ブランドン （その2）

私は、別れた夫に対する怒り、憎しみ、軽蔑と言った感情を日々持て余していたが、当時90歳を超えていた姑に不満をぶちまける、という非常識な事だけはしなかった。しかし、私の心をくみ取ってか、義妹は言った。「兄のこと、吐き出してもいいのよ。」おおそうか、ありがたいと、ニュージャージーまで電話をかけて私はブランドンの悪口を並べ立てた。女たらし、アル中、嘘つき、金勘定の出来ないノータリンと言いたい放題だった。今思えば、実の兄の悪口を聞かされる義妹も辛かったと思う。長年少年院の院長を務めた彼女は心理学者でもあり、私をサポートし続けた。しかしある日突然、「悪魔の嘘」に私は気が付いたのだ。私は被害者で、彼は加害者。であるから、私には相手を憎む「権利」があると長年信じ続けた。被害者意識に囚われていたので、真実が見えなかった。...ブランドン（その2）

ブランドン （その1）

いつか書かねばと思いながら、半年以上経ってしまった。ブランドンが死んだ。彼は私の元配偶者であった。今年（2024年）の新年を迎えてすぐに逝った。長年の飲酒がたたり癌を患ったが、同居する次男夫婦には体調不良を隠し続けていたらしい。痛みに耐え切れず医者にかかった時には、遅かった。入院後2週間であっけない最期だった。亡くなった人を悪く言ってはいけないと言うが、彼に対する悪口を並べるというより、私自身の心の整理をするために私は書く。ブランドンはよき夫、父ではなかった。アルコール依存症、金銭感覚ゼロの浪費、度重なる浮気で家族を苦しめた。「自由な生活」を楽しむためか、出稼ぎ仕事を選び、アメリカ軍の武器を運搬する船で世界中を回り、半年に一回三週間の休暇の為、帰宅をするという生活を20年以上続けた。頭隠して尻隠さずという...ブランドン（その1）