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徒労捜査官 https://ironoxide.hatenablog.com/

ミステリーに不可欠の整合性を無視したミステリー。イラストで人物や状況を説明をする言語道断な小説。

不条理な物語ながら、実際の地名や駅名、人物名を多用して「地に足の着いた」ファンタジー(?)に仕上げました。

永吉克之
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住所
堺区
出身
大牟田市
ブログ村参加

2015/10/27

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  • もくじ

    1. 落伍家 19.未確認水棲生物 2. 共同謀議 20.深淵へ 3. 犯人像 21.覚醒 4. マエストロ 22.豚箱 5. 悪夢 23.権力の介入 6. 訊問 24.権力の遁走 7. 顔本 25.王者の挽歌 8. 予言 26.平面的な死 9. 環太平洋戦略的経済連携協定_1 27.逃亡 10.環太平洋戦略的経済連携協定_2 28.九州上陸 11.闇組織の策謀 29.選り抜かれた者たち 12.情報戦 30.知事の正体 13.もののふ 31.古賀一族 14.弾圧 32.現象と本質 15.正義 33.服役愛 16.誅殺 34.だんご女 17.パルプ 35.カニの野望 18.密約

  • 35. カニの野望[最終回]

    団子屋での労役をすませて監房にもどると、千枝は着替えもせず、用足しのあとに手も洗わず、里村忠彦からの封書を開けた。 やはり章吾の現象が書いた字だけあって、筆蹟も同じ、ヒラギノ角ゴ Pro W3 だった。 前略 千枝、元気で刑期を務めているか? この間、僕(弓崎章吾)が送った手紙の内容に、僕(里村忠彦)は反論したい。 章吾が、自分が本質で、里村忠彦が現象だと君に説明してるけど、僕の見解はちがう。 われわれは、《ほぼ同一人物》の関係にある、というのが僕の見方だ。数値で表すことはできないけれど、体感としては、8割が同一人物。あとの2割が別人で、この2割が容貌や人格や考え方の差異を許している。 その差…

  • 34. だんご女

    章吾との口論のすえ、千枝は、裸足のまま監房を飛び出し、刑務所を出て、行く当てもなく商店街を歩き出した。 ときどき振り向くが、章吾は後を追ってこない。 「やっぱり彼は、あたしより便器を愛してたんだわ」 千枝は、両手で顔を覆うと、しゃがみ込んで嗚咽した。 背中をたたく者がいた。 章吾だと思った千枝が、思いきり拗ねた表情を作って振り向くと、商店街で働く人たちが、心配そうな面持ちで立っていた。 「千枝さん、知ってたかい? あの、おたうわ欽平(本名:弓崎章吾)という男はね、出所したら本格的に制作スタジオを構えて、アシスタントを大量雇用して、いま地方紙に連載している『うみいた』を全国的にブレイクさせてやろ…

  • 33. 服役愛

    歯舞群島のなかの貝殻島に、忠彦の本質が収監されている貝殻刑務所がある。 千枝は、貝殻島空港に降り立つと、刑務所に行くのに都合のいい東改札口を出たところで、後ろから肩をたたかれた。 「よく来たね。きっと今日来ると信じてたよ」 「……忠彦さん?」 千枝は戸惑った。 見たところ忠彦なのだが、高知にいる忠彦よりも背が高い。それに二重まぶたとエクボまで追加されている。 千枝は忠彦の口をこじあけて、なかを覗いてみた。虫歯がひとつもない。高知の忠彦は、若いくせに銀歯がいくつもあった。 そして、忠彦のシャツのボタンをはずして胸板を見た。高知の忠彦より厚い。腹筋も板チョコのように割れている。 ぷりんぷりんした高…

  • 32. 現象と本質

    あの晩から1週間経った日の夕暮れ時。子供たちの姿が見えなくなった九州中央公園で、千枝がブランコをゆるゆると漕いでいると、 「川上さぁ~ん、川上千枝さぁ~ん。お手紙預かっておりまぁ~す」 と、拡声器で呼びかける声が近づいてきた。 千枝がブランコから立ち上がると、自転車に乗った郵便局の配達員が見つけて、「いたいた」と拡声器で言いながら公園の入り口までやってきた。そして拡声器で「郵便です!」と言って、封書を差し出した。 川上ではなくて上川です! と言い返す元気もなく、それを黙って受け取った。 差出人は里村忠彦。千枝の婚約者だった。 前略 千枝、しばらく見ないけど元気かい? 捜査は進んでるかい? 実は…

  • 31. 古賀一族

    千枝 は、犯行が常に深夜だったことを考えて、夜間に犯人の捜索をすることにし、夕食をとると、千鳥格子のワンピースのうえから防具を着け、竹刀を握って、アパートを出た。 初日は、犯行現場を起点にして、蚊取り線香のように渦巻き状に範囲を広げながら犯人を探すことにした。 まずは、現場となった、住宅街のなかにある無人駐車場の前から反時計回りに歩き出したが、10歩も行かないうちに、歩道に面した家の壁の前にA4くらいの大きさの平面的な男がしゃがんで何かしているのが眼に入った。 近づくと、壁の、地面に近いところに空いている四角い穴に薪をくべている。その上にあるガラス窓を透して、若い女性が湯につかろうと風呂桶の縁…

  • 30. 知事の正体

    被害者の後頭部には深さ10センチ、長さ15センチほどの、ナタによると見られる裂傷が見られた。 しかしそれは、フェイスブックの書き込みによく見られた、メスを使ったとしか思えないような鮮やかな斬り口とか、眠り狂四郎の円月殺法も裸足で逃げる華麗な太刀さばきといった賞賛にふさわしからぬ粗暴なものだった。 千枝には見当がついていた。 高知での自動車事故でしわくちゃにされたダメージから、まだ回復していないのだろう。 もしそうなら、奉公先の古賀家に戻って、傷が癒えるまで何食わぬ顔で下男の仕事を続けようという了見でいるにちがいない。 そして、あわよくば、古賀家の令嬢(娘がいるかどうかは不明)を手篭めにして孕ま…

  • 29. 選り抜かれた者たち

    九州では、所定の条件を満たしている住民から優先的に、捜査権を与えることになっているのだが、その条件は、事件の性格、社会に与える影響、予算などを勘案したうえで決められるので、その都度違う。 今回は、犯行の粗暴性と行動範囲の広さから、申請者には以下の10項目が選考基準として示された。 オリンピックで、銅メダルを獲得したことがない。 アフリカ象に踏まれたことがない。 フビライ汗の声帯模写大会で優勝したことがない。 人魚の生き血を吸ったことがない。 放射能と放射線の区別がつかない。 社会における自分の役割を野球のポジションに喩えるとどこになるか、と聞かれても、野球のことはぜんぜん知らないから答えようが…

  • 28. 九州上陸

    犯人がすでに逃走したことで、ひとまず安心した千枝は、帰ってからまだ何も食べていなかったことを思い出すなり空腹を覚えた。 寝る前の炭水化物は美容に禁物と知りつつ、胃袋が断乎として要求するうどんを茹で始めた。 「どういてわしは、こう麺類が好きながやろう?」 ぼんやりと麺を掻き回していると先日のことが頭に浮かんだ。 婚約者の実家に、その両親に会うために行ったとき、製麺所に勤めていると自己紹介したら、相手の母親に洗面所にお勤め? と聞き返された。製麺器のオペレーターをしていると言うと、洗面器のオペレーター? とまた聞き返された。 苗字もよく間違えられる。《上川》なのに、入社して半年経ったいまでも、何人…

  • 27. 逃亡

    千枝 が勤め先の製麺所から晩に帰宅すると、さっそく机の前に腰掛け、パソコンを立ち上げてフェイスブックの《久米小路駅辻斬り事件ヽ(#`皿´)ノ》にアクセスした。 千枝の書き込みに対して、100件を超えるコメントがついていた。 「おー、こじゃんとちきちゅうのう」 7,366人が「いいね!」と言っています。シェア4,465件以前のコメントを見る dragon horse 日本の夜明けぜよ! いいね!・返信・7時間前 茄子 夜市 川上、じゃなくて上川さん やったね(ノ⌒∇)ノ いいね!・返信・7時間前 皆 見張る男 英雄だ!二代目村田英雄を襲名するのは、あんたしかおらん!いいね!・返信・7時間前 寿 …

  • 26. 平面的な死

    「ことによったら、犯人と刃を交えんならんぞね」 高知市で起きた辻斬り事件の捜査官に採用された上川千枝は、保育園小学校中学校高等学校大学と剣道部で鍛えられ、大学では武士道を専攻し、剣の技だけでなく、剣の精神にも通じていた。 花柄のワンピースの上から面と胴をつけ、小手をはめ、竹刀を手にアパートの部屋を出たところで、ちょうどやってきた郵便局員に荷物を手渡された。 送り主は、市内の派出所になっている。 部屋に戻り、防具をはずして、ゆうパックの伝票が貼られた箱を開けると、恐ろしく読みづらい字と文体で書かれたメモが出てきた。 「保さんて誰なが?」 どうやら、辻斬り犯人が自動車の間にはさまれるのを目撃してか…

  • 25. 王者の挽歌

    テレビで報道されて以来、辻斬り殺人事件のことはすでに全国に知れ渡っていて、今回の事件も、現場に漂っていたサロンパスのような匂いから、同一犯と見られた。 高知市では、市長をKOした市民に捜査権が与えられることになっていた。 まず市役所で申請者の書類審査があり、それを通過すると面接試験。ここで候補がひとりに絞られ、市長と対戦することになる。 現市長のソンポーン氏 が現役のムエタイ選手なので、たいていは異種格闘技の形式になる。 これまでレスリング、柔術、テコンドー、鎖鎌、モンゴル相撲など、さまざまな格闘技の強豪たちが、事件が発生するたびに、捜査権を得ようと市長に挑戦したが、なにしろ相手はタイ国ミドル…

  • 24. 権力の遁走

    田淵警察庁長官 は、地図上に示された犯行場所を、指し棒でぱんぱん叩きながら順番に辿っていった。 西置賜郡[山形県] 「根室の次がここだ。ええと……なんて読むんだ? ニシオキ……?」「わからん」「知らん」 幹部一同、読めなかった。 行方市[茨城県] 「これは《行》に《方》だから、ユクエシだろ」「それ、ナメガタって読むんだ。俺、地元」 警視正 は、幹部たちを睥睨して言った。 南巨摩郡[山梨県] 「たしかミナミコマだったよな?」「そんな感じだったな」「うん、ミナミコマでいいと思うけど」 埴科郡[長野県] 「わからん。ショクカグン? まさかな」「あ、これ見たことある。なんだったけな、ええと……」 「パ…

  • 23. 権力の介入

    直近の、島根県邑智郡での犯行の時点で、犠牲者の数はすでに16人になっていた。 こうなると、大手メディアも関心を寄せるようになり、NHKがテレビ局としては初めてニュースでこの事件を取り上げ、 発生から45日 連続辻斬り犯 いぜん足取りつかめず というヘッドラインでこれを報道し、地図に示した犯人の移動経路に沿って、事件の経過を解説した。 「ぶは!」 家族と朝食を食べながらテレビを観ていた、田淵警察庁長官 が、頬張っていたゆで卵を噴き出した。 「なんだ。まだ逮捕されてなかったのか!」「わーまたやった! もーイヤ! お父さん絶交!」 食卓を囲んでいた妻と娘と息子の食器の上に、父親の口から噴出した卵のか…

  • 22. 豚箱

    翌日、釧路地方裁判所から、禁固1年を言い渡す判決文がファックスで送られてきた。 三等海上保安士補、弓崎章吾は巡視船で、歯舞群島のなかの貝殻島まで護送された。そして現地の刑務所に収監されるや、凄まじい勢いで漫画の制作を始めた。 第1作は入所した翌日に完成し、章吾は原稿を抱えて、北海道中の出版社を回ったが、どこの編集者にも、全国的に売れることを目指すのなら、東京の出版社でないと難しいと言われた。 しかし北海道には、服役中の受刑者は漫画の出版を目的として東京に行ってはならないという伝統的な禁忌があるため、地元、歯舞群島のタウン誌、はぼまEAT に持ちこんだ。 はぼまEAT は、グルメ雑誌なのだが、編…

  • 21. 覚醒

    北海道人とはいえ内陸育ち。海で泳いだことすらない章吾にとって、北冥の水は優しくなかった。指先がすぐにかじかんで、思うように動かなくなった。 とにかくまずは、足跡の発見に努めることにした。 板前ならみな高下駄を履いているから「二」の字が見つかるはずだった。それをたどっていけば、海洋板前が棲んでいる庵が見つかるかもしれない。 「海の底 二の字二の字の 下駄の跡……か」 どこかで聞いた事のあるような句を詠みながら海底に到着したが、鉛の靴が海底を打ったとたん沈殿物が舞い上がり、あたり一面、煙幕を張ったようになって1メートル先も見えなくなった。そこから脱しようと足を踏み出しても、それがまた煙幕を広げるだ…

  • 20. 深淵へ

    三等海上保安士補、弓崎章吾は、漁師を殺害した生物が、板前である可能性を示唆した。「人間を二枚におろした鮮やかな手口。あれは、想像を絶する修業を積んだ板前の技と思われます」 そして、《海底暮らしも楽じゃない・北海編》というタイトルのついた夢について上官たちに話して聴かせた。 自分は旭川の中学を出るとすぐに、板前見習いとして地元の割烹料理店で働き始めました。 住み込みだったので、先輩の板前たちと同じ部屋で寝起きしていました。 炊事は新入りがすることになっていて、自分も毎日、早起きをして先輩たちの朝食を作っていました。そして、まだ寝床にいる先輩たちが、どんな夢を見たのか話し合っているのを、いつも台所…

  • 19. 未確認水棲生物

    第5の犯行は北海道。 オホーツク海に臨む根室市の沖合だった。 事件は夜間に操業していた漁船の甲板で起きた。 北海道独自の方式により、海上で起きた事件事故の捜査は、第一管区海上保安部が担当することになっていた。 「とれた魚を魚倉に流し込んでたら、空からひらひらした生き物が降ってきてさ、刃物みたいなもの持ってこっちに飛びかかってきたんだよ」 それからその《ひらひらした生き物》が海に没するまでに3~5秒。 「何が起こったのかわかんなくて、みんな甲板でしばらくポケーっとしてたんだけどさ、気がついたら、善さんが倒れてたんだ」 曙光が射すころ、事件が起こった漁船に横付けした海保の巡視船《しこたん》から乗り…

  • 18. 密約

    「なんちゅうても、おたくは専門店やから、なんか心当たりないかと思てな……」 紙のような木樵の犯行という前提で、捜査を再開したラルフ・オコーナー は、アメリカ村で木樵屋を経営しているトム・スナイダーの店を訪れた。 「紙みたいな木樵なぁ……心当たりないわ」 「そうか……」 ラルフは、店内で、退屈そうに長椅子に腰かけている木樵たちを見回した。 みな、ニッカボッカに脚絆、地下足袋という出で立ちで、いつ来るかわからない仕事の依頼をじっと待っていた。 いずれも見るからに偉丈夫で、空からひらひらと舞い降りてきそうな者はいない。 「おい、キース」 店長に名前を呼ばれると、若い木樵が、読んでいたビッグコミックス…

  • 17. パルプ

    ラルフは、警察署から借りてきたビデオを、店の2階にある自宅で繰り返し見たが、舞い降りてきた紙片が邪魔して犯人の姿がまったく見えないので、手掛かりらしいものが何も見つけられなかった。 家族で夕飯を食べながら、ラルフは妻のアイリーンに言った。 「ついてへんなぁ。犯行の瞬間を狙ったみたいに紙くずが落ちてこんでもええやないかなぁ。お不動さんも頼りにならんな。1000円もお賽銭あげたのに。もうお参りなんかせえへん。あほくさ」 「うちら欲張りすぎたんやで。あんたを慰みものにした美容師のあそこを切り落してくださいゆう願掛けはあきらめような。な、サンディ」 「美容師? ああ、あれか。あんなんもうええわ」 「ほ…

  • 16. 誅殺

    ラルフ・オコーナーの店が事件の捜査を始めたと聞いて、同じ通りにカフェを出しているシャロン・バーンズが、店にやってきた。 「おたくが捜査すんねんて? オコーナーさん」 「うん。ウチの店の前で起こったことやからな」 「ほうか……ほんで、逮捕するつもりなん?」 オコーナーの、右眉がぴくりと跳ねた。 「なんでや?」 「当たり前やん、そらあんた……」 シャロンはオコーナーに顔を寄せて、小声で言った。 「……アメ村に店出してる人やったら、誰かて落書きには腹立ってしゃーないはずやん」「そやな」 「消すのにお金かかるからほってるけど、ウチとこかてシャッターやら壁やらに落書きされてるやん」 「うんうん」 「そや…

  • 15. 正義

    大阪の被害者はフリーターの若い男だった。 早朝、スプレー缶を手にしたまま血だまりのなかで絶命しているところを、通行人が発見した。 個人商店のシャッターに落書きしているところを襲われたらしい。 頭部が縦にまっぷたつに裂けて、双葉の芽のように開き、あたりにはサロンパスのような匂いが漂っていた。 「そうとう威力のある刃物やないと、こうはいかんで」 「斧とかナタとか、そんなんでやったんやろな」 「通り魔か?」 「辻斬りとか」 「物取りかもしれん」 「ちょっとまてよ、内ポケットあたりに……ほら、財布があるわ。中身は、ええと……5,314円。物取りの線は消えたな」 「衣服の乱れがほとんどない。ということは…

  • 14. 弾圧

    荒川区の事件を予言した霊感占い師 の話を聞きつけた東京スポーツは、さっそく続報として、その占い師とのインタビューを掲載した。 事件の予言を的中させてすっかり自信をつけていた老女は、インタビューのなかで、いけしゃあしゃあと断言した。 3日以内に同じ事件が台東区で起きるよ ――間違いありませんか? 間違いないよ。墨田区も葛飾区も荒川区も北東、そして台東区も北東、つまり丑寅の方角。丑寅は鬼門だからね ――でもそれは、千代田区あたりを中心として見た場合ですよね。清瀬市からだと、台東区は東南東の方角になりますよ。清瀬だって東京都です。23区ばかりが東京じゃありません。都下をないがしろにしないでください。…

  • 13. もののふ

    キャプテン佐藤の指揮のもと、極悪草野球チーム東日暮里ボンジュールズは、荒川区在住の侍を、シラミつぶしにあたることになった。 そこで、ライト中村が区役所に出向き、127名の侍の住所リストの交付を受け、「養老乃瀧」の座敷部屋で練習後のミーティングをしているナインにコピーを配った。 「最近、侍を見ないと思ってたけど、まだこんなにいるのか。荒川だけで127人だから、23区全体だと、127×23」 と言いながらキャプテンはガラケーを取り出して電卓を打った。 「2921人! 23区内だけでそんなにいるんだ」 翌日、朝からボンジュールズのナインが手分けして、荒川区在住の侍すべてにあたってみたが、新聞が予想し…

  • 12. 情報戦

    短期間に起こった、まったく同じ手口の3件の殺人事件。鼻の利くマスコミがさっそく嗅ぎつけて取材に乗り出した。 まず、東京スポーツで報道されたことで、一連の事件が関東人の知るところとなった。 初入幕で優勝を果たした、前頭2枚目力士のジャスティン牧原と、目下ブレイク中の美人水道局事務員、蘇我乃伊ルカの略奪愛騒動の記事の下に、それはあった。 東京で連続通り魔殺人 4月4日から、4月11日までの間に、墨田、葛飾、荒川の3区で通り魔殺人事件が起きていたことが本紙の取材でわかった。 捜査にあたっているのは、亀沢小学校(墨田区)、京成押上線久米小路駅(葛飾区)、東日暮里ボンジュールズ(荒川区)で、昨日の時点で…

  • 11. 闇組織の策謀

    霊感占い師 の予言通り、荒川区で辻斬りがあった。 被害者は、やはり酔った中年男で、犯行時刻も深夜だった。 現場は飲屋街で、被害者はズボンのジッパーを下ろして、なかから海綿体を掴み出した体勢のまま、仰向けに倒れていた。路上で用足しをしようとしていたところを襲われたらしい。犯人の真っ向幹竹割りにもいっそう威力が加わったと見え、顔面を顎の先まで真一文字に切り裂いていた。 捜査本部を立ち上げたのは、東日暮里ボンジュールズという極悪草野球チームだった。 悪をもって悪を制す、放射能をもって放射能を制す、というホメオパシーを援用した彼らの研究論文が荒川区役所に認められて落札となったのだ。 練習が終わり、テー…

  • 10. 環太平洋戦略的経済連携協定[2]

    捜査本部は、いま大ブレイク中の女性アイドルグループ、TPP48【註】の北見悦子を辻斬り事件の犯人と断定しました。 しかし、管轄区域外での捜査活動は制限されているため、葛飾区内でしか逮捕できません。 帝釈天でロケをするとかなんとかテキトーなこと言って葛飾区内にのこのこやってきたところを逮捕するとか、とにかく北見悦子を葛飾区内におびき入れるナイスアイデアがあれば、ご提案ください。 なお、アイデアが採用された場合、ご提案くださった方には当駅オリジナルのテレフォンカードを進呈いたします。 【註】TPP=環太平洋戦略的経済連携協定 いいね!2,494件 コメント621件 シェア102件 いいね! コメン…

  • 9. 環太平洋戦略的経済連携協定[1]

    霊感占い師 がフェイスブックに投稿した、荒川区で辻斬りがある、という予言をきっかけに、ユーザーのコメントが激増した。 他3,855人が「いいね!」と言っています。シェア305件以前のコメントを見る 平岡 公威 お、教えてください。あ、荒川区のどこで起きますか?わ、わたしは南千住なんですけど、だ、大丈夫ですか? いいね!・返信・52分前 津島 修治 僕も殺されるんでしょうかねえ。もし殺されなきゃなんないのなら安楽死を希望します。「灰とダイヤモンド」のマチェックみたいにゴミのなかでのたうち回って死ぬのはいやですよ。どうか宜しく願いします。すみません。 お手数かけます。いいね!・返信・47分前 泉 …

  • 8. 予言

    フェイスブックに掲載された、血まみれの遺体写真に、駅長 は賞賛の声を上げた。 「おお。この被害者の写真、酷たらしい感じがよく出てるじゃないか、おい」 助役 は、そりゃもう苦心しましたよと言わんばかりに、眼鏡をはずして眼をしょぼしょぼさせた。 「わたしがパソコンで加工しました。陰影のコントラストを強くして、血糊も増やしました。背景に地獄絵図を貼ろうと思って、ネットで探したんですけど、ちょっとやり過ぎかなと思ってやめました」 「うん、それはやり過ぎだ。で、この下に並んでいるのが、視聴者からの情報だな」 「視聴者というか……はい、まあそんなもんです」 391人が「いいね!」と言っています。以前のコメ…

  • 7. 顔本

    「これなんですけどね。もう、いくつかコメントがついてますよ」 久米小路駅の助役 が、ノートPCを駅長 の机の上に置いた。 「ほう、これがフェースブックというやつか。君にこんなものを作る能力があるなんて知らなかったよ」 「恐縮です」 「この、ネコが群がって餌を喰ってるような写真は?」 「これは、群がったネコが餌を食べている写真です」 「やっぱりな」 「その左下の写真は、君が飼っているネコというわけだな」 「いえ。ネコは嫌いなんで飼ってません」 「じゃ、どうしてネコ……まあいいや。さっそくこれで情報を……おいおい、《久米小路》じゃなくて《粂小路》だろ。自分が助役をやってる駅の字を間違えるなよ」 駅…

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