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落合順平 作品集 https://blog.goo.ne.jp/saradakann

現代小説を中心に、連載で小説を書いています。 時々、画像もアップします。

落合順平 作品集
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2017/03/26

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  • 上州の「寅」(52)泣き虫

    上州の「寅」(52)「あの子は泣き虫でした」昨日よりやわらかい笑顔の恵子さんが、寅とチャコを出迎える。「どうぞ」手招きされた。「紅茶?。コーヒー?。今日はわたしにおごらせて」こころが落ち着いたせいか、物腰も昨日よりはるかにやわらかい。「ユキはね。とっても泣き虫な赤ん坊でした」コーヒーが2つ運ばれてきたあと、恵子さんがユキの話を始めた。「わたしも泣き虫だったよ。私のDNAを受け継いだようです。うまれたときからユキはとにかくよく泣きました。何が気に入らないのか、火がついたように泣くの。はじめてのことでどうしたらいいかわからず、一晩中、抱っこしたまま公園を歩いたこともあります。好きなだけ泣いて泣きつかれるとようやく眠るの。その時の寝顔が可愛いの。泣くときは悪魔、眠るときの顔は天使。とにかく手を焼きました。それが産まれ...上州の「寅」(52)泣き虫

  • 上州の「寅」(51)渡したいもの

    上州の「寅」(51)「あんたのせいでまた、ホームセンターへ行く羽目になったじゃないか」次の日の昼休み。背後からあらわれたチャコが唇を尖らせた。「おれはなにもしてないぜ。君がぜんぶ話をしたくせに、なんでいまさら俺のせいなんだ」「寅ちゃんが運転してね。あたし、疲れた」「それはかまわないが、怖いぞおれの運転は」「だいじょうぶ。寝ているから」「いいのか。なんどもホームセンターへ行くとユキが疑うぜ」「ユキには買い忘れが有ると言っておいた。それよりなんだろう。渡したいものがあるからもう一度来てくれというのは」別れ際、準備していたものがあるの、と恵子さんが言い出した。ユキに渡してほしいという意味か。明日用意するから午後3時過ぎにまた来てほしいという。断る理由はない。わかりましたと2人で答え、ホームセンターから帰って来た。4月...上州の「寅」(51)渡したいもの

  • 上州の「寅」(50)休憩室

    上州の「寅」(50)周囲が騒がしくなってきた。「不審者あらわる」の一報が警備室へ伝わる。警備員が駈けつけてきた。「なに?」「どうしたの?」買い物客たちも立ち止まる。寅の周囲へ物見高い人垣が出来上がる。おおくの視線が寅へ集まる。「だから言ったのに・・・」人垣をかきわけてチャコが出てきた。店長へペコリと頭を下げる。「ごめんなさい。この人はわたしの連れです。こちらのレジにいた女性の娘さんのことで話があり、戻ってきました」人垣の背後へ3番レジにいた女性が戻ってきた。「わたしの娘、ユキをご存じなのですか!」声がふるえている。「この人の娘さんのことを知っているのか、君たちは」「はい。どうやら誤解があったようです。最初にそう言えばよかったのに、このひと、やたら口が不器用なんです」「なんだ。そういうことか。よかった」店長がほっ...上州の「寅」(50)休憩室

  • 上州の「寅」(49)もう一度行く

    上州の「寅」(49)「もう一回行く?。何か考えがあるの?」慌ててチャコも立ち上がる。「策はない。でももういちど三番レジのおばちゃんに会って来る」「会ってどうするの。策もないのにどうするつもり?。会いに行くだけじゃなにも解決しないわ」「それでもおれは行く」「石橋を叩いても渡らないくせに、へんなところでやる気をみせるわね。お願いだから無茶しないで。家族が崩壊するようなことになったら逆効果になるからね」「それでもおれを止めるな」「止めないわ」「じゃ、行ってもいいんだな」「行きたいんでしょ。どうぞご自由に」自分でもよくわからないまま寅が動き始めた。なにかがはげしく寅を突きあげる。黙って座っていられない気分だ。「無茶しないでよ」チャコの声を背中で聞きながら、寅が喫茶店をあとにする。こんな気分になったのははじめてだ。寅は人...上州の「寅」(49)もう一度行く

  • 上州の「寅」(48)妹が出来た

    上州の「寅」(48)「貧しいけど楽しかった?。そんなはずはない。おかしいだろう、矛盾していないか?」「あんたみたいに恵まれた家庭に育った子には、わからないさ。人は仲良く暮せることが一番だ。わたしたちは仲間をまもる。どんなことがあっても裏切らない。テキヤは人と人のつながりを一番大切にする集団だ。一攫千金を夢見ているけど実態はほとんどが、額に汗して働く貧民層さ」「貧しいのか?。テキヤの暮らしは?」「裕福な人はすくない。お金には恵まれないが、こころまで貧しくはない。どんな状況でも事実を受け止め、笑顔で仲良く暮らす。笑顔は大切だ。こころの栄養になるからね。ユキは3歳から10歳までお金には恵まれなかったけど、母の愛に恵まれた」「10歳のとき。なにが起きたんだ」「窮状を見かねたかつての同級生が救いの手をさしのべた」「再婚し...上州の「寅」(48)妹が出来た

  • 上州の「寅」(47)旅はおわらない

    上州の「寅」(47)「そんな風にユキはの君の屋台へ居着いたのか。そこまでのいきさつはわかった。でもさ。金髪になった理由はいままでの説明じゃわからない」カラリとメロンソーダーを寅がかき回す。「この島にはユキの母親の生家がある。ここは母親の故郷。でもユキが産まれたのは別の場所。ここから遠く離れた鹿児島県」「鹿児島?」「さいしょに巣箱を設置した鹿児島の山を覚えているだろ。あそこからすこし先のちいさな町でユキは生まれた」「あ・・・」「みつばちの旅は、ユキが生まれた土地のちかくからはじまったのさ」「スタートがユキが生まれた土地のちかく。2ヵ所目が母親の生家があるこの島。なにか意図的なものを感じるな」「離婚した母親は3歳のユキをつれてこの島へ戻ってきた。ユキは父親の顔をよく覚えていないそうだ。そのくらいだから自分が生まれて...上州の「寅」(47)旅はおわらない

  • 上州の「寅」(46)年齢不詳?

    上州の「寅」(46)「おい。おまえ。名前は!」「ユキ」「その名前はさっき娘から聞いた。そうか。ユキというのは本名だな。住所は・・・生まれは何処だ。中学生を使うわけにはいかん。親に知らせる。親がいるだろ。電話番号と住所を言え。」「親はいません」「いないわけがないだろ。その歳で天涯孤独の独り身か!」「家出中です。親はいません」「ほら見ろ。やっぱり居るじゃないか。住所は何処だ。親の携帯番号を教えろ。すぐ連絡を取る」「知りません」「嘘を言うな。親の電話番号を知らないはずがないだろう」「忘れました」大前田氏の追及をユキがのらりくらり逃げていく。収穫の無い展開に、やがて大前田氏の怒りが頂点へ達していく。顔がみるみる赤くなる。「いい加減にしろ!」大きな声を出したとき。大前田氏が背後のざわざわに気がつく。いつのまにか同業者の人...上州の「寅」(46)年齢不詳?

  • 上州の「寅」(45)14歳の金髪

    上州の「寅」(45)「はじめてユキと出会ったのはいまから半年前。場所はさぬき高松まつり。開店準備していた出店の前へ、はでな金髪の女の子があらわれた。金髪?。そのわりに年が若すぎるな。見た瞬間、そんな風に感じた。もしかしたら中学生かな?チラリと横目で見たけど、その子はそのまま通り過ぎていった」「さぬき高松まつり?、何それ?」「3日間で58万人をあつめる香川県最大のおまつり。学校は夏休み。だから若い女の子が金髪で通っても別に不思議じゃない」「でも中学生で金髪はまずいだろ」「そうでもないさ。夏休みの間だけ金髪や茶髪にそめる女の子はたくさんいる。2学期がはじまるまえ黒髪へ戻しておけば、どうってことないからね」「そんなものか?」「そんなものさ。すこししたらまた、金髪の女の子がもどって来た。わたしの店の前で立ち止まった。2...上州の「寅」(45)14歳の金髪

  • 上州の「寅」(44)メロンソーダ

    上州の「寅」(44)メロンソーダ喫茶店で寅が頼むのは、いつも決まってメロンソーダー。メロンソーダー以外、頼んだことがない。母といっしょに初めてカフェへ寄ったとき。寅の目にいきなり、涼しそうな緑の飲み物が飛び込んできた。なんだろう?。サイダーのような液体に、鮮やかな色がついている。「ママ。シュワシュワしている、あの緑が呑みたい」「ダメ。あれは身体によくない炭酸飲料です。それにあの緑色は人工甘味料のかたまり。どちらもこどもの体によくありません。他のものを頼みなさい」「身体によくないの?」「炭酸飲料に子供にひつような栄養ははいっていません。炭酸は骨を溶かすのよ」「骨が溶けるの?。でもあの人は呑んでるよ」「大人は良いの」「大人になれば呑めるのか。いつになれば呑めるの。ぼくは」「親から独立した時。お給料をもらい、ちゃんと...上州の「寅」(44)メロンソーダ

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