどん)系だと『どん兵衛』の味が濃くて好きです。召し上がったことは有ります
利益が出るイコール黒字になったら税金を取られる仕組みなのは祐樹でも知っている。 いや儲からなくても煙草などはどんどん税金のせいで値上がりしている。以前よりも吸う量が減ったのでさほど痛手ではないものの。 それはともかく、銀行から融資という名前の借金を受け
「そうか。力仕事を祐樹だけが担うのが何だか悪い気がしたのだけれども杞憂だったのだな。確かに自動車のことは全く分からないので勉強になった……。この車は四つのタイヤにエンジンからの力が加わっているのか……。だったら雪に乗り上げた場合、前輪でも後輪でもどちらで
「直ぐにタクシーに乗るのは勿体ないような気がする。祐樹が良ければこの閑静な住宅街をしばらく散歩しないか?」 京都でも有名なお屋敷街なので――確か斎藤病院長の家もこの辺りに有ると聞いている――意匠を凝らした洋風のお屋敷とか時代劇のロケに使えそうな豪壮な門構
例の地震のせいでテレビにも露出していたので二人で並んでいる時には気付かれやすいのは自覚していたけれども、案の定だった。「そうですけれど、医師だって休みの日くらい有りますよ。医師として助言するならば、急ぎの用事がないなら……」 ハッとした感じで女性は急に
森技官がリストアップしていた人間の内で最も怪しいのが西ケ花さんだと分かった今となっては、一気にケリをつけたい。 それに佳世さんは西ケ花さんを相続人から外すことを望んでいたので――といっても最愛の人も祐樹も当然ながら警察官ではないので、西ケ花さんが今後ど
「大丈夫だ。力仕事なのだろう?しかも1トンもの重さなのだから直ぐに身体も温まる。それにこれ以上着込んで汗をかいてしまったら、体温が下がってしまうのでこれで充分だ」 咄嗟の判断力に――と言ってもこの人の場合医学的な知識でしか発揮されることがない――脱帽して彼
「え……。ええと……」 最愛の人は舞台の上でセリフを忘れた――と言っても祐樹は舞台鑑賞をした経験はなかったけれども――主役の役者といった表情を浮かべていた。「祐樹に向かってそんな言葉を言うことなど想定していなくて……」 困惑めいた溜め息を零す彼を力付ける
「えと……、差し上げた手袋の色、お気に召しませんでしたか?」 最愛の人が用意していたのは普段通勤にも使っている――何しろミリ単位で手を動かす仕事なので以前何かで読んだ「手専用のモデルの日常」のように気を遣うのは当然だろう。ただ、最愛の人の場合は「手のモデ
「そうだな。ただ、西ケ花さんの場合はマンションの部屋でウーバーからの食事を待っている可能性が高いだろう?または森技官の行ったクラブ程度しか行く場所がなさそうだから、いきなり訪ねた方(ほう)が良いような気がする。アポを取ると身構えてしまうだろうし、心の準備と
「祐樹も知っての通り、私は高校の修学旅行も院長先生に悪いと思って参加していなかった。当時の私にとって修学旅行費は大金だったし……。それに同級生との旅行にもそれほど興味もなかったので断った。 今思えば院長先生が負担してくれる金額は一食のフルコースディナー程
『それは良いですね。お時間が出来たら是非とも私の小さな城に寄ってください。楽しみにしています。え?オレのスマホにも香川教授や田中先生が『友達』として入っているかだって?入っているに決まっているだろ?バカじゃないのか』 ……最愛の人と祐樹が名付けた通称薔薇
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「お口に合って本当に良かったです! 日本の方(かた)は繊細な味付けを好むと聞いていますので、とても心配していました」 ルイス君は安堵したように笑みを浮かべている。 この英国貴族の邸宅の趣味の良い主人の私室みたいな空間に居るのがルイス君ではなくて最愛の人だと
「見事な借景(しゃっけい)になっている、な……」 愛の交歓の甘い残り香と余韻を余すところなく纏った薄紅色の肢体に純白のシルクが映える最愛の人も祐樹の傍らに立って潤んだ目を瞠っている。「そうですね。見事な日本式のお庭の灯篭の間に『五山送り火』の一つの『大』の
「では、フロントにいらしてください」 以前はホテルに入ると内線電話は繋がったし、何なら外からでも通話出来たのだけれども、個人情報漏洩とかそういう観点から見直されたのかも知れない。「はい、宜しくお願いします」 別に疚しいこともないのでボーイさんに付いて行っ
そうだ、黒木准教授に手術の成功と、何だか物凄く思い入れの有りそうなオクスフォード大学のアカデミックガウン姿のルイス君の画像を送ろうとスマホを操作した。 LINEに大学関係者からの連絡がないのは時差の関係もあるだろうが、皆が遠慮しているのだろう。 そう言
呉先生が北教授に続いて海外の学会に何度も招聘されるとなれば、それでなくとも呉先生を買っている斎藤病院長覚えがますます目出度くなるだろう。 北教授も救急救命室の責任者だが、災害医療の第一人者として病院に居ないことの方(ほう)が多い。大規模災害が起これば現地
「勿論です。ね、スタンリー先生も是非京都にいらして下さい。『チーム・セイブ』の一員ですから」 やっと無事に国際公開手術の術者を務め上げたという実感がわいてきて、肩の荷が下りた爽快な気分だった。 最愛の人と肩を並べることが出来る外科医に一歩近付けたという胸
「人工心肺は貴方みたいに手技の劣る外科医御用達のモノだということをご存知ないのですか?それに脳梗塞や腎不全などの合併症を引き起こしやすいというのは常識ですよ。 この会場でそんな馬鹿なことを言っている暇があるならアメリカの南部の田舎町に帰って手技を磨くこと
質問者の顔は見えないがアメリカ英語の彼は絶対に額に青筋を立てているか顔を真っ赤にしている語気の荒さだ。尤もそんな顔は見たくもないし、見る時間も勿体ない。「人間の手というのは不思議なものなのです。ホチキス(ステープラー)も広義では機械ですよね?狭義では道具
チケットを見て自分が乗るべき車両を見ると赤色だった。 ロンドン行がその色で統一されているのか偶々(たまたま)なのかまでは調べていなかったが、自分が惹かれて止まない祐樹の太陽のオーラは赤色と黄色だ。 そして日本の百貨店で祐樹にと選んだバーバリーのスーツに合
「その通りです。これ以上肥大が進行しないためにも壁を作る必要が有るのです。 肥大を防ぐために網目状(あみめじょう)に編んだフィラメント糸を被せる術式も有りますが……?」 依然として祐樹の目は周りのあらゆるものがゆっくりと進行していくように見える。そして、何
シャルルドゴール空港の近未来的な建物は流石「芸術の都パリ」の玄関口に相応しいと感心してしまう。 一部分しか見ていないしさほど興味が有るわけでもなかったが、日本だと反対意見も多く出て結局無難な建物になるのは想像に難くない。 テレビで観たルーブル美術館もガ
「メス」 バーキング看護師が鶺鴒(せきれい)のように渡してくれた。 手に馴染んだ大きさではないものの、先程から必死に見ていたし、イメージトレーニンはミラー先生の助太刀のお蔭で充分過ぎるほど補完出来たので違和感は抱かなかった。 祐樹の脳裏に患者さんの心臓を撮
いくらファーストクラスのスーツケースが優先されるとしても、時間はもっと掛かると踏んでいたし、入国審査も多めに見積もっていた。 故に時間はたっぷり残されている。 コウシケとやらは殿下に関係するらしい……となると、皇嗣家のことだろうか……? そして皿婆……
「そろそろ種明かしをしてくれても良いだろう?この患者さんにどういう術式で臨むんだい?」 何だか祐樹を囲む全てが遅くなったように感じる。 そして自分の手術(オペ)が今までイメージしてきたよりも簡単に出来るような感覚を抱いた。 ミラー先生とバーキング看護師の連
食事を終えてコーヒーを飲む。 祐樹は誤解しているようだが、自分が飲むコーヒーはインスタントでも全く構わない。 インスタントコーヒーの粉に単に熱湯を注ぐよりも、2割の湯を注いで粉を入れてスプーンで100回混ぜた方(ほう)が美味になると聞いてから実行している
……といっても、この国賓とか王族などが報道陣の前に姿を現すまでの休憩所とか、マスコミに漏れてはいけない国際問題について密談を交わすために設えられた場所のようだ。 先ほどのある(・・)一定の年齢の女性が運んで来てくれた、自分がずっと祐樹のために作りたいと思
ミラー先生とバーキング看護師が時間を稼いでくれていたお蔭でようやく祐樹にも道具類の微細な差が手と脳にインプット出来た。 国際公開手術の第一助手に選ばれるだけの力量の持ち主のミラー先生は祐樹も非の打ち所がない手技の冴えを見せてくれていた。 きっと数年後に
「ラウンジから軽食をお持ち致しました」 パリ大学で講演会の講師を務める呉先生に自宅マンションで教えていた通りのフランス語訛(なま)りの英語を紡いでいたのはフランス語で言うところのある(・・)一定の年齢の女性だ。 自分も呉先生に同じような発音で呉先生の原稿で、
……スタンリー先生が操作している注射針のサイズは祐樹が普段馴染んでいる物とはサイズがミリ単位であるが異なっている。 この太さは飛行機の中でドクターコールに応えた時に点滴で見たモノと同じだろう。 ということはメスや血管を挟んで仮に止血するペアン鉗子(かんし
「長旅でさぞお疲れでしょう。どうぞ、お部屋でお寛ぎ下さい」 特に疲れてはいなかった。何しろ長いフライトの80%以上は呉先生から貰った薬で寝ていた。 自分はインターネットカフェなるものに行ったことはなかったものの、テレビで紹介されていた。寝泊りする人も多い
いよいよ恋人達が海に落ちるとなった時には、最愛の人と指の付け根まで繋いだ手をギュッと握りしめてしまった。同時に白く長い指にも力がこもっていて痛いぐらいだった。 祐樹が賛美して已まない細くて形の良い指の持ち主だけれども、職業柄力は強いので。 扉のような物
森技官なら5個以上の理由を列挙しても祐樹は驚かないだろう。重ねて言うが性格は難アリではあるものの、頭脳も口も良く回る人間なのは確かなのだから。「二点で終わりでした……。家に置いていると何だか悍(おぞ)ましいオーラが漂って来るようで嫌ですし、此処(ここ)に置
ダイヤモンド盗難の濡れ衣を着せられた恋人を救おうとヒロインが浸水しているフロアに入って行くところは圧巻だった。 ただ、出会いの切っ掛けになった身投げしようとしたヒロインを説得する時に海水の温度が0℃であることや、そんな水に入ったら体中に激痛が走ることを
「厚労省は労働者の権利も守るためのお役所でもあるのはご存知ですよね。 実際は勝手に良く効く薬を廃止して、在宅で通院しても良かった患者さんに入院を余儀なくさせやがるとんでもないことも仕出かしてくれますが!!」 医師は厚労省に対してネガティブなイメージが強い
古くからの読者様はご存知かもですけれども(いらっしゃるのか?)私は阪神大震災では震度5強の場所に住んでいました。その当時は猫を三匹飼っていまして、家中で最も温かい(電気代は負担していました)私の個室で寝ているのが常でした。(地震が起こったのは1月17日)夜
「すみません……。つい欲情してしまって……。本来ならばこんな場所でこういうことをすべきではないのも分かっている積りだったのですが」 祐樹が舌で湿らせた場所に囁き声で告げると、白く長い指を薄紅色の唇に噛ませていた最愛の人が艶やかな眼差しで祐樹を見降ろしてい
「仕事関係だったら、何故ここにこんな物を置く必要が有るのでしょうか?」 久米先生だったら泣いて喜ぶかもしれないけれど、祐樹的には原色のけばけばしさとナイロン製と思しき下着のペラペラ感じと下品な意匠にうんざりしながら聞いてみた。 呉先生は薫り高いコーヒーを
「爵位って継げないのですか?あのヒロインとかが……?」 キャラメルポップコーンを嬉しそうに口に運んでいる最愛の人に囁き声で聞いた。「イギリスでは男性しか爵位は継げない決まりだな。女性しか後継ぎがいない場合、爵位は返上することになる。ちなみに、王様とか皇帝
「ああ、室内着的な……所謂(いわゆる)ユニセックスのような感じなのですか?透け透けのとか、Тバックとか呼ばれているのとかそういうのではなくて?」 久米先生が大好きそうな下着を呉先生が心の底からうんざりしている感じで言っている。 久米先生は実際にТバックとか
スクリーンでは「キャビアは嫌い」と言い切ったヒーローの言葉にキスを中断した。 それほどまでにほとほと感心してしまったので。 祐樹も外科医として集中力は何分割も出来るので仄かなキャラメルの甘く苦い味のする接吻に酔いしれながらもスクリーンから流れる英語は聞
「これは呉先生、新館にいらっしゃるなんて珍しいですね……」 森技官の恋人でもある不定愁訴外来のブランチ長が――と言っても医師は呉先生一人で看護師も一人というこじんまりした外来の――満開のスミレの花の風情で笑いかけて来た。「ええ、万が一真殿教授と鉢合わせし
上流階級の――特に爵位を持ったヨーロッパの人やアメリカ人でも成金と呼ばれていない人――選民意識は物凄く高かったのだなと思い知らされた。 フランスから乗り込んで来た成金の女性は他の女性から思いっきり避けられていたし。 そんな細かいことを気に病む女性(ひと)
「ああ、彼女は可憐なピンク色なのですね、乳首……」 カマをかけただけだし、久米先生のように岡田看護師が現れるまでは年齢イコール彼女居ない歴だった人が色素沈着をしてしまったソコを見ると、今までの二次元の彼女(マイフェアレディ)達は皆が綺麗なピンク色だっただけ
「確か1901年から1904年までだったと思う、あまり自信がないけれども」 祐樹の指からポップコーンを口に入れた最愛の人が花よりも綺麗な笑みと弾んだ囁き声で教えてくれる。 ただ、最愛の人が「あまり自信がない」と紡いだ言葉は額面通りに受け取られない。という
「お返しにさ……。高級シルクのランジェリーなどはどうだ?ナイトウエアでも良いけれども。ほらデートもままならない寂しい田中先生はさ、ZOOMとかで会話しているのだろう?絶世の美女でスタイル抜群な彼女さんにさ『セクシー』なランジェリーを贈って着てもらったのを
例えばクリスマスの樅ノ木(もみのき)と赤いリボンはとても良く合う。 最愛の人と行く第二の愛の巣というべきホテルでなくとも、各病棟に飾ってある100均ショップの――何しろ事務局長が「経費削減」と二言目には言うので経費内で買うならその店限定だ――品物でも素材
それにしても最後尾の座席、しかも前列に観客なしという状況はかなり美味しい状況なのではないだろうかと思ってしまう。 映画上映中に後ろを向く観客など普通は居ないし――余程のマナー違反、それこそスマホで話すとか今しているような囁き声ではなくて普通の音量で会話
最近の原作付きのドラマ・アニメは忠実に描く方向に舵を切ってくれたのは誠に喜ばしいです。アニメ・ドラマオリジナルも原作愛に満ちていて良きです。 「没日録」を吉宗が読んだ時点で御右筆の村瀬が老衰のために死亡したのがドラマでは変死だった上に9話では忘れ去られた
「もっとっ……奥までっ……欲しっ……」 艶めいた小さな声が蜂蜜(ハチミツ)の甘さと色に満ちているようだった。「分かりました。一旦出てから奥に強く激しく挿(い)れます。その瞬間を狙って聡も腰を上に動かして下さい。出来ますよね?」 凝った蕾の辺りを祐樹の愛情と欲
「田中先生はホワイトデーのお返したくさん有って大変ですよねぇ」 久米先生が電子カルテの入力をしていた祐樹に声を掛けてきた。「ええ、まあ……。ただ、下さった女性たちの気持ちは無碍(むげ)に出来ませんから。戴いた方(かた)へはキチンとお返しはしています」 胸を張