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2019/02/08

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  • ナマケモノが絶滅してさ、名前が空いたらさ、僕がもらうよ

    私は今、座り心地のいい椅子に行儀悪く腰かけて、目線の高さにレモンを掲げている。 何をしているのかと自問自答するならば、その答えは一つ。レモン観察だ。 事の発端は、レモン越しに見える掛け時計にある。私は強烈に重大な真理を知ってしまった。 深夜三時三十五分のこと。ぼうっと、見るともなしに時計を眺めていた。いつか誰かからもらった、木製で二針式の掛け時計だ。 長針が南南西に傾いて、「7」の足(と私は呼んでいる)の斜線とキレイに重なっている。 こういう瞬間・場面がなんとなく好きだ。例えばビルとビルの間にきれいに満月が収まっている瞬間。あるいは太陽が沈むときに、ぴったりなサイズの建物の奥に消えていく場面。…

  • 僕のお父さんはウルトラマン

    僕のお父さんはウルトラマンです。 いつからだったかは忘れたけど、途中でウルトラマンになりました。 僕がうんと小さい頃は、お父さんは毎日仕事で忙しそうでした。 だけどいつからだったか、お父さんは仕事に行かずに遅くまで寝ているようになりました。 休みの日に僕がテレビでウルトラマンを見ていると、お父さんが起きてきたので、「お仕事には行かなくていいの」と聞きました。 するとお父さんはテレビをじっと見て、「いいんだよ、お父さんはウルトラマンだから」と言ったのです。 初めは僕も信じませんでしたが、たくさん質問をすると、お父さんはいろいろと教えてくれました。それでやっと本当だとわかりました。 怪獣が現れると…

  • おばあちゃんち

    「おばあちゃんちに行ってくる」 と言って、良太は今日も家を出た。 小学三年生の息子は、あまり外交的とは言えず、たとえ家の中であっても口数が多くない。 そんな子だから、学校でいじめられていやしないかと心配したりもしたが、日々の様子を見るにそんなことはなさそうだ。 しかし、だからといって完全に安心もできないのは、良太の内向性の結果であろう友人関係の少なさのせいだ。 帰宅しリビングで宿題を終えると、おやつも食べずに近くへ住むおばあちゃんの家へ向かう。私から見ると義理の母の家だ。 友達と遊ばず、家でゲームもしない。おばあちゃん子と言えば聞こえはいいが、ひいき目に見ても毎日通って楽しいような場所ではない…

  • なにかが起きているのか

    ">「冷蔵庫の中を見てみろ。そう言っていた?」 警察官であり彼女の学生時代の先輩でもある私は、通報を受けて彼女の家で事情を聞いている。「えぇ」「声に心当たりは?」「ありません」 みゆきは震えている。恐怖のせいかもしれないし、部屋の冷房が十八度に設定されているせいかもしれない。 "> 「それで、言われた通りに冷蔵庫を開けたと」「はい」 彼女の許可を得て冷蔵庫を開けると、大きな鍋が入っていた。蓋を開けると、中には何やら混濁した液体と、いびつな形の肉片が浮いている。 昨晩みゆきが作った煮物だ。「何か、おかしなものが入っていたかい?」 鍋の蓋を閉めながら尋ねる。「いえ、これと言って変わったことは……あ…

  • Heart to heart

    「ハトが電線に止まっても感電しないのはなんで?」 秀夫が言った。秀夫は子供だ。 そんな質問をするなんてまだまだ子供だ、という意味ではない。私の子供だ、という意味だ。 子供が子供らしい疑問を持つのが当然であるように、大人である私がその問いの答えを知っているのが当然だと秀夫は思っているのかもしれない。そして生憎、その答えを私は知らない。「ハトが電線に止まっても感電しないと思っているのかい?」 知らないとは言えず、質問に質問を重ねる。「感電してないから電線に止まってるんでしょ?」「充電しているのかもしれないね」「ハトは充電しないよ」 秀夫は頭がいい。ハトが充電式ではないことを九歳にして既に心得ている…

  • あいてるよおじさん

    小説家である。 誰もが知るような文豪ではないが、一本で食っていける程度の稼ぎはある。 だがしかし、私は今、長いトンネルの中にいる。もう随分と長い期間書けていない。 題材はあるのだ。いや、むしろそれが問題でもある。 「あいてるよおじさん」 この題材が思い浮かんだ時、私は乱舞せんばかりに喜んだ。テーマだけで成功を確信できることなんて、短くない作家人生において一、二度あるかないかの貴重なものだった。 物語を作るにあたって、アプローチの方法はいくつもあるだろう。時系列に沿って作ることもあれば、結末から逆再生して考えることも多い。しかし、「これだ」という物語が出来上がるときというのは、どちらにも該当しな…

  • 悪魔が笑う

    私は、悪魔である。 理不尽な裁きを与える。 夕刻のオフィス街である。 帰路につくスーツの群れに、一人の男が紛れている。 と言っても、男は何も悪いことをしたわけではない。どこにでもいる普通の、平凡なサラリーマンだ。 本人からすると紛れているつもりもないだろうが、これといって特徴のない男の様相は、あまりにも群れに馴染んでいて彼自身がまるで保護色である。 「私は、悪魔だ。お前に裁きを与える」 交差点を渡り向かってくる男に立ちふさがった。「ああ、そうですか」 男は疲れている。全く興味が無さそうに、私を避けて通り過ぎる。 背中を丸めて歩く男。冬であろうと夏であろうと、窮屈そうに歩く。 男の足元に突然、犬…

  • いつまで経っても

    忘年会をしている。 年の瀬である。年を重ねると友人と会う機会が減って、ついに一年も終わってしまうぞというところで集合を呼び掛けた。 同性ばかりではあるが案外多く人数が集まり、忘年会と呼んでも差し支えないぐらいの団体さんになった。 結局のところ、みんながみんな自分から計画を立てることを面倒くさがっていただけなのだろう。 どこまでの知的レベルにおいて同意が得られるのかはわからないが、男の会話というのは大抵がくだらない話ばかりである。 誰彼が昔こんな奇行をしていただとか、誰彼が実は昔付き合っていたとか、身体の関係があったとか。 くだらないがそれでも楽しい。何度同じ話をしても笑い合える友人がいるのは、…

  • 夏の扇風機の涼しい

    夏の真ん中あたりに、この物件に越してきた。 通勤の電車に乗るのが面倒に思えて、職場へ徒歩で通えればどんなにいいだろうと考えてからすぐに見つけた物件だ。 どうやら人気のようで今はまだ退去が済んでおらず、かといって退去と清掃を待っていては埋まってしまうような物件らしかった。 契約を取り付けるための方便とも考えられるが、相場と条件から見てもあまり悠長に検討はできないだろうと思いすぐに申し込んだ。 いざ住んでみると、いい部分もあれば悪い部分もあった。 引っ越してからの一か月は、フローリングのワックスを塗りなおしたりキッチンや風呂場の水栓を取り換えたりウォシュレットを導入したりと、自分で手を加える部分も…

  • 4WD

    感動するような話ではない、とだけ先に言っておこう。 あなたの日常の中で、「毎日見かける他人」と言われて思い浮かぶ人物はいるだろうか。 私にとってそれは、老夫婦と一匹の犬だ。帰宅時に見かける二人(と一匹)で、タイミングさえ合えば本当に毎日のようにすれ違う。 二人は随分と小さくて、走ることもできなければ重いものを持つことさえ難しそうな、風にも負けてしまいそうな弱々しい雰囲気で、逆に一匹の方は随分と大きくて力も強そうだ。恐らくラブラドールレトリーバーだろう。そんな一団の散歩風景に出くわす。 彼らの存在を認識してから、私は彼らと接触をするようになった。 会釈から始めて、しばらくすると「こんばんは」と言…

  • meet you again

    冷蔵庫のあまり開け閉めをしないポケットに、二年近く前に賞味期限の切れたタコライスの素もとが入っている。タコライスの素とは、タコライスの上にのっているあの味付けされたひき肉がパウチされたレトルト食品だ。ご飯の上にかけてあげればすぐにタコライスが出来上がるし、ご飯の下に敷いてあげてもタコライスが出来上がるだろう。タコライスの素とご飯が組み合わさってはじめてタコライスが完成されるのであれば、ご飯の方だって「タコライスの素」と言ってもいいのではないか、という議論が町中まちじゅうで交わされている。町中というのは私の住む町のことだから、信じていない人は一度私の町に来るといい。野犬の多い町だ。 つまり、私が…

  • 僕と彼女のはなし

    一緒のアパートに住み始めてから、まもなく二年目になる。 どうしても壁を感じることはあるけれど、それでも当然喧嘩などなく、穏やかに過ごしている。 僕は彼女を愛していて、それはいままでも、そしてこれからもきっと変わらないと思う。彼女も同じ気持ちだといい。 彼女は規則正しい生活を送る。彼女が23:30に部屋の電気を消すと、ベランダで吸っているタバコをもみ消して僕も寝床に入る。 寝相が悪いみたいで、彼女が壁に体をぶつける音で起きることもある。大丈夫かい、と優しく呟く。 彼女はアパートから四つ離れた駅近くの大きなビルで働いている。僕はその一つ手前の駅。いわゆるケータイショップだ。彼女と違って僕の方はシフ…

  • きっと君も驚くよ

    「あ、あぁあ、あぁ〜」 力無い悲鳴は、獲物を求めて彷徨う蚊の羽音にかき消されるほど弱々しく地面を這うのでした。 肩の調子が良くありません。それは今に始まったことではなくて、思い返せば青年期。高校時代まで遡ることになります。私はバレーボール部に所属していました。 物心ついた頃からひょろ長い私は、その身長を生かそうと思ったわけでもなく、友人に付き合う形でバレーボール部に入部しました。 クラゲに毛が生えた程度の筋肉しか持ち合わせていなかった私は、サーブすらまともに打てませんでした。しかし私も人間の端くれ。身体の使い方や重心移動、遠心力を駆使し、いつしか人並みにプレーができるようになりました。二年三年…

  • 悪魔の所業

    私は悪魔である。 願望の成就と引き換えに特定の対価を得るべく、日々人間に接触をしている。 三つの願いを、私は叶える。 真昼間の繁華街である。 某有名カフェチェーン店。スクランブル交差点の見える席に陣取り、気怠そうな、生意気そうな表情で、半ば寝そべるような姿勢で男がソファに腰掛けている。 サイドを刈り上げ、トップをジェルで固めたヘアスタイル。色黒で、肥満気味で、やたら高そうな紺ストライプのスーツを着用している。 ローテーブルを挟んだ向かいの席へ腰を下ろして私は言った。 「悪魔だ。お前の願いを言え。三つだ」 男はゆっくりと視線を私へ向ける。 爽やかさとは程遠い、不誠実で威圧的な表情である。「は」 …

  • 終わりの一幕

    「長女がもう、ダメかもしんないわ」 年始の親戚回りも終わりこたつでくつろいでいると、何気なく、といった雰囲気でみかんの皮を剥きながら母が呟いた。 母の長女というと、戸籍上で言うと私のことである。というかそもそも我が家に娘は私一人しかいない。しかし、今しがた母の言った「長女」が指している人物は、私のことではない。というか、人ですらない。 母の言う長女とは、この家のことである。厳密に言うとこの家の一階部分、「みゆき商店」のことだ。 母は幼い頃から体が弱く、しょっちゅう風邪やら流行り病やまいにかかっていたらしい。 成人してからも結婚してからもそれは変わらず、それが影響しているのか子宝にも恵まれなかっ…

  • 駆け抜ける魔女とあなたの話

    "> "> 近くに魔女が住んでいた。 家の近くを通る国道で、彼女は時折姿を見せる。 片側三車線の車道を魔法のホウキもといママチャリで爆走しているのだ。 通勤の際、資源ごみを捨てに行く際、日用品の買い出しの際など見かける時間帯はまちまちだが、ママチャリを駆る彼女は顔色一つ変えずにすごいスピード駆け抜けていく。どこへ向かうのだろう。「魔女」と呼んでいるが、彼女はメイド服を着ている。洗濯で色の抜けたような淡い紫と白の二色の生地で作られたロングスカートのメイド服。髪は腰の上辺りまで伸びたロングで、ヘザーグレーのように白と灰色が混じった色をしている。七十代半ば、といったところか。 メイド服を着てママチャ…

  • おもい あのこと あのこと

    「ほんと、罪な女よね」 鏡の前で、今日も彼女は呟く。うぬぼれた奴だ。 読んでいた本から顔を上げて、私は彼女に目をやる。 はあ、とため息をついて、彼女はそれ以降黙り込んだ。 我が家には2.5キロの重りがある。 円形で、真ん中に丸い穴の開いたドーナツ状になっている。筋力トレーニングに使うダンベルだかバーベルだかの重さを調節するために使うものだろう。それ以上は知らないけれど、きっとそういうものだと思う。それが一つだけある。 そしてそれが(私は「彼女」と表現しているのだけれど)喋るのだ。会話をする能力を持っている。 私は物心ついた時から犬や猫や木々や物の声を聞くことができた、というわけではない。 特別…

  • さるたち しりとり それきり

    "> "> 兄が二人いる。 長男は一つ年上。いわゆる年子としごの兄。 次男は数時間上。いわゆる双子の兄。 私たちは表面も内面も仲の良い三兄弟だった。 どこでもそうだと思うが、兄弟というのは喧嘩をする。 男兄弟なら当然で、歳の近い三兄弟となるとなおさらだ。 例に漏れず私たちは喧嘩に明け暮れた。仲が良いから一緒に遊び、仲が良いがしょっちゅう喧嘩をした。一戦一戦が必死で決死の大勝負だった。今となっては可愛いものだと思うが、仲裁役をせざるを得ない母はたまったものじゃなかっただろうと思う。 当時のことを思い出す度、人類の進化の記録が遺伝子に刻まれているんじゃないか、と思う。サルが原始人になり、人類の歴史…

  • PIECE達よ

    今週のお題「赤いもの」 私はピスタチオが好きだ。 鼻に触れる独特な青い香りと、とろけるような食感、甘さ。薄皮の渋み。 好きになったきっかけは祖母で、その英才教育は私が小さな頃から始まっていた。そもそものピスタチオ好きは、祖母だった。 私はいわゆるおばあちゃん子で、学校終わりや休日の暇な日には近所に住む祖母の家によく遊びに行っていた。 庭いじりを手伝ったり、料理を手伝ったり、あるいは何もしなかったり。 必要以上に関与しないし強制しない祖母が私は好きだった。祖母に溺愛された記憶はないけれど、もしかするとそういう形の溺愛だったのかもしれないな、と今になって思う。 祖母は居間でよくピスタチオを剥いてい…

  • 目くそと鼻くそが肩を組んで笑いあえば世界は平和だとか

    「威嚇する時のミツバチくらい震えました」「へえ、なんじゃそりゃあ。震えるのかい。ミツバチは」「はい。シバリングというらしいです」「勉強にはなるが、まずその説明が必要になるよな」「はい、そうですね……」 だめか……。心の中でため息をついて、私はギャラリーに戻った。 営業に必要なのはボキャブラリーと比喩である、という課長の心得の元、我が営業部では定期的に小さな弁論大会をする。小弁論だ。小便論と同じ言い方なので少し気を遣う。 今回のテーマはコロナワクチンの副反応について、である。「仰向けで寝てたら、頭痛が後頭部に溜まったんですよ。頭痛って液体だと思います」「へぁー。賛さんだねそりゃあ」 賛が出た。感…

  • のいぶいいもれそ。みるぐいぬかういとうょぎんに

    「人形が動いた、って話、怪談好きじゃなくても一度は聞いたことがあるでしょう」 玉木さんはグラスの水滴を指でいじりながら言った。「子供騙し。ええ、陳腐な話ね」 玉木さんに招かれ、私は彼女の家を訪れていた。 彼女の作った夕食をご馳走になり、私の持ってきたお土産をデザートで食べ、仕事の話と人生の話をだらだらと吐き出し合う。 夜は更け、ふと時計を見ると深夜一時半を少し過ぎている。家が近いからいつでも帰れると、ついつい長居してしまった。そんな折、彼女はぽつりぽつりとその話を語りだした。 人形が動くとは、所謂怪談だ。 私は少し面を食らった。彼女がそんな話をするなんて思ってもみなかった。「怖い話ですか?」 …

  • 優しさに包まれたなら

    駅に着く直前、眼前のシートからアラーム音が鳴った。 油を含んだ髪の、少しふくよかな女性が眠り込んでいて、音は彼女の方から鳴っている。その他大勢の人間がそうであるように、彼女も次の大きな駅で降りる予定なのだろうか。しかし、彼女は項垂れた頭を上げる気配を一向に見せない。よほど疲れているのだろうか。 周囲の視線が控えめに彼女に向けられる。砂山に放り込まれた磁石みたいに、彼女は私たちを釘付けにしている。 目的駅はもうすぐだ。 私はごくりと唾を飲んだ。 よく見ると、女はイヤフォンをしている。きっとそのスマホで音楽でも聴いていたのだろう。でも今は、アラーム音がイヤフォンを通さずに直接鳴っている。きっと彼女…

  • 変な話

    猫が飛び出してきたのだ。 その日、私たちは久しぶりに二人で晩御飯を食べに行った。その帰りの出来事だ。 人気ひとけも車っ気もない山中を走っていると、道路脇の茂みから突然猫が飛び出してきた。 ちょうど話題が尽きていたのでカミ子は運転に集中していただろうし、その猫が目につきやすい真っ白な猫だったおかげもあってか、どうにか轢き殺さなくて済んだ。 びっくりしたぁ。あっぶな……。小田ちゃん大丈夫? カミ子こそ大丈夫? と私たちはひとしきり驚きを口に出したりお互いを心配しあって、それでようやく落ち着いた。 急ブレーキと私たちの興奮が夜の中にすっかり吸い込まれると、山中はしんと不気味に静まり返る。ヘッドライト…

  • ただし、

    ドラッグストアで買った洗顔料で詐欺に遭った。世も末も末だ。 してやられた、と気が付いたのは、予備の洗顔料を購入してしばらく経ってからだった。おかしいとは思ったのだ。やけに持ちがいいと。 買い足しを勧めるかのように洗顔料の塊が「ベッ」と飛び出すようになってから、日にちとしてはすでに二週間近く経っている。それでも未だに、チューブを絞ると「これで最後にしてくださいね」と言いながら洗顔料は一向にその姿を消さずに、年中閉店セールを行う婦人服店よろしくしぶとく風呂場の一角に居座り続けている。 単純に、最後の踏ん張りを見せてくれているのなら別にいい。しかし二週間はさすがにおかしいと思わざるを得ない。洗顔料を…

  • 嘘から出たまこと

    SNSの発達した昨今。わずか十数年前には考えられなかったような、奇想天外な発想で生業を得る若者が次々と生まれている。 コスプレ屋、拡散屋、おごられ屋など、大学を卒業して一流企業への就職を夢見た我々世代では考えても考えつかないような柔軟な発想に、ただただ息を漏らすばかりだ。梅沢誠 氏もまた、その一人である。 梅沢氏はSNSで呟く嘘が話題になり、映像・出版・芸能と多方面へその才能を発揮し続けている。 ――早速でなんですが、何か一つ頂けませんか。 ハンガーって触ったことないです。 ――あはは。近年、自営業だとか起業という枠を飛び越えたような方法で働く人が増えていますね。梅沢さんの場合はどなたかを参考…

  • もうたべられないかな、と思ってからさらに三日後、もう食べられないよな、と思う

    収穫された野菜は生きているのだろうか。 宇垣美里は涙を流しながらそう思った。 彼女のその涙は、切っていた野菜に由来する。玉ねぎをみじん切りにしている時のことだった。 少なくない年月を生きてきて、初めて抱いた疑問だ。この歳になって湧き出てくる疑問としては大変に純粋で、それだけで少し幸せな気分になる。新しい曲のフレーズを思いついたような喜びがあって、一人きりにもかかわらずキッチンで目を見開いた。とはいえ宇垣美里は作曲家ではない。自分がシンガーソングライターで、何気ない暮らしの中で歌詞やメロディーが生まれる時はこんな気分なんだろうか、と考えた。 宇垣美里がそう思ったのは、自分が手に掛けた玉ねぎを憐れ…

  • へぇ、と言わせたひ

    「屁意」という言葉は無い。ご存知だろうか。 スーツでカッチリときめたビジネスマンは、「うんちしたい」とか、「おしっこしたい」などとは決して言わない。言えない。便意、あるいは尿意という言葉があることによって、「失礼、ちょっと便意が……」とその場をスマートに切り抜けられている。それに次ぐように屁意という言葉があってもよさそうなのに、どうして無いのだろうか。 「屁でもない」とか「屁にもならない」とか「屁理屈」という言葉があるように、屁というモノ、あるいは現象は随分と軽んじられている。屁が出たところで、それがどうした。と思われているのだ。大きな音で出ようが、澄ました音で出ようが、断続的に出ようが、屁が…

  • 人だかりの話 2/2

    tthatener.hatenablog.comつづき 「怖いだとか、浮浪者が住み着いてるだとか、そういうことじゃなくてね、行ったってなぁんもありゃせんから、誰も近寄らん場所だったのよ。あそこは。ただ雑草が生えてるだけだもの」 後ろ手を組み、黒山の方を振り返りながら、当時を思い出すように祖母は言う。「そこがなんで山になったわけ」私は当然の疑問を口にした。「じゃあ、あの山は人工の山ってこと? そんなの聞いたことないけど」 そんなはずがないだろう、と思った。人の力でどうこうできる大きさではない。それに、たとえあれが人工物だとしたら、もう少し規則的な造形であったり、効率的に通過できる道を作るはずだ。…

  • 人だかりの話

    彼女に腕枕をしながら、私は山のことを思い出していた。 私の故郷には、春になると桜が咲き、秋になるとモミジやカエデ、カツラなどが鮮やかな紅葉を見せる山がある。 山の名前を「黒山」という。 木々が色づく季節には遠方から多くの観光客が訪れて、彼ら彼女らの服や車の色が加わると、山はさらに鮮やかで賑やかな光景を見せる。 久しぶりに帰省したある日、実家の縁側でその黒山を遠くに眺めていると、庭で花壇の手入れをしている祖母が呆れ声を上げた。「あぁあぁ。まぁたあんなに人が集まってら」 垂れ下がった瞼のせいで細くなった目をさらに細めて、祖母はため息をつく。 ぎっしりと生えた木々の隙間から、時々青い色や白い色が覗く…

  • 鷹は本当に爪を隠すか

    私は脳無しだ。 部屋は汚い。衣類はもちろん、ありとあらゆる物がありとあらゆる引き出しや収納から放り出されている。 私は衣装ケースを根っこまで引き出し、頭を突っ込んでそれを探す。五段に重なった小部屋が三列連なるケースに次々と頭を突っ込む。順番も守らずに、目についた小部屋に何度も頭を潜り込ませる。 それはどこにも見当たらない。 ピンポン、とインターフォンが鳴る。 音の鳴った方に顔を向ける。視線の先には、照明の点いていない真っ暗な玄関がある。 私は視線を戻す。散らばった衣類を一つずつ持ち上げては、その下を確認する。何度も同じ服を持ち上げて、何度も同じ場所を探す。 ピンポン、とインターフォンが鳴る。「…

  • 計ったような博多の母方の歯型

    悩んだ挙句、肩に突起をつけることにした。 ガンダムみたいでかっこいいとか、ショルダー攻撃の威力を上げたいだとか、拘束された時に突起であごを掻きたいだとか、そんな馬鹿げた理由ではない。 トートバックがズレ落ちるのだ。 普段からトートバックを持ち歩いているわけではないので、その悩みに対面することはそう多くはない。しかし、ゼロではない。 だから、だからこそ、私は悩んでいた。 たまに使用するトートバックが気持ちよく肩に掛けられない。 それだけの理由で肩に突起をつけるべきなのか。 普通に考えるならば「否」である。 私は常識人なので、それを誰かに相談することもなかった。そんな悩みを打ち明けられてもきっと誰…

  • うん、チーズ。

    たまに、家の中で異臭がすることがある。 キッチンに置いているかごの底で人知れず腐ってしまっている野菜があるとか、どこから入り込んだのか小さなネズミが置きっぱなしの衣類の陰で往生しているとか、考えられる理由は様々だ。 そういう時はごく一部の、発生源の周りのみが強烈に匂うものだ。 ごく最近の話である。謎の悪臭に襲われる事件が起きた。 帰宅直後にその異臭に気が付くと、私は麻薬探知犬だとかトリュフ探知ブタ顔負けの勢いで家中を嗅いで回った。顔をしかめながらここそこに鼻を突き出す。ここは臭い。あそこも臭い。 唯一心当たりのあるトイレに足を踏み入れるも、意外なことにトイレ内にはあまり悪臭は侵入していなかった…

  • ズボンとパンツとパンティとショーツとショートパンツを区別する時に読むパンツ

    言うまでもなく、ズボンはズボンです。そうですね? しかし昨今、ズボンのことをズボンと呼ぶのは恥ずかしい、という意見が大多数の認識になりつつあります。ズボンのことをズボンと呼べない世の中になりつつあります。 そもそも、パンツというのはズボンと等しい呼び方なのでしょうか。正しいのでしょうか。 ジーンズのことをデニムと呼ぶような、誤った呼び方ではないのでしょうか。もしそうだとしたら放っておけません。言語道断です。 デニムとはそもそもデニム生地のことを指します。そしてデニムとは「day need movable」の略でもあります。違います。 ズボンのことをパンツと呼んでよいのか。それを知るにはパンツの…

  • デデデでプププではない話

    「Aが落ちていた」と言って、松島が夜に訪ねてきた。22時を過ぎたころのことだ。不安そうな顔をしていた。 「どういう意味?」私は眉を寄せて聞いた。意味が不明であることは勿論、松島が見せる顔そのものもよくわからない。誰かのキーホルダーだとかネックレスのチャームが外れて落ちていたのだろうか。だとしたらとんだ無駄骨だ。 よちよち歩きの子どもだとか、あるいは賢い犬ならまだしも、三十過ぎのおじさんにそんなものを持ってこられてもろくにかける言葉もない。 訳も分からず黙っている私と、訳があるのかは知らないが黙っている松島。言いかけては口ごもる彼に、次第に腹が立ってくる。 帰ってくれるか、と言いかけた時、それを…

  • 剛毅果断は生を掴む

    優柔不断は死をも招く。 例えば危険物処理班とかいう花形のチームに配属されたとして、そもそもそんなチームが実際にあるのかはわからないし、花形なのかもわからないが、とにかくそういう班があったとして。というかまず危険物処理班という部門があるとすればそこへ加わる最低条件として「決断力」と「判断力」というのは必須の性格だとは思うが、ともかく他己紹介で「優柔不断」の一言で済まされてしまうような男がそこへ配属されたとして。 そのような重大な班に配属されるぐらいなので、男はそれなりに実力がある。危険物を正しく処理する能力だ。 その日、男は見るからに爆発物めいた爆発物の処理を行っている。複雑に絡み合った配線。蛍…

  • 最後の竜の閃き

    この日、ここ山形県のスタジアムには、日本全国から猛者が集まっていた。各々の県にて多くの者の中からふるいに掛けられた傑作達である。より速く走り、より高く跳び、より遠くに投げる。そんな傑物達の祭典の場に、私たちはいた。 隣を陣取るのは達彦である。この場にいるはずではなかった私が現にこうしてここにいるのは、彼の情熱によるものだ。私の選手としての実力は、つまり走り幅跳びの跳躍力は、凡の中でさえも埋もれる程度のものである。そんな私が、今こうしてここにいる。「お前も絶対来いよ」彼の強制により、ここにいる。 達彦は、今や絶滅したと考えられている、竜の子であった。 突飛な話に聞こえるかもしれないが、事実なのだ…

  • Mirror Mirror

    かれこれ四時間は経つだろうか。 目の前の男は、まるで母親のような笑顔で私の前に留とどまっている。 私と彼は初対面で、だけどお互いのことをこれでもかと言うくらい知り合っているような気もする。 それは当然そんな気がするというだけのことで、実際にはそうではない。見当違いな所感だ。何せ私たちは示し合わせてこの場所に集まったわけではないのだし、もっと言えば私は彼のせいで予定をすっぽかす形になってしまっている。そしてそれは彼に言わせても同じらしい。 私たちは今、互いの存在のせいで不利益を被こうむっている。持ち主のいない磁石同士がくっついて、これはもうどうしようもないと諦めきっている。まな板の上の私たちに、…

  • 君が笑顔でいられるなら、僕は悪者じゃないはずさきっと

    なると巻きの桃色の渦を見ても、私は何とも思わない。 それは薄情なことだろうか。 なるとは時計回りに見える方が表だとか、あるいは裏だとか、そんなことは一度も考えたことがないし、たとえ今それが気になったとしても調べる気にはならないし、ましてやそれを覚えて明日誰かに披露しようとも思わない。せいぜい抱く感想は、「なるとにも裏表があったんだ、へぇ」ぐらいのものだ。 そんな風に、駅や町ですれ違う見知らぬ人たちに対しても、それぞれ人生があるのだとも考えたことが無かった。私の人生の主人公は私だ、とかいう一丁前な自尊心みたいなものがあるわけでもないのに、彼らにも意思があって、悲しんだり、楽しんだりしているという…

  • 磯は尖っていて危ないけれど、川の石は丸い。どっちも硬いよ。

    ゾウもねずみも、一生のうちに打つ心臓の拍子ひょうしの数はだいたい同じなのだという。 どこかで聞きかじった情報なので、もしかしたら都市伝説めいたうわさ話に過ぎないのかもしれないけれど、もしそうだとしたらロマンもクソも無いので改めて調べることはしていない。 あんなに大きなゾウと、あんなに小さなねずみの心臓の出番が同じ数あるなんてちょっと信じがたい。けれど信じてみたい。不思議な話だ。 考えてみると、ゾウの心臓が駆け足で動いているイメージは無いし、逆にねずみの心臓が悠長にあくびをしているイメージもない。 ゾウは大きな体に埋まった大きな心臓をゆっくりと動かすことができて、だから長く生きられる。ねずみは小…

  • あたしたちのあした

    「わたし」は「私」だ。 当然、「私」は「わたし」と読む。 「あたし」はつまり、「わたし」のにせものだ。 「わたし」に並ぶようにして、何食わぬ顔で、にせものは居座り続けている。 「せんたっき」ですら「洗濯機」に変換してくれる柔軟な時代においても、「あたし」に「私」をあてがってくれないことは多々ある。 それぐらい「あたし」は軽んじられている。それなのに「あたし」は何とも思わないで、「わたし」と肩を並べて歩くのだ。 「あたし」って何者だ。 「あしきべんじょ」はとんでもなく邪悪そうで、「アンピース」だと服として認められるわけはないし、「あんちゃん」は二足歩行になってしまう。 それぐらい「わ」と「あ」の…

  • 自由は二次元

    「自由でいいのよ」 僕は、夏休み前にクラス全員に向けられたその言葉を、今度は一人で受け止めていた。 担任の岡部先生は、低学年の児童からおかべぇ先生と呼ばれている。今はそのおかべぇ先生と、僕の二人しか教室にいない。居残りだ。おかべぇ先生は自席で赤ペンを握り、「シュッ」と「シュッシュッ」を繰り返している。採点中だ。 「自由でいいのよ」 微動だにしない僕に向かい、顔も上げずに先生は繰り返す。 自由研究をちゃんとやらなかったことを責めはしないわ、とでも言っているように、表情一つ変えない。 自由でよい、と定規をこちらに託しているのだから、一人放課後に縛り付けられている理由が尚更わからない。僕は確かに自由…

  • 宙からのカレー

    夢を見た。 大木にロープを括り付けたいのだけれど、ロープそのものが無い。ならばと私たちは頷きあい、道の傍らに植わっているサトウキビをしゃくりしゃくりと噛み始める。噛んで繊維をほぐすことで、大木に括り付けるための柔らかさを生み出そうとしたのだ。 目が覚めると、寝間着の首元がびっしょりと濡れていた。局地的豪雨が降ったらしい。それも随分と粘性のあるヤツだ。 ベッドを出てベランダの窓を開けると、雨の気配一つない透き通るような青空だった。シャワーを浴び、すぐに家を出た。 三連休だ。 大量に買い出しをして自炊三昧を決め込もうと決意し、スーパーマーケットに向かう。入り口で安売りの玉ねぎを目にした瞬間、メニュ…

  • 涙は雨に隠しましょう

    〜前回までのあらすじ〜 福岡に引っ越したはいいものの、小トラブルに遭遇し続ける。ようやく生活の基盤が整ってきたところで、最大の試練が訪れた。 ーーーーー 曇天の空、それは彼が表情を変える途中の一場面でしかないことを私は知っていた。これから雨が降るのである。 自転車の受け取りをわざわざそんな日に行うという愚行は望んだことではないが、出品者の希望なのだから仕方がない。 「他の方にもお問い合わせをいただいているので……」と言われ、分が悪い戦いに応じざるを得なくなった。 冷たい風に刃向かうように自転車を漕いでいると、ポツポツと雨が降り始めた。そしてそれに気が付いたかのように、携帯電話が震えた。 「少し…

  • 試練は続くよ どこまで? もぉ

    福岡移住二日目。日差しと寒さで目覚めた。 部屋はがらんとしていて、あるのは少量の衣類と液晶テレビだけ。唯一増えた荷物は身を包む毛布一枚。カーテンはもちろんのこと、リビングの照明もない。なんたるミニマリズム。 窓の外からは、運動をしているらしい学生たちの掛け声が聞こえて来る。なんとも威勢がいい。すぐ目の前に中高があって、野球部が練習するのを通りがかりに見たのできっとそれだ。きっと強豪校なのだろう。 しばらく体温が上がるのを待ってトイレに足を運んだ。 自分専用のキッチンに自分専用の風呂場、そして自分専用のトイレ。ああ、一人暮らしとはなんと素晴らしい。 幸い、福岡の寒さは耐えられないほどでもないし、…

  • 試練の新生活、開幕

    親の介護という重大な任務のために実家に縛られていた私は、兄弟会議の末に一人暮らしの権利を獲得した。ボケた親に振り回されたあの日々は何だったのかと思うほど、なんともあっけない解決だった。 十一月に候補を決め、十二月に物件に足を運び、一月に移住。向かう先は県外、コンパクトシティと称される「福岡県」だ。利便性が良さそうで間違いなく東京より人口密度が少ない。そして何より家賃が安い。選択肢はここ以外考えられなかった。 十二月の半ばには何の困難もなく物件も見つかり、契約を済ませた。そして引っ越しのために荷造りをして二日、風邪を引いた。 正月に引いたおみくじのことが頭によぎる。 ―転居 急ぐな 余裕ぶって転…

  • 明けましておめでとうございますと言わせてください

    あけましておめでとうございます。 という時候の挨拶はいつまでつかえるのでしょうか? しばらくぶり、というか2020年に突入してから初めてのブログになるのでこの挨拶で始めさせていただきます。あけましておめでとうございます。 あけましておめでとうございます。 という時候の挨拶はそれはそれは古くから使われているのでしょう。新年になると老若男女問わず交わされる挨拶のフレーズです。 私自身も、毎年毎年何も考えずに口からこぼれ出るままに使っていたのですが、ある時ふと思ったのです。年が明けることの何がそんなにめでたいんだ、と。 そのありがたみや必要性を知るには、一度くらいは明けない年があってもいいのかもしれ…

  • わざわざワシの愚痴を聞いてくれ

    愚痴が言いたい。 愚痴を言わせて欲しい。 愚痴を言う。 誰が悪いのかというと「私の性格が」としか言えないのだけれど、それでも言いたい。スーパーでのあのやりとりを。 環境問題の改善策としてレジ袋が有料になって久しい。不要なビニール袋が増えるのが嫌なので買い物に出る際はエコバッグを持つようにしているのだけれど、たまに忘れてしまうことがある。そんな時に店員が訊ねる。 「レジ袋はよろしいですか?」 よろしくないんだわ。 見りゃわかるだろうとまではもちろん言わないけれど、見て判断してほしい。カゴいっぱいに入った商品を入れる袋、持っているように見えますか? これでもかと手ぶらをアピールしても、彼らは同じよ…

  • 海の見えそうなカラオケスナック 2/2

    tthatener.hatenablog.com 一度興味を持ってしまったものを断ち切り忘れ去るのはなかなか難しい。どうでもいいことに興味を抱き、パソコンの前で朝を迎えるなんて一度や二度のことではない。 気が付くと、私は車のエンジンをかけていた。向かう先はもちろん件くだんのカラオケスナックだ。もはや脳の深層の独断で、私は半ば意味も分からないままハンドルを握っていた。本当に行くのか? 行ってどうする。 エンジン音を響かせて入場するほど肝は座っていない。少し離れた路地の隅に車を止め、目的地へ向かう。意思とは裏腹に足がすいすいと進む。まるで空港の動く歩道に乗っているかのようだ。 在りし日にはよく手入…

  • 海の見えそうなカラオケスナック 1/2

    自宅から坂を上り信号を一つ越えると、かつてカラオケスナックだった二階建ての建物が左手に見えてくる。 そこは住居も兼ねた店舗で、兄の同級生が住んでいて、私の同級生も住んでいた。コンクリート造りのその建物は一階が車庫で、外階段を上がると店舗の入り口がある。他のどの友人の家とも違う、異質な雰囲気を放っていた。 兄がどうだったのかは知らないが、私の同級生は異性だったこともあり、そのスナックあるいは住居にお邪魔する機会は訪れなかった。 通りに面した部分はガラス張りになっていて、今はカーテンが閉じられて中が見えないようになっている。昼はもちろん、夜になっても。 そう、スナックはとうの昔に閉店してしまってい…

  • 不思議と指がチートス

    ごくたまに、ピントがズレることがある。 視力が落ちて物がぼやけるとかいう類たぐいのことではなくて、例えばカメラのズーム機能が狂って物がとても大きく見えたり逆に小さく見えたりするような調子になる。スマートフォンに表示される文字が足の親指くらい大きく見えることもあるし、つい先日は初めてズームアウトの症状が出た。机の隅に置いた小説が一メートルほど遠くにあるように小さく見えて、何とも気持ち悪く感じた。 さらに稀な症状として、それが夢にも出ることがある。それはまさに夢のような体験で、実体の無い何かが極小と極大になるのを繰り返す。ものすごく抽象的で、映像が伴っているかどうかも曖昧。記憶の整理とは関係のなさ…

  • Everything is a joke

    Youtubeを見ていると、マックで働いていたらしいハゲが講義している動画が頻繁に広告に出てくる。 「我、真理得たり」みたいな雰囲気が溢れに溢れていて苦手すぎるので、何度も何度もあの広告が出ないように設定しているのに、隙を見せるとすぐにつるりと画面内に滑り込んでくる。スキンヘッドにローションでも塗っているのか。 見よう見ようと思っていた『JOKER』をつい先日映画館に観に行った。 映画ってなんでこんなにクソ高いんだろうと思っていたのだけれど、会員割引で安く観られるようになっていることを初めて知った。千円で観られるなんてもっと早く知りたかった。これからはがんがん足を運ぶとしよう。 JOKERの感…

  • 全てを知ってしまうと人生はひどくつまらなくなるらしいのです

    ああ、夢でよかった、と醒めた後に心からほっとした。とても怖い夢を見た。 走っても走ってもついてくる化け物だとか、高い所から落っこちるような非現実的な夢ではない。退職後にもかかわらず、人手不足という理由で以前働いていた職場の助っ人に駆り出される夢だった。 私は以前、都心部にあるビジネスホテルのフロントで働いていた。客室数130室ほどの、中規模のホテルだった。 一度の勤務で25時間を過ごす。朝出勤して、帰宅するのは翌日の昼になる。消防士の勤務形態に近いらしい。出勤するとまずはチェックアウト部屋と連泊部屋の確認をして前日の当番から役目を引き継ぐ。それが終わると当日の宿泊客受け入れの準備をして、午後四…

  • ソフト

    私には祖父がいない。これは少し不思議な話だ。 私には両親がいない。これには事情がある。つまり不思議なことではない。 私が三人目の子ども、次男として生まれてから三、四年ほど経ってから、両親は離婚した。何があったのか本当のことはわからないが、とにかく一家から脱落者が出た。母だ。何せ小さい頃の出来事だったので、母の名前さえも覚えていない。それどころか、母が家を去ったことを理由に泣いたかどうかさえも覚えていない。きっとわんわん泣いたのだろうが、それほど遠くて頼りない記憶の中の出来事だ。 次に父が脱落した。父は、我が家どころかこの世から脱落してしまった。というか昇天してしまった。オートバイでの事故死だっ…

  • 玄関先でキングコブラと見合った時のための心構え

    例えば朝、寝ぼけ眼まなこでふらふらと玄関の戸を開けたとして、そこにフードを広げた臨戦態勢のコブラが構えていたらひとたまりもない。しかし、玄関先にコブラがいる可能性を念頭に置いている人なんて、ここ日本にはきっといないだろう。 その危険性にいち早く気が付いたので、私は血清を持っているわけでもないのに近隣住民の中でコブラに噛まれて死ぬ危険性が一番低い。これはすごいことだ。 軒先にUFOが着陸するのを想定していれば「おう、ちょっと乗せてってよ」と片手で頼み込めるように、想定外の事態をいくつも考えておくというのは好機を逃さないための対策でもある。ただ単にリスクを避けるという意味合いだけではない。 数年前…

  • ドラマーチック

    富士山に登山をする際に、ドラムセットを担いで行く、という話は聞いたことがない。 富士登山なんてしたことがないから、果たしてそれが度々あることなのかどうかすらわからない。 では、どうしてそういう話を持ち出すのかというと、彼の準備リストにそれが入っていたからである。 「山を舐めるな」 見たこともないような大きなバックパックに荷物を詰めながら我次郎は言う。 「舐めちゃいないけど、必要なのかよ」 「万全の装備で臨むのが山だ。どういうことかわかるか?」 そう言われて、私は曖昧に首をひねった。山の何たるかを何も知らない赤ん坊を憐れむように、我次郎は片方の口の端を上げる。 「つまり、山へは万全の準備で臨めっ…

  • 24億5千万回の男

    我が家の電子レンジは壊れている。 昨日はくし切りにした玉ねぎに熱を通すのに使ったし、今日は小分けにしたご飯を解凍するのに使った。明日もきっと牛乳を温めたり、料理の時短のために使うのだろう。 だけど、我が家の電子レンジは壊れている。 壊れているのに使えているなんて、一体どういう事なんだ、と思うかもしれない。壊れたラジオじゃ電波はキャッチできないし、壊れたプリンターじゃ印刷はできない。それに則って考えなくても、壊れた電子レンジじゃ物は温められないことは明白だ。 が、なんてことはない。ただ電球が切れているだけだ。灯りがつかない、それだけだ。壊れている、なんていう言い方は大げさすぎたかもしれない。 ボ…

  • 鬼に金棒、みたいなもんよ

    さて、どのような椅子ならば快適に机に向かえるか、と考えたことのある方は多いと思う。 最良の選択をしたかに思えたが、果たして本当にそうだろうか、というお話。 自室で机に向かう機会のある方の半数は悩んだかもしれない。椅子問題。何時間も快適に机に向かうために、どのような椅子を選ぶかは非常に重要だ。 座面の高さ、ひじ掛けの有無、素材、リクライニング性能、などなど。 それなりに快適に過ごそうと思えばそれなりの値段がするものだから、当然失敗はしたくない。数万円を出して使えないガラクタを買うほどの経済力と心の余裕は持ち合わせていない。 だから、私は数日をかけて椅子を探した。家具屋を見て回って、通販サイトを泳…

  • ナマケモノが絶滅してさ、名前が空いたらさ、僕がもらうよ

    私は座り心地のいい椅子に行儀悪く腰かけて、目線の高さにレモンを掲げている。 何をしているのだろうかと自問自答するならば、その答えは一つ。レモン観察だ。 事の発端は、レモン越しに見える掛け時計にある。私は強烈に重大な真理を知ってしまった。 深夜三時三十五分のこと。ぼうっと、見るともなしに時計を眺めていた。いつか誰かからもらった、木製で二針式の掛け時計だ。 長針が南南西に傾いて、「7」の足である斜線とキレイに重なっている。私はこういうのが何となく好きだ。口に出して説明するのは難しいのだが、歩道に並ぶあの花壇がもう少し左側にあればちょうどいいのに、とか考えたり、コンビニやスーパーで二つのレジに並んだ…

  • 首里城炎上 犯人を隠せ

    深夜にその速報を目にしてから、私はもう本当に落ち込んでしまった。 真っ赤に燃える首里城は、誰かの言葉を借りると不謹慎にもキレイだと思わされて、ああ、もうどうしようもないのだな、と察するには十分すぎる光景だった。 茫然とその様を見守る近隣住民の失意の念はそれはそれは大きなものだと思う。私だってそうだ。 首里城は、長きに渡る改修工事を昨年末にようやく終えたばかりだった。工事用の足場を取り払った、完成した首里城を見に行こうと思っていたのに。 ここ数年、天災や人災を目にする度に心がズシリと重くなってしまう。首里城の焼失だけではなくて、関東の台風被害であったり、九州における豪雨被害であったり、果てはヨー…

  • 夜更けに大混乱の乱 2

    さて、この会では大混乱が起こる。そしてその中心となる人物がいる。女性だ。名前を4ちゃんという。 彼女は他のメンバーのように私の一年後輩、というわけではなくて、誰かがどこかから引っ張ってきた随分と若い女の子だ。年の頃は二十か二十一歳ぐらいだったと思う。 受付横の少し陰になった一角に、二つほどテーブルのセットが並んでいる。そこに4ちゃんはいた。 四十センチ四方ほどの小さなテーブルに身を預けてぐったりとしている。一目見るだけでわかった。ああ、こりゃやばいかもしれない。 私がその様子を目にしたのは偶然ではなくて、つまり理由がある。彼女に呼ばれたのだ。 終了も近づいた深夜三時過ぎ、十八号室に入ってきた後…

  • 夜更けに大混乱の乱

    過呼吸になった人を、初めて目の当たりにした。 月に一度、バレーボールをしている。メンバーは高校時代の一年後輩が中心となっているので、歳は一つしか変わらないとはいえ私が最年長に当たる。老害的扱いを受けるのが怖いので、あまり主張はしないようにしている。 プレーは明るく。その他では慎ましく行動しているつもりである。 そんなバレーの会で、飲み会が開催されることになった。 即位礼正殿の儀のために祝日になった日の前日、月曜日だ。 二十一時の予約に対し、十五分遅れで到着する。何か用事があって間に合わなかったわけではない。もちろん予定通りだ。「最年長が時間ピッタリに到着しているわね。よっぽど楽しみだったのかし…

  • 共同研究

    上下の瞼にガムテープを張り、部屋の電気を一番明るい状態にしている。劣悪な夢を見るために。 シルクのパジャマを身に纏って、シルクのシーツに身を横たえている。上質な睡眠を得るために。 おかしなことをしているわけではない。これは、私の仮説を実証する上で、なくてはならない大事な二策なのだ。 ホラー小説を読んでいると、少女が金縛りに遭い、心霊現象に襲われる一場面があった。中学生の、ホラー好きで陰気な少女だ。 聴くと呪われてしまういわゆる「都市伝説」を耳にしてしまったばっかりに、恐ろしい目に遭う少女。少女は霊を退けるための呪文を唱え、眼前に迫った脅威をなんとか振り払う。 すっかり疲れ果て、そのまま寝てしま…

  • 沖縄県西谷市奥田45

    我が家の脇を道路が走っている。間に小さな藪を挟んでいるので厳密に言うと脇ではないのだけれど、ごく近くを走っている。 国道でも県道でもない小さな道だけれど、頻繁に車が通る。たまに十台以上はあるハーレーの集団がドドドドと存在感を主張しながら走り抜けていくこともある。その先にちょっとした観光地があるのだ。 特に土日は車やバイクの往来が多くなるはずなのに、この日曜日は随分と様子が違った。何も、誰も通らないのだ。 カーテンを開けっぱなしで寝てしまった私は、外の明るさで目を覚ました。時刻は八時。全く動きたくなくて、しばらく寝転がりながら本を読んでいた時にそれに気が付いた。それからしばらくは外の様子を気にし…

  • パソコンが壊れたので脳内でブログを書いています。

    我が家のことは、我が一番よく知っている。例えばこの床板を踏めばほんの少したわんでギュウと音が鳴るとか、あの角にはホコリが溜まりやすいだとか。あの壁のへこみは、不要になった棚を移動させた時についたものだ。高校を卒業した頃だ。 私たち一家がこの家に越してきたのは、私がまだ幼稚園児だった頃だ。引っ越しと言っても業者もトラックも使っていない。何故なら路地を挟んではす向かいに建てた新居に引っ越したからだ。 「もうこの家ともお別れね……」と鼻をすするような別れもなかった。旧家の方はそのまま親戚が住むことになったので、いつでも遊びに行けるし、もちろん私たち三兄弟の学区だとかが変わることもない。せっかくなら転…

  • 台風とタイフーンが似ているのは語源が同じだかららしいよ。なぁんだ。

    台風がいきなりやって来た。 日本の入り口とでも思っているのだろうか。彼らは、台風は、日本に上陸する際、手始めに沖縄に挨拶に来ることが多い。 気圧や海水温の影響で必然的にそうなるのだと言われているけれど、元台風の知人の話によるとそんなことではなく、ただ単純に観光がしたいだけなのだそうな。 台風の命は短い。夏の風物詩のセミなんかよりも随分と。限られた命の中で充実感を味わいたいがために、彼らは週末の沖縄を起点とするらしい。つまり彼らの起こりは彼ら自身が決めているのだ。そう聞いた。 その話を聞いて私は「自由意志」について考えた。例えば風呂に入ろうと腰を上げる時、例えば「あ」と声を発する時、例えばテレビ…

  • IF関数の入れ子みたいなもんだろ

    私たちは言い争っていた。夫のまさおがどうしても牛肉が食べたいと聞かなくて、子供みたいに地面に寝転びジタバタし始めたからだ。 声を潜めて言った。「やめなさいよみっともない!」「だから牛にしてよ!牛牛牛!」 さっきからずっとこの調子だ。どういう育ち方をしてきたのだろう。「早く立ってよ」「いやだ」「いい加減にして」「牛!」「じゃあ、一生やってろ!」 私はついに怒鳴った。するとまさおはさっと立ち上がった。「こういう話を知っているかい」まさおは言う。「小さな商店を営んでいる男がいた。その商店は朝十時から夜八時までの営業時間だった。男は商店が大好きで、商店を利用してくれる客が大好きだった。だから男は休みの…

  • あんまりはぁはぁ言わせんでよ

    病院というものはどうしてこうも予約が取れないものなんだろう。定期的に通っている歯科に予約の電話を入れると、三週間先の受診を提案された。私の住む片田舎でも、近隣数キロの内に数件の歯科クリニックがある。それなのにこんなに予約が埋まっているなんてどういうことなんだろう。とは思ったものの、考えてみると一人の患者に三十分程度はかかるだろうし、それもしょうがない事なのかもしれない。「じゃあ、その日でお願いします」電話口の女性に予約を取り付けてから、電話を切った。それからスマートフォンを操作し、車で三十分圏内の歯科を探して片っ端から電話をかけた。勝手だけれど、明日明後日にも受診したかったのだ。いくつかのクリ…

  • アイツはインターホンを鳴らさない

    コーヒーは無糖。下着は麺100%。風呂の温度は42℃。扇風機の風量は弱。誰にでも、こだわりとまではいかなくとも、なんとなく好き好んでいる決まりごとというものがあると思う。私にとってのそれはトイレットペーパーのダブルで、むしろシングルを好き好んで買う人なんているんだろうかとさえ思っていた。けれども少し調べてみると、シングルとダブルの割合は意外にも拮抗しているらしい。世間様の意見を知らない野郎が「意外にも」などと決めつけた発言をするのはあまりにも無知で恥ずかしいことだと思い、ああ、自分はまた知ったかぶっていたのかと反省させられた。反省はしていない。ということでうっすらと花の香りのするピンクのダブル…

  • ちょ、まじ、やべぇから

    人間の作った車に乗り、人間の作った道を走る。窓の外を人間の作った建物が流れていき、空には人間の作った乗り物が飛んでいる。そこで私は改めて、ああ、すごいなぁと感じる。 2038年、人間の知識は、ある一つの到達点を迎えました。 かつてスマートフォンと呼ばれたようなデジタルデバイスは体の中に埋め込まれ、人々は情報をより簡単に得られるようになりました。それは序の口で、移動手段や労働など、あらゆるものが完全に自動化しました。あなたたち人間は、何もしなくても生きていけるようになったのです。 それは人間にとって手放しで喜べる悲願だったのか。今となってはわかりません。 あなたたちは、いずれ人工知能が人間の知能…

  • 何パーセントまでが偶然で、何パーセントからが奇跡なんだろうか。私たちは奇跡を崇めるのに、偶然には馴れ馴れしい

    例えば私が高校生だとして 例えば私が転校生だとして あの十字路で、食パンを咥えた女子高生とぶつかる可能性はあったのだろうか。 そんなことを考えながら歩いていて、このドラマチックな出会いに疑問を抱いたのはつい数日前のことだ。 新しい街へ移住してきた私は、学生服を着て、南の方角から北へ向かって歩いている。十字路にさしかかった時、西の方角から走ってきたパン女とぶつかった。 「いってぇ。あぶねぇだろうが」 「いたた……。そっちこそ危ないじゃない!」 「なんだとぉ?」 「あ、いけない! 遅刻遅刻!」 走り去っていく背中に向かい、騒がしいヤツだな……、と呟いた。 学校へ到着し、職員室へ向かった私は、HR開…

  • じゃんけん必勝法

    「じゃあ、じゃんけんで決めようぜ」 こいつの苗字はきっと山田だろうな、と思われるような能天気で浅はかそうな声で、私は提案した。 「ああ」 かん平ぺいは曖昧に返す。 チャンスだ。勝利への闇路やみじを前に、私はちょうちんを得たような気分になった。 じゃんけんというのは、一番ポピュラーな勝負事だ。 それを提案したところで、「じゃんけんは絶対に嫌だ」と強烈な拒否を突きつけられることはそうそうない。じゃんけんは例えば、免許証に匹敵する信頼を得ているのだ。 単純明快なルールで老若男女誰をも省かずに親しまれている最強の勝負、じゃんけん。たった三つの手のどれかを出すだけ。有利不利は無く、勝率は三分の一。考えて…

  • LOST

    たかだか物を失くしたぐらいで大騒ぎするなんて、まだまだ小僧の証である。そもそも物を失くすというのも良くない。所有するからには、それが自身の臓物ぞうもつの一つであるかのように大切に扱ってこそ、ようやく持ち主を語れるのだ。 さて、USBメモリを紛失した。 先程から心当たりのある保管場所を同じように何度も何度もローテーションして探している。二度も見れば無いものは無いとわかるだろうに、馬鹿犬が餌を探すように三度も四度も引き出しを開け閉めしているのだ。犬様を馬鹿呼ばわりする資格なんてない。 家の外に出した覚えのない物を失くすとは、一体どういうことだろう。真っ先に考えられるのは、どこか隙間にでも落ちてしま…

  • 早々にスクラップ・アンド・ビルド

    そこにフォーカスを当てるなら、私は他の誰かよりはるかに経験豊富だと思う。 始めて骨折をしたのは、確か幼稚園生の頃だった。花壇のコンクリート枠の上を歩いていた私は、何気なくそこから飛び降りた。高さは約50センチ。決して高すぎるというわけではない。 しかし、何故だか手から着地した私は、見事に左の腕を負傷した。骨折だった。 どうして手から降りようと思ったのだろう。もしかすると降りたのではなくて、落ちたのかもしれない。とにかく私は骨折した。初めての骨折だ。 それから私はチャンスがあれば骨折をした。 二度目は家の前の石垣から。 まさに田舎を思わせる雑な野面積みの石垣の上を、バランスとるように手を広げて歩…

  • ミンミンと、鳴くけど涙は見せないの

    部屋の中に強い日差しが差し込んで、窓の外では鳥が鳴いている。少なく見積もっても、三種類以上の鳴き声が聞こえる。果たしてそれらは全て同じ鳥なんだろうか。 鳥の姿を捉えようと窓の外の大木に目を凝らしていると、ふと気がつくことがあった。 セミが鳴いていない。 いかにも彼らにとってはおあつらえ向きの天気だというのに、まるでmisonoみたいにいつの間にか姿を隠している。 「ウチのブログ見て」 かつてmisonoはそう言っていた。軽々しく口を開いて言葉尻を捕らえられたり、言いたいことがすべて言えないのを懸念して、そう説明するに至ったのだろうか。 彼女が事あるごとに言っていたそのセリフを思い出し、私は彼女…

  • 何一つとして言いたいことはない

    目を閉じて歩くと、途端に何かとぶつかりそうな恐怖心に襲われるのはどうしてだろう? 例えそれが駐車場のような周りに何もない広い場所でも、目を閉じると目前に木や壁が突如現れたような錯覚に陥ってしまう。不思議だ。 私の自由研究のテーマは、それを克服し、あわよくばその謎を解き明かそうというものだった。 そんなことをして一体なんになるんだと言われたらそれまでだけれど、そもそも自由研究なんだから自由にやらせてもらうことにする。 さて、そのテーマを元に、具体的に何をするかだ。「目を閉じたまま25メートル歩けました」なんて一言で終わるようじゃあ研究とは言えない。 考えた結果、私は地図を作ることにした。 目を閉…

  • 意味わからんの一言で一蹴するなんて、もったいないことだと思わんかい?

    目からビームは出ないし、口から炎も吐けない。手のひらから出るのも、頑張ってせいぜい手汗ぐらいだ。 私は子供の頃、よくゲームをしていた。格闘ゲームも、RPGゲームも、アドベンチャーゲームも、万遍なくやった。あの頃は一体何が楽しくて四六時中ゲームをしていたのかよく覚えていないけれど、大人になってもゲームをして、アニメを見るんだろうなぁ。嫌だなぁ。と思っていた。子共ながらに、自分の子供っぷりに嫌気が差していたのだ。 大人になってからはパタリとゲームをしなくなった。ゲームというのは例えそれがどんなジャンルだろうと、「タイミングよくボタンを押す」だけに過ぎないじゃないか。そんなことに時間を割くなんて馬鹿…

  • ナカジマがミユキでナカシマがミカ

    買い物帰りに、ものすごく悪そうな車の一団とすれ違った。その中にプリウスが一台交じっていて、私はついつい顔を歪めた。 そのプリウスは白いボディにボンネットだけ真っ黒で、地面についてしまんじゃないかというくらいに車高を落としていて、さらには上から潰されたようにタイヤが「ハ」の字に外に飛び出していた。いわゆる鬼キャンというヤツだ。 せっかく低燃費を求めに求めて作ったモノをあんな風にするなんて、例えばフワフワ触感が売りのシフォンケーキをあえて凍らせてしまうようなものだ。美味しそう。 例えば持ち運ぶものだから本来は小さいままがいいはずなのに、年々大きくなっていくスマートフォンのようなものだ。iphone…

  • シバクぞ!!

    田舎に住んでいると、ご近所トラブルというものはあまり起こらない。 我が家は一軒家で、移住者が住みつくメリットも見当たらないような寂れた部落なので、さらにトラブルは遠のく。 朝早くから草刈り機の音が聞こえても、子供がはしゃいだり泣き叫ぶ声がずうっと響いていても、あるいは漫画のようにボールが飛んできて窓ガラスにひびが入っていても、特に騒ぎ立てるほどのことではない。家の中にゴキブリが出た時の方がよっぽど感情が乱される。 夜も夜、時計の針は21時を迎えようかという時間である。 ドン、ドン、ドンと、窓の外から何かを叩く音が聞こえだした。何か、というか、これは布団を叩く音に違いない。 土曜日。布団叩きにふ…

  • 空耳の時間

    田舎に住んでいるので、季節が変わると、特にこの時期は、虫が増える。 家の中でムカデの目撃情報があったり、アシダカグモがタララと廊下を駆けていたり、少し前は玄関の照明に羽アリが大量発生したり。 最近は、よく家にヤモリがでる。そう、サングラスをかけた、オールバックの、あの…… ? ちょ、 お前! それ!! ヤモリじゃなくて!!! ???? ヤモリじゃなくて!!! スペインの有名司会者、ガモリ・フランコやないかーい!!!! https://ja.wikipedia.org/wiki/Mr.%E3%82%AA%E3%82%AF%E3%83%AC 。 1.人気ブログランキング 2.人気ブログランキング …

  • 150/200

    今年もあと五か月足らず。もうほとんど年末です。 公開中の記事が150を超え、気に入らずに消した記事を含めると200を超えました。 毎日毎日嘘ばっかり考えて、こんなに続いたのは初めてです。 最近、旅行に行った記事を書いたら、普段の三倍近いアクセスがありました。それでも一日80足らずですが。 そして今日のアクセス数は7。な、ななな7? つまり、誰かの参考になる記事、役に立つ記事を書くというのがやはりアクセス数向上の正規ルートなんだなぁということがよくわかりました。 明日のネタをまだ決めてないそこの○○さん、○○○○さん、○○○さん。ウチの宣伝の記事でも書いてくれないかなぁ。もう人任せしかないよなぁ…

  • 無線騒動

    電子機器から発生した電波が空くうを走り、左右の耳に飛び込んだ。電波は音となり、鼓膜を震わせる。 無線技術というのはすごいもので、あっという間に普及して、今や安易に手の出せるような低価格で私たちの生活を豊かにしてくれている。 私はランニングやトレーニング時に音楽やラジオを聞くために、イヤホンを使用していた。初めは有線のモノを使っていたけれど、運動時にケーブルが体を這っているというのはどうしても邪魔になってしまって、時には誤って引き抜いてしまうこともある。 そういう経緯があって、無線タイプのイヤホンに乗り換えた。左右のイヤホンがケーブルで繋がっているタイプのものを買ったけれど、次第にそれすらも煩わ…

  • 【旅行編】与論島へGO その5

    五日目。最終日です。 恒例の朝活からスタート。近づいている台風の影響で、随分と波が強いです。なかなかアタリもありません。手を変え品を変え探っていると、一度だけドでかいアタリが。ぎゅんと竿を曲げ、スッと去っていきました。なんだったんだとルアーを確認してみると、フロントのフックが見事に折られていました。与論魚の意地を見せつけられた気がします。 計四日間に及ぶ朝活の結果は、二対ニということになります。アウェーで引き分けなら上出来でしょう。 民宿へ戻り、帰り支度を済ませ、十時ちょうどにチェックアウト。近くの土産屋へ立ち寄ってから、三日間お世話になったドミトリーに戻りました。併設のカフェのドアを開けると…

  • 【旅行編4】与論へGO その4

    四日目。 突然の覚醒。ハッと目が覚め時計を確認すると、時刻は朝の七時。寝坊です。そもそも、あれだけ酒を飲んで一時間後に起きられるわけがありません。例え起きられたとしても、寝不足が祟たたって後々体調を崩したり、怪我をするような事もありえたので起きられなくて正解だったと思います。 外に出て、歩いて近くの漁港へ向かうと、ここでもカスミアジの姿が見えました。しかも、小魚を捕食している様子。あぁ、こりゃ魚が呼んでるわ。急いで宿へ戻り、釣竿を準備します。ついでに寝ている三人の足をノックし、漁港で待ってるね、と声を掛けました。起こす約束をしていた(ような気がする)ので約束通りです。最低限の荷物だけを持って漁…

  • 【旅行編】与論へGO の3

    三日目。夜中に目が覚めてしまい、雨も降っていないようなのでどうせならと星を見に行きました。原付を走らせ人家や街灯の無い場所に来ると、これでもかという数の星が見えます。人差し指と親指で輪っかを作って上にかざすと、その中だけでも十以上の星が見えるでしょう。やってはいないのでわかりません。 満足して帰ると、ここから三日目の本番が始まります。昨日に続いての夜明け前釣行です。強風の中、約二十分ほど。 釣れました。昨日と同じ、カスミアジです。持ち帰って測ってみると、56センチでした。サイズアップ。 釣り場のアドバイスをくれた地元のおじちゃんに連絡をすると、喜んで貰ってくれました。釣れたら差し上げますと宣言…

  • 【旅行編】与論島へGO の2

    二日目です。 今朝は4時半、日が昇る前に起きました。 魚種にもよりますが、基本的に魚は陽が昇る時前後が釣れやすいのです。朝まづめと呼ばれています。 お星様も床に就いて真っ暗な中、前日のリサーチで決めたポイントへ原付を走らせました。フェリーターミナルの隣の、名もなき桟橋です。 東へ南へ西へ、反応を求めてあちらこちらへルアーをキャストしていると、突然大きな抵抗を感じました。 キタ。 思い切りフッキングをすると、ぎゃぎゃぎゃとリールが悲鳴を上げます。 ここで焦ってはいけません。必死になってハンドルを巻くと、魚も必死になって逃げようとするものです。 竿を立て、魚に気づかれないようにゆっくりとハンドルを…

  • 【旅行編】与論島へGO

    夏です。海です。与論島です。七月の頭に予定を立てていたものの、季節の変わり目の悪天候の影響で七月中旬に変更になり、さらに台風の影響で延期。学生がもう夏休みに入ったであろう七月三十一日、ようやく渡島することができました。 移動手段はフェリー。那覇からの乗船時間は五時間の予定でしたが、船のエンジンの不調のため五十分遅れでの到着となりました。 二割弱スピードを落としての運航です。この船の最終目的地は鹿児島県です。ただでさえ二十五時間かかるのに、二割速度を落とすとどれだけ時間がかかるのでしょう。四日五日は覚悟しないといけないかもしれません。そんなことはありません。 畳にマットレスが並んだ二等客室で雑魚…

  • 三百年も生きてりゃそりゃあ体も悲鳴をあげまさぁ

    「あ、あぁあ、あぁ〜」 力無い悲鳴は、獲物を求めて彷徨う蚊の羽音にかき消されるほど弱々しく地面を這う。 肩の調子が悪い。それは今に始まったことではなくて、思い返せば幼年期、高校時代まで遡ることになる。私はバレーボール部に所属していた。物心ついた頃からひょろ長い私は、その身長を生かそうと思ったわけでもなく、友人に付き合う形でバレーボール部に入部した。クラゲに毛が生えた程度の筋肉しか持ち合わせていなかった私は、サーブすらまともに打てなかった。しかし私も人間の端くれ。身体の使い方や重心移動、遠心力を駆使し、いつしか人並みにプレーができるようになった。二年三年と続けると、レギュラーメンバーになったりな…

  • 私が何気なく立てた人差し指を、どこかの民族は侮辱と捉えるかもしれない。だから私は人差し指を仕舞い、中指を立てるのだ

    フードコートのテーブル。健介と私たちは向かい合って腰掛けている。 健介の眉間には、円周率を表すギリシア文字のようなシワが寄っている。パイだ。「なにしてたんだよ」 健介は険しい顔で言う。非難を含んだ口調だ。「買い物だよ」「二人ともヒマしてたからね」 私が答え、葵も続いた。「そういうことじゃなくてさ……」 健介は依然硬い表情をしている。「誘われなくていじけてんの?」 私はまさに今思いついた予想を口にする。「なんでだよ。子供じゃないんだから」健介は渋い顔で答えた。「なんで……なんで手ぇ繋いでんの? おかしいだろ」「なんでって、なんで?」 首をかしげながら、私はテーブルの上に手を乗せた。同時に葵の手も…

  • にしきのあきらの衣装じゃないんだから

    脇がかゆい。 と言うと勘違いされてしまうかもしれないが、決して不潔なわけではない。むしろその逆だ。清潔感を得るため、わき毛を切ったのだ。私は脇を閉じていても噴きこぼれるぐらいわき毛が茂っていて、良く言えばアスファルトの隙間に根付くたんぽぽ、あるいはストリングカーテン、あるいはそうめん工場のようだ。 わき毛の多い人はそうでない人に比べて、ワキガである確率が高いという。現在の生活においてわき毛は不必要なので、もはや切る以外に選択肢はない。散髪用のはさみで、入浴前に不要なわき毛をカットした。それが良くなかった。切ったことで、わき毛の噴きこぼれは治まった。これならタンクトッパ―にもなれる。しかし、切っ…

  • 夜の温泉に全裸で入浴する、爆乳で性格もスタイルもいいサル

    お茶の水太郎の日記 7がつ25にち もくようび おじさんとマレーシァというところにきました。くあらるんプールというところにいて、ペトロナスツインタワーという大きなスカイツリーが二つくっついたたてものに上りました。高かったです。 どうしてマレーシァに来たかというと、ぼくが生まれたしまに帰るためです。 ぼくは気がついた時からずっとおきなわ県にいました。だけど本当はべつのところで生まれたそうです。それはマレーシァというところです。 本当はぼくはずっとおきなわにいたく思っています。だけどできません。どうしてかというと、ぼくが頭がいいからです。 ぼくはテングザルというしゅるいで、サルというしゅるいだと教…

  • 解脱せぇよ

    抜けられないライングループがあった。今や誰もが四肢に迫る勢いでラインというアプリを使っている。多分大げさではなくて、こちらがアクションを起こさなくても、何かしらの連絡がコンスタントに飛び交っている。中でもある一つのグループが、しばらく前から私を悩ませている。そのグループはかれこれ七年以上は続いていて、私が加入しているグループの中で最も長く、かつ最も高頻度で動いている。それはとある活動の連絡網として使われていて、しばらく前までは私も積極的に参加をしていた。予定の管理はもちろん、参加者のコミュニケーションや日常のたわいもない会話が飛び交うこともある。私にとってそのグループは生活の一部にもなっていた…

  • 君のママに出会った……僕のようにねぇ!!

    気になることはまだまだある。随分と前になるけれど、SMAPという団体が声を揃えて「失ったものはみんなみんな埋めてあげる」と言っていた。五人が五人、少し苦い顔をしていた。産道を抜けてまだ数千日の赤ん坊だった私は大いに恐怖したのを覚えている。 電車が止まり、目を瞑るとレールから残響が聞こえる。線路沿いのひっそりと静まり返った公園。街灯の間隔は広く、彼らの手の届かない暗闇に蠢くSMAPの五人。各々の手にはささくれ立った古いスコップが握られていて、ぐもぐもと穴が掘られていく。声を発するものはいない。彼らは約束を守るため、大きな穴を掘るのだ。「失ったものはみんなみんな埋めてあげる」どうしてあんなことを誓…

  • ちち、悩む

    「俺は何のために生きているんだ」 中山は嘆いていた。「何のために生きていると思ってたの?」 私は尋ねる。この手の疑問は誰にでも浮かぶもので、当然私自身も考えたことがある。「そんなの考えたことなかった。今まで」「じゃあなんで考えるようになったのさ」「お前が気楽そうに生きてるから。そんなの考えたことなさそうだ」「そんなことありませんわ」 中山は立派だ。大学を出て、新卒で入社した会社で今も務めている。二十半ばで始めて彼女ができて、数か月の交際の後に結婚。二人の子供もいる。 そんな彼に突如降ってきた疑問に、解決策はあるんだろうか。彼の顔を見るに、五分や十分前に思いついた悩みでもあるまい。「人生の意義と…

  • 世にも可愛い空気が奇妙で柔らか

    淡くて半透明な緑色の空気が、風船のように庭を漂っている。彼女の名前はアイリちゃん。 台風が過ぎ、風が弱まった日、私は潮でベトベトになった車の洗車をしていた。 流水で大まかな汚れを洗い流し、泡立てたスポンジで撫でる。それから丁寧にワックスを塗り込んで、拭き取る。その最中のことだった。 右腕に柔らかな感触があった。水中でクラゲが触れたような、柔らかで不確かな感触。 けれど、そこには何もない。夜道で蜘蛛の巣の感触を覚える時のようで、少し気持ちが悪い。 それを消すように、自分の右腕にシャワーを当てた。 それが多分、アイリちゃんとの初めての接触だ。 人間の適応能力というのは凄いものだなぁと思う。一度食べ…

  • 小松さんは伏し目

    「蚊はね、少しだけワープができるよ」 赤らんだ顔の小松さんは、宙に視線を漂わせる。 私は小松さんの視線を追って、赤茶色のペンキが塗られたバーの一角に顔を向けた。蚊が一匹飛んでいて、暖色の電球の下で消えたり現れたりしている。「ああ、見失うときありますもんね」「うん。ワープができるんだ」 小松はレッドアイをちびりと舐めて、険しい顔でグラスを睨んだ。 私と小松さんは大学のゼミが同じで、歳はひとつ上だけれど同じ学年で、私の方が先に卒業して就職した。彼と会ったのは卒業以来だ。 小松さんは院の博士課程に進んだ。今や私の与り知らない高さで日々研究を行っている。らしい。「ウチの研究室が亜空間移動に成功したのを…

  • 安楽死だってさ

    今週末に、参議院選挙がある。どこに入れても悪い事が起きそうな気がするので、選挙というのはとても難しい。まっとうな政党に投票したいけど、まっとうな政治を謳っている政党がまっとうである保証もない。だれもかれも悪人に見えてしまうけれど、その中でも極悪人に投票してしまうのは避けたい。どうせ入れるなら、役に立つ悪人に入れたい。ということでどこに入れようか少しだけ迷っているのだけど、投票するかどうかはさておきとても気になる政党がある。「安楽死制度を考える会」。その名の通り、安楽死制度を日本の法律に取り入れるために活動する団体らしい。安楽死ってなんだろう。安楽死には積極的安楽死と消極的安楽死があって、後者は…

  • すぐわかる創作故事成語

    「信者信しんじゃ しんを忘るべからず」 信じる者は信じることを忘れてはならない。 あるところに、ポー太という男がいた。 ポー太は常に幸せになる方法を考えていた。 何千何万もの問答を繰り返して、ポー太はついに真理に辿り着く。 信じること。「ただ信じること」こそが楽しみや喜び、そして幸せに繋がるのだ、と。 「そうです」突然目の前に現れた裸身の男は、ポー太にそう答えた。「そして、信じる者は救われるのです」「あなたは?」「神です」「嘘だ」 ポー太は死んだ。 宜しければワンクリックずつお願いします。 1.人気ブログランキング 2.人気ブログランキング - にほんブログ村

  • しょっかくを使う

    触覚の本を読んでいると、面白い実験が紹介されていた。 向き合った二人が、目を閉じて握手をする。そして、「相手の手を自分が握っている」と思うタイミングで、空いている手を上げる。この時、意図的に握る強さを変えてはいけない。この実験で何が起きるかというと、一方が手を上げている時、もう一方は手を下ろしているという。握手をするという条件がある以上、両方とも手を上げそうなものだが、そうはならないことが多いという。さらに面白いことに、握る強さを変えていないにもかかわらず、一方が手を下ろすと同時に、もう一方は手を上げるのだそうだ。 つまりお互いが「手を握っている」にも拘らず、一方が「自分が手を握っている」と感…

  • supernaturalにヤモって

    二分前まで、ヤモリを見ていた。 小さなヤモリだ。今はもう見ていない。カーテンの陰からひょっこりと現れたヤモリは、ぴこぴこ歩いてテレビの裏に消えていった。今も彼はテレビの裏にいるのかもしれないし、私の眼中を逃れた瞬間に消滅してしまったのかもしれない。 「そっちへ行かせてくれ」 無意識に呟いた。そして直後に驚く。どうしてそんなことを口走ったのか、自分でもわからない。だけど自分が放った言葉であるのは確かなようで、「れ」を発した名残が唇を留めている。疲れ果てた敗者の、諦めの言葉のようだった。 深層の心理がそう言わせたのかと考えてみるも、どうも納得ができない。現実を放棄したいほど疲弊してはいないはずだ。…

  • バッグ・バーガー・バーゲスト

    ハンバーガーが食べたい。肉が二枚で、真っ黄色のチーズが挟まったチーズバーガー。一口噛むごとに、ジャンクジャンクと音が鳴りそうな濃い味のバーガーを。バーガーショップの前を通ったわけでも、テレビで特集をしていたわけでもない。あいつのアイコンのせいだ。あいつがどこに何とコメントをしていたのかさえ覚えていないけれど、あいつのアイコンのチーズバーガーが強烈に目に残った。SNSのアイコンは、個人を識別するいわば顔のようなものだ。アニメ好きならアニメアイコン、鉄道好きなら車両がアイコンになっている。それがどうしてチーズバーガーなんだ。傾向からするとハンバーガーマニアなんだろうけど、そんな人がいることを知らな…

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