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「お待たせ」越谷さんの部屋の前で待機することになり、強まる雨足を眺めながら、借りたタオルで軽く髪を拭いて廊下に立っていた。部屋には入らなくとも、ずっとドキドキが止まらない。越谷さんは素早く着替えを済ませたようで、白のシャツと黒のジョガーパンツ姿で紺色の傘とビニール傘をそれぞれ1本ずつ持って出てきた。「着替えたんですね」「俺だけ悪いね。前田さんも着替える？」しれっと言われて赤面する。「何でですか！ ...
私の誕生日、祝ってくれるって……。突然の展開に少し不安はあるけれど、心は躍っていた。知ってるようでよく知らない同僚の男の人と、こんな夜中に。「……きゃっ！」夢心地で歩いていたせいで、水たまりにピシャッと足を突っ込んでしまった。右足はパンプスの中まで水が入っている。「うわ、ひでぇ」「最悪です……」左足で立って、右のパンプスの中の水を捨てる。バランスが取れなくてゆらゆらしていたら、越谷さんが腕を差し出してく...
※越谷さん視点の話です。帰り道。俺のせいで残業させたし、高橋課長への責任もあるし。一応、彼女を送ることにした。つーか、腹減った。軽く飲んで帰りたいけど、そんな雰囲気じゃねぇし……。俺は男女問わず気軽に誘う方だが、彼女にはやりにくい。そんなことを考えながら、少し後を歩く彼女の隣を歩くべきか、考えあぐねていたら。「今月、なんでこんなに多かったんですか」俺の考えがバレたのかと思うほどのタイミングで、彼女が...
※越谷さん視点の話です。白い肌、黒髪ストレートの黒ゴムまとめ髪。深い闇のような冷たい瞳。周りにはいないタイプの女。そいつは口を開けば俺に突っかかってくるが、いつのまにかそれを見るのが楽しみにもなっていた、月に一度の帰社日。鉄仮面みたいな彼女が、ふと笑う瞬間がある。俺に笑ってくれたらちょっと嬉しくなる。でも、「笑って」なんて言ったら、逆に機嫌を損ねそうだし、扱いが難しい猫みたいな女。ああ、今日も忙し...
結局……無事に処理が終わって帰り道。なぜか越谷さんと二人で帰ることになり、駅までの間二人で歩道を歩いていた。随分遅くなったけれど、明日は土曜日なのが救いだ。越谷さんは、営業部でもかなり忙しい人で。まあ、顔も良くないこともない。というか、たぶん良い。うちの社の大手取引先を担当しているから、経理的処理が増えることは必然的なのだけど、それにしても毎月締日に纏めて出さなくてもどうにかできないのか。「今月、な...
「高橋課長も、越谷さんも、二人とも、帰った……？」疑いの心が口から漏れ出た瞬間、またバーンとドアが開き、驚いて飛び上がった。「越谷さん！ ドアの開け方荒いんですよ！ 毎度びっくりさせないでください！」「悪い。手ーふさがってっから足で開けたの」「足で！？ ダメですよ！」そりゃあ、この人見てたらカリカリもするよ！はあ……と重い溜息をついて最後の台紙を取り出した時、コーヒーのカップがそっと置かれた。誰の？ ...
前田澪。経理部。明日28回目の誕生日が来る。子どものころと違って、全然楽しみでも何でもない。彼氏がいたこともないし、恋したところで、私のことなんて誰も好きにはならない。でも。いつかは、誰かのお嫁さんになりたいって、そう思いながら今日も働いている。結婚願望だけは人一倍強いと自分で思う。午後9時。私が所属している経理部のあるこのフロアは、メインの照明が落とされる。それを合図に、残業していた人々も帰り支度...
「around 30」営業さんと経理ちゃんのお話。(2019.1.4-) 連載中 ◆はじめから読む...
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