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  • 2-XI-12

    夫人は立ち上がり、きびきびした動作で引き出しから一枚の汚れてくしゃくしゃになった紙を取り出し、息子の前に置くとこう言った。「これをよく読んで頂戴」それはマダム・レオンがパスカルに手渡した鉛筆書きの走り書きのメモだった。パスカルはこれを街灯の灯りで読むというより推測しながら目で追ったものだった。彼は帰宅するなり、それを母の手に投げ捨てるように渡したのだったが、母はそれを残していた……。この走り書きを受け取った夜、彼はその内容の残酷さにショックを受け、何も考えられない状態だったが、今はそんな支障もなく至って冷静な判断が出来た……。ほんの数行に目を通しただけで、彼は身体を硬直させ、顔は蒼白に険しくなり、いつもとは全く違う声で言った。「これを書いたのはマルグリットではありません!」この意外な発見にパスカル自身も仰...2-XI-12

  • 2-XI-11

    「ええ、そうよ!」彼女は一瞬怯んだかのように見えたが、ややあって言った。「お前は私に言いましたね?マルグリット嬢の教育は幼少時に捨てられたことによって損なわれはしなかったって……」「ええ、その通りです」「彼女は勇気を持って一定の教育を受けることを選んだ、と?」「マルグリットは高い能力を持った子女が四年間の教育で得られることのすべてを身に着けています。彼女の境遇が著しく不遇だったとき、勉強だけが彼女の唯一の避難場所であり、安らぎの場だったのですから……」「彼女がお前に手紙を送ってきていたとしたら、それはフランス語で書かれたものでしょうけど、綴りの間違いが一杯あったのではないこと?」「そんな、まさか!」とパスカルは叫んだ。ある考えが閃いたので、彼は口をつぐみ、自分の部屋へと走って行った。やがてすぐ戻ってきて、...2-XI-11

  • 2-XI-10

    このような気の滅入る考えで頭が一杯になり、食事の間中パスカルはずっと不機嫌な沈黙を続けていた。母が彼の皿に一杯盛り付けてくれたので、彼は機械的に食べ物を口に運んでいたが、出されたものがどんな料理だったか言ってみろと言われたら全く答えられなかったであろう。しかし、ささやかではあっても、この料理は素晴らしい出来であった。『高級家具付き貸し間』のおかみさんであるヴァントラッソン夫人は料理人としてかなりの腕前だったのである。そして今夜の食事は彼女の実力以上の出来栄えだった……。ただ、期待した誉め言葉が貰えなかったことで、彼女の料理名人としての虚栄心が傷つけられた。辛抱しきれなくなって彼女は四、五回も「料理はどうでございますか?」と聞いたのだが、返ってきたのは実にそっけない「大変結構」だったので、この味の分からぬ惨...2-XI-10

  • 2-XI-9

    母と息子の間に暗雲が立ち込めたのは、これが初めてのことであった。パスカルは自分が心に抱く最も深い愛情と信頼の脆弱な部分を攻撃され、もう少しでかっとなるところであった。苦々しい言葉が口を突いて出かかった。しかし彼はそれを圧し止めるだけの理性を持っていた。『マルグリットだけが』と彼は心に思っていた。『この無慈悲な偏見に打ち勝つことができるんだ。お母さんが彼女に会ってくれれば、自分がいかに不当であるか分かって貰えるのに!』これ以上自制心を保っていられないかもしれないと恐れた彼は、曖昧な口実を呟き、いきなり立ち上がり自室に引き上げていった。身も心もズタズタになった彼は服を着たままベッドの上に倒れ込んだ。フェライユール夫人の時代遅れの主張を呪う資格が自分にはないということを、彼は十分に承知していた。なぜなら、かくま...2-XI-9

  • 2-XI-8

    「それが彼女の罪だなんて、私が言いましたか?いいえ、そんなことは言っていません。ああ神様、ただ祈るのみです。お前が決して明かされることのない秘密の過去を持つ娘を選んだことを後悔する日が来ないことを!」パスカルの顔は蒼白になった。「お、お母さん……」と言う彼の声は震えていた。「私が言っているのはね」と母親は冷ややかな口調で言った。「お前はマルグリット嬢の過去を知ることは決してないだろうということよ。彼女がお前に話すこと以外はね。あのヴァントラッソンの下品で勝手な決めつけをお前も聞いたでしょう……彼女はド・シャルース伯爵の娘ではなく愛人なのだという……。これから邪悪な心を持つ者たちがどんな卑劣な罠をお前に仕掛けてくるか、誰にも分からない……。もしももしもお前に疑いの気持ちが湧いてきたら、お前は何に頼るの?……...2-XI-8

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