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2018/07/28

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  • 水中では動きが鈍る 2-6

    「……上にも下に横にも斜めにも人がいるのが嫌なんだ。わがままといえばそれまでだが、無駄な挨拶や気遣い、配慮がどうも体に合わない」 「社会ってのは、たいていそういうものですよ」相田がきっぱりと切って捨てた。そこには同意も含まれていたかもしれない。 「そうかもな」 「なんか、空気が重くなりましたね」 「二酸化炭素が増えたからでしょうね、窓を開けたら軽くなります」種田は相田とは異質の吐き捨て。 追いかける車両はスタートと同時に白煙を上げて左に曲がった。リアクションをとって熊田も機敏に反応する。二車線の右側を走行する別班車両は追従できずに、まっすぐ交差点を通過していった。 スイッチを切っていた無線を種…

  • 水中では動きが鈍る 2-5

    「うるさいぞ、大きな声を出すな。上からの指示なんだ従うしかないだろう」相田の説得が始まる。彼がこの中では最も中立的で常識に富み、一見していい加減そうな風体は常識人を隠すための装い。誰もが皆何かしら装っている。 「いつもの言い方に比べると語気が強かったように思います。やはり犯人は彼と見て間違いはないですね。それだけの確信が言動の裏返しですよ。管理監は確実なものしか信じませんから」捜査は基本、証拠を重要視する。明らかになる情報はあくまで証拠を後押しするスパイスであって、材料は証拠なのだ。確実な証拠から外堀を埋め犯人を追い詰め、捜索の範囲を絞り込み一気に片を付けるのが彼のやり方。だから熊田のように推…

  • 水中では動きが鈍る 2-4

    「熊田さんはよく犯罪者の心理が読めますね。僕なんかはてんでダメですよ」鈴木はフルフルと首を細かくふった。その言い方や行動から擁護を望む心のうちが滲む。 「お前はたんに頭のネジが何本か抜けているだけだろうが」 「いまどきネジが抜けているなんて言われても、若者は理解できませんよ。子供の遊び道具もネジ一本で不具合が解消するようなアナログな商品なんて、もうありませんから」 「お前に通じるのならそれでいいんだよ」 種田の携帯が震えだした。ディスプレイには見覚えのないナンバー。 「はい、種田です」 「お前たち、勝手に動くな!あいつにバレたらどうするつもりだ。さっさと尾行を止めろ!」一旦携帯を耳から離しボタ…

  • 水中では動きが鈍る 2-3

    無線のやり取りが途切れた。 静寂。 行き交う車にライトが灯り始める。 人通りも少ないのかまだ通行人は下校中の中学生一人だけである。 カラスの鳴き声。 出てきた。交番の引き戸が開くと警官の姿。軽く中にいるもう一人の警官に挨拶をしてドアを閉めた。制服から着替えているようで長袖のシャツとジーンズ。彼はパトカーの脇に止められた乗用車に乗り込む。 車はS市方面へ走りだした。 熊田がエンジンを掛け追走する。 運良く赤信号で車の流れが止まっていた。 シビックは悠々と車線に合流。 「私達が一番近くにつけているようですね。後ろの車が別班の車両ですよ」種田がサイドミラーで後方を確信して言う。鈴木と相田がやっと窮屈…

  • 水中では動きが鈍る 2-2

    相田にとってはわざとらしく馬鹿にされるよりもきつい仕打ちである。「バカ、違う、勘違いするな」種田が後部座席を振り向くと冷ややかな目で相田を見据えた。蛇に睨まれた蛙である。視線は5秒ほどで正面に直る。鈴木の頭が相田によって叩かれる。 「いたっ。ちょっと何するんですか?」 「うるさい」 「うるさいぞ。そろそろ時間だ、各自準備しておけ」 「はい」後ろから揃った返事。熊田は腰をずらし顔がちょうどハンドルと対峙する位置にまで体勢を崩し、外から見つかりにくいように体を隠していた。時刻は夕方5時をまわったあたり。晴れていれば、まだ辺りは明るさを保っているのだが、数時間前に降った雨のため空は鉛色の雲一色となり…

  • 水中では動きが鈍る 2-1

    「第三の被害者の身元を調べるほかにも、こなすべき仕事はあります」 「だから?死んだ者はもう生き返らない。しかし、これから殺される者は生きている。死体から見えてきたのは殺され方と死んだ事実のみだ。だったら、犯人と思わしき者に張り付いて犯行の間際で阻止するのが最も適している」 「ずいぶんと、アナログですね」 「おい少しそっちにずれろよ」相田のくぐもった声。 「無理ですよ、目一杯です。相田さんが大きいからですよ」屈んだ鈴木が体勢を変えようともがいているが狭い車内では身動きが取れない。 「何言っ……、お前今のは失言だぞ」 「小さいなあ、そんなことにいちいち目くじらたてないでくださいよ」 「小さくねえよ…

  • 水中では動きが鈍る 1-7

    「……なんでもありません。もう大丈夫ですから」言葉の後半はきりりとしたいつもの種田の口調である。気を使わせないためだろうか、喫煙室を出た熊田に続いて種田も部署へと戻った。 「あんまり、根を詰めるとあとが大変だからな」そう言うと、相田はどかっと向かいのデスクに腰を落ち着けた。取り出したハンカチで顔から首筋の汗を拭きとっている。 「重田さちについては新しい情報は掴めましたか?」種田と相田の会話はいつも決まって種田からの質問で始まる。昨日何をした、どこへ行った、あれが好き、これが嫌、などの自己表現のたぐいは聞いた試しがない。相田にとっても、女性のお喋りは嫌いだ。ストレスの発散に使われているとしか思え…

  • 水中では動きが鈍る 1-6

    犯行自体が演出で、取り調べも行員たちの演技。 騙されたのは最初からか。 お金はどこへ消えた? 銀行内からは一度持ちだされて、近くの安全なしかも調べの付かない場所に保管され、警察の撤収で回収。 「もう一度聞きますが、銀行強盗と殺人の結びつきは何でしょうか?」思い出したように種田は口を開く。必死だったと思う。分からない問題など彼女の人生においてはたったの数度しか遭遇していない。まして、現実世界でのやり取りなどは紋切り型の人間が行った事情である。分からないハズはない、どこかに近くそれも遠くない時間にそれと似たような現象は起きていて、まるで双子のように姿を似せている。だから、探せばいいのであって、無理…

  • 水中では動きが鈍る 1-5

    「その説明だと犯人は銀行全体となってしまいます……」そう言ってから種田は言葉の続きを想像する、紙幣が移されていないのは移動したと見せかけるとの洞察ができあがる。 「銀行員が強盗をはたらかないと誰が決めた?警察官や刑事、役所の職員や議員、会社員、役人、消防署員、救急隊員、医者、看護師、職業である前に人だからな、罪ぐらい犯すよ。思い込みは、銀行員が銀行強盗をはたらかないという心理につけ込んだために起きた」 「早く知らせないと!」 「もう遅い。証拠はなにもないんだ、監視カメラも犯人の体格や利き腕しか読み取れない。顔はマスクで覆っている。髪の毛等の証拠品も行員が犯人ならば現場にそれらの人物たちのものが…

  • 水中では動きが鈍る 1-4

    「参ったな。誰にも言うよな」一度種田を見て、視線を逸らしまた、元に戻してから言った。 「今まで私が誰かに話した事実があったでしょうか?」じっと真っ直ぐな種田の眼差し。 「ない。もっとも会話の頻度が少ないだけだがな」 「それがなにか?」「 「いいや、なんていったらいいかな」負け戦を認めて熊田しぶしぶ質問に答えた。「まず一連の事件はおそらく同一人物による犯行だ。待て、質問はあとだ。そう、一件目の事件は誰にでも起こりうる被害だったが、明らかになった被害者の母親の行動から何らかの関与が疑われた。行動も不信でレンタカーの利用も疑われる要因であった。だが、犯人といえるような明確な証拠は浮かんではこない。む…

  • 水中では動きが鈍る 1-3

    種田は喫煙室へと足を向けた。 「熊田さん」窓辺に立ち、なんともなく二階から下界を見下ろしている熊田に声をかける。タバコの煙をまとった熊田が振り向く。佐田あさ美の通報で駆けつけた警官は一人でしたよね?」 「ああ」振り向いた顔はすぐに元に戻される。 「通常ではありえない」 「そうだ。しかし、遅れてもう一人の見張りの警官がやってきた。交通事故の処理で遅れたらしい。裏も取ってある」 「遅れてやってきたもう一人はどうやって現場まで来たのでしょう?」今度は機敏に振り返る。「現場へのアクセスはほぼ車に頼るしかないでしょうし、制服を着た警官がバスやタクシーには乗らないとすると現場までの交通手段は徒歩しかありま…

  • 水中では動きが鈍る 1-2

    「はあ。三人目の被害者の身元は判明しました?時間からしてそろそろかなと思いましてね」 「女性、推定年齢は20代から30代。身長は160センチ。出産、妊娠はしていない。歯の治療痕から、発見された現場付近の歯医者を調べさせているが、殺害場所が不特定だからまず引っかからないだろう。それに、捜索願との情報の照合も望みは薄いだろうな。前の事件がいかに特別だったが嫌というほど身にしみるよ。わかっているのは、それぐらいだ。ニュースを見た知人からの連絡を待っても限りなくゼロに近い期待だろう」 「エンジンオイルについて、追加の情報は?」 「メーカーの特定はできたが市販もされている。入手経路から犯人を特定するのは…

  • 水中では動きが鈍る 1-1

    早足で歩き駐車場を横断。エンジンを掛けるのかと思いきや種田が乗り込んでも運転席の熊田は火のついていないタバコを咥えたままフロントガラスとにらめっこ。日井田美弥都とのやり取りから何かを掴んだのは不自然な行動から窺えた。両手でハンドルを抱え込むような格好である。種田は、こちらの世界に帰還するのをただ待った。 毛づくろいの猫、強まる塩風、前かがみで窓からの曇り空。 空を眺める時はいつも時間の流れが遅い。 空をいつも見ている人は遅いとは感じない。 比較の問題。 建物の中だけの生活には空は密接していない。 それでも、思い出してふとした時にだけ空を見上げて存在の再確認で心を映す。 草原に仰向けに寝転がり、…

  • 重いと外に引っ張られる 5-4

    「と、言うわけです」のびた麺に琥珀のスープ。食べ急ぐ繁盛店ならではの後続への配慮もいらない。あんな狭い空間で早く食べろと急かさせて食べるのはどうも味を求めてまで並ぶ意味が無いように感じる。相田はとっくに食べ終わり、タバコを吸っていた。鈴木も最後の一口をすすり、グビッとスープを残り半分ほど飲んだ。 「答えに筋は通っている。捜索願は警察内で共有していないとそもそも意味が無い。怪しいが、これ以上踏み込むにはもっと明確な証拠が必要だ」 「彼女はやはり犯人ではないのでしょうか?」 「さあな。ただ、親子だから殺さないとは言い切れない」 「子供を殺すってどんな気持ちなんだろう……」 「感情移入は客観的な視点…

  • 重いと外に引っ張られる 5-3

    「娘さんの捜索願を出していますね、発見された日の翌日に」 「娘が帰ってこないことなんて今までなかったの。親が子供の心配をして当然でしょう、なにがいけないのよ」 「変ですよね」鈴木はわざと、間をとって先を急ごうとしない。相手がじれるのを待っている。本当はこんな駆け引きはしたくはない、もっと正攻法で仕事がしたい。一度、そんな自分に嫌気が差した。汚れていたけれどまともだと思っていた奥底まで、ひどく汚されたように仕事を続けていると感じていた。 純粋であると、傷だらけになる。疲れる、休む、傷つく、疲れる、休む。この繰り返しで覚えたのが仕事だからと割り切ることで毎日を凌いでいた。けれど、まだ完全に分けられ…

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