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Floral Mirror http://doublesmirror.blog.fc2.com/

ファンタジーにちょこっと恋愛要素の入った、オリジナル小説サイト。ハッピーエンド思考。

人間になりたい女神と旅をしたら魔王の戦いに巻き込まれて勇者になっちゃったり、全く恋をしない王子に何とか恋愛をさせようとがんばるキューピッドが王子に恋をしたり。

くろろん
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2016/06/04

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  • オリジナル作品について&注意書き

    ここはくろろんが大昔に書いたオリジナルのファンタジー長編小説置き場です。試し書きなので、いろいろとおかしさ満載、表現も文章も何だかおかしいです。いや、何だかというレベルを超えているか…元々の文章力でお察しください。ただいま3作品を公開中で、2作は完結しております。連載中の1作は、某小説大賞の最終選考まで残った作品ですが、今読み返すと「なんじゃこりゃ」的な感じです…暇つぶしにでもお読みください。中身の...

  • 第5章第4話 陰謀

    「テディ」 ウィルスがテディを膝の上に抱き直してから、その名を呼ぶ。「君の事……教えてくれるかい?」 テディはウィルスの胸に耳を澄ませながら目を閉じた。 トクントクン……今確かに、愛しい人はここに生きている。 そして自分は、その鼓動を感じることが出来る。 テディはウィルスの手を握って一息ついた。「わたくしの本当の名は、テディーラル=ヴォルサク=キッシェ」「……何だって?!」 ウィルスは驚愕してテディを見...

  • 第5章第3話 テディの秘密

    自宅に戻るとテディだったものの残骸が食卓に散らばる。 とりあえず急いで直そうと、転びながら裁縫箱を持ってくる。 全身を犬に噛みつかれていたので、もう一度型紙を取るところから始めなければならなかった。 耳など使えそうなところはそのまま使って、綿も犬の唾液がかかっていなければそれを使う。 一生懸命一晩かけて縫い合わせたそれは、テディだった。 が、テディに似た物だった。「テディ……」 話しかけても、答え...

  • 第5章第2話 残酷な現実

    ウィルスは刃物を躊躇なく男の喉に向けながら、言った。「声を上げるな。一声でも上げると今ここであんたの喉を切り裂く」 ウィルスの言葉に、男は何度も頷いた。 頭がおかしくなりそうなくらい上下に振った。「あんたが盗ませたおもちゃはどこにある?」 その声と言葉に、男はようやく気付いたようだ。 目の前の黒装束が一体誰なのかを。「お前、ウィルスだな?!」 だがウィルスは、ジョバンニの言葉に動じず、刃物を首に...

  • 第5章第1話 君の為ならば夜の闇となろう

    その日の夜。ウィルスは黒装束を身に着け、七つ道具を懐に忍ばせていた。 そして、図面を食卓に広げる。それは屋敷の間取り図だ。 これから忍び込む屋敷の間取り…… この地図は、昔組んでいた盗賊仲間に頼んで今日のうちに調達してきてもらった。 その仲間は協力を申し出てくれたのだが、足を洗っている仲間をまた引き込むのは悪い気がしたので、丁重にお断りした。 血が騒ぐのに! と最後まで粘られたが。 ウィルスは間取...

  • 第4章第4話 行方不明

    翌日、ウィルスは朝早くから王立ホールに足を運んだ。 自分のブースにはテディがきちんと座っている。 そんなテディの前にはこの時間からたくさんの人が集まっていた。 今や国内問わずと言っていい程人気のおもちゃ屋、ノイスラックの商品を見ようと人々が詰めかけていたのだ。 その様子を遠くの柱の影から見ていたウィルスは、夢にまで見た光景に胸を抑えた。 自分のおもちゃが皆に認められている。こんなにうれしい事はな...

  • 第4章第3話 真のおもちゃ愛

    コンクールの予選会当日。国内外各地からやってきたおもちゃ職人がおもちゃ協会指定の王立ホールに集まった。 王都ではアーティクトとノイスラックの二店しかないおもちゃ屋だったが、国内各地にはまだおもちゃ屋は残っていたし、今回は国外のおもちゃ屋もエントリー出来る。 ウィルスはテディを抱いて指定のブロックに移動すると、王都のブロックということでアーティクトと同じブロックだった。 そして、アーティクトが出品...

  • 第4章第2話 希望は燃え尽きない

    店と工房の再建は保険が下りる事になっていたので、時間さえあれば問題はなかった。 だが、問題はその時間だ。コンクールの予選会まで残り一週間を切っていた。「コンクールまで日にちがない。今から作ってももう間に合わない」 ウィルスが言うのに、リットは食卓に肘をつきながら口を開く。「火をつけたのって、絶対ジョバンニだと思うんだけど」 リットに、ウィルスは肩を下げた。「証拠がない。ジョバンニがやってっていう...

  • 第4章第1話 一瞬で散った夢

    テディは眠たげな目を擦りながら身を起こした。 なんだろう……胸騒ぎがする。嫌な予感がする。――――と、その時。 テディの耳におもちゃ達の悲鳴が聞こえた。同時に、焦げた臭いも。 ただ事じゃないと思ったテディは、ウィルスの頬を叩いて起こした。「! これは……」 ウィルスは真剣な顔つきになって瞬時に気配を窺うと、テディを腕の中にいれてからベッドから飛び降りて、一目散に階段を駆け下りた。 そして、自宅のドアを開...

  • 第3章第5話 お金の価値

    夕食をとって風呂に入ってから、頭をタオルドライしながらウィルスは新聞に目を通した。 普段はあまり新聞をじっくりと読む方ではなかったが、ただなんとなく読む気になったのだ。 テディがその紙面を見ながら呆れたように肩を持ち上げた。「にしても、ジョバンニってほんっっとうにやる事が姑息よね」「あはは……それは数年前から変わらないよ」 新聞の論評欄には早速、アーティクトの製品についていろいろとご自慢の文句が躍...

  • 第3章第4話 仲間と共に追う夢

    体力が落ちていた為、高熱が続いた。 毎日リットが病人食を作ってくれるのだが、食欲が全くない。 ベッドに横たわりながら、ウィルスはぼぉっと考えた。 やらなければならない事はたくさんある。それは全部、自分にしか出来ない事。他の誰にも代わる事は出来ない事。 自分の存在意義を見出せる思いはウィルスの心を満たした。それと同時に、やはり早く復帰したいという願いが強くなる。「心と体は正反対だなぁ……」 こうなっ...

  • 第3章第3話 体力よりも熱意

    そんなウィルスの体力がいつまでも持つわけがなく… ある日、ウィルスが工房で木箱に足を取られ転倒した。 いつもなら機敏に回避出来たであろう身体能力はここ連日の徹夜で見る影もなく衰え、手首を強打。 ついでに風邪をこじらせ高熱を出した。「ほら見なさい! だから言わんこっちゃない!」 リットの呆れ声に、ウィルスはベッドの中で熱にうなされながら、己の包帯が巻かれた右手を天井に突き出す。「僕の右手……治らない...

  • 第3章第2話 情熱は睡眠に勝る

    ウィルスの寝不足な毎日が始まった。 いや、今までも十分寝不足で、工房で朝を迎えていたのが、さらに輪をかけて忙しくなった。 昼間は注文を受けている品物の製作、夜はコンクール用のおもちゃの製作。 ウィルスの眼の下が黒ずんでくる。それとは逆に、目の光は日ごとに増した。「ウィルス、つみきの注文3つ!」 リットに応えてから、作業中のぬいぐるみ製作を急ぐ。 だが、どんなに急いでも、ウィルスの辞書に妥協の二...

  • 第3章第1話 おもちゃ職人の血が騒ぐ

    それからほどなくして、国をあげてのおもちゃコンクールが開催される事となった。 チラシを見たウィルスとリットは顔を見合わせ、頷きあう。「優勝しかないね」「当然、優勝でしょ! だって、金額すごいもん」 優勝者には普通の暮らしだったら、一生食うに困らないほどの金額が提示されている。 準優勝の三倍近い金額だ。「でもウィルス、普段の注文を受けながらコンクール用のおもちゃ作ってる暇あるの?」 リットが予約待...

  • 第2章第5話 かつての本職

    夜も更けてきた時分、ウィルスは普段とは違い、驚きの俊敏さで建物間の屋根を疾走していた。 目指すはハスク家。一度侵入した家だ、どこに衛兵がいるか把握している。 街路樹の陰から衛兵がいないのを見計らって、鉄柵に楔がついた縄を放ると一気に上り詰め、敷地内に降り立つ。 屋敷に近づき、ウィルスは黒のマスク越しに建物を見上げた。 フィリアの寝室はおそらく日当たりのいい南側……そして二階だろう。 雨樋を伝い上が...

  • 第2章第4話 願い叶わず

    翌日、ウィルスは王都の地図を見ながら貴族屋敷が並ぶ通りに向かっていた。 一生縁がなさそうな、高級馬車が往来している。 日傘を広げた貴婦人たちがウィルスの姿を見てくすくすと笑った。 だが、ウィルスにとってそんなことはどうでもいいことであった。 地図を片手に、ようやく目的のハスク家の屋敷に辿り着く。 門構えからして相当立派なもので、一般庶民のウィルスには門の向こう側など夢の世界のようだった。 とりあ...

  • 第2章第3話 失って気付く宝物

    その日の一日が終わって、ウィルスは肩をならした。 まだまだ予約待ちの商品は山ほどあり、少しずつでも消化しないと次から次へと注文が降ってくる。 立ち上がって思いっきり伸びをしたウィルスは、リットが工房にこないので、自ら店の方に顔を出した。「リット、今日はどうだった?」「……」「リット?」 リットはウィルスに振り向きざま、黒鞄を渡した。「何だい?これは」 リットが何も言わないので、ウィルスは訝しがって...

  • 第2章第2話 お嬢様の求品

    レジ前にテディが置かれるようになって、ショーウィンドウからそれを覗いた子供たちが店内に遊びに来るようになった。 商品は全てサンプルだった為、買う事は出来ないけれども、店内で遊ぶだけで子供たちは満足しているようだ。 テディにもそれが十分伝わってくるから、子供たちに放り投げられようが黙って微笑んでいた。 そんな時。 一台の馬車が店の前に停車する。 リットがなんだろうと思っていると、馬車の扉が開いて...

  • 第2章第1話 おもちゃの宿命

    それからしばらくは嵐の前の静けさのように何事もなく過ぎて行った。 ジョバンニが必死に裏工作としてノイスラックの商品の悪評や酷評を並べ立てていたが、焼け石に水とはこのことで、ノイスラックの商品の人気が落ちる事はなかった。 街中で在りもしない事を書かれた悪口のオンパレードチラシを撒かれても、ウィルスは気にすることなくおもちゃを作り続けた。「ちょっとウィルス!」 チラシを片手に、リットが工房にやってく...

  • 第1章第7話 不幸中の幸い

    おもちゃ達の言葉は、現実のものとなった。 アーティクトから帰ってきたウィルスは、通りがやけに騒がしい事に気付く。しかも、自分の店の前で。「なんだろう……」「嫌な予感しかしないわね」 走るウィルスのカバンの中で近づいてくる人ごみを見たテディは、人々をすり抜けようとするウィルスの腰付近で押し潰された。 痛かったがそうも言ってられない状況だと言う事は分かった。 ウィルスが人垣をようやく抜けて前に出てみれ...

  • 第1章第6話 見せかけは嘆きしか生まない

    翌日、店を閉めて再びアーティクトを訪れたウィルスは、カバンの中から顔だけ出しているテディに声をかけた。「あまり長居は出来ないよ。僕の顔、もう店長にバレてるから」「うん、分かってる」 テディの言葉を聞いて、とりあえずウィルスは店内をぶらつく。そして、気付いた事がある。前に来た時より格段にお客が減っていたのだ。前は店内をうろつくのすら子供に阻まれて自由が利かなかったのに、今では向こうの陳列棚まで見え...

  • 第1章第5話 本気の宣戦布告

    ドアベルが鳴る。リットは笑顔で「いらっしゃいませ」と出迎えた。 だが、やってきたのは大の大人二人で子供の姿はない。片方はまだ若年と言えるべき年齢の男で、ステッキを持ち高尚な衣装で身を包んでいる。一括りにした茶髪と、どことなく氷河を思わせる水色の双眸。もう片方の男は帽子を手に持ち、辺りを落ち着きなくキョロキョロと見渡していた。 そんな二人の珍客にリットの顔が曇る。嫌な予感がしたのだ。「ここの店主は...

  • 第1章第4話 出る杭は打たれる

    ウィルスの小さな店は今や王都中に噂が流れるようになり、数に限りがある商品は予約待ちでいっぱいになった。リットも暇があれば手伝いをしているが、とても追いつかない。ウィルスはそれでもおもちゃを作り続けた。 額の汗を拭ったウィルスは、天井を仰いでふぅと息を吐き出す。疲れているけれど、気持ちのいい疲れだ。自分の好きなことをやっている、この充実感。それを求めて来てくれる子供たち、なんともいえない至福感があ...

  • 第1章第3話 パラレルドリーム

    翌日、ウィルスの店を訪れたリットは驚いていた。ウィルスが昨日店をたたむと言っていたのに店はオープンしていた。それもあるが、店に子供の姿があったからだ。リットがウィルスの店で子供の姿を見た事などこれまでに一度もない。 リットは店内にいた親子と入れ違い様に店に入る。店のカウンターにはウィルスが笑顔で待っていた。「やぁリット」「やぁ……って。昨日店やめるって言ってなかった?」「うん、それ止めたんだ」「店...

  • 第1章第2話 おもちゃの息吹

    リットが帰った後も、中断していた作業を続行した。晩飯を食べる事すら忘れて一心不乱に作り続けた。切って、縫って……縫って…… これがおそらく、最後の作品。 丁寧に丁寧に布と布を縫い込んでいく。 綿を詰めて閉じ合わせて……目を縫い付けて、鼻と口を縫い上げたら。 作業机の前にある小窓から月光が降りる中、それは完成した。「出来た……」 ウィルスは満足したと同時に、それまでの緊張感がぷつりと切れて机に突っ伏した。...

  • 第1章第1話 夢は夢でしかなかった

    翌日、ウィルスは店を閉めて久しぶりの外出をした。 王都であるこの街、チェリッシュには元々数軒のおもちゃ屋があったのだが、ジョバンニ=リー=ミスティという貴族の実業家が経営するおもちゃ屋、アーティクトが台頭し、ウィルスの店を除いて次々と他店は閉まっていった。ジョバンニの経営手腕は確かに認めるものはあったのだけれども、利益の為ならば手段を選ばないものだったが故に他店はあっという間に潰れて行ったのだ。...

  • 序章 生きがいとして

    工房でやすりをかけながら、ウィルスは額の汗を甲で拭った。今日は特別天気がよく、柔らかな夕日が窓ガラスの透度を限りなくゼロにしている。開け放ったドアからは緑の匂いを乗せた風が汗を涼やかにしてくれた。「よしっと……あとはニスを塗るだけかな」 湾曲する足で床を転がす木馬の握り手に、ウィルスはそっと指を添えた。 おもちゃに命を吹き込む事……こんなに楽しい事なんてない。それを生業としていけるのなら、自分の人生...

  • 終章(完結) 2人の弓は永遠を射る

    老夫婦の元へ、一通の手紙が届いた。「お爺さん、お婆さん、時間がなかったとはいえ、挨拶もしないで突然出て行ってしまってごめんなさい。近々そちらに伺わせていただきます」 その手紙の数日後、馬車が老夫婦の元に駆けてきた。 ノックの後、ゆったりとした間で、ドアが開かれる。「お婆さん、ただいま!」「おや、シルベリア!」 シルベリアに抱きつかれたお婆さんは、久しぶりの“孫”の帰宅に顔をほころばせた。「あんたが...

  • 第10章第2話 喜びの色が幸せになる

    エルロードがディアルナを迎えに行ったのに、その馬車には王城を出た時と同じくエルロード一人しか乗っていなかった。結婚式を執り行う司祭達がどうしたものかと慌てふためく。 王城の、階段下に乗り付けた馬車からエルロードが降り、父王が城から出てくる。「エルロード! どういうつもりだ?!」「どうもこうも、私はディアルナとは結婚しません」「何だと?! お前、事の重大性が分かっているのか!」 父王はステッキを折...

  • 第10章第1話 迷いも後悔もない

    シルベリアを伴い城に帰還したエルロードは、召使達に厳重に言い聞かせ急ぎ手配させていた物がある部屋に入る。 目を見開くシルベリアはエルロードを見上げ、彼は口端に微笑を湛える。「試着してみてくれ」「わたし…が…?」「母には許可を貰っている。背丈が同じだから大丈夫だろうとの事だ。もし合わなかったらまた考えているから、早く着ろ」 シルベリアは頷き、エルロードは部屋を出る。 隣室で待機していると、しばしの後...

  • 第9章第2話 愛が導いた2人の恋

    門番に当たっている騎士は、今日こそ平和な夜が送れると欠伸さえしていた。だが、その平和は馬の嘶きと共に打ち鳴る蹄によって妨げられる事になる。「開門しろ」「エルロード様……! 今夜は外出禁止令が陛下から出されております!」「明日は結婚式です、今夜だけは頼みますから……!」 門番二人はそこでヒィっと息を呑む。エルロードが馬上から剣を抜き放ったからだ。「今すぐ開門しないと、貴様等の首を即刻飛ばす」 馬が一度...

  • 第9章第1話 手繰り寄せた笑顔

    シルベリアは結局、朝まで酒場に残されていた。目を覚ますと、同じテーブルにバッカス達も酔い潰れていた。そこで、自分の左手がとてつもなく寂しくなっている事に気付き、泣きたい気持ちを抑える。酔い潰れていた自分が悪いのだ…誰も責める事は出来ない。だが、バッカス達が目を覚ますと、指輪を持ち去ったのはエルロードだという事が分かり、なぜだかほっとした。左手は寂しくなったけど……自分の持ち物を一つでも持って帰って...

  • 第8章第5話 負けたくなかった

    「おいおい……これで何杯目だよ」 バッカスがテーブルを占拠し始めたジョッキを数えながら言った。 そろそろ、シルベリアの立っている足がふらつき始める。「貴様……女にしておくのがもったいないくらいの飲みっぷりだな」 エルロードの毒づきに、シルベリアも据わった目で応える。「その言葉、褒め言葉として受け取っておくわ」 ダメだ……意識が朦朧としてきた。ジョッキに足された酒を無理やり流し込みながら、シルベリアは手根...

  • 第8章第4話 信念を賭けた勝負

    「何だ、おいバッカス。こいつお前より俺の方が気に入ったみたいだぞ」 はっとしたシルベリアはエルスタンから目を逸らした。あまりにも不躾に見つめ過ぎた。 だが、エルスタンはそんなシルベリアの顎を強制的にぐいと持ち上げる。人の食えない、見下げたような笑みが、そこにはあった。「何なら、今夜、俺と過ごしてみるか? そこら辺の男よりは退屈しないと思うぞ」 エルロードのその物言いに、シルベリアはゆっくりと口を開...

  • 第8章第3話 記憶のひとかけら

    その日の夜。シルベリアは老夫婦に遅くなると言い残して、夜の歓楽街に足を運んだ。髪は解いて、いつもの街娘の格好ではなく、少し大人びた女性らしい服を着ている。 ザイという酒場は歓楽街入口の目に付くところにあった。その扉を開けるとドアベルが鳴る。 店内をぐるりと見渡すと、バッカスが手を振っていた。「おーい、こっちこっち!」 シルベリアはそこに移動すると、バッカスのテーブルには知らない男が数人いた。「...

  • 第8章第2話 わずかな希望

    結婚式が数日後に迫っていたある日、シルベリアはお婆さんにお使いを頼まれ、仕事終わりに市場を覗いていた。そして、選んだ野菜を持っていた編みカゴの中に入れる。編みカゴを手に下げ、揺らしながら、シルベリアは家へ帰る道を歩いていた。 聞こうとしなくても、聞こえてくる会話。 「結婚式には行くよな?」 「当然! 王家の人間が一挙に見られる数少ないチャンスだよ」 街の話題と言えば、結婚式の事ばかり。シルベリア...

  • 第8章第1話 遙かな身分差

    人間界に落とされてから、どれくらいの日数が過ぎたんだろう……あてもなく彷徨い、路肩や公園のベンチで仮眠を取る日々が続いた。男共に追い回され、身ぐるみを剥がされそうになった事など数え切れない。今や非力な人間の女の体だ。警備隊に駆けこむことも少なくなかったが、その警備隊でもわいせつまがいの事をされかけ、段々と人間という者が信じられなくなってきた。空腹で飢えれば、残飯だって漁って食べた。いつもお腹は空い...

  • 第7章第3話 失った翼と自由

    次に目を覚ました時。そこは天界だった。天界の牢獄。鳥かごに似ている。両手に手錠がかけられ、天界独特の雲に似た床に転がっていた。鉄格子が外との行き来を完全に塞いでいる。身を起こすと、血に乾いたドレスが目に入り、また目頭が熱くなる。思い出した。エルロードが目の前で刺された事……その後、エルロードの命はどうなったのだろうか。いてもたってもいられず、手錠をガチャガチャかち鳴らしながら鉄格子を揺すった。「誰...

  • 第7章第2話 愛憎は終わりを告げる

    悪夢のような昼食会が終わって、エルロードは王城の裏手でシルベリアを抱き締めた。そうして、エルロードは碧眼に光を宿す。「俺はもう、お前無しでは生きてはいけない」「エルロード……」 シルベリアはエルロードを悲しみで見上げた。所詮はキューピッドと人間の恋。こうなる事は分かっていた。種族の違い。天界と人間界。 例えハヤテルが間違ってユリアスとアストレルに矢を打たなくても、人間にとって、シルベリアにはその魅...

  • 第7章第1話 三つ巴の虜

    翌日はビュッフェ形式の昼食会が王城中庭で催されることとなった。王は王妃と共に姿を見せ出席者に挨拶をし、昼食会が始まる。どちらかというと珍しく形式張らない食事会だった。食材が置かれている台の向こう側、タイルで敷き詰められているところでは楽団が音楽を奏で、出席者達がそれぞれ舞踏している。 エルロードはシルベリアと共にこの場に現れたが、結婚を目前に控えているというだけあって、出席者達がエルロードを取り...

  • 第6章第4話 本当の姿

    翌日王城に戻るなり、エルロードは父王に呼び出されて行った。シルベリアはエルロードに自分の部屋にいるよう申し付けられたため、エルロードの部屋で暇を持て余していた。エルロードの執事に頼んで持ってきてもらったやりかけの刺繍をやるが、すぐに飽きる。手先は元来から器用な方であり、刺繍も得意なのだが、エルロードがいないこの時間がものすごくもったいなく思える。すぐ近くで控えるエルロードの執事、ランバルトに、シ...

  • 第6章第3話 フィアンセへ…

    警備隊に賭博場を任せ、バッカスとエルロード、シルベリアは宿に戻った。下部組織にあたる警備隊は誰一人として、エルロードが王子であるとは最後まで気付かなかった。 宿の主人オデイルに、エルロードは路銀を渡して言う。「賭博場に刺客が来た。まだこの街にいるかもしれん」「儂の方はお気になさらず。誰が来ても追い返してやりますよ」 ほうきを振り回していうオデイルに、エルロードは苦笑気味に言った。「何かあったら警...

  • 第6章第2話 悪友は親友

    話がひと段落ついた所で、バッカスを伴って夜の街に繰り出し、賭博場に足を踏み入れる。貴族屋敷のそれとは違って、気楽な笑い声で満ち、煙草の煙が服にまとわりついた。「よぉ兄ちゃん、なんだ貴族か?」 賭博台に座ったエルロード達に街の若い連中が絡んでくる。エルロードは好きなようにさせておいた。「貴族といっても明日の暮らしも分からない貧乏貴族だ。だからこうして食いつないでいるんじゃないか」「そうそう、俺達の...

  • 第6章第1話 信頼の悪友

    王都ラハフィートは広い。馬車を使っても一日ではとても回り切れないほどの面積がある。丘の上にある王城は王都のどこからでも眺めることが出来たが、一般民衆にとっては手の届かない別世界だ。国王始め、エルロードや王子達の顔は新年の一般参賀の際、遙か遠くのバルコニーに立つ姿を見るだけだ。国王の顔ならばそこら辺の店や王立の図書館、病院などに行けば肖像画くらい飾ってあるし、貨幣にも彫られている。従って、馬上にい...

  • 第5章第3話 脱走は2人で

    マッティンルでの記念式典を欠席した為、エルロードはそれから数日間、たまっていた書類整理に明け暮れた。シルベリアはというと、今日は護衛の騎士とメイドをつけて、家庭教師に歌を習っている最中だ。 エルロードはため息をつきながら、書類に目を通していたが、扉が早速開かれる。「エルロード様、シルベリア様が!」「何かあったのか?!」 執務机に手をついて立ち上げるが、騎士はげっそりと言ってきた。「脱走されました...

  • 第5章第2話 王統を継ぐ現実

    その日の夜更け……というか、もう夜明けに近かった。シルベリアがメイド達数人と就寝の準備をしていると。扉を叩く音がする。あんな事があった後なので一時警戒したが、すぐに扉の向こうから声がした。「シルベリア、俺だ」 その声に、慌ててドアに駆け寄る。扉を開けると、ラフな姿のエルロードが立っていた。もちろん、その背後には護衛がきっちりとついていたが。「何も異常はないか」「うん、今のところは」 シルベリアにつ...

  • 第5章第1話 一輪の花が咲く

    自室にシルベリアを連れ帰ったエルロードは、シルベリアをベッドに下ろすと執事にいいつけて膏薬とガーゼ、包帯を持ってこさせ、シルベリアの傷跡に自ら塗り込んでいく。「少し沁みる……我慢しろ」 一番鞭打たれていた乳房の周りをエルロードのすらりと長い指が膏薬を塗っていく。そのなんともいえない未知なる刺激に、シルベリアは顔を赤らめながらぴくんと反応した。エルロードにその反応が伝わり、ふと目下のシルベリアを見る...

  • 第4章第3話 芽生え始める恋

    「も……やめて……」 シルベリアは懇願するように言う。鞭打つ音がその懇願を打ち消した。「その痛みと引き換えに私を身に刻め」 シルベリアの手首から血が流れ出ている。もう、立っている力がない。シルベリアはいつの間にか泣いていた。しかし、その涙すら恍惚の材料なのか、アストレルの顔は愉悦に浸っている。 再び翼を掴んでくる手に、シルベリアは苦悶の声を上げた。純白の翼は鞭打たれ、血が滴っていた。「お前が人間でなか...

  • 第4章第2話 歪んだ愛

    「エルロードの元に帰してって言ってるでしょう?!」「あぁうるさい、黙れ」 アストレルはシルベリアを抱え上げながら、王城内を横切る。召使や使用人達はよもやシルベリアが誘拐されてきたとは思ってもみない。 そしてアストレルが向かった先は……なぜか、拷問部屋だった。番人はいない。「?!」 身の危険を感じ、必死に抵抗するが、手足に枷をはめられ、縄を解き放たれる。 引き裂かれた衣服のまま、屈辱に震える乳房をさら...

  • 第4章第1話 略奪された果て

    ここ……どこ? 目が覚めたシルベリアは、痛いほど食い込む縄に顔をしかめた。寝かせられているのは天蓋のベッドの上。寝かせられているというより、放り投げられていると言ったほうが正しいか。シルベリアは体をねじってベッドから降りようともがいた。だが、羽毛布団がいいように体の動きを奪って動きを封じる。 エルロード…… 最後に見たエルロードの顔が忘れられない。あんなに悔しそうな、怒っているような顔、初めて見た。...

  • 第3章第3話 望まぬ離別

    翌朝は早くにフュジーを出立した。このまま行けばマッティンルまでは明日の午前中に着くだろう。午後からの式典にも十分に間に合う。「…………」「…………」 馬車の中は昨日とは打って変わって、箱馬車のバネが軋む音だけが支配していた。エルロードもシルベリアもお互い窓の外を見るだけで口を開かない。しかし、その沈黙に耐えかねたシルベリアは、わざとらしく思えるほど声を出した。「あ、ねぇ、明日行くマッティンルってどんな所...

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