chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
arrow_drop_down
  • モーニング・ブリーフィング(短編小説)

    深夜二時のカラオケ店内には薄く音楽がかかっていたが、それは隣から漏れてくる客の歌声にかき消されていた。あいみょんの『マリーゴールド』を歌っているのは女性の声だったが、時折男の声も混じる。カップルかもしれないし、あるいはそうではない男女かもしれない。もしかしたら、二人組ではなく複数人かもしれない。どちらにしても、壁を隔てたこちら側からは推測することしかできないのだけれど。 僕も歌っていたけれど、数曲歌った段階でやめた。あまりそういう気分ではなかったからだ。ミスター・チルドレンの『イノセント・ワールド』の一番だけを歌った後マイクを置き、液晶に流れ続ける歌詞とモノクロのPVを眺めていた。映っているメ…

  • ミキキと自販機(短編小説)

    彼女の名前はミキキという。それが本名なのか否か、そしてどうしてミキキなのか知らないけれど、僕にとって彼女は『ミキキ』という三文字だった。 長い髪の毛と足先ほどまでのスカート、小さな声と不格好な眼鏡。背は大きくも小さくもなく、体型は普通。どこにでもいて、どこにもいない女性。特別特徴的なパーツや要素はないけれど、その構成要素一つ一つがミキキにぴったりとハマっている。長い髪とスカートも、声も眼鏡も、背も体型も。どれもこれもミキキにぴったりとハマって、その要素がミキキたらしめている。 ミキキは夜の住民で、そうして夜の破壊者だった。 僕たちは夜に出会った。随分と衝撃的な出会いだったと今でも思う。なんとな…

  • hanakanmuri e.p.

    …… ………… 花かんむりの作り方だって私は知らないんだよ。 それ以上に大切なことなんて、ないのにね。 ………… …… hanakanmuri e.p. 1. search the light 駅のホームに閉じ込められた。 ベンチで眠りこけている私に駅員は気が付かなかったらしく、そのまま改札のシャッターを閉じられたというわけだ。そんなことあるのだろうかと思ったけれど、実際こうやって起こってしまっているのだ。 私は記憶を手繰る。どうして私は駅のホームで眠ってしまっていたんだろうか。電車を待っていた、確かそうだったはずだ。非常に疲れていた、確かにそれもそうだったはずだ。けれど前後の記憶の接続がうま…

  • うみべのまち

    11/23にこちらに参加をします。僕は現在のところ現地参加できるか未定ですが、よろしければどうぞ。以下試し読み *** 海辺の街には移動販売車がのろのろと走っている。決まった時間に決まった場所に向かうのではなく、トラックは毎日その日の気分で自由気ままにタイヤを転がし、大して美味しくもないサンドイッチを販売している。そう、その移動販売のサンドイッチは大して美味しくはない。決して不味いわけではなくて、大して美味しくないのだ。 けれど不思議なことに大して美味しくないサンドイッチのリピーターは多いようで、よくそこには大して長くはないけれどそれなりには長い列が形成されている。そしてそのリピーターのうちの…

  • グレートセイリング(短編小説)

    現在僕が遭遇している状況っていうのは、随分と奇妙奇天烈なそれだっていうのは火を見るよりも明らかだと思う。 だってそりゃそうさ。僕はいま太平洋のど真ん中を、ボロボロのモーターボート一匹で、かれこれ三日は進み続けているんだからね。 なにか目的があれば話は別だよ。日本とアメリカの間にある常夏の楽園に向かっているだとか、さらに先に進んで世界一の超大国に上陸したいだとか、南下して野生のカンガルーやタスマニアデビルの観察をしたいだとか、あるいは北上して永久凍土や針葉樹林の景色を見たいだとか。 まあいずれにしろ、そういう理由があるのならば話は別さ。少なくともそういう理由があるのならば、僕が遭遇している状況も…

  • モノクローム・エンヴィ(短編小説)    

    僕らはお互いに、それぞれ少しばかりの希望を持っていた。 そのくせ、その希望をちっとも大事にしようとしなかった。 ハロー、ハロー。 ぐちゃぐちゃになった僕たちは、一緒に手を握り合うことくらいしかできなかった。 ハロー、ハロー。 夜明けはすぐにやってくる。 日傘が揺れる。 西の果ての島で目をつむる。 そのとき、僕らはお互いのことをほんの少しだけ好きになれた。 ……ような、気がした。 死んだら地獄に真っ逆さまかと思っていたんだけど、実際のところそうじゃなかった。僕はまず神経質すぎるくらいに白い医務室で目が覚めた。僕の主治医(と本人は名乗った)は僕が目を開いたのを確認すると、慣れた様子で笑顔をたたえた…

  • カエルと水素2nd おわり

    永遠に止まない雪に閉ざされ、わたしたちは二週間の時間を過ごした。そしてこれからもずっと、このまま永遠の雪の中に閉ざされ続けるのだろう。一年、十年、百年、もっと長い間。そういう、ため息が出るくらいに長い間。 ニュースキャスターは言う。原因は以前不明であると。 突如世界を覆った警報級の大雪は、誰もが寒波が過ぎれば収まるものだと考えていた。だってそういう仕組みで、法則だから。 だからこそ、この非常事態にみんなは慌てている。異常気象なんてレベルじゃない。なにかがおかしいんだ。なにかがおかしくて、どうにかなってしまっていて、どうにもならない。 「この世界では、こんなに雪が降るものなのか?」 「そんなわけ…

  • ハイネ(短編小説)

    昼、そして夏。 大聖堂の鐘の音がバカみたいに鳴る。あまりにもバカみたいに大きな音だったから咄嗟に耳を塞ぐ。鐘は十回ほど空気を揺らしたあとでぱたりと静かになった。 「大運動会みたいなものが始まるのですよ」 隣の人間――ムギさん――がそう言って、わたしの頭をぽんぽんと叩いた。わたしの頭は鐘みたいにバカでかい音は鳴らない。『ぼすっ、ぼすっ、』という無機質で乾いた音だけが鳴る。 「大運動会?」 「はいですね、ハイネ。素晴らしい祝日ですから、今日は。アメリカでは感謝祭というものがあります。ご存知かもしれませんが……。七面鳥とか、パンプキンパイとか、わたくしもその程度しか知りませんけれど、そういう感じです…

  • カエルと水素2nd みみしっぽ

    昔々のことです。 それはわたしがまだ、カエルと出会う前の話です。 わたしには仲のいい男の子がいました。 その子のことを、わたしは『耳つき尻尾つき』と呼んでました。 でも長いので、普段は略して『みみしっぽ』と呼んでました。 その子の本当の名前をわたしは知りません。 さすがに、本当の名前が『耳つき尻尾つき』なわけはないと思うので。 みみしっぽと仲良くなったのは、わたしが律義に学校というものに通っていたときのことでした。 放課後、校舎裏の日陰でぼーっとしていると、みみしっぽがやってきました。みみしっぽはわたしには目もくれず、スコップ片手に土を掘っていました。せっせと掘っていました。なにをしているんだ…

  • 怪物少女ランデヴー(短編小説)

    ランデヴー【rendez-vous】とは、人と人とが待ち合わせること、落ち合うこと。また特に、宇宙船などが互いに接近(ドッキング)すること。 やけに夜空の星がきれいな日で、僕はポケットに忍ばせた百円玉の感触を確かめながら歌を歌っていた。 赤い目玉のサソリ。 青い目玉の子いぬ。 どこかに落ちてたそんな歌の意味なんて一つも知らなくて、でも知らなくても別にいいや、なんてことを考える。その部分しか歌詞を知らない歌は、僕の舌の上で数回転がされた後すぐに消えて後味すら残らなかった。街灯の明かりで可視化された白い息は寒さを増幅するだけでなんの意味もない。凍りついた冬の街の人間は等しく死に絶え、午前一時の信号…

  • 過去作まとめ

    カクヨムやブログに載せていて、消してしまった過去作をいくつかまとめました。 『ソングバード』は初出です。よければどうぞ。 2018年 コーヒーメーカー壊れた 2019年 星の夜 ルビー・チューズデイ ソングバード(初出) 2020年 炭酸ちゃん Library,Sheep,Photon,and Girls 2018年 コーヒーメーカー壊れた コーヒーメーカーが壊れた。朝起きてコーヒーを飲もうと思ったら、お湯が出てきた。 コーヒー豆が少なかったのかと思った。足してみた。お湯が出た。 コンセントを差し直してみた。そうしたら、またお湯が出た。 でも別に、私は落ち込んではいなかった。というのも、私はそ…

  • ティティ(短編小説)

    なんだか、徐々に本当のわたしが身体から離れていってしまうみたい。 そんなことを思う。 書きかけの日記の上に、窓から舞い込んできた初夏の爽やかな風と日差しが落ちた。 ほんのりと漂う磯の香りと植物の光合成の香り、机の木目を焼く太陽の光。そんな情景の側で、わたしは数日前に書いた日記を見返していた。数日前のことなのに、書いた内容は随分と忘れてしまっている。ページをさらにめくると、それはより一層そうだった。最初のほうにわたしが書いた文章なんて、まるで誰かほかの人が書いたようにすら思える。 そしてどのページも、右上に記していたはずの日付は消えていた。 わたしは書きかけの日記の続きを書こうとする。日記帳の見…

  • カエルと水素2nd 誘電率

    『カエルが帰ってきたのね』 「うん、びっくりした。まさか帰ってくるとは思わなかったから」 『でも、よかったじゃない』 「そうね。とってもうれしい。カエルがいないのは寂しかったから」 『美味しいものを食べさせてあげましょう』 「それと、楽しいとこにも連れていってあげようかな」 『それってどこ?』 「どこだろう?」 『水族館?』 「でも、水族館じゃ泳げないんだよ。それにもし泳げたとしても、カエルは多分食べられちゃう。こんなに小さいから」 『そうだね。食べられちゃったら大変』 「だから、どこにしようかまだ考え中」 『うふふ、随分とカエルに対して甘くなったんじゃないかな?』 「え、そう思う?」 『うん…

  • カエルと水素2nd はじまり

    カエルはゲコ、と鳴いた。 そうしてすぐに、わたしのマフラーの中に飛び込んできた。 「凍死してしまう」 「ひさしぶり、カエル」 「再会の挨拶は後だ。なんだこの気温は? おかしいではないか」 カエルはわたしのマフラーの中でぷるぷると震えていた。その肌を撫でてみると、確かに凍りつきそうなくらいに冷たくなっている。 干乾びて死んだ次は凍りついて死ぬのか、なんて思いながら、わたしはひさしぶりのカエルとの再会にうれしさを感じていた。てっきり、もう会えないものだとばかり思っていたから。 「梅雨が過ぎたら夏が来る。夏が過ぎたら秋が来る。そうして、秋が過ぎたら今度は冬が来るのだな。まったく、忌々しいものだ」 「…

  • 生活みたいな宇宙(短編小説)

    洗面台に立って、鏡を見てみる。 わたし……うん、そこにはわたしが映っていて、でもそれだけだった。それ以外にはなにもなかった。見慣れた顔、見慣れたわたし。 わたしは見慣れた顔にピストルを突きつける。鏡のわたしも同じようにそうする。トリガーに指をかけて、それを引こうとしたけど、 「ダメだよ」 なんてことを言いながら、君はわたしの後ろからそのピストルを奪って、ゴミ箱にそのままポイって捨ててしまった。 君はとっても整った顔の女の子。 「ひどいなあ」 「洗面台が汚れちゃうから」 「うーん」 「ピストルはダメだよ、いい?」 「分かった」 ひどいなあ。 いつの日かわたしが洗面台で溺れたときも、君は引き上げて…

  • LifeHack(短編小説)

    カップうどんの中の油揚げの上に乗っかってぼーっとしているという不思議ですてきな夢を見ていたので、正直言ってわたしは、目覚めてしまったときに少し機嫌が悪かった。夢が途切れたから。 少し機嫌が悪かったけれど、その悪い機嫌は長くは続かなかった。だって見知らぬ病室のベッドで眠っていたのだから。 飛び起きてまず驚いた。自分の部屋じゃない。わたしは真っ先に身体のあちこちを触ってみた。けれどちゃんと両手両足はついていたし、なにか大きな怪我をしている様子もない。次に頭を疑ったけれど、頭だって同じく怪我をしていない。外傷も、そういう意味でも。 けれどもしかしたら、わたしが気づかないうちにわたしの脳は『そういうこ…

  • チーズケーキは天使の右手(短編小説)

    その頃の僕は死なない魔法が使えたので、よく高層ビルの屋上から飛行体験をしてはその独特な感触を味わっていた。昇り始める血塗れの太陽をじっと見据え、両手を放し、両足に力を込める。まだ眠っている街に飛び込むと、空気は身体を切り裂き、鼓膜は静寂にまみれた。重力に導かれるまま地面に叩きつけられるが、しかし僕は死なない。僕にはそういう魔法が使えるのだ。僕は死なない魔法が使える。だから、僕の身体はぐちゃぐちゃにはならないし、生命活動だって停止しない。 叩きつけられた直後、僕は意識を集中させる。直後でなくてもいいのかもしれないけれど、そうしないと痛みに精神と肉体が耐えられなくなるし、意識も混濁しとても集中なん…

  • 持ってるCD、ほしいCD(随時更新)

    持ってる ・ACIDMAN -創 ・andymori -ファンファーレと熱狂 ・Arctic Monkeys -Humbug -Whatever People~ ・ART-SCHOOL -BOYS DON'T CRY -SONIC DEAD KIDS ・ASIAN KUNG-FU GENERATION -君繋ファイブエム -ソルファ -ファンクラブ -フィードバックファイル -崩壊アンプリファ― -マジックディスク -ランドマーク -ワールド ワールド ワールド ・Base Ball Bear -C -(WHAT IS THE)LOVE&POP? ・The Beach Boys -Pet So…

  • 冬のプール、夜釣りとタバコ(短編小説)

    二〇一九年二月九日の夜十時三十分で、学校のプールには氷が張っていた。なぜなら寒いからだ。冬のオホーツクの海がそうであるように、二〇一九年二月九日夜十時三十分の東北の片田舎の、少し小高い丘の上にある学校のプールもそうであった。そうしてその氷には円形の小さい穴が二つ空いていて、そこには細い釣り糸が伸びている。その釣り糸の元を辿ってみると、そこにいたのはタバコを咥えていない男こと僕が一人と、タバコを咥えている女こと彼女が一人。男こと僕は十七歳で、女こと彼女は十三歳だった。つまりはどちらもタバコを吸っちゃいけない年齢であり、十三歳の彼女ならなおさらそうであるのだが、だがしかし煙を夜空に溶かしているのは…

  • ニトログリセリンと再生の魚(短編小説)

    ……どうにも物事は思うように動いてくれないし、でもそういうもんなんだよな。 年を取れば世界の広さも加速度的に広がっていくかと思っていたのに、どうやらそうでもないらしく、もう少ししたら変化が訪れるのかもしれないけれど、その変化を待っていたら死んでしまうわけで、そういった言葉のない苛立ちと諦念をどうすればいいのかなんてのは僕には分からないもので、結局のところため息をついたりなにかを殴ってしまったり、そういうことしかできないもんで。けれどそうしたところで根本的な解決にはならないもんで、でもならないからまたため息をついてなにかを殴る。なにか柔らかいものを。だってケガしたくはないからさ……。 *** 「…

  • カエルと水素 おわり

    「ねえ、カエル」 「なんだ?」 「カエルは一体何者なの?」 わたしがそう訊くと、カエルはゲコ、と鳴いた。 「……さあな。それが分かったら、我は苦労しない。我はカエルで、カエルではない。我は我なのかすら……曖昧だ。お前が瞬きをする一瞬の間に消えているかもしれん。その可能性を否定はできない」 わたしはパイナップルにフォークを突き刺した。カエルは瞬きをした。部屋の中には不思議な歌が流れていた。昔どこかで聴いたことのある音楽だった。まだカエルに出会う前に聴いた音楽だ。 「ねえ、カエル」 「今度はなんだ?」 「梅雨が過ぎたらどうなるんだろう?」 パイナップルを頬張って、ゆっくりと噛み締めた。酸味が口に広…

  • カエルと水素3

    カエルと『機器』とを接続し終わると、わたしもわたしで準備に取りかかる。 「RS-232Cに我自身が繋がることになるとはな」 「なんの話?」 「この線のことだ。そういう名前で呼ばれている」 「詳しいのね」 「一般常識の範疇だ」 カエルはご機嫌とも不機嫌ともとれる曖昧な温度でゲコ、と鳴いた。 30分の仮眠の旅は夢を見るのに似ている。 『カエルはどこからやってきたの?』 「分からないわ。そういう存在。どこから来て、そうして何者か。それは分からない。分からないという存在」 『今度水族館に連れていってあげようよ』 「いいね、それ。面白そう。泳がせてはあげられないけどね」 『うーん、そうなったらちょっと悲…

  • カエルと水素2

    傘を差すと、頭の上にカエルが乗ってきた。カエルは軽く柔らかく、少しぬめぬめしていた。 雨で増水した川の水は茶色く濁っていて、そうして流れが速い。飲まれたらひとたまりもないと思う。 「これでは泳げないではないか」 「だから言ったでしょ。泳げないって」 洗面台に水を張って泳ぐことに飽きたカエルはこの雨に乗じて川で泳いでやろうと画策していたらしいが、どうもそう上手くはいかない。そもそも川で泳ぐのならば別に晴れでも曇りでもいいと思うのだか、カエルはそうは思わないらしい。人間とカエルの間には価値観の違いというものが発生する。 「仕方がない。水たまりで勘弁してやる」 カエルはそう言って水たまりの中にちゃぽ…

  • カエルと水素(短編小説)

    6月19日 この日記帳はなににもなり得ず、わたしがこれを記したところで起こった事実が覆ることはなく、事実は事実として予定通り動いていく。わたしはわたしの表面をなぞるだけであり、それ以上もそれ以下も存在はしない。ゆえにこの行為に意味は……ない。 物語はいつだって唐突で、そうして理不尽なものだ。 5月7日 30度を超える真夏日で、カエルが死んでいた。横断歩道の真ん中で干乾びたそれを跨いで越えるとき、死んだカエルはわたしの中に入り込んだ。アイスクリームが熱で溶けるように、とても自然に入り込んできた。わたしはペットボトルに入った炭酸水を飲んでカエルに水をやってあげたが、どうやら炭酸はお好みではないらし…

  • スマイル Sea&Sky

    この夏の街に来て何日が経ったのか数えてみたけれど、三日以上前の記憶からは頭のどこを探っても見つからなかった。二日前は確かに覚えているのに。あのときはシーグラスを拾って、それでまたシーグラスを拾って、それからお家に帰って……うん、昨日もそんな感じ、今日もそんな感じ。だから三日前も、そのさらに前も、そんな感じなのかもしれない。よく分かんない。 顔を上げて一息つく。太陽はさっきよりも上に来ていた。じりじりと肌が焼ける音が聞こえてくるような気がした。聞けるなら聞いてみたいな、とも思う。肌が焼ける音。どんな音なんだろ。 山を登って、ウミのお友達のお墓にやってくる。お友達は、ウミがこの夏の街に来る前のお友…

  • 1999(短編小説)

    ノストラダムスの大予言が外れて、よかったことと悪かったことが一つずつ、世の中には起こった。 よかったこと、それは僕が無事に生まれたこと。 悪かったこと、それは僕が無事に生まれてしまったこと。 僕が無事こうやって生まれて思ったことは、夏は暑いし汗が垂れる。冬は寒いし身体が震える。大勢は憂鬱だし気力が削がれる。一人は孤独だし心が張り裂ける…………なんていう、そんなことだけだった。 一九九九年の七の月に設定された天気予報に似たお気楽な大予言は見事に外れ、恐怖の大王は空から降ってくることがなく、我々人類はセミの大合唱とともに一九九九年の八の月を迎えることができた。世紀末の閉鎖感はどこかへと吹き飛び、輝…

  • オーパス・アンド・メイヴァース 2/2

    彼女の服に返り血がついていたので、すでに無人と化した廃屋からシャツを一枚拝借した。サイズはピッタリで、それを着ると彼女は少し満足そうに鼻を鳴らした。 さざ波の音が最高潮に達したときに、テトラポットに打ちつける波を、僕たちは二人っきりで見つめていた。どうやってここまで来たのか、なぜかそれすら曖昧になっていた。僕らは突然この風景に押し込められたみたいだ。都合よく切り取られて、都合よく配置されて、僕らはそんな風に、この空間に存在しているみたいだった。二人だけで、月が照らす下で、そうやってずっと、ずっと、存在し続けているみたい…………だった。 眩い光が僕たちを覆う。光の粒は光の束になり、そうして線にな…

  • オーパス・アンド・メイヴァース 1/2

    さて。 街は死んだ。人々は死んだ。図書館は死んだ。診療所は死んだ。道路標識は死んだ。家族は死んだ。大事なものは死んだ。キミは死んだ。 さて。 僕は生きている。 さて。 海面上昇。大切なものはどこへ行ったのだろう。光の束。大切なものは、一体全体どこに行ったのだろう。地面の裂け目、ピストルの弾丸、遠くへ飛んでいくスカーレット、どうでもいい話だ。スカートの色は茶色。 僕は裸足だった。靴はどこかに脱ぎ捨ててきてしまっていたようだ。アスファルトの上の小石が足裏にチクチク刺さって痛い。現代人の僕にとっては耐え難い苦痛だった。ああしかし、靴はどこに行ったのだろう? 確かに履いていたはずだったのに、一体どこに…

  • 【祝】個人本を出します!

    2020年5月6日に開催される文学フリマ東京にて、僕ことレミィの個人本『SongBird』を出させていただきます。ありがとうございます、ありがとうございます。 ここではツイートの140文字では収まりきらなかったことについての告知をします。 まず、最近世間を騒がせているコロナウイルスの影響で、文フリ自体が中止になる可能性があります。そのときはBOOTHで販売するか、もしくは直接ツイッターで僕にDMを送っていただいて発送するという形で本をお届けできればなと思います。 もし予定通り開催が出来た場合、ありがたいことに会場で在庫がなくなれば(まあそんなことはないと思いますが)本はそれ限りです。もし在庫が…

  • ヒマワリ畑の下に彼女を埋める(短編小説)

    ここじゃないどこか、この世界じゃないどこか、ここよりも少し空気がきれいなどこか、ここよりも少し風が優しいどこか、ここよりも少し月がきれいなどこか。 そんな場所がきっとあって、そこには広大なヒマワリ畑がある。 ヒマワリ畑のヒマワリたちは、太陽なんかじゃなくて、月に向かって咲いている。 みんな月の光に顔を向けて、ゆらゆらと揺れている。 どうしてそうなのかって? …………どうしてだろうね。 でもさ、もしも僕がカミサマだったらさ、太陽に向かって咲くヒマワリは、きっとキライになっちゃうと思うんだ。 …………忌々しい、憎たらしいってね。 だからさ、きっとカミサマもそうなんじゃないかな。 憎たらしいって、忌…

  • 【雑記】ノベルゲーム

    高校生の頃、僕はずっとノベルゲームをやっていました。僕の高校はそんなにレベルの高くない高校だったので、勉強に対してはうるさくなく、かつ僕自身文化部に所属していたため時間はたっぷりあったんです。だからもちろん暇を持て余してしまって、中学三年生のときに出会ったノベルゲームを高校まで持ち越してやっていたという話です。大体ルーティンは決まっていて、まず十二時になるまではテレビを見たりネットをやったりして過ごす。そしてそこから三時までの三時間、ノベルゲームをやる。これが決まったルーティンになっていました。これは平日の話で、休日になると平気で日が上るまでやり続け、その後で昼間まで眠りこけるということをやっ…

  • もやもや、ごちゃごちゃ、うにゃー!

    悲しいことはもちろんあるし、苦しいことはもちろんあるし、だからうわーっとなって泣いちゃうことももちろんあって、でもそういうのは絶対に間違ってなんかいなくて、そういうのも確かに正しくて、だって楽しいだけなんてありえなくて、うれしいだけなんてありえなくて、楽しいことがあれ悲しいことがあるし、うれしいことがあれば苦しいこともあるし、そういうの全部ひっくるめて、やっぱり大切だなあと思う。 小説とか音楽とか、悲しい話はみんなが共感してくれる。みんなどこかしらに、それぞれの数、それぞれの深さで傷を持っていて、だからこそ、そういったものに共感するし、あるいは慰めになったりするし、人によっては取り返しのつかな…

  • 初恋の話

    中学生のときの話なんて、もう一ミリたりとも思い出したくはない。それだけいやなことがあったし、それだけ苦しいことがあったからだ。でも、思い返してみれば、中学生のときが一番楽しかったのも事実だ。 中学のときの初恋の話を、したいと思う。 彼女の本名を言うことは出来ないので、愛称だったマナという名前でここでは呼ぼうと思う。まあ、僕は彼女のことを、本名で読んだことも、その愛称で呼んだこともなかったのだけど。ねえ、とか、ちょっと、とか、そんな呼びかけで僕はずっと彼女を呼んでいた。だって、とっても恥ずかしかったから。 マナと仲良くなったきっかけはよく覚えていない。気がついたら話していたし、気がついたら仲がよ…

  • 真冬のクリスマスツリー(短編小説)

    東京の冬は寒い。 そう思いながら、僕はナチス・ドイツのそれによく似たトレンチコートに手を突っ込んだ。右にはウォークマンが入っていて、左には包装紙に包まれたまだ噛んでいないミントガムが三粒入っていた。僕はウォークマンから伸びているタコ糸のようなイアフォンを右手で弄りながら、左手でミントガムの包装紙を一つ剥がした。右手は突っ込んでタコ糸を弄ったまま、ミントガムを口の中に放り込む。 ミントガムはミントの味がした。当たり前だ。僕は失敗したと思った。冬の寒さにミントガムの相性は最悪だった。脳みそが変な薬品に漬けられているような気分になる。 けれど、せっかく噛んだんだから噛み続けようと思った。しばらく噛ん…

  • 『イリヤの空、UFOの夏』(第三種接近遭遇、ラブレター) 所感、応用

    僕がライトノベルで一番好きな作品こと『イリヤの空、UFOの夏』についての記事です。主に文章表現についての個人的な所感と自小説への応用についてなので、小説を書いている人向けというか、ワナビ向けというか、純粋な消費者向けのブックレビューではありません。ネタバレも多用です。 この記事で扱うのは、一巻、そして+αまでです。本当は本を取り出して何ページと指定し引用しながらやりたかったんですが、残念ながら現物を今貸し出していて手元にございません。ですので、カクヨムで無料公開されている分だけを扱おうと決めました。 イリヤの空、UFOの夏(電撃文庫) - カクヨム 以下、~で囲ったところは引用になります。 ~…

  • 【雑記】 夏休みと小説

    大学のテストが終わって、山形の友人が千葉に遊びに来た。僕は友人と水族館だったり新宿御苑だったり秋葉原だったりを巡った。そしてその数日後、今度は大学の友人と香川県のとある島まで二人で旅行に行っていた。そのあとすぐに地元に帰り、そこで夏休みを過ごした。 駅のホームで電車を待っているとき、『上総一ノ宮』行の電車が通過していった。僕はそれを見ながら、次に書く小説のヒロインの名前は『カズサ』にしようとぼんやり考えていた。 千葉の駅から東京駅まで行き、そこから夜行バスで山形まで帰った。夜行バスは身体に悪いし睡眠の質もよくないが、貧乏大学生の僕にとっては新幹線よりも出費を抑えられるので乗らないという手はない…

  • 文フリのお知らせ&試し読み

    ということで、11月24日(日)に東京流通センターで開催される第二十九回文学フリマ東京に出店します。場所は 『タ-17』、出店サークル名『狂った歯車堂』です。よろしくお願いします。 詳細はこちら http://bunfree.net/event/tokyo29/ また、当日は僕ことレミィは大学祭と日程が被っているので、文フリには参加しません。僕に会いたいという奇特な方は、ぜひ大学祭の方に足を運んでください。そっちでも本の販売はしていますので。 詳細はこちら http://cit-gakuyu.com/daisai/70th/toppage/ でご確認ください。三日間開催で、僕は三日ともちゃんと…

  • 【雑記】音楽聴きながら小説を書きたい!

    あーあ、朝起きてたら世界を揺るがす問題作が僕のこのノートPCの中に出来てねえかなあと思う毎日です。ウソですそんなこと思ったことないです。 小説って業が深いんですよ。なんで業が深いって、まず集中しなきゃ書けない。いやそりゃそうだけどさ、例えば絵描きさんとか、作業用にと音楽を流しながらやっていたりするじゃないですか? ライブ放送とかやってリスナーとコミュニケーション取りながら描いてる人もいるじゃないですか? そうそう、ああいう人の配信見てて思うけどほんとなんであんな絵描けるんですかね? ちゃんと一本一本線を見逃さずに観察しているのに、気がついたら神絵が出来ていて「はにゃ?」ってなります。はにゃって…

  • 絵描きの少女

    「…………」 「…………」 「…………あ、うん、気づいてる、大丈夫」 「…………なにしてるかって?」 「絵、描いてる…………」 「…………」 「絵…………」 「…………」 「……………………風景画」 「…………」 「……………………見る?」 「……………………どう?」 「…………ほんと?」 「そう言ってもらえるとうれしいな…………」 「…………」 「…………あのね」 「…………絵、っていうのは」 「とてつもない可能性を秘めていると思う…………」 「…………」 「この空間における…………この現実世界における」 「私にとっての、史上最高の媒体…………」 「…………なによりもずっとずっと、『本当のこ…

  • 甘い薬(短編小説)

    きれいなピンク色の花が咲いていた。 なんの花なのかは分からない。この正体不明の花にも確かに名前はあるんだということは分かっているけど、僕にとってこの花は『ピンクの色の花』だった。それ以上でもそれ以下でもない。 花弁から雨の雫が滴り落ちて、すでにパンパンに水を吸っている土の上に落ちた。空を見上げると、覆っていた厚い雲はもうすでにどこかへと消えてなくなっていて、太陽の光が地面に降り注いでいた。僕の肌にもその光が届いて、表面がチリチリと音を立てて焼けているような気分になる。 僕はまくっていた長袖をグイっと下ろし、手の甲までもすっぽりと布地で覆った。 焼けるのは好きではないのだ。昔海水浴場で日焼け止め…

  • 水槽の中(短編小説)

    ボクはギシギシと音の鳴る簡易的なベンチに腰を掛けて、目の前にあるなんの種類だから分からない木を眺めていた。木は緑がすべて枯れ落ちてしまっていて、茶色の肌だけをボクに晒していた。ボクが、ほう、っと息を吐くと、ボクの目の前の空気は白く濁った。 「倫理の講義をサボるっていうのは、倫理的にオーケー?」 「倫理的にオーケーかどうかは知らないけど、常識的にはオーケーじゃないと思う」 「常識って?」 「勘違いの総体だと、どこかで読んだ気がする」 「ふーん」 ボクがそう言うと、彼女はボクの隣に腰掛けた。彼女からは甘い薬のような匂いがした。 甘い薬? ボクは自分でそう思っておいて、その意味の分からない比喩に疑問…

  • 七月十日(短編小説)

    七月十日。その日僕はソファに寝っ転がりながら、桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を読んでいた。時刻は午後の七時、途中にしおりを挟んで一息つくと、部屋にチャイムの音が転がり込んできた。そうしてすぐに三回ノック。一呼吸置いて、二回ノック。 僕はそれを確認すると、ドアの魚眼レンズを覗かずにそのまま鍵を開けた。そうしてドアを開くと、予想通り彼女の姿がそこにはあった。くたびれた白と黒のボーダーのTシャツに、下は涼し気な亜麻色のハーフパンツ。夜の底に沈みかけている外の景色には、彼女のそんな姿がやけにおかしく映った。 「連絡くれればよかったのに」 「だって、いるでしょ?」 「いない可能性もある」 「…

  • 無題

    素直に書こうとすれば幼稚になり、ひねくれて書こうとすれば滑稽になる。僕にだったら出来ると思っていた小説というもの。今は本当にちゃんと出来ているのか分からない。趣味に止めておけば痛い目はみないのだろう。へらへら下の方で笑っていれば、上手い下手ではなく好きか嫌いかで語っていれば、馴れ合いでもしていれば、きっと痛い目をみないのだろう。そもそもそっちのほうが絶対にいいのだ。絵でも音楽でも小説でも、趣味に止めておけばいいのだ。そうすればバケモノみたいな劣等感も無力さも孤独さも不安もなにもかも抱えないで済む。だからそれが一番いい。でも僕は本気で趣味なんていうカテゴリーに小説を止めておけるほど強くない。小説…

  • リアル・ツイッター・オンガク

    僕が@remy_niscenceというアカウントで活動を始めてから、もうすでに10カ月が経った。需要があるのか分からないし多分ないし興味もないだろうし、そんなもんだと思うレミィという人間が、まあなんでツイッターなんて始めたのかっていうどうでもいいことを、べらべらと喋りたいと思う。 きっかけは些細なことで、大学のサークルの先輩に「趣味垢というか、物書き垢を作らないの?」と言われたことであった。それまでリアルの人との細いコミュニケーション、そうして単なる情報収集のためのアカウントはあったのだが、そういったSNS上でのやり取りというのを僕はやったことがなかった。だから初めは難色を示したし、出来るなら…

  • 世界の終わり、世界の始まり

    https://kakuyomu.jp/works/1177354054891278909

  • 重力の中で

    大学が始まって講義も始まって、僕は真面目にちゃんと出席をしている。行きたくはないし部屋で布団に包まって眠っていたいが、朝起きたら僕はズキズキと痛む頭を抱えて、なぜか涙を溢したりして、トイレに行ってボーっと鏡を見る。 鏡の向こうの僕はいつも酷い顔をしている。目元まで伸ばした髪の毛がかかっていて、その奥からは正気のない瞳が覗いている。剃り忘れた髭が不格好に生えている。そしてやっぱり、泣いている。 ああ別に、悲しくなんてないんだけれど、それでもなぜか悲しいんだろうな。どっかなにかが欠けていて、だから泣いてしまうんだと思う。でもなにが欠けているのか分からない、なにが足りないのか分からない。満たされてい…

  • 僕だけが正しいと思うこと

    仲のよかった高校の友人と久しぶりに会って、僕は心底疲れ果てた。そんな話は訊きたくなかった、そんな薄ら笑いは見たくなかった、そんな汚いノイズは聞きたくなかった。そう思ってしまった。 そんなの、単なる僕のエゴだ。どうしようもない、彼らも人間だから変わるのだ。僕が高校を卒業して一年半で変わったように、彼らもまた一年半かけて大きく変わった。元の細胞は全て入れ替わってしまっていて、そこにいたのは外の皮だけがそのままの、中身はまったく違う友人に似たなにか。その友人に似たなにかは、僕にこう語りかけた。「お前も変わったな」と。 違う、僕は確かに変わったが、僕の変化というのは速度の変化だ。僕は疲れたらゆっくりと…

  • シャブシャブシャブシャブ!(日常の雑記)

    シャブ食ってハイ Yeah! キノコ食ってハイ Yeah! 野菜食ってハイ Yeah! シャブシャブシャブシャブ! ということで、しゃぶしゃぶ食ってきました。なんでわざわざそんなどうでもいいことをこうやって記事にしているのかというと、実は僕、これが人生初のしゃぶしゃぶなんです。肉は炭火で焼いてぱくりと食うのが一番であって、茹でるなど言語道断。到底許されるべきではない蛮行だと思い、しゃぶしゃぶなどというものは悪の食べ物だと決めつけて手をつけていなかったのです。 しかし熟した果実が柔らかくなるのと同じように、月日の流れにさらされて僕のそういう固定概念のようなものもだんだんと柔らかくなり、「まあ、食…

  • 携帯壊し過ぎです(日常の雑記)

    もうかれこれ携帯を四回は壊した。 原因は分かっている。アンドロイドで防水なのをいいことにお風呂で使っているからだ。いくら防水と言えどもあんな高温多湿の空間に精密機器を入れておくのはどう考えても悪い。悪いとは分かっていても、お風呂でYoutubeを見るというのがもはや一つのルーティンになっているし、そもそも僕が結構長風呂するタイプなので、長時間ただ浸かっているというだけなのはつまらないのだ。だから携帯を持ち込む、ゆえに壊れる、悪循環、なんとかしたい。 かと言って、ほかになにか持ち込めるものは存在するのだろうか(そもそも風呂なんだからゆっくり浸かれというのは言わないでほしい) そもそもみなさんはい…

  • ナスは美味い(日常の雑記)

    秋ナスは嫁に食わすな、なんてことわざがある位で、まあナスという野菜は野菜種の中でもどこか特別視されている気がする。確かにあの触感は肉と言われれば肉であるし、魚と言われれば魚である(そうか?) 僕自身はそこまでナス、というか野菜自体に思い入れがあるわけではない。野菜が目の前にドンと置かれるならステーキがドンと置かれた方がうれしさは百倍であるし、今日のメインディッシュよと言われて野菜が出てきたらげんなりする。いや別に嫌いって言っている訳じゃないけど、これでご飯を食えと言っているのか、と思ってしまう。食えないわけじゃないが、味気ない。野菜というのは肉のそばにちょいと添えてあって、つまりは水族館の深海…

  • World Pool 【Bizarre Girl 5】

    「いいですか? 戦車の主砲をしっかり着弾させるには綿密な計算が必要なんです。しっかり計算しないと、あらぬ方向に飛んでいきますからね。人がいなくなってしまったとはいえ、むやみやたらとボンボン撃っていいものではないんです」 僕はタオルを上空に掲げた。少女がそれをじっくりと観察する。 「で、これは一体なにをしてるの?」 「風速です。でっかくて重い鉄の塊と言えど、風の影響は受けるものなんです。着弾地点までの距離が数メートルならまだしも、数百メートル、数キロとなると、少しの風速もバカには出来ません」 少女はボードに留めた紙にボロボロの小さい鉛筆で情報を記入していく。タイプライターで打ったように揃ったきれ…

  • 可視光線の彼女

    波長、というものが人間には存在していて、ときどき恐ろしくそれが一致する人と出会うことがある。そうして出会うと、たった数日、たった数時間、下手したらたった一瞬で何年もコツコツと積み上げた『それっぽい』友情や愛情を越えてくることがある。お互いがお互いの波に共鳴し合い増幅し合い、波は元の何十倍にまでも膨れ上がる。近付いてくる小さな波を圧倒し、薙ぎ倒し、水面を支配し、岸に到達すると浜辺の全てをも飲み込み、また波は反対方向へと進路を変えて戻っていく。 彼女との出会いもちょうどそんな感じだった。僕らは「どうも」とお互いにちらりと相手を見やりながら十二度頭を下げ、その後ウーロン茶を片手に音楽の話をした。 「…

  • World Pool 【Bizarre Girl 4】

    「や、やっぱり、今日は止めにしませんかぁ…………?」 「連れて行って下さい、って啖呵を切ったのは一体どこの誰だったっけ」 「う~~~、ずっと引きこもり生活だったんですもん! それがこんな炎天下を何十キロも! もう無理ですって!」 「まだ二キロくらいしか歩いてないけど」 「もう二キロですっ!」 少女はきゃんきゃん吠えた。けれどそうしたところで目的地が近づくわけでも体力が回復するわけでもない。だから歩くしかなかった。 白いパジャマの少女は白いワンピースに着替え頭に麦わらで出来た帽子をかぶっていた。単なる引きこもりにしか見えなかった少女も、そうしているとどこか深窓の令嬢のようだった。 「あと二キロく…

  • World Pool 【Bizarre Girl 3】

    「と、言うと?」 「そのまんまですよ。私の備蓄している食料が全部なくなったんです。あの板チョコが最後だったんです。だからもう、少なくとも食料と呼べるものはここにはないです」 少女はそう言うと、パソコンに負けず劣らず大きな駆動音を鳴らしている冷蔵庫を開けた。しかし中にはまともなものはなに一つとして入ってはいなかった。空になったペットボトルの容器だけが無駄にスペースを占領しながらそこに鎮座している。 「餓死しちゃいますね」 「どうするのさ」 「さあ? 多分極限状態になったら、この着ている服とか机とか齧りだすんじゃないですか?」 「外に出て食料を探しに出ればいいじゃないか」 僕がそう言うと、少女は目…

  • World Pool 【Bizarre Girl 2】

    「バカですね」と僕は開口一番に言われた。 「バカじゃない!」 「原っぱで寝転がってなにしてるのかなと思ったら、はあはあ言って苦しんでるんですもん。バカですよ」 少女はそう言うと、僕に冷たい麦茶を出してくれた。久しぶりに常温以外のものを口に入れたので胃が驚いていた。 「こんな気温で水分も取らずに歩き回ってたらダメですよ」 「あいにく水分は貴重なんだ。そんながぶがぶ飲んでいられない。それにしても…………」 僕は辺りを見渡した。真っ暗な部屋の中ではパソコンのディスプレイの光だけが灯っていた。物という物が散乱し足の踏み場もなく、南極に放り込まれたのかと思うほどに冷房が効いていた。 「まだ電気が通ってい…

  • 神聖かまってちゃん聴いてボロボロ泣いてたし全部嫌いだし全部大好きだし

    音楽が好きなわけじゃない女食うために顔だけでやってるクソバンドが死ぬほど大嫌いな高校生が僕だった。音楽が好きなわけじゃない女食うために顔だけでやってるクソバンド嫌い選手権が開催されたらぶっちぎりで優勝してあまりに強すぎるために次年度から出場停止になるくらいには音楽が好きなわけじゃない女食うために顔だけでやってるクソバンドが嫌いだった。 今はわりと穏健派になってきて、まあまあええやないの、まあまあそんなかっかしないで、とTLに流れてくる怒りや憎しみに満ちたツイートを見るたびに思っている。でも僕だって当時は相当で、あらゆるものに怒ってあらゆるものに憎しみを抱いた。 僕が怒りを抱いたバンドに、神聖か…

  • World Pool 【Bizarre Girl 1】

    『世界なんて単なる水たまりに過ぎない』 なにがおかしかったかと問われれば、初めから最後まで全てがおかしかった。僕らはおかしい世界でおかしい人間とおかしい関係を結んでいた。それもその場限りの弱い関係を。 けれども今になって思えば、世界も人間も関係も、おかしいことは当たり前だったのかもしれない。 少なくとも僕が言えるのは、それらはとても…………素晴らしかったということだ。 正しいことが素晴らしいこととは限らない。限りなく歪んだ形だからこそ素晴らしいということも十分にあり得るのだ。 そう、僕らは、おかしく素晴らしかった。 僕はなにも出来なかった。僕はただ生きていることしか出来なかった。 僕は多くの問…

  • 自由なカモメと遠くの島 続く

    世界はいつ始まったのか。 夏はいつ始まったのか。 それは十年前だった。 十年前に世界が始まり、夏が始まり、そうしてここまで続いてきた。 「だって、その方が気持ちがいいから」 少女はそのまま歩きだした。一体どこに行こうとしているのかは分からなかったが、僕は少女の後を律儀についていった。「ねえ」と僕は少女に訊いた。 「キミは一体誰なの?」 「誰だと思う?」 「それが分からないから訊いているのに」 僕がそう言うと、少女は立ち止まり振り返った。 なにか……ずっとなにかが引っ掛かっていた。初めからなにかが少しずつおかしかった。歯車は正常に回っているように見えて、少しずつ速度を変えて回っているような気がし…

  • 自由なカモメと遠くの島 終わり?

    どこから間違っていた? その問いが、そもそもナンセンスのような気がする。 どこから間違っていたんだ? 僕はなにかを間違えた? ……いや、間違えてなんかいない。そもそも、前提から違うのだから。僕は少し感傷的になりすぎていただけなのかもしれない。世界と自分を、自分と島を、重ねすぎていただけなのかもしれない。本当はもっとシンプルで、初めから糸なんて絡まってすらいなかったのかもしれない。 僕は顔を上げた。太陽が沈みかけていた。船は本州へと向かって波を掻き分け進んでいた。 そうだった。物事はもっとシンプルなんだ。配電塔も、カレーも、ボブ・ディランも、島も、ため池も、旅館も、カモメですら、もっとシンプルな…

  • 自由なカモメと遠くの島 終わり

    それから僕が少女に会うことはなかった。僕は島にそびえる山を見上げて、幼い日の小さな記憶の断片をただ集めて重ねることしか出来なかった。そうしていると、どうにも居心地が悪くなった。 島は僕を歓迎していないような気がした。僕は一人だった。気が付いたら……いや、そもそも僕は初めから一人だったのだ。僕に居場所なんてなかった。島にも、大学にも、それこそ僕の部屋にだって、僕の居場所なんて初めからありはしなかった。僕はずっとなにもない真っ暗な空間の中でただ浮いて、なにか音の鳴る方や光の当たる方へと反射的に進んでいたに過ぎなかった。昆虫がそうするように、空気がそうするように、僕もただそうしていただけだった。 僕…

  • 自由なカモメと遠くの島 その4

    その島の中央部には大きなため池があった。表面にはアメンボのような生き物が浮いていたが、水自体は透明できれいだった。脇には貯水タンクも併設されていたが、そちらは支柱までもが錆びに侵食されており、使われなくなって随分久しいことがうかがえた。 「どうしてこんなところに池があるの?」「池というか、ここに水を貯めているんだよ。島は本土と繋がっていないから、こうやっておかないと水がなくなっちゃう。そうしたら島の住民は干からびてしまう。今は夏だから、特にね」 「不便」と言いながら、少女は貯水タンクの錆びたはしごに足をかけた。「危ないよ」「大丈夫。そんなに高くないから。それに私は信用できるから、落ちたりなんか…

  • ZIKKEN SITSUDE KIMI TO

    「ねえ、神様の正体ってなんだと思う?」 「まあ、どうでもいいけどさ……」 「ところで、雨の日の洋館っていいと思わない? 怖いあれじゃないよ」 「広い庭があって、そこにはたくさんの花が咲いてるの」 「庭は永遠に続いていて、ずっと向こうまで終わりが見えない」 「そこに、私とキミとが二人でいる」 「私は鄙びた椅子に座って、紅茶をすすっている。キミは私の向かい側で、同じようにしている」 「…………」 「……まあ、そういうこと」 「別に、意味なんてなにもない。そういうことなの。たぶん」 「…………私が誰かって?」 「…………さあ、誰なんだろうね」 「消えてしまうんだよ、私は。でもそれは悲劇じゃない」 「…

  • 自由なカモメと遠くの島 その3

    「カモメくん、あなたはカモメを見たことはあるかしら?」「また突然、どうしたのさ」「少し気になっただけよ。カモメ、私はみたことがあるわ。小さいときだったけれどね、うっすらとした記憶なの。あれはどこかの島だったかしら。波止場にたくさんのカモメが集まって鳴いていたの。あの日はこれでもかってくらいの晴れだった。百パーセントの天気だったわ。それで、私はそのカモメたちをフィルムにおさめたの。でもその時のフィルムはどこかにいっちゃったのよね。前に探したことがあるんだけど、見つからなかったの。今になって思えば、あれはカモメじゃなくてウミネコだったかもしれないわ。だから、フィルムをなくしちゃったのね」 エミリー…

  • 自由なカモメと遠くの島 その2.5

    僕はずっとスクランブルエッグを卵焼きだと言われて育ってきた。なぜ母が僕にそう教えていたのかは最後まで分からなかった。そうして、それが間違いだと気がついたのは僕が大学生になってからだった。いつだってそうだった。僕は肝心なこともどうでもいいことも、少しだけ『ずれ』て覚えていた。そういう人生だった。僕の人生はどこかしらが『ずれ』ていた。それでも歯車は止まることなくずっと確かに回り続けていた。それが厄介でもあったし、ありがたいことでもあった。初めのうちは『ずれ』を修正することにずいぶん執着したものだったが、結局僕はその『ずれ』を修正することは諦め、歯車の軌道に大人しく身を委ねることにした。そうすると、…

  • 自由なカモメと遠くの島 その2

    「ねえ、講義をサボってまですることが、こんな海沿いをなぞることなのかい?」 僕がそう言うと彼女はにやりと笑って、ボストンバッグの中に『ボブ・ディラン全詩集』を戻した。それは彼女がいつも肌身離さず持っているもので、教科書やノートなんかよりも大切に扱いそうしてよく読みふけっているものだった。「そうよ。むしろね、だからこそ意味があるのよ。分かるかしら、カモメくん?」 カモメというのは僕のことだ。彼女と初めて会ったときに、僕はライドの『シーガル』を聴いていた。だからカモメと呼ばれるようになった。 そう言って、彼女……エミリーはキリンのような緩やかなスピードで歩みを進めた。彼女は初めて会ったときに、ピン…

  • 自由なカモメと遠くの島

    夏はかげらない。夏休みは終わらない。僕の夏は永遠に引き伸ばされて、そうして心のどこかで淡い太陽光はきらめき続ける。カモメの声は秋にも冬にも聴こえる。さざ波と共に僕に向かって押し寄せてくる。彼女は今でも夏に囚われて僕をひどく不安定にさせる。 エアコンの効いた部屋で寝転がっていた僕の耳元では、シャッフル再生されている音楽が無造作の流れていた。これは……何という曲だったろう。そう考えながら、僕は無意識のうちの立ち上がって荷物をまとめた。衣類とオーディオ端末とイアフォン、そうして財布だけを持って、僕は六畳一間の部屋を出た。換気扇は回しっぱなしにした。そうすることで、この部屋に浮遊しているなにかがゆっく…

  • 配電塔と神社の日 終わり

    山の頂上には古ぼけた神社が建っていた。色というものを完全に失い、灰色に染め上げられ、ところどころ苔に侵食されている。しかしそれゆえ、神社は形容しがたい神々しさに包まれてそこに存在していた。朱色がほとんど剥げた鳥居も同様に、だからこそ、それは素晴らしいものだった。「こんなところに神社があったんだ。知らなかった」「そう? 結構知っている人は多いわよ。まあみんな知っているだけで、わざわざ山を登って訪れようなんて思う人はいないのだけれど」 彼女はそう言うと、鳥居をくぐった。その時、何かを小声で呟いた。「? 何を言ったんだい?」 僕がそう訊くと、鳥居をくぐった彼女は後ろを振り返った。「ここからは神様の世…

  • 配電塔と神社の日 その2

    「これはなに?」と僕が訊くと、彼女は「配電塔」と答えた。「配電塔?」「うん、発電所から大きな電気が流れてくるでしょ。それを変電所っていうところで小さくして、ここの配電塔に送られる。配電塔ではその小さくなった電気を私たちの家に送っているのよ」 薄汚れたその塔は金網で厳重に囲まれ、鬱蒼と草木が生い茂る山の土の上に建っていた。 先端に丁度太陽が重なって光った。もしかしたら、あの光は太陽によるものではなく電気によるものなのではないのかとも思った。変電所から送られてきた電気が外に漏れだして、ああやって光っているのだ。丁度それは、セントエルモの火のように禍々しくも美しい現象なのだ。 けれどそれが本当なのか…

  • 配電塔と神社の日

    キスをしたことがある。 まだ僕の年が二桁にもいっていない時だった。僕の地元は山に囲まれた田舎街で、僕には当時仲の良かった女友達がいた。そうして、あれは確か夏休みの出来事だった。「この山には神様がいるのよ。おっきいお爺さんだって言う人もいるし、キツネのお面を被ったお兄さんだって言う人もいる。あるいは番傘を差したお嬢様だっていう話も聞いたわ。ある人なんか、ただの木だって言うのよ。どっちにしろ、みんな言っていることがバラバラなの。そんなの、どう考えてもおかしいじゃない。絶対におんなじ形じゃなきゃおかしいの。そうでしょ? だからね、私たちで神様の本当の姿を見ましょうよ。どんな姿なのかを一緒に。ね、そう…

  • 少しデリケートな話

    知っている人もいるかもしれないが、僕は去年の九月くらいから髪の毛を伸ばしている。前髪は切っているけれど横と後ろはそのままなので、もう随分と伸びてきた。ゴールデンウイークに友人と会った時には、後姿が女に見えると言われたくらいだ。 伸ばしている理由は、音楽が好きだから、僕の憧れのミュージシャン達みたいに長い髪にしてみたかったというのが一つ。 もう一つが、少し複雑な理由。というほどでもないかもしれないけれど、自分の男という性別に、窮屈だという気持ちがあったから。 僕は女性の恰好をしている人が羨ましかった。僕もスカートを履いてみたかった。別にこれは、女性になりたいとか、自分の性別に疑問を持っているとい…

  • フィッシュ・ソング(長編小説)

    魚たちよ 海を泳ぐ魚たちよ 言葉なくして乱れぬ群れは 古代より流れる川にして 終わりまでも見えずにただ続いていく 魚たちよ 海に抱かれる魚たちよ 世界の想いを泳ぎ戯れる 繋がりは一つの温かな海だけ そう 魚たちはただ泳いでいくだけ 海の中で 他の魚たちと遊びながら 人間よ 世界に生まれた人間よ これは君たち人間へ送る詩 だから その詩の名前は ――フィッシュ・ソング―― 1 In the Miniature World. いつもは小さく感じる教室が、今日はいやに広かった。この場所を一人で占領していると、どうしてもセンチメンタルな気分に襲われてくしゃみが出そうだった。 丁度この間夏休みが始まった…

  • ジョン・レノン崇拝主義者

    神格化に必要な条件って何だと思う? こう問われると、随分と難しいように感じるけれど、実はとっても簡単な事だ。これはイエス・キリストを思い浮かべて貰えればすぐに分かる。 その条件とは、絶対的で圧倒的な力、人とは違う革新的な思想や行い、そうして悲劇的な最後、この三つだ。イエスにはこの三つが十分に揃っていた。だから人々は彼を崇拝し崇めているんだ。それは21世紀の現代においてもね。 さて、ところでジョン・レノンは、随分と神格化されているとは思わないかい? 明らかに、他のビートルズメンバーに比べると、特別な扱いをされているように僕は感じる。まあポールとリンゴはまだ生きてるけれど、例えばジョージはそんな扱…

  • ルビー・チューズデイ(短編小説)

    Goodbye Ruby Tuesday Who could hang a name on you? When you change with every new day Still I'm going to miss you ――The Rolling Stones 『Ruby Tuesday』 僕は実に多くの事柄を彼女から学んだ。 洗濯物の畳み方、包丁の扱い方、綿の詰まったペンギン洗い方、そうしてハヤシライスの作り方。 初めて彼女からハヤシライスの作り方を教えてもらった時、僕は驚いたことがあった。それはトマトを一切使わなかったことだ。僕はトマトが口内炎の次に嫌いで、そのためケチャップソース…

  • 雑CD紹介Vol.3 『Through the Past, Darkly』by The Rolling Stones

    1 Jumpin' Jack Flash 2 Mother's Little Helper 3 2,000 Light Years From Home 4 Let's Spend The Night Together 5 You Better Move On 6 We Love You 7 Street Fighting Man 8 She's A Rainbow 9 Ruby Tuesday 10 Dandelion 11 Sittin' On The Fence 12 Honky Tonk Women メインストリートのならず者だったり、スティッキー・フィンガーズだったり、あるいはアフター…

  • 自分に才能があると信じて疑わない人が好き

    小学生の頃、将来の夢を訊かれて周りはこう答えていた。 野球選手、サッカー選手、パティシエ、医者、学校の先生、パイロット、車掌さん、総理大臣、etc…… 僕は一体なんだっただろうと思い返してみたが、何も覚えていない。ビー玉に魅了されて、それを作る職人になりたいと一時期思っていたが、あれが工場で大量生産されたものだと知って絶望したことだけは何故か覚えている。 とにかく、小学生は自分を疑わない。実際野球選手になるには並々ならぬ努力が必要だけれど、自分はそれを乗り越えてプロデビューのだということを誰もが疑わない。サッカー選手だってそうだ。医者だって、教師だって、パイロットだって、勉強が出来ない人間でも…

  • 付喪神と人間

    今日の昼休み、僕は友人と一緒に食事をしていた。いつもどおりの大学の食堂の二階。一階とは違い照明も暗めで落ち着いた雰囲気なので、僕は大学に入った頃からこの場所を気に入っていた。 二限目の講義が思ったよりも長引いたので、席はもう既にすべて埋まってしまっていた。練り歩いてキョロキョロと空いている席を探す気にもなれず、仕方なく窓際の縁に二人で腰を掛けた。 友人は学食でタンドリーチキンを頼み、家から持参してきたおにぎりと一緒に食べていた(ご飯の分の代金を浮かせるためらしい) 僕は昼はいつも取らないので、携帯を弄りながらご飯を食べている友人と取り留めもない話をしていた。 話は僕の携帯の事になった。というの…

  • 雑CD感想Vol.2 『THE WORLD IS MINE』by くるり

    初くるり。ワンダーフォーゲルとロックンロールしか知らなかったので、初めてこのアルバムを聴いた時はその二曲とは雰囲気がかなり違っていて驚いたのを覚えている。 エレクトロニカ、個人的にRadioheadっぽさも感じた。しかし全てが同じテイストの曲調という訳ではなく、エレクトロニカを軸にしながらダンス・ミュージック的であったり環境音楽チックであったり、シューゲイザーみたいにノイジーな曲もあったり、あとはストレートなものも何個か。 個人的に、アルバムとしての流れが好きだった。僕は50分越えのアルバムは長くて聞き飽きてしまうことがあるのだけれど、60分丁度のこのアルバムは飽きることなく最後まで楽しんで…

  • 昔カラオケが大嫌いだったっていう話

    高校生時代のレミィが嫌いな事は三つあった。 マラソンをすること、絵を描くこと、そして歌を歌う事だ。 マラソンはただ単に体力が無くてしんどいからで、絵は全くもって絵心が無いから、そして歌は音痴だから。 合唱みたいに自分の声が掻き消されるのなら別にいい。けれど、マイクを持たされて一人で歌えなんて正気の沙汰じゃないと思う。だから僕は、今まで一度もカラオケになんて行った事が無かった。 金を払って歌うだなんてどうかしている。一人ならまだいいけど、友人と言ったら必然的に友人は僕の歌を聞くことになる。そんなの想像しただけでも恐ろしい。 けれど、高校一年の秋、僕は友人に連れられてカラオケ屋に向かっていた。 友…

  • 雑CD感想Vol.1 『DOCTOR HEAD'S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔-』by フリッパーズ・ギター

    僕がCDを聴いた時の印象というか単なる感想、思った事、感じたことを取り留めもなく書いていこうと思います。 もし「これ聴いてほしい!」というご要望があれば積極的に聴いて記事にしていきたいと思うので、あなたのおススメアルバムをぜひ僕に投げつけてくれると嬉しいです。 第一印象、とにかく驚いた。というのも、一曲目からビーチボーイズのGod Only Knowsがサンプリングされてたから。あとHeroes And Villains。他にも多分色々サンプリングされていると思うんだけど、僕は気づかなかった。 実はフリッパーズ・ギターを聴くのは初めてだったんだけど、気に入った。何か、すごく異質なアルバムだなあ…

  • 雑CD紹介Vol.2 『Definitely Maybe』by Oasis

    雑CD紹介第二回です。今回は前回のビートルズみたいにむつかしい話は無しにして、あんまり音楽に詳しくない人にも分かりやすいように心がけて話していきたいと思います。 はい、オアシスです。良いですよね~オアシス、大好きです。そういや来週ノエルのライブ行くんですよ。楽しみで今から既にそわそわしています。出来ることならオアシスのライブに行きたかったんですが、好きになった頃にはもう解散してしまっていて……うーん、再結成をずっと待ち望んではいるけれど、一体どうなることやら。でも、まだメンバーが存命なのでそこまで悲観はしてないです。僕が好きなアーティストの中には、見ることが叶わなくなってしまった人も多くいるの…

  • 5/6文フリ試し読み

    南の海のような不可思議な眠りから目が覚めると、窓の外には街灯の明かりがちらついていた。部屋の中は深い暗闇が広がっていて、僕は寒さに身震いした。 そうして麻薬のようなひどい頭痛のせいで、僕は悪いループを繰り返しているような気分になった。瞼を閉じたまま机の上に乗っているはずのリモコンを必死に手繰り寄せ、力いっぱい電源ボタンを押した。 テレビがつく。一体どこにチャンネルを合わせていたのかは覚えていない。耳障りな音が嫌になり音量を極限まで下げる。殆ど何も聞こえないが、それでも構わない。 鈍く閉じた瞼を開き、眩しい光に目を慣らしていく。全くもって優しさのない光だと思う。 丁度その時、テレビの中ではジョン…

  • It's a beautiful world we live in

    世界は美しい! とか、人間は素晴らしい! とか、生きていることは良いことだ! とか、僕は別にそんな事を言うつもりなんてないし、実際問題そんな事を全く根拠なく、まるで大多数のオーディエンスの総評だと言わんばかりに大声で叫んでいるバカが大っ嫌いだったりする。言いたいことは勿論分かる。世界は美しいと思うし、人間は素晴らしいと思うし、生きていることは良いことだとも思う。それは否定できない。僕だって、そんなクサいセリフを頭の中で反芻することはしょっちゅうだ。でも、だからと言って、僕は大声でそれを主張したりなんかできない。素晴らしいと思う時もあれば、僕は世界を心の底から恨むこともあるし、人間を呪い殺そうか…

  • 初めてのラノベとの出会い

    あれは今から七年も前のお話。中学一年生の夏休みの時の事です。僕は運動はからっきしダメなので、中学は科学部に所属していました。同期は四人で(後から他の部を辞めて入ってきた人も何人かいましたけど)、みんな基本的に仲が良かったんです。 いくら休日に部活動がないことで定評のある科学部といえども、夏休みに一週間ほどの活動がありました。僕たちの科学部は夏休みに近くの川へ赴き水質調査をしたり水生生物の観察をしたりするのが伝統になっていたのですが、それをこの一週間でやることになっていたのです。 七月下旬のある日の午前八時三十分、僕たち科学部は中学校の科学室に集まっていました。いつにも増して太陽が燦々と降り注ぐ…

  • 雑CD紹介Vol.1 『Revolver』by The Beatles

    もう既にネタが無くなってきたので、CD紹介をしていこうと思います。ツイッターのフォロワーさんがやっているのを見て、僕もやりたい!と思ったのでならばやってやろうという魂胆です。 まあ、こちらの方ではCDの紹介とは別に、僕がそのCDを買った経緯なども紹介したいなと思っています。と言っても記憶が曖昧なものも多々あるのでその辺はご了承ください。 さて、僕がビートルズを聴き始めた経緯ですが、初めはただの冷やかしでした。「ビートルズ」というバンド名は日々生活していたら嫌でも耳に入ってきますし、耳に入ったのなら聴きたくなるのが人間の性です。 だから僕は、「どうせ古臭い音楽なんだろ。まあ少し聴いてやるか」くら…

  • 何故僕は小説を書いているのか

    いつもツイッターで関わってくださっている方なら知っている人も多いと思いますが、僕は物書きをしています。せこせこと書いてはweb上で公開したり所属している大学の文芸サークルで本を出したりしています。(毎年五月と十一月にある東京文フリで販売しているので良かったら寄って下さると嬉しいです!) そんなこんなで、一体なぜ僕が小説なんか書こうと思い至ったのか、それを今回は話したいと思っています。 初めて小説を書いたのは、中学一年生の時でした。当時僕は兄からPCを譲り受けて、インターネットにどっぷりと浸かっていました。当時はまとめサイトを巡回するのにハマっていて、僕は『SSスレ』なるものを発見しました。 そ…

  • 初めてCDを買った時の話

    高校一年生の春、僕には新しい友人が出来た。随分と音楽に明るい人で、僕にも頻りに音楽を勧めてきた。 当時の僕は、音楽に対してはあまりポジティブな感情は持っていなかった。何故かと言うと、中学生時代に色々とあったせいである。まあそれは長くなるので今回は省略する。 それで僕は、その友人の勧めを半年間スルーし続けてきた。僕にとって音楽は、苦しい物であって決して楽しいものではなかったからだ。 高校一年生の秋、その日僕は仙台に遊びに行っていた。(僕の地元は山形なので) 僕に音楽を勧めてきた友人とは別のアニオタの友人と一緒に、僕は仙台の街を闊歩していた。各種聖地を巡って最後、僕たちは仙台駅前のブックオフに足を…

  • 多分、今日世界終わるらしいよ

    平成最後、だとか 新年号が、だとか 平成が、令和が、何が、これが、 なんて君は言うけど、僕は正直に言ってそういう世間の浮かれ具合は好きだよ。その上で、君が浮かれた世間に辟易して毒を吐いているのもまた好きだよ。君はそういう人だし、僕はこういう人間だし、だから否定も肯定も出来ない。 でもね、ただそれは相当君らしい。僕はどうやら普通の人間だから、君みたいに斜に構えることなんかできないよ。君みたいに物事を横から観察することは出来ない。いや、もしかしたら斜に構えているのは君の方かもしれないね。そんなの分かりっこないけどさ。 でも嘘なんてついてないよ。全部本当さ。そうやってしかめっ面をする君が、僕は大好き…

  • 初期P-MODELを解説? とは程遠い何かをする。

    ※ P-MODELってなに? っていう人にはなんじゃこりゃな内容なので注意してください。また、勢いだけで書きました。文はメチャクチャ乱れてます。ごめんね。 そもそも僕は、初期P-MODELがかなり軽視されているんじゃないかと常々感じている。それはP-MODEL自身が初期のテクノ路線を簡単に捨てて3rdアルバム『ポプリ』を制作したためでもあるし(でもポプリってテクノとロックのハイブリッドで、完全にはテクノは抜けてないと思う)、現在の、いわゆる『教祖的な』平沢進像と対比させた時にあまりにも似つかわしくない、言わせてみれば人間の時の平沢進の姿、という見方をされているためではないだろうか。 しかし、P…

  • 思いっきり放置してたな

    すまん、ボチボチやっていきます。

  • ちんちんを見せずにちんちんを見せる方法

    ちんちんを露出したいというのは男なら誰もが抱いたことのある思いではないだろうか。しかし悲しいかな。この日本ではちんちんを露出したらなんと捕まってしまうのだ。その為全国の猛者たちは、如何に捕まらないようにちんちんを露出するか日夜頭を悩ませている。 ここで、私が考え出した案を一つ紹介したいと思う。それは実に簡単で、更に捕まる確率はほぼゼロに近い。 その方法とは、「コートを着て、相手の前でコートのフロントをはだけさせるのだが、実際にはちんちんを隠したまま、相手が自分のちんちんを視界に入れる前にコートをしめる」 こうすることによって、実際はちんちんを露出していないのに、「露出した」という結果だけが残る…

  • Summer_Pockets 総評 ※ネタバレなし

    サマポケ終わりました。 いやはやいやはや…… んも~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~よかったよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?!!?!!?!!?!!!???!?????????? 優しいんだよなあ…優しすぎるの あったかい 心が 心があったかい 心があったかい いやもうねえ、夏ってね 夏って こんなにね こんなに あったかいんだなあ……

  • P-MODELと平沢進の精神世界(スキューバ編)

    さて、次に発売されたのは「スキューバ」というアルバムである。しかし、これはP-MODELとは銘打っているものの、殆ど平沢進個人で製作したソロ作品のようなものである。このアルバムは現在のような平沢進の原点ともなった非常に意味のあるアルバムであり、同時に今後のP-MODELの方針を決定付けることにもなったアルバムである。 「アナザーゲーム」で深くまで落ち込んだ平沢進の精神であったが、当時平沢はあるものに触れ、それを解消する事になる。それがユング心理学である。ユング心理学自体の説明を一からするとかなり長くなってしまうため、ここではかいつまんで説明をする。 ユング心理学で大事になってくる概念として、「…

  • P-MODELと平沢進の精神世界(ポプリ、パースペクティブ、アナザーゲーム編)

    さて、P-MODELがテクノを脱却して初めて製作したのが3rdアルバム「ポプリ」である。まだこのアルバムではシンセサイザーはフィーチャーされているが、あくまでスパイスで使っている程度である。今までのような直接的で批判的な歌詞は難解で抽象的になり、曲調は何処か影を落とした暗いものが増えた。 そして間もなく、4thアルバムの「パースペクティブ」が発売された。ここではポプリで使われたようなシンセサイザーの音は姿を消し、空間的な音処理と以前よりも難解で抽象的な歌詞、重苦しい曲調が更に強調された。 次に発売されたのは「アナザーゲーム」というアルバムだが、このアルバムが発売されるまでにはちょっとした事件が…

  • P-MODELと平沢進の精神世界(初期編)

    P-MODEL(1979~1988,1991~1993,1994~2000)とは、日本の音楽グループであり当時ニューウェーブ、テクノポップムーヴメント真っ最中だった1970年代末期にデビューを果たし、早々にテクノポップを投げ捨てて意味わからん音楽(褒め言葉)をやった変態集団である。私はこのP-MODELが世界一好きなバンドであり、いつかP-MODELについての記事を書きたいとずっと思っていた。知識、経験ともに未熟でその魅力を十二分に伝えられないのは承知の上だが、出来る限り私の好きをこの記事を通して伝えたいと思う。 さて、この記事では初期編とある。P-MODELの初期は「IN A MODEL R…

  • 次回の記事について

    本日、明日をお休みして、明後日に三本まとめて投稿します。 自分が前から書きたいと思っていたP-MODELについての記事です。 過去最高に気合いを入れて書くのでお楽しみに

  • 現実と夢の世界

    僕たち人間は現実の世界に生きていますが、現実にいながらにして夢の世界に触れることができます。その手段は、実際に眠って夢を見ること、アニメやゲームなどのメディア作品に触れること、麻薬をやるなどの方法があります。少しならば何の問題もないのですが、あまり夢の世界に触れ続けていると、現実と自分自身が乖離していきます。夢の世界には現実にはない多くのものがあり、僕たちはそちらの方に魅力を感じるため、それは仕方のないことです。現実に不満を持っている人なら尚のことそうでしょう。 しかし、ここで現実世界と自分自身が完全に乖離してしまうと、それは「狂った」と現実世界の人間に判断されてしまいます。こっちは永遠に幸せ…

  • 【日記】ポール・マッカートニーのライブを見ていた

    昨日、YouTubeでポールのライブのストリーミング配信をやっていたので、一時間ほど見ていた。やっぱりいいね、ポールは。ジョンも生きていたら、今頃こんな感じでYouTube使ってたのかな。いや、ジョンの事だからYouTuberに興味示して自分もなってたりして。 個人的にはブラックバードが聴けたから大満足。あの曲はポールの曲の中でも特別に好きだから。まあそんな感じ。 いつも音楽については記事であれこれ言っているので、たまにはこうやってただ好きって言ってみるのもいいかと。そんなことを思ったのでした。

  • ミーハー洋楽厨の撃退方法

    ※私の偏見に満ちた記事ですが怒らないでくれると嬉しいです。 ミーハー洋楽厨は何故発現するのか。多くは邦楽をメインに聴いていた層が、何を血迷ったのか洋楽も聴いてみようかなと言い出して聴くのが大半です。そういう人たちは洋楽が好きなのではなく、「洋楽が好きな自分が好き」なのです。こういう奴らは話していると言ってることがクソ薄っぺらいので簡単にわかります。大学の軽音楽部でイキってるキモい髪型のもやし男に多いタイプです。気をつけましょう。 そういう奴に、「僕も洋楽聴くんだよ~」と言うとほぼ百パーセントの確率で自分の方が詳しい前提で話を進めてきます。あなたは怯まずに、自分の好きなバンドの話を続けましょう。…

  • 中学時代って大事よ?

    中学生というのは、いわゆる青春時代。多感で不安定な精神状態を内包していてる時期だ。多くの人が初恋を経験し、恋という正体不明のもどかしさと嫌らしさに振り回される。また少しずつ大人になり始めたことにより、自分の置かれている窮屈な立場から早く解放されたくて、先生や親に反抗する。中には中二病に掛かっている人もいるだろう。思い出したくない、黒歴史だという人も多いだろう。 しかし、思い出してみてほしい。絶賛中学生だよ~という人はしっかりと聞いていてほしい。実はこの時期に経験した刺激に勝る刺激は、今後一切得られないのだ。 中学生の時に見て経験したもの。皆さんも強く覚えているのではないだろうか。世代がバレそう…

  • 最近のバンドってクソだよねwww

    いやいや、別に煽ってる訳じゃないっすよ?いや批判しているのは確かにそうなんですが、最近の音楽を頭っからクソだ聴くに絶えないって言ってる訳じゃないっす。といっても聴くに絶えない音楽というのはごまんとあります。それは今も昔もなんですが、最近になってその傾向が顕著になってきています。 それは何故か。私は思いました。私は懐古主義的なところがありオールディーズの音楽を良しとする性質がありますが、だからといって流石にそれ以外を排除するほど保守的じゃないです。昔には昔の、今には今の良さがあります。 それでも言わせて下さい。最近の音楽はクソです。バンドもそうです。クソです、クソ。そして何故そうなったのか、最近…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、remy1202さんをフォローしませんか?

ハンドル名
remy1202さん
ブログタイトル
音楽とエロゲと哲学の庭
フォロー
音楽とエロゲと哲学の庭

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用