※お食事中の方はご遠慮ください。また周囲に気を付けてご覧ください。猛暑日のある日、、、つくしはキョロキョロと周囲を見渡した後、目の前のビルを見上げた。その姿はサングラスをかけ口元はマスクで隠し、つばの大きい帽子を被っている。日除け対策ともとれるが、明らかに挙動不審だ。何故なら炎天下の中、周辺をずっとウロウロと歩き回っている。当然、汗が滴り落ちている。(つ:どうしよう。 やっぱり止めようかな? でも...
金曜日。類は早朝に葉山を出る。そのまま空港へ向かい北海道へ行く為だ。もちろんスーツ姿。今日はオープン日。本当なら昨日のうちに現地入りしたいところだったが、まだ学生の身でどうしても外せない講義があると主張し、当日の朝一の便で行く事にした。多少遅れるがまだ本格的に仕事に携わっていないし許容範囲だと思っている。もちろんオープンに合わせ主要関係者が揃う為、顔を売り込むチャンスだし、その後の慰労会にも参加す...
類とつくしと共に聡と麗も日本へ一時帰国し、その足で牧野家へ向かった。そして晴男と千恵子、進を前に両手を着き謝罪した。「この度は、うちの愚息が大変な事をしてしまい申し訳ありません。 きちんと責任を取らせていただきます。 出来ればすぐにでも入籍、結婚を御了承ください。」思いもよらぬ申し出に、牧野家は暫し固まる。てっきり楓のようにお金で肩を付けられると思っていたからだ。「頭を上げてください。 本当にうち...
食後、病室へ戻る二人だが、つくしが立ち止まりスマホを見始めた。類も画面を覗くと、葉山の家の防犯カメラ映像だ。今まさに伯父が物色している。金目のものは現金に替えておくと言っていたが、その言葉通り次々と玄関へ運んでいる。「今から止めてこようか?」「ううん。 何時かはこうなると思っていたし、おばあちゃんも物がなくなったことに気づかないと思うから。」今は祖母のタンスを漁っている。その上部にある宝石箱のよう...
日曜日。類は北海道から戻るとその足で鎌倉病院へ向かう。総二郎から電話があったのは金曜日の夜の事。『牧野のお婆さんが入院した。偶然大学を出たところで見つけ、病院まで連れて行った。とりあえず容態は安定してる。最近食事が少ししかとれなかったらしくて、脱水症状もありしばらく様子を見るらしい。俺も土日は茶会でついてやれねぇし、あきらも四国に行ってるんだ。牧野は気丈に振る舞ってるけど、東京に戻ったらすぐ行って...
「「「司、、、」」」司はまっすぐ類を射抜くように見つめている。「お前、どうしてここに?」「そりゃぁ牧野に別れを告げられたからに決まってんだろ! 電話じゃ埒が明かねぇから直接話をしようと思ったんだよ。」「でも仕事だろ?」「あぁ。 急遽日本行きを入れたから時間としては30分しかねぇ。 それで牧野。 俺と別れる理由は何だ?」「類の事が好きだと気づいたから。」つくしはキッパリと告げる。回りくどい事は一切言...
6月末。類は北海道に居た。オープン間近になり商業施設には商品の搬入作業が始まっている。以前来たときはまだ土がむき出しだったが、今は綺麗に舗装されオープンを待つばかりとなった。その施設を一つ一つチェックする。北海道初出展の店もかなりあり目玉となっているが、それが道民に受け入れられるのかは分からない。だがとりあえず全てのテナントが埋まりホッとした。そして花壇にはハーブや花が植えられている。オープン時は...
翌日、類が大学に来た。それを見つけたあきらと総二郎は、拉致するようにラウンジへ連れて行った。「何?」「お前、一昨日の夜から牧野と一緒だったらしいな。」「まあね。」「牧野と付き合うことになったのか?」「情報が早いね。」やっぱり、、と二人は思う。「昨日、司から電話があったんだよ。 牧野が別れて欲しいと電話があったってな。」「そっか。」至って普通に答える類に、二人の気持ちはゆるぎない物と感じる。「何があ...
翌日、類は初江の様子を注意深く見ていた。以前と違うのは動作がゆっくりになった事と会話が極端に減った事だろうか?だが身だしなみはきちんとし化粧もしている。「つくし? そろそろご飯の時間? この人が待ってるよ。」つくしは一瞬困った表情をしたものの、すぐ笑顔で告げる。「さっき食べたでしょ? それにこの人は類! 類さんだよ?あっ、お饅頭があるから食べる?」「あるんだったらこの人に出してあげて?」「牧野! ...
18時ごろまで交わった二人。ゴロンと横になると、つくしは自然に類の胸に頭を摺り寄せ腕を腰に回す。類はつくしの頭を優しく撫でる。「これから牧野の両親にきちんと挨拶する。」「うん。 夜には類と一緒に行くと伝えてるから。」「ん。 その後、司に会いに行こう。」「うん。 電話で別れは告げたけど、きちんと面と向かって話さないとね。」「ん。 その足でフランスへ行こう。 俺の両親にもきちんと挨拶する必要があるから...
翌週の金曜日。つくしは大島と共に大学近くの花屋へ行く。そして花しょうぶを3本買った。「つくしの家にはいつも花が飾ってあるんだよね?」「まあ、そうかな?」「おばあちゃんも生ける?」「今は見るだけになった。 昔は手直ししてくれたりしていたんだけどね。」「痴呆症のほうはどう?」「年相応? でもまだマシだと思う。 ただ最近は絵手紙もやらなくなったし、ボーとする時間も増えたし、同じ事を何度も言うけど私の事は...
あきら、総二郎、桜子はつくしの家へ向かった。大学を休んでいるという事は病気かも知れないからだ。もちろんあきらと総二郎は病気であって欲しいと願っている。ピンポ~ンすると千恵子が顔を出した。「はい。」「何時も先輩にお世話になっております。 三条桜子と申します。 今日は大学を休まれているんですが病気でしょうか?」千恵子も何度か見た事のある女性。しかも一緒に来ている男性二人にも面識がある。「大学を休んだ?...
GWが終わり、類は隔週で支社巡りが始まった。三年になった類は、大学の講義もまばらで、曜日によっては1限もない日もある。それが丁度金曜日。その為、金曜から二泊三日の予定を組まされ、類は溜息しか出ない。その代わり仕事の無い日は葉山で二泊することにした。今日は北海道へ来ている。富良野に大型リゾート施設を施行しており、支社で挨拶後すぐに説明が行われた。支社にとっては初めての大規模開発で本社からも応援に駆け付...
もうすぐGW。「ねえ、つくし。」「ん?」「GWはデート?」「何日かは家に来てくれると思うけど。」「優しいよねぇ。 普通は相手の家族なんて鬱陶しい存在だよ?緊張するし会話は聞かれるし、二人っきりで部屋に籠ると定期的にお菓子やジュースを持ってきて何してるのか確認されたりさぁ。だから家は敬遠されがちなのにね。」そういう物なんだ。確かに花沢邸に行った時は緊張したけど、会話する時も食事する時も特に気にならなかっ...
大学のラウンジでは、あきらが類を待っていた。何時もならこの時間には類がソファーで寝ているのだが今日はまだ来ていない。ただ講義ギリギリまで自宅で寝ている可能性もある。そうであって欲しいと願っている。そこにはもう一つの最悪な結果を払拭したい気持ちだ。愛が爆発してねぇよな?アレはインチキで単なるラムネだ。きっとそうだ。それに牧野は司の彼氏だし類は親友だ。その二人がラムネを食べたところで愛が爆発するはずが...
4月になり、類は大学三年、つくしは二年になった。春休みは葉山で過ごしていた類も花沢邸へ戻った。田村から目を通しておく書類という物が届けられるからだ。そのほとんどが次に訪問する支社の重役たちの顔写真と名前と役職名。元々他人に感心の無かった類には、それを覚えるのに四苦八苦だ。そんな時に思い出すのは誕生日の一夜。あの時の満ち足りたひと時。近い将来、いつでもそのひと時が得られるためにも、今頑張らねばと気持...
髪を撫でられている感覚がする。懐かしいこの感覚。ずっとずっと昔、ママかおばあちゃんが撫でてくれていたような?ん?えっ?髪を撫でる?つくしはパチッと目を開ける。すると類と目が合う。「おはよ。 起こした?」撫でていたのはもちろん類で、その二の腕が筋肉質で着やせするタイプなんだ、、、。ん?二の腕が見える?あっ///。つくしはやっと昨夜の事を思い出した。キスから始まったそれは、凄く幸せを感じられるものだった...
「シャンパン開けたけど飲む?」余裕ある振りをしつつも、まともにつくしの姿が見れない類は、すぐに視線を外す。「じゃ少しだけ。」マジ?と思いつつ、つくしのグラスに半分程注ぐと、隣に座ったつくしに渡す。「ありがと。 じゃ乾杯しよ?」「ん。」二人はグラスをカチンと合わせる。「誕生日おめでとう。」「ありがと。 でも無理するなよ。 緊張を紛らわせる為だろ?」「うん。 舐める程度にする。 酔っ払った勢いとかにし...
部屋に入り、あまりの広さに驚きすぎ声が出ないつくし。「牧野。 そこに立っているとボーイの邪魔だから。」「あっ///。」つくしが除けるとボーイはワゴンを押し中に入る。「ケーキは冷蔵庫へ入れておきます。 取り皿はこちらに。」テキパキ置くとボーイはすぐに下がっていった。その間、つくしは室内を歩き回る。大きなリビングの他にドア付きの寝室が二か所。それぞれベッドが二つあり計四つ。バスルームとトイレも二つある。...
類は覚悟を決めつくしに告げる。「司から電話があった時、ここのディナーと共にこの上のスウィートの部屋を使えと言われた。総二郎とあきらも一枚噛んでる。 誕生日のお礼だってさ。と同時に俺達が進展しないことに気を揉んでる。でも俺は俺たちのペースで良いと思ってる。 だから部屋の事は言えなかった。タマさんがお婆さんと会いたがっていたのはホント。ただその日を俺の誕生日にしたのは必然。」「そう。 道明寺が、、、。...
ディナーまで時間のある二人は、メープル近くの映画館へ行った。ディナーの予約は18時。それまでまだ時間はあるし、少しでも緊張を解しておく為だ。それにつくしは慣れないパンプス。歩き疲れや足に豆でも出来たら大変と言う思いと、つくしの可愛い姿を他の人に見せたくないという類の気持ちが加味されている。映画を観終えるとメープルへ移動する。「やっと堂々とお酒が飲める。」「確かに。」「牧野も早く飲めるようになると良...
つくしは時間になり片づけを始めた。「先生。 また彼氏来てるかな?」「彼氏じゃないけど、来ると言ってたよ。」「またまたぁ。 彼氏じゃないのに毎回迎えに来るわけないじゃない。」「いや、ほんとに彼氏じゃないよ? 友達だよ友達。」「じゃあ友達と言うなら私に紹介して?」「えっ? それはちょっと、、、。」「ほらね、彼氏なんだ。 良いなぁ、あんなにカッコイイ人が彼氏だなんて。」「だから彼氏じゃないってば。」つく...
30日になった。昼食後三人は道明寺邸へ向かう。その車内では、、。「おばあちゃん。 何かあったらすぐに連絡してね。」「何かとは何? タマさんとお茶してご飯食べるだけなのに?」「えっと。 寂しくなったとか、、。」「そんな歳じゃないし、タマさんと一緒なんだから何の心配もないわよ!それよりつくしが私に助けを求めるんじゃないの?メープルのレストランで粗相があったら恥ずかしいから、私をダシにして早々に帰りたい...
ラウンジでは、あきらと総二郎と桜子が顔を揃えていた。「これがお土産ですか?」「あぁ。 妹達が父親に『お兄ちゃまにもお土産を買ってきて』と言ったらしくてな。」机の上には巾着が置かれている。中を開けると個包装された物が入っている。「飴か?」「食べ物には間違いなさそうですね。」「妹達が食べていた物は飴だったわ。 でもほらっ、ここ。」あきらは中国語で書かれた紙を取り出す。それは手書きで書かれた紙キレのよう...
朝晩めっきり寒くなりました。皆様お元気でしょうか?コロナも収まりかけてきたような?まあ無くなる事は無いですし変異を繰り返すそうなので油断は出来ませんけど、それでも少しだけ気分が楽になりました。もちろん寒くなる時期ですからインフルエンザなども要注意です。そんな鬱憤を抱えて過ごした2年半を払拭すべく、弾丸新作アップを行います。時間は23時。夜という事はお察しの通りです。18歳未満の方、そう言うものを好...
葉山にいる類の元に突然電話が鳴った。しかも時刻はまだ朝の5時。二人を起こしてはならないと、類はサッと通話ボタンを押した。『珍しい事もあるもんだな。 お前が数コールで電話に出るなんてよ。』司?何だろ?突然。と思いつつ、時差のこと等全く考えない親友が全く成長していないことにクスッと笑いが漏れる。『何笑ってんだよ! それよりお前は相変わらず薄情だな。NYへ行ってから連絡の一つも寄越さねぇんだからよ。どうせ...
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※お食事中の方はご遠慮ください。また周囲に気を付けてご覧ください。猛暑日のある日、、、つくしはキョロキョロと周囲を見渡した後、目の前のビルを見上げた。その姿はサングラスをかけ口元はマスクで隠し、つばの大きい帽子を被っている。日除け対策ともとれるが、明らかに挙動不審だ。何故なら炎天下の中、周辺をずっとウロウロと歩き回っている。当然、汗が滴り落ちている。(つ:どうしよう。 やっぱり止めようかな? でも...
※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございました。類君とつくしちゃんを幸せにするお話を、、、と思い、書き始めて約12年になります。まさかこれほど続くとは思いませんでした。皆様の温かなコメントに支えながら何とかやってきたのですが、今は全く妄想が浮かびません。沢山の作品が生まれネタが尽きました。もちろん12年という月日は老いていく事にも繋がり、ここ数年は浮かんだ妄想がなかなか文字として書けなくて(...
一年後の夏。陽向も心陽も、しっかりと歩くようになっていた。最近は10か月ごろから歩く子供もいるというが、未熟児で生まれ3か月も保育器に入っていた為、そこを0か月として発育状況を見るらしく成長に問題はなさそうだ。「順調だね。」「ん。 首も秋ごろには座ったし、そこからすぐに寝がえりを始め、気づいたらズリズリと動き出し、ハイハイを初めてつかまり立ち?」「誕生日を迎えた頃にはしっかりつかまり立ちが出来てた...
4月になり、つくしは入院することにした。というのもこれから何があるか分からないため、万が一の時はすぐ対応できるようにだ。それに28週を過ぎた為、運動は極力避けた方が良いと言われた事も有り、家でジッとしているなら入院した方が安心という事になった。もちろん日中は麗が、仕事終わりに類が毎日来る。「どう? 変わりはない?」「うん。 元気すぎてお腹の中で暴れ回ってる。 二人がそれぞれ動くからお腹が張り裂けそ...
シリウスの元にデイジー村のギルド長から手紙が届いた。 定期的にリチャードに関する報告を貰っている。再びリチャードを王位に据えようとする貴族が接触していないか、本人にその意志がみられないか、リチャードが困っていることは無いかといった物だ。だがシリウスの思惑に反し兄はリカルドとして不便な生活を受け入れ、平民として働いている。せめて少しでも生活がしやすいようにと、魔道具の普及も急いだ。半年ほど前には村娘...
三日後、メアリーから電話があった。予想通り、あの世界へ戻るという返事だった。その為、週末に類と共にアレッタの店へ向かった。「お忙しい中、すみません。」「いいえ。」「いろいろ考えたのですが、アレッタさんにメアリーの姿を見せたくて戻る事を決断しました。」「ご主人はもうこの世界に戻れなくなりますが、それで良いんですね?」「はい。 私はメアリーと共にあの世界に骨を埋めます。 それとお言葉に甘えてこの店と自...
週末、類とつくしは子供服売り場へ向かった。小さな服はとても可愛いが、今はまだどちらが生まれるか分からない。その為、産着のみを数着買った。「男の子二人とか女の子二人なら、お揃いの服も良いな。」「形は同じで色違いとかも良いね。」「男女の双子でも一歳ぐらいまではそれで良いんじゃない?」「うん。 でも可愛いね。」「だな。」それから少し早いがアレッタの店へ向かった。小さな店で看板には漢字とカタカナで『異国料...
翌、月曜日。類の元にあきらがやってきた。「あのよぉ。 牧野さんなんだが美作が経営しているレストランのアルバイトに24歳の牧野さんがいるんだ。 だが髪の毛は茶髪なんだが、髪の色ぐらい変わる物だし会ってみるか?」あの後も裾野を広げて調べてくれていた親友に、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてくる。そして再会後、バタバタしすぎて親友に報告していなかったことに気づいた。「ごめん。 見つかったんだ。」「えっ...
土曜日、類とつくしは長崎へ向かった。つくしは結婚したい相手を連れて行くと電話で連絡していた。「初めまして。 花沢類と申します。 つくしさんとの結婚をお許しください。」類はつくしの両親を前にすぐに頭を下げる。両親は俳優のような容姿の類に驚きつつも、娘のつくしに自然に目が向かう。どう見ても出産間近だ。「えっと。 つくし? あなた妊娠してるの?」「うん。 順番が逆でごめん。」結婚したい人がいるから会って...
二人っきりになり、類は改めてつくしに向き合うとポケットから小袋を取り出す。異世界で肌身離さず身に着けてた小袋だ。その中身を取り出しながら話す。「無事こうして戻ってきたんだけど、服装はあの時のままだった。 ただ傷は一切なかった。 もちろん服には大きな穴が開いていたし血も付着していた。 そして小袋には魔法陣の消えた紙切れとドラゴンの鱗、シリウスから貰った銀のプレートが入ってた。 枕の下に敷いていた紙も...
佳代は類の声に急いで玄関へ向かう。しかも珍しく「ただいま」という声まで聞こえた。どういう心境の変化だろうか?という気持ちが湧く。すると玄関に類が女性と手を繋いでいる姿が目に飛び込む。類がこうして女性と手を繋いでいる姿を見るのが初めてで動揺が走るが、努めて冷静を装い出迎えた。「お帰りなさいませ。」「佳代。 こちら俺の妻。」「妻!!?」動揺を隠していたが『妻』という言葉に、冷静さを失い驚きの声が出てい...
レストランを出ると類はすぐに花沢の車を呼んだ。「ちょっと待ってて。 20分程で車が来るから。」「うん。 あっ、だったら私の職場に来てくれない?」「あんたどこで働いていたの?」「フリーペーパーの編集部。 と言っても来月号で廃刊で会社は倒産。 あたしは今日付で倒産に伴う解雇になったんだけどね。」(類:フリーペーパー編集部? 確かに俺達のどこにも関連がない会社だよな。 だから見つからなかったんだ。)「社長...
つくしは駅に隣接しているショッピングモールに入った。バレンタインが近づいているという事で、店内は至る所にバレンタインを意識したものとなっており、一部コーナーはチョコ売り場となっている。(つ:社長に最後にチョコを渡せば良かったなぁ。 妊娠が分かってからの社長は物凄く優しくていろいろな物を差し入れしてくれたし。 まあ私が辞めたら社長一人で紙面づくりをしないといけないからってところもあったんだろうけど、...
クリスマス。この日もつくしは仕事をしていた。社内には社長もいる。身重でありながらこのような日にも仕事をしているし、土曜日も出勤しているのを見て察しているがなかなか事情を聞けないでいる。「牧野。 そろそろ帰ったらどうだ?」「はい。 これが終われば帰ります。」「年末年始はどうするんだ?」「家に居ますよ。 実家は九州なので混み合う時期に移動は避けたいので。」「まあそうだよなぁ。 きちんと親には話している...
12月つくしは土曜日も出勤し紙面づくりを行っている。その代わり平日は18時ごろには帰るようにした。そして社長が何かと気を遣ってくれるようになった。取材帰りに果物やジュースなどを買って帰ってくる。「あまり食欲がないだろ? でも何か口に入れろよ。」「ありがとうございます。」街はいつの間にかクリスマス仕様になっている。(つ:類もどこかでこの雰囲気を味わっていると良いなぁ。)そう思いながら自宅へと急いだ。...
つくしは忙しい仕事の合間にコッソリ産婦人科へ行った。休日は無いし、サービス残業の日々なのだからこれぐらい許されるだろうという気持ちだ。検査薬で陽性反応が出ているため間違いは無いだろうが、出産予定日など今後の事を決めたかった。「おめでとうございます。 双子ですね。 8週目で三か月に入ったところです。 予定日は5月25日ごろですね。」「双子?」まさか双子とは思わなかったつくしは、呆けた顔で確認した。その...
類は、ハッと目を開け飛び起きると腹を押さえる。だが、、、血は出ていない。痛みもない。どういう事?そう思いながら周囲を見渡す。「俺の部屋?」自分のベッドの上だ。しかも一人だ。「牧野? 牧野は?」周囲を見るがつくしの姿はない。「夢?」そう思いながらベッドから起き上がり自分の服を見る。それは乗合馬車に乗った時の服で、切られた箇所には穴が開き血が付着している。靴も履いている。だが、、腹に傷はない。もちろん...
それは一瞬の出来事だった。馬上の騎士達、そして乗合馬車から降りた男も崖を覗き込む。確かに二人が落ちていく姿が確認できたが、突然まばゆい光が現れ目を閉じた為、二人の行方が分からなくなった。「まさか、飛び降りるとは。」「聖女様はどうします? 森へ入りますか?」「いや。 この高さから落ちたら生きてはいないだろう。 万が一、生きていたとしても魔物が住む森ではさすがの聖女様でもどうすることも出来ない。」「あ...
翌朝、宿の人にクルクマへ行く乗合馬車を確認しチェックアウトした。時間まで村を散策する。昨日の商人の店の前に来た時に、たまたま店内に居た商人が二人を見て店から出てきた。「今から行かれるんですか?」「はい。」「この先の山を越えるんですけど、片側は断崖絶壁なんですが景色は凄く良いですよ。 半日はかかりますが、途中トイレ休憩しかないので何か食べる物を持っていかれた方が、、、あっ、是非このピーアを持って行っ...
「行ってきます。今夜は早めに戸締りをして早く寝る事。」「分かってます。」「あっ、でも夜に電話するからそれまでは起きてて。」「分かってます。気をつけて行ってらっしゃいませ。」「ん。行ってきます。」類は軽く手を振り、待たせていた花沢の車に乗って出張へ出かけた。今回は北海道。一泊二日の予定だ。つくしは類が出かけた後もいつも通り家事を熟す。掃除、洗濯の後、庭の野菜に水をやり今日は肥料もパラパラと撒いた。そ...
類は23時ごろに自宅に戻ってきた。つくしはすぐに出迎える。「ただいま。」「お帰りなさい。どうでした?」つくしの表情は心配気だ。そんなつくしににっこりと笑いかける。「息子さんの悩みも無事解決した。」それを聞き、つくしはホッとする。「良かった。やっぱり類さんにお任せして良かった。」「ん。これからもどんどん頼ってよ。」「はい。それで、、少し悩みの内容を聞かせてくれても良いですか?」「ん。」「その前にこれ...
衝撃な言葉にあきらと総二郎は固まる。そして頭の中には『同棲中』という言葉と共にアレコレが浮かんでしまう。どう考えても若い男女が一つ屋根の下で何もないとは思えないからだ。その為、二人は意気消沈した。それを見て類は誤解していると分かる。「仕事は家事全般。つまり俺の身の回りの世話をしてもらい対価を払っている。」二人はその言葉に再び固まる。身の回りの世話という部分がどこまでの世話か模索しているようだ。類は...
「俺の場合は、母親のマナースクールに本村さんが通っていた事がきっかけだ。」ここで類はつくしとあきらの接点を知った。お稽古の一つにマナー教室をあげていたが、それはあきらの母親の教室で、母親と妹達と仲良くしていた訳か。もちろん三人も牧野を気に入って家族総出で牧野を落としにかかっている。「あそこには数人の講師がいるんだが母親は月に一度講師をしている。その時は妹達も連れて行き学ばせているんだ。そこで妹達と...
なんとか二人は落ち着いてきた。「ちなみに今日は本村さんは来ねぇぞ。」「えっ?どういう事だ?」総二郎の言葉にあきらは驚く。今日という日を楽しみにしていたし、これに賭けていた。あきらの表情に総二郎は危ない所だったと安堵する。と同時に『息子さん』というのがあきらだと分かった。それに本村さんがこの場に来たならば、あきらの怒涛の攻撃にいつの間にか連絡先交換&お付き合いという関係になった可能性がある。それだけ...
そうしてあっという間に5月17日になった。「じゃあ行ってくる。」「よろしくお願いします。」「ん。とりあえずきちんとアドバイスしてくるから安心してて。」「はい。」こうしてつくしは類を見送った。後は類さんに一任するしかないが特段心配はしていない。いろいろな知識があるし、丁寧にアドバイスをしてくれる。それに前向きな言葉を投げかけてくれ一切嫌な気持ちにならない。だからきっとあきらさんの悩みもすぐ解決するは...
類は社長室を訪れた。「社長。フランスへの異動の件ですが、私はもうしばらく日本で過ごすことにします。」「という事は、ライバルを蹴散らすという事か?」「そのつもりですがまだ他にもライバルがいるみたいです。それに牧野にとってフランスへ行くことが最善な方法なのか分かりません。言葉も通じないだろうし環境も変わります。私も仕事へ行くのでずっとついていられません。それを考えると負担が大きいような気がします。」類...
GWも開け、類は仕事へと向かった。それを見送った後、掃除洗濯を終わらせ花壇の野菜の手入れをする。きゅうりも順調に上へと伸びてきている。ただ重さがありネットからずり落ちそうになっている為、固定するようネットと茎部分をひもで結ぶ。トマトも大きく育ってきており支柱に紐で括り、脇芽を摘み取る。ピーマンとなすびも枝が伸びそこにも支柱を立てる。それぞれ順調に花が咲き、キュウリは一本食べごろに実った。それを収穫す...
残りのGWは自宅で過ごす。庭の野菜の成長を見ては笑い、一緒に買い物へでかけて献立を考えて類も手伝ったり。そんなのんびりとした時間が二人にとっては心地良い。そんな中、つくしはあきらの件をそろそろどうにかしようと考えていた。一度食事をしながら悩み事を聞いて欲しいと言われているが、どういう話かも分からないし深刻な悩みの場合良いアドバイスも思い浮かばない。その点、類さんならば良いアドバイスが出来るのではない...
5月2日類とつくしは予定通り埼玉県秩父の羊山公園へ向かった。GW期間中で多少混んでいるが、それでもまだマシなようでスイスイと進むことが出来た。そして目的地に到着した二人は唖然とした。「芝桜が、、、ほとんど散ってる?」「みたいだな。でも少しは残っているんじゃない?」昨日の大雨により花が散ったようだ。「すみません。まさかこんな事になっているとは、、、」「自然が相手だから仕方ないと思う。でもほらっ、入園料...
「牧野は愛されて生まれて来たと俺は思う。少なくとも牧野を生んだ母親は父親の事を愛していた。でなければ母親が牧野を生むはずがないだろ?好きな人の子供だから生みたかったんだよ。片親になろうとも生まれてくる子供に苦労を掛けるけど、それでも愛する人との子供だから生みたかったんだと思う。だから生まれてこなければ良かったと考えるのは止めたほうが良い。」「ありがとうございます。」「もちろん本妻からすれば疎ましい...
食事をとりながら、つくしはキッチンの上に置いていた物をテーブルに持ってくる。「これ、、類さんへお土産です。」「お土産?どこに行ったの?」類は紙袋を覗くと、日本酒の箱が見える。「茶会です。」「茶会に行ってお土産、、、」類はプッと吹き出すがすぐに「ありがと。」とお礼を述べる。「茶会が開催されたホテルの売店で買いました。本当はデパートで何か買おうと思ったんですけど偶然マナー教室の先生に出会って、GWの特別...
翌日、つくしは午前中に祖母の施設へ向かった。するとそこに義母と誠とその婚約者の緒方真理子がいた。「つくし!元気だったか?」「うん。」つくしは入り口で立ち止まり頭を下げる。誠はすぐに婚約者を伴いつくしの元へ向かう。「つくしさん。突然引っ越しさせてごめんなさいね。」「とんでもないです。リフォームはどうなりましたか?」「順調よ。後一か月程で終わると思うわ。それも含めておばあさまに報告しに来たの。」真理子...
20時を少し回ったころ、つくしは帰宅した。駅から自転車を押して自宅まで帰ったのだが、確かに人通りは少なく外灯も少なく暗い。しかもこんなに遅くなるとは思っておらず、自宅の外灯もつけておらず真っ暗だ。その為、スマホの明かりを頼りに自宅の鍵を開けた。自宅に荷物を置くと直ぐに外に出て洗濯物を取り込む。そして急いで雨戸を閉めた。ここに来てこうして夜中に外に出るのは初めてだ。周囲が山に囲まれのどかな場所だが、...
総二郎は上手い言葉が見つからず、とりあえず料理を食べ終えた事から茶を点てる事にする。「じゃあお茶を点てようか。」「はい。ありがとうございます。」総二郎はスタッフに声をかけると、すぐに弟子が茶道具を持ってきた。お湯は電気ポットの物を持ってきている。「流石にお湯は電気ポットの物だけど、是非飲んでほしい。」「ありがとうございます。」総二郎は畳に座ると茶道具を開き準備をする。つくしもその前に正座するとじっ...
ホテル内の和食レストランの前で待っていると、総二郎が弟子を連れてやってきた。その格好は和装だ。時間はまだ16時30分にも満たない。「ごめん。待たせたか?」「いいえ。私もさっき来たところです。」「じゃあ入ろうか?」「はい。」弟子とは入り口で別れ、総二郎がつくしを伴い中に入った。総二郎の姿に店員がすぐに個室へと案内する。広々とした畳の個室で、テーブルの下は掘り炬燵になっている。「本村さん。ちょっと時間...
先ほどまで総二郎が座っていた席に家元夫人が座り、つくしは背筋を伸ばす。「本村さん。お久しぶりです。おばあさまはお元気?」「はい。今日はお招きいただきありがとうございます。祖母は元気です。」「そう。突然辞められたから驚いたのよ?」「申し訳ありません。引っ越すことになり教室に通えないので辞めさせていただきました。」「そうなんですってね。この後、総二郎と話をされるんですよね?」「はい。何か壁にぶち当たっ...
つくしが茶会の開かれるホテルに到着するとかなりの人がロビーにいた。そのほとんどが着物姿だ。既に13時を回っており受付は長者の列だ。つくしは少し時間を潰すためにトイレへ向かった。そこで身だしなみをチェックしていると茶会に招待されていると思われる女性が入ってきた。つくしはワンピースの為、茶会に出席すると思われていないのか会話は続けられている。「流石西門流のお茶会だけあって凄い人ですね。14時からの部の受...
こうしてつくしと偶然再会した今がチャンスだ!色々聞き出そうと夢子は思う。「つくしちゃんから見てあきら君はどういう人に見えるかしら?」「優しいお兄ちゃんという感じです。いつも微笑みながら話を聞いてくださり、さり気なくアドバイスをしていただいたこともあります。」つくしの答えに夢子はガッカリする。『優しい』はまだしも『お兄ちゃん』という単語は頂けない。出来れば『優しい男性』と言って欲しかった。でも『優し...
4月29日類は早朝から福岡出張へ向かう。つくしも早く起きおにぎりとペットボトルのお茶を持たせる。「車の中ででも食べてください。」「ありがと。」「気をつけて。」「ん。牧野も早朝からご苦労様。この後、もう少し寝ると良い。」「はい。」つくしは類を見送るために玄関先へ出る。そこには花沢の車が既に待機していた。一泊以上の出張の場合、本宅から車を手配している。運転手もつくしの姿を見るとぺこりと頭を下げた。その...