日本で初めてゾウの解剖をやったのは、帝大農科大学教授、田中宏こそである。 明治二十六年の幕が開いて早々だった。新年いきなり、上野動物園に於いてはその「花形」を失った。寄生虫症の悪化によって、ゾウが一頭、死んだのである。石油缶に湯を注ぎ、藁を被せて湯たんぽ代わりにしてやったりもしたのだが、今やすべては無為だった。 (上野公園前) 動物園では悲しみつつも、 「せめて学術参考に」 と、愛獣の死を最大限活かすべく、解剖の手筈を整える。 なにぶん日本で最初の試みであるということで、見学希望は引きも切らずであったとか。 そして、当日。 衆人環視の只中で、田中宏は汗みどろになっていた。 たいへんな悪戦苦闘だ…