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青山あき
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2019/03/18

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  • 2-4「深海の燐光をみつめて」

    夜が怖いと、こんなにも思ったことがあっただろうか。 振られたことが嘘のように一日が回り、そして夜がやってきた。 昨日の今頃は雷に打たれたような衝撃で思考もままならず、 涙と鼻水にまみれた自分をなんとか維持することにすべてを注いでいたのに。 寝るための支度を済ませた茜がベットの端に浅く腰かけて一息つくと、目の奥がチカチカと弾ける。 「え?」 咄嗟に出た声と同時に今度は頭がグラッして、鈍い痛みがこめかみに響く。 ああ、片頭痛だ。そう思って横になると今度は少し息も苦しい。 あ、ダメだな。このままじゃ過呼吸になる― そんな考えが頭によぎり、すかさず深呼吸をした。 なんとか呼吸を整え、あとはそっと横たわ…

  • 2-3「生きる」

    怒涛の一日が終わり、茜は休憩室のパイプ椅子に腰かけていた。 体に身に着けた仕事道具をほどきながら一日の終わりを噛みしめる。 「はー、終わった」 うつろな目の端に捉えた男がこちらに歩み寄ってくるのが見える。 「お疲れ~っす」 「うざい」 犬飼の浮ついた声にすかさず茜は反応した。 「いやいや、お前俺の事嫌いすぎ。」 「よく分かってるじゃん。」 「茜ちゃんはいつまでたってもつれない」 「うるさい」 シクシクと泣くようなジェスチャーをとる犬飼を無視して、茜は退勤処理を済ませる。 「てか、今日茜元気なかったね。」 突然の言葉に少し油断した茜は、犬飼の言葉へ反応することが出来なかった。 友里さんといい犬飼…

  • 2-2「開店前攻防戦」

    ショッピングモールと数々の複合施設が集まったアミューズメントパーク、その巨大なショッピングモールの中のひときわ大きな一角に、その店はある。 「おはよう茜ちゃん」 「友里さん、おはようございます。」 「なんか顔色悪いけど大丈夫?寝不足?」 「大丈夫ですよ、昨日は少し寝るのが遅かったから…」 友里さんは10歳以上も年の離れた先輩で圧倒的な美貌と気さくさでこの店のマドンナだった。物静かで周りをよく見ている人で、私たち後輩の社員やアルバイトにいたるまでそのフォローの目は届く。 鋭い友里さんの指摘に茜はうろたえもせず答えた。 「そう…」 こんな時は、友里さんも深入りはせず引いてくれる。大丈夫、ここではい…

  • 2-1「1日目」

    恋をすると世界は輝く。 目覚めた時にこの世界に満ちている空気、鳥のさえずり、いつもと同じ道や太陽の光、すべてがみずみずしく新鮮で今までとは違う輝きを放つ。 それは恋を失っても同じ いつもと変わらぬ自宅、玄関のドア、早朝のひんやりとした空気と外に出て目に入る空の色、何一つ昨日のそれと変わらないのに重い孤独感が茜にのしかかる。目に見えない漠然とした不安と窒息しそうなほどの息苦しさをひたすらに感じながらそれでもいつもの道を歩き出す。 何気ない顔でたくさんの人が作る駅のホームの列に加わる。 世界はなんて無意味なんだろうと感じることしかできなかった。そう感じては心に空いた黒い穴に心臓が吸い込まれるような…

  • 1-7「velvet glove」

    「―はい…もしもし」 仕事を終えた慎太郎から2度目の連絡。今度は受話器を取っただけで涙がこぼれたが、そのまま垂れ流すことに決めていた。涙のせいで言葉に詰まる事はあってもそれで会話を止めるわけにはいかないのだ、泣いている場合ではない、この電話で私はきちんと振られなければいけない。そう決めた。気持ちの整理がついているわけでも、別れを受け入れたわけでもない。それでもただ泣きじゃくり惨めな終わりにはしたくなかった。それが茜の心にわずかに残ったプライド。 慎太郎の主張は変わる事はなく。 「茜のことは好きだけど、別れたい。」それだけ。 もちろん彼の”好き”には茜と同じ意味がない事は明白だったが、その言葉の…

  • 1-6「この涙の訳をあなたは教えてくれない」

    辺りがいつのまにか暗くなっている。 あれから、しばらく時間が経ったのかそれとも数時間こうしているのか分からない。時間の感覚が分からなくなるほど、鈍い痛みがずっと身体に刺さっているようだった。そして、頭の中が空っぽになったように何も考える事が出来ない。 ふと顔をあげると不細工な顔がこちらを見ている。クローゼットの内鏡に映る姿は赤く、腫れぼったい目と鼻を中心にして見事に崩れている。 「ふふ、ほんとに不細工、」 座り込んでいた窓際から場所を移し、ベッドの上へ。少しひんやりとしたシーツの感触を足に感じるのが少し気持ちい。くしゃくしゃになったブランケットを引き寄せて抱きしめ「もう、いい…」そう呟きながら…

  • 1-5「2人の鎖」

    「うん…」 慎太郎の返事にもはや意味はなかった。それでも受け入れがたい現実へ必死にあがき続けることが、この時茜に残された唯一のことだった。 「でも、そんな急に理由もなく受け入れられない。」 茜の言い分はまっとうだ。仮にも4年以上付き合ってきた彼女に理由もなく別れを突き付ける残酷さを慎太郎が理解していないはずはない。 「嫌いじゃないなら、距離を置くことだって出来る、それから考えるのはだめなの?」 続く慎太郎の沈黙に茜は一筋の希望を託した。 「茜のこと、嫌いになったわけじゃない。けど、もう。」 「だから、なんで…」 「ごめん、…うまく説明できない。」 無意味だった。何もかもが。 もう、この人は決め…

  • 1-4「エゴ」

    「付き合ってるって言えるかな、って何、どういう意味?」 慎太郎の口から出た言葉にうろたえる自分自身を精一杯保ちながら茜は口を開いた。 理解できなかった、連絡を取らなかったことがそんなにショックだったのか。いや、そうじゃない、そんな人じゃないでしょ。ただの口実ではなく、その言葉の後ろに隠れた本音を私は聞く権利がある。 「いや、うん、だからちょっといろいろ考えてさ」 「考えたって何を?え、どういう事。」 「うん…」 そういって慎太郎の言葉は途切れた。それを受けて茜は自分から話を進める選択をした。せざるを得なかった。彼が回りくどく私に伝えている言葉。本心。 「それってつまり、何、別れるって言いたいん…

  • 1-3「のどが渇いた」

    “これってさ、付き合ってるって言えるかな?” 茜には言葉の意味が分からなかった。正確には慎太郎が自分に何を伝えようとしているか分かっても思考がそれに追いつかなかった― ***** 自宅に帰り荷物を置いて茜は少し深呼吸をした。これから迎えるかもしれない喧嘩に備えて心を準備しなければならなかったから。 慎太郎は理詰めの人間だ、いくらこちらが感情でぶつかっても最後には口で言い負けてしまう。いくら伝えたいことがあっても感情に任せてぶつけた所で、同じ土俵に立ち理論的に説明出来なければ負けてしまう。後から考えて慎太郎がとんでもない事を言っていたと気付いてもそれではもう遅い。 「電話なんて久しぶり…」 嫌な…

  • 1-2「郵便局での予感」

    とても天気の良い日だった。 河本 茜(かわもと あかね)は大手のアパレル会社に勤める23歳。 現在、1年目の新入社員のはずの彼女は目下転職活動中である。その日彼女は仕事の休みを利用して朝から転職用の書類の提出の為に郵便局に来ていた。 「4番の方どうぞ」 番号が呼ばれたタイミングで、茜のポケットの携帯が振動する。 ―電話できる? ディスプレイに浮かび上がる一文のメッセージは予想外の人物からだった。 「慎太郎からメッセージが来るなんて…」 乾 慎太郎(いぬい しんたろう)は茜の彼氏だ。茜より2つ年上の25歳。 大学時代に茜と付き合ってから4年もの年月を彼女と共に過ごしてきた人物である。彼は大学を卒…

  • 1-1「プロローグ」

    眠れない、眠れない、眠れない、眠れない、どうしても眠れない、怖い、息も苦しい。眠るってどういうことだったっけ。暗い、暗い、暗い、怖い、あ、ベッドが動く。沼に飲み込まれるみたい、このまま吸い込まれて消えないかな。それはそれでいいかも。あ、でもダメか、お母さんが泣く。それは、ちょっと面倒くさい。 午前4時─ 普段なら見ることのない時計の文字盤を眺めながら、彼女は自分のベッドにただ横たわることしか出来ずにいた。睡眠不足の重い体で正体不明の黒い何かに押しつぶされそうになっていた。 まだ1時間しか経ってない。私普段どうやって寝てたんだろう、何で眠らなきゃいけないんだっけ。なんで明日仕事行かなきゃいけない…

  • 「私は人生で一番大好きだった人と結婚することはなかった。」

    「私は人生で一番大好きだった人と結婚することはなかった。」を開設しました。 青山あきといいます。 女性 会社員です。年齢は内緒です。 タイトルの通り、私は人生で一番好きだった人と結婚することはありませんでした。 この身を焼き尽くすように恋をして、そして失ってしまった恋でしたが その恋で得たもの、救われたことも今になって振り返ればたくさんありました。 恋する人、失恋に苦しむすべての人たち、 そして何より過去の私へ届きますように。 そんな少し独りよがりな想いで書き始めます。 よろしくお願いします。 ■1話、また各章から読まれる方は下記のリンクからどうぞ 1章 さよならの始まり 「1-1 プロローグ…

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