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Little Stars~アルファベットの独り言~ https://littlestar08.blog.fc2.com/

ロマンティックな恋人たちの小話を妄想してます。甘い二人に癒されたいかたは、どうぞお越しください。

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2019/04/28

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  • レモンはジェラシーの香り 2

    「それで?」自慢の脚を組み替えながら、リズ・ジェラードが笑いを堪えたような顔でエリーナに先を促した。「それでね…お、思うんだけどぉ、すっごくすっごく、嫌なの。このこと考えるのが。で、でもぉぉ」ゴクンと唾を飲み込み、エリーナはダークネイビーのスカートの裾を整えた。「思い切って口にした方が、解決策が見えるかもしれないわよ」「そ、そうかも」エリーナは顔をあげ、右隣のリズを見つめ返した。ブラッドの義姉のリ...

  • いつか振り向いて8(シンチェversion)

    シンの体が強くチェギョンを突き上げた後、彼は震えそれから妻の体に倒れ込んできた。チェギョンは夫の汗ばんだ大きな体に押され、マットレスに深く沈み込みながら、ひどく満足している自分に気が付いた。 シンが経験豊かな夫だからだ。彼に対してよい感情を自分が持っているからではない。そうに決まっている。 彼に対する優しい気持ちが沸き上がった事実から目を背けたい。自分はけしてシン・セント・ジョージに心を開くことは...

  • レモンはジェラシーの香り

    クンクンクン…ブラッド・ジェラードは心地よい眠りから目覚めていく自分を感じた。クンクンクン…どうやら自分は実家のベッドで眠っていたようだ。そんな記憶はないはずだけれども。昨晩は―――当直明けの連続勤務で、すっかり疲れ切っていた。さっきから、左腕の時計で時間を確かめてばかりいる。そんな彼の様子を視界の端に入れていたのだろう、同僚のマックスが肩をポンポンと叩きながら「当直が控えている日は、エリーナとの“お楽...

  • いつか振りむいて8(シンチェversion)

    チェギョンは震える体をぎゅっと抱きしめた。 ここから逃げ出すことが出来たら、どんなにかいいだろう。 結婚式の日の夜もそうだった。 でも、あの時のほうが実際は良かったのかもしれない。夫のことを何も知らなかったから。 この1か月でチェギョンはシンのことを沢山知った。 今まで兄のユルの陰に隠れていたシンが、実はユルに負けず劣らず賢い王太子であると分かった。本当の彼は、ユルより数段優秀なのではないだろう...

  • 攻防戦は次のラウンドへ

    「本当に、イラつくわ」マダム・アンジェリーナことアンジェリーナ・スミスは、誰もいない自分のオフィスで悪態をついた。そしてソファに放り投げたスマートフォンを睨みつける。端末を睨みつけたところで、今電話を切ったばかりの相手にこの怒りが伝わるとは思っていないが、あの憎たらしいハンサムな顔が浮かんでくるからだ。「何が、『エリーナは僕の“妻”なのでね』なのかしら。私とエリーナの方が、ブラッドよりもずっと長い付...

  • エリーナとブラッド

    「それって、どういうことぉ?」ブラッド・ジェラードは、愛らしい恋人の不思議そうな顔を見つめた。白く滑らかな肌、小さな三角の顎、零れ落ちそうな大きな瞳と少しばかりすぼまったピンク色の唇、ブラッドの言葉の意味を考えているのだろう、少しだけよった眉。彼は無意識のうちに手を伸ばし、彼の恋人エリーナ・リンジーの頬に触れた。そもそもブラッドが1分も彼女に触れずにいたことが珍しいことだ。ブラッドとエリーナは、二...

  • 交差する想い3

    にこやかに微笑むことなど、馴れているはずだった。常に人の目にさらされた人生を送ってきている。どこに人の目と耳があるか意識して暮らしている。それだと言うのに、今この瞬間、サイモンは最悪な気分だった。父である国王や大臣たちに、未来の王妃リストを突き付けられ、ことあるごとにそのリストの人物たちが彼の前に現れるからだ。目の前の褐色の美女は確かに魅力的な女性の一人だろう。サイモンが一時の遊びの相手にするには...

  • 交差する想い2

    「え…」パトリシアは喉を詰まらせた。そして突然溢れだした涙。「う、嘘よっ…こ、こんなの信じない」メディアの見出しはどこもかしこも、兄のサイモン王子の結婚が決まったと書かれている。パトリシアは裸足のまま、自室のドアを開け兄を探しに出かけた。「お兄様は?どこなの?」すれ違う人々に叫びながら尋ねるのに、彼らは誰一人的確な答えを返してくれない。宮殿はただでさえ広く迷路のように入り組んでいるのに、サイモンは普...

  • 交差する想い

    「なにやってるんだろう」この国の王女、パトリシア・フランシスは自分で自分を叱った。手に持った端末をぽたりと力なくベッドに置いた。大好きな兄のサイモンが、端末の液晶画面から消えた。彼女はそのまま横に倒れると、枕を強く抱いた。そして目を閉じ、ゆっくりと息を吸った。サイモンの香りがふんわりと鼻腔を満たす。ここは兄の部屋で、彼女は彼のベッドに寝転んでいる。妹である特権を無邪気な振りをして行使しているけれど...

  • 気に入ると言う意味は…そういう意味ではない

    「もぉぉ、ブラッドってば、怒らないでっ」エリーナがしきりにそういうけれども、ブラッドは難しい表情を和らげる気にならなかった。「ね、ブラッド」ポニーテールの毛先がユラユラと揺れている。小首をかしげて顎を上げているエリーナは、この世のものとは思えないほど繊細な造りをした妖精だ。今日の彼女はこれまた、愛らしい。ネイビーのセーラーカラーのブラウス―――カラーは白―――に、白いふんわりと広がったひざ丈のスカートを...

  • 恋人たちのトラブルには

    「おばあちゃま…っ」「あらあら、どうしたの、レオノーラったら」エリーナ・ジェラードは驚いた顔で、玄関扉の前に立っていた。土曜日の夕方に、孫娘のレオノーラが泣き顔で訪れて来たのだ。「おばあちゃまぁぁ」エリーナの戸惑いなど全く気付いていないらしいレオノーラが、力いっぱい抱き付いて来て、エリーナは後ろのよろけた。孫娘とほぼ同じ身長だとはいえ、こちらはそこそこ年を重ねている。そしてレオノーラの方は元気いっ...

  • 幸せの意味は23

    「ローズを知らないか?」この屋敷の主人であるルシアン・バンブスは、家政婦のバーバラ夫人に声をかけた。夫人は玄関ホールの花瓶の花を活け替えていたところらしく、そのぽっちゃりとした温かみのある手に少々元気のなくなった切り花の束を持っていた。「ご主人様とご一緒だと思っておりました」「僕は、夫人と一緒だと思っていたんだ。一緒じゃないんだな?」「はい」彼が寝室で仕事をしていた間、珍しく妻が部屋に入ってなかっ...

  • お嬢さんには手を出すな

    「…遅いな…」ジェームズ・サヴェージは1分前にみたはずの左手首の時計を確かめた後、その手に持っていたスマートフォンにも目を向けた。そうして再び、腕時計で時間を確かめているようだ。「遅すぎるだろ」少しばかり大きな声が出てしまったようだ。小さな隠れ家のようなこの店の客がちらりと彼を見たから。常連客でにぎわうこの店は、ジェームズのお気に入り。彼が王太子であることを、他の客たちは全く気にしていないばかりか、...

  • 彼女の秘密2

    父である国王のプライベートな客間でティータイムをすることになった。ジェームズはテスに警戒していた。 ―――とにかく、テスをソフィアに近づけないことだ。 ソファに座り、妻の細い腰を引き寄せる。そう、1ミリも隙間がないように。ソフィアが恥ずかしがってピンク色に頬を染めているが、それさえも忌々しくて仕方がない。いや、妻のその初心な様子や上気した顔は、食べてしまいたくなるほど可愛らしく感じているは事実だ。しか...

  • 彼女の秘密

    「ねぇ、あそこにいらっしゃるのは、妃殿下よね?」 視線だけチラリとそちらに向けたテスが、笑いを堪えながら声を落としてジェームズに囁いた。「今日の会にはお出ましにならないってことだったのに…どうしてかしらね」テスが悪戯そうに目を光らせたけれど、ジェームズはそのことにさえ気づかなかった。ダンスの最中の彼は、首だけ動かしダンスの相手―――テス。ジェームズの古くからの友人の一人―――の示す先に視線を動かし、妻の...

  • ある日の恋人たち

    ブラッド・ジェラードが友達のパトリックのホテルについた時、恋人のエリーナ・リンジーは既に窓際のソファに座っていた。彼女はテーブルに乗っている大好物のトライフルではなく、自分の手をぼんやりと見つめているように見えた。 ブラッドはスタスタと大股で歩き、エリーナの肩を掴んだ。 「待たせたね」 「ブラッドっ。うぅぅぅんっ、もう15分も待ってたのぉ」 「それは悪かったよ」 ブラッドは申し訳ない顔をして見せた...

  • 涙のわけは ジェフリー&リナ編

    ルルルルリナ・マークスはちらりとスマートフォンを見た。画面には姉の恋人ジェームズ・ヴェージ王太子からの着信だと出ている。「もうっ、何度かけてきても、ソフィアは出ないわよ」リナは大きく肩をすぼめ、それから面倒くさそうに受話器を取った。「はい、はい…だから、そんなこと言っても、ソフィアはあれで、頑固なのよ。もう、今日のところは、これ以上、ソフィアにかかわるのは止めて。明日にはもう少し、ソフィアの気持も...

  • 涙のわけは2

    「じっくり話もしたいし、宮殿へ戻ろう」ジェームズはソフィアの髪を撫でながら囁いた。反抗する気をなくした彼女は、ぐったりと体を預けてくる。「うん…」「それとも、マークス家にしようか。ここからならソフィアの家の方が近いだろう」彼女は首を横に振った。「ジェームズの家の方がいい」「そうか…」コクンと彼女が頷き、それからぼそりと呟いた言葉に、彼の胸に小さく火が灯った。「最近、宮殿にいる時間が多いでしょ。だから...

  • 野菜は図書館で

    「ブラッドぉぉぉ、は、早く帰って来てっ」ブラッド・ジェラードが仕事を終えたその瞬間、デスクに置いたスマートフォンがブルルと震えた。彼は液晶画面をさっと確認すると、流れるような仕草でそれを耳に当てた。「エリーナ、どうした?」「は、早くぅぅぅ」グズグズと泣き声とともに、不明瞭な妻の声が聞こえてきた。「すぐ帰るよ、だから待ってなさい」「あ、安全、う、運転して、ね」「ああ、そうするよ。だから、もう泣き止ん...

  • 涙のわけは

    「はぁぁ」 ジェームズ・サヴェージは、愛車のハンドルに額を付けてため息を漏らした。少々大きな。――――何が何だか訳が分からない。「くそっ」仕事がないためラフにしてある髪の毛をぐちゃぐちゃと乱しながら、彼は悪態をついた。いつものように、恋人のソフィアの自宅に彼女を迎えに行った彼は、玄関で彼女ではなく、彼女の妹のリナに出迎えられた。そして、リナは不機嫌そうだった。ジェームズは迂闊にも彼女のその様子に気がつ...

  • 青空のキモチ8

    「だから、言葉通りの意味だよ、ソフィア」父であるジェラルドは、にっこりと笑う。こんなときにあんなふうに愛嬌を振り舞うことができるのは、父ぐらいだろうと彼女は思った。昔から父は音楽ファンのみならず、クラッシックに疎い人たちからも人気がある。人当たりの良い笑みがその理由だろう。母が幾度となく「パパはすごくモテたのよ」と自慢半分、嫉妬半分に言っていたのは本当なのかもしれないと、ソフィアは初めて思った。そ...

  • 青空のキモチ7

    「いい気持ち」ソフィアは大きく息を吸った。冷たいけれども、新鮮な空気が肺に広がる。美味しい空気に囲まれているけれども、彼女の心は一向に爽やかになってくれない。ソフィアはもう一度深呼吸をした。少しでも気持ちが晴れるようにと願いながら。ぬかるんだ森の道を抜けると、小さな湖がある。この街に来て、5日間たった。街のメインストリートにある小さな雑貨屋で、赤いレインブーツを買い、ソフィアは毎日この湖へ来ていた...

  • 青空のキモチ6

    「殿下!」ノックに返事をする前に執務室のドアが乱暴に開き、侍従長のドレイクがしかめ面をしたその時、飛び込んできた侍従の表情で、ジェームズはドレイクを手で制した。「なんだ?」「も、申し上げます」はあはあと息を切らしている侍従が、大きく一呼吸した後「ソフィア様が見当たりません」真っ青な顔でそう告げた。その言葉が耳に入るな否や、ジェームズは部屋を飛び出していた。背後から「ジェームズ様」とドレイクの声が聞...

  • 青空のキモチ5

    「ソフィアは?」ジェームズはブルックリン女官長を捕まえ、問いただした。彼が仕事から戻ってきた時間に、彼女がいないことは珍しいからだ。いつもなら、ティータイムの用意がされている。ソフィアの好物のいちごタルトの香りがただよっているはずなのに、今日はそれもない。だとすると、ちょっと席を外していると言うわけではなく、ソフィアがここに居ないことを示している。「ソフィア様は王妃様のところです」ジェームズは時計...

  • 青空のキモチ4

    「ソフィア・マークスさんですか」「え…あ、あの…」突然木立から30代前半とも思われる男性が飛び出して来て、ソフィアは前方を塞がれてしまった。きょろきょろと周りを見渡してみたけれども、あいにく、豆粒ほどの人影しかいない。彼女は一歩下がった。「王太子の恋人ですよね」「えっと…あ、あの、ち、ちがい―――」「違うなんて言葉は意味がないですよ。だって、ほら」そう言って相手が持っていたタブレットの画像を見せてきた。そ...

  • 見習い女官観察日記EP4

    「ね、ね、ね。きつねって、殿下の裸、見たことあるの?」 平和な昼下がりに、同僚たちとティータイムをしていると、なんだかんだで殿下と妃殿下の話題になります。あのお二人、私たちのティータイムの話題になるために、いろいろと騒ぎを起こしてくださっているのでしょうか。そう思っておくのが、お互いよろしいでしょう。 突き詰めて考えると、だんだん腹立たしくもなり、呆れることもあるので。 そうそう、ジェームズ殿下と...

  • 青空のキモチ3

    ジェームズはちらりと掛け時計を見た。ソフィアがバスルームにこもってから、そろそろ1時間が経つ。耳を澄ますと、ドライヤーの音も聞こえるような気がする。ということは、あと少しで彼女のバスタイムが終わると言うことだろう。腰をもぞもぞ動かし、姿勢を正した。とはいえ、ここは自室なのだ。リラックスした姿でなければ変に思われてしまう。ソフィアを宮殿に泊めることは、ジェームズにとって喜びと安心を感じることではある...

  • 見習い女官観察日記EP3

    「え?ワタシが、ですか」 突然のご指名。ブルックリン女官長が、本日不在なり。なんでも、珍しく風邪を引いてしまわれたそう。完全無欠の欠点のない女官だと思ってたけど、生身の人間だったのね。なんだか、身近に感じるわ。 「でもぉ、ワタシ、見習いですよ、いいのですか」 副女官長がいると言うのに、女官長と妃殿下のたっての推薦で、このワタシらしい。何故でしょうか。首をひねって考えてみましたが、これと言った理由が...

  • 見習い女官観察日記EP2

    「きつねちゃーん」 ソフィア妃殿下の小さな声が聞こえ、ワタシは周りをすばやく確認。少しだけ開いた扉から、大きな目が覗いています。コソコソと泥棒のように足を忍ばせて、その部屋へ入りました。 あら、自己紹介を忘れていました。ワタシ、見習い女官のきつねと申します。 サヴェージ王家の王太子殿下の宮殿に仕えております。それで、どういった状況に今置かれているか、と言いますと…。 仕事中なのに、王太子妃殿下の...

  • 青空のキモチ2

    「ソフィア、ここだ」「ジェームズ」ソフィアは急いで声のする方へ向かった。大学で数学の研究を続けているジェームズは、月に何度かソフィアと構内で待ち合わせをしている。例のメディア記事が出るまで、彼とこうして待ち合わせをして二人で並んで歩くことは、恋人同士のごくありふれた日常だと思い、ソフィアは周囲の目など気にしたことがなかった。自分にとって彼は、いつだって、ジェームズ・サヴェージでしかなかったから。「...

  • 青空のキモチ

    「ここなら目立たないかな…」ソフィア・マークスは木立の中に置かれたベンチに腰を下ろした。ふぅぅぅ深いため息がひとつ出てしまった。空を見上げると鉛色になっている。青空が自慢のこの国の空だけれども、こんな天気の日だってある。そして天気のせいではないけれども、ソフィアの気分も鉛色だった。冷たい風がひゅうと肌をなぶり、ソフィアはぶるると小さく身震いした。そしてカシミアのストールをしっかりまき直し、レインブ...

  • 好きなものと嫌いなものは

    はぁぁぁ盛大なため息をついて窓の外を見ている姉のソフィアを、リナ・マークスは呆れた顔で見た。姉はここ最近、あんなため息ばかりをついている。おおかた、ジェームズ王太子の事だろう。十中八九そうだ。「しょうがないわね」リナは立ち上がりキッチンへ入った。そして小さなミルクパンで二人分のホットミルクを作った。それをソフィアとリナでお揃いのマグカップに注ぎ、まだ居間の窓の外を眺めてため息をついている姉に差し出...

  • 見習い女官観察日記EP1

    こんにちは。 ワタシ、見習い女官の『きつね』です。 どこの女官だと思いますか。 聞いたらびっくりしますよ。 実は、今世界中の乙女のココロをわし掴みしている、我が国の王太子殿下ジェームズ・サヴェージ様にお仕えしているのです。 王太子殿下は、モデルにしてもそん色のないルックスで、宮殿内でお見かけするときは、ついついウットリと眺めてしまい、厳しい女官長に見つかるとしからてしまうこともしばしばです。 ...

  • 幸せの青い鳥11

    「ソフィア」両親には「事を急ぎ過ぎるな」とくぎを刺したけれども、父の言う通り、彼女を自分のものにしてしまおうか。ジェームズはそんな思いにとらわれた。「ジェームズ?どうしたの?何か怒ってる…?」ソフィアが不安そうにそういった。考え込んでいたせいで、彼女に誤解を与えていたことに気づいた。ジェームズは強張っていた顔をやわらげ彼女に微笑みかけた。「いや、怒ってないよ。全然だ」「本当?」「本当だとも」ジェー...

  • 幸せの青い鳥10

    「殿下、陛下が夕食をご一緒にするようにと」「父上が?」上着を脱ぎながらジェームズが侍従長を見ると、「陛下と、王妃様じきじきのお声がけでした。殿下にも直接、電話をしたと仰せでした」いつものように淡々と答える。彼の言葉にジェームズは、自分のスマートフォンを見た。すると父からの着信がいくつも連なっている。「珍しいな」両親と夕食を共にする機会はぐんと減った。成人王族として、ジェームズ自身の公務が増えたため...

  • 幸せの青い鳥9

    ジェームズはソフィアの清らかな歌声に驚き、そして魅了された。多くのプロの声楽家やオペラ歌手の歌声を聞いてきたけれど、ソフィアが一番だと感じさえした。テクニックがあるわけでもなく―――とはいっても、一定レベルの教育は受けた感じだ―――、人を圧倒させるほどの声量があるわけでもない。ただ、とても静かに心にしみわたって行くような歌声だ。最後の音が空中に消えてなくなっても、ジェームズは目を閉じてその余韻に浸ってい...

  • 幸せの青い鳥8

    ジェームズに連れられて冬の宮殿近くの小さな湖にソフィアはやってきた。そこには1艘のボートが風に揺られて浮かんでいた。「あのボートに乗ったことあるの?」ソフィアがそれを指さすと、ジェームズが笑った。「まだあったんだな。すっかりボートの存在を忘れてた」妙に懐かしそうだった。「ドレイクと一緒によく乗ったよ」「ドレイク…?あの、侍従長のこと?」「そうだ」ジェームズに連れられて彼の宮殿に行ったとき、帰り際にち...

  • 幸せの青い鳥7

    ソフィアはそわそわとグリーンのスカートの裾を直した。と言っても、裾は直すところなど無かったけれど。ちらりとハンドルを握るジェームズの横顔を盗み見た。―――私って、この前と同じことしてる。彼と初めて会ったのはつい数日前だった。そして今が2回目。すなわち、ほぼ知らない相手と言っていいだろう。それなのに、こんなふうに二人きりでドライブをしている。これが普通の相手ならよくある“恋人たち”の馴れ初めなのかもしれな...

  • 幸せの青い鳥6

    「ああ…もぉぉぉぉ、どうしようっ」ソフィアはもう何度目かの同じ言葉を口にしていた。本人は無意識だったが、同じ部屋にいる人間―――ソフィアの妹のリナ・マークス―――には、耳障りだったようだ。呼んでいた本から顔をあげると、思い切りわざとらしく嫌な顔をしていた。「一体どうしたわけ?昨日からずっと同じことを繰り返してるけど。聞いている方が嫌になるわ」そしてリナはパタンと大袈裟な音を立てて、本を閉じた。「だってぇ…...

  • 幸せの青い鳥5

    「ねぇ…ジェームズは迷子にならないの?」ソフィアと手を繋ぎながら、ジェームズはギャラリーを後にした。どこまでも続きそうな廊下を歩きながら、彼女が小さな声でそういった。うっかりしていたら聞き逃しそうなほど小さな声で。「迷子?僕が?」「そう」「いや、それはない、かな」ジェームズはこの宮殿で育ったのだ。彼が生まれたときは、彼の両親である現国王夫妻は、王太子夫妻だった。ジェームズの祖父が国王だったから。そ...

  • 幸せの青い鳥4

    「―――まるで、お城ね…」正面玄関前の階段を上り、扉が開く前に、ソフィアが顔を上げていた。「ひっくり返りそうだ」彼女が倒れないようにするだけだ、と自分に言い訳をして、ジェームズは彼女の背中に手を添えた。細くやわらかな体。女性たちに触れたことがないとは言わない。実際、女性をエスコートすることはあるし、紳士のたしなみとして、背中や腰にそっと手を添えることはある。けれども、ソフィアは特別だ。服の布地を通して...

  • 幸せの青い鳥3

    ふっくらとした唇をジェームズはそっとなぞった。こんなことをしたら、ソフィアが驚いて身を引くだろうと、頭の中では注意勧告が流れてるのに、止めることができない。彼は彼女の頭の後ろをつかんだまま、自分に一層引き寄せた。ここが車の中で良かったのかもしれない。二人の間の障害物があるからこそ、頭の隅に冷静な自分がいる。そうでなければ、思い切り抱き寄せ、そしてその後はどうなってしまうのか、彼自身でも想像がつかな...

  • 幸せの青い鳥2

    「名前…?」ソフィアはバカみたいに彼の言った言葉を繰り返した。「そう、名前だよ」ハンサムな彼が少し笑ってそう言った。「名前って…私の…?」「君以外に、ここに誰がいる?」彼はぐるりと周りを見渡した。そして最後に、ソフィアを見つめてくる。一瞬で体中に火がともった気がする。首筋から顔にかけて、真っ赤になっているだろう。耳たぶが熱い。ゴールドのイヤリングが熱を持って火傷をしたらどうしよう。「さあ、教えてくれ...

  • 幸せの青い鳥1

    「悪い、先に行っててくれ、忘れ物をしたようだ」この国の若き王太子ジェームズ・サヴェージは友人たちに声を掛けた。大学で数学を専門に学ぶ彼は、ふと嫌な気持ちになった。忘れ物は大したものではない。サングラスだ。一般的に市販されているもので、特別高いものでもない。けれども、それは“ジェームズ王子”の物だ。世の中にジェームズ王子のファンという人たちは、一定の割合でいるものであり、それらの人にとって何の変哲もな...

  • 時計と魔法3

    石畳みにトントントンと規則正しい足音が響く。ソフィアはチラリと足元を見た。新しいバレエシューズは赤く艶やかに光っている。雨上がりで地面が湿っているせいで、跳ね上がった飛沫が赤いエナメルシューズに付き、太陽の光の加減でピカピカと光っていた。それから彼女は夫と繋いだ手を見つめて、フンワリと微笑んだ。大きく長い指が、小さな自分の指と絡まっている。―――ジェームズ、大好きよ「うん?」ソフィアの視線を感じたの...

  • 時計と魔法2

    その日のジェームズ王太子はどこか集中力に欠けていた。本人は普段と同じように公務を行っているように見せているつもりだろうけれども、彼に仕えている側近たちにはバレバレだった。理由は明白。ソフィア妃が同行していないからだ。本当は二人で公務に出る予定だった。それがソフィアが数日前から体調を崩し、宮殿で療養している。新婚間もない夫婦が揃って公務に出るたびに世間は騒がしいが、そういった周りの声も視線も、お互い...

  • 時計と太陽1

    ~ヨーロッパ大陸のある小さな王国に、それはそれは、仲の良いカップルがおりました。王子さまはお妃さまを大層慈しんでおられ、二人は深い愛情で結ばれていました。これは、そんな二人の小さな話です~****「ぜーんぜん、時計の針が動かない気がする…」ソフィア・サヴェージは時計を見て―――この数時間の間に、何度あの掛け時計を見つめただろうか―――、がっかりした口調で呟いた。巨大で優美なベッドのヘッドボードにもたれ、...

  • 時計と太陽1

    ~ヨーロッパ大陸のある小さな王国に、それはそれは、仲の良いカップルがおりました。王子さまはお妃さまを大層慈しんでおられ、二人は深い愛情で結ばれていました。これは、そんな二人の小さな話です~****「ぜーんぜん、時計の針が動かない気がする…」ソフィア・サヴェージは時計を見て―――この数時間の間に、何度あの掛け時計を見つめただろうか―――、がっかりした口調で呟いた。巨大で優美なベッドのヘッドボードにもたれ、...

  • 心が泣いているから6

    「くそっ」ブラッドはいきなり走り出すと、人ごみで彼を探しているのであろう、妻のもとへ一直線へ向かった。エリーナの着ているラベンダー色のニットワンピースは、膝上のコクーンなデザインだ。左右に付いたポケットの内側がネイビーのレイフォードの小花柄になっている。すらりとした細い脚にネイビーの華奢なサンダル。ポケットの内布と揃いのリボンが、ポニーテールに結ばれていた。キョロキョロとあちらこちらを見ているのは...

  • 心が泣いているから5

    「あ、あの…解決したって…?」エリーナが大きな目を更に大きくしてブラッドを見つめ返してくる。少しだけもつれた髪を彼はそっと手櫛で梳いた。そして彼女のこめかみを親指で丸く撫でた。「そうだ、全部解決したから、エリーナは何も心配しなくていいんだ」「そう…なの?」妻がどの部分で「そうなのか」と聞いているのか、ブラッドはあえて聞き直さなかった。解決したことを指しているのか、あるいは心配しなくていいという部分を...

  • 心が泣いているから4

    大きな夫の体に守られていると、こんなにも安心できるものなのだろうか。エリーナはゆったりと息を吐いた。そして頭を空っぽにして大きく息を吸う。ブラッドの手が優しく背中を撫でてくれる。その温かさは彼の手の平を通じて、エリーナの体の奥までしみわたっていくようだ。右耳を彼の固い胸にピタリと貼り付けると、力強い規則正しい鼓動が聞こえてきた。いつもエリーナを安心させてくれる彼の鼓動。不安になった時、哀しくなった...

  • 心が泣いているから3

    「このチョコレートケーキ、大好きっ」エリーナはニッコリと友達に向って微笑んだ。「そう、それならパティシエも喜ぶわ。エリーナのファンだから」グランドピアノの前からエリーナの座るソファに近づきながら、ジュディが答えた。「ジュディの生演奏と新作ケーキ。私ってすっごく贅沢な時間を過ごしてるぅ」エリーナは天気の良い窓の外を見た。高層階のここは、雲がとても近く見える。エリーナの友達ジュディはジェラード兄弟の友...

  • 夢見る想いが5

    フローラは少しずつチャールズのことを忘れていくだろうと思っていた。彼と会わない時間が積み重なれば、この想いはやがて薄れ消えて行くだろうと信じていた。 けれども、幾日も枕を濡らす夜を過ごしても、どれだけ友達を笑いあっても、この胸の中からチャールズ・ウィンターのことを追いだすことはできなかった。 「とうとう卒業ね。なんだか信じられない。つい最近、入学したばっかりだと思っていたのに」 ルームメイトの...

  • 心が泣いているから2

    「ブラッド、いやに難しい顔をしてるわね」声を掛けられてブラッドは顔を上げた。目の前に義姉のリズがいる。兄に用があって兄の自宅を訪れていたのだった。コトンと小さな音を立てて、リズがセンターテーブルにコーヒーソーサーを置いてくれた。兄の好きなコーヒー豆の香りがふわりと漂う。いつものブラッドならこの香りを嗅ぐと、ふっと心が和む。「―――リズのところに、エリーナから…なにか連絡来てないか?」「エリーナから?ま...

  • 心が泣いているから

    エリーナ・ジェラードはぼんやりと手に持った液晶画面を見つめていた。クゥゥゥン愛犬のチワワが甘えたような声を出したけれども、それさえ気づかなかった。いつもの彼女ならすぐさまチワワを抱き上げ膝の上に乗せるというのに、一体どうしたのだろうか。「―――う、うそだもん…」エリーナは小さく呟いた。「だって、だって、だってぇぇ…ブラッドが、そ、そんなことするわけないっ」力強く言い切ったつもりだった。けれども、途端に...

  • Foetune~心を覗いて~

    ロバート・ケンブルはこの国の第二皇子だ。俗にいうところの兄であるザン皇太子の“スペア”。世間では“スペア”という存在である彼のことを、『気の毒な皇子様』だと評しているようだけれども、彼自身はそんな言葉に耳を貸さなかった。+++++「スペアって気楽でいいけどなぁ」まだ兄夫婦に子どもがいなかったとき、義姉のステラ皇太子妃とのんびりティータイムを楽しみながら、ロバートは呟いた。「それに、もうすぐ僕はスペアの...

  • 夢見る想いが4

    フローラの唇は見た目以上に柔らかく、そして甘かった。禁断の果実とはまさにこのことを言うのだろうか。チャールズは痺れる思考の中、考えていた。いや、酔いしれていたのかもしれない。普段の彼らしくなく、頭の中は真っ白になってしまったのだから。フローラの方は初めてのキスだったのだろう―――それについては大いに満足している―――彼が下唇を軽く噛むと、ビクンと反応した。チャールズは助手席のシートを倒し、フローラの体の...

  • 夢見る想いが3

    チャールズは一体どうしたのだろうか。突然の態度が豹変して、フローラは戸惑った。あんなふうに彼から強く命令されたことは、一度だってないのに。 実際、フローラは待ち合わせの場所で、何度も友達と約束をしてきた。そしてただの一度だって困ったことなど無かった 「チャールズお兄様のバカ…」 いつまでも妹の存在なんだと、こんなに感じたことはなかった。兄なら当然だという彼の態度に傷ついたのだ。普段の態度からそう感...

  • 幸せの意味は22

    小さなローズ・ボーナムは声をあげて泣き出しそうになっていた。その時、さくっと地面を踏みしめる音がして、黒い革靴のプレーントゥが見えた。「ローズ…」心配そうな声がして、彼女はぐっと顔だけ上げた。深いブルーの瞳のルシアン・バンブスが膝を地面について、自分を覗き込んでいる。「ルシアンお兄様ぁぁ」彼女が泣き出すと同時に、大きなルシアンの手が脇に入り、起き上がらせてくれた。丁寧にポンポンとワンピースに付いた...

  • 夢見る想いが2

    「どこ行くんだ?」フローラが玄関に回された車に乗り込もうとしていたとき、ちょうど車寄せに入って来た青いスポーツセダンからハンサムな顔が現れた。兄のアンソニーに会いに来たチャールズだった。「お友達とショッピングへ行くところ。待ち合わせの場所まで車で行こうと思って」「じゃ、僕が乗せて行こうか?」ありがたい申し出に、フローラの心臓は一気に跳ね上がった。顔が赤くなっていなければいいけれど。チャールズと離れ...

  • 冬の流行モノ

    「どこに隠れたんだ?レオノーラ、レオノーラ・アーウィン!」イアン・アッシュフィールドは彼女の学校の建物の中で、恋人の姿を探した。+++++レオノーラを迎えに来た彼が教室へ行くと、彼女は相変わらず、友達に囲まれてて楽しそうに笑っていた。「イアンっ」彼の姿に気づいた彼女が、心底嬉しそうに駆け寄ってくる。それだけで彼の胸に幸福感が広がっていく。クリスマスに彼女の全てを自分のものにした。願っていたことが叶...

  • 夢見る想いが1

    ずっと、ずっと、ずっと。 彼のことを見つめていた。 **** 「フローラ、今帰ってきたのか?」フローラ・ハイアットは自宅のリビングを開けた瞬間、声を掛けられた。大きな窓から陽射しが射しこんでいるその真ん前に、“彼”が立っているのがわかる。逆光でシルエットしか見えないけれども、彼女には彼が誰だか瞬時に分かった。持っていたバッグを行事悪く放り出し、フローラは厚い絨毯に覆われた床を蹴り、彼に向って...

  • 幸せの意味は21

    ローズ・バンブスは跳びはねるような足取りでショップの入口に向かった。「奥様、足元にお気をつけてください」いつもはそんなことは言わないバンブス家お抱えの運転手が、心配そうに声を掛けてきた。彼女は跳びはねた勢いのまま振り返ると、胸のあたりで小さく手を振った。「大丈夫よっ、転んだりしないから」元気よく声を張り上げたのに、運転手の方は全く彼女の言葉を理解してくれないようだ。心配そうな表情でこちらを向いてい...

  • 僕の耳を好きな理由を知りたいかな?

    ブラッド・ジェラードは玄関のドアを開けた。そして一瞬立ち止ると、妙に静かにドアを閉めた。それから足音を立てないように注意しながらリビングへ向かう。音を立てないようにリビングのドアを廻してから、彼はゆっくりと部屋の隅々まで視線を走らせると、今度は静かに階段を上り始めた。「ここに居たか」彼は二人の寝室のドアを開けて中に入り、ホッとしたように呟いた。視線の先にはソファに横になって眠る彼の愛妻の姿があった...

  • こんなサプライズもいいだろう?

    「フーム…。一体いつの間に、クイルとベルがそういう関係になっていたのか、僕はまるっきり気づかなかったよ」花婿の正装をした親友が首をかしげている。「オースティンは自分が忙しかったからな、いろいろと」クイルは親友の歪んだタイの角度を直してやった。「お前が僕の目を盗んで、コソコソしてたんだな」「なんだ、その言い方は。僕がコソ泥みたいじゃないか」「花嫁の姿は見たのか?見たいだろう?」クイルはオースティンが...

  • いつだって守って4

    エリーナは下を向いたままブラッドの手に引かれて歩いた。彼はステファンのことなど気にする必要ないと言うけれど、気にしないわけにはいかない。今だってあんなふうに鋭い視線を向けてくるのだ。相当嫌われているらしい。「ブラッド…」「大丈夫だから。僕がいるのに、何かしてくるわけないよ」「う、うん…」それでも落ち着かなくて、ブラッドの手をぎゅっと握りしめた。「エリーナ」やっぱり、だ。ステファンの横を通り過ぎようと...

  • 見つめ合う二人は

    「ベル、ベル。ベルっ、聞こえてるんだろう?ベルっ」クイルの声はだんだんと大きくなった。噂話は人前でしないよう躾けられている侍女たちが目くばせをして笑っているのが、視界の端に映っているが、正直そんなことは彼にとってはどうでもよかった。「ベルっ、待ってくれ、ベル」大股で歩いていたけれど、そのうち小走りになってしまった。巨大な宮殿の回廊の中ほどで、彼はお目当ての人物の華奢な肩を掴んだ。「何?」「何ってこ...

  • 永遠の名作『高慢と偏見』ジェイン・オースティン

    ずっと読んでみたかったジェイン・オースティンの『高慢と偏見』を秋の夜長に読んでみた。名作と名高い本なので、日本でも散々、いろいろな出版社から出てます。Amazonの口コミでどれにしようかと悩み。比較的、発行年数が新しいものにしました。だって、古い翻訳本だとたぶん、言葉遣いやら、言い回しやらが、堅苦しくて読みづらいだろうと思ったから。こちら、訳した人が、「高慢」でなくて、「自負」にしてるね。英語表記は「プ...

  • いつだって守って3

    エリーナの話を聞いているとフツフツと怒りが湧いてくる。ブラッドはそれを抑えるのに必死だ。こんな場所で怒りを爆発させたところで、どうしようもないことを承知しているから。彼女の方は彼に話をする事で気持ちが落ち着いたらしく、涙も止まり、クルクルしたいつものバンビの目が戻ってきた。「―――それは、僕がその場にいなくて悪かったよ」「ううん、そんなことない。だってブラッドだって、ステファンが来るなんて思ってなか...

  • いつだって守って2

    エリーナはご機嫌だ。普段はそれほど食が太いとは言えない彼女が、せっせと料理を口にしている。そんな恋人の様子を隣の席で見つめているブラッドの顔を見たら、多くの人は彼がハンサムな男性だということに疑問を抱くかもしれない。「ブラッド、あなた、にやけてて、最悪ね」義姉のリズがフンと鼻を鳴らした。「なんだと?僕のどこが『最悪』なんだ」「当り前よ、『エリーナを舐めてしまいたい』って顔してるでしょ」リズが口の端...

  • いつだって守ってくれる人

    エリーナ・リンジーは大学の講義室の一室にいた。この後、特に予定がなかったから、ひとりで初夏の日差しを浴びながら、本を読んでいたのだ。あと2時間もすれば愛しい恋人から連絡が入るだろうと考えた。家に戻って彼を待っていても良かったけれど、エリーナの自宅よりも大学の方が彼の勤務先に近い。何しろ、この大学の附属病院で彼は働いているのだから。「うぅぅん、素敵…」エリーナは顔を上げて窓の外をぼんやりと見つめ、ひと...

  • 出逢いはそこに3

    「どうして、ここに来たの?」ベルは思い切り嫌味な口調で、目の前のハンサムな男性に向って言った。彼の眉がピクリと反応した。クイルに向ってこんな風に口を利く年下の女性は、今までいなかったのだろう。――――ふん、いい気味。「大層な言い方ですね。僕は王太子の教授ですから」「お父様が、でしょ」「父は多忙でね。ゆえに、ほぼ、この僕が、王太子に講義してるんですよ」知ってるわ、そんなこと。ベルは心の中で答えるだけにし...

  • 内緒話を聞いたから 3

    「僕が何を内緒にしてるんだ?」ブラッドは困惑した。エリーナに伝えてないことは確かに沢山ある。けれども、それは『妻に伝えなくても良い』と彼が判断した事柄であり、実際、エリーナはそのことについては知りたくもないだろう。「エリーナに内緒にしてること…僕には皆目見当がつかないよ」ブラッドは両手で顔を覆って泣いている妻を見下ろし、それから優しくこめかみにキスをした。ゆったりと彼女の背中を撫でてやると、そのう...

  • 生まれ変わっても4

    にらみ合いは忍耐戦になったようだ。どちらかが焦って仕掛けるまで、じりじりと待つしかない。そうなるであろうと覚悟と準備をしてきたアンドリューは、心穏やかに日々を過ごしていた。意外なことに、こんな戦場の真っただ中にいて彼は笑うことができた。「アンドリュー、見てくださる?とっても愛らしい花だと思わない?」「うん?どれ、よく見せてごらん」リリアナが欠けた容器に水を入れ、野花を活けていた。「ひとりで出歩いて...

  • 生まれ変わっても3

    「リリアナ」「陛下」国王の突然のお出ましに、後宮はざわめき立った。病弱だと言われている義兄は、確かに顔色も青白く、日焼けしたリリアナの夫とは違う。けれどもその鋭い視線は知性を示し、顔立ちもよくよく見ると弟であるアンドリューとよく似かよっていた。リリアナは膝を折り、国王に挨拶をした。「下がってよい」義兄の声に音もなく彼の侍従やリリアナの侍女たちが部屋を出て行った。「陛下」「ああ、堅苦しい会話はやめよ...

  • 生まれ変わっても2

    ぐっすりと眠っている妻のリリアナが、アンドリューにすり寄ってきた。彼女はいつも丸くなって眠る。まるで仔犬のようだ。彼女を腕の中に引きいれると、彼はベッドの天蓋を見上げた。昼間、兄に呼ばれた。告げられる言葉は既に理解できていた。兄の片腕としてこの国を統治している自分が、そんなこともわからないわけがない。今までだったそうだった。けれども、今回ばかりは気がすすまなかった。そのことを賢い兄は分かっていた...

  • 生まれ変わっても

    愛馬にまたがって川沿いに向って駆けていたアンドリューは、春の草原の香りを胸いっぱいに吸った。土地によって違うのは地形や気候だけではない。彼にとって懐かしさを感じるものは、この匂いなのかもしれない。ドゥドゥドゥスピードを緩めゆったりとした歩みで川べりに向かった。春の日差しで水辺はキラキラと輝いていることだろう。それを想像するだけで自然と頬が緩んだ。長い戦いだった。長期戦になるだろうとは覚悟していたが...

  • 生まれ変わっても

    愛馬にまたがって川沿いに向って駆けていたアンドリューは、春の草原の香りを胸いっぱいに吸った。土地によって違うのは地形や気候だけではない。彼にとって懐かしさを感じるものは、この匂いなのかもしれない。ドゥドゥドゥスピードを緩めゆったりとした歩みで川べりに向かった。春の日差しで水辺はキラキラと輝いていることだろう。それを想像するだけで自然と頬が緩んだ。長い戦いだった。長期戦になるだろうとは覚悟していたが...

  • 内緒話を聞いたから 2

    「ブラッド、お客さんだぞ」医局にいたブラッドは同僚の声で戸口を見た。「クリフか」エリーナの従兄クリフが立っていた。その昔、クリフにキャロルという運命の相手が見つかるまで―――とは言っても、キャロルはクリフのすぐそばにいたのに、クリフの方が彼女の存在に気付かなかっただけだ―――彼はエリーナのことを想っていたようだ。「ようだ」というのは、ブラッドは自らそのことをクリフに確認したことがなかったから。自分と同じ...

  • 我が子の会話が笑える

    中学2年生の息子は、学校の友達と「グループLINEをしながら、オンラインゲームをする」ってことに嵌っています。ホントね…親としては「さっさと勉強してから遊べばいいのに」って思うけども、私も面倒な仕事は後回しにするので、まあ、しょうがないなって思って黙認してます。面白いのがwwスピーカONにして会話してるので、子ども達のたわいもない普段のやり取りが分かるんだよね~同じ部活の友達やクラスの友達が混ざっているの...

  • 内緒話をきいたから

    「ブラッドっ、おはよう」チュッと小さな音がしてブラッド・ジェラードは頬に柔らかく押し付けられる妻のエリーナの唇を感じた。いつものように、もぞもぞと足首を縛るリボンを外そうとしたが、「うん?」普段、意識しなくとも掴むことができる所定の箇所にリボン―――いつだったか、彼が妻に背中を向けて目覚めたことがり、そこからちょっとした諍いが起きた。それに懲りたブラッドは、妻が眠るまで二人の足首をリボンで縛り、そし...

  • 出逢いはそこに2

    「ねぇ、レイフ」「うん?」ベルは、何やら夢中になって小さなブロックを組み立てている弟に向って、声を掛けた。彼は半分話を聞いていないだろう。それは好都合。余り突き詰めて問い返されたら困るから。「『つむじが曲がってると、性格も歪んでる』っていう噂、聞いたことある?」「なんだよ、それは」レイフが顔を上げた。思ってみなかった展開だ。ベルは瞬きを繰り返した。弟の興味を引くつもりはなかったのに、どうやらその思...

  • リサ・クレイパス『ヘレネのはじめての恋』

    リサ・クレイパスの新刊『ヘレネのはじめての恋』 出たばっかり!Amazonで予約していて、昨日届き、読みだしたら止まらず。 まずは「ちょーーーーー良かった♡」 私はリサの本は本当に好きなのですが、数々の「好きな本」の中でダントツ1位になるかもぉぉぉ。 これは、リサ・クレイパスの新シリーズ『レイヴネル家シリーズ』の2冊目。 1冊目の『アテネに愛の誓いを』は、実は期待してただけに(最近、リサの翻訳...

  • 出逢いはそこに

    「クイル・アリンガムって、なんだか、ちょっと高飛車な人ね」ベルことイザベルは頭の中に浮かんでくる、彼女を妙にイライラさせる相手の顔を思い浮かべて呟いた。「そう?私は好きよ」姉のリサがジャムをたっぷりと挟んだビスケットに手を伸ばしていた。少し元気になったのだろうか。姉のリサは自称婚約者だという男性が原因で、スキャンダルに巻き込まれていた。落ち込んだ様子の姉のことを、ベルはとても心配している。けれども...

  • ロレイン・ヒース『偽りの祝福は公爵のあやまち』

    切なく大人のしっとりとした恋愛ストーリ― ロレイン・ヒースの3部作第三弾 『偽りの祝福は公爵のあやまち』 これは、『伯爵の花嫁の無垢なあやまち』と同じシリーズの三作目です。 (2作目も良かったのですが、ヒロインの過去がちょっと辛くてここには載せません) ヒーローは、エインズリー公爵 & ヒロインは、エインズリーの従弟の妻ジェーン このヒーローは、3部作の3兄弟の末っ子ながら、家族の...

  • トレイシー・アン・ウォレン『純白のドレスを脱ぐとき』

    最近、トレイシー・アン・ウォレンにはまっています( *´艸`) この人の話は、とにかく『切ない』です。最後は鉄板のハッピーエンドですけどね。 序盤は、主人公の二人がいい雰囲気になり、ドキドキして進めるのですが、途中で切なくて胸が苦しくなる場面が続きます さて、このプリンセスシリーズはヨーロッパにある架空の小国の3人の王女様がヒロインの3つのストーリー 1冊目は、『純白のドレスを脱ぐとき』 ...

  • ジュリア・クイン『運命の結婚はすぐそばに』

    画像お借りしています 久々に、ジュリアの本を読み返していたら、訳者のあとがきに、この本の題名が載っていました。 ジュリアクインの最初の三部作にでてくるヒーローの一人が、この本でチラリと出てくる、と書かれていたのです。 ジュリアの本は全部持っていると思っていたので、「?」と思い、検索してみました。 「まだ買ってなかった!!」と思いだすww どうしてかと言うと、これ、口コミではそれほど評価が...

  • トレイシー・アン・ウォレン『真珠の涙がかわくとき』

    トレイシーの最新本をよみました あああーー( *´艸`) よかったーーー!! 画像お借りしています これはトレイシーの『バイロン家シリーズ』続編と言うべきものでしょうか バイロン家8人兄弟の上の5人の話は、既に日本でも翻訳本が出版されています こちらの5冊もとってもよかったです そのバイロン家の下の3人『レオ・ローレンス双子兄弟と末娘のエズメ』がこの新シリーズの主人公たちです バイ...

  • 背伸びをしたら6

    「おはようございます」 エマが朝食の席に着くと、兄と母が一瞬目くばせをしたような気がした。 「もう少し寝ているのかと思ったぞ」 ルークが焼きたてのパンにバターを塗りながら、いきなり話を切り出した。エマは食べていたパンを上手く飲み込むことができず、ぐぅっと喉が変な音を立てた。 「あら、エマ、大丈夫なの?」 母がが心配そうな振りをして声をかけてきたけど、内心はそうでもないことは顔を見ればわかった。面白...

  • 誤解と秘伝

    ブラッド・ジェラードにとっては青天霹靂と言ってもいいことだった。まさか、こんなことになるのなら、最初から引き受けなどしなかった。「エリーナ、ここを開けてくれないか?」二人の寝室の向こうで、妻のエリーナが息をひそめている気配を感じながら、彼は丁寧な言葉づかいで声を掛けた。彼は辛抱強く待った。本当なら、この扉を蹴飛ばして壊してしまいたい。「エリーナ、僕の話も聞いてくれ」全くとんだ災難だ。ブラッドは髪を...

  • 背伸びをしたら5

    「こんなに近くにオフィスがあったの?知らなかった」エマは思い切り口を尖らせた。ランチタイムの後、レナードと一緒に時間を過ごすのが2人のルーティンになっていた。自然にそうなったことについてエマはあえて二人の話題にする事を避けていた。何となく気恥ずかしい事と、二人の仲が曖昧なままだったから。レナードとエマの関係は他人から見ると恋人同士だろう。エマ自身も「そうだったらいいな」と思っている。彼には内緒だけ...

  • 最近の事を少しばかり…

    息子の学校の保護者会がありました。今年度2回目。毎回、6月の保護者会では、昨年度の進学情報の分析冊子が配布されます。去年、まだ入試のあとの解放感から抜け出してないこの時期に、6年後の大学入試について説明を受けて、「えー、もう?」と思ったものです。今年は中学課程も12月には終了し、1月からは高校課程に突入。当然、大学入試が現実味を帯びてきました。早いわー、年月が流れるのは…。その進学情報の冊子には、今年度...

  • 背伸びをしたら4

    エマには本当に分からないのだろう。駆け引きでそう言っているのではないことは、彼女の表情で一目瞭然だった。彼女の優しい眉は下がり、大きな瞳は潤んでいるようにも見える。 「答え方が分からない?それとも、他の理由?」 レナードは掴んだままの彼女の手をミルク色のドレスに乗せ、上から包み込むように自分の手をかぶせた。 フルフルと頭を振る彼女。 「あなたのことばかり頭に浮かぶの」 ぽつりと彼女が小さく零した...

  • 二人の距離5

    イアンはとても優しくレオノーラをベッドの中央に乗せてくれた。「なんだか王女様みたい」彼女は嬉しくて彼の首に回した腕に力を入れると、ハンサムな顔を自分のそれに近づけた。たった今、二人で食べたペパーミントキャンディの香りが彼の息に混じっている。「キャンディの匂いがする。美味しそうっ」イアンが笑った。「レオノーラはどんな時もレオノーラだね。…これからもずっとそのままでいてくれ。僕の妖精だ」「このままの私...

  • 面倒臭いわーーー

  • 背伸びをしたら3

    「あ、あの。ここでいいです」 そう言うと、エマは地下鉄の入口に一直線に走って行ってしまった。気づくと雨は上がり、レナードは一人傘を畳むこともせず、その場に立ちすくんでいた。 「傘はこれからも1本で良さそうだな」彼女と二人で雨の中を歩くのなら、傘は2本も必要ない。レナードはエマが消えた地下鉄の入口をしばらく見つめていた。 彼女の連絡先も自宅も何も知らない。焦って彼女に警戒されるのはごめんだ。明日も...

  • 最愛の人

    「ねえ、ブラッド、あなた昨日どうしてこなかったの?」ブラッド・ジェラードは兄の家のリビングで、ゆったりと淹れたてのコーヒーの香りを楽しんでいた。いい気分でいたというのに、義姉のリズの声で不機嫌になりかけた。リズはいつもブラッドの心を引っ掻き回すのだ。兄がリズの存在でこれほどまでに“人間らしく”ならなかったら、ブラッドは彼女の存在を無視したかった。「しかたがないだろう?前から友人たちとの約束があったん...

  • 背伸びをしたら2

    「ふぅ」 エマは本を数冊抱えたまま、窓の外をぼんやりと眺めた。。外はいつものようにすっきりしない。まるで彼女の気分のようではないか。理由は分かっている。その“理由”に落ち込んでいる自分自身に、余計に腹が立っていた。 「エマっ」 控えめな声で名を呼ばえ振り返ると、同僚のキャシーがクイクイと手招きしている。エマは気を取り直して、彼女に近づいた。 「なぁに?」 最近彼女たちの話題の一つになっている小学生の...

  • 背伸びをしたら

    庭園に面した大きな窓から差し込む日差しで、図書館の脚立に長い影ができている。逆光になっていて、顔は見えない。長い栗色の髪が、光に反射してキラキラと光り、レナード・フェルトンは目を細めた。脚立の段に腰を下ろし、本を見つめる彼女。聞こえるのは、チクタクと時を刻む時計の音と彼女がページをめくる音だけだ。 一歩、彼女に近づく。 音をたてたつもりはなかったが、空気の流れの微妙な変化を感じ取ったのだろう、彼女...

  • 二人の距離4

    「一体何を教えてくれるつもりなんだろうね」イアンは腕に抱いたレオノーラの顔を覗きこんだ。自分の胸に顔を埋めていた彼女が、ほんの少しだけ顔を見上げてくる。長い睫毛に縁どられた大きな瞳。いつも吸い込まれそうになるのだった。「あのぉ…あのね」「うん」彼女の祖父が祖母のエリーナ夫人の髪を「シルクのようだ」と絶賛してるけれど、それはレオノーラにも当てはまる。しっとりと艶やかな長い髪。腰のあたりまで伸びた髪は...

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