2021年2月
上州の「寅」(55)「受け入れたのですか、彼からのプロポーズを?」「言ったでしょ。子持ち女の恋の成就は難しいって。ひとつだけ条件を出しました。ユキがあなたのことをあたらしい父親と認めれば、そのとき再婚しますって」「ユキはあたらしい父親として彼を認めたのですか?」「ひとの心の奥底の変化を読むのは難しい。ユキは拒否しなかったけど、積極的に自分から近寄っていくこともしなかった。いつまで経っても微妙な距離が残っていた。それでも彼のことを、家族のひとりとして受け入れた。とわたしは勝手に思い込んでいた・・・ユキが中学2年になったとき。再婚することを決めました」「経済的な理由からですか?」「うふふ。ホント鋭いわね、あなたって。そう。いちばんの理由はこれから重くのしかかるユキの学費。高校大学とすすんでいけば、女ひとりの働きでは...上州の「寅」(55)子連れ再婚
上州の「寅」(54)「結婚して鹿児島で暮したのは、5年あまり。離婚が成立し、3歳のユキを連れ、生まれ育った小豆島へ帰ってきました。実家へもどらずとなり町で、ちいさなアパートを借りました」「実家を頼らなかったのですか?」「駆け落ち同然で実家を出た身です。わずか5年で離婚しましたと、実家の敷居をまたぐことはできません。そのぶんユキに苦労をかけました」「でもユキはお母さんと暮らした7年間は、楽しかったと言っていました」恵子さんの手が止まった。沈黙の時間が過ぎていく。どうやら予期しない言葉だったらしい。「ユキがそんな風に言っていましたか。そうですか・・・再婚するまでの7年間のことを」恵子さんの眼が宙を泳いでいる。ユキと暮らしたふたりだけの7年間を思い出しているのだろうか。またすこし、沈黙の時間が流れていく。「再婚相手、...上州の「寅」(54)バツイチの恋
上州の「寅」(53)降りるべき乗客はおり終わった。しかしバスは停留所から動かない。動きだす気配がない。・・・なんだ?、どうした?。乗客がざわつきはじめた。駅へ向かうバスはほぼ満席。(なにかトラブルの発生か?・・・)乗客の目が運転席の脇で立ちすくむ恵子さんへ集中する。運転手が恵子さんへ声をかける。「お母さん。ほんとうはどこまで行きたいのですか?」「駅までです。駅まで行きたいのですが、この子がこの通り泣きはじめて、わたしには手に負えません。みなさんにご迷惑がかかりますので、ここで降りたいと思います」「そうですか。わかりました。ちょっと待ってください」運転手がマイクのスイッチを入れる。「混雑している中、お時間をかけてすみません。みなさんにお願いがあります。こちらのお母さんが赤ちゃんが泣いて皆さんに迷惑がかかるので、こ...上州の「寅」(53)駅まで
2021年2月
「ブログリーダー」を活用して、落合順平 作品集さんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。