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2018/01/28

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  • あとがき

    戦死せし 五来川上斎藤よ わが青春の 糧たりし友よ この詩集を思い立ったとき、敗戦まえに詠んだ作品は全部除くつもりで読み直してみると、そこには、かつての私にだけあって今の私にはないものがあると、改めて思い知らされた。今の私にないのは自ら捨てたためといってもいいが、詠まれた世界は私自身の歴史だから、敢てこれらも加えることにしたのである。 昭和戦争時代のこれらの詩や短歌は、ひどく粗雑でありまた稚拙であって、かつ冗長である。更に「神」という文字が何度も出てくる、というように言葉遣いが安易であり、今の私にはかなり抵抗ある作品が多い。それにも拘わらず、詩情があると思う。 当時の私をいまは他人のように眺め…

  • みいくさびと

    ・・・S兄に捧ぐ あまねくてらす つきかげに おほひてあまる くろくもを うちはらはむと みいくさに めされゆくなる ますらをの あかきこころの たふとさは なににたとへむ すべもなき そのゆかしさと きよらさを はなにもとめば さくらばな はるまださらぬ ひとのよの わかきいのちを きみがため すててをしまぬ まごころは たふとくもまた ゆかしけれ そのたくましき ちからこそ とりにもとめば わしににて かつはひろけき おほぞらに むらがるくもを うちはらひ かつはよせくる おほなみの あれてくるふを うちくだく まことよはなの ゆかしさと はたまたとりの つよさにも まされるきみの いでゆ…

  • 見渡すかぎりの人の波である この広いスティションは 出征兵士で それを送る人で 正に立錐の余地もないほど ギッシリと埋まってゐる 波 波 波である 私はその人波の中を 轟々たる 話声 雑音 騒音の中を それらの 尊い 喜ばしい お目出たい喧噪の中を もまれ おされ もまれ おされて あッち こッちとよろめいて歩いてゐる 実際 これは大変な人出である 男 女 老人 子供 母 妹 父 兄 弟 姉 友 それらの 雑然たる人の波である 統一ある人の波である 旗 旗 旗 出征兵士 その人波の中で 私はひとつの顔を見たのである よく知った顔である よく知ってゐるどころか 私の最も親しい友人の顔なのである …

  • 神兵讃仰賦

    アッツ島に散りゆける神の兵 二千を思ひて作れる 天地(あめつち)の 極まるところ 膚(はだ)さす 荒ふく風の いや更に 膚さすところ 凍てつきの 涯なる山の いや更に 凍てつくところ 冬籠(ごも)り 春去りくれど 吹ききたる 風なぎもせず 氷柱(つらら)なす 氷もとけず 神護(も)らす やまと島根ゆ はるかなる 北の涯なる 人も吾(あ)も いまだ見ねども 伝へきく 氷の島に 天皇(すめろぎ)の 勅命(みこと)かしこみ あしひきの 山谷こえて 浪たてる 海原(うのはら)わたり この島に 着きたる日より 日の本の わが大君の われらこそ 醜(しこ)のみ盾ぞ この護り 一日(ひとひ)たりとも 忽(ゆ…

  • 第三次ブーゲンビル沖航空戦

    十一月十四日ラヂオ報道をききつつ詠める 大勝の報道(しらせ) けふもあり 一度(ひとたび)は よろこびに満ちて 胸ふるへしが 火となりて 敵艦(あだふね)めがけ 自爆せる わが友軍機を いま眼に見たり 愕然と いま眼に見たり 轟沈(ごうちん)の しらせに続く 自爆三十機 憤り 胸をつんざき 術(すべ)もなし わが三十機 未だかへらず 自爆なり ああ自爆なり しかありて 敵(あだ)の艦船(ふねぶね) うち潰えしを ふるへつつ 自爆てふ声 耳をつき 悲しとも また憤りとも 高鳴りて 血こそ荒れけれ 三十の わが友軍機 未だかへらず 黙然(もだ)ありて わが正しきか はらからは 火と燃えて いま命死…

  • 鎌倉史跡詠

    鎌倉宮にて 悲しきや 八畳あまりあるといふ み洞をぐらく 見きはめられず 思ふだに いたはしきかも 天つ神日つぎの皇子の たほれ給ひぬ 時ならば 大八州国しろしめす 日の皇子なるを ああ 時ならば いきどほり極まりて いま ひれ伏せば 吉野の皇子の み声きこゆる 悲しみか あらず 怒りか またあらず 燃えたぎりたり われが心は 鎌倉宮 いまも護(も)らすと 彦四郎義光公の 宮のおはしぬ 右ひざの ざくりと裂けて 色あせし 模品と申す 宮の直垂(ひたたれ) 鎌倉山にて 鎌倉宮 めぐれる山の もとにして 神代の風の 心地よく吹く 頼朝公墓にて ひとかこひ 苔に朽ちたる 墓どころ 頼朝公は ここにお…

  • 応召

    大方は うつりゆきけり 五年(いつとせ)まへの その面影の いささかもなし 軒なみに 征(ゆ)きしと 小母の語るをば 殊更に聞く ふるさとの家 万歳の声 ひびきけり この村の 最後のひとり 今 征きたるか 世のうつり早きを 思ふ そのかみの 腕白小僧が 飛行兵たり ひとつひとつ 尋ぬる家の 幼子が 今は 少年飛行兵たり 石もなく 木も朽ちはてし 父上の墓は 悲しく 荒れにけるかな 声も出でず ただ土のみの 墓の前 ひとりわが立ち 応召を告ぐ 墓守も 半月まへに 死せしてふ この故郷の 墓の荒れしは (昭和十九年七月) 大正14年に早世した父上

  • S君に自覚をすすむる歌

    朋友S君一日わがもとに歌稿を送り来るなかに 一女性に捧ぐる歌あり大凡十篇なり その女性はわれ知らざるも 同君の意中の人たり されど彼には故郷に約せし人ありて 近きにめとらんとす よってこの歌を送る 大天地 ただ一人の 妹(いも)なるに 何とて よその恋にまどへる あやまてる 身の科(とが)に泣け 正道(まさみち)の恋てふものは さにはあらざり ふりすてよ 国学の子と みづからも われらも讃ふ 君にあらずや 国学の 清きながれに 身をよする 君なるものを 妹あるものを 如何ならむ 恋にともあれ 妹と呼ぶひとは 二人と あらざるものを 故郷に ひとり淋しく 君が身を案じつつあり いとし妹はも 一人…

  • 出征する同志に

    川上茂市兄に いま更に 何をか言はむ み戦(いくさ)に 征くてふ 君は 君にしあれば (昭和十九年三月) 山本繁隆兄に さくら花 背に負へる君 日の本の 神の怒りを そのままに 征け (昭和十九年十二月) 斎藤良雄兄に まつろはぬ 夷(えびす) ことごと 骨たちて 神の怒りを 見せばやな君 (昭和二十年一月) 昭和19年9月19日 朝鮮平壌市外「美林」ポプラ林にて

  • 出陣の賦

    - この一篇を相楽(さがらか)の同志 神谷博君に献ず ー 神武創業の源にかへさんとする 帝国が悲願 漸く近きに成らんとして さんさんたる太陽昇天の朝 草莽の臣 此方に再び令状を拝す 感全身にみなぎりて 意述べんとして述ぶるに能はず 噫我二十有四歳 故ありて生を皇土にうけ 四界洽き皇化に浴し 幸ひにして心気清明 再び執銃して奸夷を撃たんとす 今省みてみづから思へば 我初陣は即ち昨年初夏の候 南海に決戦激烈を極むるの秋 入隊せんとして未だ至らず 正に部隊の営門に近くして サイパン島守備兵全員戦死を聞く 憤り我が頭髪をかきむしり 悲しみ我が心魂をひきさく 然れども我が為に天機なく 僅か数ヶ月にして帰…

  • むかしがたり

    むかしむかしと ゐろりべに むかしがたりを するおきな いとどかみさび みづからの かたるおきなに にたるかな かのそふかたる くちもとの しらひげひそと みつめいる をさなわらべの まろきめも むかしがたりに にたるかな ぱちぱちぱちと おとたてて もゆるたきぎの いろあかし おきなはかたり わらべきく ふゆのゐろりの あたたかきかな (昭和二十一年十月)

  • 安岡正篤先生

    一冊の 本を求めて ひもすがら 神田の街を さまよひにけり ほとほとに 疲れて いそぐ わが腰の 雑嚢にあり 漢詩読本 世をおさめ 民を救はむ はげしくも 燃え立つ命 経世嗩言 わが膝と 膝をまじへて ひたぶるに 教乞ひたし 安岡の大人(うし) 今の世の 哲人なりと 友のいふ 大人(うし)の齢(よはひ)は 五十に満たず 東洋倫理概論といふ 世を興す 書(ふみ)を得てより 半年すぎぬ (昭和二十二年一月)

  • 春日遅々

    菅の根の ながき春日を ひたごころ ひとりしあれば 欲しきもの 更にいまなし うらうらと 照る日の部屋は 風のねの こそりともせず はるかなる 人ぞ偲ばる うとうとと 春日をねむる うらさぶる こころもなくて 白ひかる 子猫のごとく しんかんと ま昼のなかに ひとりして 畳にふせば 忘れけり 夢もうつつも (昭和二十二年四月)

  • 失意

    言ひ難きを つひに 言ひはつ ひょうひょうと 風ふきすさぶ 夜の銀座に そののちに 来るべきもの われ知らず いまはただ言へ 胸の思ひを あかあかと 街につらなる電灯の 光はげしも 眼にしみるまで 大きなる しくじりをせし 思ひあり 俄に ほほに血ののぼり来ぬ 高照らす月も かひなし くろぐろと 地に横たはる おのが影かも 天みれば 天のこころに なりぬべしと くだちゆく夜を 立ちゐたるかも 慰むるこころも 知らに 風まじり 雨うつ夜半を ひとりゆくかも 雨ゆけば 果物みせの ガラス戸に 映る影さへ 淋しきものを 靴も濡れぬ 手袋の手も 袴すらも しとどに濡れぬ 傘のしづくに さびしさびし 雨…

  • 春のうたげ

    われや歌びと ならずとも 君い征く夜に ひらきつる 四たりの友の かのうたげ 心もしのに 偲ばれて 風こそふかぬ 膚さむき きさらぎの夜を 恋ふるかな かはるがはるに 飲め飲めと 強ひられるまま 強ひるまま さかづきかさね 五つ六つ 九つ十と およぶほど 頬のあかきを 撫でにつつ もろ手をふりて 君云へり ああわれいたく 酔ひにけり さくらかぐはし 春の夜を 君らがすすむ うま酒の その嬉しさに 酔ひにけり このうへ更に すすむとも のどには入らじ 乞ふゆるせ さはさりながら 如何に君 明日もののふと い征くみの かくばかりなる 酒の香に 酔ひしことこそ をかしけれ さてもさかづき 小さくば …

  • 保元平治物語詠

    寵愛の ふかかりければ 幼帝を立てし それより 起りたる乱 ( 保元 ) へろへろ矢 清盛ごときが 何せむと 肩ゆさぶりて 笑ひけむかも ( 為朝 ) はるばると 敵となる子に 重宝の鎧 おくりしか 武将為義 炎々と 御所は燃え立つ 烈風に 源為朝 歯がみして 立つ その左手(ゆんで) 右手(めて)に 四寸を ながしとふ 鎮西八郎 弓ひきしぼる あにおとと 奇しくも 此処に 面(おも)あひて 闘わんとす 義朝為朝 父弟(ちちおとと) 勅命なれば やむなしと 涙に斬りし 義朝あはれ ほろびゆく 源家の武運 なげきつつ 十三にして 乙若斬らる よっぴいて 射ったりければ 三百の討手 たちまち 沈み…

  • 金堂炎上

    法隆寺金堂失火により壁絵もともに炎上す こんだうの かべゑのほとけ おとろへしよを いたみつつ もえゆきにけむ (昭和二十四年一月) [法隆寺金堂壁画 - Wikipedia]

  • 幼子に

    幼子よ! お前たちの生まれたのが 間違っていたのだろうか お前はいま お前の貧しい母親のふところで 無心にねむっているけれど お前のこれからを考えると お前の両親の心は暗い お前の父と母とが 根かぎり働いても 生活を支えることが出来ないほどの こんなにも苦しい世の中に 何故 お前は生まれたのだろう お前の両親はお前が早く成長して 元気で立派な人間になることを どんなに望んでいるだろう だが だが そうなるまでに お前の両親はどんなに心と身体とを すりへらさねばならないだろう そればかりではない 全人類が亡びるという恐怖さえ お前の両親は感じているのだ 再び あの忌まわしい戦争が起きるという不安…

  • 志尚

    われかつて友と住みにき その部屋狭く汚れて貧し 六畳と二畳つづきに 新聞紙 雑誌 灰皿 ペン インク 鍋 電熱器 反古 写真 屑かご 布団 いささかの米 味噌 野菜 整然と! 乱れてありぬ 乱れつつ散りたるなかに 混沌と懐疑は住めり 混沌はわが性(さが)にして 懐疑とは彼が性なり 大いなる高き望を 混沌と懐疑語りぬ 新しき二十世紀と 古めきし歴史以前と 情操と意志と叡智と 美と善と真との世界! 芸術と政治と 自由と束縛と 夢と現実と 喜劇と悲劇と 知恵と運命と 戦争と平和と 人事と天命と 科学と宗教と 日をつぎて語りえざれば 夜をつぎて遂に終らず 何事も知らざる故に 何事も信ずるを得ず これは…

  • 日本選手 ロサンゼルスに大いに奮ふ

    全米水上選手権大会 千五百予選 日本選手 全員一着 ロサンゼルス 日本選手大勝の 快報とびぬ 昨日も今日も 太陽が 輝きゐたり 水の上(へ)に 死力かたむけ 英雄二人 全世界に ただ一人(いちにん)の英雄の 君や 日本男児なるかも ロサンゼルス 昨日(きぞ)の勝利を 目によみつ 危ふく 涙のおちんとするも おとろへし 日本の国の くにぢから 奮ひたてんと 君ら競へる 全世界の視聴 集まる この一瞬 フジヤマの飛魚は ほとばしりゆく (昭和二十四年八月) [古橋廣之進 - Wikipedia]

  • 松籟

    この山の ひょろりと高き いっぽんの 松のしたねに いこひてゆかな ちち ち ち と鳴くに 仰げば ゆららゆらゆららと 松のゆれわたりつつ 山にして まなこつむれば 山なりの ひょうひょうとして 烈しきものを 持ちてこし 書(ふみ) かたはらに おきすてて 松風の鳴り きくこころかも みあぐれば 松のあひまゆ 秋のひの陽(ひ)は やうやくに 晴れてくるかも (昭和二十四年十月)

  • 手記「きけわだつみのこゑ」に寄せて

    「わだつみのこゑ」 眠れぬ夜を 読みゆけば ごうごうとして 響きくるもの さんさんと 涙ながれて 如何ともする すべ 知らず 遺書を わが読む 学半(なか)ば 筆折り 剣(つるぎ) とりはきし ああ 学徒兵 若かりしかな 新しき世は 来りけり わだつみに ほろびし人の 遙かなるかも たらちねに 妹(いも)に 幼なに 切々の こゑの叫びは いまぞ聞ゆる 弾圧の 嵐のまへに 弱々しき 日本人われを 省みんとす 流されし血潮 ふたたび 流すまじ 人こぞり立て 一九五〇年 (昭和二十五年六月) [きけ わだつみのこえ - Wikipedia] 終戦後に受領した従軍証明書

  • 桜を伐る音

    桜を伐り倒す音がする とおあん たあん とおあん たあん 荒れ果てて だだっぴろい子供部屋だ 窓という窓には ぎっしりと板を張りつめ 扉という扉に 固く錠をおろし 夜のように静まりかえった 地主の家だ みんな 行ってしまった わしの ことを 忘れて いったよ・・・ 油じみた杖で 寝台に歩みを運ぶ このしわがれた 世紀の影は 何を 夢みようとしているのか ええ! おめえは 出来損ないめ! うす汚れた長椅子に うずくまり 疲れた老木は しずかに眼をつむる とおあん たあん とおあん たああん とおあん たあああん 桜を伐り倒す音がする (昭和二十六年一月)

  • 奔馬を思う

    あのごうごうたる音は何だ あの凄まじい怒号は何だ まるで太陽そのもののように ぎらぎらした両眼に血をふかせ 泡をふき 渦をまき 砂塵をあげ 前進を汗みどろにして奔る 素晴らしく巨大で闇黒な生きもの 怒りと 血と 太陽と 砂塵と 盲目の意志と それらをひと揉みに揉みくだいて 奔馬は荒れ 奔馬は走り 奔馬は激情する 人間の空しさを おのれに知り そのしらじらしさに 涙をたれ ああ 果てしない虚無の深淵のなかで わたしの心をゆり動かし わたしの眼に灼きついて 躍動している巨大なものよ (昭和二十六年三月)

  • 橋ながし

    俳句はこの三句よりほかにつくりたることなし 秋桜子に多く興味ありし頃 いまは亡き伊藤文章に誘はれ千葉多佳士とともに 浦和さくら草田島原に遊びしとき 橋ながし バスのほこりの ゆく彼方 今朝も微熱あるごとし 希むこと 遠からねども 春を病む 句に倦いて ひばりに 耳を 奪はれし (昭和二十六年四月頃)

  • 雑草

    コンクリート塀のうす暗い影の中から やせた雑草がヒョイと眼をさまし 春にむかって大きなあくびをする ふうわりとした光線のなみに ひょろひょろの地肌をのぞかせ ごつごつした小石や瓦のうえに のびきれないしなびた影をつくり 雨にうたれ雪にたたかれ 死にもしない生き方をして いっしんにあくびをしている (昭和二十六年四月)

  • 春の回想

    ととん ととん と 風が硝子を吹くのです それだのに 月は冴えかえって 生きているみたいに 光っているのでした ぶるうぅん ぶるうぅん おびえた若者の 魂をかきたてて そこらいっぱい 焼夷弾が降っています 食卓には食べのこした味噌汁が ひいやりと澄んで 茶碗の底に たまっているのでした 気の遠くなるような しじまのなかで 大粒の涙がぼろぼろと 頬を伝わり 膝のうえにも 落ちるのでした 外は 嵐どころではありません 大変に いい月夜です ほら あの光を 眺めていたら こんな凄まじい殺人が 行われているなんて てんで 信じられないではありませんか これから死にゆく 若者がいるなんて まるで 信じら…

  • 盲目の思想

    雲よ きれぎれの思想を発散させ 片輪のよろこびを押売りしながら どうしてそんなに気取っているのだ 蠅が玉子を生みつけるよりも もっと簡単に生まれ あぶらぎって ぎらぎらと嘲笑う太陽と結婚する 盲目のいきものよ ぼろぼろの白骨が みずみずしい血潮でぬりかえられても あらわな肌を気にしながら 踊ることをやめない狂女よ 雲よ おとろえゆく貴族よ 随うものすべてに十字を切らせ 一切流転の見本となって お前は尊大に飛ぶ ほろびゆく古い世紀 唯我蒼穹独尊天南無広大雲天女 去れ! (昭和二十六年六月)

  • ビラを撒く

    此所からは駅がよく見える 下りの電車がごうごうと走ってくる 扉が開かれ 涼しい白シャツの若者たちが ゾロゾロと降りたち 階段を昇るところまで手にとるようだ 昨夜の烈しい雨は あとかたもなく拭いさられ この澄みきった空のいろを見るがいい ほんとうに心ゆくまで晴れわたったこの素晴らしい朝の光はどうだ 青々とした田んぼを眺めながら 若者たちは深呼吸をする それから改札口を出る いそぎ足であの角を曲がってくるだろう 少女たちの素足がすッすッと踏み出され 若者たちの元気のいい笑い声が近づいてくる 跫音が迫る わたしはいま工場の門のまえに立ち 君たちに渡すべきビラをもって待っている 君たちの深いこころを …

  • まっさおな顔が講和を迎える

    どろどろした腐肉かなんぞのように 重ったるい炭酸ガスがよどみ そのなかからひとつの顔が浮び・・・ 鋭い刃物を蔵いこみ べっとりした油で ぴかぴかと光っている歯車のかげから まっさおな顔が浮び・・・ もりこぼれるビールの泡をごくごくすすりあげ 南京豆をまきちらし 口紅とダイヤと舶来のニュールックのかげから 黄色い歓声の喉の奥から 塩っからい汗で眼をつぶされた まっさおな顔が浮かび・・・ パラリ 十枚 五十枚 百枚 つみあげる札束のなかから 競輪のカードの山から ごうごうした音響に耳をとられた まっさおな顔が浮かび・・・ だだっぴろい木の根っこだらけの地面から 紙芝居やの怪盗ルパンから パチンコや…

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