chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
主に、旅の炭水化物 https://yomogikun.hatenablog.com/

炭水化物…に限らないけどできるだけそれに焦点を当てながら、各地の点描。

その土地その土地における、ひと、食、景色はいかに。これまでの旅を少しずつ、地道に掘り起こしています。

胡桃餅
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2017/06/04

arrow_drop_down
  • たこ焼き姉妹 ~ロンスエン・ベトナム

    「これ、食べてみて」 無垢、とでも言い表せる柔らかい乳白色。ちょっと触ればフルフルと揺れ、その表面から中身があふれ出てしまいそうだ。 親指と人差し指で作った「オーケー」よりもひとまわり大きいか。オセロ玉二つ分程度の円形で、横から見るとピンポン玉を三分の一ぶった切っような、浅いお椀型のシルエット。下(底)が球状の部分で、平らな面が上。だから皿の上では少々傾いている。 幾何学的でシンプルな外観は、窓辺に飾る置き物であってもべつにいいぐらい「静的な物体」にも見えるが、「表面張力で少々こんもりした上の部分に少々まぶされた生々しいネギが、間違いなく「食べ物」であることを訴えている。 けれども、ほかに分か…

  • 吟味と葛藤 ~サワンナケートのカオチー⑤

    ヒトが仕事しているって中、一人だけイスに座るっていうのは憚られるのだが、しかし座んないと、目を光らせて「座れっ!」――よけい気を遣わせてしまうらしい。 作業の合間に飲む水を、私にもすすめることを忘れない。あぁ、私はただ見てるだけなのに…と申し訳なさを感じつつも、せかされてコップに口をつける。そのとたん、キューっと一気に飲み干してしまいたい衝動がやってきて、自分の喉の渇きに気付くのである。 ミキサーが回る以上、生地の波は間違いなくやってくる。「終わり」というものがまだ遠い先の先、であることに、何度見ても、「そういうモンだ」と悟れない。「何度」といったって、二、三年に一回、それも三日やそこら滞在す…

  • 真面目食堂 ~ソクチャン・ベトナム

    ソクチャンは、ベトナム南部のメコンデルタ地域にある町の一つ。サイゴンから南西に車で四時間半~五時間、約220キロの距離にある。 ……と紹介するのが簡単だけれども、メコンデルタ一帯を巡っていた私は、そのうちのミトー(サイゴンから南西約75キロ)という町からやってきた。朝四時にバスが出発するというから、三時には起きたのだ。前日にターミナルで訊くと、その時間しか教えてくれなかったのだが、行程三時間程度の一応「近郊」だろうに、なんでこんなに早い時間になるねん。 と、そこはまぁ、イケメン&働きモンの車掌に免じるとして、この町にもまた、目に釘をガッチリ打ってくれる、キラキラ宝石箱のような市場があった。水し…

  • 飴玉車掌 ~メコンデルタ・ベトナム

    バスと車掌 飴玉抱えて えいっと、座席の下へ放ったのは、大きなビニール袋。――に入っているのは、キュッと括られた、数本の水入りペットボトル。 …少々では破裂せんだろうが、投げなくてもいいのに。人の荷物をこんな風に、家畜の餌が入った頭陀袋が如く扱っているのを見るのは特に珍しくもないが、それでもなぁ…。 傍らに立つおじさんも、あんまりにもそれは、と思ったのか、「オイオイ」とばかりに諫めの声をかけている。ゴムボールじゃないんだから、もうちょっと丁寧にしろよ。 「ん?」と、少年は振りむいた。そのほっぺは、片側だけぽっこり不自然に膨らんでいる。 膨らみは右に動き、左に動き――ガムじゃない。飴だな。 バス…

  • インレーの魔術師 ~ミャンマー・ニャウンシュエ

    見知らぬ地で、食べ物を見つけてそして口にした、ということについて改めて振り返る。何気なくやっていたそのことが、なんと貴重だったことだろう。 あたりまえだが、「食べ物」それは自然にただ「ある」のではなく、在らしめる――作り出す人々がいるからこそ成り立ったものだ。「食べる」ということは、それが存在する世界に踏み込んでいる、ということでもある。 それを共有させて貰うことで、少しでも知りたい。彼らについて、彼らが育んできたものについて。その世界について――と、あの時、彼の地を旅していた。 2021年に軍クーデターが起き、ミャンマーの事態はますます悪化している。 ミャンマーにて出会った人々が、あの景色が…

  • カズベキ村の道案内 ~グルジア(ジョージア)

    「犬コワイ」私 カズベキ村 「犬コワイ」私 うーん…。ことごとく、埋めるなぁ…。 道を囲む斜面、苔のように短く生える草の合間を、左右の前足でかいてモロモロと崩してゆく。と、「穴」とまではいかない、少々の窪みが出来たその黒い土の中に、顔を突っ込み、くわえたままだったケーキのかけらを差し入れる。…そして丁寧にも、ちゃんと土をかける。 「食わんの?」 と言うと、ハッハッと息を切らせながら、「うーん。今はいいかも」という目をして、フイと前を行く。 何度やっても、こうなる。 食い物を土に埋めておいて、腹が減ったらそれを掘り返して食うという習性――は、リスだったか鳥だったか、テレビの動物特集で見た覚えがあ…

  • ワンタンの悟り ~タイ・カンチャナブリー

    「ダメダメ、三日しかもたないよ」 と、レックさんは即座に否定した。何を馬鹿なことを――とまでは言わず、困ったように笑うというソフトな反応をしながら、またひとつ、黄色い皮をぺランと手の上にのせる。 表情も、話す調子も何ら普段通りのまま、その手元はちっとも滞らないから、こちらも特に邪魔者になった気なんてしないで居続けられる。…ってまぁ、「邪魔者」と自覚したって、退散するかというと…どうだろうかね。 表面に少々白い粉を吹いた、一辺七、八センチほどの黄色い正方形。私が知る「ワンタンの皮」に、切断面なんて目についたことがあったろうかと、ソレがずいぶんと分厚いことが触らずとも分かる。黄色はなんだろうか。中…

  • 肉を洗う ~バンメトート「お呼ばれ」記

    「おいしい」。 告げると、「ソレじゃなくてコレ」。ハーさんはこちらの取り皿に、プラスチック的に艶めく太い、一番大きな肉切れをドカンと載せる。この空心菜炒めを褒めちぎりたいコチラの心、分かって貰いたいが、「定番中の定番」の総菜を褒めて貰っても嬉しくないのか、聞こえてはいるだろうが通り抜けている顔だ。 とはいえ旨いったら。空心菜自体それほど癖もなく、塩が効きニンニクも後押しして、これだけでもそれなりにイケるのだが、別添の「タレ」と食うのがまたイイ。透明なオレンジの液に赤が散りばめられ、白い小皿によく映える――昔、こんな色のおもちゃのゴムボールを持っていたような気がする。 炒める時に味を付けたんだか…

  • 肉を洗う ~バンメトート「お呼ばれ」記

    「おいしい」。 告げると、「ソレじゃなくてコレ」。ハーさんはこちらの取り皿に、プラスチック的に艶めく太い、一番大きな肉切れをドカンと載せる。この空心菜炒めを褒めちぎりたいコチラの心、分かって貰いたいが、「定番中の定番」の総菜を褒めて貰っても嬉しくないのか、聞こえてはいるだろうが通り抜けている顔だ。 とはいえ旨いったら。空心菜自体それほど癖もなく、塩が効きニンニクも後押しして、これだけでもそれなりにイケるのだが、別添の「タレ」と食うのがまたイイ。透明なオレンジの液に赤が散りばめられ、白い小皿によく映える――昔、こんな色のおもちゃのゴムボールを持っていたような気がする。 炒める時に味を付けたんだか…

  • 国境一泊・バスの旅 ~中国からキルギスタンへ

    た、…食べたい。 「いやあ、ちょっとバスに酔っちゃって、気分が悪いし…」 と言った手前、しかしガンガンつつくわけにもいくまいが…。 「食べないようにしよう」と決めていた一番の理由は、ここでは絶対腹を壊したくないというか、「できるだけトイレには行きたくない」という、祈りにも似た切ない思いがあったからだ。 しかし、――運ばれてきたソレを前に、止まってしまった。 到着。……で、すぐ、ウズベク人女子のショヒダと共に、トイレ…というか「トイレ的に使われている広場」へは行ってみた。 そう、ちゃんと「行けた」のである。だが、しかしその時はまだ、日の暮れてゆく最中――残照のおかげで「見えた」からして、人の残し…

  • ご飯食いの達人~カンボジア

    カンボジア――ご飯が旨いこと半端ない、ところ。 いや、「ご飯を食べる」ことに長けた、というべきなのか、どうか。とにかくご飯とオカズの「バランス」というものが、半端なくスバラシイ。 長年括りっぱなしで錆びついたチェーンのように、がんじがらめの抜群なる相性。その結びつきには、一分の隙も無い。 味なんて、個人の「好み」モンダイでしょ?と一蹴されようが、そしてハイ、確かに「カンボジアに行った」とはいえ、当然ながら津々浦々全てを歩きつくしたわけでもないが、かまうもんか、万難を排してでも言おう。ご飯を食うことに長けた名手がここに居る、と。 それは、この世界へと立ち入ってゆくそのさなかで、既に感じ取れること…

  • 艶々米うどん ~ベトナム・ロンスェン

    「米うどん」。…とは私が勝手に呼んでいるんだけれども、小丼に、その艶肌をあらわに晒して浸るメン。 「ここで食べよう」――決め手はコレだ。 その上に抱えるのは、ゴロゴロとした濃淡違えた茶色っぽい類の物。まず「お揚げ」が分かる。もちろん豆腐のアレだが、厚揚げとはいかずも、もそっと厚めなのが二口大ほどの長方形で。別にちゃんと分厚い「厚揚げ」もあって、何故かサイコロに小さく切られている。 対して色白の、サイコロは豆腐。そして湯葉もある。濃い醤油色に染まったのがクシュっと皺を作り、肉の切れっ端のように。 何という種類なのか知らないが、きのこ――はシメジのカサだけみたいな、コロンとしたのが水玉のように散っ…

  • 遠野の餅③ ~搗いてこそ餅

    遠野の餅① ~胡桃ダレをつけて - 主に、旅の炭水化物 遠野の餅② ~胡桃を擦る - 主に、旅の炭水化物 正月の雑煮から始まって、それから約三か月間は毎日それが朝食である。ウチは両親の実家が鳥取であるから、雑煮はかの地の定番「小豆雑煮」・つまり俗に言う「ぜんざい」であり、甘いモン好きでもある自分にとっては、この時期の朝、目を覚ますそのたんびに嬉しい。そのためには、夜はなるべく胃もたれしないよう暴食は避けようと心がけるほどだ。 餅――「大好き」などという言葉を越えた執着が、私にはある。「太る」なんて躊躇は、ソレを前にしてはあまりに弱い、弱い。「最期の晩餐」を問われれば、もちろんソレを選ぶだろうが…

  • 山麓のイワシ盛り~トルコ・ドーバヤズット

    ベージュの地に、意味ありげな幾何学模様――おうちの絨毯はやはりいい、と、すっかり座り込んだその感触をズボン越しに受け止めながら、湯船に浸かる如くのホンワリ気分で、薄ピンク色の壁、雪で白光りする窓の方などを眺めている。 向かいに座る男の子が齧っているのは、レモン。 見ているだけでぴょっと首がすくみ、体温が下がるようだが、リンゴでも食べているような平然とした口だ。もう片方の手を床について、なにやらサッカー部長――ここへと私を連れてきた男性の話にじっと耳を傾けている。歳は十二か三か、袖がちょっと長いらしいが紺青色ハイネックのセーターがよく似合い、幼くも鼻筋通った結構べっぴん君だが、目が合ったら、合っ…

  • シューシのケバブ ~ナゴルノ・カラバフ

    再会(2013年) ケバブの家 現在 (2020年) シューシのコーヒー ~ナゴルノ・カラバフ - 主に、旅の炭水化物 再会(2013年) グチュ、グチュ、と、洗面器にほどほど入ったミンチ肉を、握りつぶすように、そして縁から中へと折るように捏ねたら、片掌に持てるだけのソレをひっつかむ。もう一方の手には、フェンシング用かというような長い長い串。――刺されてもないのに、ソレ、見ているだけで胸がクッとつってくる。 串の真ん中あたりにまず、掴んだ肉ダンゴをあてて、それから上に下にと棒に沿って伸ばしてゆく。度々手を浸している容器の中の液体とは、くっつき防止の為の水、いや油だろうか。テカる手のひらでペタペ…

  • シューシのコーヒー ~ナゴルノ・カラバフ

    コーヒーの味 紛争再燃 シューシを歩く in 2008 カフェ ~魔人と、妖精 コーヒーの味 華奢な少女を思わせる、細身のカップの中には焦げ茶色のコーヒーが湛え、その縁に微細な泡立ちをべっとりつけている。思い浮かんだのは、ミルクを飲んだ時に出来る、唇まわりの白い輪郭。 いかにもコックリとした、理想的な見た目だ。 「飲める」。求めたものが目の前に出されるという、店に入ったからにはの当然な成り行きと、この地でそのような状況にありつけたこととのギャップに、体が、心が戸惑っているのだけれど、――とりあえず。受け皿からそれを離し、チョッと、と唇にくっつけた。 …あぁ、うまい。 誇り高さをいうような香りと…

  • 傘とラペイエ ~ヤンゴン・ミャンマー

    いた…ッ! ホッとした。もう会えないかと思った…と、口が緩んでくる。マッチョさんもまた、こちらに気づいたようで、即座に立ち上がった。目を見開いている。こちらのことを、覚えていてくれていると分かる。…が、ん? なんだか苦笑いというか、「モゥ…」と少々眉をたらしている。 空路でミャンマー・ヤンゴンに入国して数日滞在したのち、約一ヶ月間北の町を巡り、そしてまた戻ってきたのである。今日の午後には、バンコクへの飛行機に乗る。 ヤンゴンを離れる前に、是非とも会っておきたい。飲んでおきたい。入国してからのヤンゴン滞在中、毎朝通ったラペイエの店・つまり紅茶屋さんであるが、そこの紅茶――「ラペイエ」を。 本当は…

  • 「朝食は如何?」~ディヤルバクル・トルコ

    並ぶ並ぶ並ぶ…。 黄、白、赤、紺 、茶…。とりどりがそれぞれ、カレー用大の器の上に載り、きゅっとかき集めたよう所狭しと。 宴会だろうか?…目が、パチパチする。 壮大な食卓――いや、「卓」ではない。横に敷いた絨毯の上に、テーブルクロス…いやテーブルじゃないってば、とにかくビニール地の食事用クロスを敷いた上に、諸々を並べてある。「床食」と呼ぶのかは知らないが、そういう習慣である地域はけっこうあるもんで、町の食堂などはテーブル&椅子がセッティングされていても、旅のさなかでふとした出会いからおうちに紛れ込んだときに時々出くわす。 目がチカチカするのは、そのクロスの模様のせい。黄色で幾何学的に視覚や鎖模…

  • 幻のナムパクノー ~サバナケット・ラオス

    葉っぱ――「パクノー」ひと掴みを、ミキサーの中へ。…と、足りないのか、もう少し。 ミキサーというのは、デパ地下や地下街なんかで、フレッシュジュース用に苺とかバナナとか入れてガガガと回す、ジューススタンドに数台あるアレである。…ってここはまさに「ジューススタンド」であり、どこの、というと、ラオス。 ラオス南部に位置するサバナケット(サワンナケート)である。首都ビエンチャンに次ぐ、ラオス第二の都市とも称されるが、メコンに沿う、落ち着いた静かな町だ。 青汁ジュース「ナム・パクノー」を、頼んでいる。 ラオスで「ナム」とは水だから、「パクノー」がその商品たる材料名だろう。パッと見た感じ、ミントに似た爽や…

  • 「ヤグレ」一日の始まり ~マラテヤ・トルコ

    一瞬、時が止まったような沈黙があり、そしてその口から出されたのは意外な言葉――私の名前だ。 入口からおそるおそる足を踏み入れた、そのたった一歩で、立ち尽くしてしまった。 と同時に釘付けになったのは、この空間に踏み入る前からムンムンと漂っていた香り、そのまんまの「ソレ」――部屋を占拠している台の上に放られた、真ん丸い、円盤形のパン。 目にすれば途端に、甘いような香ばしい、その匂いが増すような気がした。黄金色に照り輝くその艶は、香りをも染め上げ、まだ食べてもいないのに既に美味しい。 あぁ、一気に過去へと遡ってしまう――そう、コレだコレ。格子模様で、ゴマもそう、降りかかっていた。 「アナトリア」と呼…

  • コチョリーの朝 ~インド・ニューデリー

    「インドの朝は遅い。」 朝六時などという時間、市場でシャキシャキしたやりとりが既に軌道に乗っているタイやベトナムなどの東南アジアを旅することが殆どだった身としては、ただただそう思い、唯一賑わっているチャイ屋で時間を潰し、インドで早起きはやめよう、などと心しながら朝飯屋が稼働するのをジッと待つ。ぼちぼち、というのは、7時半ぐらいだろうか。 どこに行くべしか。――とざっと見て、多いのは揚げパン・「プーリー」屋だ。 長屋のような小さな入口の軒下に、時にはテントで延長して、鍋・コンロをセットして揚げているという姿が10数メートル間隔で在る。 赤ちゃんの握りこぶしよりやや大きい、小麦粉と水で練ったのであ…

  • 茹で汁で一服 ~中国・青島

    2002年。初めての中国は、下関港から海を渡り、山東省・青島に始まった。 五月の霞む薄暗い空のもと、歩く。ただ歩く。 国境を越えた直後とか、知らない世界に入ろうとするときとは、モヤモヤしたものをなんとかしたいと、たいてい焦っている気がする。市内交通機関を調べてバスに乗ったりよりも、焦りをもとにひたすら歩く、というのから始まることの方が多く、それがかえって有効といえなくもない。少々疲れたところでランナーズハイというか、町歩きハイ状態となり、いつしか内にある緊張は「腹減った」の前に薄まり、――ア、ほら、食堂だ。商店街らしき、なんとなくホッとするエリアを見つけた。 個人ラーメン店とでもいう、庶民的な…

  • まぼろしのピン・ムー ~タイ・チェンライ

    そりゃ「小指」だ。 まぁよく刺したなぁ、と、感心するような呆れてしまうような、ちっちゃい肉片。あんまりにムリヤリだろう。こんなのは串に通すよりも、中華鍋で全部を一気にザっと炒め、味付けした方が手っ取り早いだろうに。 あまりにも小さい。可愛らしい。が、食い物・特に肉に「かわいらしさ」など求めていない。必要なのは「食ったぁ」感ではないか。なぜこんなのをチマチマと………そうか。ちょっぴりの肉でも、串に刺せばカサがでる。 …などと、イジワルっ気な諸々を心に零してみるものの、「すき間」を埋めるにはまぁ、うってつけかもしれない、とも思う。 すき間――この手にある、買い込んだ惣菜の、である。 タイの北部地方…

  • 戸惑いのソムタム ~タイ・コラート

    「サラダ」といえば、添え物。 とはいえもちろん、エビやイカ、茹でたブタ肉や蒸し鶏などのタンパク質を混ぜ込んだ、主菜の位置に持って来れないこともない「おかずサラダ」「ボリュームサラダ」と紹介されるレシピも珍しくないことは知っているけど、たいていの場合私にとってスッと連想されるのは、レタスキャベツ、ブロッコリーにトマト、間が良ければルッコラやパセリが仲間入りする、ボール皿に入った野菜オンリーの盛り合わせであり、傍らにドレッシング容器が立っている、というもの。とりあえず「野菜を食った」ことにしたい気休め、或いは主役のコッテリ肉料理に添える、サッパリ口直し的な存在である。主菜の味の邪魔をしないし、コレ…

  • 第一歩は「ヘン」~タイ・バンコク  

    写真はタイ東北部コンケンという町における麺屋の、ダシが非常に旨い、お気に入り「センミー・ナーム」。「センミー」は米製の細麺、「ナーム」は汁に浸かることを示す。 話はでも実は、写真とは関係ない。汁の無い麺、「ヘン」についてだ。 もはや行きつけになっている感のあるタイだが、初めてやって来た20世紀も末の頃・まだ大学生だった時は、そりゃあ緊張の糸がハープの弦のようにピンピンだった。今ではデジカメで、コマ送りのように好き放題撮る写真も、当時持っていたのはストロボ発光禁止機能のない、フィルム使用コンパクトカメラ。それでいてオート(カメラが暗いと勝手に判断して)だから、不用意にシャッターを押せば、派手に光…

  • 毎晩ティータイム ~英国・ボーンマス

    チョコレート・ファッジ・ケーキ (ケーキ生地用) 卵…二個 ミルク…一カップ ブランウンシュガー…300グラム ココア…スプーン4杯 小麦粉…360グラム ベーキングソーダ…スプーン一杯 〈アイシング用〉 バター…90グラム ココア…スプーン4杯 ミルク…スプーン6杯 粉砂糖…300グラム 作り方 〈ケーキ〉 マフィン型にはバター(分量外)を塗っておく。オーブンは180℃に余熱しておく。 ①ボールに小麦粉の半分を残し、材料全部をミキサーで混ぜる。 ②残りの小麦粉をサックリと混ぜる。 ③型に入れ、オーブンで十五分ぐらい焼く 〈アイシング〉 ①バターをレンジで溶かす。 ②その中にココアを混ぜて、再…

  • 豆乳おばさんとドーナッツ②~バンコク

    触らずとも手の指をぬめらせてくる、ベットベトそうな見た目。大きさは、「メンコ」…で分かりづらければ、「ポタポ○焼き」などの煎餅ぐらい。色は「鶏の唐揚げ」のような茶褐色で、荒れ肌を晒している。丸いといっても辛うじてのマルであって、楕円とも違う、歪んだ――言うならばジャガイモのような輪郭だ。 膨らんではいる。厚み二、三センチはあるが、これまた均一でなくボコボコしており、重ねて積んであるから「へちゃげている」という印象を抱いてしまう。とはいえ、その頂点に置かれたものにしても同様で、なんというか、廃棄場に持っていかれたポンコツUFO、という感じ。そして、おまじないのように、表面にゴマが少々。振ったとい…

  • 豆乳おばさんとドーナッツ①~バンコク

    前をじっ、…と、見ている。 バンコクの、とある交差点の近くにて、丸椅子に座り、低くもなく高くもない、肘を置くのに丁度いい高さのテーブルを前に、横断歩道を行き交う人や、左右から横切る人を眺めている。 時折、テーブル傍らの鍋のふたを開けて覗き込んだり、引っかけておくべきビニールを補充するためにその背をかがめたりするが、たいてい、前を向いて頭は動かさず、細い瞼の奥にある瞳だけをキョロっとさせている。唇はキッと閉じられたままの一定な表情で、誰かとお喋りに花を咲かせる、という場面も見たことがない。 浮き立つ、明るい赤の口紅。おかっぱ丈の、もじゃもじゃ髪。イメージとして浮かぶのは、「観音様」の絵だろうか。…

  • ヘラを制す ~ディヤルバクル ④

    「トントン」おめかしされ、ドキドキとその時を待つ生地に、向かいからニョッと伸びてくる大きな腕――Fさんである。 眠っている子供を抱きかかえるように、両手を生地の下に差し入れて、台からさらってゆく。宙で生地が、だらんと素直にしだれるので、素早く「巨大ヘラ」の上へ。 「巨大ヘラ」と言うのはまさに見たまんま、鉄板焼き用のようなかたちであるからで、まぁ「しゃもじ」でもいいんだけれど、悟空が持つような柄の長い棒の先が、平たい板状になっている道具で、板の部分に生地を載せ、窯の中へと出し入れするものである。木製。 その上で、形を整えつつ生地を広げたら、柄を握り、赤み差す「窯の内部」へとススッと突っ込ませる。…

  • 成形演奏会 ~ ディヤルバクル③

    「窯」に隣接された、タタミ一枚程の成形用台の上には、手粉がたっぷりと振りまかれている。一見、おが屑を連想するその薄茶色は、「ふすま」のみなのだろう。つまり、小麦を小麦粉へと製粉する際に、白い粉となる胚乳から分離される「外皮」部分である。この粉末を数割混ぜ込んだ「全粒粉パン」などは日本でもお馴染であるが、それが、まるで砂丘の砂のように非常に細かく粉砕され、特に台の角っこ部分、好きなだけ使えとばかり盛られている。 Mさんは、奥の間から妖精Nさんによって放られた生地の一つを、片方の手のひらで上からペタっと押さえる、と同時に貼り付けて、そのまま持ち上げて自分の正面に連れてきた。おぉ、吸盤。 今度は両方…

  • トルファンのナン ~新彊ウイグル自治区

    「ナンに興味があります。」…ということを言いたげに、ジッと立っていた。 ハンチング帽をかぶって長身、その目鼻顔立ち…。誰にといえばもうこの人しか思い浮かばない、「いか○や長介」そっくりのおじさんは、タンドールの窯仕事に没頭していると思いきや、ちょっと近づこうと思った時点でもう、目をギロリとさせてこちらを睨んでいた。「仕事は見世物じゃねぇぞ」とかいうよりは、猫が獲物に気づいた、探るような目。ナン作りに見惚れています、などと説明したいのが、能天気に思えてくる。 まるでテリトリーに侵入してきた「不審者」である。その雰囲気に少々戸惑いながらも、中から出てきた年配の、おそらく奥さんに一枚買いたい旨を言う…

  • 仕込み(成形) ~サワンナケートのカオチー④

    「カオチー」を作るために最低限必要な材料とは、「小麦粉」、「塩」、「水」、そして酵母・即ち「イースト」であるが、それに加えて少々の副材料が添加されている。 だいたい作業人員のうち、年若い「新入り」がその役を担うことになっているらしい、この「仕込み」。生地の配合を覚えるだけでなく、材料が混ざってゆく様子を眺め、捏ねあがった時のその感触を把握する。それがどう発酵し、果てはどういう風に焼き上あがってゆくのか――その変化を一から眺めてお勉強するのにいいボジションだろう。 まずは材料を計量して、機械でミキシングする(生地を捏ねる)。 ミキサーは、モーターが回れば「ナルホドここに引っ掛けられたゴムが、ハネ…

  • 「菱形ビヨーン」 ~グルジア・トビリシ

    目にした瞬間は、ただその姿かたちに心奪われ、漏れるのはただひとこと――「ナニアレ」。 平型タイプならば、円形や楕円。フックラした立体パンならば、ボール型にクッペ(コッペパン)型に、箱型(食パン)、筒形、ちょっと変わってリング型や編み込み、花型などアレコレとあるけれども、このようなかたちは初めてである。 アメーバ、みたい。 そのカーブした輪郭に思い浮かんだのは、遥か昔に理科の教科書で見て久しい、アレ。ほぅ、縁がないと忘れ去っていた名称でも、ふとしたきっかけで心の深層から浮かび上がってくるもんだと感心するが、とはいえ一応、それは一応、どれも規則的に揃った形ではある。しいて言うならば菱形だが、一組の…

  • サンギャク拝見~イラン・アルダービール

    まるで塗装職人。 ズボンもシャツも粉で真っ白で、作業の忙しさが思いやられるってものだろう。まぁ、そのための「作業着」なのだろうけど。 それにしても、それはホントに、そう目指されて設えられたもんなのか。壁に開いている「穴」とは、まるで解体工事のさなかに偶然開いたかのような、或いは、誰か短気を起こして、巨大ハンマーをぶんまわしてかち割った跡のような、ひび割れて出来た歪んだ三角形であり、その割れ目からボロ…っとカケラでも落ちてきそうだ。 だが、中へと覗き込んでみれば、奥では石レンガが整然とはまり込み、ドーム状に天井を描く空間が見える。美しい。見た目なんとなく歴史的であり、「九百年前から使われている」…

  • お菓子の家へ ~キルギス・オシュ

    これから、朝食。…のはずなんだが。 目がチカチカするというか、「ナゼ?」――クエスチョンが宙に飛ぶ。 朝食として、「パン」というのは、分かる。 お皿のような、いやお盆のようなパンが三枚重なり、薄いピンクに花模様を描いたテーブルクロスの上に載せられている。そしてその傍らにある、ラッパ型の湯飲み茶椀に入ったドロッとしたものとは、ソレに塗りつけるジャムの類だろう。奥底から艶々とした深紅と、ピーナッツバターかゴマペーストかのような、クリーム色のもの。 そこまではすんなりと。――だがなぜ、「お菓子」が? 可愛らしい小物たちで、テーブルの上はまるでイラストの世界だ。 ピンクや黄色、白、緑、金色銀色…の色華…

  • 「餅」の楽しみ・回教系① ~西安

    イスラム教は中国で回教・或いは伊斯蘭教と表される。(ここでは回教と呼ぶことにする。)中国でイスラム教徒といえば、まず中国西部・ウイグル自治区に住まう「ウイグル人」が思い浮かぶだろうか。ほぼイスラム教徒であり、中央アジアのトゥルク系民族に起源をもつ彼らは、ひと目見て漢民族とは異なる顔つきであることに気づく。文字も漢字ではなく、独自の言語体を持つ。 とはいえ、彼ら・ウイグル人に限るというわけではなく、中国におけるイスラム教は、唐の時代(618~)より中央アジアやペルシア・アラブ等西方からやってきたイスラム教徒たちと、漢民族、或いはその他の少数民族が混血してゆくにつれて改宗者が増え、この地に定着して…

  • 遠野の餅② ~胡桃を擦る

    「和風版」である。 すり鉢と、回る「ハネ」をつけかえれば、見覚えある姿になる。洋菓子屋の、シャカシャカと回転して生クリームを泡立てるぼんぼりの骨組み・ホイッパーのついた、あの機械。ミキサーだ。 「ハネ」…というか要は回転してモノをかき混ぜるウデの部分であるが、会議用テーブルの脚の太さのステンレス棒が二本、U字型磁石のようにくっついており、ソレだけ見れば「すりこ木」なんて発想しない。が、その先端には、床の滑り防止用ゴムの如く、カバーが付けられており、それは「木」だ――それが、主張なのだろう。山椒かどうかはわからず、申し訳程度に取って付けたようではあれど、肝心な部分が木であることで、鬼のこん棒型し…

  • 遠野の餅① ~胡桃ダレをつけて

    しゃぶしゃぶのゴマダレ。或いは田舎味噌――とも、ちょっと違う。コルクをもう少し深く、暗くした色だ。 「ソレ」に、水をスプーンで一杯ずつ、恐る恐ると加えてゆく。もう少し、もう少し…?「売り」に出していたのは、こういう色じゃなかったはずだ。まだ、もうちょっと…。 首を傾げたり、鼻の下辺りにソレの入った小皿をを持ってきてしげしげ繁々と眺めたりしながら、水を垂らしては掻き混ぜることを繰り返す。既定の分量を守ればそれなりに旨いハズなのに、「たっぷり飲みたい」欲が騒いで多めに湯を注いでは「まずい」と後悔する、粉末コーンスープや調整コーヒー、ココアのようなハメに陥ってはならない。いくら学習しない自分とはいえ…

  • 「フランジャラ」に駆ける青春 ~トルコ・ドウバヤズット①

    ザーッ、ザーッ、ザッ、ザッ…。 「窯」の中から次々と現れるパン。引き出されるその勢いで青色の台の上を滑りゆき、ぶつかり合ってはその動きを止める。 イイ音だ…。 連想するのは、雪の道。少々凍って押し固まって上を歩く時の、あの濁音。――ずっとまみれていたくなる、快感の音だ。頭の詰まりをアイスピックで突き崩すような、どこか芯の部分を刺激する。 パンは棒型。縦に一本のクープ(切り込み)がシャッと入り、そこから裂け、潔く皮のめくれ上がった外見に、ひと目で「フランスパン」と呟くだろう。とはいえ「フランスパン」は厳密にいうと、重量と長さ、クープの数によって、「バケット」「バタール」「ドゥリブル」等々と呼び名…

  • 泡世界への扉 ~チェンナイ

    「軽いから土産にいい」 とは、よく言われる紅茶だが、インドやマレーシア、トルコ、イラン、ビルマ…あとどこで買い込んだろうか、一度たりとも「軽い」などと思ったことはない。「閉じる」ことなんて忘れたような、バックパックのチャックは、エイエイと強引にやっつけねばとてもその呻きを鎮めることはできない。まぁ、他にスパイスだなんだと買いこんでいるからなんだけど、嵩張る大半がソッチであり、どんなに軽くったって量ありゃ重いのだという単純な事実が肩に食いこむ。仕方がない。 インドから帰って、さんざん飲んだ。飲まなきゃ賞味期限が過ぎてしまう。重い思いをして担いで帰った紅茶であるから、オイシイうちに飲まねばならない…

  • 妖精の生地仕込み ~ディヤルバクル②

    トルコ南東部、ティグリス川上流に位置するディヤルバクル。その中心部は、「新市街」と「旧市街」とからなっている。 「新市街」はその名から察せられる通り、整備された大通り沿いに銀行や高級ホテル、大型ショッピングセンターや、超有名ハンバーガーチェーン店やカフェ、アイスクリーム店、ブティック等など、ツルッとした近代的なビルが建ち並ぶ、いわゆる「オシャレ」なエリア。ビジネスマンがこの町に出張でやって来るとしたら、おそらくここいら一帯をカツカツと歩くはずである。 が、私が滞在するのは、古代ローマ時代から建設されたという、世界第二位の長さを誇る城壁(「万里の長城」の、次)に囲まれた「旧」の方だ。 メイン通り…

  • 魔女のパン ~シェキ

    アゼルバイジャン北西部の町・シェキ。ロシアと国境を接する、コーカサス山脈のふもとにある町だ。 夜十一時に首都バクーを発った夜行バスが、そのバスターミナルに到着したのは朝六時頃。ベトナムの市場ならば、既に脂ののった活動時間である。が、この世界はまだ薄暗いままに、シンとしていた。 町の中心部へと移動するマルシュルートカ(乗り合いワゴン)が動きだす時間まで座っていようと、ターミナルのベンチでじっとしていた。…と、妙に空気がヒンヤリする。どころか「寒い」。もう五月だというのに。 大カフカス山脈のふもとの町、というのは分かっていたものの、まさか「もう使うまい」とリュックの底に丸め込んでいたマフラーを取り…

  • 窯入れ ~サワンナケートのカオチー③

    昔ながらの木造住宅を思わせる、深い茶色の木箱。着物用桐タンスのようなその大きさの中には、真っ白な生地たちが、じっとおとなしく待っていた。 思い浮かぶのは、スヤスヤと眠る猫の、グーにした手。…ってべつに毛が生えているわけじゃないんだけど、何となく気持ちヨサソウな、そ…っと触れてみたくなるフックリ感がある。 体長約二十センチの棒状だが、真ん中部分がやや太く、それから端に向けてやや狭まっているナマコ型であり、その胴回りは小ぶりの夏大根、といったところか。その腹と同じだけの間隔をとりながら二列に並び、ひと箱に二十四個程度収まっているのが、何箱も積み上げられていた。 醗酵した生地を、これから焼くのだ。 …

  • 熱工房 ~ サワンナケートのカオチー②

    カッとんだ太陽の光を受けた、濃い木陰。 そんな、シンとした暗さに「工房」はあった。 埃のような、木材のような、いや、味噌のような――?倉庫の中のように、そこに在るさまざまなものがじっと息を潜めた匂いが、七、八坪ほどの空間を纏っていた。だが、言うならばそれは「動」のイメージに満ちている。置物のように肌をボロボロした老木でも、その体内では大地と太陽のエネルギーを吸収しながら「生」を繋ぐ壮大な営みが展開され続けているように、シンと静まり返ってはいても、こちらの目には見えないだけで「何か」はきっとこの空間を活発に動き回っていると想像ができる、「生きている」匂いだ。 蛍光灯は天井のスミにくっついているけ…

  • 平型パン世界 ~ディヤルバクル①

    トルコ南東部に位置する町・ディヤルバクル。 郊外のバスターミナルに到着したのは、まだ真っ暗の夜明け前。明るくなってから町まで移動しようと、ターミナル内でジッと待っていたから、宿を見つけて荷を下ろすまでに結構時間は経っていた。というわけで、私はとにかく朝っぱらからハラを空かせて、外へと歩いたのである。 新しい町にやって来たら、まずやるべきお約束は――「フルン探し」にウロつきまわること。だがそれよりも今は、どこでもいいからとにかくロカンタ(=「食堂」)に入りたい。チーズやサラダ。スープでもいい。パンを片手に少々のオカズを添えた、それなりの朝食が摂りたかったから、宿から出た通り・スグに目に入ったドア…

  • 「餅」の楽しみ ~葱餅

    中国の、「餅」。 その中でも「定番」とされるものの一つが「葱餅」である。…って日本で「『ねぎもち』いかが?」と聴き慣れているからして(試食で)、私はついそう言ってしまうんだが、これは中国では「葱花餅(ツォホアピン)」或いは「葱油餅(ツォユウピン)」と呼ばれ、店の看板にもそのようにある。 作り方を、簡単に紹介しよう。 1、生地を作る。――小麦粉と水、塩で捏ねて、暫くねかせる。 2、ねかせた生地を分割して、薄く薄く、麺棒で円形にのばす。 3、成形する。――伸ばした生地の表面に油をハケで塗り、葱と塩をパラパラと一面にふりかけたら、端からくるくる巻いてゆく。 4、長い筒状となった生地を、蚊取り線香のよ…

  • サワンナケートのカオチー ~具入り点描

    寿司職人にも劣らないだろう、次にやることが分かっているからこその、休みない手。 「何をどのように入れてくれるのか」の観察に目を凝らすこちらの前で、サラッとした表情を変えることもなく流れを止めないのは、想像としては七、八つぐらい年上だろうか、のお姉さんである。 腰丈の台の上に設えられた、透明ケースの棚にある幾つかの容器の中から、ヒョイヒョイと各種の「具」が、ジャンプするようにカオチーの「口」へと収まってゆく。 サワンナケートは、「ラオス中部」と分類される地域でも南端に位置する、メコン川沿いの町である。水の確保が容易で気候条件も良く、肥沃な土地で、ラオスの中でも農作物の生産が高い。タイとの国境地点…

  • タイ・コンケン ~お土産をどうぞ

    どこもかしこもがベトつく肌。滴る汗がまたいやらしく額を頬を這いずり、イライラを逆なでする。喉の奥底から、ヌメッた息が上がってきて、もうどうしようもなくなる。 そんな中で目の前にある、ケーキ――を包んでいるビニールの濁りを見ただけで、指がヌメってきそうだ。…ウエットティッシュが要る。七星テントウのようにレーズンが表面に見える、握りこぶし大のプリン型。バター、いやおそらくマーガリンだろうが、油脂が多めに入った「パウンドケーキ」の類である。 世界の全てが降り注ぐようなカンカン天気の下にある、タイ。 舌を出して息を粗くする、犬と自分との違いなど一体どこにあるのか分からなくなってくる、「なす術ない」と言…

  • 伝統的「パンケーキ」 ~シビウ

    赤茶けた煉瓦の塀は、所々が剥がれ落ちて粉を吹き、荒れた肌を晒している。石畳に染み付いた、あたかも木洩れ日でできた影のようなグレーの斑模様が、「時代」をいっそう漂わせるようだ。 ルーマニア中部・トランシルヴァニア地方の町、シビウ。 朝八時になろうかという頃、散歩へと宿から出てそぞろに歩いてみると、町はしんとして、犬の散歩をする人の靴音が響き渡るほどである。日本じゃ「見えざる力」に背中を押されたウンザリ顔の人々が、電車の中でひしめいている時間であり、その感覚でいえば、早朝五時か六時ともいえる静けさだ。ガッコや会社の始業は一体何時がフツーなのだろうか・八時代から営業していると気付くのは銀行ぐらいであ…

  • 「ワッサン」の優しさ ~ポンデチェリー

    疲れた…。 『「クリスマス」には避けるべし』――とあったガイドブックのお触れ書き通り、インド南端部のヒンドゥー教聖地・ラーメーシュワラムで、「宿無し」事態に陥った。クリスマスや年明け前後は、インドにおいても長期休暇をとる時期であり、「聖地」は、主要な彼らのお出かけ先となる。 「聖地」――こちらにとってはゲームの世界ともいうべき無縁な単語であり、響きの格好よさに、せめて一泊なりともしてみたいのが、気まぐれにやってきた「にわか巡礼者」には、とても太刀打ちできない世界なのか。普通は絶対にその玄関先に立ち止まることのない高めのホテル(四、五千円)を断腸の思いで尋ねてみても、「フル」と準備していたかのよ…

  • 餅の楽しみ ~西安

    食堂の炊飯器ならば、このくらいはあるだろうか。――フタが、である。大人が頭上で両腕をあげ、「オッケー」と大きなマルをつくるよりも、まだ大きいと思う。 そのフタをめくれば、鉄板。電気仕掛けのやつが、その円周をちょうどすっぽりと囲む台に埋め込まれており、フタはその台の端と金具で留められているから、めくってもその置場にきょろきょろとする必要はない。救急箱じゃあるまいし、そういうパックリ口の調理機器って珍しい――ってそのお馴染中のお馴染・炊飯器がそのようだった。ついでに思い出したけれども、ウチに使わなくなってから一五年は経つ「電気フライヤー」もまた、パックリ開け閉め型った。揚げている最中にカチッとフタ…

  • 黒パンよこんにちは ~チェルノウィツィー

    ウクライナ。バスでルーマニア国境を越えて数時間、「チェルノウツィー」という町にやって来た。 …んだけれども、辿りついた宿のオーナーは英国人。その家族、いや友人にも見えない、お手伝いさんのように掃除洗濯雑用をやりこなす、ひょろっとした中年のような青年のような年齢不詳の男性もまた、英国人。オーナーの美人若奥さんはウクライナ人だけれども、もんのすごい流暢な英国英語を話した。「洗面所で洗濯はするな」「石鹸は自分のものを使え」「皿は必ず元の位置に戻せ」云々、いちいちと規則が事細かに書かれた掲示の紙はまぁわかるけれども、家族間の呼びかけも、喧嘩も、家族の食事に交わされる何気ない一言二言も、何から何まですべ…

  • シベリア鉄道 ~ロシアの中の故郷

    「シベリア鉄道」初めの第一歩は、ロシア極東の町・ウラジオストクからイルクーツクへの三泊四日。三等寝台車での旅である。 車内は通路を挟んで両側に二段ベッドが配置され、片側は進行方向と直角(頭か足を窓に向ける)に並び、もう片側は、窓に体を沿わせた、進行方向と並行に寝るかたちとなっている。三等だから当然一等、二等があり、一等は床にベッドが二つ並んだ、二名用の個室であり、二等は二段ベッドが二つ並んだ、四名が利用できる個室。三等はというと、「解放寝台」と訳される、ドアやカーテンといった仕切りのない、一車両がまるごとが「ひと部屋」・つまり相部屋であり、料金も安い。節約というのがモチロンの理由だが、車内がツ…

  • ハム輝くカンボジア ~ストゥントゥレンンにて

    東南アジアの国々のうち、かつてフランスの植民地下に置かれたのは、ベトナム、ラオス、カンボジアである。独立して時は流れても、「かの時代」の証明ともいうべきものが、生活習慣の中にポッと混じっているということに、部外者であっても気付くことができるだろう。その一つが、「フランスパン」。 とはいえ、奥まった地域の小さな農村・隅々まで行き渡っているというよりは、少々賑やかな「町」で並ぶものという感じではあるのだが、フランス的なるその棒型パンは、現地の人々の空きっ腹を埋める手軽な食べ物として実によく手にされており、定着している、といっていい。側面に切込みを入れ、キュウリやら肉やらの「具」を挟み込む屋台があち…

  • ラオス・ 求む「焼き立て」

    信念を焼き込めたような、見事な焼き色。鎧をまとっているかのような厚い皮を蹴破るほどの「えぐれ」には、活きがいいという表現を通り越した、「雄叫び」とでもいうエネルギーを感じる。 「フランスパン」の中でいうならば、大きさは「バタール」に当てはまるだろうか。四十センチぐらいの長さ、野球バット(の太い部分)のような胴回り、そしてクープ(切込み)も、たいていのものがそのように三本だ。 いわゆる「フランスパン」は、同じ配合で同じように捏ねられた生地であっても、パン一個分に分割する重量と成形する長さ、そして焼成前のクープの数がきっちりと決まっており、それによって、フィセル、バケット、バタール、ドゥリブル…等…

  • ヤンゴン・道端の連係プレー

    んんんんん、と、揺さぶられる。 焼き立て――となると、特に腹が減ってもなくとも、惑わされる。 「お焼き」か。ジュワァァァ、パチパチパチ…と、油の音が耳を引っ張った。駅の改札口前でやっている「大判焼き」よりは一回りぐらい大きいのが、水溜りのような油に浸かり、飛沫を上げている。 早朝、オジサン一人と青年二人が、道の脇でパフォーマンスを繰り広げていた。 それはビルマでもポピュラーな、「インド的スナック」の一つとして紹介されるように、作り手である彼らの肌も、かの地を想起させるいい色だ。顔の彫りも深い。鉄棒で空中大回転しても、工事現場で柱一本担いでいてもおかしくない、タンクトップから出ている肩・腕のたく…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、胡桃餅さんをフォローしませんか?

ハンドル名
胡桃餅さん
ブログタイトル
主に、旅の炭水化物
フォロー
主に、旅の炭水化物

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用