「はい、拡張……、それはともかく術式は……」 具体的な説明をしようとしたら、個人的には悔しいが苦み走った整った顔にドロドロと青色の簾(すだれ)が下りていくようだった。 普段の祐樹ならもっと具体的かつ生々しく説明するところだ。 しかし、かの「一力(いちりき)亭
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「あ、田中先生お待ちいたしておりました。ハロウィン実行委員会会長を務めさせて頂いている中山と申します」 きびきびとした足取りで近づいて来たナースに呼び止められた。ネームプレートには師長と書いてあった。「中山師長どうか宜しくお願い致します。心臓外科の田中で
「祐樹……車内の温度……高すぎないか……?」 目的地に向かって車を走らせていると助手席の人がごく薄い紅色の顔で祐樹を見つめている。目論見が有ってこの気温設定にしたが最愛の人が疑問に思うのも尤もだ。祐樹だって汗ばむほどだし、それに普段はこんなに高くはしない
「トイレを借りるという口実で、灰皿に何を使っているか。ブランド物なのか空き缶なのかなど見て来て下さい。あと、キッチンの中の什器類、食器や調理用具がどの程度有るのかも確かめて下されば更に有難いです」走り書きだったが読めれば充分だろうし、難しい漢字は書き慣
「え?私に出来ることなら。 それと先ほどの祐樹の質問だが、外国人とは一回も言われていなかったし、呪術師の御三家と呼ばれる名家出身なので多分日本人だ。ただ、あの青い目は一般人には不可視の色々なことが見えるらしい特別な目なので、その副次的効果でああいう色にな
「こんなに秋の味覚がギュッと詰った料理もとても美味しかったな……。 葡萄のソースが掛かった三田牛もとても美味だったし、あれは一体どんな風に調理しているのだろう……」 最愛の人とレストランから出て、部屋に戻る途中に弾んだ声で話しかけて来た。「満足して下さっ
女性らしいというか生活感のない部屋だった。何だかドラマのセットとかモデルルームのような部屋というか……。尤(もっと)も祐樹はモデルルームに実際に行ったことはない。 最愛の人と一緒に住むことにした時には既に彼の部屋は決まっていたし、それ以前は学生時代から住
「どうぞ。入ってください」 最愛の人の怜悧かつ落ち着いた声が返ってきた。思わず内心でガッツボーズをしてしまうがまだここは教授執務階の廊下だ。誰に会うか分かったものではないので、若干神妙そうな表情を繕ったまま扉を開けた。「祐樹、とても評判になっているな……
「秋の日は鶴(つる)瓶(べ)落とし」のコトワザ通りに辺りは暗くなっている。この様子だと車が入って来た時にはヘッドライトで分かるだろうし、それ以外は暗くて見えないだろう。「祐樹は……どちらが良いのだ……?」 激しく重なり合うキスのせいで紅く濡れた唇が艶やかな
「夜分にいきなり参ってすみません。少し話をお聞きしたいのですが、宜しくお願い致します。 私もこういう者です」 多分マスカラをたっぷり塗ったらしい長い睫毛(まつげ)に縁(ふち)どられた目が獲物を狙う猛禽類の鳥のような感じで最愛の人を見ている間に割り込んだ。「田
「ああ、このシーンを再現なさったわけですか……。流石です」 何故かピアス(だと思うが違うのかも知れない)を付けた黒髪の長髪男性が僧侶の恰好をしている。僧侶といえば髪の毛は剃っているハズだが、マンガやアニメの世界では違うのかも知れない。そして主人公の男の子
「祐樹の手術スキルは格段に上がっている。この前、明石教授が挨拶にいらっしゃって褒めていた。自分のことを言われるよりも嬉しかったな……」 明石教授は一応ウチの病院の教授職も兼任しているが、国際的な知名度と素晴らしい人脈の持ち主だ。祐樹も指導して貰ったことは
「君は朝とか昼もシフトに入っているのですか?」 ウーバー〇―ツの仕組みは良く知らない。何でもコンビニのバイトとかとは雇用形態が違うとか何かで読んだ覚えしかない。「バラバラっす!ただ、この辺は夜の方が注文の多いエリアらしくて……夜の方(ほう)が稼げるんで、夜
「詳しくはこの本を読んでみてください」 幕の内弁当と言っても教授職用に作られた物なのでかなり美味しい。それを手早く口に入れて充分に咀嚼(そしゃく)する。最愛の人の執務室でも更に豪華な食事が用意されるけれども、外科医という職業柄か食べるスピードは速いし、ほぼ
「祐樹はずっとその体形だ。あの大阪のホテルで一夜を過ごした時――は無我夢中で良く覚えていないが――その後も逢ってくれただろう。その時と全然変わらないと思うのだが……?」 初めての夜のことは鮮明に覚えているし、実は後悔もしている。最愛の人が祐樹行きつけのゲ
「すみませんっ、急いでいるので先に通って良いっすかぁ?」 物凄い勢いで自転車を漕いで来た人が真後ろに急停止しつつそう声を掛けられた。その直前に危険な気配を感じ取って祐樹は咄嗟に最愛の人の身体と特に指を庇っていたが。その後その青年と対峙(たいじ)した。何だか
「祐樹が受け取って私の部屋まで持って来てくれないか?午後の手術が終わった後で読むことにする。 祐樹が読むのは夜だろう?そのタイムラグを利用して私も読みたい」 熱心に言い募っているのは、そのマンガへの関心だけではなくて、多分祐樹がそのキャラクターに扮するか
一緒に肩までお湯に浸かる、しかも「常識的な」距離を取ってという健全そのものといった感じが新鮮だし、最愛の人も艶やかな色香よりも健康そうな雰囲気を濃く感じた。薄紅色に染まっている素肌が羞恥に因るモノだとしても、本人が言わなければ分からないレベルで、他の入
最愛の人の薄紅色の唇が笑みの花を「会心」というふうに浮かべた。「経費を『あの』事務局長に認めさせるのだろう?祐樹が突破口になってくれるのなら皆有難がると思うのでしっかり貰って来た」 白く長い指が一片(ひとひら)の紙を祐樹に手渡してくれた。「有難うございま
エントランスでの芝居というかアジ演説みたいなのは多分、その場の人間に周知徹底を図っていた感じで後はウワサが広まれば良いという感じだった。「だったら、内田教授に運営を全部丸投げすれば良いのではないか?祐樹の忙しさだって承知の上だろうし。内田教授の事務処理
「そういえば……何ですか?」 祐樹にスマホを返した最愛の人はシートベルトを外している。「ここは二人きりではないのだろう?逆に新鮮なのだが……」 確かにこれまでは露天風呂付きの個室とか、大浴場でも人の居ない時間帯を選んで入っていた。「確かにそうですね。ただ
「人が死亡すると、その人の生まれた時から死ぬまでの全部の戸籍を取らないとダメな決まりになっている。長楽寺氏は63歳だったのだろう?だったら63年分の連続した戸籍を全部提出しないと死後凍結された金融機関の口座からの引き出しは不可能だ。配偶者でも知らない婚姻
「小児科の浜田教授の発案なのですが、それに偶々(たまたま)会った内田教授が『小児科への寄付』を募る宣言をされまして。 そして、救急救命室では柏木先生とか久米先生もコスプレって言うのですか?そういうのに乗り気になっています。 若い医師やナース達も物凄く乗り気
「その渋谷事変とやらは何なのですか?」 渋谷というのは東京の地名くらいしか思い当たらない。「田中先生が持っているDVDには収録されていない話なんですけど!!渋谷の街に呪(じゅ)霊(れい)達が集まって、呪術師達と総力戦になるんです!!面白いですよ!! 小児科病棟に
先程、割と近い親戚の入院という知らせが入りました。母の時にも良くして貰った方なので(このご時世ですから面会は出来ないでしょうが)少しネットを留守にします。予約投稿分は勝手にアップされると思いますが、再開のメドが立ち次第戻ってまいります。取り急ぎお知らせと
「いや、それが延々と自慢話なのかな?清水院長と親しいとか京都の医師会の会長職に興味が有るとか、医師会にどの程度の伝手(つて)が有るとか聞かれて……。それが遮(さえぎ)る間(ま)を与えないほどの早口で……。全然聞き出せなかった……。京都の医師会など私には全く未知
「今のところ20巻まで出ていますね」 想定内の巻数で少し安心した。その程度なら凪の時間にでも読めるだろう。「いえいえ、そんな畏れ多い。こちらから取りに伺います」 旧態依然とした大学病院では教授職が他科の医局に顔を出すなどは異色のことで――と言っても内科の
「祐樹、その画像を私にも送ってくれないか?」 脆(もろ)いガラスを思わせる真剣な表情がひときわ印象的だった。「え?もちろん良いですけど……。どうされました?」 最近は割と何でも話してくれるようにはなったが、最愛の人の標準(デフォ)仕様(ルト)は悲観的だ。ただ、
「取り敢えず、動機が強いと思われる人から書いていきますね」 最愛の人は気分を変えた感じで怜悧な眼差しになっている。◇◇◇ 「西ケ花桃子(37)マンションを買って貰った上に4億5千万(生命保険+遺産)がメリット」 「長楽寺佳世(58)借金の保証人にもなった
「ああ、『猿』とは、敵役(てきやく)が作中で呪術が使えない人間達を見下して言うセリフです。 物語では人間の負(マイナス)の感情が溜まったモノが呪いとなり、そのマイナスの感情が大きければ大きいほどその呪いも具現化したり強くなったりします。その呪いを解く役割をす
「そうだな……。この辺りに松の木はないのだろうか?」 祐樹の肩に頭を預けた最愛の人が意外なことを言い出した。「松の木ですか?何に使うのですか……」 秋独特の鰯(いわし)雲(ぐも)が蒼穹に見事に映えてとても綺麗だった。そしてその光景を二人きりの空間で見ていると
「相続人全員の合意がまとまったら遺産分割協議書というものが作成される。その場合は法定相続分を守らなくても良いのだが、西ケ花桃子さんも養子縁組をしているのだから法定相続人になる」 森技官の前では絶対に聞きたくなかったことだが――何しろ冷笑と高慢な表情にかけ
一人で練習するよりも他人の感想を聞きながらの方(ほう)が上達も早いというし。「では、ご要望にお応えして……。『領域展開 無量(むりょう)空処(くうしょ)』」 セリフは少し高めかつキラキラした声を出し、指の形を先ほど観た仕草で組む手順を(?)出来るだけ真似た。
「そうですね。夏のデートの時には敢えて捕まえませんでしたが、実際は夏にも居るらしいですよ。『ツクツクホーシ、ツクツクボーシ』と鳴く声はクマゼミなどの他のセミの声にかき消されて目立たないのですが、秋近くになって、他のセミが居なくなった時に存在感を発揮するの
「それにしても?」 最愛の人が興味深そうな眼差しで祐樹を見ている。 紙片を指に挟んで溜め息をついた。「このメモ用紙を今まで使っている医院があるとは思いも寄らなかったです……。いくら病院内部とはいえ、配慮不足なのか、それとも節約重視なのかは分からないですが
「これは内田教授……。お久しぶりです」 教授職に行き会った時の不文律通り深いお辞儀をする。「田中先生とは確かにご無沙汰でしたが、今までそちらの科の長岡先生にアドバイスを貰っていまして、考えを纏(まと)めるために外の空気でも吸おうかと。そのDVDは今流行りの?し
「察するに……何ですか?」 別に呉先生の件を深刻に考えていたわけでもなくて、最愛の人が楽しそうに話しをしてくれるのが嬉しいだけだ。確かに大切な友人には違いないけれど、今の祐樹にとって話題は何だって良い。とにかく二人が笑いあって遅めの昼食を摂るための話題で
「祐樹、そう言えばここの支払いも領収書を貰っていたな……。タクシーの時も。珍しいなと思って見ていた……」 ペンとノートは研修医時代以降買ったことはない。特にペンは製薬会社などの営業の人が名刺代わりに置いていくし、Aiセンター長になってからは医療器具メーカー
「そちらでは包帯巻きなのですね……」 多分、祐樹のスキルなら患者さんにああいう風に包帯は巻くことが出来る。普段はナース任せにしているものの、救急救命室では手が空いている者が全てをこなせというのが救急救命室の歩く法律、杉田師長の厳命だった。まあ、医師しか出
「どうしました?」 几帳面で注意深い性格の最愛の人がそんなミスをするとは信じられないが、「申し訳ない」と言葉で謝っても取り返しのつかない仕事とは異なって謝罪の言葉がなくても笑って許せる私的(プライベート)なデートなのだからそんなに重く考えることもないのに…
「いや、戻ったらまた自慢話を延々とされるのがオチなので出来れば帰りたい」 最愛の人が珍しく苛立った声を出している。真面目で几帳面かつ職務熱心な人には耐え難い医院みたいだった。 祐樹も別の意味で避けたい場所なので好都合だ。「山田さん、院長にはウチの病院の患
白い髪をしているということは外国人なのかも知れないが、それは鬘(かつら)だかウイッグだのを付ければ大丈夫だろう。それに祐樹の良く知らない世界、知りたいとも微塵も思わないがではコスプレとか言ったと思う、そういうモノも売られているらしい。小児科病棟のガキいや、
手には松茸を持っているので念のためだった。最愛の人は右手に、祐樹は左手に松茸をたまたま持っていたのでハイタッチが出来ないという事情が有ったが。「しかし、旬(しゅん)の最中(さいちゅう)というわけではないのに、こんなに大きく成長した物が採れるとは思ってもいな
「院長先生は、ビタミン剤とか湿布薬を過剰に出していました……。他の患者さんにも割と処方はしますけど突出していたような感じです。あと、一年中風邪薬とかも投薬していました」 一年中……。風邪薬は風邪の時に数日間処方するのがまともな医師のすることで、毎日適量を
「祐樹、浜田教授は物凄く喜んでいた。電話の内容は聞こえていただろう?時間とかはあれで大丈夫だっただろうか……?」 電話を終えた最愛の人が怜悧な瞳に懸念の光を湛えている。「大丈夫ですけれど……。ベッドで悪戯(イタズラ)の件は忘れないで下さいね」 そろそろラン
二人が良く行くカウンター割烹のお店では梅雨(つゆ)松茸(まつたけ)と呼ばれる、文字通り梅雨の頃に採れる松茸を食べたことが有ったが、その時は土瓶蒸しだった。梅雨の時期の松茸は大きさが充分ではないらしい。その前は大きな国産の旬の松茸―-徳島産と聞いた覚えがある
「そんなしょうもない雑用を香川教授に……」 太田院長が慌てて引き留めようとした。 ま、カルテが無事発掘(?)する人数は多い方(ほう)が良いのも事実で、最愛の人の事務処理能力の高さも大事な戦力になるだろう。「しょうもない」と言った時には切れ長の目が怒りの光を
「え?私が小児科のイベントに……?ハロウィンの仮装をして……?」 最愛の人の執務室に呼ばれて、彼の手料理の次に美味しいと思って食べていた抹茶アイスで噎(む)せそうになった。 向かいに端座している最愛の人も憂い顔をしている。そういう表情もまた絵になるなと思っ
「松茸がどこに生えているのかとか、どのように探せば良いのかが全く分からない……」 「ただ」に続く言葉がそんなことかと思って思わず笑みを零してしまう。「私も実は知らないです。 母親の話では既に亡くなったウチの祖母世代には山に行けばそこいらに生えていて、貴重
「本題に入れない」とのラインが来ていたので延々と自慢話を聞かされていたのだろう。「カルテですかな……。個人情報保護法との兼ね合いも有りますから……」 嫌な顔をしているのは、ビタミン剤とか湿布薬といった物を長楽寺氏の要求するままに処方していたからだろうな
「お昼時を過ぎてしまいましたが、空腹ではないですか?」 自損事故の処置に時間を空費してしまったせいで――あの夫人は病院で手当てを受けているし、命には別条ないらしくて良かったが――時間が大幅にずれ込んでいた。「祐樹も横で見ていたと思うが、色々な駄菓子を食べ
『祐樹、本題に、はいれない。すぐにもどって』 多分スマホを見ずに打ったと思しき文面が最愛の人の焦り具合を象徴しているような気がした。驚異的な記憶力と手先の器用さを活かして文章を作成したのだろうが、漢字変換などは画面を見ないと不可能だろう。 最愛の人のスマ
「ああ、どうぞ。好きなだけ食べて!!」 必要以上に大きな声で言われたので、本当に耳が遠いのだろう。 ただ、耳が遠い人の方が祐樹達にとって都合良いなと思ってしまう。この感じだと最愛の人と「こそこそ話」をしても相手には聞こえないだろうから。 祐樹最愛の人は、
そんなの分かるわけがないだろ!と少し怒りを覚えたが、当然表情には出さないで、にこやかな笑みをキープしつつ首を横に振った、少し悲しげな表情も加えて。「あの人もまさか自分が死ぬとは思ってなかったんじゃないかなって思うの。 ウチの病院はね、院内は当然のように
「要は七輪よりも大きければ大丈夫ですよね……。猪の肉の牡丹(ぼたん)鍋(なべ)も美味しかったら焼き方を聞けば多分大丈夫だと思いますが……。呉先生のお屋敷の敷地の一部を借りる契約を結ぶのでしたら、スケールを大きくしてバーベキューにすれば良いのではないでしょうか
「ああ、ウチの病院で亡くなられた人でしょう?もっと優秀な医師が居て最新鋭の機械とかも揃っている、そうK大附属病院とかに搬送されていれば――って、貴方もK大付属病院の関係者だったわよね。ウチの病院はヤブで有名だし、機械だっていつ壊れるか分からないほど古びてい
「予想以上に大きいですね……」 イガイガがぽっかりと割れて見える大きめの栗が見事の一言に尽きた。 最愛の人も目を瞠(みは)って楽しそうな眼差しで栗を見ていた。「ああ、こんなに大きな栗だとは思ってもいなかった……。何個買って帰れば良いと思う?」 細く長い首を
随分使い込まれた感じのするマッチの箱を開けて中から一本取りだすと床に落として足で踏みつけている。多分だが、この夫人はご主人へのイライラが募った時のためだけにマッチ箱を持っているのだろう。「心中深くお察しいたします………」 クラブとやらに微塵も興味はない
前を向いて運転しながら最愛の人の精緻な造りの顔をそっと窺う。集中力が二分(にぶん)されるわけだが、仕事中は更に分散させているので慣れている。 切れ長の涼しげな眼を瞠(みは)って最愛の人は何だか不思議そうな表情だった。「え?だってあれは医療行為の一環だろう?
「もしかして、和食も奥様のお身体のために作られたのでしょうか?」 家族性高脂(こうし)血症(けっしょう)とはざっくり言うとコレステロールが溜まりやすい体質で、遺伝という先天的なモノだ。だから、長楽寺氏との一人息子の直哉氏もその可能性が高い。 祐樹は外科なので
祐樹が担架(たんか)を持った救急隊員と共に戻ると、ブドウ糖の接種で意識が戻ったご婦人の意識レベルを計ろうと最愛の人が住所を聞き出しているところだった。「名前と住所、そして既往症は言えるレベルです」 救急隊員へと会釈しながら現状報告をする最愛の人に「バイタ
ただ、研究目的という建前で来ているので、どう言えば上手く聞き出せるのか必死で頭を回転させる。「香川教授、少し奥様と話がしたいので席を外して宜しいでしょうか?」 最愛の人は涼しげな眼を瞠(みは)って一瞬だけ躊躇(ためら)うような雰囲気を醸し出していた。「田中
急に寒くなってきましたが、読者さまはお健やかでいらっしゃいますか?ご存じの通り「にほんブログ村」と「人気ブログランキング」の二つに登録しているのですが、私がメカ・PC音痴なせいか、にほんブログ村との相性が悪いのか「新着記事」に載っていないという 汗当面は、
人一人通れる程度の穴を開けて――というか軽自動車なので全面積に近いが――シートベルトカッターでエアバッグを無効化する作業に取り掛かった。 中々上手く行かなくて自分の手際の悪さにイラついていると、設営を済ませたと思しき最愛の人が走り寄ってきた。「祐樹、手
「こんな場所にあの御高名な香川教授と田中先生をお迎え出来るとは光栄です」 プライドばかり高くて気難しくて扱い難(にく)い人物かと危惧していたのだが、どうやら杞憂のようだった。 太田院長はよれよれのワイシャツにネクタイのノットが歪んでいて、靴ではなくてプラス
「貴方に怪我や打撲はないですか?」 時速30キロ程度だったとはいえ、思いっきり急ブレーキを踏んでしまったので気になった。祐樹の場合、咄嗟(とっさ)の判断でブレーキを踏む際(さい)に心の準備は出来ていたわけで、衝撃に本能的に備えていたけれども最愛の人が――反射
病院の正面玄関から黒い背広の男性達が棺(ひつぎ)と思しき物体をしずしずと運び出している。「あんなに堂々と、しかも通院患者さんの前を通ってまで……ご遺体を運び出すのは初めて見た……」 驚きと呆れがブレンドされた最愛の人の声というのも滅多に聞けないな……と半
「牡丹(ぼたん)鍋は、ホテルでも出してくれるそうですが、夏に通り過ぎたあのお店に致しますか?」 色々とプランは練ってあるものの、やはり最愛の人の意向を重視したい。「ホテルでゆっくりと味わうのも悪くないけれども、ああいう趣のある店で食べたいな。 京都にもああ
「今回の件は、まさか貴方が聞いていらっしゃるとは思ってもいなかった私のミスもありますので『仕方ない』の一言で済む話なのです。しかし、今後も職務上患者さんと雑談をして信頼を深めることもあるハズです。しかし、その時どんなに耳を疑うような言葉を耳にしても、可及
「それに……斎藤病院長にはウソも方便でああ言いましたが、長楽寺真司さんが生前通院していて、救急搬送された太田外科医院の院長が香川教授の信奉者かどうかは全く分かりません。ある程度のことは警官が行って事情を聞いたのですけれど、そういう時に香川教授のお名前を出
ついつい思わず大きく頭(かぶり)を振ってしまう。「あんな、雨が降ったら役に立たないというか、濡らさないようにしないといけないようなバックは不要です。貴方が買う分(ぶん)には特に止め立てする気もないと申し上げたいのですが、しかし、……女性用のイメージが強いので
「あれはオペラの話です。篠原さんは商社勤務が長かったので、ヨーロッパの名だたる劇場にも何度も足を運んだとかで大のオペラ通になったらしくて。 それで『田中先生はどのオペラが好きですか?』と聞かれたので『見てくれだけのバカ娘です。曲が好きで、愛していると言っ
「調査だか捜査はお引き受けしたのでキチンとします。 病院長からはくだんの私立病院の院長先生は香川教授がお出向きともなれば『水戸黄門』のドラマの『葵の印籠(いんろう)』の効果は有ると申していましたけれど、長楽寺家や愛人の西ケ花さんには通じないですよね? 警察
祐樹などよりもよほど善人で善良な性格の人がそんなことを考え付くのは余程のことだろう。怒らせたら怖い人ではあるが、その怒りの原因は正義感だったり人情だったりが発火点なので。「私も内心驚いた。実行する気はないようで……。空想している分には実害もないだろうし
金銭の恨みだけではなくて、例えば最愛の人が凱旋(がいせん)帰国を果たした際に出世を閉ざされたと逆恨みして手技を妨害した輩もかつては存在した。物理的に殺すのが理由でなかったにせよ、一歩間違えれば患者さんの命も危険に晒す行為を仕出かしたのは許しがたい暴挙だっ
「あ……『一応上司として状況を把握したいので、執務室に田中先生を呼んで貰えますか?』」 画面の文字を読んだだけなので棒読みになっていないと良いけれども。『承りました。では15分後を目途めどに田中先生が執務室に行くように調整致します』 特に不審は抱かれてい
森技官は感心した表情を男らしい顔に浮かべている。祐樹が質問した時は馬鹿にした表情を浮かべていたくせに、現金な人間だなと内心憤りを覚えたけれども一々突っかかって行けば話も長くなるので我慢した。「原則的にはその通りです。流石は博識をもって厚労省内に聞こえる
頭皮のマッサージが気持ち良いのか、最愛の人は血統書付きのシャム猫のような仕草で祐樹の身体へと肢体を反らして来た。そのパジャマ越しの肌の感触と重みが心地いい。若干華奢な肩にも指で圧を掛けた後に首回りも解(ほぐ)す感じで指を上にあげていく。「呉先生の薔薇屋敷
「知っていたみたいですね。ただ、結婚してからずっと専業主婦かつ夫である真司氏の会社を支えて来た人でして……。積極的な事業展開のマイナス面として銀行融資などの際(さい)に連帯保証人になったことも有ります」 連帯保証人と一瞬考えたが救急救命室の休憩室に誰かが置
「彼女のバックを一個でも良いのでこっそり盗んで、ヤフーオークションなどでこっそり売ってしまいたいという誘惑に駆られます。 特にクロコダイルとかだと物凄く高値からの出品なので、あの値段で売れれば税金を分割払いではなくて一気に支払ってしまえるのに……とね」
「要するにセックスの時に……」 森技官が半ば真面目に半ば面白がっているような表情を浮かべて説明しかけたのを慌てて遮(さえぎ)った。「医学用語では性交死です。こちらの単語はご存知ですよね?俗語というか、一般的に使われていたり文学用語だったりするのが腹上死です
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「はい、拡張……、それはともかく術式は……」 具体的な説明をしようとしたら、個人的には悔しいが苦み走った整った顔にドロドロと青色の簾(すだれ)が下りていくようだった。 普段の祐樹ならもっと具体的かつ生々しく説明するところだ。 しかし、かの「一力(いちりき)亭
祐樹行きつけの、つまり救急救命室から最も近いコンビニは店員さんがバーコードだかを読み取る仕組みだった。 ちなみに、高校生まで過ごした実家だったら未だに値段を書いた小さなシールという店もある。 実家に帰る時は実の息子の祐樹よりも母に気に入られている最愛の
「その言葉は単なる営業トークでしょうね。 マンションをローンで購入した場合、銀行は抵当権を付けるのが普通です。 要は担保でして、万が一、ローンの返済が滞って返済不可になった場合はその部屋を売却してローンの残債に充てることが出来ます。 仮想通貨は詳しくは存
アメリカには借金が返せなくなった人の代わりに肩代わりする連帯保証人という制度はない。 自分の知る限り日本独自の慣習のようで、生粋のアメリカ人のコナーズ教授が良く知っているなと逆に感心した。「借金を肩代わりして下さるなら、そうですね。 ハロッズを一棟丸ご
「ローン返済中に遠藤先生に万が一のことが有ったり、三大疾病(しっぺい)に罹ってしまったりした場合には保険の契約形態にも因りますが、それ以降のローンは保険が利いて支払いは免除されます。 つまりそのマンションは相続される方(かたの財産になるということになります。
クロテッドクリームの油分が付いた薄い唇がより艶めきを放っている。 その唇が瑞々しい花のように大輪の笑みを浮かべている、華やかに。「美味しいですよね」 最愛の人と笑い合って同じ物を食べる時は常に最高の味だけれども、手術の達成感のせいかより一層美味だ。「ク
「ローンを完済した時には私の固定資産になって、その後の収益はまるまる手に残るという話でしたが?」 最愛の人は切れ長の目に澄んだ光を宿して遠藤先生と祐樹を交互に見ている。 祐樹も最愛の人をずっと見ているので視線が絡まるのは心が弾む出来事だ。 教授執務室に来
支配人が何だか探るような視線を向けているのは気のせいだろうか? 不審者を見る警察官のような眼差しのような気がする。尤もそんな場面はテレビの中だけでしか知らないのだけれども。 嘘を吐(つ)くという心に疚しいことをしているせいで疑心暗鬼を生じているだけだと信
「はい、それでお願いします。 ところで空腹ではありませんか?ルイス君から分けて貰ったスコーンはとても美味でした。 そして、食べ方も私達とは異なるようで……。 本場だからかそれともオックスフォード大学独自なのかは生憎存じませんが?」 最愛の人は切れ長の目を
祐樹を魅了してやまない端整で理知的な顔が曇っている。 もし仮に二人きりでこんな表情を浮かべられたら、あたふたと原因を探すだろう。そして大輪の花のような笑みを浮かべて貰うために何だってする。 祐樹は最初こそ彼の見た目に強く惹かれていたが、付き合いが長くな
最愛の人は白く長い指で繊細なロイヤルコペンハーゲンのコーヒーカップを持っているだけで絵になる。白と濃いブルーの模様がしなやかな指を精緻に彩ってくれているので。「済みません、説明不足でしたね」 コーヒーの湯気が頬を薄紅色に染めていくような気がした。 遠藤
その手が有ったかと刮目してしまった。 特に舞妓さんや芸子さんの料金、確か「花代(はなだい)」と言ったような気がするが定かではない。 ともかく彼女達を呼ぶには莫大なお金が掛かりそうで、あの時はチームとして機能するようにと必死にテンションを上げていて、その場
「医学部生は国際公開手術のスタッフとして動員されていたみたいです。正装でもあるアカデミックガウン着用という命令が出ていたみたいですね。 そう言えばオックスフォード大学に格別の思い入れがある黒木准教授に手術成功の報と共にアカデミックガウン姿のルイス君と撮っ
ただ、彼女の部屋で同棲を始めて引っ越していって家賃を浮かそうとした人がいたり、極端な例では生きた化石のようなマルクス主義を標榜する共産党員にいつの間にか傾倒してしまって共産党員と共同生活をするために部屋を引き払ったりしたと聞いた、あくまでもウワサだった
「なるほど……。景気があまり宜しくない日本経済を回すための外貨獲得のために頑張って耐えたということなのですね。 レセプション会場で協会長などに顔を売るために森技官は鋼(はがね)の精神力で耐えたというわけですか……。そして手術が終わって気が抜けてトイレに駆け
「教授執務室に参りましょう。長くお待たせするのは失礼ですから。 その封筒やパンフレットなど参考になりそうなモノは全て持って行かれることを強くお勧めします」 いくら手技がイマイチだと言ってもそれは香川外科に所属しているからで、公立病院なら執刀医になれるポテ
「億単位の大きな買い物は営業マンの言い分だけではなくてセカンドオピニオンを受けてみられては如何でしょうか? 尤も私にとって億単位のお金を動かすなどということは、Ai(死亡時画像診断)センターのMRIなどしか縁がないのですが、相(あい)見積(みつ)もりを取るよう
今は祐樹も外科医として至高とまでは行かないがそこそこのレベルには達している。いるのだけれども医局のムードメーカーとして振る舞うように心掛けているし、香川外科では一介の医局員に過ぎないので声は掛けやすい。 医局員が後日問題になりそうな言動をした場合は厳然
「なるほど、良く分かりました。河川敷とか堤防は確かに景観を損ないますよね。 ビックベンと国会議事堂のごく近くまで川が流れているのには驚きましたが……」 嘘を見抜かれていないことに安堵した。 普段の祐樹だったら気付くだろうことを、術者に選ばれてからスルーし
遠藤先生とは業務連絡と当たり障りのない世間話をするだけの祐樹だけれども、香川外科の一員だ。 それに最愛の人も業務以外の相談も歓迎すると言っていた。祐樹がそれほどの知識を持っていながら勿体ないとアドバイスをしたことが切っ掛けで。 遠藤先生の手技は香川外科
アニメの真似も――アニメを全く知らない人が見たら余計怪しい――最愛の人が望むなら是非したいけれど、愛車と納屋で良い感じに人目を避けてくれている。 ただ、野外で男が二人藁に包まっているという状況は通りすがりの人が居たら「どうかしたか?」的な声を掛けられる
「そうなのです!!観光名所としてのお寺は限られていますよね?」 祐樹も神社は――何しろ時間が来れば門が閉まるお寺と異なってほとんどの神社は24時間出入り可能な穴場スポットだ――行くけれども、そして最愛の人と見事な桜吹雪のみが藤の花に散っているお花見ランチ
長岡先生は金銭感覚が祐樹とは三桁(けた)くらい異なるし、医師としての矜持は持ち合わせているけれども無駄に高かったり根拠がなかったりするプライドは持っていない。 そういう点からも附属病院は避けたのだろう。「ただ、その率直な意見を申し上げた後に見たことのない
「キリスト教の神様は私達のような人間が大嫌いでしたよね。ま、今ではゲイだとカムアウトする聖職者の方もいらっしゃったり、同性婚の式を挙げてくれる教会があったりしますけれど。 聖書には同性愛と獣姦は絶対に駄目だとも書いてありますよね?」 聖書やキリスト教の教
「代々京都に住む人間ならば『白(しろ)足袋族(たびぞく)には逆らうな』という言い伝えが脈々と言い伝えられています」 手術以外の時にこんなに真剣な表情を浮かべたことが有ったか?と思うほどの鬼気(きき)迫(せま)る久米先生の顔に圧倒された。 シロタビ族?多分「族」の
「卓越した手技を持つ外科医として、また尊敬出来る上司としての教授は出会った時から変わりませんけれども、私生活では何だか感情のどこかが欠落した感じで……少し危なっかしいなと密かに案じておりましたの。 それが田中先生と出会って、そして一緒に暮らしていらっしゃ
「そういえば、大根を買いましたよね?鬼退治のマンガの登場人物の一人が好きな料理が『鮭大根』だそうです。どんな味だか食べてみたいのですけれども……」 物凄く食べたいというわけではなくて会話のキャッチボールという側面の方が大きい。「ああ、『生殺与奪の権を他人
医局のドアをスライドさせて部屋を見回そうとする前に久米先生が飼い犬――しかも飼い主が可愛がって欲しがるままに餌(えさ)を上げてしまって可愛いと言われるよりも「貫禄の有る」とか言われそうな――のように走り寄って来た。「田中先生お疲れ様です。その感じだと特に
「え?香川教授の欲しがっていらっしゃる物ですか?」 確認するかのような鸚鵡返(おうむがえ)しの返答だったけれども、淡いピンク色の口紅をつけた唇が可笑しそうな笑みを浮かべている。 「患者さんと冗談を交わして大笑いさせる」という点では医局一の座を不動のモノにし
「……学生時代にキャンパスで祐樹に一目惚れしたのは話したことがあるだろう?」 しばらくは二人が踏みしめる雪の音だけが聞こえていた。その後に薄紅色の唇が白い息と共に言葉を紡いだ。「はい。それは伺っています。というか、今思えば、同じ専攻なのに、どうして声を掛
患者さんとして扱われるのが嫌いなタイプが一定数いらっしゃるのは経験上知っていたし、山科さんはそのタイプだろうと判断したので頼んでみた。「この土日ですか。分かりました、さっそく秘書に手配させましょう。いらしたことを完全秘匿ということで宜しいのですよね?」
「ああ!それは有りますわね。昨日はヒマラヤを持って行きましたの。お恥ずかしながら30の物なのですけれども……」 最高峰と言われるバックなのは知っていたけれどもどこが「恥ずかしい」のか分からない。 祐樹などの感覚ではそういう物凄く高いバッグを京都市指定ゴミ
傘を少し上げた最愛の人は薄紅の頬と唇がモノクロームの世界に一際鮮やかな花の趣きだった。「祐樹がそう言ってくれるから頑張れる……。 しかし、やはりスキーをするのは停年後……いや、外科医として現役を退いてからになるな……。斎藤病院長が骨折しても秘書以外誰も
「大正時代までは皇族の皆様方が宿泊していた建物なので大正ロマンも感じさせる和洋折衷の建物です。宮内庁は耐震性がどうのとも言って皇族の皆さまに泊まらせない意向ですけれど、先の地震の時にはびくともしなかったし調度品全てが無事でした。 これだから宮内庁の役人な
「え?いいえ報告は致しておりませんが、申し上げた方が宜しいのでしょうか?」 祐樹が恐る恐るコーヒーに似た生ぬるい液体に口をつけていると長岡先生のピンク色に塗られた唇が優雅に動いていた。「医局外干渉は病院のご法度(はっと)なのはご存知ですよね?」 どう淹れた
ただ、鬼の情緒というか気持ちには恋愛感情も含まれているのだろうか?主人公が最初に対峙した強い鬼は家族愛に飢えていた。それに遊郭に居た鬼の妹はどうやら鬼のボスに対して特別な感情を抱いていた感じで描かれていたし、懐いた感じで寄り添っていた記憶がある。 ただ
山科さんと目の高さが同じになるように腰を屈めて真摯な笑みを浮かべた。「以前は心臓の手術というだけで命が危険だという固定観念が有りましたけれども、息子さん世代の場合はインターネットでも情報が入手出来ますし、それに何よりウチの香川の素晴らしいとしか言いよう
「あら、田中先生。昨日はLINEをわざわざ有難うございます」 午後の手術(オペ)の執刀を無事に済ませて医局へと戻るべく廊下を歩いていると長岡先生からそう挨拶された。LINE……ああ、そう言えば森技官からスタッフさんの機嫌を取れというミッションを受けて長岡先生を紹介
祐樹はしていないがSNSだと「同好の士」が集まって話す機会がたくさんあるらしい。 小林さんも祐樹同様にそういうネットの使い方はしていないようだった。だからこの時とばかりに話して来るのだろう。 中間管理職は部下からも上からも色々言って来て大変だという程度
「病棟に行って来ますね」 医局のスライドドアを開きながら医局長の柏木先生に届くように声を張り上げた。手術(オペ)も無事に終了した医局には小さな達成感という感じの空気が流れている。 といっても祐樹は午後の手術は最愛の人の第一助手だった。ただ執刀医も務めている