創作BL中心の 小説、イラスト掲載のサイト。R18『ESCAPE』続編『Aquarius―伊織』更新中。教授✖美大生
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言い淀んでいると、教授が僕の肩を抱き寄せた。 「ああ、いいんだ。この子は俺が送っていくから」
思わず眉間に皺を寄せてしまったのは自覚していた。 だって今は、教授以外の人に、そんな風に触れられたくないから。 「朔さん……」 「ん?」 「顔、近い…………です」 これでも、キツい口調で言いそうになるのを、何とか堪えたつもり。 更に少し頭を後ろに引いて、笑ってみせたけど、ちょっとぎ
「…………え?」 唐突に言われて驚いてしまったけれど、何の事を言っているのかは分かる。 瞬時に頭を過るのは…… ――『Aquarius(アクエリアス)』 身体に纏い付く青い水の色に溶けて消えてしまいそうに儚い……ガニュメーデース。 教授が今回の個展のメインにと描いたあの絵。
ギャラリーに隣接しているカフェで、朔という人はボリュームのあるチーズハンバーグがメインのワンプレートを、僕はサンドイッチを注文した。 「改めまして、オレ、:石田朔也(いしだ さくや)。一応今日の搬出作業のリーダーってことになってるから、分からない事は何でも気軽に訊いてね」
会場には12時を回った頃に着いた。 今僕が立っているところから道路を挟んで向こう側、入り口側前面がガラス張りになっているギャラリーは、外から見る限り昨日よりも人が多い。 だけど僕の視線はすぐに、受付付近に立っている背の高い黒髪の人を見つけた。
外は日が高くなり、汗をかくくらいに暑いけれど、家の中の空気は少しひんやりしていて微かに漂う木の匂いが心地いい。 古い木造家屋の家は、僕の生まれ育った家に少し似ている。
翌日、早朝から迎えに来た秘書の人と、カズヤさんは朝食も食べずに出かけてしまった。 『伊織、何かあったらいつでも帰ってきていいんだからね? ここは君の家なんだからね』 出かける間際まで、名残惜しむように、何度もそんな事を言っては僕をぎゅっと抱きしめた。 まるで、僕がどこか遠くに行ってしまうみ
迷いなく、きっぱりと言ってくれたあの言葉が、深く僕の胸に響いたことをよく覚えてる。 僕はまだ、この人のことを名前以外で呼べないけれど……でも多分、あの時にもう僕は認めていたんだと思う。カズヤさんが僕の父親であるという事を。
グラスにビールが注がれるのをじっと見つめながら、僕はカズヤさんの次の言葉を待っていた。 カズヤさんは、ビールの泡の割合にも結構拘りがあって、家でゆっくり飲む時は必ずグラスは手に持たず、テーブルに置いて注ぐ。 最初は勢いよく泡を立たせながら。 そして荒い気泡の弾ける音が落ち着くまで待って
「教授の仕事を手伝いながら、傍で絵の勉強を続けたいんだ」 それは予め準備していた言葉だった。 いくらカズヤさんが僕のやる事にむやみに干渉したりしないと言っても、まさか『教授のことが好きだから』とは今の時点では言えない。 ましてや教授と僕は、はっきりと恋人とは言えない。
美大を受験したいと思った時から、カズヤさんには雨宮教授のことを話していた。 教授の作品の世界観に強く惹かれた時の話を、今夜のように食卓で夕飯を食べながら、食べ終わってもまだ、ずっと喋り続けた。 画集を買ってきては、この作品はこんなに繊細に描かれているのに、どうしてこんなに迫力を感じるんだろう
「カズヤさん、ちょっと話があるんだけど……」 「……え? 何、改まって……」 火加減を見ていたカズヤさんが顔を上げ、カウンター越しに視線を合わせた。 「ご飯食べながらでもいい? それとも食べる前に話そうか?」 「カズヤさんが良ければ、食べながらでいいから聞いてくれる?」 「もちろん。じゃ
僕には二人の父親がいる。 ひとりは、僕が生まれた時からずっと傍にいてくれた人。母さんを愛して、僕を育ててくれた“父さん”。 そしてもうひとりが…… 「おかえり、伊織」 リビングに入っていくと、カウンターキッチンの向こうから、明るい笑顔で迎えてくれる。
「大丈夫だよ。それは合鍵だから。ほら、ちゃんと俺も持ってる」 そう言って、教授はレザーのキーケースを開き、中を見せてくれた。 4連のキーホルダーには、今外した合鍵以外には、車のスマートキーと、今僕に渡してくれたのと同じ形の鍵が付けてある。
そうだね……。今ならあの時言われた言葉の意味が分かるような気がする。 なら僕は、自然に身を任せようと思う。 教授が僕を……僕自身を愛してくれるようになるまで。 教授が僕と一緒にいる事に戸惑うのなら……今はまだ、教授と学生のままでもいい。
重ねた手を見つめながら、教授の手がくるりと裏返り、僕の手を握る。 「……それを言われると、俺は言い返せない」 信号が青に変わり、車は静かに走り出す。運転席と助手席の間で繋いだ手を離さずに。 そしてまた、静かな沈黙が流れていた。
「車で送っていくよ」 大学から近い場所にある教授の家から僕の家までは、車なら真っすぐな一本道を走れば15分くらいで着くけれど、電車だと一回乗り換えなくてはいけなくて1時間近くかかる。
でも……手放しで喜んじゃ駄目だって、どこからかもう一人の僕が囁いている。 大学で教授とよく目が合うから、もしかしたら教授も僕のことを少しくらいは……なんて思ってた時もそうだった。 ただの僕の勘違いだった。僕が潤さんに似ているから……。だから教授はいつも僕を見ていただけのことだった。
崩れるように逞しい胸に倒れ込むと、教授はずり落ちそうになった毛布ごと、僕の身体を抱きとめてくれた。 教授の匂いが、フワリと鼻腔を擽っていく。 ――先生……?
「そう……? じゃ、ちょっと待ってて」 そう言葉を残して部屋を出て行った教授の影が障子の向こうを通り過ぎ、階段を上って行く足音が耳に届いた。 この部屋に独り残されると、少し心細い。 初めてこの家に来たあの夜、同じようにこの部屋で教授が二階に上がって行く足音を、独り心細く聞いてい
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