あなたへ 不意に届く香りというは、 心の奥底に仕舞っていたはずの記憶を、 半ば強引に引き出す力を持っているものなのかも知れませんね。 あの日の私に不意に届いたのは、焼香の香りでした。 思いもしなかった場所で見つけた香りに、 思わず立ち止まった私の中へと鮮明に蘇ったのは、 あなたのその姿を最後に見たあの日のことでした。 セレモニー会場へ到着し、着付けをしてもらったことや、 着付けの先生が、とても穏やかで優しい方だったこと。 お世話になるお坊さんへの挨拶。 私の顔を見るなり、 まだ若いのにって、 出来ることなら、おばちゃんが変わってあげたいって、 私よりも先に、叔母が泣き出したこと。 告別式の段取…