chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
ー御鱈河岸ー https://ontarakashi.hatenablog.com/

純文学、少女文学、ライトノベル、ショートショート、幻想譚を中心とした創作ブログになります。

おんたらかし。御鱈河岸。 なにも決めずにはじめたので、書きながら補足していければと思っています。 よろしくお願い申し上げます。

御鱈河岸
フォロー
住所
豊島区
出身
北区
ブログ村参加

2017/05/07

arrow_drop_down
  • 落日の栄光 水野上雪絵の日常

    通学バックを部屋の入口付近に置き、入って直ぐ左横にあるベッドへ急降下爆撃を加える。 〝バフッ〟 母が太陽光の下で洗濯し干してくれ布団の匂いが鼻孔で踊る。 私は布団へ埋もれ、そのまま目を瞑る。 永遠とも思える一瞬へ落ちて逝く。このまま何もせず一女学生として、高校生活を全うし雄々しく賢明な男性と所帯を持ったらどうだろう? 仕合せが良い人生であれば、それこそが女の幸せというものなのではないだろうか? 頭を振るう。駄目だ全く以て言語道断である。 それはただの水野上雪絵であれば、それでも良かろう。 しかし、至極残念な事に私はただの水野上雪絵ではないのだ。 銃殺を以て終劇したはずだが、超地球的存在の戯れで…

  • 硝子玉の世界 序説+1話

    この世界は3本しか脚がない極めて不安定な造りのテイヴルであり、そのテイヴルの脚は常に貪欲な鼠どもの切歯によって齧られ続けて、もはや3本の脚の一本は崩落の一途を辿るのみである けれどそのことは、あくまでテイヴルを主にした考え方であり、鼠どもの考え方で言えば。 この世界は食料が無尽蔵にある とこしえの花薗のような穏やかで過ごしやすく居心地が良い場所だと残念ながら錯覚をしていた テイヴルはまもなく支えを失って何処ぞへ転がり墜ちていくだろう。勿論、鼠たちも一蓮托生でありその結末は… 昔ある暇な代書屋が言っていた。 「俺のところにお客が来ないのは、俺の字が汚いからでなく周りが美男美女しかいなく手紙を送る…

  • 落日の栄光 敵性勢力現る〈夜闇を跋扈する四又の魔女〉

    最悪の日とは最悪な朝から始まるものだ。 今朝方シャワーを浴び、バスタオルで体を拭き髪を乾かし、久しぶりに体重計に乗ってみたら、2キロ増加していた。最低だ。 心身の安定の為、体重の変化には気に掛けていたのだが…。ついこちらのケーキが美味しくて、食べ過ぎてしまう。自制せねば、菜食主義に戻すべきか? その次は街へ出掛けようと、スニーカーを履いて歩き出したら紐が切れ、前のめりになりそのままこけ、顔を強く打ちつけた。額から血が流れたが、服の袖口で拭った。幸い今の私の髪は長いので、それを隠すのは造作も無い事だ。たまにはこの長く煩わしい髪も役立ってくれる。 そして私は街へ出掛け、集合予定時間より10分程早く…

  • コント バイクと俺

    ☆演者 坂道ケツカッチン(空山田修吾・松加下別所) 時刻は深夜2時、雑木林へと続く細い遊歩道を一台のバイクが駆ける。 それを空山田扮する警察官が止めに入る。 空山田「ピピーピピー。そこの君止まりなさい」 松加下「なんすか?」 空山田「君ここね。それで走っちゃダメなんだよ。危ないでしょ」 松加下「こんな時間誰も居ませんよ。あれですか?お巡りさん幽霊を轢くと危ないので走るなとでも言んですか?」 びっくりした顔で松加下を見、馬鹿にしたように質問する空山田 空山田「あっお兄さんあれだ。そっち系の人?」 松加下「そっちでどっちですか?」 空山田「だからさ、小人が見えたり、妖精が見えたり、メルヘン系の人で…

  • 落日の栄光 同志諸君はいずこに?

    私があの動画を上げて以降、SNSのフォロワー数は確実に上昇し続けている。中には少女愛好家らしい者達も居たりし、胸糞悪さで、お気に入りのイルカの抱き枕に何度拳を突いた事だろう。そこで思ったのだが、世間では今のこの私、つまり少女の風体をしている私の見てくれは、そんなに悪いものでは無いらしい。むしろ、一部の男性達にはすこぶる評判が良く、肩まで掛かる長い黒髪も、黒曜石の様な夜色の瞳も、年齢の割に小さな身長も、そして何故だか、女性らしさを欠如させている様な気がする、この小さな胸も。その全てが全て、あいつらの邪な欲望を肥大化させていく要素になるらしかった。そうなると、自身を守ってくれる親衛隊が必要になって…

  • See-She

    序章 引越しシーズンの到来 左川に白猫ヤマト、アース引越しセンターに蟻さん引越しセンター。 この時期になると春からの学生生活を楽しむため。社会人となり一人前の大人になるため。様々な理由を胸に抱え、地方者が都市へと転居移住をはじめます。 そして、地方から都市へ転居する者たちは、大抵ある種の不安と希望を抱いているものです。地方から都市へ転居する者は、往々にして都会というものに淡い幻想を抱いてしまいます、なのでその幻想した都会へ地方者ものである自分が馴染んでいけるか? という、暮らし始めたらどうでもよくなる不安を抱いてしまうもののようです。 転居して一番の関心ごとは、なんといっても新しい出会いでしょ…

  • リンボ

    煙草を吸う事の意味が欲しいのなら、煙草について考えれば良い。 何にだって言える、欲しいのなら手に入れる手段を探るよりも早く動く事が大事なんだ。 次の事は次に考えれば良い、そうすれば何だってわかってくるし、近付いていく事が出来る。 手に入れられるか、手に入れられないか、手に入れるべきか、入れないべきか、そんな事も全て知る事になるんだ。 そして選べば良い。どうするかってね。 君は望むままに手に入れたり、手に入れなかったりする。 そうする事の資格を手に入れる事が出来たのだから。 単純なんだ、何もかもが単純で馬鹿らしい。 単純で馬鹿らしいからこそ、理由が欲しい、理由の理由が欲しい、理由の理由の理由の・…

  • 落日の栄光 水野上雪絵の野望

    〝今〟の時代にやって来て、もうかれこれ三ヶ月が経った。 どうにか過去の自分と現在の自分との格差を幾つかの実体験を持って把握し始めているところだ。この様な状況下に陥っているが勿論、肯定的にだ。あと過去と現在での大変大きな違いと言えば〝私〟が居た時代と比べ恐ろしくメディアというモノが進化を、否、退化というべきか?どちらにせよ、変貌していることだ。 しかもこの変貌は今の私にとっては好都合だ。少ない金額で、しかも個人単位で大衆に向けて発言が出来るのだから。 「♪♪♪」 スマホの着信音が鳴っている。ワルキューレの騎行に設定しているが、こちらの同志には概ね不評である。作業を止めて電話に出る。 「美巳華どう…

  • イサナの卵

    これを水と言うのか。 疑いもせずに、君はこれを水が成すと言う。 僕にはわからない、どうにも分かれそうに無い。 水ではないだろう?水では無いと言っておくれ、僕の為に。 あぁ、水だと思える人に見える君。 何か途轍も無い陰に向いたように思えるよ。 光差さぬ日、頭を垂れようとするこの僕に降るから。 この震えは冷たさからじゃあない、髪も乾いたままじゃないか。 肢端から発するはなにも感傷めいた事ばかりではないよ。 もう見えてはいないんだ、頸部は働く事を放棄してしまった。 僕はもう肢骨からの指示を受けるままの機械にでもなってしまったようだ。 巧く出来ているね、よく動く。 このたった今感じているこの震えを心配…

  • ショートコント 頼むから寝かせてくれ

    ☆演者 坂道ケツカッチン(空山田修吾・松加下別所) 十日間程連続で鶴折のバイトを入れてしまった男(空山田)は明日は十一日ぶりの休みとあり、丸一日寝て過ごそうと決めていた。 自宅のワンルームに帰り、シャワーも浴びず、服だけ着替え寝ようとするところから始まる。 空山田「折り過ぎたわ~千羽鶴五セット分は折ったわ~布団に入って寝ようとしている今も、手が鶴折ってる気がするわ~」 空山田「にしても、休憩時間に見せられた鶴の交尾のビデオあれ要るか?まぁええは、はよ寝よ」 空山田が住んでいるこの建物は、七階建ての鉄筋コンクリート造りであり、建物の半分は近くの建設会社の社員寮となっていた。 時刻は午前二時、そん…

  • デパートメント

    枯葉の上を歩く、何億もの微生物を踏みつけながら理由もなく歩く。 途轍も無く長く思える遊歩道の上を滑るように流れる私の目には、男が二人と女が一人老人と老婆と男の子の生きている形を追う事だけで、この場所の在り方というものを理解出来ているものとして動き始める。 一人一人を値踏みするように、老人と老婆と男の子の事を眼で追っている。 老人と老婆と男の子、老人二人と男の子。 男の子もやがて老人になるのだろう、その頃老人二人は何になっているのだろうか。 男の子が老人にならないもしもと、老人が老人でありつづけるもしもの違いとは何なのだろう? それは違うものなのだろうか? 老人はいつから老人なのだろうか? 老人…

  • うしろの女

    時刻は深夜3時15分、草木も眠る丑三つ時、静まり返った無人の学校に足音が二つ。 「昼間と違ってやっぱり怖いな、夜の学校」 「けどこの時間しか無いて言ったのは、拓郎お前の方だろ」 「そりゃそうだけど…おい。今何か動かなかったか?」 右往左往とライトで所かまわず照らし廻す。 「お前の見間違いだろ?」 「そうか…それなら良いけど…」 少年二人の足音が職員室まで続き、そこで止まった。 職員室には鍵が掛かっていたが、とても安易なものだったので、ものの数分で開いた。 「じゃ早いとこ、明日の期末テストの問題用紙探そうや」 「そこはばっちりだ、どこに入れているか前に先生達が話しているのを聞いたから、だから俺が…

  • 素足な少女

    酷い雨の日に『素足で町にでようよ。』と言ってくれる人が好きなのではなくて、その言葉が新鮮だからではなくて、雨の日に素足で町に出たかったわけでも勿論無かったけれど、誘われたら付いて行ってしまいたくなるのが私なんだ。 本当にそれだけだったなら、風邪ひきくらいですんでたはずなのに! 車に轢かれるよりは良かったよと言ってくれた友達に私は平手をプレゼントしてしまった。 お返しに私はまた水浸しになるわけだけど、この水浸しには意味があるのかな?と思うと涙が止まらなくなった。 ワッと泣くってこうゆう泣き方なのかもしれない。 もう止まらないんだよ、涙も声も思いだって何だって。 あぁ私は部屋の中で水浸しになって泣…

  • 超地球的存在 ~大手町六郎、神はじめました~

    気が付くと俺はコンビニでビールをカゴに入れている所だった。 店内放送では、数年前流行ったお笑い芸人が何か喋っている。いつもの癖でスマホを見る。時間は10時30分だ。 頭の中で違和感の周りをもやもやとしモノが駈けずり廻っている。 アイスコーナーでは、この時季限定のアイスバーが残り1つとなっている、物凄く食べたいが何故が買う気が起きない。その時暑さで苛立っている中年サラリーマンがやって来た。 「あっちーなチクショー。こうも暑くちゃ企業廻りも止めだ止め」 手を団扇の様にして、顔を扇いでいる。 「おっ、このアイス残ってんな」 一度こちらを見る。 「兄ちゃん。これいんのかい?」 「あっ良いすよ」 「そう…

  • もぐら少女

    思った事を口にする不自由と 思った事を心に秘める自由の狭間で 綿毛の様に揺れる私は、根っこが無い変わりに花も無い。 私が空を飛ぶ時は 機械の背中でじっと座って待つ方法と 落ちるしかない数秒の空中散歩の二種類しかない どっちも飛んでいるようで、飛ばされているだけだと きっと誰も気付いていない。 飛びたいと思う気持ちと飛ばされてる現状は テロが起きても、カラマーゾフが売れても、私が私を捨てたとしても 何があってもリンクする事はないと思う。 私が空を飛んだと思う時は、きっと誰もが 『ねぇ、あの人空飛んでるよ。』って指さすくらいに鮮明で 笑った顔が少し寂しい夏の終わりがちょうどいい。 私は飛ぶよ? テ…

  • 牢の中の二人

    ある時不意に自我が覚醒すると、鉄格子と壁で覆われた部屋の中に幽閉されているようであった。 物や言葉の記憶は憶えていれど、自分に対しての情報がスッポリと抜け落ちている。つまり、ここに居る私という存在は、自身の歴史が今からさも始まろうとしているが、それ以外の記憶はどういう理由か、最初からある程度入った状態で存在している。 現に先程認識出来たように、〝鉄格子〟であるとか〝壁〟であるとか知識としてどうやら私は知っているようだ。 ただこれらをどこで仕入れた情報なのかが、皆目見当つかないのである。 けれど、不思議と錯乱状態にはならないのである。 恐怖とは、無知と不安から来るらしいがその感情は湧き起こらない…

  • トローチ・サブリナ

    雲ばかり映える夏先の16時過ぎには 相も変わらず自転車とバス停との逢引が恋しくなる。 君が待つらしいあのバス停までの坂道が 水を越える大きな橋があって、町で一番の競技場があって 一つ一つ場所も変えず名前も意味も何も変えない区切りを 少ないけれど流れのあるこのバスの中で しっかり埋めてくれるように願って 当たり前なのかもしれないけれど、当たり前でなかったあの頃は そうして毎日バスが望んだ停留所に辿り付くのが 何にも代え難いほどに大切な事なんだと思っていた。 今でも思ってる、今でもこれからもずっと思っている。 当然待ってくれてはいるのかもしれないけれど 約束したわけでもなくて 待っていて欲しいとお…

  • 三枝千佳月が死んだ

    朝、目が覚めるとすぐ横から寝息が聞こえてきた。 片耳からは心音も聞こえている。 どちらもまだ眠ってらっしゃる、千佳月さんのものらしい。 マイナスイオンすら出ているのではないのかと思ってしまう心地良い音のリズムで、もう一眠りすることにしよう。 目覚めの刻を知らせる鳥達は鳴きつかれ、代わりに烏が帰宅の刻を流布している。 再度目が覚めた。 横を見ると千佳月が居ない。 この部屋は個室なので、部屋の主がいないとどうも狭いはずの部屋が広く感じて、どこか寂しい。携帯をジーパンのポケットから出し、時刻を表示させる。 6時25分 「あれ?この携帯壊れたのかな…」 自己弁解のための独り言をしてみる。 どうやら一日…

  • 紐だけ長い少女

    此処から何処にも繋がっているなんて信じた私が馬鹿だった 此処から何処かに繋がっているのは、此処がちゃんとしてないからで 此処が私で、私がちゃんとしてたなら 私は此処で、此処がちゃんとしてるはず それなら私は何処にも繋がっているわけもなくて 誰かが私に繋がろうとしているだけなんじゃないのかな。 そんな私が信じた人は、結局誰かと繋がっていて 私に言わずに何処かに行った。 平成14年6月20日 17歳 高橋メイ あの時私は女子高生で、馬鹿でまぬけだった。それだけははっきりしてる。 メイって名前は勝手についてた名前だけど、案外しっくりきてる。 だって目だけは良いし。って駄洒落なんて言ってる場合じゃない…

  • 落日の栄光

    彼が見た最後の映像は血色の景色であり。その中では最愛の人が銃弾により今死に絶え様としており、その後続く最後の音声は施錠をしたドアを部下達がけたたましく叩き絶叫している和音であった。 「何故分からない!」 それだけ言うと彼も彼女の後を追うように永遠の眠りについた。 〝運命を再び廻せ〟 どこか神秘的な声がする、この様な声が出せれる者が居たらきっとそれはオーディンくらいのものであろうなと彼は思った。 〝人間にしては存外に面白い、そんな貴様だから次も人間で良いだろう。それともネズミの方が良いか?〟 鼠だと、とんでもない、あんな矮小な生物唾棄すべきだ。 〝まぁ良い。次はどんな劇を観せてくれるのか、喜劇か…

  • WatHer CroWn

    『夏だから暑いのだろうね。』 夜が短いのもその夏なんてものの所為で だからそれできっと、詰まった時間が運ばれてきてしまうんだ。 動かなきゃそれで良いはずなのに ふかふか動く細い針がキシリキシリなんて言ってしまっていて 足音なんて聞こえやしないんだもの。 後ろの方もそのずっと前の方もずっとずっと前の方も いつもなんて守られているはずはなくて、 僕はいつでも取り残されてしまう。 きっとも、いつかも、ずっとずっとそのままで良いと思っているのに 大きな踵が正しくないから 今なんて人が、ちいさか無い事がぶつかってしまうんだろうね。 それは事故ではなくて、クリップに近い意味なんだって思う。 煙もでやしない…

  • 三枝千佳月が死んだ その4

    ここから見える風景は結構好き。 小さい頃、××と一緒によく遊んでいた公園がここからだと直ぐ下に見える。 あの頃は楽しかったな いつもお転婆な私を××が 「千佳月~。危ないからよそうよ」 とか言ってたっけ。 あの頃の××は、とても可愛らしかったな。一度寝ている××の頬っぺたにキスをしたことがあったけど、彼は憶えているのかね? 少し恥ずかしいことを不覚にも思い出したので、頬がなんだか熱い。その熱さを冷ましてくれるように、頬に冷たい水が滴る。最初は自分でも何が起きたのか理解出来なかったけど、どうやら瞼から涙が零れてきたらしかった。 「なんで…僕…泣いているんだろぅ…」 涙と嗚咽の二重攻撃によって、言…

  • 奥歯がかちかちなっている

    紅茶をいれて、両手を合わせていただきます。 みどりのベンチに靴跡のこしたスニーカーのことをまだ怒ってこっちをみてくれない。ふたりの食べたいものだけ詰めた弁当箱にパセリをみつけた僕は、ゆびでつまんで「これだって好きになれるよ」と口にほうりこむ。 電子レンジがなくて冷えたはだかの白飯も、プチトマトについたミートボールのたれもたまらなくおいしい。ランチョンマットは僕があげたものだけど気に入ってる。フォークはちょっと子供っぽいけど、お箸だったらうまくつかめなくて落としたらどうしようか。見たことない形の食べたことのない味のこれ何って話もしたい。 空の青さは文句なしで、ひなたのにおいにうっとりして飽きない…

  • 超地球的存在~或いは大手町六郎の怠惰な一日~

    怠惰であった。 大手町六郎は怠惰であった。夏休みの宿題は最終日にやり始めるタイプであったし、大学の卒論は最終提出期限が過ぎ、やっと重い腰を上げゼミの指導者の所へ赴き、直談判し、なんとかでっち上げる。そんな男であった。 「うっく。平日の昼まっから呑むビールは最高だな♪」 コンビニで先程買って来たビールを勢いよく呑み干し、二本目に手を掛けようとした時、それは起こった。 目の前の横断歩道を一人の園児が渡っている、刹那、横から自動車が信号無視よろしく、園児に突っ込みそうになる。 「危っぶねぇ!」 六郎はとっさに園児のもとへ駆けつけタックルをかます。ビリヤードで自球に当たった的球の様に園児は吹っ飛びガー…

  • ユキノシタの誤謬

    応接間で寝ていた私のことなど見えないように、母はピアスのキャッチを留めようとしばし中空を見つめて黙った。 ピエゾのアイストローチというそれは健一から誕生日にもらったもので、私がもっとも気に入っているアクセサリーのひとつだった。嫌な言い方だけど仕方がな い。健一と私はもう4年も付き合っているのだし、付き合った分だけ歳をとって、その中で健一は着実に私の好きなものを把握しつつあった。 母はテーブルの上にある灰皿を持ち上げた。私には見えない微細な傷をゆびでなぞる。満足がいくとテーブルに戻す。私は知っている、それは今日一日のお小遣いをそれと知られないように私に渡すためのギミックなのだ。 灰皿のすぐわきに…

  • 最期のオタク

    とどのつまりオタクは今や絶滅危惧種です。 平成31年に施行された、不快因子排除法により街からエロ本という物が消え、その次に少年漫画の紙面から、少しでも性的描写だと捉えられてしまった絵が消えた。だけど、熱意ある漫画家達の中には、ネットの匿名の海の中へ潜り細々と己の熱い情熱を吐き出した。 そんな中でもこの国の二次元趣味愛好者達はしぶとかったようで。 「くっふーー 瑠璃島たん超萌~。否、萌絶死なり~」 頭にバンダナ、手には黒の指ぬき手袋をした太った若者は、スマホに映る裸の少女の萌絵を見て顔を紅潮させ叫ぶ。すかさず横の男は。 「ハバネロ氏、萌絶死とはこれまた死語でござるな」 この男も、先程の男と同じ様…

  • 三枝千佳月が死んだ その3

    真夏の熱射線が肌を痛めつける。 たしか数年前までは冷夏だったので、過ごし易い夏日だったけど今年の夏は気が滅入るぐらいに過ごしづらい。そんな真夏日のなか、今日も僕は千佳月の居る郊外の病院へ行くため自転車を必死に漕ぎ、このひどく長い坂道を頭の中が焼け焦げそうになりながらなんとか前進している。 やっとの思いで、坂を上りきり白亜の建物へと入っていく。 入っていくと1階のエントランスホールで、千佳月の病室の近くにあるナースルームでよく見かけるナースさんに。 「××クン。また今日も彼女に逢いにきたのね♪」 「はいそうなんですよ。僕が来ないと千佳月が寂しがるのでしょうがないですよね。ほんと」 軽く嘯いてみた…

  • 明朝体

    湿気だまりに咲いたアザミが家路をいそぐ人を見送っている。 ちいさな不幸せをほおばった女の自転車が信号機を前にスピードを落としたのを見て、手を伸ばして助けてやりたいがそんなものは持っていないから風に乗って、せめて雨が降りそうなことを教えてやる。女もわかったように背筋を伸ばしたり、手首をまわして赤信号をにらみつけた。 負けない気持ちが傍目で見てもわかる。息を吐いた拍子に、ひとつ不幸せがクチビルのすき間から顔を出した。女はまだ気づかない。アザミは根っこから立ち上がりたいが、足も力もそんなものはない。とじたつぼみに羽虫がとまって、ころりと落ちた。悲しもうにも言葉がなかった。花だった。

  • 坂闇草

    「3丁目の学園坂でまた消えたらしいよ」 隣を歩く少女は、自転車を押しつつ目前の坂を指さす。 「それってこの坂だよね…」 「そうそう。今月だけでも5人目。共通するのは、全て夕方に起きた事らしいよ」 そういうと、2人の少女は押していた自転車を止めた。 件の坂は、人がどうにか擦れ違える程度の幅と、坂下からは坂上の人をどうにか視認できる程度の長さを有した急勾配な坂であった。 「それにしても、消えた人達はどこに行ってしまったんだろうね…」 「それを知るために、今日この時間にここに来たんじゃない」 そういうと、彼女は携帯電話を開き時刻を確認する。 「17時48分。時季も時季だし、だいぶ日が落ちてきているね…

  • 案山子の里にも星くらげ

    代わり映えのない時間が過ぎていた。断片的というか、映画の総集編みたいなジャンプカット。 毎日退屈だとかもうすぐ夏だねと言いたいのではなくて、もっと短い区切りで欠陥品の砂時計のように記憶がさらさらと抜け落ちていく。 ほらさっきがもう失われている。危機感を持つべきだ。雨が降っていて、磨りガラス越しになんじゃもんじゃの白花と隣家の側壁が赤く染まっている。 それなのに印象はグレイなの。時間がぎっちりとつまっていて、すり切れたところに熱がたまる。パッと火花が散って、記憶が焼き付いた数秒が今日の思い出。残像が目の奥に残る、きっとそれがグレイで目の前を染めていくんだろうな。 さて、何が言いたいかというとお腹…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、御鱈河岸さんをフォローしませんか?

ハンドル名
御鱈河岸さん
ブログタイトル
ー御鱈河岸ー
フォロー
ー御鱈河岸ー

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用