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  • 「また、会いましょう」と言いながら「もう、会わないだろう」と思う

    知人と会って、別れる際に、「また、会いましょう」「また、会おうね」などと互いに口にすることがある。「また」と言っても、たいていは次に会う日程を具体的に決めたりしない。「また」がいつになるかは分からないけれど、「また」と言っておくことで、人間関係を継続することに互いに合意しているのだと思う。ペク・スリン著、カン・バンファ訳「夏のヴィラ」(書肆侃侃房)に収められている短編小説「時間の軌跡」は、主人公の私の視点から、年上の女性の友人「オンニ」との人間関係の変化を描いた作品だ。主人公の私は30歳の手前で会社を辞め、学生時代から夢だった美術史を学ぼうと考えて、フランスのパリに来ていた。一方、オンニは企業の駐在員としてパリに来ており、2人はパリの語学学校で同じクラスで学んでいた。私は、韓国人の生徒は自分とオンニだけで...「また、会いましょう」と言いながら「もう、会わないだろう」と思う

  • 【透明人間】「何もできない人」が、そこにいる意味

    「何もできない人」が、自分と同じ場にいる時、どんなことを感じるだろうか。例えば、学校の教室に、職場に、同じ家の中に。身体が不自由で歩くことや、車いすを自分で動かすことが難しい。言葉を話すことができず、他人を会話するのが難しい。酸素ボンベが必要だったり、褥瘡ができないように体の向きを変えてもらうことが必要だったりする。そんな人がいたら、どうだろう。障害者の就労施設で、重度の障害のため「何もできない」と思われている人も、職場に居てもらうという話を聞いたことがある。職員は、クッキーなどのお菓子をつくったり、絵を描いてアート作品として販売したりしている施設だったと思う。軽度な障害の職員は、お菓子づくりの作業ができる。絵が得意な職員はその才能を発揮することができる。では、ベッドに横になって過ごしている重度な障害者は...【透明人間】「何もできない人」が、そこにいる意味

  • 【愛という名の支配】その「生きづらさ」は、なぜ?

    人間関係、勉強、仕事、日常生活のあれこれ、なんだかうまくいかない。私の性格が悪いのかな?一つひとつ真剣に考えすぎず、他人との距離をもう少し広くとればよいのか。一生懸命に頑張るばなりではなく、適当に力を抜いて、時には理想を追うのを諦めて、途中で諦めてもいいのか。でも、そんなふうに考える自分が、嫌になる・・・。うまくいかない時、思考はたいていマイナスのループにハマる。外へ出て散歩して見たり、買い物に出かけたりして、いったん思考を止めるけれど、少し時間ができると、ああでもない、こうでもないと考え始めてしまう。「なんだか、うまくいかない」という程度なら、そのうち「まぁ、いいか」「しかたがないな」「そういう時もあるよな」と思えることがある。しかし、これが「生きづらい」と感じるほど深刻だったら、どうしたらよいだろう?...【愛という名の支配】その「生きづらさ」は、なぜ?

  • 【車いすでジャンプ!】ズレてる支援に、どう立ち向かう?

    昼下がり、住宅街を散歩をしていると、私の数メートル先を、3歳くらいの幼児と母親が歩いていた。子どもは楽しそうにはしゃぎ、勢いよく駆け出したが、体勢が崩れて転んだ。すぐ後ろを歩いている母親が、子どもに声をかけている。母親は手を出さず、子どもが体を起こす様子を見守っていた。子育て中の親は、子どもが自分の力で立ち上がることができるように、あえて「手を貸さない」こともあるのだろう。子どもに怪我がある様子であれば、すぐに助けにいくに違いない。親は子どもの成長や自立などを念頭に、様々な場面で、何を、どの程度、どのように手助けするのか、判断しているのかもしれない。小説「車いすでジャンプ!」(モニカ・ロー著、中井はるの訳、小学館)は、車いすユーザーの少女エミーの視点から、支援を申し出る人との間で発生する認識のズレを描いて...【車いすでジャンプ!】ズレてる支援に、どう立ち向かう?

  • 【お探し物は図書室まで】本との出会いをきっかけに、踏み出す新たな1歩

    「お探し者は図書室まで」(青山美智子・著、ポプラ文庫)は、悩みを抱えている登場人物が、図書室の司書に勧められた本との出会いをきっかけに、新たな一歩を踏み出す物語だ。悩みを抱えている登場人物は、朋香(21歳、婦人服販売員)諒(35歳、家具メーカー経理部)夏美(40歳、元雑誌編集者)浩弥(30歳、ニート)正雄(65歳、定年退職)の5人で、各章の主人公になっている。彼らはそれぞれ、同じ図書室のリファレンスコーナーで、司書の小町さんからお勧め図書のリストを手渡される。そのリストには、問い合わせた内容とは合わない本が1冊含まれている。その1冊が、それぞれの悩みを解消するために行動を起こすきっかけとなる。1つの章を読み終えるたび、主人公が新たな一歩を踏み出すので、元気をもらえる。また、各章の主人公や脇役の人物が他の章...【お探し物は図書室まで】本との出会いをきっかけに、踏み出す新たな1歩

  • 【ともだちは、どこ?】年賀状だけの人は、ともだち?

    年始に届いた年賀はがきの差出人の中には、もうずいぶん長い間、直接会っていない人が何名かいる。学生時代の友だちは、卒業以来だから何十年だ。LINEやFACEBOOKのアカウントを互いに知らない友だちは、1年に1度、年賀状をやりとりするだけの関係だ。同じ高校、同じ大学に通っていた頃は、仲良くしていたけれど、何十年もの時を経て会ったら、どうだろう?「懐かしい」とは思うだろう。学生時代の思い出話に花が咲くに違いない。お互いの家族のこと、仕事や家庭環境について話し、会っていなかった時間の人間関係の隙間みたいなものが埋まるのかもしれない。今でも「友だち」であることには変わりはないけれど、学生時代と同じような気持ちで「友だち」だと思えるのか、どうかは分からない。「ともだちは、どこ?」(J・W・アングランド/作、小川糸/...【ともだちは、どこ?】年賀状だけの人は、ともだち?

  • 【はじめての短歌】あいまいで、もやっとするのがイイ

    取材記事や日々起きた出来事をブログに書いたりはしているが、短歌をつくったことはない。国語の教科書に載っていた短歌はある程度、記憶にあるが、それ以外の短歌の作品について比べてみたことはなかった。つまり、すでに高く評価された短歌を知っているだけで、複数の短歌を比べて、良し悪しを考えたことがない。日頃、読んだり書いたりしている文章に比べると、短歌はとても短い文だが、どこに注目して読んだらいいのか。良し悪しを判断する基準を持っていなかった。穂村弘さんの「はじめての短歌」(河出文庫)を読んで初めて、短歌の読み方を知った。文章を書くとき、たいていは、読む人に「分かりやすく」「具体的に」と求められる。しかし、短歌では、「分かりやすく」「具体的に」を目指すと、味わいや面白みがなくなってしまう。「〇〇は、そういう状態」と「...【はじめての短歌】あいまいで、もやっとするのがイイ

  • 【三十の反撃】頑張ることに疲れて、何もできなくなったあなたへ

    「100枚ほど履歴書を送ったけど、面接の機会をくれたのは1社だったよ」就職活動をしていた同級生が、ため息をつきながら言った。企業の人事担当者が、自分の書類のどこを見て、「不採用」と判断するのか分からない。面接する(会って話す)機会を与える価値もないと言われている気がしてしまう。ただ、なんだか悔しい。友人の言葉は、学生食堂のテーブルを囲んでいる同級生たちの間に落ちた。一瞬の沈黙が流れた。皆、似たり寄ったりの状況だった。企業が新卒の採用人数を絞り、「超氷河期」と言われた時期のことだ。就職する時期が悪かった。ただ、それだけだ。しかし、私自身がそう思えるようになったのは、ずいぶん後になってからで、大学生の当時は、社会や経済状況がどうであろうと、自分たちが努力して将来の道を切り開かなくてはならないと考えていた。小説...【三十の反撃】頑張ることに疲れて、何もできなくなったあなたへ

  • 【詩と散策】暑さと寒さの「間」に

    先週まで、クーラーを使用していたのに、今週は、もうそろそろフリースを箪笥から出しておかなきゃという気温になった。夏から秋のはずだが、秋はあっという間に終わり、一気に冬に突入しそうだ。気候変動の影響を受けているのだろうか。暑さも寒さもそれほど厳しくない、過ごしやすい時期、夏と冬、冬と夏の「間」の時期が短くなっている気がする。韓国の詩人のエッセイ「詩と散策」(ハン・ジョンウォン・著、橋本智保・訳、書肆侃侃房)に収められている一篇「猫は花の中に」は、「間」をテーマにしている。著者は、春から夏にかけて、桜が散り、気温が上がり始めると、人が口癖のように「もうすぐ夏なんじゃない?中間ってものがないよね」ということを取り上げて、次のように書いている。『いや、中間はある。花が咲き、散るときだけを貼ると呼ばなければ。毎日、...【詩と散策】暑さと寒さの「間」に

  • 「なにもできない」ことに価値はあるか?

    精神科の医師で、トラウマやジェンダーなどを研究している宮地尚子さんの著書「傷を愛せるか増補新版」(ちくま文庫)の中に、「なにもできなくても」と題したエッセイが収められている。親しい女友だちが最愛のパートナーを病気で喪った。宮地さんは、その女友だちに対して、どんな慰めを言っても、手を握っても、そうしたことが薄っぺらに感じられ、どう接したらいいか分からなかった。「何もできない」まま、ただ、その女友だちを見ていた。しかし、ある時、ふと「何もできなくても、見ているだけでいい。そこにいるだけでいい」と腑に落ちたという。宮地さんは、何もできなくても、ただ、傍らで見ている存在の自分自身に価値を見出したのかもしれない。このエピソードを読んで、障害者の就労について書かれた文章を思い出した。著者や施設名などは忘れてしまったが...「なにもできない」ことに価値はあるか?

  • 「あいつは絶対許さない」と思う相手を許す意味

    「あいつは、絶対に許せない」と思う相手がいたら、どうするか?私なら、そんな相手には「関わらない」「距離を置く」だろう。何らかの理由で関わらなくてはならないとしたら、どうか?恨みを晴らすために何かするかもしれない。相手に対して何かをすることはなくても、心の中で軽蔑し続けるかもしれない。だが、ネガティブな感情を持ち続けることは、気持ちの良いことではないし、疲れてしまいそうだ。「絶望図書館」(頭木弘樹・編、ちくま文庫)に入っている「虫の話」(李清俊:イ・チョンジュン・著、斎藤真理子・訳)は、「許す」ということの意味について考えさせる短編だ。薬局を営む夫婦の1人息子が誘拐され、惨殺され、死体で発見される。犯人はすぐに捕まり、夫婦の知り合いだった。この物語は、この夫婦の夫の視点で語られる。不幸な出来事を前にした妻の...「あいつは絶対許さない」と思う相手を許す意味

  • 勝つために、坊主頭は必要か?

    夏の甲子園、全国高等学校野球選手権大会で、「坊主頭でないチーム」が注目を集めている。強豪校がひしめく神奈川県の代表となった慶應義塾高校で、チームを率いる監督は「髪型自由」「長時間練習なし」という方針だという。甲子園に出場する選手たちの多くの髪型は、坊主頭。強豪校では、部員に坊主頭を強制しているところもあるそうだ。強制はしていなくても、髪型に関する同調圧力があり、部員それぞれが髪型を自由に選べない環境があるのだろう。野球の試合で勝つために、必要なものは何か?選手それぞれの力を高め、一つのチームとしてまとめるために、必要なものは何か?坊主頭が必要なのか?「坊主でないチーム」の甲子園出場が注目されていることは、野球部内の「慣習」「規則」について、「何のためにあるのか?」を考え直すきっかけとなるに違いない。「嫌わ...勝つために、坊主頭は必要か?

  • 【娘について】受け入れることも、拒絶もできない。母親の複雑な心情をきめ細やかに描いた1冊

    「毒親」の「毒」とは、一体、何なのか?気になって、インターネットで検索してみた。「毒親」とは、学術的な定義がある言葉ではなく、スーザン・フォワード著の「毒になる親一生苦しむ子ども」(講談社刊、玉置悟訳)が話題になったことから、広く使われるようになったそうだ。「毒親」の特徴として挙げられているのは、「子どもを管理する」「子どもを支配する」「過保護・過干渉」「虐待」「モンスターペアレント」など。子どもの衣服、食べ物、友だち関係など、ありとあらゆる物事を決めて管理する親、子どもに暴力をふるったり罵声を浴びせたりする親、子どもに大人の役割を求める親など、さまざまなケースがあるようだ。子どもに過度なストレスを与える親は以前から存在していただろうが、「毒親」という言葉が普及したことによって、その存在や行為が可視化され...【娘について】受け入れることも、拒絶もできない。母親の複雑な心情をきめ細やかに描いた1冊

  • 【京都不案内】歴史や文化よりも面白いのは、人だ

    20代の頃、3年間京都に住んだことがある。大学は卒業したものの、就職氷河期で、先が見えなかった。そこで、とりあえず就職とは別の目的に切り替え、「京都に住みたい」という夢を叶えることにした。「京都に住みたい」と考えていた理由は、歴史や文化がある街だから。そして、都会でありながら、「東京ほどではない」ということだった。当時の私にとって、「東京」は、渋谷と原宿、そして歌舞伎町のイメージしかなかったので、「東京なんて、自分にはとても住めない」と思っていた。京都で暮らして、一番良かったのは、「会社員」「公務員」でもない人々にたくさん出会えたことだ。西陣で暮らしている陶芸家や写真家などと出会い、多様な働き方、生活の仕方があることを知った。若いアーティストを支援している大人たちから聞く仕事や趣味の話も面白かった。将来へ...【京都不案内】歴史や文化よりも面白いのは、人だ

  • 【植物考】「植物を考える」と「自分なんて小さな存在だなぁ」と思う

    「植物考」(藤原辰史・著、生きのびるブックス)は、タイトルの通り、さまざまな視点から「植物を考える」一冊だ。著者は、「はたして、人間は植物より高等なのか?」という問いを掲げる。「人間は植物より高等だ」と考えるのは傲慢な気がするが、逆に「植物は人間より高等だ」と言い切ることも、腑に落ちない。私は、樹齢が長い大木を眺めて「すごいなぁ」と思ったり、花びらを見つめて「絵具で作れない色合いだわ」と思うことがある。しかし、人間は、作物を育てて食用にしたり、住宅の建材にしたりする。庭に花を植えたり、観葉植物を育てたりする。植物のすべてが人間の思いどおりになるわけではないけれど、人間は植物に影響を及ぼすことができる。そう考えると、「高等だ」と断言はしないものの、植物を自分より下に見ているかもしれない。本書では、植物の在り...【植物考】「植物を考える」と「自分なんて小さな存在だなぁ」と思う

  • 【サイボーグになる】障害は「ある」より「ない」ほうがよいと考えるのは、当たり前でよいか?

    障害は、「ある」よりも、「ない」ほうがよい。新しい医療や技術によって、障害をなくす。なくすことが難しいとしたら、障害がある身体をサポートして、それまでできなかったことをできるようにする。つまり、障害が「ある」状態から「ない」状態に近づけていくことが望ましい。そう考えることに、私はこれまで疑問を持つことはなかった。「サイボーグになる」(キム・チョヨプ、キム・ウォニョン、牧野美加・訳、岩波書店)は、この障害が「ある」よりも「ない」ほうが望ましいとする考え方に、「ちょっと待って」と声をかけてくる1冊だ。この本は、韓国のSF作家チョヨプさんと、作家・弁護士・パフォーマーのウォニョンさんが「身体」「障害」「テクノロジー」を主なテーマとして執筆したエッセイと、二人の対談が入っている。チョヨプさんは聴覚障害があり、補聴...【サイボーグになる】障害は「ある」より「ない」ほうがよいと考えるのは、当たり前でよいか?

  • 【ワンダーボーイ】作家の「読書の仕方」、作品の舞台となる時代・社会の描き方について学びが多かった1冊

    小説「ワンダーボーイ」(キム・ヨンス著、きむ・ふな訳、クオン)は、15歳の少年キム・ジョンフンがさまざまな人と出会い、成長していく物語だ。ジョンフンには、母親についてはっきりした記憶がない。唯一の家族だった父親が交通事故で死んでしまい、絶望している。しかし、父を亡くした交通事故をきっかけにジョンフン自身は他人の心が読める能力を持ったため、それを軍部の人間に利用されてテレビ出演させられ、「ワンダー・ボーイ」として注目される。軍部の人間のもとから逃げだしたものの、当初のジョンフンは、「自分とは何者なのか」「自分は、何を支えに、どう生きていったらいいのか」かが分からず、もやもやしている。天涯孤独になった少年ほどではないにしても、10代の思春期に、自分が何を求めているのかが分からず持て余したり、漠然とした将来に思...【ワンダーボーイ】作家の「読書の仕方」、作品の舞台となる時代・社会の描き方について学びが多かった1冊

  • 【コロナ時代の哲学】ひとりで居たいけど、誰かに見てほしい

    3年前の自分が、どうだったか?これまでの人生を振り返って、3年前の自分を問われて、はっきり答えられることは少ないのかもしれない。30歳の時の3年前は、27歳。20歳の時の3年前は、17歳。高校2年生。15歳の時の3年前は、中学1年生?…。会社の業務で、何を担当していたか。部活動を一生懸命していたか。その年に流行していたドラマやファッションを調べれば、よく見ていたものや購入したものなど、少し具体的に思い出せるかもしれない。しかし、自分がどんなことを考えていたかということになると、ほとんど忘れてしまっていて、思い出せない。今から3年前、2020年は、多くの人にとって、これまでにない出来事が起こった年だ。新型コロナウイルス(COVID-19)の国内感染が一気に拡大し、「緊急事態宣言」が出され、働き方も生活の仕方...【コロナ時代の哲学】ひとりで居たいけど、誰かに見てほしい

  • 【聞く技術、聞いてもらう技術】上手くいかない原因は技術ではなく、人間関係

    悩みごとは、家族や親友など関係が密な人よりも、少し距離のある人のほうが話しやすい。家族や親しい友人の場合、すでに出来上がった密な関係があるぶん、悩みを打ち明けた後のリアクションを想像してしまう。近い関係の人には、自分の悩みを知られたくない場合もある。関係がそれほど密ではない知人のほうが、余計な意見や提案をされる可能性が低く、ただ「聞いてもらって終わり」にできる。悩みごとの種類にもよるが、すぐに解決できなくても聞いてもらえたらスッキリすることも多い。だから、あえて少し距離のある人を話しの相手に選ぶのかもしれない。臨床心理士・東畑開人さんの著書「聞く技術、聞いてもらう技術」(ちくま新書)を読んで、悩みごとを聞いてもらう相手に、少し距離がある人を選んでいた理由が分かった。「聞く」「聞いてもらう」は、相手の関係性...【聞く技術、聞いてもらう技術】上手くいかない原因は技術ではなく、人間関係

  • 【2023年の幸福論】「幸せ」って、何?

    「それでは、よいお年を!」年末に届いたメールに添えられていた一言に目がとまり、考えた。「よい年」って、一体、どんな年だろう?新型コロナウイルス感染症の問題が終息すること?ロシア・ウクライナの戦争や、そのほか世界のどこかで起きている人権侵害や弾圧などの問題が解決すること?「そうあってほしい」と願うけれど、問題が大きすぎて、私個人にできることはささやかなことにすぎないという気がする。「よい年」という言葉から沸いてくるイメージからは遠い。日常生活のほうへ目を向けて、「よい年」を考えてみると、仕事やそのほかの取り組みが上手くいったり両親や親せき、友人たちが健康に過ごしていて、趣味や旅行を楽しむ機会があれば、一年を振り返って、「今年もよい年だったな」と思える気がする。「よい年」は、少し意味を広げて考えると「幸せ」っ...【2023年の幸福論】「幸せ」って、何?

  • 【水の中の哲学者たち】大人になるにつれて、世界がだんだん狭くなる

    子育てをしている友達から、「子どもの一言に、はっとさせられることがある」と聞くことは、よくある。子どもの発言が、物事の核心をついているように感じたり、大人が言葉にすることができずにいたことを子どもにバッと言葉にされて、「それだ!」と気が付かされたりするようだ。子どもは、自分が知っている言葉、多くの人にとって分かりやすい言葉で発言するから、それが、大人の心にストレートに響くのかもしれない。私自身は子育てをしていないので、そうした体験することは少ないが、母親となっている友達や知人の話を聞いて、幼い子どもとの会話は、大人にとって「哲学」することになるのかもしれないと思う。哲学の研究者・永井玲衣さんは、学校や企業などで「哲学対話」を行っている。「哲学」というと、なんだかとても難しそうな印象がするが、集まった人たち...【水の中の哲学者たち】大人になるにつれて、世界がだんだん狭くなる

  • 【ふたり】言葉と行動が表すもの

    どうして、そんなに騒ぐのだろう?自分に直接関わりがない人たちのことを、ああだ、こうだ、言わなくてもいいのでは?。週刊誌やテレビのワイドショーで、皇族やその関係者の動向が取り上げられる度、そんなふうに思っていた。最近は、秋篠宮の長女・真子さんと結婚した小室氏の話題が週刊誌やネットで取り上げられることが多く、小室さんの母親の金銭問題、小室さん自身の髪型や振る舞い、ニューヨーク州の司法資格試験の合否などの話題があった。皇室に対してそれほど関心が高いわけではない私でさえ、これらのニュースを目にして記憶している。直接関わりのない一般の人が、自分や家族の動向について、ネット上でああだ、こうだと好き勝手に発言する状況を、ご本人たちはどんなふうに受けとめているのか?不快だったり、嫌になることもあるのではないか?皇族やその...【ふたり】言葉と行動が表すもの

  • 【ペツェッティーノ】「自分探し」をしてるあなたにお勧めの1冊

    「今の自分は、本当の自分じゃない」「親の前、先生の前、友達の前で、良い子を演じているだけで、本当の自分は違う」など、考えたことはないだろうか。では、自分とは、一体どういう人間なのか?その問いに対する答えを探して、あれこれ考える「自分探し」をしている人にお勧めの1冊が、「ペツェッティーノ」(レオ・レオニ・著、谷川俊太郎・訳、好学社)だ。主人公のペツェッティーノは、自分について取るに足りない「ぶぶんひん」だと考えていた。一体、誰の「ぶぶんひん」なのか?それを確かめようとする。様々な相手に尋ねるが、皆、自分の「ぶぶんひん」ではないと答える。疲れ果てたペツェッティーノは、こいしの山から転がり落ちて、こなごなになってしまう。それによって、「自分とは、何か?」が分かるという物語だ。自分のことを誰かの「ぶぶんひん」と思...【ペツェッティーノ】「自分探し」をしてるあなたにお勧めの1冊

  • 【戦争は人間的な営みである】「戦争、反対!」だけでは足りない理由

    戦争なんて、ないほうがいい。平和であることが一番。多くの人が、そう思っているものだと思う。しかし、戦争は起こってしまう。「戦争、反対!」と声を挙げることは大事だけど、それだけでは足りないと感じていた。ただ、一体、何が足りないのか?ずっと言葉にできなかった。その答えをくれた一冊が「戦争は人間的な営みである」(石川明人・著、並木書房)だ。戦争は「悪意」よりも、むしろ何らかの「善意」によって支えられているのである。人は必ずしも、「優しさ」や「愛情」が欠如しているから戦うのではない。誰かを憎み、何かと戦うには、そもそもそれ以前に、別の誰かを愛し、別の何かを大切にしていなければならない。何らかの意味での「愛情」あるいは「真心」があるからこそ、人間は命をかけて戦うことができてしまう、戦争を正当化できてしまうのだ。もち...【戦争は人間的な営みである】「戦争、反対!」だけでは足りない理由

  • 【モリ―先生との火曜日】いかに死ぬかを学ぶ

    「お金持ちになりたい」「やりがいのある仕事をしたい」「人から称賛されるような成果を残したい」どんな生き方をしたいか?と問われたら、私は、どう答えるだろう?その答えは、生活のスタイルから出たものだろうか。仕事の種類や内容に関するものだろうか。それとも友達や家族や仲間との人間関係を基盤にしたものだろうか。「モリ―先生との火曜日」は、「どんな生き方をしたいか?」という問いを読者に投げかけてくる1冊だ。スポーツコラムニストの著者は、ある時、テレビで大学時代の恩師モリ―先生の姿を見かける。筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病を患っているモリ―先生のもとに、様々な人が訪れ、話をしていくということを紹介している番組だった。番組を見た後、著者は卒業以来、長年会っていなかったモリ―先生を訪ね、火曜日に通うようになる。徐々...【モリ―先生との火曜日】いかに死ぬかを学ぶ

  • 【言葉の温度】「友達以上、恋人未満」と「知り合い以上、友達未満」

    「よく言われるサム(somethingを略した造語で、友達以上、恋人未満を意味する)というのは、愛に対する"確信”と”疑い”の間の戦いさ。確信と疑いは、潮の満ち引きのように入れ替わるものだ。そうして疑いの濃度が薄まって確信だけが残ると、そこで初めて愛が始まるんじゃないだろうか」上記は、韓国の作家イ・ギジュさんのエッセイの翻訳本「言葉の品格」の中で、著者が、哲学書を出している出版社の社長さんから聞いた話として紹介されている一節だ。この一節は、恋愛ドラマ「ボーイフレンド」で登場人物のセリフに使われたこともあり、よく知られているようだ。気になる異性について、ただの友達だと考えると何か違う気がするが、一方で、恋人にしたい人かと考えるとそれもしっくりしない状態、「友達以上、恋人未満」の状態を、どう表現したら適切か?...【言葉の温度】「友達以上、恋人未満」と「知り合い以上、友達未満」

  • 【世界を手で見る、耳で見る】その一言に、潜んでいるものは?

    「申し訳ない」という謝罪の言葉があっても、その言葉を口にした時に相手の表情や、醸し出す雰囲気、それまでの人間関係から考えて、その言葉を口にした相手の心の中に、ほとんど気持ちがないと感じると、腹が立つことがある。しかし、その相手と、ある程度の関係を維持しなければならない場合、「本当は、申し訳ない気持ちなんて1ミリもないでしょ?」などと、キレることはせず、「いえいえ、お気になさらずに」などと、こちらも謝罪を受け入れる振舞いをする。逆ギレしたりなどしたら、自分自身が損することを知っているからだ。「ありがとう」という感謝の言葉であっても、似たようなことは起こる。「申し訳ない」と比べると、「ありがとう」は、言われて不快になる人が少ないだろうから、とりあえず「ありがとう」と言っておくことがある。「ありがとう」と口にし...【世界を手で見る、耳で見る】その一言に、潜んでいるものは?

  • 【赤いモレスキンの女】恋が始まる前までを、いかに楽しませるか。フジテレビ月9のドラマを思い出した1冊

    「赤いモレスキンの女」(アントワーヌ・ローラン著、吉田洋之・訳、新潮クレスト・ブックス)を読んで、私の頭の中には、俳優の中井貴一さんが現れた。この小説のストーリーと、なんとなく似たようなテレビドラマがあった気がしたからだ。恋の落ちる(と思われる)男女が出会うまでを描いていて、仕事や家族に関わるさまざまな出来事が起こって、主人公の男女2人はすぐには出会わない。出会わないのだけど、互いに見知らぬ2人の距離が少しずつ近くなっているのは、読者・視聴者は読んで・見ていて、分かる。そんなストーリーだ。「赤いモレスキンの女」は、主人公の男性が、赤いモレスキンの手帳が入ったハンドバックを拾うことから物語が展開する。手帳に書かれていた言葉を読んで、持ち主の女性のことが気になりだす。顔も、名前も分からないが、鞄に入っていたも...【赤いモレスキンの女】恋が始まる前までを、いかに楽しませるか。フジテレビ月9のドラマを思い出した1冊

  • 【若きアスリートへの手紙】『スポーツには「力」がある』という考えに潜む危険性

    「スポーツには、力がある」どこかで聞いたフレーズだ。私自身が、パラスポーツの記事を書いた時、どこかで使ったことがあるかもしれない。元フィギュアスケート選手の町田樹さんの著書「若きアスリートへの手紙<競技する身体>の哲学」を読んで、改めて、これらの言葉を使う際には慎重にならなければいけないと反省した。町田さんは、次のように書いている。『スポーツは、スポーツ以外の何者でもない。そして本人が一番分かっているように、アスリートが競技会で行えることは、やはり競技以外にない。にもかかわらず、己の権内を超えて、「スポーツには力があり、感動を与えられる」と猛進するのは、やはり傲慢かつ危険なことなのではないだろうか。』(本書P458より)新型コロナウイルス(SARS-COV-2)の感染拡大により外出自粛が強く求められていた頃、特...【若きアスリートへの手紙】『スポーツには「力」がある』という考えに潜む危険性

  • 【同志少女よ、敵を撃て】京都で「戦争」といえば、応仁の?

    大学卒業後、生まれ育った静岡県から出て、京都市内で生活を始めた頃、京都の文化や慣習について、さまざまな「噂」を耳にした。「京都の祇園のお店では、紹介者がない状態で初めて来たお客さんは入れない。”一見(いちげん)さん、お断り″のお店がある」「創業100年程度では、たいした歴史ではないと思われている。(もっと長い歴史を持つ企業やお店があるから)」など、いくつかあるが、その一つに、「京都で″戦争”といえば、太平洋戦争ではなく、応仁の乱のことを指す」というものがあった。「戦争」というと、多くの日本人がまず思い浮かべるのが、太平洋戦争だろう。1941年の日本軍による真珠湾攻撃で始まり、1945年に終戦を迎えた戦争だ。一方、応仁の乱は、室町時代の1467年から1477年の約11年、京都を中心に起きた戦だ。京都が焼け野原にな...【同志少女よ、敵を撃て】京都で「戦争」といえば、応仁の?

  • 【いつもの言葉を哲学する】無意識に使っている言葉に意識を向けると面白い

    「丸い」「四角い」とはいうけれど、なぜ「三角い」とは言わないのか。なぜ、親になると、子どもに向かって「パパは、・・・」「お母さんは、・・・」などと自称するのか。なぜ、「パンツ一枚」ではなく、「パンツ一丁」と言うのか。などなど、日常的に使っている言葉の中には、言われてみると不思議なこと、疑問になることが潜んでいる。無意識に使っている時は、これらの不思議に気がつかない。指摘されてはじめて、「あれ、どうしてなのだろう?」と疑問になる。いつも使っている言葉だけに、そこから疑問が沸いてくると新鮮だ。「いつもの言葉を哲学する」(古田徹也・著、朝日新書)は、多くの人が無意識に、日常的に使っている言葉の例を挙げて、「これ、不思議じゃないですか?」と問いかけてくる。なぜ、そういう使い方になったのか。なぜ、そのように表現するのか。...【いつもの言葉を哲学する】無意識に使っている言葉に意識を向けると面白い

  • 【さよなら、俺たち】相談に答えを出すと間違える理由

    「さよなら、俺たち」は、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表を務める清田隆之さんが、ジェンダーとしての「男性」に関わる問題についてまとめたエッセイだ。この中で、女性が、男性に恋愛相談をして「げんなり」した対応について書かれていた。「話をちゃんと聞いてくれない」「話を間違って解釈される」「自分の恋愛観を語ってくる」「解決策を押し付けてくる」「別れさせようとしてくる」「やたら盛り上げようとしてくる」・・・列挙された対応例を見ていくと、なるほど、そんな対応をされたら、確かに「げんなり」してしまいそうだ。私自身は、恋愛の相談で、上記のような対応を経験したことはない。ただ、恋愛以外の相談に拡げて考えると、「話を聞かない」とか「間違って解釈される」「価値観の押し付け」などを経験したことがいくつか思い当たる。男性に限らず、女性...【さよなら、俺たち】相談に答えを出すと間違える理由

  • 【我が友、スミス】肉体美追求の場で、押し付けられた「女らしさ」の評価のものさし

    小説「我が友、スミス」(石田夏穂・著)は、会社員の女性U野がトレーニングジムで声をかけられたことをきっかけに、ボディ・ビル大会への出場を目指す物語だ。スミスとは、筋トレのマシンの名前である。ボディ・ビルの大会に向けて、肉体改造に取り組む中で、U野の身体は変化していく。大会で「勝ちたい」という思い、自分に得意なことがあったのだという自覚、自信が出てくる。一方で、職場の同僚からは「彼氏ができたの?」と問われる。母親は、ボディ・ビルを男性のように筋肉ムキムキになることだと捉えており、「女らしくない」と懸念が示される。さらに、ボディ・ビル大会での高評価を得るためには、肌の美しさ、ハイヒールで綺麗に歩くことなども必要とされていることが分かる。なあ、母ちゃん。先日は、すまなかった。だが、あなたが「女らしくない」と評したボデ...【我が友、スミス】肉体美追求の場で、押し付けられた「女らしさ」の評価のものさし

  • 【ほんのちょっと当事者】「ほんのちょっと」の距離感を考え続ける

    「当事者」という言葉は、あまり積極的に使いたくない言葉の一つだ。「当事者」は、事故や事件を起こした加害者あるいはその被害者を指して使うことが多いと思っているためかもしれない。「私は、当事者だ」と言うと、事故や事件、何らかのトラブルで揉めている状態のど真ん中に立たされる気がして、想像しただけで気が重くなってしまう。では、他人に対して、「あの人が、当事者だ」と考えた場合はどうか。「あの人が、当事者だ」と言う時には、「私は、当事者でない」が前提となる。事故や事件、トラブルの渦中から距離を置き、自分自身は安全圏にいて、そこから上から目線で当事者を見ているような気がする。「あの人が、当事者だ(私は当事者ではない)」と言うと、「私には、直接の関係はない」さらに「私には関係ない」と言っている気もする。事故や事件、トラブルにつ...【ほんのちょっと当事者】「ほんのちょっと」の距離感を考え続ける

  • 【旅する練習】我孫子から鹿島まで歩きたくなる1冊

    「旅する練習」(乗代雄介・著)は、作家の主人公が、中学校入学を控えた姪とともに、千葉県我孫子から茨城県鹿島まで歩いていく物語だ。我孫子って、どんなところ?鹿島って、何があるんだっけ?と、思いながら読み始めた私にとっては、ガイドブックのような本だった。主人公は、旅の行程のところどころで見たもの、捉えたものを綴っていく。その中で、民俗学の祖といわれる柳田國男のこと、小島信夫の作品「鬼(えんま)」のことなど、土地に縁がある作家や作品について触れており、「へぇ、なるほど、そんな地域なのね」と思わされる。一方、姪っ子の亜美(あび)は歩きながらサッカーの練習、リフティングを続けている。鹿島を本拠地とするサッカーJリーグの「鹿島アントラーズ」のこと、このチームのクラブアドバイザーとなっているブラジルの元サッカー選手ジーコのこ...【旅する練習】我孫子から鹿島まで歩きたくなる1冊

  • 【女の子だから、男の子だからをなくす本】「男は人前で泣くもんじゃない」「女のくせに口を出すな」、その男女は必要?

    「男が、人前で泣くもんじゃない」「女のくせに口をだすな」「女だから」「男だから」と性別を理由に「こうしないといけない」「こうするべきだ」と言われた経験はありませんか?子どもの頃、「女の子だから、かわいくしないとね」「男の子は元気に、外で遊べ」なんて、言われた経験はありませんか?女の子でも、かわいいより、かっこいい感じが好きな子がいてもいいし。男女問わず、泣きたい時には泣いていい、はずだ。それなのに、なぜ、「女だから」「男だから」と考えて、それを口にしてしまうのだろう?なぜ、「女だから」「男だから」という枠組みで、自分自身の言動をしばってしまうのだろう?「女の子だから、男の子だからをなくす本」は、「女だから」「男だから」という見方や考え方の呪縛を解く、きっかけとなる1冊だ。「女だから」「男だから」といわれてきたこ...【女の子だから、男の子だからをなくす本】「男は人前で泣くもんじゃない」「女のくせに口を出すな」、その男女は必要?

  • 【殺人者の記憶法】曖昧になる記憶を巧みに活用した小説

    薄暗い森の中、大きなスコップで地面に穴を掘る。大きな穴に、自分が殺した人間の死体を落して、再び土を被せた。「私は、知りません」。自分がしたことを知られてはならないと、必死に隠そうとしている。隠し通せるはずはない。嘘をつき続けるのは苦しい。そう思ったところで、パッと目が覚めた。夢だった。なぜ、そんな夢を見たのか、思い当たることがあった。数日前に見た映画の中で、主人公が殺人を犯して、その死体を森の中に埋めるシーンがあった。そのシーンが特に気になったわけではなかったが、記憶にこびりついていたらしい。夢の中で、私自身がその主人公とすり替わってしまった。目が覚めて安心はしたが、夢の中で味わった、罪が暴かれることへの恐怖、プレッシャーを思い返し、しばらくの間、気持ちが重かった。小説「殺人者の記憶法」(キム・ヨンハ著、吉川凪...【殺人者の記憶法】曖昧になる記憶を巧みに活用した小説

  • 【ニワトリと卵と、息子の思春期】親だって、親になれない時がある

    親というのは庇護してくれる存在であるが、子どもにとっては最大の権力者。子どもは非力だ。子どもの多くが、このことを知っているし、感覚的に分かっているものだろう。しかし、子どもから大人になって、さらに結婚や出産して、親になってから、このことにどれほど自覚的にいられるだろうか。「ニワトリと卵と、息子の思春期」を読んで、まず、興味を魅かれたのは上記の「権力者」に関する指摘だった。「オレに何が必要か、お母さんには分からない」この本の著者・繁延あづささんは、ある時、長男からこう言われた。母親であっても、息子のことで分からないことがある。長男の指摘は、ある意味、正しい。だから、胸に刺さる。一方で、長男が必要だという物事をすべて認めることも難しい。未成年の場合、親は、自分の子に何が必要か否か判断する役割を担っている。その役割を...【ニワトリと卵と、息子の思春期】親だって、親になれない時がある

  • 「ダメ。ゼッタイ。」だけではダメな理由 季刊誌コトノネ41号 ぶっちゃけインタビュー

    アイドルグループの元メンバーが覚せい剤を所持して逮捕されたというニュースがあった。お笑いタレント、アイドル、スポーツ選手などなど、多くの人に知られるような活躍をしている人達が覚せい剤を所持・使用していたことが報道されるたび、「なぜ?」「どうして?」と思う。見ている人を笑わせたり、歌って踊れたり、応援してくれるファンもたくさんいるような人たちが、なぜ、どうして覚せい剤を所持するようなことになってしまうのか。メディアを通して伝えられる彼らの姿からは想像もできないほどの孤独や不安、悩みなどを抱えていたのだろうか。芸能人やプロスポーツ選手には、違法な薬物を売る人達が接触しやすいルートのようなものがあるのだろうか、と考えたりする。社会を楽しくする障害者メディア季刊誌「コトノネ」41号の中で、特に注目して読んだのは、ぶっち...「ダメ。ゼッタイ。」だけではダメな理由季刊誌コトノネ41号ぶっちゃけインタビュー

  • 【夏への扉】猫って、自分のこと人間て思っているよね?

    在宅オンラインでミーティングをしていると、パソコンの画面に映っている相手の顔の前を、右から左へ茶色い毛並みの動物が通り過ぎた。猫だ。似たような出来事は、他の相手とのオンラインミーティングでもあった。飼い主がパソコンの画面越しに誰かと話をしていると、その間に割って入ってくる。それが猫という動物の習性なのか、自宅で飼われているとそういう態度を身に着けてしまいがちなのかは、分からない。猫をペットとして飼っている人からよく聞くのは、「あのこ、自分のこと人間だと思っているから」というものだ。「家族の中で、自分が一番偉いと思っている」とか、「誰が遊んでくれるとか、餌をくれるとか、自分に都合がいい人を分かってて、相手によって態度を変えている」という人もいる。犬は、きちんと躾られると、飼い主の言うことをきちんと聞いて、それを守...【夏への扉】猫って、自分のこと人間て思っているよね?

  • 【牧師、閉鎖病棟に入る。】「男の人も、大変なんだな」と感じていた。その理由が少し見えてきた

    「牧師、閉鎖病棟に入る。」(沼田和也・著、実業之日本社)を読んでいて、コーチングをしている時によく感じていたことを思い出した。それは、「男の人も、大変なんだなぁ」ということだ。男女の性別で分けて物事を考えるのは偏見になるかもしれないのだが、私が「大変なんだなぁ」と思ったのは、自分のことを誰かに話す機会が少ないのかもしれない話せる相手がいないのかもしれないと感じたことだ。私がコーチングを提供したクライアントさんの中でそう感じたのは女性より、男性のクライアントさんの場合が圧倒的に多かった。なぜ、そうなのか?本書を読んでいて、理由が少し見えてきた。著者は、キリスト教の牧師であり、幼稚園の理事長を務めていた。しかし、ある時、同僚にキレてしまう。妻の言葉もあり、精神科の閉鎖病棟に入ることにした。主治医とのやりとりや、閉鎖...【牧師、閉鎖病棟に入る。】「男の人も、大変なんだな」と感じていた。その理由が少し見えてきた

  • 【思いがけず利他】与えるだけでなく、受け取ることで発動する「利他」

    道に迷っている人を案内する電車内でお年寄りに席を譲る大雨で浸水した家に、泥をかきにいく被災地の復興支援のための寄付をする「利他」という言葉で、頭に思い浮かべるのは、そんな行動だ。「利他」は、「利己」の反対。利他的な行動は、自分の利益ではなく、自分以外の誰か、他人の利益のために行動することを指す。つまり、誰かに「与える」ことが前提になる行動だと思っていた。「おもいがけず利他」(中島岳志・著、ミシマ社)を読んで、最も新鮮だったのは、「利他」とは「与える」だけではなく、「受け取る」ことで発動するという指摘だ。私たちは他者の行為や言葉を受け取ることで、相手を利他の主体に押し上げることができる。私たちは与えることで利他を生み出すのではなく、受け取ることで利他を生み出します。利他となる種は、すでに過去に発信されています。私...【思いがけず利他】与えるだけでなく、受け取ることで発動する「利他」

  • 【わたしに無害なひと】一番近い けれども他人という関係

    「お姉ちゃんばかり、ずるい」「妹だからといって、甘やかされている」姉に対して、妹に対して、こんなことを思った経験がある人は、少なくないのでないか。姉妹とは、どのような関係性なのか?と考えると、親の前では「同志」のようなものかと思う。家族の中で、同性の子どもという立場なので、親に対して求めるもの、要求するものが重なる時には、互いに協力する。ただ、一緒に遊んだり、学んだりする時間には、「同志」というより、一番近くにいる「友達」かもしれない。同じ家庭で育っているので、価値観など共有しているものが多く、互いに相手を理解できる部分も多いだろう。一方で、姉と妹それぞれ得意・不得意が違い、趣味や嗜好は異なる。一番近くにいるがゆえに、相手を自分を比べて、自分と似たところを見つけた時は、相手が自分を映した鏡のように見えるかもしれ...【わたしに無害なひと】一番近いけれども他人という関係

  • 【差別はたいてい悪意のない人がする】「女の敵は、女」にモヤモヤしたら

    「女の敵は、女だよね」「男の嫉妬は、女のより、やっかい」友達や知人とのおしゃべりで、こんな言葉を口にしたことがある。この世の中にいる女性すべてについて、互いに「敵」同士であると思っているわけではない。敵ではなく、味方の女性もいると思っている。同じように、すべての男性に対して、女性と比べて、嫉妬がやっかいだと思っているわけでもない。嫉妬はそもそもやっかいで、その程度を性別で比較するものではないとも思う。それなのに、なぜ、こうした言葉を口にしたのだろう?これらの言葉は、自分が経験したこと、見聞きしたことを基にして出てきたものだ。特定の個人を頭の中に置いて、その人が女性だったから、その人が男性だったからと、性別に結び付けて、一括りにしている。その特定個人に対して面と向かって、これらの言葉を口にしたわけではなく、他の友...【差別はたいてい悪意のない人がする】「女の敵は、女」にモヤモヤしたら

  • 【心の深みへ 「うつ社会」脱出のために】 「原因と結果」を直線的に結びつけても解けない問題

    「親が変わらなければ、子どもは変わらない」「指導者が変わらなければ、選手は変わらない」「トップが変わらなければ、組織は変わらない」なるほど、そうかもしれないな。そういう側面もあるかもしれないと思う。しかし、この考え方には注意をする必要がありそうだ。河合隼雄さんと柳田邦男さんの対談集『心の深みへ「うつ社会」脱出のために』(新潮文庫)を手に取った。この本の中に、「悪者探しをするな」という項がある。青少年犯罪、家庭内暴力などについて、河合氏は、因果的には説明できないと言っている。因果的説明というのは、ともすると直線的な論理になります。父親がこういう悪いことをしたから子どもが悪くなったとか、子供が父親を殴るからには父親にどこか悪いところがあったからだろうとか。そういうふうに直線的論理で結びつけるから説明できないのであっ...【心の深みへ「うつ社会」脱出のために】「原因と結果」を直線的に結びつけても解けない問題

  • 【わすれられない おくりもの】生きていくということは、「おくりもの」をつくること

    子どもはもちろん、大人にお勧めしたい1冊。スーザン・バークイの「わすれられないおくりもの」は、「死」をテーマにしている。年老いたアナグマさんが亡くなる。アナグマさんが、どんなふうに亡くなるのか。アナグマさんを慕っていた皆が、彼の死をどう受けとめるのかを描いている。身近な人の死について考えると「喪失」という言葉が頭に浮かぶ。亡くなった人に再び会ったり、話をすることは叶わなくなるからだ。しかし、亡くなった人が遺していった「おくりもの」に気づくと、悲しさや寂しさだけでなく、少し異なる気持ちが沸いてきそうだ。一方、自分自身の死について考える時、それを迎える瞬間まで、どう生きてるかが課題になる。生きていくということは、自分に関わりのある人に「おくりもの」をつくっていくことなのかもしれない。その「おくりもの」が、誰かにとっ...【わすれられないおくりもの】生きていくということは、「おくりもの」をつくること

  • 【柚木沙弥郎のことば】こういことも、あるよ。と思える心

    「なかなか先が見えないなぁ」手指衛生、マスクの着用、密を避ける。日頃の感染対策を続けることでしかないけれど、一体、いつまで続けたらいいのか。とつい、思ってしまう。しかし、「柚木沙弥郎のことば」(グラフィック社、柚木沙弥郎、熱田千鶴・著)を読んでいて、「いやぁ、そんなこと言ってちゃダメだわ」と思い直しました。もともと人間というのは、生まれて死ぬという定めがある。誰もが時代は移り変わるということはわかっていることだから、世の中は変わるものだという前提でどっしり構えること。今の時代は特に変化するエネルギーがある社会だと思うんだ。それは毎日の生活、日常の中にもたくさん満ちている。普通に平和に暮らしている人たちの周りにも、今回のウイルスのようなものがやってきた。でも、これまでどの時代でもそういうことはたくさんあった。もっ...【柚木沙弥郎のことば】こういことも、あるよ。と思える心

  • 【読書のちから】自分らしさ、生きる意味、心に刺さる言葉

    新年早々、心に刺さる言葉と出会う本だった。「読書のちから」は、「言葉のちから」と言い換えてもよいだろう。著者、作者の言葉の「ちから」を、人は、その言葉を読むことによって手に入れることができる。皆が同じように、そのちからを手に入れるわけではない。同じ言葉を読んでも、スルーしてしまうことがあるだろうし。何度も読み返して、その度に、新しい気づきを得ることもあるだろう。その人にとって必要な時に、その言葉、その本と出会えると、それは「ちから」になるのだと思う。本書は、著者・若松英輔さんが出会った本・言葉から思考したことを書いている。今回、私の心に響いてきた箇所を書き出してみた。世の中が押し付けてくる「自分らしさ」から離れ、傷ついた自分の手を、己れの心中でにぎりしめること。それが自由である。そして、自由とは、文字通り、「自...【読書のちから】自分らしさ、生きる意味、心に刺さる言葉

  • 【目の見えない白鳥さんとアートを見にいく】自分自身の見方、捉え方を問いなおす

    目の見えない人と一緒に、美術館に行って、作品を見る。目が見えないのに、どうやって見るのか?それが最初の問いだ。著者は、「どうやって」を知り、目が見える自分自身の鑑賞方法では気がつかなかったことに気がつく。本書の前半は、アート作品の新しい見方を提案する内容になっていると思う。ただ、単にそれだけではないという点が、この本のミソだ。著者は、白鳥さんと一緒に、様々な美術館を巡るうち、そしてコロナ禍により互いに直接会えない期間も経て、思考を深める。障害者に対する見方、自分の中にある偏見も見つめなおす。本書の後半は、著者が自分自身の考え方や価値観を問い直す過程が綴られていて、混沌としているように感じられる。その混沌さに、私自身は引っ張られて読み進めた。見る対象は、アートじゃなくてもいいということが分かってくる。行く場所は、...【目の見えない白鳥さんとアートを見にいく】自分自身の見方、捉え方を問いなおす

  • 【その女、ジルバ】それでも「生きていく」

    「ドラマ、見ました?」お会計をしてくれた店員さんが、話かけてきた。そのお店にはよく、足を運んでいるが、店員さんから話しかけられたのは初めて。マスクで顔が半分隠れていることもあって、最初は、自分に話しかけられたことが分からなかった。私が購入したのは、「その女、ジルバ」という漫画。全5巻の漫画の大人買い。NHKのラジオで、作家の高橋源一郎さんが紹介していて、気になっていたのだが、偶然、古本屋さんにセットで出ているのを見つけたのだった。店員さんは、店頭に出したばかりだった漫画を、私がすぐに購入したので、「ドラマを見た人かな?」と思って話しかけてきたようだ。質問されたことが分かり、私はNHKでドラマ化されたことは知っていたが見ていないこと。ラジオ番組で紹介されて、ずっと読みたいと思っていたこと。古本屋さんで、かなりリー...【その女、ジルバ】それでも「生きていく」

  • 【小さな声、光る棚】その人が垣間見えるエッセイ

    エッセイを読んでいて、私が面白いなと思うのは、著者がどんな人かイメージが沸いてくる時、著者の人柄が滲み出ている文に出会った時である。エッセイは、著者がどのような物事に注目しているか。どのような視点でそれを捉えているか。また、テーマについてどのように論理展開をしているかなど、その人の視点や考え、価値観が反映されるものだと思う。ただ、同じ著者が書いているものエッセイでも、これは面白かったなぁと記憶にしばらく残っているものと、読んですぐに忘れてしまうものがある。荻窪の書店「Title」(タイトル)の店主、辻山良雄さんの著書「小さな声、光る棚」の中で、私が一番面白いなぁと思ったのは、『父と「少年ジャンプ」』だ。著者が父親に対して、どう思っていたか。その見方に、変化がある。著者と、父との間に、漫画雑誌「少年ジャンプ」が存...【小さな声、光る棚】その人が垣間見えるエッセイ

  • 【死にたいけど トッポッキは食べたい】自分を愛することは難しい

    韓国料理の「トッポッキ」(お餅を使った煮込み料理)について、つい最近まで「トッポッギ」だと思いこんでいて、「最後のキは濁らないんだぁ…」と知った。そんな矢先、今度は、同じく韓国料理の「プルコギ」(お肉と春雨、野菜などの甘辛い味のお料理)の「コ」の発音は「ゴ」のほうがネイティブの発音だと教えていただいた。ただ、こちらの表記は、「プルコギ」「プルゴギ」両方使われているようだ。カタカナ、難しいね。トッポッキも、プルゴギも、大スキ(^^♪なのだが、自分では作ったことがない。コロナで韓国料理のお店にも食べにいけていないから、恋しくなってきた。あぁ、食べたい。韓国料理について考え始めたきっかけは、1冊の本だった。「死にたいけどトッポッキは食べたい」(ペク・セヒ著、光文社)タイトルの「トッポッキ」に目が留まり、「あ、私も食べ...【死にたいけどトッポッキは食べたい】自分を愛することは難しい

  • 【海をあげる】つらく悲しい経験を書くこと

    夫に、女がいた。しかも、その相手は、自分が親しくしていた友達であり、自宅の近所に住んでいた。自宅に招いて、一緒に食事をしたこともあった。夫との関係は4年続いていたという。「海をあげる」の著者が、冒頭の一節で書いている出来事は、衝撃的だ。もしも私が同様の出来事の出会ったら、感情的になって、文章に書くことはできないだろう。辛い、悲しい、と書き連ねることはできるかもしれないが、おそらく文章が混乱して、第三者に読んでもらいたいものにはならない。この著者は、自分に起きた事実を事実として受けとめて、自分自身がどんな状態なったのか。どんな気持ちになったのか。周囲の誰が、どのように自分に接してくれたのか。当事者でありながら、どこか冷静に観察することができていて、それを文章にできている。ある程度の時間が経ち、新しい家族、新しい生...【海をあげる】つらく悲しい経験を書くこと

  • 【オリンピック 反対する側の論理】反対の理由をより深く知ることができる1冊

    パラスポーツが好きだ。より多くの人に知ってほしいし、観てほしい。そう思って、障害者スポーツ情報サイト「パラスポ!」をつくってきた。パラリンピックは、パラスポーツが注目を集める大きなチャンスだ。ただ、新型コロナウイルス感染症の問題が続いている中での開催は、どうなのか?開催中止を求める声が大きく聞こえてくる中で、競技の模様を伝えることは、コロナ禍での開催を全面的に支持している姿勢を示すことになるのではないか?この1年ほど、本当に、ずっと悩んでいる。問いの答えは、出ないままだ。最近、「オリンピック反対する側の論理東京・パリ・ロスをつなぐ世界の反対運動」(ジュールス・ボイコフ、作品社)を手に取った。反対活動、反対意見を前に、目をふせてはいけないと思ったからだ。反対する側から、オリンピック・パラリンピックがどう見えている...【オリンピック反対する側の論理】反対の理由をより深く知ることができる1冊

  • 【おいしいものでできている】読むと、お腹が空く1冊

     稲田俊輔さんの著書「おいしいものでできている」は、読むとお腹が空いてくる1冊だ。目の前に、一皿、出されているように感じながら、読むことになる。稲田さんの「こだわり」には、「美味しいものが好き」という気持ちが溢れている。子どもの頃に、食べたもの。学生時代に食べたもの。大人になって、自分なりにこだわりを持って食べているもの。人それぞれ、大なり小なり、食べ物へのこだわりはあると思う。料理への「こだわり」を他人から聞くと、ちょっと、うんざりしてしまったり、「この人と一緒に食べにいったら、めんどくさいだろうな」と思ってしまう場合があるが、稲田さんの「こだわり」の着眼点は面白かった。本書の中に収められている「遠足のおやつ」の話を読んで、そういうの、あったなーと似たような経験を思い出した。クラスメイトたちが、どんなおやつを...【おいしいものでできている】読むと、お腹が空く1冊

  • 【マイノリティデザイン】「できない」「苦手」「弱さ」を生かす。捉え方を変えて、創造する。

    「見えない。そんだけ。」2014年に開催されたIBSAブラインドサッカー世界選手権ポスターに掲げられたこのキャッチコピーは、印象に残っていた。この広告を手掛けたのが、『マイノリティデザイン「弱さ」を活かせる社会をつくろう』の著者・澤田智洋さんだったということを、本書を読んで初めて知った。澤田さんは、広告会社に勤務し、コピーライターとして活躍されていたが、生後3か月の長男に視覚障害があることが分かったそうだ。そのことをきっかけに、さまざまな「障害」のある人に会い、話を聞き始める。日常生活をどのように過ごしているのか。仕事はどうしているのか。障害があるがゆえの、ちょっとした失敗などなど。様々な障害者の話を聞く中で、著者は、「できない」「苦手」というものを「克服するもの」ではなく、「生かすもの」と捉えると、新たな価値...【マイノリティデザイン】「できない」「苦手」「弱さ」を生かす。捉え方を変えて、創造する。

  • 【福島モノローグ】「自分ごと」と「他人ごと」の間に

    東日本大震災から10年が経過した。3月11日に、自分がどこにいて、何をしていたか。それはまだ、思い出せる。東京・千代田区、神保町の交差点に立ち、ちょうど信号が変わるのを待っていた。徒歩で4時間かけて、当時住んでいた都内北区の自宅に戻り、テレビで見た津波の映像、原子力発電所の映像もぼんやり覚えている。ただ、記憶は時が経つにつれて、しだいに薄れるものであることは経験している。阪神淡路大震災の時、テレビの映像で見た光景を思い出せるか?と問われると、私は明確に答えられない。自分の身に降りかかった出来事や、その時、どんなことを考えていたかは「自分ごと」だから記憶にも残り、似たような記憶を持つ人の話を聞いて、共感しやすい。しかし、自分が経験したことのない出来事は「他人ごと」で、それを経験した人から、その出来事や、その時の気...【福島モノローグ】「自分ごと」と「他人ごと」の間に

  • 【文芸ピープル】日本人女性作家の作品が英語圏で相次ぎ出版「なぜ」?

    「文芸ピープル」(著者・辛島ディヴィッド)は、最近、日本の作家、特に女性作家の作品が英語圏で相次いで翻訳され、出版されている状況について、アメリカやイギリスの翻訳者や編集者に話を聞いて、まとめたものだ。「村上春樹は、海外でも人気」ということは知っていたが、それ以外の作家の作品の動向はあまり気にしていなかったので、興味が沸いた。若手の翻訳家が出てきたこと、新しい作品、作風が求められており、韓国や日本の女性作家の作品も注目されていること大手の出版社ではなく、独立系の出版社から出されていることなどなど、イギリス、アメリカの出版業界の状況を断片的に知ることができて、面白かった。当然だが、原作をそのまま、日本語⇒英語にすれば済むというものではない。登場人物の名前が、英語では読みにくい・覚えにくい場合、別の名前に変えたり、...【文芸ピープル】日本人女性作家の作品が英語圏で相次ぎ出版「なぜ」?

  • <責任>の生成 中動態と当事者研究

     「責任」という言葉は、重い。自分の発した言葉、自分がとった行動が、特に誰かを傷つけたり、何かを損なったりする結果につながった時、「あなたの責任だ」と言われる。「責任をとってください」と言われる。謝罪の言葉を述べたり、金銭を渡すことが発生するかもしれない。でも、そもそも「責任」って何なのか?なぜ、自分の発した言葉、自分のとった行動に「責任」が求められるのか?この本は、「責任」の基盤となっている「意思」について解説する。「自己責任」と言われる時、なぜ、「責任」と「自己」が結びつけられるのかを示してくれる。「自己責任」を言われていることも、よくよく考えてみると、そこに「責任」はないのかもしれない。結果について、その原因を「自己」に結びつけることが適切でないこともありそうだ。哲学の話だが、著者の対談でまとめられている...<責任>の生成中動態と当事者研究

  • 【そして、バトンは渡された】血のつながりか、戸籍か、それとも一緒に暮らす人か?「家族」の定義を考えさせる1冊

     「家族」とは、何か?血がつながっている人が、家族なのか。戸籍が同じ人が、家族か。それとも生活を共にしている人が、家族と言えるのか。「家族」の定義、在り方を考えさせる1冊。主人公を取り巻く「家族」の人間関係は、小説だから成り立つもので、リアルさはない。非現実的だと思うけれど、こういう「家族」関係があってもいいかなと感じさせる。読了後は、爽やか。そして、バトンは渡された(文春文庫)【そして、バトンは渡された】血のつながりか、戸籍か、それとも一緒に暮らす人か?「家族」の定義を考えさせる1冊

  • 【推し、燃ゆ】そういう感じ、分かる

    芥川賞受賞作品「推し、燃ゆ」まず、タイトルから魅かれて「面白そう」だなと思っていた。「推し」とは、アイドルや俳優などで、自分が一番応援している対象人物を指す。「燃ゆ」とは、燃える。つまり、インターネット上で「炎上する」(批判などが殺到して、収拾がつかなくなる)ことだ。自分の推しが炎上するという出来事は、小説の世界だけでなく、現実に起こるかもしれないと思わせる。そして、読者の私と、主人公のあかりとは、10代の時の社会背景も、家庭環境も異なるのだけど、あかりが感じているものを自分も10代の頃に感じたことがあったような気がしてくる。主人公と「そういう感じ、分かる」と共有する感覚を持った。文章を書くとき、「テーマ」は大事だけど、そのテーマを伝えるうえで、いかにディティール(detail)を描くかが大切だと思わされた1冊...【推し、燃ゆ】そういう感じ、分かる

  • 【何とかならない時代の幸福論】他人と違うことをする子への評価

    『何とかならない時代の幸福論』(朝日新聞出版)は、NHKEテレの番組「SWITCHインタビュー達人達」(2020年3月21日放送)で放送されたブレイディみかこさんと鴻上尚史さんの対談を、未放送分も含めて加筆してまとめた1冊。放送された時も見ていたけれど、お二人の考えや指摘を活字で改めて読んだ。日本とイギリスそれぞれの国で今、何が問題になっているのか。問題になっている事柄について、どう対応していったらいいのか。特に、今後の社会の担い手となる子ども教育に必要なものは何か?について語られている。興味深かったのは、「人と違うことをする」ことに対する評価、価値観だった。保育園で、子どもが他の子と違うことをしようとした時、それを妨げてはいけないという価値観があるイギリス。他の子と違うことをしようとしたら止められ、同じことを...【何とかならない時代の幸福論】他人と違うことをする子への評価

  • 【AX】恐妻って、どんな妻?

    主人公は、恐妻を持つ殺し屋・兜。文具メーカーのサラリーマンとして、妻と一人息子を養っている。殺し屋という仕事を辞めたいと本気で思うようになった時、物語は大きく動き出す。私は女性なので、「恐妻」って、どういう妻のことを指すのだろう?と思いながら読み進めた。兜の妻は、私から見ると、とても「恐妻」には思えない。こういう夫婦って、わりと多いんじゃないのかな。夫婦関係で、こういうやりとりってあるあるで、「恐妻」と思っているのは、主人公だけなんじゃないのだろうか。裏の業界では知られている「殺し屋」が、妻を恐れているって個性が、小説を面白くする要素だと分かってはいるのですが、「恐妻」って、どんな人のことを言うのかは、ずっと気になり続けた。夫からみて妻が恐いと感じられると、「恐妻」といわれてしまうけれど、妻からみて夫が恐いと感...【AX】恐妻って、どんな妻?

  • 【アーモンド】他人の感情を理解できない少年が愛を知る物語

    他人の感情を理解できない人は、「モンスター」だろうか?いや、他人の感情を100%理解できる人など、そもそもいるのだろうか。「お互いに、ある程度、理解しあえているよね」という前提で人間関係を築いているのではないか。そんなことを考えさせられた。「アーモンド」(ソン・ウォンピョン著、矢島暁子・訳)は、脳の偏桃体が生まれつき小さく、人の感情が理解できない主人公ユンジェの物語。偏桃体は、大きさから「アーモンド」と呼ばれているそうで、小説のタイトルもこれを採っている。人の感情が分からないという「障害」を抱えた子どもは、どう成長するのか。成長する可能性があるのか。著者は、そんな問いを立てて、執筆したのかもしれない。物語は、主人公の語りで進んでいくが、行間に母親が息子に注ぐような視線の温かさを感じた。人の温もり、優しさを感じて...【アーモンド】他人の感情を理解できない少年が愛を知る物語

  • 【人間の土地へ】日本で暮らす私は、何を大切に生きるのか

    「とにかく、読んでみてほしい」というしかない1冊。テレビや新聞などでは、なかなか分からない。知ることができない、シリアという国。そこで暮らしている人々の暮らしや習慣について、著者が出会った人々や出来事を通して描かれている。読み進めるうちに、遠い国のことだという先入観は消えていき、生きていくうえで、必要なものは何なのか?という問いが浮かんできた。シリアと日本との間には、様々な違いがある。日本は、経済的に豊かであるとされ、空爆で生命が脅かされることはない、安全だ。シリアの情勢は悪化し、一般の市民が安全で暮らせる状況ではなくなった。しかし、情勢が悪くなる前のシリアの人々の生活の営み、家族の関係に「豊かさ」を感じるところもあった。シリアの人々は、家族を大切にする助け合う男性と女性の役割の違いがある土地に根差した暮らし、...【人間の土地へ】日本で暮らす私は、何を大切に生きるのか

  • 【エンド・オブ・ライフ】命には必ず終わりがある。積極的に考えたいテーマではないが、読後は晴れやか。

    「命には必ず終わりがある」ということは、分かっているけれど、自分自身の「死」には、向き合いたくない。身近な人、大切な人の「死」についても、積極的に考えたいものではない。ただ、向き合わざるを得ない時は必ず来るし、考えたくなくても、考えなくてはならない時が必ず来る。そう思い、佐々涼子さんのノンフィクション「エンド・オブ・ライフ」を購入した。いつでも読み始められるように机の上に置いていたのだが、「重そうだなぁ」「気が沈んでしまうかも」という気持ちがあり、表紙をめくるまでに少し時間がかかった。新しい年を迎え、「えいっ!」と気合いを入れて読み始めたら、一気に、読み終えてしまった。確かに「重い」エピソードも綴られている。しかし、あぁ、こういう命の閉じ方もあるのだと、教えてもらえた。必ずしも「辛い」「重い」ばかりではないのだ...【エンド・オブ・ライフ】命には必ず終わりがある。積極的に考えたいテーマではないが、読後は晴れやか。

  • 【須賀敦子の旅路】今なら分かるかもしれない。あの作品を読み直してみたくなる一冊

    あの頃は、よく分からなかった。その理由が、今は、分かる。10代や20代では、分からない。社会に出て、他人との間で揉まれて、自分にできる役割や仕事について考えたり、葛藤したり、挫折したりする経験をしたうえで、初めて味わえるものがあるのだと思う。作家・須賀敦子の作品「ミラノ霧の風景」を初めて読んだのは、大学生の頃だった。正直なところ、どんな作品だったのか、どんなことを感じたのか、よく覚えていない。当時の私では、須賀が「ミラノ霧の風景」に書いたものを受けとめたり、くみ取ったりするのは難しかったに違いない。そのことが、大竹昭子さんの著書「須賀敦子の旅路」を読んで、はっきりと分かった。「須賀敦子の旅路」は、著者が須賀敦子の作品の舞台となったイタリア・ミラノ、ヴェネツィア、ローマなどを訪れ、歴史や風景に触れ、須賀に縁のあっ...【須賀敦子の旅路】今なら分かるかもしれない。あの作品を読み直してみたくなる一冊

  • 【暗やみの中で一人枕をぬらす夜は】秋の夜長にお勧めの1冊

    大人はみんな自分のものさしを持っているけれどだれでもそれを唯一と思っているだから重さを巻尺ではかったり長さを分度器ではかったりしてしまうだから大人の話はいつもチンプンカンプンわかりあったつもりで何もわかっていない子供はみんなそれをしっているけれどおりこうなのでなんにもいわないブッシュ孝子の詩「ものさし」秋の夜長にお勧めしたい1冊、ブッシュ孝子さんの詩集「暗やみの中で一人枕をぬらす夜は」この本に収録されている「ものさし」という詩を読んで、思い出したことがある。子どもに対して、「自立してほしい」「巣立ってほしい」と思いながら、一方で、「いつまでも傍にいてほしい」「頼ってほしい」と思う。母がそんな話をした。「自立してほしいのか?、依存してほしいのか?一体、どっちなの?」20代だった私は、「それって、矛盾しているんじゃ...【暗やみの中で一人枕をぬらす夜は】秋の夜長にお勧めの1冊

  • 【13歳からのアート思考】美術館で作品の説明書きばかり読んでしまうあなたへ

    「13歳からのアート思考」は、アート(芸術)とどう向き合えばいいのか?基本的な姿勢を示してくれる一冊。「こういう見方が正しい」「こういう捉え方がよい」ということではなく、アートを見る時に、既存の情報や知識にとらわれがちなことを指摘し、そこから自由になるには、こんな問いを立ててみたら?と提案してくれる。既存の情報や知識がいったん頭に入っていると、そこから「自由になろう」と思っても、どうしたらいいのか分からなかったり、縛られていることに気づかないまま、モノを見てしまっていることが多いと思う。「13歳からの」というタイトルだが、大人にも十分に役に立つ。子どもの頃に、アートについて、こういうふうに見方を教えてくれる人と出会えていたら、大人になった時に違う感覚を身に着いてるのかもしれないと思った。「自分だけの答え」が見つ...【13歳からのアート思考】美術館で作品の説明書きばかり読んでしまうあなたへ

  • 【二週間の休暇】大人の夏休みとは、こういうものかもしれない

    もしかしたら、「大人の夏休み」とは、こういうものなのかもしれない。フジモトマサルさんの「二週間の休暇(新装版)」を読んで、そう思った。大人になると、なかなか休めない。会社員として働いて、休日になると、その時間を有効に活用しようとする。家を掃除したり、料理したり、趣味をしたり、習い事をしたり、資格の勉強をしてみたり、、、。子どもがいれば育児があり、高齢の親がいれば介護があったりする。稼働している日が多い。そんな大人にとって、本当に休むのは、どういうことなのか?「二週間の休暇」は、記憶をなくした主人公が、2週間、それまでとは異なる世界で過ごす物語だ。なぜ、そこで暮らしているのか不明のアパートで、手料理をつくったり、見知らぬ街の住人、鳥たちのインタビューを起こして、まとめたり、それまでと何かが異なるけれど、何かが変わ...【二週間の休暇】大人の夏休みとは、こういうものかもしれない

  • 【生きる はたらく つくる】すべてはつながっている

    皆川明さんのブランド「ミナ・ペルホネン」を知らなくても、ファッションやデザインに興味がなくても、この本から刺激を受けることがあると思う。「生きるはたらくつくる」この本は、生きること、働くこと、作ること、これらの根本にある考え方、理念について書かれている本だからだ。作ることは、デザインや洋服を作るということだけでない。これまでになかった新しいものを作ることだけでもない。毎日を食事を作ることだったり、SNSで発信をすることも、情報を作ることかもしれない。働くことも、お金になる仕事だけでなく、庭の草取りをしたり、友達の引っ越しを手伝うことも、働くことかもしれない。作ること働くことそれも含めて、生きることなのだと思う。皆川さんは、自らのブランドについて「100年つづくブランド」を目標に掲げている。自分一人で達成できない...【生きるはたらくつくる】すべてはつながっている

  • 【おやときどきこども】親の呪い、私の自立

    親子関係について書かれている本だけど、子育てをした経験のない人にも、お勧めの1冊。子ども時代に、親との関係に悩んだ人にも届けたい1冊です。「おやときどきこども」の著者、鳥羽和久さんは、大学院在学中に学習塾を開業。小中高生の学習指導をされてきたそうです。塾に来る子どもとのやりとり、そして、親とのやりとり。親子交えた面談でのやりとり。それらを通して、様々な角度から、子どもと親の関係性について書いています。私が特に惹きつけられたのは、親の「呪い」について書かれている箇所です。例えば、「絵を描く仕事に就きたい」という子どもに対して、「そんなに現実は甘くないわよ」などと言う親。親は、自分が持っている「現実」を子どもに突き付け、それを子どもが共有することを望む。親が示す「現実」の枠組みに従って、進路を決める子どもは多いそう...【おやときどきこども】親の呪い、私の自立

  • 【ザリガニの鳴くところ】メスがオスを殺すのは、なぜか。

    大自然が好きな人動物の行動に興味がある人、どこか遠くに行きたい(気持ちだけでも)人に、特にお勧めの1冊。「ザリガニの鳴くところ」はミステリーですが、自然環境や動植物の生態系の話題が豊富に盛り込まれている物語。一人の若い男性の死。事故か、殺人か。容疑者となる「湿地の少女」を主人公として、物語が展開する。主人公が犯人なのか?。そうではないのか?その謎解きが軸となっているが、動物学者である著者が、湿地の自然、植物や昆虫、鳥や獣の生態に関する様々な話題を盛り込んでいることがこの本の面白さを倍増させている。生きるとは、どういうことか。メスがオスを殺すのは、なぜか。人間と動植物に共通するもの、しないものは何か。考え始めると、深いテーマが敷かれていると思う。ザリガニの鳴くところ【ザリガニの鳴くところ】メスがオスを殺すのは、なぜか。

  • 【空をゆく巨人】自分の生き方を貫くことができますか

    この本を読んで良かったと思うのは、読み進めるたびに、元気が沸いてくることだ。川口有緒さんの「空をゆく巨人」は、中国人の現代アートの芸術家と、福島の有名なおっちゃんを中心とした物語。主な登場人物の2人は、それぞれ自分が行きたい方向へ進む。作りたいものを作り、やりたくないものはしない。こんなに楽観的でうまく人生を渡っていける人がいるのか、と思わされるほどだ。でも、読み進めるうちに、彼らが何を大事にしているか。人に対して、どう向き合っているかが分かってくる。彼らはわがままでも、いい加減でもない。徹底して「自分の生き方」を貫いている人たちなのだと思った。 人生において、この社会において、大なり小なり「困難」を感じることは誰にでもあるだろう。だけど、その「困難」を、本当の「困難」にするのは、自分自身なのかもしれない。誰か...【空をゆく巨人】自分の生き方を貫くことができますか

  • 【誰も気づかなかった】自分の意識、価値観、生き方を鋭く突いてくる 「気づき」を促す詩

    ぼんやりしていた。見ないふりをしていた。ということに、気がつかされる。長田弘の著書「誰も気づかなかった」に収められている詩は、読み手の意識、価値観を鋭く突いてくる。例えば、次のような一節がある。どこにも問いがなかった。疑いがなかったからである。誰も疑わなかった。ただそれだけのことだった。どこにも疑いがなかった。信じるか信じないか、でなかった。疑うの反対は、無関心である。ただそれだけのことだった。例えば、環境問題例えば、選挙例えば、自分が生活している地域で起こっていることについて、私は問い、疑いを持っているだろうか。「ただそれだけのこと」が重ねられた結果、何が起こるとされているのか。詩の全文を、ぜひ、読んでほしい。誰も気づかなかった【誰も気づかなかった】自分の意識、価値観、生き方を鋭く突いてくる「気づき」を促す詩

  • 【宝島】沖縄の歴史について知ることに「壁」を感じていた私のための1冊

    いわゆる「本土」で生まれ育った私が、「沖縄」という場所について考える時に思い浮かべるのは、美しい自然、海だろうか。独特の食べ物、お酒、火災で焼失してしまった首里城などの観光地…。それから「戦争」のことも頭をかすめる。私が思い浮かべる沖縄の「戦争」は、歴史の教科書やテレビ番組などを通して知ったものだ。第三者から見聞きしたものになるためか、それは、どうしても遠いものに感じてしまっていた。「過去は、現在につながっている」と思う。だから、歴史を知ること、歴史から学ぶことは大切なことだと思うのだが、「戦争」に関する情報は、辛く、悲しいものが多い。楽しいものはほとんどない。見聞きする際には、覚悟が要る。「戦争」について何か少し知ったり、学んだりしたとしても、「知った」「学んだ」と思うのはおこがましい。戦争で実際に起こったこ...【宝島】沖縄の歴史について知ることに「壁」を感じていた私のための1冊

  • 【コロナの時代の僕ら】今、読まなくちゃ。いつ読むの。コロナ終息後に取り戻したいものと、元に戻さないものを整理しよう

    「読むなら、今でしょ」の1冊「コロナの時代の僕ら」(パオロ・ジョルダーノ著)読み終えて、すっきりしたことが1つある。コロナ禍の中、「正しく恐れる」という言葉をうまく説明できなくてもやもやしていたが、その理由が分かった気がした。どのような特徴を持つウイルスなのか、どうしたら感染するのか、感染しやすいのかどうしたら感染を予防できるのか、様々な情報が流れている中で、発信の源や、説明の根拠をしっかり確認しよう。それが「正しく、恐れる」ということだと思っていた。それは、間違いではないと思いながら、もやもやしていた。本書を読んだ後、「正しく」と「恐れる」の間が、うまく繋がっていなかったからだと気が付いた。情報の「正しさ」を見極める努力をするのは、大事。でも、「恐れる」必要はないんじゃないかと思っていたのだ。不安は、少ないほ...【コロナの時代の僕ら】今、読まなくちゃ。いつ読むの。コロナ終息後に取り戻したいものと、元に戻さないものを整理しよう

  • 【ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集】大人が「詩」の読み方、味わい方、その世界の豊かさを知ることができる1冊

    これは、予想以上に、素晴らしかった1冊。「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」福音館創作童話シリーズと位置付けられているけれどこれは、子どものための本ではなく、大人のための本だと思う。簡単にいうと、おじさんと、小学生の男子の物語。男子は、おじさんの親友の息子だ。親友は詩人だったが、すでに亡くなってしまっている。おじさんと、男子の間に、詩がある。詩を材料にして、二人で会話する。そのやりとりのなかで、詩の読み方、味わい方、詩という表現の豊かさが伝わってくる。小学生の頃、自分には、世界がどんなふうに見えていただろうか。本書に出てくる詩を読んで、どんなことを感じただろうか。小学生の子どもと接する機会があったら、本書に登場するおじさんのように、向き合うことができるだろうか。そんなことを考えさせられ...【ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集】大人が「詩」の読み方、味わい方、その世界の豊かさを知ることができる1冊

  • 【考える教室 大人のための哲学入門】哲学って、そういうものなんだ。簡単に出せない答えを追求していく

    「悩む」と「考える」のは、違う。そんなことは、分かっている。多くの人は、そう思っているだろう。私自身も、「悩む」と「考える」のは違うと思っている。悩むのではなく、考えるへ切り替えようと思うけど、うまくいかないことがある。若松英輔さんの「考える教室大人のための哲学入門」は、自分の考えを深めていくためのヒントが詰まっている。本書の中に、次の指摘がある。『人は誰も、迷っているとき、早急に答えを得たくなるものです。すると人は、その答えに多少の毒があっても、それを飲み込んでしまう。哲学の力をつけるには、喉が渇いたからといって毒を飲むのではなく、その渇きに耐えることを学ばなければなりません。心の渇きを真に癒すのは、世に流布する「甘い」言葉ではありません。自分の手で掘り出したコトバです』「悩む」と「考える」のは違う、と言う時...【考える教室大人のための哲学入門】哲学って、そういうものなんだ。簡単に出せない答えを追求していく

  • 【発酵道】新しい生活様式の中で、改めて大切にしたいこと

    千葉県香取郡にある老舗の造り酒屋「寺田本家」、先代(23代目)当主寺田啓佐(てらだけいすけ)さんの著書「発酵道酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方」。2007年に出版された本なのだが、今、読んでも、古くない。コロナ禍の影響を受けて「新しい生活様式」で生きていかなくてはならなくなった今だからこそ、この本で書かれていることが響く。造り酒屋の経営がうまくいかず、病気にもなってしまったことを機に、著者は、自分自身を見つめなおす。「何が、いけないのか?」「どうすれば、いいのか?」「何を大切にして生きていけばいいのか」という問いに向き合う。「発酵すれば、腐らない」という事実を見つめなおし、酒造りについて、微生物の働きについて素材について生き方について考え直す。様々な人に会い、学んでいく。本書の中で、勧められている生き方の...【発酵道】新しい生活様式の中で、改めて大切にしたいこと

  • 【線は、僕を描く】そこに、自分が表れる

    ずっと、気になっていた。水墨画を題材にした小説「線は、僕を描く」水墨画の画家たちは、どのように作品をつくっているのか。紙と墨を使って、何を表現しようとしているのか。何を描いて、何を描かないか。水墨画の世界について、知ることができ、どこかで作品が展示されていたら、観に行きたいと思う。この作品が扱っているのは、水墨画だけど、書道でも、文芸でも、絵画でも、もしかしたらスポーツでも、同じことがいえるのかもしれない。人が何かを表現しようとするとき、その表現の中に、「自分」が表れている。一輪の花を描いた時、文章をまとめた時、100mを走った時、一枚の紙の上に、文章の行間に、懸命に走る姿に、どこかに「自分」が表れているものだと思う。「線は、僕を描く」を読むと、自分を表現できる何かと出会えることは、幸せなことなんだと、改めて思...【線は、僕を描く】そこに、自分が表れる

  • コロナの禍、文字の禍

    最近、よく目にする言葉「コロナ禍」、これまでなかった新しい単語ですね。「禍」は、よくないこと、不幸を引き起こす原因、災難を意味していて、新型コロナウイルスによる災い=コロナ禍です。中島敦の短編小説に「文字禍」という作品があることを、最近知り、文字によってもたらされる災い????それは、どういうものなのだろう?なぜ、文字が災いするんだろう?と思って、さっそく読んでみました。なかなか、すごい。この作品、「文字」があることによって、「人」は幸せになれるのか?という問いを、投げかけてくる。今、「新型コロナウイルス」は、災いの原因と位置付けられて、それがあることで、様々な困難が生じているとされている。だから「コロナ禍」だ。でも、「文字」は、何かを意味するものであり、知識をもたらすものであり、それをもとに文化や科学が発展し...コロナの禍、文字の禍

  • 【歩くはやさで】新しい自分に出会うために

    やばい。最後で、ぐっとこみあげてくるものを感じて、泣きそうになった。絵本は子どもが読むものなどと、思ってはいけない。「歩くはやさで」(松本巌・文、堺直子・絵)は、大人のための絵本だ。それも、それなりに年数を生きて、人生経験を重ねてきた大人のための1冊だと思う。コロナ禍で、外出自粛となり、これまでの日常生活が一変した。これまで気軽に行けた場所に行けなくなり、気軽にできたことが、できなくなり様々なものが奪われたような気がしていた。今、このタイミングで、「歩くはやさで」を読んで、自分は、とりあえず健康でいるのだから、たいして奪われたものなどないんじゃないかと思い始めている。外出自粛になる前の毎日は、時間に追われ、情報に溺れていたかもしれない。「走るはやさで」、毎日を過ごしていたような気がしてきた。コロナ禍により、自分...【歩くはやさで】新しい自分に出会うために

  • 【フィードバック入門】「成長してほしい」という思いだけじゃダメなんだ

     誰かに「成長してほしい」と思っている人に、役立つ1冊。組織のなかで、部下や後輩がいる人だけではなく、パラスポーツで、選手を指導しているコーチ、チームのマネジメントをしているヘッドコーチにも参考になると思います。 その人の気づきを促す「コーチング」と、課題に対応する具体的な技能などを教える「ティーチング」「フィードバック」は、その両方に関係します。 具体的にいうと、「フィードバック」は、「成長してほしい」と期待する相手に、耳の痛いことを伝えることとうまくいくように立て直しを支援すること 本書では、「フィードバック」のプロセスを整理し、一つ一つのプロセスで、成長を支援する人(マネジャー、コーチ、上司など)がどのような態度で、何をすべきかを示しています。 「成長してほしい」という思いがあることは大事だけど、その思い...【フィードバック入門】「成長してほしい」という思いだけじゃダメなんだ

  • 【三体】SFは苦手と思っていましたが。外出自粛のお家時間を楽しめる1冊

    「面白い!」と話題になっていた小説「三体」読もうか、どうしようか迷っていた1冊でした。宇宙といわれても、あまりピンと来なくて、ロマンを感じないし。生物は好きだったけど、物理は好きでなかったし。SFは、あまり積極的に手を出さないジャンルだからです。しかし、緊急事態宣言で外出自粛となり、お家時間が増えました。ソーシャルディスタンスとか、三密とか、基本的なことですが感染対策に気を遣う毎日に無意識のうちにストレスが溜まっている気もします。いつもなら、「まーいいか」と流せるような他人の一言に毒を感じとってしまったり、妙に気になってしまったりもする。これは、まずい。生活や趣味に何か少し変化を持たせよう。必要なのは、頭の中を休ませる娯楽の時間。エンタメだなーと思いました。そんなきっかけで手に取ったのが、小説「三体」です。中国...【三体】SFは苦手と思っていましたが。外出自粛のお家時間を楽しめる1冊

  • 【カササギ殺人事件】外出自粛のGW お勧めの一冊

    外出自粛で迎える大型連休。誰かにお勧めするなら、次の展開がどうなるのか?わくわく、どきどきするような本のほうが向いてるかもしれません。アガサ・クリスティーのポワロ、コナンドイルのシャーロックホームズなど、名探偵が出てくる小説が好きな方に、特にお勧めしたい1冊が「カササギ殺人事件」。上巻では、殺人事件の謎解きを名探偵とともに楽しんで、下巻に入ると、上巻のストーリーの外側に、もう一つのストーリーが展開しはじめて、面白さが倍増。楽しめます。カササギ殺人事件〈上〉(創元推理文庫)【カササギ殺人事件】外出自粛のGWお勧めの一冊

  • 【歩く】歩くことを通して、生き方を考える

    古本屋さんで見つけて、装幀の美しさと、最初の数ページに目を通して、即買いを決めた1冊ヘンリー・ソローの「歩く」講演のエッセイなので、ソローのお話を聞くような本でした。人間と、社会と、動物と、自然と、生きること。「歩く」をテーマに、それらについての考えが語られていきます。『何よりも私たちは今を生きないわけにはいきません。過去を思い出しながら過ぎ去りつつある今の生の瞬間を見失う、そうしたことのない人こそ、本当に幸せな人です』ソローの語りの一節です。生きている「今」を大切にするそのことを、ついつい忘れてしまい、過去や未来のことを考えてばかりいるのではないか。そんな問いが浮かんできました。ソローは1862年に亡くなっており、晩年のエッセイなので、今からずいぶん昔に語られたことのはずですが、まったく古くない。時代は変わっ...【歩く】歩くことを通して、生き方を考える

  • 【モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語】本がつなぐ物語

    「あぁ、なんて豊かなのだろう」と思った。『モンテレッジオ小さな村の旅する本屋の物語』は、著者が古書店の店主から話を聞いたことを発端に始まる。イタリアの小さな村モンテレッジオその村から、本の行商人がイタリアの各地へ向かい、本を売り歩いたという。なぜ?そうなったのか。彼らはどんな人たちだったのか。著者の興味が高まり、関係者や村を訪ねていく。読み進めるにつれて、読者である私も、村に行ってみたくなる。村を取り巻く自然、振舞われる食事、村と本の関わりについて語る人。本の行商人たちが大切にしてきたこと、守ってきたこと、挑戦してきたことを知れば知るほど、なんて豊かな文化が根付いているんだろうと思う。最近のニュースでは、新型コロナウイルス感染で、イタリアで多くの方が亡くなられている。一日でも早くこの問題が収まることを祈る。落ち...【モンテレッジオ小さな村の旅する本屋の物語】本がつなぐ物語

  • 【農福連携が農業と地域をおもしろくする】農福連携って何? 事例に登場する「人」たちが興味深い

    「農福連携が農業と地域をおもしろくする」は、タイトルそのままの本だ。農業と福祉が連携することで、農業がおもしろくなり、地域がおもしろくなる。追加するならば、働く人にとって、仕事がおもしろくなるのだと思う。「農福連携」とは、農業と福祉の連携。連携の仕方は、いくつかある。社会福祉法人などが運営する施設を利用している障害者が、施設外で農業に就労する例(施設外就労・就農)社会福祉法人などが自ら農業をする例農家などが障害者を雇用する例企業が特例子会社をつくって農業分野で障害者の仕事をつくる例などだ。福祉の分野では、障害者の働く場をつくるという課題があり、農業の分野では、農家の担い手の高齢化が進み、担い手不足が課題になっている。農福連携は、両者の課題解決にもつながるといわれている。本書は、「農福連携って、何?」「どんな取り...【農福連携が農業と地域をおもしろくする】農福連携って何?事例に登場する「人」たちが興味深い

  • 【田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」】「外」からではなく「内」から変える

    「まちづくり」「地域活性化」「共生社会の実現」…。そういうテーマを掲げて取り組まれている物事に、違和感を感じることがある。それって、本当に「まちづくり」につながるのかな?一過性の盛り上がりで、本当に「活性化」するのかな?障害のある選手のパフォーマンスを観ること、パラスポーツを応援することと、社会を変えることは、どうつながるんだろう?パン屋さんの本を読んで、違和感の謎が解けた気がします。著者の渡邉格さんは、天然の菌でつくった酒種をつかって発酵をさせたパンをつくって売る「パン屋タルマーリー」の店主。高校卒業後、紆余曲折して、25歳で大学に入学。31歳からパンの修業をはじめて独立した人だ。本書では、渡邉さんの人生の歩みを紹介しながら、パンをつくることになった理由、原材料、水、菌、働き方、暮らし方に関するこだわりなどが...【田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」】「外」からではなく「内」から変える

  • 【古くてあたらしい仕事】自分の仕事を頑張ろうと思えた一冊

    「良い人に、出会った」と思った。実際に会ったことはないが、本の中で出会った人に、励まされた気持ちになった。ひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんの著書「古くてあたらしい仕事」は、島田さんが、これまで取り組んできた仕事について書いたエッセイ。出版社を立ち上げたきっかけや、最初に出版した本、著者や装丁者、出版社や書店の人のことに触れながら、「何を大切にして、仕事をしているか」について書いている。読み終わった後に、書籍のタイトルを見直して、今も、昔も、仕事において大切なことは変わらないのかもしれない。古いと思っていることが、実はあたらしいことでもある気がしてきた。本書では、「本を読む」ことについて、次のように書かれている。『本を読むということは、現実逃避ではなく、身の回りのことを改めて考えるということだ。自分のよく知...【古くてあたらしい仕事】自分の仕事を頑張ろうと思えた一冊

  • 【発達障害に生まれて】子どもに向き合う、自分に向き合う

    「発達障害に生まれて」は、知的障害のある自閉症の子どもを育てている母親17年をまとめた一冊。言葉をなかなか発しない。他人に関心を示さない。子には強いこだわりがあり、場合によってパニックを起こす。家のなかを飛び跳ねる気になる人にしつこくするそんな特性のある障害を持つ息子。子育ての過程で起きる様々な出来事は、障害のない子の子育てと比べると、「大変」と思われがちかもしれない。しかし、「大変」だから「不幸」なわけではない。母親には、そんな子と向き合うなかで「喜び」があり、「幸せ」がある。発達障害(自閉症)の子と母親の一つのケースを通して、子どもを育てること、人を育てることは、どういうことなのかを改めて考えさせられた。子どもに向き合うこと、家族に向き合うことは自分自身に向き合うことかもしれない。そして、自分を取り巻く社会...【発達障害に生まれて】子どもに向き合う、自分に向き合う

  • 【ありのままがあるところ】生き方、在り方、価値観を揺さぶられる一冊

    これは、生き方、在り方、価値観を揺さぶられる一冊だ。「あるがままがあるところ」を読み始めて、新年早々、自分自身の他人に対する態度を振り返り、何を基準にして生きているかを見直すことになった。子育てをしている方、教育に携わっている方、指導や支援に携わっている方、組織の中で管理職をされている方には、ぜひ、読んでほしい。大人が子どもに対して、職員が障害のある利用者に対して、社会の中で生きていくために、「必要なこと」を身につけさせようとする。それは、相手の「幸せ」を願ってのことだ。しかし、その「幸せ」は、本当にそうか?その「必要なこと」について、本当にそうか?と、著者の福森伸さんは問いを投げかける。障害のない人が、組織の中で、居心地の悪さを感じたり、息苦しさを感じるのはなぜか。不安に駆られて、何かを求めて、行動するのはな...【ありのままがあるところ】生き方、在り方、価値観を揺さぶられる一冊

  • 生きていること、死んでいること #掃除婦のための手引書

    「学校に行きたい」「お医者さんになりたい」いわゆる発展途上国の子供たちを追ったドキュメンタリー番組で、家の仕事を手伝ったり、兄弟の面倒をみていて学校にいけない子どもが、こんな夢を語っていたのを見た記憶がある。栄養状態がよくないためか、年齢のわりに、小柄な体。よれよれのTシャツに、ぼさぼさの髪の毛、しかし、黒い瞳がキラキラと輝き、笑っていた。日本の子供たちは、どうだろう?死んだような瞳で、教室にいないだろうか。テレビに出てきた子と同じように「学校に行きたい」と思うことは、ないかもしれない。さまざまな事情で、「学校に行きたくない」と思う子は、けっこうな人数いるようだ。途上国の子と比べて、日本の子供たちは、夢を描けていないのではないか。少し心配になってきた。「掃除婦のための手引書ルシア・ベルリン作品集」これは、すごい...生きていること、死んでいること#掃除婦のための手引書

  • 【二番目の悪者】本当に悪いのは、誰か?

    チャンネルを変えても似たり寄ったりの内容を流していると知りながら、テレビのワイドショーを見るのが習慣になっている方、いませんか?その習慣、ちょっと危険な気がしてくるかもしれません。小さい書房さんの絵本「二番目の悪者」この絵本のお話は、心が温まるような物語ではありません。「悪者」とは、一体、誰のことなのか?もしかしたら、自分自身も「悪者」なのではないか?と考えさせされます。本書の終盤に、空の雲が、こうつぶやきます。「誰かにとって都合のよい嘘が、世界をかえてしまうことさえある。だからこそ、なんどでもたしかめよう」帯に書かれている「考えない、行動しないという罪」というキャッチコピーも、ピリッと効いています。でも、悪者にならないように、「考える」「行動する」ができるのか?と自分自身に問いかけると、大人になればなるほど基...【二番目の悪者】本当に悪いのは、誰か?

  • 【思わず考えちゃう】大人の気づき

    「あれもできないな、これもできないな」と考えちゃうことが、ありますね。それほどネガティブに考えているわけではないけれど、自分の能力とか、現状とかを考えているうちに「できない」と思うことがある。ヨシタケシンスケさんのエッセイ「思わず考えちゃう」の中で、「できないこと」がテーマの一つに取り上げられていた。「あれもできないな、これもできないなって思っているということは、それだけ何か別のことができるようになったから」「自分ができないことが見えるように、わかるようになってきたんだなっていう。大人の気づきですね」ヨシタケさんは、こう書かれていました。本書の中では、「できないこと」についても取り上げており、「自分にやりたいことがあって、それができないのは、大した悩みじゃない。けれど、自分の傍にいる人に、できてほしいことができ...【思わず考えちゃう】大人の気づき

  • 【ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー】移民?格差?EU離脱?英国社会が抱える問題について、息子に起こる出来事を通して解説してくれる1冊

    最近の海外ニュースで「ブレグジット(Brexit:Britishとexitの造語)=イギリスのEU離脱」が取り上げられているが、正直、あまりよく分からない。テレビのニュースや新聞記事などを通して、イギリスの社会情勢やブレグジットに関してもめている事情を知ることはできるのだが、それは表面的な知識にすぎない。イギリスで長期に過ごしたり、生活したりした経験がないと、「ブレグジット」の賛成派・反対派それぞれがどういう層の人たちなのか想像ができない。日本でも「格差社会」と言われることはあるが、イギリスの社会の中にある格差とは、具体的にどういうものかもイメージが沸かない。ブレディみかこ著の「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」は、イギリスのブライトン在住で、保育士の資格も持っている著者が、息子の中学校進学や、学校...【ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー】移民?格差?EU離脱?英国社会が抱える問題について、息子に起こる出来事を通して解説してくれる1冊

  • 生きるって、なに? 思わず頷いたり、はっとさせられる一冊

    「生きる意味がわからない」。大学で、教え子から相談されたことをきっかけに、たかのてるこさんは、文を書いて贈ったそうです。その文がもとになってできた一冊の本「生きるって、なに?」は、たかのさんが訪れた世界の国々で撮影した現地の人々の顏写真に、短い文が添えられたもの。タイトルになっている「生きるって、なに?」という疑問に対して、様々な答えが示されます。「生きるって、なに?」を探っていく中で、答えの一つに、「人に迷惑をかけることも、人に迷惑をかけられることも恐れない」ということがあります。たかのさんによると、インドでは、親が子どもに「おまえは人に迷惑をかけて生きているのだから、人の迷惑も許してあげなさい」と教えるそうです。日本人の場合、親が子どもに「人に迷惑をかけてはいけない」と教えるのが一般的だと思うので、インドの...生きるって、なに?思わず頷いたり、はっとさせられる一冊

  • 【作家的覚書】8%がもたらした歪みは、再び?#消費増税

    「結局、経済成長の終わった先進国に暮らす私たちは、増税を受容して何とか暮らしていくしかないのだが、受容と黙認は違う」作家の高村薫さんの「作家的覚書」の中に、2014年4月に、消費税が8%に上がった時に書かれた文章(読売新聞2014年4月22日、寸草便り掲載、八%がもたらす歪み)がありました。高村さんは、増税について「受容と黙認は違う」と強調された後、以下のように続けています。「たとえば税金の使い道は適性だろうか。今回の消費増税は、そもそも社会保障費の増大に対応しながら財政再建を進めるために行われたはずだ。ところが、国家予算は相変わらず膨張し続けているし、医療制度の見直しもほとんど進まず、逆に復興特別法人税の前倒し廃止が決まったり、法人税減税が俎上にのぼったりする始末ではないか」「いったい何のための消費増税だった...【作家的覚書】8%がもたらした歪みは、再び?#消費増税

  • 【ブスの自信の持ち方】相手の基準にあわせて努力しても意味がない

    「自分に自信を持てるようになりたい」そんなことを、考えたことがありますか?「自信」とは、自分を信じることができること。自分のことなので、自分で、自分を信じればいいのだけど、それが、すんなりといかないから、悩みになる。なぜ、すんなりといかないか?というと、自分を信じられるような何かを見つけられないから。何かを見つけていても、それを信じ続けることに不安を伴うからだと思う。山崎ナオコーラさんは、エッセイ「ブスの自信の持ち方」の中で、次のように書いている。批判やバッシングでつけられた傷は、批判やバッシングがなくなったときに治るわけではない。他人からの賞賛や拍手によって、回復できるわけでもない。おそらく、自分の行った努力だけが、自分を助けてくれる。自分が目標を定め、自分が努力をして、それを自分が認識したときに治る。自分だ...【ブスの自信の持ち方】相手の基準にあわせて努力しても意味がない

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