緩やかに傾斜して街に連なる棚田の稲も生育して、緑のそよ風を丘から街へと爽やかに吹き抜けてゆく。雪解け水で増量した小川の流れも勢いがよく、それが川淵の残雪を削り落とし川面に光を反射させて、名も知らぬ草の緑を一層輝かせている。毎朝、散歩の時に見る堰堤の桜並木もすっかり葉桜となり、川淵の猫柳も芽を膨らませ、日ごとに初夏の香りを漂わせている。理恵子も、高校1年生として元気に通学しているが、慣れぬ学園生活に戸惑っているようだ。それでも本人はもとより母親の秋子さんも、やれやれといった安堵感で一息つき、健太郎も彼女の愛くるしい笑顔を見ると、わが子のようで祝福せずにはいられない気持ちになる。秋子さんが、実家と里帰りしている節子さんに根回しして、自分の体調を考慮し、この暖かいときに予定より少し早いが帰郷したいと連絡したとみ...蒼い影(16)