バス停に着くと、自販機で買った飲料水のキャップを開けてゴクッと喉に流し込む。一気に身体は潤った気がするが、額の汗は拭っても吹き出してきた。あっついな~ と、口からは自然と愚痴がこぼれ、バスの来る方向に目をやったまま再び飲料水を飲み込んだ。汗拭きシートを取り出そうと、鞄を開いた時だった。千晶の後方で「ちあきくん!」と名前を呼ばれてビックリする。 名前で呼ばれる事がほとんどなかったので、近所の人だろ...
R18有。切ないけど楽しい物語。同級生、リーマン、日常系のお話です。
オリジナル小説・イラスト・漫画など 何でも思うまま創作中
_____ んんっ、_____ 熱を帯びた吐息はシーツのヒダに籠り、直の額から流れた汗が光輝の背中に落ちると、その度に湿った破裂音が部屋中に響く。 声を我慢しても漏れ聞こえる啼き声。光輝は枕に顔を埋めて堪えたが、直の手が強引に光輝の顔を斜めに向けさせるとその唇を覆った。舌を絡め合い歯列を弄ると、重なる唇の隙間を縫うように淫靡な滴は顎を伝う。 直の硬芯が深く打ち込まれると、「ひっ........」という...
直からの甘いくちづけに、光輝の身体は震えてしまった。 食事モードになっていたはずの頭もすっかり蕩けてしまうと、呼吸を合わせる様に互いの瞳を見つめてはくちづけを交わす。 椅子に腰掛けた光輝の脚元に跪くと、直は今度は下から光輝の頬を挟んでくちづけた。その手が首にまわり、シャツのボタンを外し、少し汗ばんだ素肌に長い指先を伸ばす。「............ぁ、.......」という小さな吐息。それを吐きながら光輝の背中が...
その日、帰りは直と一緒に車で戻って来た光輝。コンビニで買った弁当の袋を下げると車を降りて二階へと向かう。「晩飯、一緒に食おうよ。疲れてたらいいけど」 階段の途中で直に誘われて、光輝は「いいよ」と微笑んだ。疲れているのは直の方で、自分の心配をすればいいのに、と思う。 部屋のカギを開けて中へ入って行くと、先ずはエアコンのスイッチを入れる。それからジャケットを脱いで背もたれに掛けるとネクタイを緩めた。...
終業時間ギリギリに事務所に戻って来た直。菅沼も一緒だったが、二人の表情は冴えなかった。飛び込みで入った会社の反応はいずれも薄くて、二社は内容を聞いてくれたようだが、他は社名を告げただけで門前払い。流石の直もガックリと肩を落としていた。「仕方ないですよ、本来なら製品開発の段階で販売ルートのアタリは付けておくんですから。今回は逆ですもんね。モノが出来たから販売先を探してこいったって、そう簡単に見つか...
光輝は、河本と一緒にピックアップした会社を数社分記入すると、それを一課の栗原に見せた。一課の取引先に、新商品と関連付け出来る会社があったからで、そこへのコンタクトをとってほしいと打診する。週の半分を費やして、新規の取引先を探す直と菅沼だったが、未だ反応は薄く、谷原も他の社員も自分の抱えている仕事が遅れてしまうのは避けたいと、光輝に願い出たのだった。「宮本係長、ここは立林課長が以前担当した会社で、...
栗原の了承を得て、資料室へと戻る途中で直と廊下で出くわした光輝。おもわず一課の資料を借りる事を告げた。「さすが光輝。オレが頼む前に気付いてくれるとは。やっぱりベストパートナーだな」「ちょ、........っと。こんな所で.....外回り行くんだろ?行ってらっしゃい」「じゃあ、な。」 直と別れた後で、自分の頬が赤くなっているのに気付いた。直が掛けてくれる言葉に、ついつい気持ちが昂ってしまう。こんな所を誰かに見...
直が資料室を出て行った後で、光輝はいくつかのファイルを抱えると事務所へと戻った。 以前取り引きした事のある会社で、今回の商品の販売先になりそうなところがないかと、机の上に並べてはページをめくった。「河本さん、この会社って今も取り引きあったかな?」 一社の資料を取り出すと、それを河本に見せて訪ねた。「何処ですか?.........ああ、ここは今はないですね。私が入ってすぐの頃にはありましたけど、今は取り扱...
菅沼と共に事務所へ戻った直は、そこに居た社員に先ほどの話を伝える。 話を聞いて、菅沼同様に渋い顔をしたのは河本だった。光輝は、直の性格から、受けた仕事はきっとやり遂げないと気が済まないだろうと思っていたし、その為に出来る事はするつもりでいた。「一課め.........」と、頬を膨らませる河本が、小さな声で呟く。それを横目に見ながら、谷原はがっくりと肩を落とした。残業があっても程々の時間で、家庭を持つ身と...
* * * 月曜日。土日の疲れが少し残っているが、週の初めは営業にとっては忙しく、朝から会議が入っている直は営業部長の本田と顔を合わせた。 小会議室の中には、直と菅沼と、営業一課の課長の立林、その部下の栗原が呼ばれていて、部長の本田はテーブルに肘をつくと四人の顔を眺める。目の前に置かれたペットボトルの水を右に避けて、資料を広げるとひとつ咳ばらいをした。 直たちの顔が少し引き締まる。お小言でなければ...
翌朝、買っていた朝食を口にしてホテルを後にする二人。空は晴れ渡り、ドライブにはうってつけの天候だった。これから静岡の寮まで帰るが、二人の心は来た時とは正反対に晴れやかだ。日曜日という事で多少の混雑はあったが、無事に帰途につくと寮の部屋に入るなり全身の力が抜けた。「こんな所でも、やっぱり帰って来るとホッとするなー」 荷物を部屋に置いてソファーに身体を投げ出した直は、肘掛けからはみ出した足を思い切り...
光輝がバスルームから出てくると、直はベッドの上でスマホを見ていた。 髪の毛をタオルで拭きながらやって来た光輝に気付くと、「あ、見てみて」とスマホの画面を向けてくる。「なに見てたの?」 そういって覗き込んだ光輝の腕を掴んだ直がベッドの上に引き寄せる。「あの家のダイニングに置くテーブル。このぐらいの大きさのがいいと思うんだよな」 見てみれば、画面に映っていたのは6人掛けぐらいのテーブルで。直の好き...
「直、.........」 耳元で名前を呼ばれて、フッと意識が戻ると直は瞼を開いた。寝落ちしてしまった様で、光輝が顔を近付けると微笑んでいる。「あ~、寝ちゃってたな。今何時だ?」「........8時前だよ。そろそろお腹空いたから、何か食べに行かないか?」「うー、そうだな。行くか」 ベッドから起き上がり、頭をぐるりとまわしながら、直は洗面所に向かうと顔を洗った。少し寝たおかげで頭はスッキリしたようだ。髪の毛を整え...
暫く居間で話しをすると、君枝は光輝と直に夕食を勧めた。だが、朝からの緊張で食欲のないふたり。出来ればホテルでゆっくりとしたい。「せっかくだけど、今日のところは帰るよ。ホテルも予約しているし、直も運転で疲れているだろうし。それに、.........アキラくんにも悪いしね」 部屋を出たきり顔を出さないアキラの事を思うと、光輝たちは申し訳ないと思った。気分を害されても仕方がない。「..........アキラくんも、きっ...
ピリピリとした空気が、畳に手を付いて謝る直と光輝の身体を包み込んだ。 アキラが云う事はもっともで、今更後悔しても遅かったが、今は謝る事しか出来ない。「お兄ちゃん、......青山さんも、頭をあげてください。私なら大丈夫だから」 未央は二人にそう云うが、隣のアキラは口を一文字にしている。とても許して貰えなさそうだった。「未央ごめん、俺が悪い。アキラくんの云う通りだ、妊婦のお前にこんな話、精神的にいい訳が...
シン、と静まりかえった部屋に、「ただいまーっ」という声がドアを開ける音と共に聞こえてきて、皆は声のする方を見つめた。「あれ、いらっしゃい。どうしたんですか、やけに静かだな」 首にタオルを巻き付けて、額から汗を滴らせたアキラが居間を覗くと云った。日に焼けた顔が健康的で、その場の空気を一瞬で変えてしまう程。野球のユニフォームは泥で汚れ、それを見た未央が慌てて立ち上がる。「ちょっと、先にお風呂。泥は外...
寿司を口に運んでいる光輝だったが、緊張の糸が完全に解けた訳ではなかった。自分たちの関係を否定されなかった事は救いだ。でも、誰ひとり理解や厚意を示してくれてはいない。納得、してくれた、という事に過ぎないのだ。もちろん、こんな話を突然聞かされる家族の身になれば当然の事。そして、それは自分の家族にもいえる。この後で向かう実家の事を考えると、やはり食は進まない。「光輝、大丈夫か?」と、小声で直が気遣って...
法子の頬を伝う涙を見たら、直も光輝も辛くなった。こんな風に泣かせてしまって、悪い事をしている気分になるし、自分たちの幸せばかりを考えて、家族を不幸にしてしまう事は何処かで考えないようにしていたんだと思った。「母さん泣かしちゃったよ........」という正の声が、二人に重くのしかかる。「悪いと思ってる。こんな報告をする事は、父さんや母さん、兄貴にも迷惑なんだって。だけど、こうしないとオレたちは前に進めな...
健治と法子と正の三人から見つめられて、直も光輝も固唾を飲んだ。が、「ひょっとして、お前、会社でなんかやらかしたのか?」と訊いてくる正の言葉に力が抜ける。せっかくの覚悟が、兄の言葉によってへし折られてしまい、直はおもわず肩をガクリと下げた。「...........違うって、会社の事じゃなくて」と、直は正の顔を見上げると云い直した。「オレ、静岡で家を買おうと思ってて」「..........へ、ぇ、...............なんだ、...
前回、この道を通った時も緊張はあった。しかし、今回は更に上を行く緊張マックスといった所。車内でも、話をしようと思うと不安ばかりが先だってしまい、覚悟して車に乗り込んだのに情けない。光輝は助手席で、只々前方をゆく車を見つめていた。「あと30分くらいか。..........取り敢えず、挨拶をしたら後はオレに任せて。親に何か云われても、オレが答えるから」 直はそう云うが、受け答えできる気がしない光輝は、初めから...
ベッドに入っても、中々寝つけなくて、直は光輝の手をそっと握る。「手が冷たいな。緊張してるのか」「...........そりゃあ、緊張するよ。.........高校の時に見た、直のお母さんの顔が目の前に浮かんできて」「バカだな、...........オフクロだって別人みたいになってるよ。光輝のお母さんの方が変わってなかった気がする」「えっ、そんな事...................。そうか、じゃあ、今俺の頭に浮かぶお母さんは別人なのか。そう訊...
実家に行くと決めてからの一週間はアッという間で。金曜日の夜を迎えると、二人とも落ち着かなくて、とにかく一緒に居ようと決めて光輝は直の部屋に泊る事にした。明日出発する準備をして、バッグを片手にやって来た光輝。その顔は少し血の気が引いている様にも見える。「大丈夫か?顔色、悪いけど....」と、直は招き入れた光輝を見て云った。そういう自分も多分顔色は優れないだろうと思う。職場でも、今日はなんだか口数が少な...
仕事が終わると、直は光輝を誘って寮に戻った。車の中でも家の話になり、リビングには大きめのソファーが欲しいとか、冷蔵庫を見に行こうとか、そんな具体的な内容になってくる。 部屋に戻り、夕食を一緒にとると、更に具体的な話になって、光輝が車を購入すると言い出した。通勤にはやはり車が必要で、とにかく中古車でもいいから用意しなければいけないと思った。直と一緒に通勤するとしても、必ず一緒の時間に戻れるわけじゃ...
* * * 翌日、直は言葉通り午後から時間を作ると銀行へと足を運んだ。 不動産会社から聞いていた銀行は、自分の口座もあるところで、住宅ローンの相談に行くと快く案内してくれた。年齢的にも経済的にも、充分ローンは組めるという事。中古物件という事で、新築に比べたら格安の値段だが、それでも生活費を考えると返済額はばかにならない。定年を迎えるまでに完済するとなると、生活も切り詰めないといけない。 相談した...
直と光輝は、仕事の帰りに不動産会社に立ち寄ると、大下から申し込み用紙を渡された。「いやー、青山さまに気に入って頂きホッとしました。物件としては優良ですからね。難を云えば小学校や中学校には遠いという所。あと、やはり車がないと不便かもしれませんね」 大下は、直が記入している間にそう云って話すと、隣の光輝をチラリと見た。「お二人とも、今のところは独身ですか?この先ご結婚の予定があるとか?」 そう訊か...
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バス停に着くと、自販機で買った飲料水のキャップを開けてゴクッと喉に流し込む。一気に身体は潤った気がするが、額の汗は拭っても吹き出してきた。あっついな~ と、口からは自然と愚痴がこぼれ、バスの来る方向に目をやったまま再び飲料水を飲み込んだ。汗拭きシートを取り出そうと、鞄を開いた時だった。千晶の後方で「ちあきくん!」と名前を呼ばれてビックリする。 名前で呼ばれる事がほとんどなかったので、近所の人だろ...
塾の入っているビルは、商業施設が並ぶ建物に囲まれている。人通りも多く、平日はサラリーマンや買い物客で賑わっていた。舗道を人にぶつからない様歩いて行くと、ビルに着いてエレベーターに乗り込む。5階が学習塾のあるフロア。下の階は色々な会社が入っていた。エレベーターに乗り込むと、一緒になった生徒が3人居て、顔を見るのも恥ずかしくて俯く千晶だった。少し緊張が走る。 5階に着くと、それぞれ自分の教室に向かっ...
岸の事を考えると、千晶を抱く手に力が入る。「イ、タイ........」と、腰を掴んだ正美の手が千晶によって解かれると、慌てて「ゴメン」と謝った。「部活で疲れてるんじゃないの?........ま、いいけどさ。でも力強すぎ」 千晶はくるりと向きを変えると、正美の顔に近寄って口を尖らせる。見つめ合うと、正美も本当に反省した。岸の言葉が気に障って、在り得ない事だけど千晶を取られるような錯覚を覚えてしまい、つい自分の手の...
千晶がキッチンで夕飯を作っていると、帰って来た正美がやって来て後ろから抱きついた。「どうかした?........熱いんだけど」 家には二人きりなので驚きはしないが、正美がこんな事をして来るのは珍しいと思った。自分の部屋以外では極力離れているし、ふたりの秘密が両親にバレない様に気をつけていたから。「千晶、料理上手くなったよな。オレの作れるものは殆ど千晶も作れるようになったし。帰るの遅くてごめんな、手伝えな...
* * * 正美は部活、千晶は受験勉強を頑張っていると、やがて夏の陽射しが照り付ける季節となった。インターハイ予選のレギュラーはもちろん、控え選手にもなれなかった正美は、相変わらずの厳しい練習に耐え続けている。岡部もまた、控え選手のひとりにはなれたが、一度も試合には出る事がなかった。「結局、インハイの決勝までは行けなかったな。上には上がいるって事だよな」 部室のカギを閉めながら岡部は云った。2回戦ま...
正美が家に着く頃には既に辺りは暗くなっていて、玄関のドアを開けると中からはいい匂いがして、今夜のメニューがビーフシチューだと分かった。急いで靴を脱ぐとキッチンへと向かう。「ただいまー」と声をかけると、キッチンに居る京子が振り返って「お帰りなさい」と笑みを浮かべた。千晶の姿は見えなくて、「着替えてきます」と云うと急いで二階にあがって行く。 トントンと軽やかに駆けあがり部屋に入ると、鞄を置いて着替え...
部室で着替えを済ませると、正美は岡部と共に体育館に向かう。1年生は床のモップ掛けをして、その後ボールを出したりと用意をしてからの準備体操。10人だった1年生が今は7人しか残っていない。準備体操をしていると、2年生や3年生がやって来て一気に緊張が走る。「おーい、1年生集まれー」 主将の富永が入口から入ってくるなり声をかける。すると、一斉にドタドタッという足音が響いて1年生たちは富永の前に整列した。ピンと背...
午前の授業が終わると、食堂に行ってバスケ部の同級生と昼食を食べる正美。平日は弁当を持って来て食べる事もあるが、食堂のメニューも色々あって、土曜日はそこで食べるのも楽しみだった。正美の友人で、バスケ部員の岡部はランチの唐揚げ定食の大盛を前に、眉を下げて浮かない顔。そんな顔を見つつ、正美はナポリタンを口に入れて様子を窺う。「1年生部員、3人は他の部に移るってさ。隣のクラスのヤツじゃなかったっけ?」 ...
心地よい微睡みの中、目を覚ました千晶。隣を見ればそこに正美の姿は無かった。「あ、そうか.......学校........」 正美は、今日は午前中授業で、午後には部活があると云っていた。千晶は休みなので起こさずに行ったのだろう。布団から抜け出ると、一応自分の身なりがどうなっているのか確認した。下着もスウェットの上下もちゃんと着ていて安心する。千晶の中では半分夢のような出来事で、自分のくちびるに指を添えると恥ずか...
二人の言葉が止むと、自然に身体が引き寄せられて、ふたりのくちびるが触れ合う。少し熱を持った湿り気のある感触。正美の舌が千晶の咥内に入ると、歯列をなぞる。「ん、..........ふぅ..............」 徐々に激しくなる口づけに、千晶も興奮を覚えると、身体は自然に正美を求める。昨日の事もあるし、江本の本の内容も頭を過ぎると、どこかで期待している自分が居た。 正美の手が胸に触れると、先端の小さな粒を捏ねてくる...
布団に入り、暫くは互いに天井を見ていたが、ふいに正美の手が隣の千晶の手に触れて握ると、横を向いて軽く頬にキスをした。千晶は一瞬だけピクっとなったが、すぐに正美の方に向き直ると笑みを浮かべる。近くで体温を感じる事だけでも幸せだと思えた。「昨日、ビックリしたよな?ごめんな」と正美に云われて、「え、何が?」と返すが、すぐにアノ事だと思った。正美が千晶の性器を舐めた事しか想像できない。「............そ、...
浴槽に浸かりながら、千晶の人差し指が膝を割った先の付け根に伸びると、恐るおそる後ろの窄まりに触れる。指の先を少し入れようとするが、心臓がドキドキして中々入れる事が出来なかった。触った感触は固く閉ざされていて、江本が云う様に一本も入る気がしない。いや、そもそもオイルもないし、爪の当たる感触も怖かった。 千晶は深いため息を吐くと、水面のお湯をパシャっと叩いた。それから頭を抱える。------ ダメだ。漫画...
食事が終わると、正美はすぐにシャワーを浴びたくて浴室に行ってしまった。後片付けをする千晶は母親からのメールが来ているか確認するが、来ていないのが分かると、一応レトルト食品と冷凍食品があるか調べておく。-------母さんもちょっとメールくれたら楽なのに 呟き乍ら、仕方なく自分からメールを送ると、食材が無くてレトルトか冷食しかないと伝えておいた。何か買って来るように、と打っておいたが、母親の事だし外食...
急いで家に戻り、千晶は鞄を置いて着替えを済ますとキッチンに降りて行く。正美が戻るまでには時間がある。が、今日は作り置きのおかずがなかったので、パスタを茹でる事にした。明日は土曜日なので学校は休校。母の仕事は予定が分からないので、もし休みなら一緒に買い物に行けるはず。スーパーでまとめ買いをしなければいけないな、と思う。 冷蔵庫から玉ねぎとピーマンを出して刻み、ベーコンを切って炒める。フライパンに炒...
目の前に差し出された本の中身に視線を注ぐと、そこには江本が言った通りの描写があって、白抜きにはなっているが、確かに男のものが受けらしき男の尻を捉えていた。千晶は本を手に取るとじっと見つめる。そして、心なしか頬が熱を持っている事に気付くと、我に返って江本に見られているのが分かった。視線が合うと、口元がニヤッと緩んで千晶の横に立つ江本。「やっぱ、藤城って可愛いな。ほっぺとか、ニキビひとつも出来てなく...
江本がドアを開けて入って来るが、何故か沢山のコミック本を抱えていた。「えっ、そんなに持って来ちゃって大丈夫?!」と、声をあげる千晶。いったい何冊あるんだろう。「大丈夫、この中から良さそうなの選んでいいよ。続きのはコレだけどさ」 江本が一冊を先に千晶に渡し、残りの10冊ぐらいは机に置いて自分の読む本もそこから一冊手に取った。「オレ、この作家好きなんだ。受けの子がメッチャ可愛い」「ウケ?」 江本の言...
「オレの部屋二階にあがって直ぐのとこだから、先に入ってて。お菓子と飲み物持って行く」 江本は階段の手前に来ると千晶に云った。江本の家は白木が使われていて、全体的に白っぽい感じ。玄関を上がって直ぐに部屋がある様で、その奥がリビングとかキッチンになっているんだろう。千晶が階段を上がりながら見ると、奥のドアを開けて入って行った。 云われた通り二階に上がると、すぐに扉があってドアを開けると入ってみる。友達...
校舎の窓からぼーっと運動場を眺め、昨夜の事を思い出す千晶。途端に臍の下辺りがズクンと疼き焦る。___何思い出してんだ、俺 すぐに頭を振ると黒板に意識を向けた。今は授業中で、英語の教師が流暢に教科書を読んでいる。千晶は窓際の席で、半分開いた窓から入る風を頬に感じながら、気を抜くと正美の顔が浮かぶので困ってしまう。そんな千晶の事を2列前の廊下側の席から眺める江本。千晶の顔が高揚したり素に戻ったりして...
正美の咥内は温かく、うねる舌が肉壁の様に千晶の硬芯を締め付けると、声が出そうになるのを必死で抑えた。飛びそうになる意識の中で、ふいに松下の事が頭を過ぎって、こういうの、アイツも経験したんだろうか、なんて思ってしまった。両手で口を塞ぎながらも、中心に集まる快感の嵐を抑える事は出来ない。「んんっ、.......ぁ、...............んふっ...............ゔっ..............」 自分から発する吐息交じりの声が頭の...
背中に回された腕が解かれると、千晶の頬にフッと唇が当たる。正美の指先は首筋を撫で、反対の頬を軽く支えると口づけをした。甘いくちづけをされると、身体は宙に浮いてしまう程心地よくて、千晶は先程までの不安や怯えも飛んでしまいそう。何度もくちびるを食む様に、キスの雨が降って来る。その度に身体が熱くなるのを感じると、自然とへその下あたりがムズムズしてきて、足の置き場に困った。「硬くなっちゃったね、ここ」 ...
応援、拍手コメントしてくださった皆様、本当にありがとうございました。ふたりと1匹の休日はこんな感じで過ごしております。日向ぼっこって最高! お日様の有難みをひしひしと感じる今日この頃です。みなさまも風邪に気をつけてお過ごしください。...
* * * リキとの生活にも少し慣れて、いよいよ明日から仕事に復帰する事になった俺。心なしか緊張してしまい、布団に入ってからも中々眠れずにいた。 リキは、相変わらず布団の上に乗っかると、俺とマナトの間にすっぽりと埋まって眠る。寒いから仕方ないが、少々重くて寝返りもうち辛いし何より寝息が気になってしまう。時折鼻の奥からぶぶぶ、という音が聞こえてきて、おもわず笑ってしまいそう。早く寝ないといけないのに....
夕飯は近くのコンビニで買ってきた弁当で済ませると、俺とマナトはリキがやって来るのを待つ。新居は2LDKでリビングダイニングが思ったより広く、前のテーブルがオモチャの様に見えて笑ってしまう程。リキのゲージを置くスペースもあると思う。が、マナトはゲージに入れるという提案にはいい顔をしなかった。トイレ以外は自由にさせたいらしい。「やっぱりテーブルが必要だな。これじゃ客が来てもお茶を出すスペースしかない。」...
マナトとの生活は本当に楽しくて。仕事に復帰するまでの間、マナトの仕事の日は俺が夕飯を準備して休日になればマナトが料理を作ってくれるという生活。出来る限りの節約をしながらも楽しく暮らせていた。 二月になるとマンションへの引っ越し準備に入る。中頃になりそうだと云っていたのが思ったよりも早まって、引っ越し業者の手配や荷造りに追われる。小嶋さんにも連絡を入れると、リキを預かってくれていた人が引き渡しの日...
待ち望んでいた感触。俺の手が触れたマナトの肌は温かくて、心臓の鼓動が伝わってくると互いに生きているという喜びが溢れ出す。二度と抱きしめる事は出来ないだろうと悲観した日。あの日からずっともう一度マナトを抱きしめたいと願っていた。それが漸くかなって涙が溢れそうになる。「ずっと、こうしたかった。」「.....オレだって」 くちびるを重ねながら背中に手を伸ばすと、骨の隆起の一本一本を確かめるように撫でた。「...
久々の蕎麦を堪能してアパートに戻る途中だった。 マナトのアパートが見えてきたところで、向こうから歩いてくる人物に見覚えがあり、一瞬俺の目は釘付けとなった。「あ、小嶋さん」「やあ、...........久しぶりだね」 男は小嶋という獣医だった。もちろん向こうは俺の顔なんて見た事もないし、会釈をするとマナトの前に来て嬉しそうに話しだす。「リキは元気みたいだよ。保護猫を預かってる友人が大事に世話してくれてるから...
取り敢えず俺の衣類を押し入れに置き、邪魔にならない程度に片づけをすると辺りは薄暗くなっていた。「お腹空いたね。晩ご飯は何が食べたい?」 マナトに訊かれて、うーん、と頭を捻った。病院に居る間、出されたものを食べていたから正直何でも良かった。「俺は特に食べたい物とかないんだけど。マナトと一緒なら何でも美味く思えるだろうし。近くの店に食べに行く?」「..........じゃあ、蕎麦屋に行こうか。年越し蕎麦は食べ...
翌朝、バッグに詰めた取り敢えずの身の回り品を車の後部座席に置き、段ボール箱をトランクに押し込むと少々危なげな母親の運転でマナトの待つアパートへと向かう。平日なので道も混んではいない。スマホで連絡を入れつつ、近付いてくると気持ちも高ぶった。もうじきマナトと一緒に暮らせるんだ。「母さんの運転、前よりは怖くなくなったな。俺の方がペーパードライバーだからヤバイかも。」「まあね、運転は慣れないと。たまには...
* * * 意識が戻ってから、あんなに落ちていた筋力もリハビリと筋トレのお蔭で前の様に戻り、いよいよ退院の日を迎える事が出来た。 流石にその日の晩は実家で過ごす事にして、荷造りもあるし翌日母親の車でマナトのアパートに送ってもらう事にする。実家の前に立ち、久しぶりに帰って来た事を実感すると、生きていて本当に良かったと思った。一瞬だが、あの時自分の身体に戻れなかったらと、そんな事を考えたら怖くなる。「...
母親が来るまでの間、少しだけ緊張していた俺たちだったが、覚悟を決めると気持ちを入れ替えた。 病室の扉が開いて母親の顔が見える。俺たちの顔を見ると一応ニコリと笑みを浮かべてくれた。「こんにちは、先日は料理を頂いてありがとうございました。とっても美味しくいただきました。あ、タッパーもお返しします。」 マナトは立ち上がって挨拶をすると、バッグからタッパーの入った袋を取り出す。それを母さんに渡すと、今度...
真紀が帰った後で、もう一度じっくりと考えてみる。俺とマナトのこれからの事。真紀が云ったように、10年後も一緒にいるかどうかわからない。それは、俺たちの様に同性の恋愛関係を続けるには互いの信頼と愛情を保つ以外に継続の道がないからで。 男と女なら、結婚して子供が生まれれば家族になれて、そういう中で何十年も一緒に暮らしていける場所を作れる。でも、俺たちはどちらかの愛情が薄れてしまえば、その時は形式にと...
翌日からのリハビリを頑張ると、体力も回復してきたのかスムーズに身体を動かせるようになってきた。漸く眼の前が開けてきた感じもしたが、ただ、あの日から母親が顔を見せない事が心配ではある。やはり怒っているのだろうか。真紀に訊ねても知らないというし、仕事が忙しいんじゃないかというだけ。うちは両親が共働きで、父親は普通のサラリーマン。母親は趣味で始めたアクセサリー作りが本格的に売れるようになって、今はワー...
取り残された俺とマナトだったが、入れ違いに病室に戻って来た患者がいて一瞬で空気は変わった。「こんにちは」と挨拶をしているマナト。患者も挨拶を返してくれて、自分のベッドに戻るとカーテンを閉めた。 俺は立ち上がると、「なにか飲みに行こうか」と云ってマナトを連れ出す。気持ちを入れ替えたかったし、話しもしたかった。俺が勝手に告白した事で、マナトが傷付いたかもしれないと思いそれを謝りたかったからだ。「ごめ...
狭い空間に佇む3人。マナトは顔を伏せたまま動かないし、母さんは何処を見たらいいのか探るような視線で左右に頭を振っている。「.............急にこんな話してごめん。でも、嘘をつくのは嫌だから。」 俺は出来るだけ冷静な口調で云ったが、マナトは小さな声で「力哉、.......やめようよ。」と呟いた。マナトの気持ちは分かる。でもこんな所を見られてしまって、今更何でもないなんていう方が不自然だと思う。それに、これは...
病室の朝は早くて、6時には目が覚める生活にも慣れてきた。洗面や身の回りの事も不自由なく出来る様になると、逆にリハビリ以外にする事もなく時間がもったいないと思ってしまう。が、今日はマナトが見舞いに来てくれる日。 午前中のリハビリをしっかりとこなし、昼食を平らげるとマナトが来るのを心待ちにする。 すっかり伸び切った髪を綺麗に整えると、着ていた服も取り替えてベッドの上で音楽を聴いていた。「お邪魔します...
食事が摂れるようになると、俺は実家に近いリハビリ専門の病院へと移って行った。マナトとの暫しの別れが辛かったが、笑顔で見送ってくれた気持ちを考えると俺がくよくよしている訳にはいかなかった。一刻も早く元通りにならなければ。「お兄ちゃんさぁ、..........学人さんと会えなくなって辛いでしょ?」「...........は?」 妹の真紀は俺のベッドに腰を下ろし、椅子に足を乗っけながらニヤついて云った。一応看病という名目...
リハビリが進む中、新たな年明けを迎えたが実感はなく。固形物は少しづつ摂れるようになったが、人間の身体って本当に神秘的だと思った。医療で生命の維持は出来るが、機能回復は自力でしなくちゃならない。それは意外と辛くもあり..............猫の身体に入っていた頃はあんなに軽く走れたのに、この脚は身体を支えるのがやっとだ。俺がイラつきながら歩行器に体重をかけて歩く姿を見て、マナトは背中を支えながらため息をつい...
精密検査の結果、不思議な事に俺の身体は頭に裂傷を負ったくらいで、打撲の痕も寝ている間に消えていた。頭の傷はかろうじて髪の毛で隠せる部分で、手術のために短くされたが伸びてくれば問題ないだろう。知らない間に抜糸も済んでいたし、少し動かしても問題なさそうだった。 少しづつリハビリも始まって、最初はベッドの上で足や手を動かしていたが、自分で上体を起こせるまでになった。筋肉は見事に細くなってしまって、まだ...
猫のリキの事が気になる俺だったが、まだうまく喋れなくて聞けないまま。夜遅くに父親が病院にやってきて感動の再会を果たした後、家族は近くのホテルに泊まると云って帰って行った。取り敢えず俺の身体は安定しているらしく、家族もホッとした様子で病室を後にしたが、マナトだけは残ってくれた。医者には大丈夫だといわれても、やはり心配らしい。それに、2ヶ月半も死んだように眠る顔ばかりを見ていたから、俺が目を開けてい...
俺の意識が戻ってからというもの、医者や看護士が入れ替わりたち替わりやって来ては「奇跡です」と云って驚きの表情をする。もちろん俺も奇跡だと思わずにはいられない。だって、さっきまで猫の身体に入っていたんだから。 母親や妹、マナトに囲まれて、俺は上手く表情が作れないけれど笑って見せた。どの位眠ったままだったのか、顔の表情筋もだけど手足の筋肉も自分で歯痒いくらいにまどろっこしい。言葉を話そうとしても舌が...