海岸を見た日の、翌日――。 「ユメリア! ヤバいよ!」 海に一番近い町の宿屋。別室で泊まっていたバクが、ユメリアが寝ていた部屋の扉を叩いた。 「おはよう、バク。どうしたの?」 「昨日海辺で助けた動物に意識が戻ったんだ!」 「あら、そうなの? それって何がやばい...
海に来た目的はもう果たした。 さて、帰ろう。そうユメリアが思ったとき――。 「ん? バク、あれは何かしら」 来るときに通ってきた浜に、何か色の濃い塊が見えた。 「え……あっ!? さっきは見かけなかった気がするけど……」 「気になるね。行ってみてもいい?」 ...
ユメリアが膝枕を続けていると、またいつものようにバクは眠りに落ちた。 ――さて。 彼が寝たので、族長――父親と交信することにした。 彼は膝の上で寝るとき、最初は眠りが深く、話しかけても起きない。小さな声なら大丈夫だろう。 左手の指輪を空に向け、魔力を注ぎ込...
戦闘終了後。 「ユメリア! 怪我はなかった!?」 振り向いてユメリアの前に飛んできてからの第一声が、それである。 「あのね……。まずあなた自身の心配をしてちょうだい」 「俺はユメリアが無事ならいいんだって」 「私なら無傷。戦ってないんだから」 「そっか! よ...
帝国軍の侵略は続いた。 戦果は挙がっているようで、ついにオーク族はその居住の地を追われたらしい。 この大陸は南に行くほど地理的な条件が厳しい。 オーク族の住んでいた地の南は、険しい山岳地帯である。そしてさらに南には、広大な氷床に覆われた高地――ブルードラゴン以外の...
浴場をあとにしたユメリアとバクは、脱衣室に移動した。 ユメリアは着替えを渡す前に、念のためにゼノスを椅子に座らせ、全身を確認した。 「あら、足に意外と深そうな傷がある……。あなたの自己申告って信用しちゃだめだね」 「んー。縫うほどじゃないし、これくらいは怪我のうちに入...
彼はまた目をつぶり、脱力状態に戻った。 「あなたの考え方って、よくわからない」 「あはは」 「さっきの『魔力の涙』にしたってそう。本当に綺麗だと思ったし、わざわざ見せに来てくれたというのもうれしかったけど。あなたにも立場というものがあるでしょう? 軍を抜けて先に帰ってく...
城の浴場は、庭の中に独立した施設として存在している。 基本的には、六角形の浴場と脱衣室があるだけ。帝都の公衆浴場のように、談話室や運動場などの付随施設があるわけではない。浴場も小ぶりだが、それでも二十人くらいは同時に入れるほどの大きさがあった。 お湯は上水道を温めて...
それからもバクは、幾度も戦に出かけた。 敗戦こそなかったものの、彼は毎度のように負傷して帰還した。 そのたびに、ユメリアは膝の上で彼に回復魔法をかけ続けた。 そして今日。また戦の勝利を知らせる早馬が、帝都の城まで到着したようである。 今回、帝国軍が攻めた先はオ...
彼の四肢から力が抜けていく。 部屋のランプの明かりに照らされた体は、橙色のお湯に浮かぶかのようにゆらめく。 いつもと違うのは、彼が上半身裸に包帯ぐるぐる巻きという点。かなり痛々しい。 「バク。今回みたいに大きな怪我をしてる場合とか、疲れが酷い場合は、呼んでくれればわ...
今回の遠征は、相手がオーク族と爬虫人族の連合軍。かなり激しい戦いだったという。 軍が帝都に帰還したという知らせを受けると、ユメリアはいつもどおり、城の関係者や帝都民たちとともに、凱旋した帝国軍を出迎えた。 大神殿の前の広場で、軍の到着を待つ。 広場から帝都入口から...
バクの次の出陣の日――。 朝早く、ユメリアの部屋の扉が叩かれた。 ノックの仕方で誰なのかわかってしまう。ユメリアは返事をして扉を開けた。 「おはよう、ユメリア」 もちろん、そこにいたのは爽やかな顔のバクである。 「おはよう、バク」 「早い時間にごめん。こ...
バクが退室すると、ユメリアは部屋にある大きなクローゼットを開けた。 掛かっているたくさんの服の中に左手を突っ込み、魔力を込める。 すると、左手の薬指に着けられていた指輪が、青く光った。 ランプのみの薄暗い室内においては、おそらく眩しく感じるほどの光量。しかし厚手...
このヴィゼルツ帝国には、一人の若き英雄がいる。 今から一年以上前の、異種族との大きな戦いでのこと。 その戦いが初陣だったバクという名の少年は、帝国軍が総崩れとなる中、志願して敵陣へ単身突入。敵将を見事討ち取り、逆転勝利の立役者となった。 “救国の英雄”として帝国民...
概要 北半球の広大な陸地に見合う大陸が、南半球にもきっと存在するだろう――。 そんな古代ギリシア人の豊かな想像力によって生み出された幻の大地、それが『未知の南方大陸(Terra Australis Incognita)』です。 のちの世で『メガラニカ』と呼ばれたその空...
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