日曜の朝、雨は上がっていたが、 まだ空気はしっとりと重かった。 母は車椅子に座ったまま、窓の外を見ていた。 86歳。足腰は弱っても、頭はしっかりしている。 「今日、行くんでしょ? 投票。」 トーストを焼きながら言った。 「当たり前よ。私、欠かしたことないんだから。」 少し得意げに言うその顔は、 どこか少女のようで、思わず笑った。 車椅子を押しながら、 ふたりでゆっくりと市民センターへ向かう。 途中で近所の人に会い、軽く挨拶を交わす。 エレベーターもスロープも、 昔より整備されたとはいえ、 段差ひとつに気を配るのは変わらない。 投票所に着くと、係員が丁寧に案内してくれた。 「お手伝いしますか?」…