夜の病室はカーテンが閉められている。暗闇の中で器械が緑色の点滅を繰り返している。司はカーテンを開けた。窓を開けると生ぬるい春の風が頬に触れ、月明りが寝ている彼女を照らし出した。司は待合室で待つ夫に手術は成功した。身体に巣食った腫瘍は完全に取り去ったと言った。だが司が夫だと思っていた男は彼女の夫ではなかった。「私はつくしの母方の従兄です。つくしは一人暮らしで家族はいません。ですので、私が入院の保証人...
花より男子二次小説。大人になった司とつくしの物語。いくらかの涙と幸福を感じていただければ幸いです。
司は仕事を終えると子供たちが寝ている時間に帰宅した。「お帰り司!ねえ、訊いて!凄いのよ。巧(たくみ)が作文コンクールで入賞したの!」「作文コンクール?」「そうなの。新聞社が主催する子供作文コンクールで入賞したの!商品は賞状と図書カード1万円分!これで巧は好きな乗り物図鑑が買えるって大喜びよ!」英徳の初等部に通う巧は乗り物が大好きだ。それは道明寺家のジェットから街中を走るバスまで。とにかく幼い頃から...
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車が世田谷の邸を出ると司はプルタブを引いた。「社長。そちらの缶コーヒーはまだ沢山あるんですか?」「ああ。ある。沢山ある。毎日飲んでもまだ暫くはある」「そうですか……社長のお気に入りのコーヒーはドリップされたブルーマウンテンのブラックだということは存じております。それに社長は缶コーヒーがあまり好きではないことも訊いております」2週間の休暇を取らせた西田の代わりの若い秘書は気の毒そうに言ったが、その通り...
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夜の病室はカーテンが閉められている。暗闇の中で器械が緑色の点滅を繰り返している。司はカーテンを開けた。窓を開けると生ぬるい春の風が頬に触れ、月明りが寝ている彼女を照らし出した。司は待合室で待つ夫に手術は成功した。身体に巣食った腫瘍は完全に取り去ったと言った。だが司が夫だと思っていた男は彼女の夫ではなかった。「私はつくしの母方の従兄です。つくしは一人暮らしで家族はいません。ですので、私が入院の保証人...
どこかで幸せに暮らしていることを祈っていたが、15年振りで見る彼女は変わっていなかった。司は医者だ。仕事柄感情を出すことなく常に冷静な表情を浮かべている。そんな司を前にした彼女は、いかにも彼女らしい笑顔を浮かべ「元気そうで良かった」と言ったが、彼女は自分が医師である前に、昔の恋人の診察を受けることについて特別な感情はないのか。過去にこだわりはないのか。あの頃のことは遠い過去なのか。しかし、不治とい...
司は人生の中で一番愛した女性と別れてから女を好きになったことがない。ふたりが別れた理由は司にある。司は優秀で将来を嘱望されている若い医師。治療を担当した患者に気に入られ娘と結婚して欲しいと言われた。娘は都内でも有数のお嬢様学校に通う大学生。父親は大手出版社の経営者。あの頃。司の父親が経営する会社は窮地に立たされていた。娘の父親は娘と結婚してくれるなら力を貸そうと言った。会社を助けようと言った。それ...
「ねえ、先生。今夜は来てくれる?」看護師はパソコンの画面を見ている司の肩に触れながら言った。司は新堂つくしのレントゲン写真を見ていた。彼女の身体に巣食っている腫瘍は簡単には切除できない場所にある。しかし司なら切除出来る。そして失敗しない。「ねえ先生、聞いてる?今夜は来てくれるんでしょ?」「悪いが今夜はすることがある」「え~つまんない。今夜は先生と一緒にいたかったのに!」この病院の看護師は司に抱かれ...
こちらのお話は明るいお話ではありません。お読みになる方はその点をご留意下さい。*********************「新堂さん。お入りください」看護師が患者の名前を呼んだ。「こちらにどうそ」と言われた患者は椅子に座った。そして「先生。お願いします」と言われた司は見ていたパソコンの画面から、ゆるりと顏を向けた。すると見覚えのある顏がそこにあった。そこにいたのは昔の恋人。高校時代に付き合い始め、一...
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「あなた、そんなことも知らないの?」義理の母は厳しい人で何も知らない私は叱られっぱなしだった。「駄目ね。行儀作法がなってない」と言った義理の母の目は笑うことがなかった。「その服はなに?下品ね。着替えてきなさい」品のいいスーツを着たその人は隙の無い物腰で言った。「気持を声や顏に出すのは頭の悪い人間のすること。あなたは少なくとも頭はいいはずでしょ?」きつい言葉。冷やかな声。表情が変わらない無情このうえ...
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『トランクひとつだけで浪漫飛行へ In The Sky 飛びまわれ このMy Heart 』懐かしい曲に導かれて…..*********空港に迎えに来ていたのは白いリムジンのロールスロイス。そこはパスポートもビザも要らない場所。上着を脱ぐとネクタイを外した。靴下を脱ぎ棄てると、靴を脱いだ。腕時計を外すと放り投げた。そして「よし!行くぞ!」と言った男は隣に立つ女の手を掴むと、砂浜を海に向かって走り出した。「え?ちょ__...
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「あの。この傘、電車の中にお忘れではありませんか?」その声に振り返えると、そこにいたのは20代後半と思われる女性。その女性が青い傘を差し出してきた。それは僕の傘だ。だから僕は「すみません。ありがとうございます」と言って傘を受け取った。すると女性は「どういたしまして」と言うと背中を向け改札を出て行った。それが彼女との最初の出会いだ。ラッシュアワーの満員電車。朝のダイヤは過密で、何もその電車に乗らなく...
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パーティー会場から逃げ出した司は地下にある駐車場を目指し走っていた。だがそんな司を女たちが追ってきた。「ツカサ!どうして逃げるのよ!」「ちょっと!私とのことは遊びだったの?!」「ねえ!感謝祭の前の日の夜に言ったことは嘘だったの?!」「一緒にジェットコースターに乗ったとき私のことを好きだと言ったじゃない!」「ハワイで夕陽を見ながらクルージングしたとき愛してるって言ったわよね?!」「シドニーのオペラハ...
それにしても恋人はどうして司の言葉を信じないのか。だが、それらのことを別としても思うことがある。それは恋人が何故あの時間、あの場所にいたのかということ。恋人は会社員で平日のあの時間は仕事中だったはずだ。だからあのことが何故か仕組まれたような気がしてならない。誰かが司と恋人との間に揉め事を起こし、ふたりの仲を引き裂こうとしているのではないか。もしかして母親の楓か?いや。そんなはずはない。かつて恋人の...
「違う、違う。そうじゃない。そうじゃない!まて、待ってくれ!誤解だ!」男は叫んだが女は背中を向け去って行った。叫んだ男は金も権力も持つ男。体脂肪が4.8パーセントしかない男。おかしいくらい濃くて長い睫毛を持つ男。そして、コンプレックスなど無いと言われる男。つまり男は男性的魅力を持つ男で神の憐憫の情を必要としない男。そんな男が恋人にフラれた。そしてそんな男の前にいるのは心配する男。面白そうに笑う男そ...
壺の中にいる私の耳に届いた彼女の言葉は心に突き刺さるもので、真冬の湖の水底に沈んだナイフだった。私はすぐにでも壺から出て彼女を抱きしめたかった。外見は違うが私は記憶を取り戻した道明寺司だと名乗りたかった。しかし私は自分の意思で壺から出ることは出来ない。それに生きていた頃の私は人には言えないようなことを平気でやってのける人間であり、暗闇の中で人生を終えるに相応しい行いをしてきた。だからそんな人間であ...
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パーティー会場から逃げ出した司は地下にある駐車場を目指し走っていた。だがそんな司を女たちが追ってきた。「ツカサ!どうして逃げるのよ!」「ちょっと!私とのことは遊びだったの?!」「ねえ!感謝祭の前の日の夜に言ったことは嘘だったの?!」「一緒にジェットコースターに乗ったとき私のことを好きだと言ったじゃない!」「ハワイで夕陽を見ながらクルージングしたとき愛してるって言ったわよね?!」「シドニーのオペラハ...
それにしても恋人はどうして司の言葉を信じないのか。だが、それらのことを別としても思うことがある。それは恋人が何故あの時間、あの場所にいたのかということ。恋人は会社員で平日のあの時間は仕事中だったはずだ。だからあのことが何故か仕組まれたような気がしてならない。誰かが司と恋人との間に揉め事を起こし、ふたりの仲を引き裂こうとしているのではないか。もしかして母親の楓か?いや。そんなはずはない。かつて恋人の...
「違う、違う。そうじゃない。そうじゃない!まて、待ってくれ!誤解だ!」男は叫んだが女は背中を向け去って行った。叫んだ男は金も権力も持つ男。体脂肪が4.8パーセントしかない男。おかしいくらい濃くて長い睫毛を持つ男。そして、コンプレックスなど無いと言われる男。つまり男は男性的魅力を持つ男で神の憐憫の情を必要としない男。そんな男が恋人にフラれた。そしてそんな男の前にいるのは心配する男。面白そうに笑う男そ...
壺の中にいる私の耳に届いた彼女の言葉は心に突き刺さるもので、真冬の湖の水底に沈んだナイフだった。私はすぐにでも壺から出て彼女を抱きしめたかった。外見は違うが私は記憶を取り戻した道明寺司だと名乗りたかった。しかし私は自分の意思で壺から出ることは出来ない。それに生きていた頃の私は人には言えないようなことを平気でやってのける人間であり、暗闇の中で人生を終えるに相応しい行いをしてきた。だからそんな人間であ...
「クリスマスイブ。何か予定がありますか?」クリスマスが近づいてきた。私はいつものように私が作った料理を食べている彼女に言った。「え?」「ですからクリスマスイブです」「いいえ。別に予定はないわ」「そうですか。では私と一緒に外出してくれませんか。何しろ私はひとりでこの部屋から出る事が出来ません。ですが壺の持ち主であるあなたと一緒なら外に出ることができる。だから私を外へ連れ出して欲しいのです」彼女は私の...
私の記憶はあるところで止っていた。だから私は彼女が誰なのか分からなかった。だが私の周りにいる人間は口を揃えて言った。「思い出せ。そうしなければお前は一生を暗闇の中で過ごすことになる」と。だが私は彼らの言葉に耳を貸さなかった。そして彼女を思い出さなかった。だから私の人生は彼らの言う通り暗闇の中で終った。「ご主人様。ご用ですか?」「ええ。悪いけど、あそこの電球を取り替えて欲しいの。私じゃ手が届かないか...
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「司!頑張って! 」「司!頑張れ!お前なら出来る!」「そうよ司!司なら出来るわ!」「そうだぞ司!頑張れ司!あとひとり抜いたらお前が一番だ!」若い男女は目の前の直線コースを駆けて行った男の子にそう声をかけた。そして、最初にゴールテープを切った男の子の姿に歓喜の声を上げて抱き合っていた。「ねえ。さっきのご夫婦の息子さん。あんたと同じ名前みたいね」妻は隣にいた男女が立ち去ると、そう言って司の顏を見た。そ...
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