花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第2節 ~ 『カフェ・ライトール』での出来事 その2 ~
トーレは、彼女があまり花を見ずに花束を置いたことで、少々残念な気持ちになったが、あまりその気持ちを出さずに、こちらも笑顔を見せた。 キャサリーンはトーレの心の動きを知ってか知らずか、早速に、右手を振って先ほどのフロア係の若い男を呼んだ。 「メニューをどうぞ」 フロア係の男はまずキャサリーンに、そしてトーレに黒い小さなメニューの冊子を手渡した。 (うっ、値段高い...) トーレはメニューの中を見て、一番値段が安いブレンドコーヒーでさえ7500リラで、アイスコーヒーが8000リラであることに目を丸くした。 「それじゃ、私はいつものレモンスカッシュで...トーレさんは何にする?」 屈託なくキャサリーンが注文したので、トーレも続いて、 「あ、じゃあアイスコーヒーで」 と注文し、メニューでレモンスカッシュが9000リラであることを確認した。 ..
こんにちは、こんばんは、お久しぶりです。 てぃねこです。 どうも物語の更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。 ちょっと、2つの病気にかかってしまい、病院の検査等に行くことが多く、 具合が悪かったために手が回りませんでした。ごめんなさい。 ・・・ また、今週の金曜日3月27日から更新を再開しますので、 よろしくお願いします。
花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第2節 ~ 『カフェ・ライトール』での出来事 その1 ~
バルコニーの中で最も見晴らしの良い席は、高価な四角いチーク材のテーブルと四つの椅子席であったが、トーレは海が正面に見え、かつ店の屋内の方に背を向けた位置の椅子に座った。 そしてキャサリーンに渡す花束を道路側の右手の椅子の上に置き、キャサリーンには自分の左側に座ってもらったらいいなと思いつつ待っていた。 トーレはそれから少しの間、いろいろと空想を巡らせつつ、穏やかな5月の青い海を見ながらキャサリーンの登場を待っていた。 トーレが父の形見である懐中時計を背広の懐から取り出すと10時5分を指していた。 (女の子だから、いろいろと時間がかかるんだろうな) トーレがそんなことを考えていると、自分の背後の店内の出入り口から先ほどのフロア係の若い男の声が聞こえた。 「あちらの席でございます。キャサリーン様」 トーレが椅子から立ち上がり後ろを向くと、そこには圧..
花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その4 ~
「あー、そこの瓶の花だけど、アンゲラが持ってきたのかい?」 「...ええ、今朝、来るときに海の見える丘の道の脇に咲いていて、綺麗だったから店に飾ろうと持ってきたの?、、、それが何か?」 「いや...綺麗な花だなーと思って...」 トーレの言葉にアンゲラは少し顔を赤らめた。 「花屋で売っている花は確かに形も整っていて綺麗だけど...」 アンゲラはモップを左肩にもたれさせて、両手の指先をちょっと絡めながらトーレを見た。 「野に咲く花も綺麗ですよね?」 「ああ、そうだね。何だか元気で、野性味があって、生き生きとしているね!」 トーレの言葉にアンゲラは少しだけ複雑な表情をしたが、すぐに微笑み元気に言葉を返した。 「野性味...そうですよね!野に咲く花ですものね」 「あ...そろそろ、行かないと。打合せに遅れたら失礼だからね」 ト..
花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その3 ~
二輪の花の影から現れた小人は白いミニスカートのドレスを着ており、肌は白く、髪は白だがわずかに青みがかっていて、妖精のように綺麗な女の子で、背丈は5cmくらいであった。 そして、器用に右手で黄色い花の茎につかまりながら、ガラスの小瓶の縁をゆっくりと歩いてトーレの目の前に姿を現した。 とても非現実的な状況ではあったが、妖精の女の子の可愛らしさのためか恐怖は微塵も感じることは無く、トーレはその小さな女の子をジィッと見つめた。 すると女の子は、これからトーレが行く『カフェ・ライトール』の方角を指した後に、左手の人差し指を左右に振り(ダメ!)のサインをした。 「え?カフェの方角がダメってこと?」 トーレが思わず口に出すと、女の子は軽くウンと頷いた。 (え?これって、キャサリーンさんとの打ち合わせがダメってことなのかな?) トーレがそう思った途端に、今度は..
花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その2 ~
「...あれだけ大きな看板を描いてもらうほどの予算は無いが、、、近いうちにうちの店の小さな看板にも何か描いてもらおうかな?、、、君のところの親方に話してみるよ!トーレ君をご指名でな!」 ルッジエロはそう言うとトーレの肩を大きな手のひらでポンと叩くと、料理の下ごしらえをするために厨房に戻っていった。 「ありがとうございます!ルッジエロさん!」 トーレは自分の描いた看板を、またも人に褒めてもらえて心が高揚してきた。 (なんだか今日はついているな!...これは、もしかしたら、いい流れになるかもしれない) トーレの心は10時からのキャサリーンとの打ち合わせにいろいろと想像をめぐらし始めた。 「〇×△※...あの、トーレさん?...」 ふと気が付くと目の前にアンゲラがモップを持って立っていた。 何かトーレに話かけたらしい。 「え?!...あ、アンゲラ?..
花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節 ~ 野に咲く花 その1 ~
「あら、トーレさん。おはようございます! 早いですね」 アンゲラは持ち前の明るさで、先にトーレに挨拶してきた。 「やあ!アンゲラ。今日も朝から良く働いているね」 トーレもすぐに挨拶を返した。 「...その花束は?!どうしたんですか?」 アンゲラは坂の上まで上がってきたトーレを見て、目を輝かしつつ言った。 「あ、ああ...これは、バントールのキャサリーンさんと10時から打ち合わせなんで、お店の改装記念に渡そうと思うんだ」 トーレはそう言いながら花束を持った左手をちょっと振り上げた。 「...あ、そうなんですね...」 アンゲラはちょっと落胆したように応じたが、すぐに気を取り直して__ 「待ち合わせが10時だと、まだ40分以上ありますよ? それまで日向にいたら花が萎れてしまいます...うちの店は開店が11時だけど、10時まで店の中で待っていませんか..
花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~ その2
プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~ その2 「あ、、、えーと25000リラで作ってもらいたいんですけど...」 普段、花束など買ったことの無いトーレは、店主にお任せという感じで答えた。 「あら、ずいぶんと張り込んだわね...そうね...」 そう言うとロジーナは薔薇やカーネーションを中心に切り花を集めだした...そして、 「じゃあちょっと、おまけして、こんな感じでどうかしら?」 ロジーナは、ピンクの薔薇と赤のカーネーション、白いカスミソウで可愛らしくもボリュームのある形に仕上げ、切り口に水を染み込ませた薄布を巻き、手で持つ部分には可愛いピンク色のリボンを巻いてトーレに手渡した。 「はい、薔薇とカーネーションの本数をちょっとおまけしといたわ。ボリューム出たでしょう? 日射しが強くなってきたから、花束を下に向けて持って、日光に当てないように注意してね?」 ..
花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 プロローグ その1
プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~ その1 トーレの心はウキウキだった。 なぜなら、昨日の昼間に嬉しいことが立て続けに二つも起こったからである。 一つ目は、自分がまるまる三日間かけて手掛けていた『よろずストア・バントール』の大幅な改装を宣伝するための大きな看板の絵の製作が、期日の土曜日を前に何とかギリギリ金曜日の夕方に仕上がったことであり、自分としても時間をかけただけあって納得のいく出来映えであった。 二つ目は『よろずストア・バントール』の主人の一人娘キャサリーンに看板の出来を褒めてもらえ、いろいろと会話が出来たことで、さらに「トーレさんに折り入って頼みがあるの」という彼女からの言葉で、今日の土曜日の午前10時に『カフェ・ライトール』で待ち合わせていることである。 トーレは港町のボーリで毎週土曜の朝9時に開かれる市場に小さな花屋が出店することを思い出し、..
「花の妖精フローラ」第一話 繰り返す思い出 最終節 エピローグ
時は流れ5年経ち、僕たち家族三人は、例の『はればれ高原』に来ていた。 僕は年季の入った愛用のデジタル一眼レフカメラをまだ使っており、今日は3歳になった娘のポートレートを主に撮っていた。 妻の百合菜は娘の真奈菜《まなな》の後ろで娘が転ばないように見守っており、僕は少し離れたところからお花畑と一緒に立ち姿の真奈菜を撮っていた。 そのとき、真奈菜が急にしゃがみ込み、何かを見つめているようだった。 「何を見てるの?真奈菜」 妻の百合菜が娘の後ろから娘が見ているものを覗きこみ、ハッとしたような顔になり、僕に手招きをした。 なんだろう?と思いつつ、僕は妻の横に来て同じようにしゃがみ込み、二人が見ている方向を見た。 そこには、5年前に見たのと同じ妖精の少女が、やはり薄紫の花びらの下の葉に座っていたんだ! 薄緑色のワンピースで、髪の毛は濃い黄緑色で、足は素足..
僕はそこから車で20分ほどの自分の家につくと、今さっき食事をしたばかりなので、 (今晩の夕食はいらないかな?) と思いつつ、まずは風呂にでも入ろうと風呂を沸かし、待っている間に、デジタル一眼レフの画像データをUSBケーブルで起動したパソコンに取り込んだ。 そして、例の妖精の画像をパソコンの画面で拡大して見ようとしたが、 「あれ?転送ミスった?」 例の薄紫の花の写真の下の葉は、葉っぱだけで他に何も写っていなかった。 その薄紫の花の写真は全部で4枚で、最初の1枚が試し撮りで、2枚目が妖精が写っていたもの、3枚目が妖精の髪と手だけが写っていたもので、4枚目は普通に花だけのはずであった。 ...それが、4枚ともに花だけで、妖精の姿はどこにも写っていなかった! それは、元のデジタル一眼レフカメラの中の画像もそうであった。 「そんな...!まさか幻を見た..
「百合菜、こんなタイミングで言うのは、ちょっと突然かもしれないけれど...」 僕はドキドキしながらも思い切って続けた。 「僕と結婚してください!一緒になって欲しい...だからSEにならずに今のままプログラマーで、仕事もできれば軽くして欲しいんだ。その代わり僕が一生懸命働くよ!」 彼女は僕の返答に少し驚いたようであったが、顔には嬉しさが浮かんでいるように見えた。 「わかったわ...少し、考えさせてくれる?返事するから」 百合菜はちょっと上目遣いで、僕の目を見てそう言った。 僕はドキドキの中で、 「うん。わかった。待っているよ」 と答えた。 「ねぇ、光一。あなたの服の取り合わせ、まだまだ、だよね?今度の日曜に、ヨネクロに服選びに行こうか?私が選んであげるから」 百合菜がいきなり話を変えてきたので、僕はちょっと狐につままれたような感じになったが..
スペシャルサンドを見て百合菜が「食べてもいい?」と聞いてきたので、「ああ、僕もたべるよ」と返し、彼女はスペシャルサンドセットのミニサラダを一口食べた後、チキンカツが挟まったサンドイッチをおもむろに頬張った。 僕も負けじとオニオンバーガーセットのポテトを1本つまんで食べ、同じように厚めのオニオンフライとハンバーグが挟まったバーガーに噛《かじ》り付いた。 二人ともお昼を食べていなかった(彼女にいたっては朝も抜き)ので、彼女はサンドイッチを丸ごと1つ、僕は大きめのバーガーを半分ほど食べ終わるまではお互い無言であった。 お互いに食べる作業がちょっと一段落し、アイスコーヒーに彼女はガムシロップとミルクを両方、僕はミルクだけ入れて一口二口飲んだ後に、まず彼女が言った。 「受けたほうがいいってこと?」 「ああ。詳しくは知らないけど、SEになれば給与もあがるんじゃないか..
「...私も今日はとっても変な話をするんだけど、」 百合菜は前置きして言った。 「もし、あなたがこの妖精の写真を撮らなかったら、私に電話してこなかったんじゃない?」 (あ...) 僕は一瞬、絶句してしまった。 確かにそうだったかもしれない。と思った。 「ごめん。そうだったかもしれない」 僕は素直に彼女の言葉を認めた。 「私ね、最近、仕事が忙しい忙しいとあなたに言ってたけれど、あなたも結構それを鵜呑みにして、私にあまり連絡してこなくなったよね?...それで、今朝も、私こうして休みなんだけれど、あなたと私ってこれからどうなっていくのかな?なんて思っていたの」 彼女は少々伏し目がちであるが、ちらちらと僕の方を見ていった。 僕は話の成り行きにちょっとドキドキしながら返事をした。 「そうか、そうだね。ちょっと僕も君に連絡することを怠けていたのかもしれ..
「えっ?本当?」 逆に僕は驚き、彼女が指し示した画像の部分を良く見てみた。 すると、妖精の女の子が下に飛び降りている瞬間を捉えたようで、女の子の黄緑の髪と上に伸ばした両腕の一部が画面の下に写っていた。 「飛び降りたのか!」 驚いている僕の顔を彼女はじっと見ていた。 「その様子じゃ、どうも本当のようね」 百合菜はそう言うと、少し笑った。 「最初に見たときはあなたが作ったCGの合成かと一瞬思ったけど、拡大してもとっても自然な画像で、しかも1枚後の写真にあなたは気づいていなかったし」 「おいおい、なんだか探偵みたいだな」 百合菜の洞察力に僕はちょっとどぎまぎとしていた。 そのとき、お店のスタッフの女の子が僕たちが座るテーブルに近づいてきた。 「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」 「あ、ごめんなさい。今から決めるのでちょっと..
駅前の時計台の針は3時55分を指していた。 結構ギリギリに到着したが、何とか間に合った。 僕が車を『キミダ』喫茶店の駐車場に停めたのは3時58分であった。 早速、店の中に入った僕は、よく彼女と座っていた窓際の席を選び、お店のスタッフの女の子に、連れが間もなく来るから注文は後でと伝えて、スマフォでLINEを見た。 『今、家出るところ』4時00分 百合菜からだった。 『キミダで待ってる』 返事を返した。 『わかった』4時01分 そして5分程すると、店の扉がカランと音を立てて開かれ、ブラウスにスカート、薄手のカーディガンを羽織った百合菜が姿を現した。 彼女は僕を見つけるとゆっくりと近づいてきて、僕の正面に座り、開口一番「疲れたー」と言って両手を下にして一旦顔をテーブルに突っ伏して、それからゆっくりと頭をもたげて左手で頬杖をつきながら僕の..
すると、意外にも話が合い、趣味に関しても、登山をすること(僕はハイキング程度だけど)、美術館で絵や彫刻を見ること、弦楽のミニコンサートを聴くこと、など...結構共通点が多かった。 それから休みの日の度に会って、いろいろなところに出かけたな...そう言えば最近は彼女の仕事が忙しいこともあって、休日に会う機会がめっきり減ってきている。 そういえば今日の日曜も仕事が入りそうだと先々週に彼女は言っていたけれど、今現在はどうなんだろう? 仕事中だったら悪いな。でも、もしかしたら休みを取っているかもしれない。 僕はその場で彼女に電話を掛けた。 LINEやメールでも良かったかもしれないけれど、今の僕は直接彼女と話しがしたかった。 8回程の呼び出し音の後に彼女がでた。 「光一だけど、百合菜は今、仕事中かい?」 「ううん、違うよ。今日は休みをもらえたの。今、家で..
こんばんは、長い間、制作していた和服がようやく完成しました。 今は1号体の和服だけですので、時間を見て0号体の和服も作って いきたいです。 そして、その次は、ぜひ、新しい人形と袴姿にも挑戦してみたいです!
女の子の髪の毛は濃い黄緑色で、足は素足で靴を履いていなかった。 僕はたぶんこの花を撮るときに、花にピントをあわせるべく、いろいろとカメラの操作をしていたので、その場では気が付かなかったんだと思う。 しかも、その女の子が写っていたのはそれ1枚きりだったので、ますます撮影のときには気が付かなかったんだろうと思う。 (これって、もしかすると花の妖精なんじゃないか?) 僕はデジタル一眼レフのカメラの機能を使って、その妖精(?)の女の子を拡大してみた。 すると、カメラの方を見て、わずかに微笑んでいるのが見て取れた。 (えっ?!これって、カメラを意識している?) 僕は更に驚いて、この事実を誰かに伝えたくなった。 (インスタに、この状況と一緒に投稿するか?...あー、でも、それだと単にCGの合成写真としか思われないかもしれないな...) ..
そして、今日はここ『はればれ高原』の野原を散策している訳なんだ。 いかにも雨が降りそうなどんよりとした曇り空なので、この高原を訪れている人もまばらで、気分的にものんびりしているんだ。 そう、僕はどうも人混みや雑踏が苦手で、観光地でも有名なところだと景色はいいのだけれど、何しろ人が多くて気疲れしてしまうんだ。 え?今日も一人で散策かって? ああ、一人で散策することがほとんどだね。 以前、彼女と二人で散策したことがあったけれど、僕があんまりカメラであちこちと小さい被写体ばかり撮るものだから飽きられてしまってね。それ以来一緒には行っていないんだ。 彼女の仕事は別の会社のプログラマーなんだけれど、最近は仕事が結構忙しいらしく、あまり頻繁に会うことができないんだ。 時々会うのは、もっぱら週末の金曜か土曜の夜に、お互いの仕事がちょうど終わった後で、職場近くの居酒..
こんばんは、てぃねこです。 今日から毎週金曜日の夜に物語を更新していきます。 タイトルは「花の妖精フローラ 第一話 繰り返す思い出」 です。 それでは、どうぞ、お読みください。 ーーーーーーーー この梅雨の季節に野原を歩いていると、多く見かけるのは名も知れぬ野草の黄色や白の小さな花たちだ。 しかし、時折、そんな花の群れの中に小さな青い花を見つけることがある。 青といっても、それほど鮮やかな青ではなく、どちらかというとちょっとくすんだ薄い青だ。 僕はそんなあまり目立たない小さな青い花に心惹かれる。 え?僕の名前? 僕の名前は『楡島《にれじま》 光一』、古めかしい名前だねと良く言われるけれど、自分としてはそうは思わないし、むしろこの名前が気に入っているくらいだ。 え?僕の年? これでもまだ28歳だ。これでもというのは結..
デイテュラント帝国東部のシュベルトの町で起きた軍事侵攻の事件については、その後、政府による調査、新聞記者の取材、元ゲリマンの爪の将校に対する聞き取り等で、事の真相が次第に明らかになり、デイテュラント帝国を危機から救った魔女族、鬼人族、狼人族への関心や畏敬の念が高まり、新法案にて正式に自治区として独立することとなった。 もちろんデイテュラント帝国の中には反対する人々もわずかにはいたのだが... また、今回の事件で、マリーは結局その素性を明らかにすることはなかったので、マリー個人の名前が表に出ることはなかった。 ところで、マリーとラウラの精神体は軍事侵攻が終わった12日の昼には故郷のヴィルレーデ村に戻ったが、精神と肉体に対する極端な負担のためにラウラの身体は回復するのに1週間近くかかってしまった。 また、これは後の話であるが、帝国陸軍本部で精神体を入れ替えさ..
突然の砲撃が始まったのは12日の未明のことであった。 デイテュラント帝国陸軍の戦車中隊がシュベルトの町へ続く道への進行を開始するのは12日の夜明けの命令であったが、それよりもわずかに早くボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊は動き始めたのである。 ラッシア国のタル34戦車の大砲塔からの砲撃は国境線をまたいで、デイテュラント帝国陸軍のパンサー戦車に浴びせられ、中隊は大混乱に陥った。 また、タル12対戦車砲からの砲弾が垂直に近い着弾により、パンサー戦車の上部ハッチの薄い装甲を貫通し爆裂し、何台もの戦車が戦闘不能となった。 ボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊はそのまま国境線を越え、デイテュラント帝国内に侵入し、そのままシュベルトの町へと侵攻を開始した。 この事態に驚いたデイテュラント帝国陸軍のクッシュ中佐はすぐさまヘルフリート少将に連絡を取り指示を仰いだ..
ラッシア国の首都モルダワにあるコラムレーン宮殿の指令室(王の部屋)で、スタルン総司令は、同盟国であるボルソーカ国の国境線に近い領域で、陸軍の戦車部隊を展開させているデイテュラント国の行動の真意を測りかねていた。 (ボルソーカ国国境線にいる我国の戦車部隊からの連絡によれば、デイテュラント国の戦車部隊は自国の方向に砲塔を向けているというが...ボルソーカ国の国境線を超えて侵攻するつもりは無いのか?) スタルン総司令が思考を巡らしていると、部屋のドアがノックされた。 「スタルン総司令殿。ロプコフです。お伝えしたいことがあります」 「入り給え。ロプコフ大佐」 ドアが開かれ、軍服姿の男が入ってきた。 当然、ドアの左右にはスタルンお抱えの護衛の兵士が立っているのである。 「スタルン総司令殿。デイテュラント国に潜入しているカグベ特殊工作員からの連絡です」 ..
師匠のラウラが提案した計画は大きなリスクを伴うもので、確かにある程度の人の犠牲が予想された。 だが、現状のまま、魔女族、鬼人族、狼人族と帝国陸軍との間で内戦が勃発すれば双方の死傷者の数は比べ物にならない程増え、最終的に魔女族、鬼人族、狼人族の大量虐殺に至る可能性もある。 マリーは、ラウラの計画の詳細の是非を一つ一つ確認し、納得するに至った。 「わかりました。師匠」 ついにマリーは決断した。 「そうと決めたら、また私は飛ばなければなりません」 マリーは強い意志でラウラとエルケにそう伝えた。 「マリー」 ラウラは自分で提案した計画であったが、かなりの後ろめたさを感じていた。 「すべての事の成り行きをお前の力に任せてしまうことになる」 ラウラは言葉を続けた。 「もしかすると、私の命だけでなく、お前の命も危うくなるかもしれん。私にできる..
砲弾のように飛ぶマリーの精神体は、夜の帳《とばり》が下りた空を、西へ、西へと向かっていた。 透明だがわずかに青く光輝くその姿は、魔法の心得がある者が見たならば、あたかも大天使のように見えたことだろう。 (なんとかしなければ...明日11日の夕刻までに!) マリーはシュべルトの町の古いホテルでレオンが言った言葉を思い出していた___ 『マリー。君は戦いを避けたいようだけど、君が見てきたように、もう敵は戦いを避けてはくれない...もし、君が良い方策を思いつかなければ、僕らは明日11日の夕刻には敵の中隊に向かって魔法の幻影を見せて対抗しなければならない...待てるのはそこまでだ。それを過ぎたらもう僕らの邪魔はしないで欲しい...わかるよね?僕らは戦いを選択したんだ。僕も君のパパ達を傷つけたくはないんだ...』 (わかっている...でも、どうしたらいいんだろう..
皆様こんにちは、てぃねこです。 球体関節人形1号体用の着物の製作に着手しました。 とりあえず仮縫いの状態です。 和服の生地は大塚屋で購入しました。 今後も、すこしずつ前進していきます。 それでは、また。
シュべルトの町へのVV親衛隊の襲撃が失敗に終わってから2日目の10日の夕陽が沈むころ、フランツとカーヤは古いホテルの半地下にある別々の部屋に軟禁状態となっていた。 半地下なので、部屋の高いところにある鉄格子のはまった窓からは夕陽の赤暗い光が差し込んでいた。 部屋の中にトイレやバスルームはあるものの、部屋のドアには鍵がかけられ、食事は日に2度、ドアの下の小さな扉から固いライ麦パンとミルクという質素な食事が差し出されるだけであった。 (これから...どうなっていくのだろう?...我々はもはや人質の意味はなさないと思うが...) ___『パパ!』___ 窓の方を見ていたフランツは、突然の声にハッとして思わず後ろを振り向いた。 そこには___その空中には、薄青い半透明の一人の少女が浮かんでいた___ 「マ、マリー!」 フランツは驚きの声を上げ、..
エレベータに乗ったリーフマン大尉は地下2階へと向かったが、その中には薄青い透明色の精神体のマリーも一緒であった。 ただ、その精神体は通常の人間には見ることはできず、魔法の力を持った者にしか見えなかった。 地下2階で降りたリーフマンは左手に進み、そのあと右手に曲がると、目的の留置場が見え、入り口の鉄格子の前には一人の警備兵が椅子に座っていたが、リーフマンの姿を見ると立ち上がり慌てて敬礼のポーズを取った。 「2号房の脱走兵に尋問する。開けてくれ!」 リーフマンの言葉に、警備兵は急ぎ留置場に通じる鍵を開け、鉄格子の扉を開くとリーフマンを入れて、そのあとは中にいる警備兵にバトンタッチした。 中にいた警備兵は急ぎ2号房の鉄格子の小さな扉を開け、房の中央にある金属の椅子に後ろ手で両手を手錠で固定され、また両足首も足枷で拘束されている女のところに行き、その拘束具合を確..
「徒然なるままに書く日記」____ 本日から不定期に、「日記」というか「つぶやき記録」というか、そのような類の文章を書いていこうと思います。 多少、私見の多い文章となってしまうと思いますが、その点は、あくまでも個人の日記ということでご容赦願います。 それでは、お時間のある方はどうぞお読みください。 ●2019年9月13日(金) 本日は、とりあえず、三種類の文章を書いていこうと思っています。 第一番はちょっと堅い作文的文章、第二番は多少論文的な文章、第三番はかなり砕けた文章、という構成となっています。 <第一番> 本日は仕事で休みを取り、家の駐車場と前の道路との間に生えている雑草をむしり取る作業を行ったのですが、雑草を手でむしり取る動作は結構大変で、やっているうちに次第に汗ばんできて、やがて身体の周りをやぶ蚊がブンブンと飛び回る状態となってしまいまし..
皆さん、こんにちは、てぃねこです。 球体関節人形0号体が出来上がりました。 ...苦節、2年半...なんとか( ;∀;) でも、そのうち半年以上は複製作りで、石膏の型を 作り、この人形の複製を作ったのですが、あまりうまく いかず、頭部だけで諦めました。 石膏の取り扱いは難しいですね... また、元の人形の形状もあまり良くなかったです。 型を取るのであれば、そのように設計して作らないと ダメであることがわかりました。 まがりなりにも、とりあえず、人形は2体出来たので、 あとは、和服を作っていこうと思います。 でも、将来的には、もっとコンパクトな球体関節人形を 作って服作りをしていきたいです。 それでは...現段階のレポートでした。
「何っ!壊滅させられただと?!」 ヘルフリート議員は驚きと怒りのあまり、黒い電話機の受話器を掴む指が小刻みに震えた。 彼こそ、ファシーズ党の最右翼の派閥である『ゲリマンの爪』派の代表であり、かつ、帝国陸軍の少将の地位にもあり、今回視察団が訪問したシュべルトの町にVV親衛隊を送り込んだ張本人でもあった。 『そ、そうです!ヘルフリート少将殿』 電話の相手は帝国陸軍VV親衛隊の記録員の男であり、こちらの声も電話機の向こう側で震えていた。 『私が双眼鏡で確認した限りでは、隊員達は誰もいない方角に向かって一斉に射撃を行い、その少し後に、、、今度は慌てて銃を乱射し始めて!、、、そればかりか、今度は味方同士で銃を撃ち合い、最後に残った一人はどこかから狙撃されて8名全員が倒されました!』 VV親衛隊の記録員の報告を聞いたヘルフリートは、電話機と受話器を持ったまま、黒い牛皮の..
マリーは質素だが手の込んだなベッド上で月曜の午後はずっと目を閉じうつらうつらとしていた。 (...なんだろう?この胸の奥に輝いて回転する青い宝石は?...ラウラ師匠は、私の本当の力の根源が結晶化したものだと言っていたけれど...実際に胸の奥に宝石が入っているわけではない...でも、ハッキリと見える!...この宝石は私の一部なの?) そのとき、マリーの精神の大部分が、自分でもはっきりとわかるほどに自分の身体と分離し、自分の身体を天井から見下ろしていることに気が付いた。 (え!?これって魂が身体から抜け出たの?、、、いえ、、、違うわ。それとは違う!分かる。分かるわ!、、、自分の精神の一部分はまだ、あの身体の中にある!) 彼女が思う通り、彼女が見下ろす身体は穏やかな寝息を立てて、軽く寝返りを打った。 (そう...身体に必要な最低限の精神は、あの身体に残って、今、..
こんにちは、暑い日がまだ続きますが、 皆様お元気でお過ごしでしょうか? 球体関節人形1号体が、苦節1年あまりかけて...ようやく、 ようやく、髪も植えて、身体が出来上がりました。 何分、初めての制作なので、出来栄えは......ですが.... 来月からは、いよいよ、和服を作っていく予定です。 人形作りよりも、すっかり、物語作りがメインになってしまいましたが... また、いずれ、途中経過を報告します。 p.s. 0号体は別の場所で髪が植えられるのを気長に待っております。
鬼人族の女[ヴァネサ]との情事の後に、フランツはうつ伏せに寝ている彼女の傍らで半身を起こし、窓の厚いカーテンを少しだけ開け、月明かりの青黒い闇に目を凝らしていた。 (しかし...妙なことになってしまった...これでは、マリーやルイーゼに申し訳が立たないな...カーヤにも...カーヤはザスキアに操られているように見えたが...彼女の意思はどこまで表れているのだろう?) フランツがそこまで考えたときに、レオンの強力な精神の触手がフランツの頭に飛び込んできた。 『フランツさん。それでは、あなたにも戦場の現場を見せてあげましょう!心配はいりません。あなたの隣にいるヴァネサにはあなたの体を見守るように伝えてありますから』 フランツはレオンに、自分達の情事を盗み見られたのではないかと思い、顔から火が出るような思いにかられたが、レオンはさりげなく、その考えをかわした。 ..
第8章 戦慄の魔法兄妹 その9 「ブルクハルト王子...それは、もしやザスキアのことですか?」 フランツは少々驚いて尋ねた。 「...ええ。その通りですよ。フランツさん。私とザスキアとは、軍の中では上司と部下ですが、 それ以外では恋人関係とも言えますが...」 そこでブルクハルトは言い淀んだが続けて、 「何しろ、彼女は自由人で、こういった浮気は結構あってね...まあ、私も、似たようなところは ありますが...もう、慣れましたよ」 と、そこまで言うと指を鳴らした。 すると、また給仕の二人の女性が現れ、ブルクハルトとフランツがほぼ食べ終えたメインディッシュの皿を下げると、続けて食後のウィンナコーヒーを運んで来た。 そして、二人の前にコーヒーのカップを置くと、厨房に戻らずに、そのまま二人の椅子の横に 一人ずつ立ったのであった。 ブルクハル..
第8章 戦慄の魔法兄妹 その8 「僕とレオナの二人で応戦しますよ」 レオンが答え、それに対してレオナも頷いた。 「二人だけで?」 フランツはいぶかしげに尋ねた。 「...フランツさん。僕たちの力をあなどってはいけませんよ?今まであなたにお見せしたものは、ほんの小手調べです。本番の戦いのときには...あなたの頭に戦いのイメージを送りましょう」 「そうよ!レオン兄さんは凄いんだから!」 レオナが追いかけるように付け足した。 「情報によれば」とブルクハルト。 「敵の奇襲は明日の未明、朝の4時だとのことです...それまでは、フランツさん。お部屋でゆっくりとお休みください...時間がくればハウスキーパーの女が起こしに行きます」 「...私のことは拘束しないのですか?」 「あなたは逃げたり、下手な抵抗をする人ではないでしょう。もっとも逃げるこ..
第8章 戦慄の魔法兄妹 その7 フランツ達4人にメインディッシュが運ばれてきた。 運んできたのはレオナと二人の大人の若い女性の給仕、そして、もう一人は何と地下に行ったはずのレオンであった。 「お待たせしました。羊と鹿のヴルストとザワークラウトです」 レオンは楽しそうにフランツに対して給仕し、カーヤにはレオナが給仕した。 「『魔の帝王』レオン。視察団の彼らは今どうしているんだ?」 フランツはレオンにストレートに尋ねた。 「ああ、フランツさん。『魔の帝王』は余計です。レオンでいいですよ。ええ、彼らはそれぞれ楽しんでいます」 レオンは歌うように楽し気に言った。 「ロータル議員、エッボ議員、ディーターさんとユルゲンさんは二人の美女と夜のラウンジでお酒を飲みながら政治関連の話で談笑しています...ヨーゼフ博士とアウグスト神父は昼間のカフェで、こちらも二人..
青い炎と人形の物語 第8章 戦慄の魔法兄妹 その6 「そこから先は、私に説明させて!ザスキア姉さん」 『魔の女王』レオナは、再びフランツとザスキアの前に現れた。 「『歯立ての儀式』はね。フランツさん。どうしても仲間に引き入れたい場合にも使うことがあるのよ。ザスキア姉さんはそれをしたかった」 レオナの言葉にザスキアは、 「まぁ。『魔の女王』様はおませだこと」 と一言だけ返して、グラスの中の白ワインを飲み干した。 レオナはそんなザスキアを横目で睨むように見つつ言った。 「...ところで、フランツさんとカーヤさんの会話や強い思考については、バルリンのホテルに滞在していたときから全て聞かせてもらったわ」 「えっ?!...もしや人形が」 フランツははたと思い当たった。 「そう。その通り。あなた方が受け取ったマトリューシアには、私達の先祖の..
青い炎と人形の物語 第8章 その5 第8章 戦慄の魔法兄妹 その5 フランツはディナーの間にできる限り情報収集に努めようとした。 「『魔の女王』レオナ。君もザスキアと同じく鬼人と魔女のハーフなのかい?」 「ふふふ。フランツさん。12歳の私に女王というのは抵抗があるでしょ?レオナでいいわよ」 相変わらず、大人のようなレオナの返答であったが、その直後、何かの獣の成分のような香水の香りと、前頭と鼻腔の奥にビシッと放電が走ったような感覚がした。 しかし、フランツ自身は特にそれ以上の変化を感じなかった。 すると、メインディッシュは、まだこれからのはずであるが、皆がにこやかに立ち上がり、食堂の入口に現れた12歳くらいの少年の方に近寄り、皆挨拶や握手を交わした。 その挨拶の仕方はどう聞いても、相手が大人の有力者であるような接し方であった。 「フランツ君。..
第8章 戦慄の魔法兄妹 その4 『これが、最期の晩餐《ディナー》になるのだから、ゆっくり召し上がってくださいね?』 給仕の少女の一言はフランツの頭を混乱させた。 (どういうことだ!?...最期の晩餐とは?...もしや、我々は捕らわれの身となるんじゃないか?) フランツはグラスの中の純粋な炭酸水を飲み、混乱した頭の整理にかかった。 (落ち着け!フランツ!...あの少女が、もし魔女で、そう告げたのだとしたら、すでに我々は視察団という名の人質として迎えられていることになる!...逃げることはできないだろう...後は我々の処遇がどうなるかだが?) フランツは味もわからぬままにスープを急いでスプーンで飲み始めたが、左となりに座るディーターが小声で話かけてきた。 「あの、フランツ先生...」 「...えっ!?ああ、ディーターさん。何か?」 フランツはあわ..
第8章 戦慄の魔法兄妹 その3 いきなりヨーゼフ博士に強烈な一言を浴びせかけれたアウグスト神父は、若干の苛立ちと怒りを覚えたが、そこは聖職者らしく威厳を持って答えた。 「左様です。ヨーゼフ博士...皆さん今晩は、帝国教会神父のアウグスト・ホーエンローエ・ジーゲルトです」 アウグスト神父の眼鏡も丸かったが、その厚みはヨーゼフのものよりだいぶ薄く、口元の髭は綺麗に剃ってあった。 「さて、我々教会の聖職者としては、民衆の不安に何よりも耳を傾けなければなりません。鬼人族と狼人族、そして魔女族と呼ばれる人々については、いまだに様々な事件の情報が教会に寄せられています。ニュースとなるような大きな事件ではありませんが、人々の不安には根強いものがあります」 アウグスト神父の最後は落ち着いた言い回しに対して、ヨーゼフ博士も落ち着き払って答えを返した。 「長くなりそうなので..
第8章 戦慄の魔法兄妹 その2 夕食の時間になり、視察団一行は三々五々、食堂へと集まってきた。 しかし、大きな長方形のテーブルは8人掛けで、テーブルの長い辺の片側にはファシーズ党のエッボ議員、帝国教会のアウグスト神父、議員秘書のユルゲン、そして対面の席にはメンシュナ党のロータル議員、ヨーゼフ博士、議員秘書で今回の幹事のディーターが腰を下ろし、長方形の短い辺の片側にはベンジャミン少将、その遠い対面にはフランツが座ることとなった。 そして、少し遅れて入ってきたザスキア少佐とカーヤは8人掛けテーブルのファシーズ党側の横の4人掛けのテーブルに向かい合って座り、ポーターの男たち二人は、先に夕飯を済ますように言われていたようで、フランツ達とは入れ違いで食堂を出て行ったのである。 そして、全員が着席したところで、視察団幹事のディーターが立ち上がり挨拶を始めた。 「皆様..
第8章 戦慄の魔法兄妹 その1 視察団一行が馬車でシュべルト町に到着したときには、日はもう西に傾きかけ、体の芯まで凍り付くような冬の極寒の風がびゅうびゅうと音を立てていた。 祖国デイテュラントのお隣のポルソーカ国の端にあるシュチェリン駅からタクシーで1時間半、そこからは舗装のない道が続くので、馬車で3時間かけてようやくシュべルト町にたどり着いたという訳である。 しかし、この地方では気温はかなり下がるものの雪の量はさして多くなく、湿度も極端に低いせいか少しだけ降っている雪は全て強い風に舞っている状態となっていた。 赤い西日の最後の残光が黒い山脈に隠れる寸前に、一行は町の公民館兼ホテルに到着することができた。 そして屈強なポーターの男たち二人の手によって、荷物が次々と各人の部屋へと運びこまれた。 「大変お疲れ様でした。皆様。それでは、夕食はきっかり6時に1階..
こんばんは、てぃねこ@ハニーたろべネコです。 新たな魔法の力の片鱗が見え始めたマリーです。 彼女の体は回復するのでしょうか? それでは、物語をどうぞ。 第7章 血と魔法 その4 大量に出血したマリーは、その後丸2日間眠り続け、ようやく目が覚めたのは学校が冬休みに入る前の最終週の月曜日の早朝であった。 最初、目が覚めたときに、マリーは自分がどこにいるのか分からなかったが、やがて、ここはラウラの家で、初潮が始まる直前の魔女の『血の洗礼』を受けたことを思いだした。 (今は明け方のようだけど...何日何だろう?) マリーは、そして、思いだしたように、両手のひらで恐々《こわごわ》と両頬に触れてみた。 両頬は痩《こ》けたものの柔らかく弾力があり、こびりついた血の後は感じられなかった。 そして、毛布を捲《めく》り体の方を見ると、自分が持っ..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第7章です。 いよいよマリーに試練の時が訪れようとしています...では、物語をどうぞ。 第7章 血と魔法(その3) マリーは悪夢にうなされていた。 黒い悪魔が彼女の体中を棘《いばら》の蔓《つる》で縛り上げているのだ。 (痛い!...解いて!この棘を!) それでも、悪魔は棘の蔓を緩めずに、逆にますます強い力で縛り上げていく。 悪魔の口元が引きつったような笑い顔になったところで、マリーは痛みのあまり目を覚ました。 「あああぁーっ!」 ところが、目が覚めると痛覚もはっきりと覚醒し、痛みはより激しいものになった。 (何なの!?これは?、、、痛いっ!体中が痛い!) マリーは痛みのあまり上半身を半分起こしかけたが、体..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第7章です。 マリーの試練とは、いったい何が始まるのか?...では、物語をどうぞ。 第7章 血と魔法(その2) 「マリー、今週は、学校のほうはどうだったかい?」 スプーンでシチューを口に運びながら、ラウラは陶器のコップの中の赤葡萄酒を飲んでいた。 「はい、特に大きなことは...いえ...ちょっと気になる転校生が来て...」 マリーは焼けたジャガイモの皮を剥く手を休めて、少し言い淀《よど》んだ。 「ザーラのことかい?」 ラウラの言葉にマリーは驚いた。 「え?なぜラウラ...いえ師匠はご存知なんですか?」 「転校生のザーラがマリーの監視役であることは、リーゼの手紙に書いてあったよ...ちょっと前までは、リーゼが全てを掌握していたが..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第7章です。 いよいよ、マリーに試練の時が訪れようとしています...では、物語をどうぞ。 第7章 血と魔法(その1) 森のはずれの少し木がまばらになった辺りに、その家はひっそりと建っていた。 深い焦げ茶色で、大きさは、、、まぁ一人が暮らすには十分であったが、今日からは二人が暮らすことになるので、いささか窮屈《きゅうくつ》な間取りと言えた。 そして、夕暮れの今、小さな煙突から香ばしく食欲をそそる匂いが立ち上り、冬の風にくるくると舞っていた。 家の中にはやや歳の行った女が一人、暖炉のかまどの前で鉄鍋の中の濃い茶色の豚角と玉葱のシチューを杓子で1、2回ほどかき混ぜた後に、人参の形に似た何やら怪しげな肌色の根っこを鍋の中に投入した。 「この紅心人参が..
こんばんは、てぃねこです。 遅くなりましたが、金曜夜の更新です。 青い炎と人形の物語 第6章 視察の朝の回想 その3 リーゼは自分の出番の最後に言った。 「、、、残された手段はそれしかないわ、フランツ、わたしとしては、クーデターに賛成の立場だったけれど、、、マリーの力で主導権を取り戻そうとしたけれど、、、そう、うまくは行かなかったわね、、、フランツ。あとは、ルイーゼとマリーとで、あなたたちの思うようにやっていいわ。わたしも、、、ルイーゼと一緒になって、彼女の思考の影響を受けてしまったのかも、、、でも、魔女、狼人、鬼人の生存の権利を守ることは忘れないで!、、、それじゃ、ルイーゼと替わるわ...」そこまで言うと、リーゼはがっくりと首を垂れ、目を閉じた。 、、、が、リーゼは、まもなく目を開き、顔を上げた。 その眼には、先ほどのリーゼとは異なる光が宿っていた。 ..
こんにちは、てぃねこです。 いろいろあって、すっかり更新が遅れてしまいました。 すみません。 では、遅れながらの更新です。どうぞ、お読み下さい! 青い炎と人形の物語 第6章 視察の朝の回想 その2 フランツは、自分の発言内容からハッと気が付いた。 「、、、もしや!、クーデターを起こす?!」フランツは、また少々青ざめて言った。 「ふふふ、そうよ。フランツ、これを知ったからには、もう後戻りはできないわよ」リーゼは少々脅し気味に言い、更に続けた。 「さっき、帝国軍が駐留する条件があると言ったけど、帝国軍の中には、私たちの仲間が何人もいて、重要なポストを占めているわ」 「、、、ということは、ブルクハルト王子の命令で、、、!」とフランツ。 「そう、いくつもの中隊が動きだすのよ!、、、ただし、いざクーデターが勃発したら、部下の中には命令に従わない可..
てぃねこです。 GW中の更新です。それでは、物語を始めます。 第6章 視察の朝の回想 その1 今日は、三民族統合自治区視察の行きの日程である。 列車は祖国デイテュラントの国境線を超えて、ポルソーカ国に入り始めた。 自治区の中心となる町に向かうための一番近い駅は、隣の国の国境に近いシュチェリン駅なのである。 列車の窓から見えるうっすらと雪の降り積もった平原をぼんやりと眺めながら、フランツは4日前の出来事を回想していた。 ......話は4日前、フランツが家に戻り、マリーとエルケに会った翌日のことである。 ...... 「久しぶりですね。フランツ」 優しい口調で切り出したリーゼの言葉が意外な気がした。 「...そうですね。リーゼ義姉《ねえ》さん」 フランツも、まずは静かに応じた。 狼人エルケの操る犬ソリで、森の..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第5章の続きです。 それでは、どうぞ。 第5章 マリーの覚悟 その5 また会えた嬉しさに、ラウラの家へと向かうソリの上で、マリーとエルケは四方山話を咲かせていた。 「ねぇ、エルケ、今は冬だから、狼...いえ犬ゾリだけど、春になったらどうするの?」とマリー。 「ロバの馬車を使うのよ、マリー」とエルケは返す。 「ねぇ、じゃあ、その間は、この狼さん...いえ犬さん達は何をしているの?」マリーは次々と質問した。 マリーの横でソリを操るエルケは少しばかりニヤリと笑い答えた。 「そうねぇ、何をしてもらおうかしら?」 「えーっ、何もすることが無いの?」マリーは矢継ぎ早に返す。 「アハハ、本当はやることがあるの、まず猟犬としての仕事、リーゼ様..
こんばんは、てぃねこ@ハニたろべねこです。 毎週、金曜夜の更新です。 新しく転校してきた少女は何者なのか...? 魔法の力に覚醒したマリーとの関係は...? それでは、続きをどうぞ。 第5章 マリーの覚悟 その4 1時限目のホームルームが終わると、4年生のクラスの生徒は女子を中心に転校生の周りにワッと集まった。 4年生は全員集まっても12名...いや今は13名になった。 「ローラントさ...ザーラさんは、どこから来たの?」女子の一人が尋ねる。 「ハンブルスよ。ザーラって呼んでね。パパは医者なんだけれど、転勤になって、この村の診療所に勤めることになったの」 ザーラは微笑みながら静かに答えた。 「あ、そう言えば、診療所の先生がもうお爺ちゃんだから、若い先生が来るってママが言ってた!」おしゃべりのゲルデがすかさず割り込んできた。 ..
こんばんは、てぃねこ@ハニたろべねこです。 マリーが月曜の朝、学校に行くと...そこで、新しい出会いが?! それでは、どうぞご覧ください。 第5章 マリーの覚悟 その3 マリーの通うヴィルレーデ初等学校(エレメンタリ・スクール)は、 土日が休みの週5日制である。 そして彼女は最上級の4年生、来年の8月に卒業である。 マリーが学校に向かって雪道を下っていると、牧場から来る道と合流するY字路のところで、いつもの幼なじみの友達と遭遇した。 「おはよう!マリー!」赤毛の女の子は明るい表情で手を振ると、矢継ぎ早に続けて質問してきた。 「土曜日はアガーテさんが行けなくて大変だったんじゃない?」 (噂話、早い!) マリーはちょっとビックリした。 「おはよう!ゲルデ!」と努めて明るく答え、 「ううん、ピクルスの瓶詰めを開けて、後..
こんばんは、てぃねこ@ハニたろべねこです。 毎週金曜の夜の更新の時間です!! それでは、物語をどうぞ! 第5章 マリーの覚悟 その2 「こんばんは、マリー!、はじめまして、フランツさん。エルケ・ナウマンです。この度は、本当に申し訳ありませんでした。」若いメイドはそう言うと頭を深々と下げつつ右手を差し出した。 フランツはマリーから聞かせてもらった経緯から、かなり複雑な思いではあったが、エルケは信頼できる人だということも聞かされていたので、わずかに迷いつつも、その手をガッシリと握った。 「エルケさん、頭を上げて下さい。父親のフランツ・ジルベールです。全ての経緯《いきさつ》は娘から聞きました」 フランツは、半べそ気味で顔を上げたエルケを見て続けた。 「全ての企みは義姉《あね》のリーゼのものでしょうから、その指示通りに動いたあなた方を責めても仕様が無い..
こんばんは、てぃねこです。 フランツが帰宅して娘のマリーと会うのだが...? それでは、どうぞお読みください。 第5章 マリーの覚悟 その1 「パパ!お帰りなさい!待っていたの!」 開かれた扉の先に立っていた少女が、いきなりフランツに 抱きついてきた。 「!!、、おっと、ただいま!マリー」 二人は抱き合い、お互いの頬にキスをした。 「、、、どうしたんだい?マリー、何かあったのかい?」 いつにも増して、しがみついてくる娘にフランツは、ちょっと不安を感じた。 「パパ!よく聞いて!」マリーは鋭い猫のような目で、フランツの目を見据えて、記憶の箱を解き放つ鍵の言葉を口にした。 「夜の夢の中のスージーはママよ!、、、ルイーゼママよ!」 (!!あっ!!) フランツの深層意識が解き放たれ、夜に何十..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第4章の続きです。 ファシーズ党に入党したブルクハルト王子の真意は何なのか? それでは、物語の開始です。 第4章 自治区 その4 自治区設立法案は無事、帝国国会に提出され可決されたのであるが、話はその1週間後となる。 自治区設立法案が可決されたこと受けて、ファシーズ党とメンシュナ党合同での視察委員会が発足し、フランツとカーヤも招集された。 初回の会合の直前に、クランツ議員はフランツにメンシュナ党視察委員内での副委員長の役割を依頼した。 「君も知っての通り、帝国統一選挙1年前の今の時期は、委員長のロータル議員も地方遊説でいろいろと忙しい。それで、今回の視察の前半は彼も同行するが、後半の取りまとめは、フランツ。君にお願いしたい」 「わかりま..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第4章の続きです。 自治区設立法案の行方はどうなるのか? 法案提出となるのか? それでは、物語を始めます。 第4章 自治区(その3) 翌朝、フランツは、法案提出を審議する広い縦長の会議室の末席に座っていた。 彼の横には、今回の法案提出を中心となって推進しているクラウス議員とその一派であるメンシュナ党員が座っており、その正面には、法案に難色を示しているエッカルト中将をはじめとしたファシーズ党派が陣取っていた。...が、その中に見慣れない若い将校の姿があった。 (おや?誰だろう?今まで見た軍の将校の写真には無かった顔だが...?)フランツはいぶかしく思ったが、同時にハッとした。(いや、あの顔立ちは見たことがあるぞ、、、まさか?、、、ブルク..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第4章の続きです。 窓の外のコウモリは一体何なのか? 謎は深まっていきます。 それでは、物語を続きをどうぞ。 第4章 自治区(その2) 自治区設立法案の補足説明資料が何とか出来上がったのは午前3時の少し前であった。 「あーぁあ、眠いー」カーヤはフランツが残る部屋を出ると、思わず伸びをした。 廊下はあまり照明が無く、薄暗かったので、カーヤは少し足早に、階段を使い階下に降り部屋に向かった。 突然、部屋の手前10mでカーヤはぎくりとして立ち止まった。 (部屋の前に誰かいる!!) ...しかし、よく見ると、それは中年くらいの女で、服装からホテルのハウスキーパーと思われた。 彼女はカーヤの方に向くと、手に持ったハンガーにかかった..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 いよいよ「青い炎と人形の物語」の第4章です。 第4章は場面が大きく変わります。自治区の設立とは何なのか? それでは、物語をどうぞ。 第4章 自治区(その1) 帝国議員と軍のお偉方に発表する書類を作る期限は、翌朝の9時だった。 「こりゃ、今夜は徹夜かな?」男はタイプライターを前にして頭を抱えた。 そう言いながら男は机の上にある煙草に手を伸ばしたが、また引っ込めた。 「娘にタバコ臭いとは言われたくはないが、、、今は、、、やむを得まい!」男はオイルライターで煙草に火をつけて、スゥーッと一息吸い込んだ。 ハァーッと大きく煙を吐き、男はやや落ち着いた。 コンコンと部屋のドアがノックされ、一人の若い女が左手にコーヒーのポットと、右手にほうろうのコップを2つ持ちながら、右足でド..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第3章の続きです。 それでは、どうぞ。 第3章 覚醒した魔法(その4) 「ビシッ!」ロープが激しく引っ張られる音とともにベッドの上のリーゼの顔は激しく歪んだ。 (わたしの中に!入ってくるとはっ!) 頭の中でリーゼは激しくもがいて言った。 (ルイーゼ!!許さん!お前を引き裂いてやるっ!!) 頭の中のルイーゼも負けてはいなかった。 (リーゼお姉さま!暴れるのは勝手だけれど、それはお姉さま自身の肉体を傷つけるわよ!) ルイーゼの精神はリーゼの頭の中でリーゼの精神と組み合った。 (このまま、お姉さまが激高を続ければ!)ルイーゼは言い放った。(私もお姉さまも、揃って狂人になって、永遠にこの頭の中の囚人になるわ!!) (!!..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第3章の続きです。 それでは、どうぞ。 第3章 覚醒した魔法(その3) 「私、ママと一緒に〈背中を押す魔法〉を習ったの」マリーはつぶやくように言ったが、彼女の思考のベールによって、ソリの上でもその言葉は十分に聞き取れた。 エルケは少々驚いたが、黙ったまま、マリーの話の続きを待った。 「〈背中を押す魔法〉と反対の〈釣り上げの魔法〉は、まだ習っている途中だった。〈釣り上げの魔法〉は〈背中を押す魔法〉と同じように、頭から外に出て、ほかの人や物に移るという強い気持ちが必要なの」 マリーの説明に驚きながらもエルケは言った。 「なるほど、、、あの魔法の力は、あなたの力が大きかったのね?、、、ということは、ルイーゼ様だけでは、できない?」 「そう、二人の魔法の..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第3章の続きです。 それでは、どうぞ。 第3章 覚醒した魔法(その2) (!!なにっ?!) 予想もしなかった衝撃に、リーゼの精神は嵐の中の木葉のように翻弄された。 リーゼが人形を手から離した瞬間にマリーは人形を受け止め、その直後、リーゼが後退りし、よろけたところを狼人のダークが受け止めて身体を支えた。 「リーゼ様?!大丈夫ですか?!」ダークは鋭く言った。 目の焦点が定まらない様子で、リーゼはつぶやくように言った。「...私は、今は、ルイーゼよ」 狼人のダークとエルケは、その言葉に唖然とした。 「リーゼ様は?!どこに?!」エルケはそう叫ぶと、すぐさまリーゼのところに駆け寄った。 リーゼという名前の女は、ダークに掴まりながら..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第3章です。 それでは、どうぞ。 第3章 覚醒した魔法(その1) 「オホホホホ!」濃紺のドレスのリーゼは、仰け反るようにして、大きな声で笑った。 そして、わずかの間の後に言った。 「ルイーゼ、昔、袂を分かった後に、私は、あなたに会うことは避けてきたわ」リーゼはそこで一旦言葉を切った。 「でも、あなたの娘が不治の病にかかったとき、あなたは結局、魔女一族の奥義を使い、娘の身代わりとなって死んでしまった」 リーゼはそう言いながらゆっくりと歩を進めた。 「残念だったわ、そのときは本当に」 「私の死の間際に、一度、会いに来て、そう言ったわね」人形の姿のルイーゼは答えた。 「ええ、でもあなたの夫とマリーが居たから、すぐに退散しましたけどね」リーゼ..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第2章の続きです。 それでは、どうぞ。 第2章 夜の森で(その2) 「えっー!じゃあ、ママも、あの伯母様も、わたしも、魔法が使えるの??でも、わたし、魔法なんて知らないし、ママが使っているのも見たことがないし?」マリーは口からベーコンエッグをボトリと落としてしゃべった。 「リーゼ様はもちろん強い魔法が使えます。」狼人のエルケは答えた。 「マリーのママのルイーゼ様もリーゼ様と同じくらいの力量を持った魔法使いと聞いています。」 その言葉にマリーは重ねて聞いた。「じゃあ、わたしは?」 「残念ながらマリーがどんな魔法を使えるのか私は聞いていません」エルケは少し困った顔をしたが、言葉を続けた。 「このことは...本当は言ってはいけないのですけれど...リーゼ様は..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の第2章です。 それでは、どうぞ。 第2章 夜の森で(その1) 森のはずれの少し木がまばらになった辺りに、その家は ひっそりと建っていた。 深い焦げ茶色で、大きさは、、、まぁ一人が暮らすには 十分で、今は小さい煙突から何やら怪しげな紫色の煙が立ち上っていた。 家の中にはやや歳の行った女が一人、暖炉のかまどの前で 鉄鍋の中の怪しい赤いスープに、さらに怪しげな真っ黒な根っ子を投入していた。 暖炉の左手の小窓の外は植木鉢台になっていたが、その上に いきなりカラスが舞い降りて、小窓をトントンとつついた。 「おや、お帰り」女は窓を内側に開いた。 (首尾通り、やってきたぜ)カラスは家の中に飛び込むなり思考を送ってきた。 「最終的に、犬が人形を咥え、猫を背負っ..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の続きです。 それでは、どうぞ。 第1章 冬のある日(その5) カラスに、マリーの行き先を教えられた人形のスージーと 黒猫のサミーは、とても妙なスタイルで出発した。 大きいが大変おとなしいセントバーナード犬がスージーを 咥え、犬の背中にはサミーが震えながら必死にしがみついていた。 セントバーナード犬のベルガーは、普段マリーが良く遊び相手になっている近所の家の飼い犬であった。 (マリーの日頃の行いに感謝ね)スージーは思った。 (でも、この唾液には、、、ちょっとガマンかな) (う、う、う、ここは、耐えるしかない、い、い) サミーは目を固くつぶりながらも犬の背中で踏ん張っていた。 幸いボタン雪は峠を越えて、ちらほらと降るばかりとなったが、夕闇..
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 「青い炎と人形の物語」の続きです。 それでは、どうぞ。 第1章 冬のある日(その4) 「ドン!」 重量のあるビンが棚から床に落ちたが、割れはしなかった。 「おぅ、とぉ...大丈夫、大丈夫」 猫のサミーは鼻面でビンを転がし、玄関の扉の横の猫用扉から 外に出し、郵便受けの真下に持ってきた。 その後、苦労して肉叩きハンマーの紐をくわえて引き摺り、 紐を咥えて、懸命に郵便受けの上によじ登り、ハンマーを ちょうど良い位置に置いた。 「これで、準備はできたぞ。やれやれ」 サミーはそそくさと家の中に戻って行った。 「スージーの受け売りだがね...」猫はつぶやいた。 ........ ソリが速度を落とし始めたころ、混濁していたマリーの 意識は少しずつ戻ってきた。 (ここは....
てぃねこ@ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。 今年もよろしくお願いします。 早速、「青い炎と人形の物語」の続きです。 では、どうぞ。 第1章 冬のある日(その3) きつく抱き上げられたことと恐怖で、マリーは身動きひとつできなかった。 (?!...何者なの?!) 二足で走るオオカミは、森の中に入ったが、すぐに外に抜け出し、小さな広場らしきところに着いた。 そこには、なんと二頭立てのソリが停まっていた。いや、二頭立てと言っても、いやに背の低い...馬ではなく... (狼!!) マリーを抱いた二足オオカミは宙を舞うようにソリに乗り込むなり叫んだ。 「出してくれ!兄弟!」 ソリは風のように走り出し、ボタン雪がつぶてのように当たってきた。 見上げたオオカミの顔は、人間の男と狼の混ざったような顔となっていた。 (これは...狼男?...
こんばんは、てぃねこ、こと、ハニたろべネコです。 人形作りと、オリジナルの物語を作っています。 「青い炎と人形の物語」の続きです。 では、どうぞ。 第1章 冬のある日(その2) 「パパは明日の夜まで出張だし、お手伝いのアガーテさんは夕方からの はずだし...?」 そう思いながらも、マリーは人形を小ぶりのテーブルの上に優しく置いた。 「ちょっと待っていてね。スー」 そう、スーは人形の愛称、正しくはスージー。 マリーは部屋のドアを押し開け、廊下を、階段を、少し小走りに階下へと 向かっていった。 玄関の扉まではあと少し。 ........ テーブルで寝転んで見る天井はかなり退屈だ。 スージーが何度も見てきた景色なのだから。 「見飽きたわ」 でも、今はマリーのことが気がかりで、すぐに別のことを考え始めた。 「旅人なのは間違いないわ。遠くの風が感..
こんばんは、「てぃねこ」こと「ハニたろべネコ」です。 人形作りも、まだまだ時間がかかります。 その間のつなぎで、オリジナルの物語を作っていきます。 タイトル「青い炎と人形の物語」 では、どうぞ。 第1章 冬のある日 くぐもった汽笛が遠くに聞こえる。 マリーはふと窓を見上げた。 窓の桟には白い雪が三角形に積もっている。 「もう、こんなに」 彼女の手の中には、一体の手作りの人形がある。 人形は冬だというのに下着姿だ。 「この娘には、今度何を作ってあげようかな? そうだ、寒いからウールのオーバーがいいかも?」 早速、マリーは立ち上がり、小ぶりの衣装タンスの 一番下の引き出しを開け、中を探ってみた。 ........ カラダを「ぎゅっ」とつかまれている。 でも、わるい気はしない。 むしろ、これから着せてもらえる服に期待が..
こんにちは、ハニたろべネコです。 省略名はてぃねこです。 球体関節人形の製作日記です。 人形作りは時間がかかります。 実は0号体は足掛け2年かかっています。 でも、1号体は半年くらいで同じくらい 出来上がりました。 0号体に和服の生地を羽織わせてみました。 人形が完成したら和服作りに挑戦する予定です。 Hello, it's "HANI TAROBE NEKO". The abbreviated name is "TEI NEKO". It's a making diary of a spherical joint doll. Doll making takes time. Actually it took two years to make doll No. 0. But, the doll N..
0号体の後継の1号体です。 名前はまだありません。 It's successor's 1 number doll for a doll number 0. There are no names yet.
はじめまして、「てぃ・ねこ」といいます。 球体関節人形を作り始めました。 How do you do, I say "TEI・NEKO". I have begun to make a spherical joint doll. これが0号体です。 名前はこれからです。 This is a doll number 0. The name will be now.
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