『凍える愛情』 XXXVII
人身事故で電車が止まった夜、家まで送ってくれるという新田くんの、せっかくのご厚意に甘え、駅前の駐輪場に止めている自転車を取りに戻るため、一旦、葛西駅まで脚を伸ばすことにした。葛西橋通りから葛西駅までは環七一本で繋がっており、距離にして三〇〇mほどあるのだが、新田くんの家が駅前のマルエツの裏手にあることを考えると、わざわざ遠回りさせて、来た道を戻らせるのも悪いと思い、一度は申し出を断った。ただ新田くんも一度言い出すと聞かないタチらしく、私の話に耳を傾けようとはしない。「お待たせ!」そう遠巻きに声をかけ、戻ると、「おう!ここ、ここ!」とでも言うように、彼が大袈裟に手をふって、自分の居場所を知らせる。「ちょっ!恥ずかしいから止めてよ!」すぐに近くまで駆け寄り、思わずそう制するが、当の本人は何のことだか判っていないよう...『凍える愛情』XXXVII
2019/08/09 11:57